「無」能力だけど有能みたいです〜無能転移者のドタバタ冒険記〜 《反逆の章》

 ここはドラギドラスの洞窟。暗い洞窟内だったがマグドラスの体を覆う炎により周囲は明るい。

 ドラギドラスの後ろに隠れ美鈴は、近づいてくるマグドラスに恐怖し震えていた。

(どうしよう。このままじゃ……)

 どうしたらいいのかと思考を巡らせる。


 片やドラギドラスはマグドラスに美鈴の存在を悟られないようにしようとしていた。

「マグドラス。ここには、おいらの他に誰もいないドン」

 そう言われるもマグドラスは、明らかに普段のドラギドラスと違いキョドっていることに気づく。

(ドラギドラスは、何を……いや、誰をなんのために隠そうとしてる? まぁいい。どんなに隠そうが、におう。ヒューマンに似通ったニオイがな、)

 そう思いながらドラギドラスの側までくる。すると、美鈴のニオイがするドラギドラスの周辺の地面をギョロリギョロリと見回す。

 ドラギドラスは冷静を装おうとするも、かえって焦りが表情に出てしまい顔中に汗をダラダラと流していた。

「何をそれほど焦っておる? やはり誰かいるな。どんなに隠れようがニオイで分かる。出てこいっ!!」

 そう大声で叫び威嚇する。

 そう言われるも、はいそうですかと姿をみせるわけもなく。……当の美鈴はというと、恐怖のあまり動けずにいた。

「フンッ! ここにいるのがヒューマンだとすれば、儂の言葉など分かるわけがないか。だが、ドラギドラス。なぜお前が言葉の通じぬ者を庇う?」

「だ、だから……し、知らないって言ってるんだドン」

「知らない、だと……」

 マグドラスはドラギドラスを鋭い眼光で睨む。

「そうだドンっ!」

 額に汗を垂らしながらもドラギドラスは睨み返しそう言いきった。

「ほざけっ! どんなに儂を欺こうが、このニオイだけではなく、お前の態度に出とるわいっ!!」

 そう言われるもドラギドラスは、ひたすら美鈴を庇おうとあらゆる方法で対処する。

 だが、そんなことをしてもマグドラスには効くわけもなく、ただ更に怒らせるだけだった。

 その光景をビクビクしながらみていた美鈴は、このままじゃ駄目だなんとかしないとと思う。

 マグドラスはドラギドラスにいくら言っても無駄だと思った。だが、自分に水をかけた者のことを許せるわけもなく、再び怒りがわいてくる。

 ガオォォーン――と、何度も雄叫びを上げながら火を吐く。

 美鈴はそれを聞き更に足が竦んだ。 だが美鈴は、自分に大丈夫だと言い聞かせ気合いを入れて勇気を降り絞る。

「待って!? ウチならここにいるっ!」

 そう言うと美鈴は、ドラギドラスの後ろから姿を現しマグドラスをキッと睨んだ。

「ほう、お前が。うむ、だが、」

 そう言いマグドラスは不思議そうに美鈴をみていた。

 そしてドラギドラスは、なんで美鈴が姿をみせたのかと思考を巡らせる。

(ミスズ、どうして出てきたのかドン? 何か考えがあるならいいと思うけど、大丈夫かなドン)
 恐怖で体が震えるのを必死で堪えながら美鈴は、マグドラスを睨みつけていた。

 マグドラスは、そんな美鈴を知ってか知らずか見下ろし不思議に思い首を傾げる。

「ヒューマンなのか? いや、違うな。その様子だと、儂の言葉を理解しておる。……もしやとは思うが、女神が召喚した勇者じゃないだろうなっ!!」

 そう言うと恐ろしい形相で美鈴を睨んだ。

「あ、えっと……」

 美鈴は恐怖のあまり萎縮してしまい上手く言葉にならない。

 その様子をみかねたドラギドラスは美鈴を掴み自分の肩に乗せる。そして、滅多にみせないような獣のような恐ろしい形相でマグドラスを睨み付けた。

「マグドラスっ!? いい加減にするドンっ!」

「ほう、お前が本気で怒るとは珍しい。それに、その者は間違いなく女神に召喚された勇者。ならば、我らにとって敵。それなのに、なぜ庇う?」

「そうだけどドン。確かにこの洞窟を封印して、おいらを閉じ込めたのは女神が召喚した勇者だドン。でも、美鈴は違うドン」

 力強くそう言い放つドラギドラスに対しマグドラスは、なぜそこまで庇うのかと不思議に思う。

「何が違うっ!? どうみても、女というだけで同じではないか」

「違うドンっ!! 美鈴は、女神に始末されそうになったんだドン」

「女神に、その者がか。フンッ、そんなこと信じられんわ。ドラギドラス、その女に騙されてるのではないのか?」

 そう言われドラギドラスは、なんでマグドラスがそこまで美鈴を疑うのかと思った。

「どうしてミスズをそこまで疑うんだドン」

「そんなことは、決まっている。女神に召喚された者であるなら、我々を討伐に来たと考えるのが普通だろうがっ!!」

「確かにそうかも知れないドン。だけど美鈴が、」

 そう言いかけるとマグドラスは、ある提案を持ちかける。

「……お前と言い争っていても埒が明かん。そうだな、儂に水をぶっかけたその力も気になる、」

 そう言いながらマグドラスは、美鈴に視線を向けた。

 美鈴はその視線を感じとり、ビックリし今にも泣き出しそうになる。

「どうだこの儂と、サシで戦うというのは?」

「待つドン。それじゃミスズが、」

「ええい、お前は黙っていろっ! 儂は、」

 そう言い切る前に美鈴は、ビクビクしながらも口を開いた。

「分かった。ウチがマグドラスと戦えば納得してくれるんだよね」

 ビクつきながらもそう言い、ドラギドラスの肩の上にゆっくりと立つ。

「ほう、のみ込みが早いようだな。だが、もし万が一お前が勝てたとしてもその後どうするかは分からぬ」

「……納得いかないけど。それしかないなら、」

 そう言うとマグドラスをキッと睨み見据える。

「さっきとは違い、いい目をする。そうだな、すぐ終わってもつまらんハンデをつけるか。どうだ、お前を攻撃しないというのは? まぁ防御はするがな」

「うん、って、それは助かるけど。……本当にそれでいいの?」

「ああ、勿論だっ! まぁ、どんな攻撃がこようが弾き返すがな」

 マグドラスはニヤリと笑みを浮かべた。その後、美鈴を馬鹿にするようにけなしながら「ガハハハッ!」と大声で笑う。

 それを聞き美鈴はムッとする。

(なんなの、このドラゴン。さっきまでウチを警戒してたんじゃないの? 急にウチを馬鹿にし始めたんだけど……。
 んー、まぁいいか。出た言葉によっては倒せるかもだしね)

 一方ドラギドラスは、この展開にオロオロし大丈夫なのかと思い悩んだ。

(心配だドン。だけど、なんでマグドラスはミスズを試すようなこと言い出したんだドン?)
 ここはスイラジュンムの遥か上空に浮く女神スイクラムが住まう天空城。

 スイクラムは宙に浮く水晶を覗き美鈴の様子を伺っていた。

 最初は楽しげにみていた。だが、徐々にその表情は苦い顔へと変貌していく。

「ウグッ……。これは、どういう事? なぜマグドラスは、あのような提案を……」

 顔を歪め不満そうにその様子を監視する。

「まぁいいわ。何を考えているかは分からないけれど。もしマグドラスが美鈴を仕留め損ねるようなら、他の方法を考えればすむこと」

 そう言いニヤリと笑う。

 そして再び水晶を覗きみた。



 場所は変わり、ここはドラギドラスの洞窟。美鈴はドラギドラスの肩の上で、マグドラスをキッと睨みながら両手を目の前に翳している。

 マグドラスは、大きな声で笑い余裕そのものだ。

 片やドラギドラスは、どうなるのかと不安しかなくオロオロしている。

 そんな中美鈴は、マグドラスに罵声を浴びらされながらも必死に堪え、なんとかメニュー画面の操作を終えてスロットを回した。

(攻撃を選んだけど大丈夫かな? 運を天に……いやいやいや、危ない危ない。流石に、この世界の女神に任せられなかったわ。
 えっとこの場合は、神よりも悪魔? それとも魔王かな、)

 そうこう考えている内にスロットが静止する。表示された文字は【数】だ。

(……この文字ならアレしかない。だけど、他に何か言葉を付け足さなきゃ。ん~、なんにしよう?)

 美鈴はそう思考を巡らせる。

 その様子をみてマグドラスは、苛立ち始めていた。

「どうしたっ!? なぜ何もせんっ。よもや怖気づいたのではないだろうな」

「それはないけど。……分かった。それなら、これでいくことにする」

 そう言い一度、目を閉じると『大丈夫、これならいける』そう心の中で呟く。

「……」

 それと同時に、エリュードの姿が脳裏に浮かび一瞬無言になる。

(え、えっと……。なんでこんな時にエリュードのこと思い出すの?)

 そう思い顔を赤らめた。

 だけど今は、そんなことを考えている場合じゃないと気持ちを落ち着かせる。

 そして目を見開き、マグドラスに視線を向けた。

 美鈴はマグドラスの方へ向け両手を翳すと、

 《マグドラスを『無数の矢』で攻撃!!》

 そう言い放った。

 すると美鈴の眼前に魔法陣が描かれた。と同時に、一本二本三本……次々と、数限りなく矢が現れマグドラスへ瞬時に放たれる。

 だがマグドラスは、翼をバサバサと大きく羽ばたかせ風を起こし向かいくる矢を次々に地面に落としていった。そして美鈴から放たれた矢は全て出尽くす。

「ほう、水の次は矢か。そうなると、お前はなんでも召喚できる能力が使えるという事だな」

「え、あ、どうだろう。アハハ……」

 またもやマグドラスに攻撃が効かず美鈴は大丈夫なのかと不安になってくる。

「まあいい。だがまさか、それで終わりではないだろうな?」

 そう言われ美鈴は自信なさげに頷いた。

(大丈夫かな。だけど、まだ失敗しているわけじゃないし。文字、次第では倒せるはず。多分……)

 そして再び眼前に両手を翳す。



 一方その頃__ここは、レインライムにあるルイドの屋敷。エリュード達は、自分たちの部屋で旅支度をしていた。


 そしてここはエリュードの部屋。念入りに荷物のチェックをしているようだ。

(ミスズ、大丈夫だよな。……なぜか、変な胸騒ぎが、)

 そう考えながらエリュードは、弓矢のチェックをしようと後ろを向く。

「……ない!?」

 そう言い後ろに置いてある荷物の側に立てかけた矢のケースを覗いた。

「確か、結構な数の矢が入ってたはず。なんでなくなってる? それにここには俺しかいない」

 まさかそれはないだろうと思いつつも、一応確認のために異空間の収納ケースにしまって置いた予備の矢を確認してみる。

「って、おい。これは、どういう事だ? 矢が全てなくなってる」

 そう思いながら一点をみつめ考え込む。

(普通じゃあり得ない。こんな芸当ができるのは、女神か? いや、女神ならこんなちんけなことはしないだろう。
 そうなると、ヴァウロイか? それも違うな。いくら俺を嫌ってるとしても、流石に利益にならないことをするとは思えない。
 だとしたら……。まさか、ミスズか。 あり得るが……。もしそうだとしたら、何かと戦っているのか?)

 そう思った瞬間、今感じている変な胸騒ぎのことが気になり始める。

「ミスズの身に何かあったんじゃないよな」

 エリュードは、美鈴のことが心配になった。その後ヴァウロイとライルとゴルイドにこのことを知らせる。

 そしてエリュード達は、ルイドにそのことを知らせると急ぎ船着き場に向かった。__因みにその途中エリュードは、武器屋により矢を大量に買い込んだ。

(ミスズの居場所が遠すぎる。だが、なんとか間に合ってくれ……)
 ここはドラギドラスの洞窟。あれから美鈴は幾度となくマグドラスに挑むも効かず、流石に何も食べていないせいもありヘトヘトになっていた。

「ハア、ハア、――。ちょ、待って……」

「どうしたそれで終わりか? 思っていたよりも根性はあるようだが、その程度か」

 マグドラスは、フンッと鼻を鳴らし美鈴を馬鹿にするような目でみる。

「ミスズ、大丈夫かドン? おいらにできることがあれば手伝うドン」

「ん〜どうしよう……」

「そういえばその能力って、おいらに付与できないのかなドン」

 そう言われ美鈴は、その方がいいんじゃないのかと思った。そして恐る恐るマグドラスに提案する。

「ねぇ、マグドラス。ウチの能力で、ドラギドラスを操って攻撃するってのはありかな?」

「うむ、それは面白い。そうなると、ある程度本気を出すが良いか?」

 そう問いかけられて美鈴は、コクリと頷きドラギドラスの方に視線を向けた。

「じゃ、ウチは一旦下に降りるね」

 それを聞きドラギドラスは、自分の肩の上にいる美鈴を手のひらに乗せる。すると手のひらを、地面スレスレまで下ろす。

 美鈴はそれを確認すると手のひらから降り地面に着地する。

 ドラギドラスは降りたことが分かると目線を美鈴に合わせた。

「おいらは何をすればいいのかドン?」

「うん、とりあえずどんな文字が出るか分からないから待ってて」

 そう言うと美鈴は両手を翳しドラギドラスに向ける。

(ドラギドラスに付与するってことは、補助で単体を選べばいいよね)

 そう思い選ぶとスロットを回した。

 ドラギドラスは、なぜかワクワクしながら待機している。



 そんな中マグドラスは、その様子をみながら考えていた。

(あのミスズとか言う女勇者、中々根性がある。それに、幾度も儂に攻撃して来た能力、あれは召喚の類いじゃない。
 いったいなんの能力なのだ? だがまあ、もしかすれば次でそれが分かるかもしれんしな)

 そう考えが纏まると美鈴とドラギドラスの方を向き、まだなのかと思いながら待機する。



 そうこうしていると、スロットが停止し【効】と表示された。

「ん〜『効』かぁ。これだと『無効化』って文字がいいと思うけど。ドラギドラスに付与するとなるとなぁ」

「……『無効化』……。それって、術を無効にすることもできるのかなドン?」

 そう問われ美鈴は不思議に思い聞き返す。

「術を無効化するってどういう事?」

「おいらにかかっている術を、無効化できないかと思ったんだドン」

「術がかかってるって……。それどういう事?」

 そう聞かれドラギドラスは、その理由を話し出した。

「……なるほどねぇ。じゃあドラギドラスは、元々その姿じゃなかったんだね」

「そうなんだドン。この洞窟を封印した勇者の前に現れた勇者が、おいらを弱体化させ、この姿に変えたドン」

 そう言いムッとした表情になる。

「そのせいで、この姿で出歩くのが嫌だから、この洞窟から出れなくなったんだドン」

「そういう事かぁ。だけど元々の姿ってドラゴンだったの?」

 そう聞かれドラギドラスは、言うのをためらった。だが、術を解けば分かってしまうことだと思い重い口を開く。

「そうだといえば、そうなんだけどドン。ただ違うのは--」

 ドラギドラスは自分のことについて説明し始める。


 そうドラギドラスは元々、数少ない竜人族だ。だが、勇者によりこの姿にされる。

 その後この洞窟に引きこもっていた。そして数百年後に現れた別の勇者により、とある理由で洞窟ごと封印される。__


 __そしてドラギドラスは、自分の手のひらをみて溜息をつく。

「だけど、なんで勇者と戦ったの?」

「おいらは……」

 そう言うとマグドラスに視線を向ける。

「戦った理由、それのことはあとで話すドン。ただ元の姿に戻ったらマグドラスは、おいらが誰なのか気づくドン」

「……ってことは、今の名前って、」

「流石にこの姿で本当の名前を言うのは嫌なんだドン」

 そう言われ美鈴は余計に気になった。

「そっかぁ。じゃ、元の姿なら言えるってこと?」

「うん、多分だけど言えると思うドン。その前にマグドラスにバレる気もするドン」

「なるほどねぇ。そうなると……。分かったっ! だけど成功する保証はないけどね」

 そう言い額から一滴の汗が頬を伝う。

「それでもいいドン。成功すれば、おいらがマグドラスを倒せるドン」

 ドラギドラスはマグドラスを凝視する。
 美鈴はその後、再びドラギドラスへと両手を翳した。

 《ドラギドラスにかけられた全ての術を『無効化』!!》

 そう言い放つと、ドラギドラスの真下に魔法陣が現れる。それと同時に、眩く発光しドラギドラスを覆った。

 その時、辺りがグラグラと激しく揺れ始める。

 マグドラスは、いきなり揺れ始め驚き戸惑う。いやそれだけではない。ドラギドラスの体から、途轍もないほどの威圧感が放たれ、それを感じとりゾクゾクと身を震わせた。

「いったいこれは……。この感覚かつてどこかで。だが、なぜドラギドラスからこれほどまでの威圧感が……いや、まだ膨れ上がっている」

 その威圧に押されマグドラスは後退する。

「なんなの、この威圧感。これが本来のドラギドラス……」

 美鈴はドラギドラスが放つ眩い光と威圧感に、まともに目を開けていることができない。

 そうこうしていると、ドラギドラスの体が徐々に人型へと変わり縮んでいく。それと共に、ドラギドラスから放たれていた光が弱まる。

 ドラギドラスの体から放たれていた光が、急に一箇所に凝縮されると、パァーンっと大きな音を立て弾け洞窟内に響き渡った。

 マグドラスは、何が起きたのかと驚き目を丸くする。

 片や美鈴も、またその音に驚き尻餅をついた。

 その後マグドラスと美鈴は、恐る恐る目の前にいる者をみる。

 だが、どこにもドラギドラスの姿がみえない。そうそこにいるのは……。


 __見た感じ二十代前半ぐらいで痩せている。だが、見た目より筋肉質でがたいがいい。しかしその割には、褐色の肌で優しい顔だちだ。

 緑色の長い髪。前髪は真ん中分けで目よりも長い、左右二箇所ずつ黄色のメッシュ。頭の両脇に銀色のツノが内側の向きに生えている。

 そして体から発している威圧感は、かなり強いことを証明していた。


 __マグドラスは目をこらえ、その者を見据える。と同時に、更に驚き声を荒げた。

「ハッ! な、なぜここにドラバルト様が……いや、まさか。そんなことは、あり得ん。あの方は何千年も前に、女神が召喚した勇者により、敗北し息絶えたと風の噂に、」

 一呼吸おくと、気持ちを落ち着かせ再び話し出す。

「……確か、そこにはドラギドラスがいたはず。だが見た目とこの感じは、間違いなくドラバルト様のもの。いったいこれは、どういう事だ」

 そう言いマグドラスは、ドラギドラス……いや、ドラバルトを凝視する。

「ふっ、やはり気づいたようだな。そう我こそは竜人族最強と謳われ、そして魔王テルマ・K・ティム様の配下である四帝が一人ドラバルト・バッセルだっ!!」

 そう言い放ちマグドラスを見下すような目でみた。

 だがまだマグドラスは信じられず、ドラバルトを疑いの目でみる。

(うむ、本当にドラバルト様なのか? そうだとして、なぜ今まであのような姿をしていたのだ……。どうも納得がいかぬ、)

 そう思い自問自答していた。

 美鈴は何がなんだか分からず、呆然とその光景をみている。

(えっと、ちょっと待って。これってどういう事? ドラギドラスがカッコ良くなって。それも……魔王の配下、それも四帝。てことは、かなり強いってことだよね。
 さっきある程度、聞いてはいたけど。まさか、ここで魔王という言葉を聞くとは思わなかった。それに言葉づかいと態度も思いっきり変わってるし、)

 余計に混乱し考えが及ばなくなり美鈴は、頭を抱えうずくまった。

 その後もドラバルトは理由を話す。

「……いや、やはり信じられん。……そうだな、こうしよう。もし本物のドラバルト様なら、儂の攻撃など容易く交わせるはずだ」

 そう言うとマグドラスは、ドラバルトに決闘を申し込んだ。

 ドラバルトはそれを聞きニヤリと口角をあげる。

「ああ、いいだろう。それに面白そうだ。その申し出、受けようではないか」

 そして洞窟内を再び重々しい空気が漂い始めたのだった。
 ここはスイラジュンムの遥か上空にある天空城。

 スイクラムは水晶に映るドラバルトの姿をみて驚く。

「まさか、なぜ? ……魔王テルマを倒した勇者は、ドラバルトを仕留めそこなっていたっていうの?」

 そう言い険しい表情を浮かべる。

(……ドラバルトが生きていた。それも珍竜ドラギドラスという仮の姿で……。恐らく勇者と戦っていてあの姿に変えられ、能力までも封じられた。そのため何千年も戻れずにいたのでしょう。
 ですが、美鈴の能力で元の姿に……。これは厄介ですわ。どうすれば? 下手に刺激すれば面倒なことになりかねないわね)

 そう思い悔しさのあまり左手の人差し指を噛んだ。

 そうドラバルトを下手に刺激して、スイラジュンムの脅威……いや、自分が管理する世界を滅茶苦茶にされることを恐れたからである。

「仕方ないわ。今は、様子をみるしかないようね」

 その後スイクラムは水晶を食い入るようにみながら監視を続けた。



 場所は移りここは、ドラギドラスの洞窟。周囲には、緊迫した空気が漂っている。

 ドラバルトは、背中に翼を生やしマグドラスの目の高さまでくると、ニヤリと笑みを浮かべた。

「マグドラス。俺に決闘を申し出たこと後悔するなよ」

「ホザケッ!! 後悔するのはお前の方だ。あのミスズとかいう女勇者がどんな方法でお前をドラバルト様の姿に変えたかはしらん」

 一呼吸置きキッとドラバルトを睨み再び口を開く。

「だが、口調や姿を真似られたとしても、能力や強さまでは無理なはずだっ!!」

「ほう、まだ信用していないようだな。まあいい、死なない程度に軽く遊んでやろう」

 そう言われマグドラスは、ムカッとし頭に血がのぼった。

「あくまでも、ドラバルト様だと言い張る気かぁぁぁっ!?」

「ああ勿論だ。本人なのだからなっ!」

 そう言いマグドラスを見下す態度をとる。

 マグドラスはその態度に怒りを露わにした。と同時に、全身を覆う炎が急激に増す。


 近くでみていた美鈴は、その迫力に……いや、ドラバルトとマグドラスの威圧感に押されその場にいるのが困難だ。

「何これ、て……。その前に、ウチが傍にいると邪魔になりそうだね」

 そう思い美鈴は、ドラバルトとマグドラスから遠ざかり大きな岩壁の物陰から戦況を伺うことにした。


 翼を使わずに魔力だけで宙に浮きながらドラバルトは、キッとマグドラスを睨む。

 一瞬マグドラスは怯んだ。


 そう一瞬だけ、ドラバルトから覇気が放たれたのを感じたからである。


「……!?」

(なっ、覇気だと。威圧感、迫力だけではなく。……ここまで真似ることができるものなのか? いやいやいやいや、恐らくあの女勇者が何かしたにすぎん)

 そう思いドラバルトを睨み口から業火の炎を吐く。

 その炎はドラバルトへと向かいくる。だがドラバルトは身構えもせず、ただその炎をみて笑みを浮かべ立っているだけだ。

 その炎がドラバルトを襲う、いや当たる寸前のとこで掻き消された。

「フンッ、この程度か。これでは、効かぬぞ。まさか、これで終わりではないだろうな」

 そう言い余裕の表情でマグドラスをみやる。

 それをみたマグドラスは大量の汗をかき顔を引きつらせた。

(まさか、こんなことが……)
 額に汗を掻きマグドラスは、ドラバルトの威圧に押され後退する。

 それをみてドラバルトは、“どうだっ!”と言わんばかりの態度で「ガハハハッ、」と笑った。

「どうした。攻撃してこないのか?」

「クッ、ならば。これならどうだぁぁぁぁっ――――」

 そう言いマグドラスは、全身を纏う炎の火力を上げ「グォォォォォッ――――!!」と咆哮を上げる。

 それと同時に詠唱し始めた。

 《グラル(紅蓮)  ファイブノマ(炎舞)ドンバギ!!(爆撃)

 すると魔法陣が展開していく。__洞窟内は熱せられ暑い。

 それをみたドラバルトは、ニヤリと口角を上げ攻撃の体勢をとる。

「やっと本気を出したようだな。だが甘い、甘すぎるぞ。そんな魔法で、俺を倒せるとでも思っているのか?」

 そう言い放つと、両脇に手を広げ掌に力を込める。と同時に、ビリビリと電気が両方の掌を覆った。

 魔法陣を展開している中マグドラスは、それをみて一瞬『まさか……』と思う。しかし『いや、そんなはずはない』と思いとどまる。

 更に魔法陣が展開していく。

 ドラバルトは、更に掌に力を込めながら「ウオォォォーーーーーーッ!!」と叫んだ。

 《ブロイドゴル(雷龍)  プラヤギド(電槍) ラグバギ!!(乱撃)

 そう呪文を唱えると、両掌の電気の塊がビリビリ音を立てて一気に膨れ上がっていく。それと共に両手を斜め前上に翳す。その後、共鳴し合い一つの馬鹿でかい電気の塊へと変化する。

 そんな中、マグドラスの魔法陣が全て展開し終えた。と同時に大きな口を開け、炎の魔法を放つ。

 マグドラスから放たれた魔法は、幾重もの炎の渦を作っていく。それは次第に大きな炎の渦となり、ドラバルトへと向かう。

 一方ドラバルトは、無数の炎の渦が自分の方に向かって来ていたが眉一つピクリともさせない。

 それどころか『さあ、こい』と思い、口角を上げ嬉しそうな表情を浮かべている。

 馬鹿でかい電気の塊は更に大きくなり、ゴォォォォーーーーという轟音と共に洞窟内を激しく揺らす。

 ドラバルトは、今だと狙いを定め電気の塊を「ドリャァァァーーーーッ!!」と叫び、向かいくる無数の炎の渦に目掛け放つ。

 ____ドガァァァァ――ンッ!! ……____

 途轍もない轟音と共に馬鹿でかい電気の塊が無数の炎の渦に当たり大爆発する。

 洞窟内には、その爆発によって周囲がみえない程の煙が立ち込めた。そして地響きと共に激しく揺れ、ガラガラ、ドサドサと天井が崩れ大小様々な岩石が無造作に落ちる。



 一方その頃、美鈴は大きな岩の物陰からその様子をみていた。

 だが目の前でとんでもないことが起き、どうしたらいいのかと思う。だが、ここにいると危険だと思い遠ざかり封印された扉までくる。

 逃げる中、天井から岩石が無数に落ちて来て美鈴の体の至る所に当たり傷だらけだ。

 美鈴は岩でできてる大きな扉に寄りかかった。

「ハァハァ……痛……。なんとかここまで逃げて来たけど。まさか、ここまで凄いことになるなんて、」

 だが、あまりの痛さに寄りかかっているのも困難だ。

(……いったい、どうなるの? 恐らく、このままじゃ洞窟が崩壊する……)
 ここはドラギドラスの洞窟。__いや、ドラバルトの洞窟と言った方がいいのか……まあ、それはさておき__


 洞窟内は、ドラバルトとマグドラスが放った魔法がぶつかり合いその衝撃により激しく揺れた。

 それと共に視界がみえない程の煙が立ち込め、ドサドサと天井が崩れ落ちる。

 マグドラスは視界を遮られ煙を払おうとドタドタと暴れていた。

 そんな中ドラバルトは、こんな状況下にも拘らず、余裕な表情で笑みを浮かべている。

 そして四方八方に飛び交い、先程よりも小さな電気の塊をマグドラスへと幾度となく撃ち込んでいく。

「どうした、どうしたっ! お前の実力はその程度か? いや、そんなはずはない。それとも昔に比べ平和ボケで鈍ったかっ!?」

 攻撃もせず暴れているだけのマグドラスに対し不満げに挑発する。

 だがマグドラスは、その挑発に乗らず、なぜか暴れるのをやめ大人しくなった。

 ドラバルトは、なぜマグドラスが挑発に乗らないのかと不思議に思い攻撃するのをやめる。それと同時に警戒しマグドラスとの距離をとった。そして睨み見据える。

(何を考えている。……だが脳筋のマグドラス。まあ、さほど大したことは考えてないだろう)

 そう考えていると視界を遮っていた煙が消えていき、マグドラスの姿が徐々にみえてきた。

「……なっ!?」

 ドラバルトは、自分の目を疑い瞼を閉じる。その後、再び目を開き瞳を凝らしジーっとマグドラスをみた。と同時に、額に一滴の汗をかき面倒くさそうな顔でマグドラスをみる。


 そうマグドラスが、なぜか大粒の涙を流し大泣きしていたからだ。


 マグドラスは、言葉を発することなく目を潤ませドラバルトに視線を向けただただ泣いていた。

「……って、おいっ! なんで泣いてるんだっ!! もしかして……お、俺のせいか?」

 そう問うとマグドラスは、ブンブンと首を横に振る。その後、大きな体を地につけるように座り込んだ。と同時に、ドンッと頭を地面に叩きつける。

「め、滅相もございません。いえ、ドラバルト様。気付かなかったとはいえ……数々の失言、申し訳ございません」

「なるほど、やっと俺が本物だと分かったか」

 そう言いながらドラバルトはマグドラスに近づいていった。

 その後ドラバルトは、マグドラスに今まで何があったのかとここまでの経緯などを説明する。



 その頃美鈴は、封印された石の大きな扉に寄りかかり、どうしたらいいのかと考えていた。

 だが急に地響きがしなくなり辺りを見回す。

「あれ? 揺れが落ち着いた。ってことは、もう大丈夫ってことかな、」

 そう思い傷だらけで痛い体を庇い立ち上がり、よろけながらもドラバルトとマグドラスの方へと向かった。

 揺れがおさまったものの時折、ガラガラ、ドサドサと天井から岩石が崩れ落ちる。

 そんな中、当たるんじゃないかと冷や冷やしながら向かう。

(どうなったのかな。ドラバルト、勝てたよね……)

 そう考え歩きやっとの思いでドラバルトとマグドラスの所に辿り着く。と同時に、目の前の光景をみて驚いた。

「えっ!? ……これって、どうなってるの、」

 そうドラバルトとマグドラスが楽しそうに笑い話をしていたからだ。

 ドラバルトとマグドラスは美鈴の気配と声に気づき視線を向ける。

「おお、ミスズ来たか。ん? 怪我しているようだな」

 そう言うとドラバルトは周りをぐるりと見回す。

「うむ。かなり崩れてるな。これは、少しばかりやりすぎたか」

 そう言われ美鈴は、ウンと頷いたあと立っているのが辛く地面に座り込んだ。

 それをみたドラバルトは美鈴へと駆け寄る。

「……これは、かなりの傷。だが流石は、召喚された勇者。これほどの傷を負っているにも拘わらず動けるとはな」

 そう言い美鈴を抱きかかえた。

「イタっ!!」

 美鈴は抱きかかえられ痛さのあまり叫んだ。その後、ドラバルトに視線を向ける。と同時に顔を赤らめた。

 だがドラバルトは、美鈴の顔が赤くなったことに気づかない。

「あっ、すまなかった。これは、抱え方が雑すぎだったな。だが、今から治療をする。少し我慢しててくれ」

 そう言われ美鈴は、顔を赤くしたまま頷く。

 ドラバルトは美鈴に手を翳し呪文を唱える。

 《キョルマドリジェル(極魔回復)!!》

 すると美鈴は、あっという間に傷が癒え回復した。

「これで大丈夫だろう。ミスズ、どうだ動けるか?」

 美鈴をみつめ優しくそう問いかける。

「は、はい。え、えっとありがとう、」

 そう美鈴はお礼を言うも声が裏返りそうになった。

「あっ、そうだった」

 脳裏にエリュードの姿が浮かび美鈴は、ドラバルトに抱えられた手を慌てて解くと少し間合いをとる。

「ん? どうした」

「あーえっと……。そうそう、この状況どうなってるのかなぁと、」

「ああ、なるほど、そういう事か、」

 ドラバルトは美鈴が言いたいことを察した。

 そう言われ美鈴は、ホッと胸を撫で下ろす。

(はて? なんで、ホッとしたのかな……まあいいか、)

 その様子をみるもさほど気にせずドラバルトは、美鈴に何があったのかを説明し始めた。

 それを聞き美鈴は、なるほどと納得する。

 そしてその後美鈴とドラバルトとマグドラスは、ここから出る方法を話し合うのだった。
 ここはドラギドラス(ドラバルト)の洞窟。

 あれから美鈴とドラバルトとマグドラスは色々なことを話し合っていた。

「これからどうするんだ?」

「そうだね。ここにいつまでもいるわけにもいかないし」

「儂の力で岩戸を破壊するか?」

 マグドラスがそう言うと二人は大きく首を横に振る。

「おいっ、そんなことをしたらこの洞窟が崩れ生き埋めになるだろうがっ!」

「うん、そうだね。でも、どうしようか……」

 そう美鈴が言ったその時。__ボンッと音がしドラバルトをモクモクとした煙が覆い包んだ。

 それと同時にドラバルトはドラギドラスの姿に戻る。

「イテッ!?」

 天井に頭をぶつけあまりの痛さに叫んだ。

 その光景をみて美鈴とマグドラスは驚き後ろに一歩引いた。

 一瞬ドラバルトは何が起きたのか分からなかったが、自分の姿をみて青ざめる。

「こ、これは……どういう事だ……」

「なぜドラバルト様が、またその姿に……」

「もしかしたら、ウチの能力の効き目がなくなったのかも」

 そう言い美鈴はどうしようかと額にダラダラと汗をかいた。

「……そういう事か……だがこの姿では、流石に外に出れん」

「そうだね。でもなんで喋り方は変わってないの?」

「ああ、これか。それはな、あの姿でこの喋りだと怖がられると思ったのと。正体がバレるのが嫌だったからだ」

 ドラバルトがそう答える。

 それを聞き美鈴とマグドラスが「なるほど」と頷いたその時。__パンパカパァーンっと辺りに鳴り響いた。

 それと同時に、美鈴の足元に魔法陣が浮かび上がり虹色の眩い光を放ち上昇する。その光は美鈴を覆い包んだ。

 すると美鈴の体は虹色に光り輝き始める。

 ドラバルトとマグドラスは、いったい何が起きてるのか理解できずに目を丸くし美鈴をみていた。

 そして美鈴からレベルが上がるような音が、カッキィーン、カッキィーンっと鳴り響く……。


 ____それから数十秒後、美鈴の体から虹色の光とレベルが上がるような音が消える。それと共に美鈴は、ストンと地面に座り込んだ。

 すると地面に水色の魔法陣が浮かび上がり、そこから水が溢れ出る。その水と一緒にボロボロの板状の箱が浮上してきた。

 美鈴は何がなんだか分からず呆然とし、ドラバルトとマグドラスも何が起きたのか状況を把握しようと思考をフルに回転させる。

 そうこうしていると魔法陣と水は跡形もなく消え、そのボロボロの箱だけが地面に置かれていた。

 美鈴はその箱を恐る恐る触ろうとする。触る手前で箱の蓋が勝手に開き、パァーンっと音が鳴り響いた。そして眩い光と共に、カラフルな紙テープや紙吹雪が上昇し高らかに舞った。

 その音にビビり美鈴たちは、後ろに仰け反る。

 その後、箱の中から白と青と水色の模様の三毛猫が這い出てきた。みた感じ子猫のようだ。それと妖精のような虹色の翼が生えている。

「ハァ〜、やっとニャァ。クエストらしいことクリアしてくれニャいから、なかなか出れなかったじゃニャいっ!?」

 その三毛猫は美鈴をみて明らかに怒っていた。

 しかし美鈴は、なんで自分が怒られているのか理解できない。

「あーえっと。これってどういう事なの?」

 そう聞かれその三毛猫は羽根をバタつかせ飛び上がり、美鈴の眼前までくる。

「なるほど、これは全く現状を理解してニャい。んー変ねぇ。普通、女神様が能力について教えるはずだけど……どういう事?」

「どういう事って聞かれても……」

 そう問われ美鈴は、ここまでの経緯など色々と説明した。

「フムフム、そういうわけかぁ。……女神様がねぇ。信じられニャいけど、この状況をみる限り嘘じゃニャいだろうし」

「うん、それはそうとクエストクリアってどういう事かな?」

 そう聞かれその三毛猫は、少し考えたあとその説明をし始める。

「そのことね……」

 そして美鈴たちはその三毛猫の話を食い入るように聞いていたのだった。

「無」能力だけど有能みたいです〜無能転移者のドタバタ冒険記〜 《反逆の章》

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