聖女召喚に巻き込まれて異世界に召喚されたけど、ギルドの受付嬢の仕事をみつけたので頑張りたいと思います!!

 刻々と時間が過ぎていく……。



 ――時間との闘い。泪とグレイフェズ……ムドルとベルべスクは、あれから着々と厄災の魔法陣を撤去していった。だが残ってる魔法陣の数が多く、まだ全て消し終わっていない。

 時間が迫ってくる。それでも泪たちは、ひたすら魔法陣を探し消していく……。



 ――ルべルスト城ではシュウゼルが、描かれた魔法陣をみつめ、時がくるのを今か今かと待っている……。



 ――その頃アクロマスグにいるティハイドは笑みを浮かべながら、魔法陣が描かれた祭壇の上の箱をみていた。祭壇の南側ではカロムが待機している……。



 ここはバールドア城。そしてその時がきた。

 泪たちが、ひたすら魔法陣を撤去するも間に合わず……残りの魔法陣は眩い光を放ち展開されていく。

 広場の民衆は、何が起きたのかと……ただ呆然とみていた。

 魔法陣が展開されるのをみてグレイは、間に合わなかったと思い悔しがる。

 泪はどうしたら良いのか分からなくなり、泣きそうになっていた。

 そんな中ムドルとベルべスクは、なぜか冷静である。そして二人は、泪とグレイが居る東側へと向かう。



 ――場所は、ルべルスト城へと移る――


 城の地下では、血で描かれた魔法陣が光って浮かび上がった。そして魔法陣が、展開されていく。数名の魔導師たちは、その魔法陣に目掛け魔力を注いでいる。

 そんな中シュウゼルは、魔法陣に黒い水晶を掲げ、魔族語で詠唱していた。

 《他の地と(ランイロ)現の地(デノンイ) 異の(ヒン)空間(ムフマノ) 一つから(シロマタ)無数の(クユフン)(ヒロ) (ナネ)命じる(テヒビツ) それらを(ヨネタヌ)繋げ(ルワデ)られたし!!(タネラリ)

 そう唱え終える。

 すると魔法陣が黒く光を放ち、更に展開されていく。



 ――場所は変わり、ティハイドの屋敷に隣接している教会風の建物――


 祭壇の上に描かれた魔法陣が発光する。

 それを確認したカロムは、詠唱し始めた。

 《別次元と現次元 封印されし厄 我、命ず その封印を解き それらを他の地へ解き放たれたし!!》

 そう言い放つ。すると描かれた魔法陣が赤黒く光る。それと同時に、祭壇の上の箱が光を放った。

 その箱の蓋が開く。箱を覆うように、描かれた魔法陣が浮かび上がり展開される。

 次いで、開いた箱から黒い光が放たれ魔法陣が展開されていく。と同時に箱を覆っていた魔法陣は、更に光を強めた。

 箱から現れた魔法陣から黒いものが解き放たれる。それらは祭壇の魔法陣へと吸い込まれていく。



 ――その箱から解き放たれた黒いもの……厄災は、ここアクロマスグの祭壇の魔法陣を通りルべルスト城の祭壇の魔法陣へ移動した。

 その後、厄災はルべルスト城の魔法陣を通り……バールドア城に仕掛けられた魔法陣から外に解き放たれる――
 私の目の前で厄災の魔法陣が展開されていく。そして、次々と黒い何かが魔法陣から現れる。

 その一部は、デビルミストだ。その他の黒い何かは、様々なものへと姿を変化させていった。

 広場の人々は、それをみて慌てて逃げる。

 私はどうしていいか分からず、ただその光景をみていることしかできない。……涙が出て止まらなくなる。私は涙を手で拭った。

「クソッ、間に合わなかった。だが、なんとかして厄災を駆除しなきゃならない」

 そう言いグレイは、目の前の厄災を睨んでいる。その厄災は、動く植物みたいだ。


 これって、デビルミストよりも倒しやすいんじゃないのかな?


 そう私は思った。

「ねぇ、グレイ。目の前の厄災って、倒せないかな?」

「植物みたいなヤツか? 確かに倒せそうだが……みてると種のような物を飛ばしている」

「そうだね。もしかしてだけど、あの種……生物に寄生するんじゃないかな」

 それを聞いたグレイの顔は青ざめる。

「もしそうなら、あの植物もどきを倒さねえと……」

「でも、どうやって倒すの?」

「そうだなぁ……。今のところ、俺たちの方に向かってくる気配がない。それも不思議だ」

 グレイは悩み始めた。

「それは、簡単なことです」

 そう言いムドルさんは、私たちの方に近づいてくる。そのあとからベルべスクがきた。

「どういう事だ?」

「厄災の寄生するタイプは、最も肉体や精神が弱い者と、最も心が汚れている者などに寄生するからです」

「なるほどな。そこから枝分かれしていくって訳か」

 それを聞きムドルさんは頷く。

「ですが、何れ私たちの方にも……」

「そうだな。でも、それが分かったところで……厄災とどう戦う? それに数も多い」

「ルイさんがいます。能力を使い、どう対処すればいいか指示してもらえば……可能かと」

 そうムドルさんが言うと、グレイは難しい表情を浮かべる。

「……それしかないのか。できれば、ルイにはこれ以上ここに居て欲しくなかったんだが」

「そうですね。私も同じ気持ちです。ですが……この状況では、ルイさんの能力に頼るしかない」

「え、えっと……。私なら大丈夫だよ。それに自分の能力で、なんとかなるなら……やってみたい」

 そう言うとグレイとムドルさんは、つらそうな表情で私をみた。

「やるしかないか。そうなると……場所を変えた方がいいな」

「そうですね。ですが……安全と言える場所が、ここにあるとは思えません」

「建物の中はどうなんだ? 厄災は容易に入って来れないと思うぞ」

 そうベルべスクが言うとグレイは、何かを納得したかのように頷く。

「ってことは、密封状態ならデビルミストも入ってこれないってことだな」

「ああ、そういう事だ」

「ベルべスクの言う通りであれば、私たちが倒したデビルミストは……」

 そう言うとムドルさんは、ベルべスクをジト目でみる。

「ああ、あれは魔法陣を予め仕掛けて置いた。……両方ともな」

「なるほど……そういう事か。まあいい、今はそのことを問い詰めてる場合じゃない」

「ええ、では……そこの小屋などどうでしょうか?」

 それを聞き私とグレイとベルべスクは、近くの小屋の方を向いた。

「時間もない、そこにする!」

 グレイはそう言いその小屋へと向かい歩き出す。

 そして私は、ムドルさんとベルべスクと一緒に、グレイのあとを追った。
 ここはバールドア城の広場が見渡せる場所。カイルディや城の兵士たちは、広場の騒ぎを聞きつけここに来ていた。

「これはどういう事でしょう!? あれは、いったい……。まさか、あれが厄災? そうだとしたら……急ぎ、このことを知らせなければ!」

 カイルディはこの場を兵士たちに見張らせ、急ぎ大臣クベイルが居る書斎へ向かう。



 ――場所は変わり、バールドア城の門付近――


 メーメルは呆然とその光景をみている。

(やはり、間に合わなかったのじゃ。また繰り返されるのか、あの悲劇が……)

 そう思いながら我先と押し除けていく民衆を、ただただつらそうな表情で眺めていた。

(うむ、これでは厄災よりも人間同士での被害の方が甚大じゃな。さて、どうするかのう……)

 メーメルは悩んだ。このまま民衆に紛れて中に入れば、確実に厄災の餌食になりかねない。しかし泪たちと合流しなければと、そう考えていた。

(いつまでも、ここに居られないのじゃ。でもどうやって、合流したらいいかのう)

 そう考える。だが別のルートがないかと、この場を離れ東側の城壁の方に向かってみた。



 ――場面は変わり、バールドア城の広場――


 広場内の至る所には、色々なタイプの厄災が解き放たれている。民衆はパニックになり、自分だけ逃げようと駆け出し他人を踏んでも気づかないほどだ。

 余りにも、みていられない光景である。

 そんな中デビルミストは、人間に憑依していく。憑りつかれた者は、(うずくま)る。その後、唸り始めた。そして、憑依された者の体の筋肉が隆起していく。

 片や植物のタイプは、種を無作為に飛ばす。その種が付着した者の体は、黒く変色する。それと同時に、体の至る所から芽が生えてきた。

 その生え伸びる芽は、その者の体を覆い尽くし包み込む。……繭のようである。そしてその繭のようなものは、黒い霧状なもので覆われていた。

 その他の厄災は、魔法陣から現れ多種多様な異界の怪物へと変化する。

 その怪物は広場の至る所で暴れた。だがそれを倒せる者は、ここに居ない。

 民衆は……ただただ恐怖し逃げる者。動けない者は……なすすべなく、その場で怪物の餌食になってしまう有様だ。

 このままでは、この城の者だけじゃなく他にも被害が及ぶだろう。

 しかし今だに泪たちが動く気配は、一向にみえない。

 更に被害は拡大していく。この状況を泪たちは、どうしようというのであろうか。



 ――場所は、広場の東にある小屋の中に移る――


 私は自分のプレートを急ぎみていた。どれがいいのか確認していると、グレイとムドルさんの言い合う声が聞こえてくる。

「ムドル、なんで魔族の姿で戦わないんだ!」

「私が魔族の姿で戦ったとしても厄災を倒せません。それに更に混乱が起きます。それよりもグレイが、本来の姿になって戦ったらどうなんですか?」

「それは……無理なことぐらい分かってるはずだ!」

 そう言いムドルさんを睨んだ。

「ああ、そうでした。能力が真面に使えないのでした、ね」

 ムドルさんはそう言うと睨み返している。

 私はそんな場合じゃないだろうと思った。だけど自分も、早くこの状況に合うスキルを探さないとと考える。
 ここはバールドア城の東側の城壁の上。あれからメーメルはここに来ていた。

「こっち側は、まだ厄災の被害に遭っておらぬ。それに……この匂いは、ムドル達じゃな」

 そう言うと城壁から飛び降りる。そして着地すると、匂いがする小屋の方へ駆け出した。



 ――場所は移り、バールドア城の広場の東にある小屋――


 私は急ぎプレートを確認する。


 急がなきゃ。でも、どれがいいのかなぁ。できれば全体のことが把握できて、厄災の特徴も知りたいし……どうしよう。


 そうこう考えながらプレートをみた。だけど気持ちが落ち着かないせいか、いい組み合わせをみつけられない。


 なんとかしないと……。ん? そういえば、プレートの更新ていつしたっけ……。もしかしたら、他のスキルも覚えてるかも。


 私はそう思いプレートの右側にある小さな魔法陣に触れる。するとプレートが発光しステータスが更新されていく。


 ★名前:ルイ・メイノ ★年齢:16 ★職業:受付見習い兼、冒険者 ★特殊能力:見極め

 ★LV:10 ★HP:10000 ★TP:0 ★MP:500

 ★攻撃力:5000 ★防御力:10000 ★武器:剣 ★○○…………――――


 更新されたプレートを確認した。レベルが結構、上がっている。……やっぱり、いまいち基準が分からない。

 私は特殊能力の★に触れた。プレートの下の方にスキルが表示される。


 前よりもスキルが増えた。だけど覚えたスキルの量は、減った感じだね。


 そう思い何かいいスキルがないか探し始めた。


 レベル1は、探して弱点を見極める。2は、内容の見極め。3……探し見極めて場所を特定する。4が、内容に合った物を見極め割り振り……。
 レベル5は、物を見極め整理――新しく覚えたスキルだと……。そうだなぁ……レベル6が、複数の対象物の情報を調べ見極めて振り分け整理する。
 レベル6、良さそうだね。だけど、なんか物足りない……他にないかな?


 そうこう考えながら良さそうなスキルを探していく。


 どれも微妙なんだよなぁ。本当にどうしよう……ん? 【ソーティング】かぁ。個々に合った作業を振り分ける。これって、もしかしたら今の状況に合うんじゃ。

 そう思いグレイ達に聞いてみることにした。

「ねぇ、このスキルどう思う?」

 そう言い私はプレートをみせると、そのスキルを指差した。

「ソーティング、か。なるほど、これだと喧嘩にならないかもな」

「そうですね。ですが、それだけだと厄災の情報が得られないのでは?」

「うん、だから……レベル6も組み合わせようと思ってる」

 私はプレートに表示されている見極めレベル6を指差す。

「複数の対象物の情報を調べ見極めて振り分け整理する。フッ、これはいい」

「ええ、これなら厄災を特定して攻撃できます」

「すげぇ、この能力を上手く使い熟せたら……世界征服できるんじゃないのか?」

 そう言われ私は苦笑する。

「ええと、流石にそこまでは……ハハハハハ……」

 チラッとグレイの方をみた。心配そうな表情で私をみてる。

 ムドルさんの方もみた。悲しげな表情で下をみている。

「……まぁ、そのことはどうでもいい。それよりも、厄災をどうにかしないとな」

 そうグレイが言うと私は頷いた。ムドルさんとベルべスクも頷いている。

 そう話していると、バンといきなり扉が開いた。私たちは驚き同時に扉の方に視線を向ける。

「何をやっておるのじゃ! 厄災は既に増え続け被害が出ておる。まさか怖気づいて、ここでくすぶっていた訳ではないじゃろうな」

 そこにはメーメルが居た。そして不機嫌な表情で、こっちに向かってくる。
 ここはバールドア城にある広場の東側の小屋。メーメルが怒りながら私たちの方に向かってくる。

「メーメル、別に俺たちは遊んでいる訳じゃない!」

 そう言いグレイはメーメルの方を向いた。

「そうでないのであれば、なぜここに居るのじゃ?」

「メーメル様、ルイさんの能力を使うために……ここに避難したのです」

「なるほどのう。そういう事、か。それで能力は、もう使ったのじゃな」

 そう聞かれ私は首を横に振る。

「ううん、丁度これから使おうと思ってたところだよ」

「うむ、そうじゃったか」

「フゥー、じゃあ……ルイ頼む」

 そうグレイに言われ私は頷いた。

 私は目の前に右手を翳す。

 《ソーティング!!》《見極めレベル6!!》

「広場に居る厄災たちの情報を教えて!! そして、ここに居る五人に役割を振り分けて!!」

 そう言い放った。すると翳した右手が発光しビームのようなものが放たれる。

 そのビームのようなものは、枝分かれして広場の方に向かい部屋の壁に当たり消えた。

 その後、私はプレートをみる。

 思った通り、プレートに書き込まれた。

「プレートに書き込まれたよ!」

 そう言い私は、みんなにプレートをみせる。

「なるほど、な。……でもなんで、俺が……」

 難しい表情になりグレイは俯いた。

「これは……」

 ムドルさんは頭を抱え悩み始める。

(どうしたら……これでは、間違いなく隠しきれなくなります。これを見る限りグレイも、あの姿にならなければいけない。恐らくそのことで、悩んでいるのでしょう)

 悩んでいる二人をみて、私はどうしたのかと思った。

「どうしたの? 割り振りは、ちゃんとできてると思うんだけど」

「そうじゃな。妾もこれでいいと思うがのう」

「オレも、これでいいと思うぞ」

 それを聞きグレイとムドルさんは、つらそうな表情で私たちの方をみる。

「元の姿になれば、俺だってバレないですむ。だが、能力が真面に使えない。それなのに、どうしろって言うんだ!」

「プレートに書いてあった私の役割の一つだけど。能力を探るって記載されてたよ。多分だけど、これグレイのことじゃないのかな?」

「俺の能力を、か。だとしたら、このプレートに書かれていることも納得できる」

 そう言うとグレイの表情が明るくなった。

「グレイは、納得できたみたいですが。私の方です……書いてある意味が、理解しかねます」

 それを聞き私は、ムドルさんへの指示が、どう書き込まれているのか気になりプレートをみた。

「……本来の能力を開放して対処すること。……えっ!? どういう事、なの。ええっと……魔族の姿にじゃなくて、能力の解放……意味が分からない」

 私は不思議に思いムドルさんをみる。

「やはり……隠しきれません、か。話すしかなさそうですね」

 そう言いムドルさんは、重い口を開いた。
 ムドルさんは一瞬、躊躇った。だけど、つらそうな表情で口を開く。

「これを話すと長くなります。ですので、簡単に話したいのですが」

「ムドル、無理に話さなくていい。もし隠している能力があるなら使え。それに対しては、時間がある時……話す決心がついてからでもいいと思う」

 そう言いながらグレイは、ムドルさんを見据える。

「それに……お前が魔族と人間とのハーフだという事は、メーメルに聞いている」

「そうなのですね……分かりました。グレイの言う通り、話すのはあとにします。ですが、恐らく……能力を開放した時点で気づくでしょう」

「まぁ……そうかもしれない。そん時は、その時に考えればいいだろう。今はとにかく、どんな方法でも厄災を駆除しなきゃならないからな」

 それを聞きムドルさんは、ゆっくり頷いた。

「私も、グレイの言う通りだと思うよ。ここで、何をみても驚かない。ううん、それは無理かもだけど……今は聞かないことにする」

「そうじゃな。妾もあとで聞くかのう。まぁ聞いたとしても、どうする訳でもないのじゃ。ムドルは、ムドルじゃからのう」

 そう言うとメーメルは、ニコリと優しく微笑む。

 ムドルさんは、泣きそうになっていた。

「……ムドル、良かったな。オレは昔のお前のことを知ってるし、その能力のことも知っているがな」

 だけど……。

「ベルべスク、お前の口からそれを言ったら……どうなるか分かっていますね」

 そう言いながらムドルさんは、キッと鋭い眼光でベルべスクを睨んだ。

 それをみたベルべスクは、怯え震えてる。

「ふぅ……じゃあ、やるとするか」

「そうですね……やりますか」

 グレイとムドルさんは部屋の中央に移動した。

 そして二人は、邪魔にならないように距離をおく。



 ――泪の視点から……場面が切り替わる――


 グレイフェズとムドルは部屋の中央にくると、お互い邪魔にならないように距離を置いた。

(ルイのことを信じていない訳じゃない。だが……本当に大丈夫なのか? でも、やるしかねえよな)

 そう思い広場のある方に視線を向ける。

(腹を括るしかありません。知られたくは、ありませんでしたが……)

 ムドルは泪たちをみたあと、グレイフェズの方に視線を向けた。

(特に……グレイには、ね。それに、年もバレてしまいますし)

 そう思うとムドルは苦笑する。

(……ムドル、まさかと思うが。俺と同じなのか? それを聞くのが怖かった。でも、ムドルが能力を開放すれば分かる。それでも……な)

 グレイフェズはそう思いながらムドルの方を向いた。

 お互い視線が合ってしまう。

「おいっ! なんで、こっちみてる」

「いえ、偶々ですよ」

 そう言いムドルは、ニヤリと笑った。

「そ、そうか。まぁいい、さっさとやるか」

「そうですね……急がなければ、余計に被害が増えますし」

 それを聞きグレイフェズは頷く。

 その様子を泪たちは、心配な表情でみていたのだった。
 ここはバールドア城の広場から東にある小屋。

 その小屋の中には、泪たちがいる。

 泪たちが見ている前でグレイフェズとムドルは、能力を解放しようとしていた。

 ムドルは覚悟を決め、目の前を見据える。

 その後、眼前に両手を翳すと魔族語で詠唱した。すると魔法陣が展開していき、そこから黒い光が放たれる。その黒い光は、ムドルを覆い包んだ。

 黒い光が消えると魔族の姿へと変わる。

(……気持ちが落ち着きません。ですが、覚悟を決めないと)

 ムドルは気持ちを切り替えた。左手の親指と人差し指で、パチンッと左耳のピアスを弾く。


 キィーン――……


 辺りに甲高い音が鳴り響いた。それと同時に波紋が現れ広がる。

 それを確認すると眼前に両手を翳した。

 《異なる(モロワツ)(ムヤニ) 偽と(ヂロ)(リノ) あるべき(ハツゼミ)姿(ユダラ) 封印(ウフヒノ)されし(ヤネリ)能力(ンフチョム) 我、(ナネ)願う(ケダフ) 真の(リノン)力を(イマタヌ)解き放(ロミアワ)たれたし!!(ラネラリ)

 そう唱え言い放つと、翳した両手が光って魔法陣が展開される。

 それを視認すると両手を頭上に掲げた。それと一緒に魔法陣も移動する。

 右手を掲げたまま左手の人差し指で、左耳のピアスを後方に弾いた。


 リィーン――……


 綺麗な高い音が鳴り、周囲に響き渡る。すると掲げた右手の上にある魔法陣が、回転しながら下降していく。

 それと同時に、ムドルから異常なほどの威圧感が放たれた。

 下まで到達すると魔法陣は消える。


 ムドルの姿は、さほど変わっておらず。黒髪の部分が若干、こげ茶がかっていた。見た目は、少し人間に近い。


 それをそばでみていたグレイフェズは、驚異的な威圧感に身を震わせる。……まだ能力を開放していなかったため、余計にそう感じた。

(……見た目は、余り変わっていない。だが、なんなんだ! この途轍もない威圧は……。それに、この世界の者とも思えない……この感覚……)

 そう思いながらムドルを凝視する。

 それに気づきムドルは、グレイの方を向いた。

「どうしたのですか? グレイは、能力を開放しないのでしょうか」

「いや、能力を開放する。ただ……いや、やっぱりいい。さて、俺もやるか……」

 そう言うとグレイフェズは、左の小指に嵌めている指輪に右手を添える。

 《古の鎖 現と古 あるべき姿 封印されし力 我、願う 真の姿を解き放たれたし!!》

 そう詠唱すると両手を頭上に掲げた。

 すると指輪がキランッと光る。と同時に、指輪から眩い光が真上に放たれ魔法陣が展開していく。

 その魔法陣が展開し終えるとグレイフェズの真下に、スッと降下する。そして、徐々にグレイフェズの姿が変化していった。


 白銀から黒に銀が混じった髪色へ変わっている。髪型と容姿はそのままだ。明らかに違うのは、尋常じゃないほどの膨大な能力である。


 魔法陣が地面まで到達すると激しい光を放ち消えた。

「これで……いいんだよな。まだ、自信はない」

「グレイ。私は……久々すぎて、ちゃんと能力が使えるか心配なんですけどね」

 そう言い二人は、ニヤリとお互い笑みを浮かべる。その後、泪たちの方へ向かい歩き出した。
 私はグレイとムドルさんが能力を解放する様子をみていた。


 二人共、つらそうだったけど……そのあと笑ってたから大丈夫だよね。


 そう思い自分の中で納得する。

 二人はこっちに向かってきた。威圧感が×2……。私もだけど……ベルべスクも、ビクビクしている。メーメルまでも軽く身震いをしていた。そのぐらい威圧が凄い。

「……ムドルだけでも、近くに居たくねえのに……二人もだと流石にキツい。ここから逃げ出してぇ……」

「そうじゃな。まさか、ここまでとは……感じる気までも似ておるのじゃ。まさか、それはないと思うが……。能力まで同じだったら、笑うしかないがのう」

「そ、そうだね。だけど、グレイとムドルさんて……もしかしてだけど」

 そう言いメーメルの方に視線を向ける。

「恐らく、なんらかの繋がりがある者かもしれぬのじゃ」

「ほう……あのグレイフェズってヤツも、ムドルと同じとはな。こりゃ、おもしれえ」

「そういえば、ベルべスクって……ムドルさんのこと知ってるんだよね」

 そう聞くとベルべスクは頷いた。

「知っている。だが……言わんぞ。まだ、死にたくないからな」

 そう言うとベルべスクは、ブルッと身を震わせる。

 余程ムドルさんのことが、怖いんだろうなぁって思った。

 そうこう話してると、グレイとムドルさんがそばまでくる。

「さて、やるか。その前に俺は、ルイにみてもらわないとな」

「そうだね。何で調べるのか書いてあるかもだから、プレートを確認してみる」

 私はプレートを持ち直すと確認し始めた。

「私はそのプレートに書かれた通りに、行動したいと思います」

「ハァ、オレは……またムドルと一緒か」

「嫌なら構いませんが。ただ今後、命の保証はないと思ってください」

 そう脅されベルべスクは、頭を搔きむしりムドルさんを凝視する。

「あー……やりゃあ、いいんだろう。昔のように、指示通り召喚すれば!」

「そういう事です。私の能力は……」

 ムドルさんは能力のことを言おうとして、急に黙り俯いてしまった。

「……そういう訳か。やっぱり、な。お前の能力って……。初代、聖女の能力じゃないのか?」

「ええ、グレイ……そうです。この能力のことを、知っているみたいですね」

「ああ……昔、にな。俺が居た村には、勇者と聖女のことが記載された書物があった。それを散々……嫌というほど、読んだ」

 そう言うとグレイは、つらそうな表情になる。

「そうですか……まぁこれで、私が何者か。全てではありませんが、知られてしまいました」

 ムドルさんは悲しい表情で俯いた。


 そうか……そうなるとグレイとムドルさんて、血の繋がりがあるってことだよね。それに、ムドルさんの方が年……。いやこれは、聞かない方がいいかな。


 そう思いそれについては考えないことにする。

「うむ、そうだったのじゃな。だが、そのことを詳しく聞くのはあとじゃ」

「はい、メーメル様。では、私は持ち場に向かおうと思います」

 そう言いムドルさんは軽く会釈をして外の広場へと向かった。ベルべスクもそのあとを追う。

「……そうだな。俺も急いで、能力を使えるようにしないと」

 それを聞き私は頷いた。

「急いで読み返すね」

「ああ、頼む!」

「妾は、ひとまず待つのじゃ。今は、やることがないからのう」

 そう言いながらメーメルは私とグレイの方をみる。

 そして私は、ひたすらプレートに書かれている内容を確認していたのだった。
 私はグレイの能力について調べるため、プレートに記載されている内容を読んでいた。


 えっと……ここに書かれている内容を読む限りだと。ふむふむ……なるほどそういう事か。


 読み終え私は、グレイに声をかける。

「グレイ、いくつかやることがあるみたい」

「そうなのか。じゃあ、少し時間かかるな」

「うん、だけど……なるべく急ぎ足でやっていくね」

 そう言うとグレイは、真剣な顔で頷いた。

 それを確認すると私は、グレイの頭に両手を添える。

 《プローブ!!》《見極めレベル2!!》

「能力について調べて!!」

 そう言い放つと両手が光り、グレイの頭と私の両手の間に魔法陣が現れた。その魔法陣から光が放たれグレイの頭を包み込む。

 それと同時に魔法陣は、回転しながら下降していく。そして首のあたりで魔法陣が消える。

 私はそれを視認するとプレートをみた。プレートにグレイの能力について書き込まれていく。

「何か分かった、か?」

「う、うん。グレイの能力は、やっぱり勇者と同じで……脳裏に浮かべたものを創造して具現化するみたい」

「そうか……だけど、なんで失敗するんだ?」

 そう言いグレイは首を傾げる。

「それは、まだ分からない。だから今度は、それについて調べるね」

「何回もって……そういう事か。だが、ゆっくりはしていられない。……でも、そうも言ってられねえな。能力が使えないと、どうしようもない」

「うん、じゃあ……なんで能力が使えないのか調べるね」

 私がそう言うとグレイは、コクリと頷いた。

 それをみて私は、頭の中でスキルの再確認をする。


 新しく覚えたスキルの【エグザミン】を、使えばいいんだよね。このスキルは、対象物について詳しく調べる。それと、あれを組み合わせれば……。


 スキルの確認をすると私は、グレイの頭に両手を翳す。

 《エグザミン!!》《見極めレベル1!!》

「能力が、なんで使えないのか調べて!!」

 そう言い放つと両手が光った。それと同時に魔法陣が展開される。そして魔法陣から光が放たれ、グレイの頭を覆った。そして魔法陣が下降して首のあたりで消える。

 私はプレートを確認した。

「グレイ、分かったよ。だけど、これ……もしかしたら、何度も調べなくて大丈夫かも」

「どういう事だ?」

「ただ、グレイが理解できればだけどね」

 そう言うとグレイは首を傾げる。

「理解か……。なんとかやってみる。時間もかけたくないしな」

 それを聞き私は、なぜグレイが能力を使い熟せないのかを説明した。

「……そういう事か。その場に合った物が頭に浮かぶが……それが、なんなのかを理解していない」

「うん、だけど……名前って一緒に浮かんでこないかな?」

 そう聞くとグレイは考え込む。

「名前か……そういえば、うっすらと文字が浮かび上がっていたかもしれない。だがそれと、どう関係あるんだ?」

「脳裏に浮かんだ物が、なんだか分からない時は……その浮かんできた文字を叫ぶといいみたいだよ」

「なるほど……そういう事か。それが可能なら、もしかしたら成功するかもしれない」

 グレイは嬉しそうだ。それをみた私も、役に立てたと思い嬉しかった。

「だがまだ、不安なのは変わらない。ここで試してからにする」

「そうだね。私は、みてるね」

「うむ、妾も観察してるのじゃ」

 それを聞いたグレイは、頷いたあと部屋の中央に向かう。

 そして私とメーメルは、ワクワクしながらグレイをみていた。