聖女召喚に巻き込まれて異世界に召喚されたけど、ギルドの受付嬢の仕事をみつけたので頑張りたいと思います!!

 ここはカロムの屋敷の書斎。カロムは窓から外を眺めていた。

 (……ティハイド様は、いつまでこんなことを続けるつもりだ。この領土の民のためだといってはいるが。それなら錬金技術だけでも、なんとかなるはず。
 そうは思っても……逆らえない。俺だけなら……家族さえいなければ、俺の能力でなんとかなる。でもそんなことしたら……)

 遠くをみつめながら、フゥーっと息を漏らす。

 (ルイか、恐らく転移者だろう。そういえば、なんのためにここに来た? ただメイドになりたいためなのか……。そうじゃないとすれば、誰かの依頼で動いてる。
 もしそうなら、吐かせるか? いや……利用する手もある。だが露見すれば、俺だけじゃなく家族も……ただじゃすまない。どうする?)

 そう思いながら目を閉じ自問自答する。

 (もしそうだとしたら、恐らくルイの依頼主は国に関係する者。始末するか……いや、やめておこう。それに敢えて……その方がいい。その方がまだマシだ。それに流石にいい加減……。まぁ自分が、今までやって来たことは許されないけどな)

 そう考えがまとまると瞼を開き、ニヤリと口角を上げた。

 (だがこれをするにも、マリリサに気づかれるとまずい。ヤツらと繋がっているからな)

 カロムはそう思いながら扉の方をみる。

 「さて、明日……だな」

 そう言い椅子に腰かけ机上の一点をみつめた。



 ――場所は、灰色の男が居る部屋へ移る――


 灰色のローブの男は、椅子に座りマリリサと話をしていた。

 あれから灰色のローブの男は、部屋に入るなりローブを脱ぎ椅子に掛ける。その後、椅子に座った。


 この男はラグロ・セヴェス、二十六歳だ。体格が良く、太ってもいない。黒っぽい茶色でウエーブがかったミディアムの髪。容姿は、キツめである。


 マリリサはラグロを、物欲しそうにみていた。

 「マリリサ、お前からみて……その二人の少女はどんな感じだ」

 「そうですね……ルイという子は、この世界の者とも言えない程に可愛いです。メーメルという子は、話し方が乱暴ですけれど……こちらも可愛いですよ」

 「そうか……それは楽しみだ。それで、カロムは明日以降と言っていたが……なぜすぐに行動しない?」

 そう言われマリリサは、小首を傾げる。

 「行動しない訳は分かりません。ですが、恐らく今日ティハイド様の用もあったみたいですので……そのせいかと思われます」

 「なるほど……それで戻りが遅かった訳か。まぁいい……」

 そうラグロは言い、マリリサをみつめた。

 みつめられたマリリサは、ポッと顔を赤らめる。

 「あーそうでした。食事の用意をしてまいります」

 「そうだな……そのあとは、分かってるな」

 「はい、勿論です!」

 そう言うとマリリサは、ニコリと笑った。その後、部屋を出て厨房へ向かう。

 それを確認するとラグロは、椅子に寄りかかり目を閉じる。そしてその後、色々と考えていたのだった。
 ここはカロムの屋敷の泪とメーメルの部屋。夜になり二人は、眠っていた。

 辺りは暗く月明かりが部屋に差し込んでいる。

 泪はぐっすりと寝ていた。枕の右側にはトラットが丸まって眠っている。

 すると黒装束……如何にも忍者のような姿の男が、スッと音を立てずにどこからともなく現れた。

 その忍者服を着た男は、泪の傍までくる。

 (寝ているな。それにしても、可愛い。ハッ!? 見惚れている場合じゃなかった。気づかれて、騒がれるのは面倒だ。これだけ置いて、サッサと行くか)

 そう考えながら忍者服の男は、左側の枕元に封筒と何かが入っている小さな袋を置いた。その後、スッと音もなく消える。

 泪はそのことに気づかず寝ている。

 そのことにトラットは気づくも、狸寝入りをしていた。

 (……あの匂いは、なんでアイツあんな格好でここに来たんだ。それに何をおいていった? 匂いからして、食べもんじゃないな。ホットクかぁ……ふあ~、眠い……寝る)

 そう思いトラットは再び眠る。


 一方メーメルは、忍者服の男の匂いと気配に気づくも目を閉じ様子を伺っていた。

 (……なんのつもりじゃ? 何を考えている。うむ、まぁ……危害を加えるつもりじゃないようじゃのう。それなら、やり易いかもしれぬ)

 そう考えメーメルは再び眠ることにする。


 ▼△★▽▲☆▼△


 翌朝になり私は、起きると枕元に何かあることに気がついた。

 「……これなんだろう?」

 上体を起こすと私は、枕元に置かれている物を取る。

 「手紙と袋……何か入ってるみたいだけど、なんだろう?」

 そう言い袋を開け中を覗いてみた。

 「ルイ、それはなんだ?」

 そう言いメーメルは、私の方にくる。

 「んー……なんだろう。起きたら、枕元にあったの」

 私はそう言い袋から出した。

 それはピンク色の魔石が埋め込まれている、小指用の指輪である。

 「うわぁー、可愛い。誰がくれたのかな?」

 「本当に誰がそんな可愛い指輪を……いいなぁ」

 そう言いメーメルは、羨ましそうに指輪をみた。

 私は手紙に何か書かれているかもと思い封筒を開ける。そして手紙を取りだし黙読した。


 そこには……。

 【――袋の中の指輪は、俺を呼ぶためのアイテムだ。もし何かあったらこれに魔力を注ぎ助けてと念じてくれ。さすれば俺が即座に駆け付ける。ただ、ヤツラの尻尾を掴んでからだ。――――」

 そう書かれている。


 私はそれを読み首を傾げた。その後その手紙を、メーメルに渡しみせる。

 「うむ、何を考えているんだ?」

 「ん? メーメル知ってるの。これをくれた人が誰か」

 「あ……ううん、知らない。ただ昨晩、誰か来てたみたいだからな」

 そう言いメーメルは苦笑した。


 メーメル、どうしたのかな? 何か誤魔化しているようにみえる。でも……いいか、これをくれた人は悪い人じゃないみたいだしね。


 そう思い指輪をみる。

 「この指輪、鎖に通して首にぶら下げておくね」

 「その方がよいな。女性にとっての指輪は、特別な意味をもっている」

 そう言われ私は、ウンっと頷いた。

 指輪に鎖を通すと首にぶら下げる。

 それから私はその後も、メーメルと話をしていた。
 私は現在、食事を済ませたあと一人で掃除機に似た道具を使い屋敷内の掃除をしていた。

 メーメルとマリリサは、各々別のことをしている。


 今のところは、何もない。なんか変な気分、わざと捕まるのって。二ケ月前も……同じようなことして、怖い思いをした。でも……そうだね、自分を信じよう。
 あっ、そうだった。あとで、プレートの確認しないとね。


 そう思いながら通路を掃除していた。

 色々と考えながら中庭の近くまでくる。

 すると何か異臭がし慌てて口を塞いだ。

 「ケホケホッ……何これ、喉が痛い……」

 私は薬のような臭いにより喉だけじゃなく、頭が朦朧としてくる。その後、意識がなくなり倒れた。



 ――視点は、カロムへ変わる――


 ここは中庭の出入口付近。カロムは離れた場所から泪の様子をみている。

 そうカロムは、一時的にマヒさせ眠らせる薬品が入った容器を通路に仕掛けて置いたのだ。

 「さて、これでいい……拘束するか」

 そう言い泪の方に向かい歩き出した。

 泪のそばまでくるとカロムは、異空間を開き魔法が施された革製のロープを取りだす。

 (……ん? 首に指輪を……)

 カロムはロープで拘束しようとしたが、ひとまず泪の首から指輪の鎖を外した。その後、なぜか指輪を泪の左小指に着ける。

 「指輪は、指に着ける方がいい。それに、ピンキーリングを左の小指に着ける意味は……チャンスや幸運ですからね」

 そう言い泪をロープで拘束した。その後、泪の口を布で覆い塞ぐ。

 「ふぅ……行くか。あとはメーメルだ。さて、どうする?」

 カロムは泪を抱きかかえると倉庫へ向かい歩き始める。



 ――場所は移り、ティハイドの屋敷――


 ティハイドはグレイフェズの部屋に来ていた。

 「どうだ、調子は?」

 そう言いティハイドは、ベッドに寝ているグレイフェズをみる。

 「はい、だいぶいい。治療まで……ありがとうございます。ここまでしてもらったうえ、豪華な食事まで……何でお礼をすれば」

 ――そう言うも、流石にこれは本心じゃない。

 「グレイフェズ、お礼などはいい。それよりも、稼いでもらわないとな」

 「ええ、分かっています。俺にどこまでできるか分かりませんが」

 「フッ、お前の実力なら問題ないだろう」

 そう言われグレイフェズは頷いた。

 「勿論、負けるつもりはありません」

 「それでいい。開催日まで、まだ日がある。それまでゆっくり休め。それと動けるようになったら、稽古場を用意させる」

 「何から何まで感謝します」

 そう言われティハイドは頷きグレイフェズに背を向ける。

 「私は書斎でやることがある……では、な」

 軽く上げ手を振るとティハイドは扉の方に向かい部屋を出ていった。

 それを確認するとグレイフェズは上体を起こす。

 (ふぅ~行ったかぁ。演技をするってのも、疲れるもんだな。これが、しばらく続くのか……流石にキツい。だが……やるしかねえ、とりあえずは信用させないと)

 そう考えながらグレイフェズは、右の拳を握りしめた。その後、握り締めた右拳をみる。

 そして、色々と考えていたのだった。
 ここはカロムの屋敷。あれからメーメルは、庭の手入れなどをしていた。

 (いつ、仕掛けてくるのじゃ? それに何を考えておる……)

 そう考えながら花に水をやっている。

 「……!?」

 背後に気配を感じメーメルは、振り返ろうとした。だが、布で口を塞がれたうえに体を掴まれ動けなくなる。

 そうメーメルの背後に居るのは昨晩、寝室に現れた忍者服の男だ。

 「黙っていろ……ここじゃ、目立つ……こい」

 そう言われメーメルは、コクリと頷いた。

 その後メーメルと忍者服の男は、屋敷の裏にある奥の建物へ向かう。


 ▼△★▽▲☆▼△


 ここはカロムの屋敷の敷地にある建物内。

 メーメルと忍者服の男は、周囲を警戒しながらこの場所までくる。

 「なんのつもり?」

 「やはり俺が誰か気づいてるな」

 「うむ、お前もな」

 そうメーメルが言うと忍者服の男は、ニヤリと口角を上げ笑った。

 「全て気づいてる訳じゃない。……お前が魔族だという事だけだ」

 「そうか……で、どうするつもりだ? それに、なんでそんな恰好をしている」

 「他のヤツらに、悟られないため。それと……これは分身なんでな。それにお前を、どうこうするつもりはない。ただ、これからすることに対して何もするな」

 そう言われメーメルは、小首を傾げる。

 「分身……そうか。それはいいが、何を考えている?」

 「それは言えん。だが……お前とルイの方も悪いようにはしない」

 「それを信じろと?」

 そう問われ忍者服の男は、コクリと頷いた。

 「ああ……そうだな、そう簡単には信じられないだろう。だが――――――」

 忍者服の男は、話せることだけを語る。

 それを聞きメーメルは、しばらく悩んだ。

 「……なるほど。お前は……そのことを――納得いかないが、分かった。何をみても内緒にすればいいんのだな」

 「そういう事だ。じゃあ、俺はここで消える……あとは頼む」

 そう言われメーメルは、コクッと頷いた。

 それを確認すると忍者服の男は、スッと残像と共に消える。

 (うむ、ここまでする必要はないと思うのじゃが……)

 そう思いながら外に出るとメーメルは、何もなかったように草むしりを始めた。その後、カロムにより拘束される。



 ――場所は、ティハイドの屋敷に移る――


 その頃、ムドルとベルべスクはティハイドの書斎にいた。

 椅子に座りティハイドは机上に両手を乗せ眼前の二人をみている。

 「……一週間後、用ができた。そのためお前たちには、護衛として同行してもらう」

 「分かった。それで、どこに行く?」

 「ムドル、それは聞くな。ついてくればいい」

 そう言いティハイドはムドルを睨んだ。

 「申し訳ない。つい気になって、聞いてしまった。これからは気をつける」

 「それでいい。……それまでの間は、屋敷の警備を頼む」

 そう言われムドルとベルべスクは頷いた。

 「承知した。じゃあ早速、ムドルと手分けして見回りをしてくる」

 「うむ、そうしてくれ」

 ティハイドにそう言われ二人は、一礼をすると部屋をでる。

 それを視認したティハイドは、机上の書類を手に取りみていたのだった。
 ここはカロムの屋敷。あれからメーメルは、庭の手入れなどをしていた。

 (いつ、仕掛けてくるのじゃ? それに何を考えておる……)

 そう考えながら花に水をやっている。

 「……!?」

 背後に気配を感じメーメルは、振り返ろうとした。だが、布で口を塞がれたうえに体を掴まれ動けなくなる。

 そうメーメルの背後に居るのは昨晩、寝室に現れた忍者服の男だ。

 「黙っていろ……ここじゃ、目立つ……こい」

 そう言われメーメルは、コクリと頷いた。

 その後メーメルと忍者服の男は、屋敷の裏にある奥の建物へ向かう。


 ▼△★▽▲☆▼△


 ここはカロムの屋敷の敷地にある建物内。

 メーメルと忍者服の男は、周囲を警戒しながらこの場所までくる。

 「なんのつもり?」

 「やはり俺が誰か気づいてるな」

 「うむ、お前もな」

 そうメーメルが言うと忍者服の男は、ニヤリと口角を上げ笑った。

 「全て気づいてる訳じゃない。……お前が魔族だという事だけだ」

 「そうか……で、どうするつもりだ? それに、なんでそんな恰好をしている」

 「他のヤツらに、悟られないため。それと……これは分身なんでな。それにお前を、どうこうするつもりはない。ただ、これからすることに対して何もするな」

 そう言われメーメルは、小首を傾げる。

 「分身……そうか。それはいいが、何を考えている?」

 「それは言えん。だが……お前とルイの方も悪いようにはしない」

 「それを信じろと?」

 そう問われ忍者服の男は、コクリと頷いた。

 「ああ……そうだな、そう簡単には信じられないだろう。だが――――――」

 忍者服の男は、話せることだけを語る。

 それを聞きメーメルは、しばらく悩んだ。

 「……なるほど。お前は……そのことを――納得いかないが、分かった。何をみても内緒にすればいいんのだな」

 「そういう事だ。じゃあ、俺はここで消える……あとは頼む」

 そう言われメーメルは、コクッと頷いた。

 それを確認すると忍者服の男は、スッと残像と共に消える。

 (うむ、ここまでする必要はないと思うのじゃが……)

 そう思いながら外に出るとメーメルは、何もなかったように草むしりを始めた。その後、カロムにより拘束される。



 ――場所は、ティハイドの屋敷に移る――


 その頃、ムドルとベルべスクはティハイドの書斎にいた。

 椅子に座りティハイドは机上に両手を乗せ眼前の二人をみている。

 「……一週間後、用ができた。そのためお前たちには、護衛として同行してもらう」

 「分かった。それで、どこに行く?」

 「ムドル、それは聞くな。ついてくればいい」

 そう言いティハイドはムドルを睨んだ。

 「申し訳ない。つい気になって、聞いてしまった。これからは気をつける」

 「それでいい。……それまでの間は、屋敷の警備を頼む」

 そう言われムドルとベルべスクは頷いた。

 「承知した。じゃあ早速、ムドルと手分けして見回りをしてくる」

 「うむ、そうしてくれ」

 ティハイドにそう言われ二人は、一礼をすると部屋をでる。

 それを視認したティハイドは、机上の書類を手に取りみていたのだった。
 ここは東側にある倉庫付近の通路。その奥の行き止まりでは、ムドルとトラットがベルべスクを待っていた。

 「こないな。本当に大丈夫なのか?」

 「……無視するとも思えません。ですが……」

 そう言うもムドルは、何かあったのかと心配になってくる。

 「誰が無視するって?」

 そうベルべスクの声が聞こえムドルとトラットは、どこに居るのかと思い周囲を見回した。

 するとベルべスクは、姿を隠す魔法を解除する。それと同時に、スッと姿を現した。

 「……なるほど、気配と匂いまで消す魔法もかけて……ここに、ねぇ」

 そう言いながらムドルは、自分の背後に居るベルべスクの方へと振り向き睨んだ。

 「あーいや、気づかれるとまずいだろ。それに、偶々ムドルの後ろでオレの話をしてるのが聞こえてきた。だから、なぁ……ハハハ……」

 そうベルべスクは、なんとか苦しい言い訳をしている。

 「ハァー、まあいいでしょう。それで、大丈夫ですよね?」

 「んー……そうだな」

 そう言うとベルべスクは、トラットを見据えた。

 「無理なら……べ、別にいい。変なことをされるのは、ごめんだからな」

 「トラット……ムドルの影に押し込むことはできる。それよりも、小さくなった方がいいんじゃねぇのか?」

 「小さく……そのあとは、どうするんだ?」

 不安な顔でトラットは、ベルべスクをみる。

 「そりゃあ、勿論ムドルのポケットだろうな」

 「なるほど……その方が、いいですね」

 そう言いながらムドルは、自分の肩に乗ってるトラットに視線を向けた。

 「ずっとポケットの中か……んー……」

 「休憩の時に、ポケットから出してもらえばいいんじゃねぇのか」

 「そうだな……そうするか。だが、元の姿に戻れるんだよな?」

 そうトラットに聞かれベルべスクは頷く。

 「ああ、自分でも戻ることができるぞ。それも、簡単にな」

 そう言いながらベルべスクは、異空間から黒い腕輪を取りだした。それを持ち直すとトラットにみせる。

 「伸縮ブレスレットですか。確かにそれなら、自分の意思で小さくなったり……大きくなれますね」

 「そういう事だ。どうする?」

 「んー……それなら、安全かもな。分かった……」

 それを聞きベルべスクは、トラットの首に装着した。

 「ハテ? なんで、首なんだ」

 「トラットの腕じゃ、小さいと思ってな」

 「そうか……それで、これはどう使う?」

 そう問われベルべスクは、使い方を教える。

 トラットはそれを聞き教わった通り、首の腕輪に右前足を軽く添えた。それと同時に、小さくなれと念じる。

 するとトラットの体が発光して、小さくなっていった。

 その後トラットは、ムドルのポケットに跳び込んだ。

 それを確認したムドルは、ベルべスクへ視線を向ける。

 その後ムドルは、ベルべスクにトラットから聞いたことを伝えた。

 「そうか。じゃあ、大丈夫だな。あとは、こっちだけだ。それはそうと……このことをグレイフェズに、どう知らせる?」

 「確かに……居場所が、分かりません。普通なら、匂いや気配で分かるのですが」

 「ああ、オレもだ。いったいグレイフェズは、どこに連れて行かれたんだ」

 そう言いベルべスクは、難しい表情で床の一点をみつめる。

 「そうですね……まぁグレイなら、心配はないと思いますが」

 そう言うもムドルは、心配になり眉をハの字にした。

 「だな……今は、コッチが先だ」

 そうベルべスクが言うとムドルは、コクリと頷く。

 その後ベルべスクは、また姿を消して自分の持ち場に戻る。

 それを視認するとムドルは、再び警備のため通路を歩き始めたのだった。
 ここはカロムの屋敷の倉庫。この場所には、カロムとラグロとマリリサがいた。いや、拘束された泪とメーメルもいる。

 「なるほど……これは、中々と可愛いじゃないか」

 そう言いラグロは、薬により眠っている泪を覗き込んだ。その後、ニヤニヤしながら泪の顔を食い入るようにみる。

 「ええ、それで運び出すのは?」

 「カロム……そうだな。今日にするか、バルギジアの町は遠い」

 「その方が良いかと。あの町まで、約一週間はかかりますので」

 それを聞きラグロは頷いた。

 「そういう事だ。さて、準備をするか。そういえば、荷馬車の方は……準備できてるんだろうな」

 「勿論、既に裏口の方に準備できていますよ。あとは、御者と護衛を呼ぶだけです」

 「そうか……相変わらず、準備がいいな。じゃあ、行くとするか」

 そう言いラグロは泪を抱きかかえる。

 それをみたカロムの顔が一瞬、ピクッと引きつった。

 「そうですね……」(クッ……まぁいい、か。あとで、倍にして……)

 そう言いカロムは、心と裏腹に冷静さを保っている。

 その後カロムは、渋々メーメルを担いだ。

 「カロム様、ラグロ様。それでは、待機させている御者と護衛の者に連絡してまいります」

 そう言いマリリサは、一礼をすると屋敷の中へと向かう。

 それを確認するとカロムとラグロは、裏口へ向かい歩き出した。



 ――場面は、泪の夢の中へと変わる――


 ……――ん、んー……ここはどこ?


 私はみたことのない場所にいた。そう周囲は、真っ白な空間で雲のような靄がかかっている。

 ここはどこなのかと思っていると、目の前に空間ができて何かみえてきた。


 これなんだろう? どっかの景色みたいだけど……。


 そう思い、ジーッとみる。

 するとそこから声が聞こえてきた。

 ――……。

 『ねぇ、これからどうするの?』

 『どうするって、決まってる。俺は、この世界を壊す……そう決めた』

 ――……これって、どういう事? この二人って……。


 更に私はその男女の会話を聞き、二人が何をしようとしているのかみることにする。

 ――……。

 『司、待って!? バウギロスに相談しよう』

 『美咲の言う通り、その方がいいんだろうが……』

 『じゃあ、今すぐにでも……』

 そう言い美咲さんは、司っていう人の腕を掴んだ。

 『悪い……少し考えさせてくれ』

 そう言って美咲さんの腕を振り解く。その後、司っていう人はそのまま別の部屋に向かった。

 『……司。この世界に来てから、かなり変わっちゃった。前は、あんなじゃなかったのに……』

 美咲さんは悲しい表情で、どこか遠くをみている。


 ――……これって、私と清美のように……この世界に来た人のことだよね。でも、なんで?


 そして私は訳が分からなくなり困惑しながらも、その映し出された光景をみていたのだった。
 ここはカロムの屋敷の裏口にある門の外側。そこには荷馬車が用意されていた。

 あれからここにくるとカロムとラグロは、泪とメーメルを荷馬車に乗せる。

 その後マリリサが御者と護衛を連れてくるのを待っていた。

 その間二人は、沈黙を続けている。そう話すことが、尽きていたからである。

 一方、荷馬車の脇にはキルリアが居て二人のことを警戒していた。

 そう泪の影に潜むためである。

 (どうやって潜り込もうかしら? あの二人が近くにいるから……)

 そう思いキルリアは、どうしようかと困っている。

 そうこうキルリアが考えていた。

 するとカロムとラグロは、マリリサの姿がみえ門の方へと向かう。

 キルリアはそれをみて、瞬時に動き荷馬車の中へと潜り込む。すると泪の影に、スッと溶け込んだ。

 その後マリリサは、御者と護衛の三人を連れてきた。

 御者は痩せ型の男性で、護衛の男性が二人共に体格がいい。そして護衛の一人は、スキンヘッドである。

 「三人共、話は聞いているな」

 そうラグロが問うと御者と護衛の二人は頷いた。

 「ラグロ様、安心してください。この三人には、話をつけてありますので」

 「そうか……それなら大丈夫だな」

 そう言いラグロは、三人を順にみる。

 「では、自分の持ち場についてください」

 それを聞き三人は、持ち場についた。

 「さて、行くか。それと金の方は、いつも通りティハイド様の所に振り込んでおく」

 「分かりました。道中、お気をつけてください」

 そう言いカロムは、軽く頭を下げる。

 それをみたラグロは、手を軽く上げたあと荷馬車に乗りこんだ。

 その後、荷馬車は動き出した。

 (やっと行ったか。あとは……一週間後だ)

 カロムはそう思いながら屋敷の方をみる。そして門から屋敷の方へと向かい歩き出した。

 それをみたマリリサは、カロムを追いかけるように屋敷へと入る。



 ――場面は変わり、泪の夢の中――


 「……」

 私は何をみせられているのかと絶句した。……言葉がでない。余りにも、酷すぎる光景をみてしまったからだ。


 これってメーメルから聞いた勇者と聖女の話だよね? そうだとしたら……でも、そもそもなんでこの光景をみてるの?


 そう考えながら私は、美咲さんと司さんがしていることをみている。


 ……――美咲さんは、誰かに手紙を書いている。

 『バウギロスがこの手紙の内容を読んで、なんって思うだろう。でも……早く司を止めないと。このままじゃ……』

 そう言い美咲さんは、手紙を持ってみつめていた。

 美咲さんはその後、その手紙に書かれている魔法陣に手を添える。すると、パッと手紙が消えた。

 『……お願い。司を止めて……』

 そう言いながら美咲さんは、手を組み目を閉じている。


 ……――それをみた私は、悲しくなってきた。


 もしこれが本当のことなら……。それに、この光景を誰かが私にみせている……多分。でも、なんで?


 そう考えていると急に私の意識が、その光景の中へと吸い込まれる感覚に襲われた――……。
 ……――私はなぜか空を飛んでいた。それもみたこともない場所……ううん、ここはさっきみていた景色だ。

 そう思いながら私は、木の枝にとまる。そして自分の姿を見回した。

 「……!?」

 私は驚く。そう自分の体に、モフモフの白い毛が生えていたからである。


 これって、どういう事? まるで鳥……。


 何がなんだか分からなくなり困惑してきた。

 すると木の下から声が聞こえてくる。その声に聞き覚えがあった。

 そう声の主は美咲さん。私は下をみる。その後、美咲さんの肩へ降り立った。


 ▼△★▽▲☆▼△


 ここは遥か約数千年前のスルトバイス。そのセルフィルス大陸にあるアドバルド帝国の名もなき村……いや、ログロスの村である。

 この頃は、村に名前があった。しかし現在に至るまでに、なんらかの理由で名前が消されたのである。

 そしてこの村には、勇者と聖女が滞在していた。勿論、自分たちの素性を隠してである。


 ここまでの経緯を語ると長くなるのだが、気になるだろうから簡単に語ろう――……


 勇者が大国……いや、サウザマグナ国のバスチーナ城を怒りのまま消滅させ後二人は各地を転々とした。

 それから約三年後、この村にくる。


 ……――本当に簡単だがこんなところだ。


 因みに勇者の名前は久遠(くおん)(つかさ)、二十歳。聖女の方は龍凪(りゅうなぎ)美咲(みさき)、二十歳である。

 そうこの世界に降り立った時は、十七歳だった。それから色々なことがあり今に至る。


 現在、美咲は木に寄りかかり考えごとをしていた。

 (ここにくる間に、色々あったなぁ)

 そう思いながらお腹を摩っている。


 本来なら美咲は司の子供をこの村で産むはずだった。

 この村に着くなり司は、この世界に復讐すると言いだす。

 それを止めるため美咲は、龍神バウギロスに手紙を書いて送る。

 だがその数日後、旅の疲れと心労もあり流産してしまったのだ。


 そうこう考えていると、一羽の白い小鳥が美咲の左肩にとまった。……その小鳥は、泪である。

 「わぁ~可愛い。みたことのない小鳥、この辺に多いのかなぁ」

 そう言い美咲は、泪を自分の右手の甲にとまるように促した。

 泪は言ってることを理解し美咲の左肩から右の手に移る。

 「人懐っこいね。どっかで飼われてたのかな?」

 そう思い泪をみていると首輪が付いていることに気づいた。

 「やっぱり誰かに飼われてたんだね。首輪のプレートにルイって書いてある。名前まで可愛い、でもなんでここにいるの? 聞いても分からないよね」

 「ピヨ、チュン――……(私にも分からないんです!)」

 そう泪が言うも美咲に鳥語は理解できない。……まぁ当たり前なのだが。

 「なんか言いたそうだね。言葉は理解してるっぽい。そのうち言葉を話してくれるかなぁ……って、あり得ないか」

 そう言い美咲は、ニコッと泪に笑いかける。

 (これって……過去に来ちゃったってことだよね。でもなんで? 多分、誰かが私をここに……。それも、美咲さんの下に)

 泪はそう思いながら美咲をみた。

 「ねぇ、聞いてくれる? 私ね……本当なら今頃、司の子供を産んでこの手で抱いていたかもしれないんだ。でも……」

 そう言い美咲は、涙ぐむ。それでもその話を続けた。

 その話を聞き泪もまた泣く。そして飛び立ち美咲の頬まできた。すると泪は体を美咲の頬に、スリスリする。

 「慰めてくれるの? ありがとう……」

 美咲はそう言うと涙を拭った。その後、再び自分の右手にとまらせる。

 そして泪は、しばらく美咲の話を聞いていたのだった。