「……開いた」
特に仕掛けの無かった引き戸を開け、俺を先頭に中に入らせてもらう。
魔力探知を全開で張り巡らせているが、特に敵はいなさそうだ。
問題は真っ暗なことだが──
「『灯火』」
パチン、と指を鳴らして小さな火を灯し、みんなに分け与える。
『火魔法』とは言っても、照らすことに特化したもので熱さはない。
みんなは手に持っていたが、人型ではないフクマロには頭の上に火をポンと乗せておいた。
かわいい。
「何もないわね……?」
「ああ、だが油断するなよ」
そうして億に見えてきたのは、道場のような風景だった。
特に何かあるわけでもなく、ただ奥へと続く空間で、横も広い。
というか足元のこれ、畳じゃね?
ここに入ることにしたのは、俺たち五人とモグりんのみ。
コノハ達、化け狐族の皆さんは外で待機してもらうことにした。
何か危険があるかもしれないからな。
「進もう」
しかし、特に起きたことはなく、ただただ何もない道場が広がっているだけ。
ならば、それなりに進めば奥まで辿り着く。
ダンジョンとはいえ、本当にただの宝物庫のようだ。
「うお……!」
そうして辿り着いた先には──いくつかの“宝の山”。
多くは袋に入れられているが、そこから溢れたものは間違いなく宝だ。
と、ここで確認を一つ。
「改めてだけど、ここの物って持っていって良いんだよね?」
『お好きにどうぞ。何しろ、けんじゃ様はもう……』
「そっか」
暗い話になる前に、話題を戻した。
宝の山は、大きく分けると三つの区画がある。
だが、確認を取ってすぐ、女子陣は早速一つの区画を漁り始めた。
まったく、気が早いな。
「見てこれ!」
「綺麗です!」
『かわいいわね!』
彼女たちが一番に飛びついたのは、右側の区画。
それは金・銀、財宝、まさにこの世の全てとまではいかないが、キラキラに光った装飾品があふれていた。
スフィルのペンダントを見てここまで来た俺たちにとっては、一番想像していた物だ。
さらには──
「これ、使えそうじゃない!」
「ほう……!」
リーシャが手に取ったのは、見事な茶碗だ。
魔力関連の恩恵なのか、この『ジンジャ』内には埃一つなく、状態がものすごく良い。
他には、生活雑貨からオシャレ等の物が出てきた。
ただその全てには、明らかに魔力が通っている。
異世界仕様ってことか?
「なるほど……」
そんな様子を傍から見ていると、気づくことがある。
この区画には、主に“生活的な物”があるらしい。
中には、色を作り出す(?)魔法道具や、家造りに使えそうな素材までも。
行き詰まっていた街づくりが、また一歩進みそうな道具がたくさんあった。
この区画だけで、俺は来た価値があると思えるほどだ。
そうして俺は一通り満足したところで、向こうを指差す。
「俺たちはあっちでも見てみるか?」
『うむ、そうしよう』
女性陣はキラキラに夢中なので、俺とフクマロは違う区画へ。
いつまでもこうしていると、日が暮れてしまうしな。
「さて」
若干距離を取り、左と真ん中、二つの区画を比べ見る。
左は、小さな袋がたくさん。
真ん中は、何かに大きな布が被せられている。
「左だな」
『なぜだ?』
「分からん。……けど呼ばれた気がした」
自分でも訳の分からないことを口にしつつ、小さな袋の山々を漁る。
そんな俺の予感は、ある意味当たったというべきだった。
「!?」
出てきたのは……フィギュアか!?
手に持てるほどのサイズの、おそらく土魔法で作られたフィギュアだった。
「ていうか、この形……」
俺はちらっと、後方でわいわいする内の一人を視界に入れた。
神聖な空気を放つエルフ──スフィルだ。
また、フクマロも俺の意思を汲み取ったようだ。
「どうみてもエルフだよな」
『うむ。それも……』
かなりエッ、いや煽情的と言わせてもらおう。
これは女性陣にはとても見せられない。
だが、じろじろと見ていたのがバレたか、リーシャが遠くから声をかけて来る。
「ルシオー? そっちは何かあったー?」
「な、ないです! まだ何も見てないです!!」
「そう? 早くしてよねー」
「リーシャ達はゆっくりでいいからねー、あははー」
ダメだ、こんなのを見せた暁にはなんと言われることか。
『黙っておこう』
「うむ」
慌てたせいかフクマロと口調が反対になってしまった。
それでも意見は同じようだ。
「さてさて」
気を取り直して、他にもある袋をごそごそと探ってみる。
その結果……妙に親近感を感じた。
「けんじゃも人間だったか」
『そのようであるな』
ここは一言で言えば、趣味の区画だ。
それも男の趣味全開。
「……うむ」
俺は女性陣に見つからないよう、そっと収納しておいた。
そして最後、残ったのは真ん中の区画。
大きな袋が置かれている場所だ。
それに、あまりに楽しみ過ぎていたが、探しているのは自分たちの物だけではない。
コノハの体調を克服できるようなものがあるといいんだが。
「開けるぞ」
でも、考えても仕方がない。
今はとにかくここにあることを祈って、俺は何かを覆っている布をどかす。
「「『──!』」」
すると、中から出てきたのは三つの宝箱。
左から、金、銀、銅……いや、茶色(?)に見える色の宝箱が並んでいた。
「粋な演出じゃねえか」
そんな中で一人、モグりんは真っ直ぐな目で茶色の宝箱を見つめる。
『ルシオさん、あの……』
「良いよ。持って帰りたいんだろ?」
『え! は、はい!』
いつもは愛くるしいリスちゃんだが、モグりんはここに来た時から何かを探しているようだった。
それが、この茶色の宝箱なのだろう。
“けんじゃの贈り物”、的な意味を感じ取ったのかもしれない。
『ありがとうございます……!』
「ははっ、それは君のだよ」
モグりんは、宝箱をぎゅううと栗毛色の体で包む。
その可愛いらしい姿に癒されながら、俺達は残りの宝箱へ目を向けた。
では、気を取り直して。
「銀の箱から開けるぞ」
見た目は、それほど大きくない宝箱。
みんなの視線を一心に受けながら、ゆっくりと開く。
「水晶玉?」
中から出てきたのは、ほんの手の平サイズの三つの水晶玉だ。
どれも見た目に変わりはない。
「なんだこれ……。って、──!?」
その一つに触れようとした瞬間、とてつもない魔力を感じた。
まるで、小さな水晶玉の中にドラノアの魔力全てが注がれているかのような、そんな信じられない代物だ。
そこで俺の中で一つ考えが浮かぶ。
「これなら、コノハを助けられるかもしれない」
「本当!?」
「うん、おそらく」
水晶玉に触れた瞬間に、可能性を感じたんだ。
加工する必要はありそうだが、これならコノハの容態についても希望を持てる。
それに、開発途中になっていたあの夢の魔法にも使えるかもしれない。
『ならば、一応目的は達成できたのか』
「ああ!」
ここまでくれば一安心。
だけど、 俺の心臓はまだ高鳴り続けていた。
もしかしたら──
「ラストか」
ここに答えがあるのかもしれない。
そんな思いを胸に、金色の箱にそっと手を当てる。
正真正銘、これが『ジンジャ』での最後の物だ。
今までもすごい物だったはずなのに、ここに来て緊張が強まる。
なんだか、とんでもないものが入っている気がしたんだ。
そうして──俺はいよいよそれを開く。
「!!」
出てきたのは、ほんの数本の植物。
黄緑色の筋から、黄金色の粒々が実っている。
だが、周りの者は首を傾げた。
「ルシオ、なにこれ?」
『あたしも見たことないわ』
「エルフの里にもありません」
『ウォ?』
みんなは、さぞかし凄い物が出てくると思ったのだろう。
がっかり具合は、傍からでも見て取れる。
でも、俺は知ってる。
出てきたものに俺は感動すら覚えた。
最後にこれを持ってくるあたり、けんじゃも好きだったのだろう。
同胞よ、ありがとう。
「これは──稲だ」
食卓がまた潤う。
俺は、この日一番の胸の高鳴りを覚えた。
特に仕掛けの無かった引き戸を開け、俺を先頭に中に入らせてもらう。
魔力探知を全開で張り巡らせているが、特に敵はいなさそうだ。
問題は真っ暗なことだが──
「『灯火』」
パチン、と指を鳴らして小さな火を灯し、みんなに分け与える。
『火魔法』とは言っても、照らすことに特化したもので熱さはない。
みんなは手に持っていたが、人型ではないフクマロには頭の上に火をポンと乗せておいた。
かわいい。
「何もないわね……?」
「ああ、だが油断するなよ」
そうして億に見えてきたのは、道場のような風景だった。
特に何かあるわけでもなく、ただ奥へと続く空間で、横も広い。
というか足元のこれ、畳じゃね?
ここに入ることにしたのは、俺たち五人とモグりんのみ。
コノハ達、化け狐族の皆さんは外で待機してもらうことにした。
何か危険があるかもしれないからな。
「進もう」
しかし、特に起きたことはなく、ただただ何もない道場が広がっているだけ。
ならば、それなりに進めば奥まで辿り着く。
ダンジョンとはいえ、本当にただの宝物庫のようだ。
「うお……!」
そうして辿り着いた先には──いくつかの“宝の山”。
多くは袋に入れられているが、そこから溢れたものは間違いなく宝だ。
と、ここで確認を一つ。
「改めてだけど、ここの物って持っていって良いんだよね?」
『お好きにどうぞ。何しろ、けんじゃ様はもう……』
「そっか」
暗い話になる前に、話題を戻した。
宝の山は、大きく分けると三つの区画がある。
だが、確認を取ってすぐ、女子陣は早速一つの区画を漁り始めた。
まったく、気が早いな。
「見てこれ!」
「綺麗です!」
『かわいいわね!』
彼女たちが一番に飛びついたのは、右側の区画。
それは金・銀、財宝、まさにこの世の全てとまではいかないが、キラキラに光った装飾品があふれていた。
スフィルのペンダントを見てここまで来た俺たちにとっては、一番想像していた物だ。
さらには──
「これ、使えそうじゃない!」
「ほう……!」
リーシャが手に取ったのは、見事な茶碗だ。
魔力関連の恩恵なのか、この『ジンジャ』内には埃一つなく、状態がものすごく良い。
他には、生活雑貨からオシャレ等の物が出てきた。
ただその全てには、明らかに魔力が通っている。
異世界仕様ってことか?
「なるほど……」
そんな様子を傍から見ていると、気づくことがある。
この区画には、主に“生活的な物”があるらしい。
中には、色を作り出す(?)魔法道具や、家造りに使えそうな素材までも。
行き詰まっていた街づくりが、また一歩進みそうな道具がたくさんあった。
この区画だけで、俺は来た価値があると思えるほどだ。
そうして俺は一通り満足したところで、向こうを指差す。
「俺たちはあっちでも見てみるか?」
『うむ、そうしよう』
女性陣はキラキラに夢中なので、俺とフクマロは違う区画へ。
いつまでもこうしていると、日が暮れてしまうしな。
「さて」
若干距離を取り、左と真ん中、二つの区画を比べ見る。
左は、小さな袋がたくさん。
真ん中は、何かに大きな布が被せられている。
「左だな」
『なぜだ?』
「分からん。……けど呼ばれた気がした」
自分でも訳の分からないことを口にしつつ、小さな袋の山々を漁る。
そんな俺の予感は、ある意味当たったというべきだった。
「!?」
出てきたのは……フィギュアか!?
手に持てるほどのサイズの、おそらく土魔法で作られたフィギュアだった。
「ていうか、この形……」
俺はちらっと、後方でわいわいする内の一人を視界に入れた。
神聖な空気を放つエルフ──スフィルだ。
また、フクマロも俺の意思を汲み取ったようだ。
「どうみてもエルフだよな」
『うむ。それも……』
かなりエッ、いや煽情的と言わせてもらおう。
これは女性陣にはとても見せられない。
だが、じろじろと見ていたのがバレたか、リーシャが遠くから声をかけて来る。
「ルシオー? そっちは何かあったー?」
「な、ないです! まだ何も見てないです!!」
「そう? 早くしてよねー」
「リーシャ達はゆっくりでいいからねー、あははー」
ダメだ、こんなのを見せた暁にはなんと言われることか。
『黙っておこう』
「うむ」
慌てたせいかフクマロと口調が反対になってしまった。
それでも意見は同じようだ。
「さてさて」
気を取り直して、他にもある袋をごそごそと探ってみる。
その結果……妙に親近感を感じた。
「けんじゃも人間だったか」
『そのようであるな』
ここは一言で言えば、趣味の区画だ。
それも男の趣味全開。
「……うむ」
俺は女性陣に見つからないよう、そっと収納しておいた。
そして最後、残ったのは真ん中の区画。
大きな袋が置かれている場所だ。
それに、あまりに楽しみ過ぎていたが、探しているのは自分たちの物だけではない。
コノハの体調を克服できるようなものがあるといいんだが。
「開けるぞ」
でも、考えても仕方がない。
今はとにかくここにあることを祈って、俺は何かを覆っている布をどかす。
「「『──!』」」
すると、中から出てきたのは三つの宝箱。
左から、金、銀、銅……いや、茶色(?)に見える色の宝箱が並んでいた。
「粋な演出じゃねえか」
そんな中で一人、モグりんは真っ直ぐな目で茶色の宝箱を見つめる。
『ルシオさん、あの……』
「良いよ。持って帰りたいんだろ?」
『え! は、はい!』
いつもは愛くるしいリスちゃんだが、モグりんはここに来た時から何かを探しているようだった。
それが、この茶色の宝箱なのだろう。
“けんじゃの贈り物”、的な意味を感じ取ったのかもしれない。
『ありがとうございます……!』
「ははっ、それは君のだよ」
モグりんは、宝箱をぎゅううと栗毛色の体で包む。
その可愛いらしい姿に癒されながら、俺達は残りの宝箱へ目を向けた。
では、気を取り直して。
「銀の箱から開けるぞ」
見た目は、それほど大きくない宝箱。
みんなの視線を一心に受けながら、ゆっくりと開く。
「水晶玉?」
中から出てきたのは、ほんの手の平サイズの三つの水晶玉だ。
どれも見た目に変わりはない。
「なんだこれ……。って、──!?」
その一つに触れようとした瞬間、とてつもない魔力を感じた。
まるで、小さな水晶玉の中にドラノアの魔力全てが注がれているかのような、そんな信じられない代物だ。
そこで俺の中で一つ考えが浮かぶ。
「これなら、コノハを助けられるかもしれない」
「本当!?」
「うん、おそらく」
水晶玉に触れた瞬間に、可能性を感じたんだ。
加工する必要はありそうだが、これならコノハの容態についても希望を持てる。
それに、開発途中になっていたあの夢の魔法にも使えるかもしれない。
『ならば、一応目的は達成できたのか』
「ああ!」
ここまでくれば一安心。
だけど、 俺の心臓はまだ高鳴り続けていた。
もしかしたら──
「ラストか」
ここに答えがあるのかもしれない。
そんな思いを胸に、金色の箱にそっと手を当てる。
正真正銘、これが『ジンジャ』での最後の物だ。
今までもすごい物だったはずなのに、ここに来て緊張が強まる。
なんだか、とんでもないものが入っている気がしたんだ。
そうして──俺はいよいよそれを開く。
「!!」
出てきたのは、ほんの数本の植物。
黄緑色の筋から、黄金色の粒々が実っている。
だが、周りの者は首を傾げた。
「ルシオ、なにこれ?」
『あたしも見たことないわ』
「エルフの里にもありません」
『ウォ?』
みんなは、さぞかし凄い物が出てくると思ったのだろう。
がっかり具合は、傍からでも見て取れる。
でも、俺は知ってる。
出てきたものに俺は感動すら覚えた。
最後にこれを持ってくるあたり、けんじゃも好きだったのだろう。
同胞よ、ありがとう。
「これは──稲だ」
食卓がまた潤う。
俺は、この日一番の胸の高鳴りを覚えた。