「じゃあ、“美味しい方”で!」
あのドラノアのやらかし発言から、数十分後。
「「さあ、召し上がれ」」
俺たちの前には二つの皿が広げられた。
「おおー! おいしそうじゃない!」
「お、おう……」
一方はスフィル作。
森の神聖な野菜をふんだんに使った香ばしい『ポトフ』。
もう一方はシャーリー作。
野菜をメインにしつつチーズで膜を張った、食欲をそそる『グラタン』。
テーマは、森らしく「野菜」。
どちらもすごく美味しそう。
……だが、俺の反応は少し気後れしている。
それもそのはず、
「「さあ」」
料理人の目の圧が強すぎるんだよ……!
「早速食べるわ!」
しかし、そんな二人の目線も気にせず、ドラノアはぱくぱくっとそれぞれ一口ずついった。
こういう鈍感さが俺にも欲しい。
そして、そのままパアっと晴れたような顔を浮かべた。
「うまー!」
「良かったわ」
「とても嬉しいです」
ドラノアのがっつき具合に、二人もにっこり笑顔。
「ほらエアルも」
「遠慮せずに」
「お、おう……」
しかし、二人とも俺のことを見る目はどこか怖い。
この恐怖からやっと逃げられたと思ったのに!
よくもやってくれたな、ドラノアよ!
これはドラノアへの料理と言いつつ、俺への料理対決と言っても過言ではない。
「ふう……」
だが俺も男だ。
覚悟を決めて、いくぞ!
そうして、料理に手を付けようとした瞬間──
「あら、シャーリーの方から食べられるのですね」
「へ?」
スフィルが口を挟む。
それに答えたのはシャーリーだ。
「ふっ、当たり前よ。私の料理から食べずして誰の料理を食べると言うのかしら」
「へえ~。そうなんですかあ」
スフィルの怒りを表すかのように、彼女の背後には黄緑色のオーラが浮かぶ。
あれは精霊か!?
ダメだ、ダメだ!
ならばと、俺はスフィルのポトフを手に取る。
「あれエアル、私の方から食べるんじゃ?」
「ふふっ。嬉しいですエアルさん」
と思えば、今度は逆のパターン。
精霊を使えないはずのリーシャの背後には、赤色のオーラが。
あれ、あんな魔法あったっけ。
「……」
ガチで詰んだじゃん、これ
「ええい、こうなったら!」
俺は【風魔法】を操作。
ふわっと二つの料理を浮かせる。
「エアル!?」
「何を!?」
そしてそのまま……ばくん!
「──! あっつ、あっつー!」
「エアル!」
「大丈夫!?」
だが勢いのままに頬張ると、とんでもない熱さを感じる。
あぶねえ、死ぬところだった。
「エアルはこんなのが熱いの? 人間はひ弱ねー。あーむ」
「舌の耐性もあんのかよ……ドラゴン」
そんな俺を横目に、ドラノアは平然と食べ続ける。
ドラノアが平気そうだったから一気に食べたのに。
なんだか散々だ。
そうして、俺の安全も確認出来たところで、リーシャとスフィルは口を開いた。
「どっちが美味しかった?」
「どちらが美味しかったですか?」
「うぐっ」
熱さで話題も逸れるかなと思ったのに。
けど、ここはもう正直に言うしかないだろう。
「どちらも、美味しかったです……」
舌を火傷したが、瞬時に【氷魔法】で修復。
その後はしっかりと味わった。
その上での感想だ。
でもこんな答えじゃ……とは思っていたが。
「そ、そう……」
「良かったです……」
意外にも反応は良かった。
どちらも嬉しそうにしている。
「あれ」
もしかして、ここ数日の料理バトルを通じて認め合ったか?
そんな考えを表すように、シャーリーがスフィルに話しかける。
「ねえ、提案なのだけど」
「なんでしょう、シャーリーさん」
二人はお互いに向き合った。
「料理の腕は私の方が上だけど、エルフの里の料理や魔力操作も習いたいわ。ダメ……かしら?」
「あら」
シャーリーの言葉は、意外にも和解を申し出る言葉。
対して、スフィルもふふっと笑って返す。
「はい。料理の腕はわたしの方が上ですが、シャーリーさんの方がエアルさんの舌を分かっているのは確かです。だからわたしも、エアルさんの好きな料理をもっと教えて欲しいです」
おお、スフィルもこれに同意見みたい。
お互いに「自分の方が上」と言うのが気になったけど、まあ大丈夫だろう。
「そういうことなら! よろしくね、スフィル」
「ええ。こちらこそ」
なんだかんだ良い感じになったね。
結局欲しかったのは、俺の「美味しい」ということだったのだろうか。
そして、ドラノアがスプーンを掲げた。
「めでたしめでたし、ね!」
「おいおい、調子が良いな」
この戦いを引き起こしたのは自分ということは忘れないでほしい。
けどまあドラノアの言う通り、めでたしではあるかな。
「……」
ここに来てからずっと、それはもう大変な出来事があった。
でも、終わり良ければすべて良し。
この言葉に尽きる。
「スフィルのポトフも美味しいわ」
「シャーリーさんのグラタンも素晴らしいです」
この後、シャーリーとスフィルはお互いの料理を食べながら称え合っていた。
その姿はとても微笑ましいもので、先ほどまでの喧噪な雰囲気はなかった。
じゃあ、最初から争いを起こさないでほしい。
とはとても言えなかったけどね。
「今日も頑張った」
つぶやきながら、ベッドにゴロンと転がる。
あの夕食後はみんなで団欒をしていた。
気が付けば、もうおやすみの時間だ。
ドラノア・スフィルが来たので、俺はコテージに一階で寝ることになっていた。
女性陣はそれぞれ二階の部屋だからね。
「さてと、俺も寝──」
「エアルー!」
そうして、いよいよ電気を消そうとしたところで、ドラノアが階段を駆け下りて来る。
「一緒に寝るわよ!」
「寝ねーよ」
「ダメ、寝るもん!」
「ちょっ、おい!」
断ろうとするも、ドラゴン持ち前の身体能力でベッドにダイブしようとする。
なんて速さだ。
──だが、また新たな刺客が。
「そうはさせないわ!」
「うわっ!」
ダイブしようとしたドラノアに対して、シャーリーがラグビー部ばりのタックル。
どうやらこの行動を予測していたらしい。
というか、シャーリーも一階に潜んでいたのね。
「さすがです、シャーリーさん。もう一歩でも遅ければわたしがやっていましたよ」
「スフィルもいんのかよ……」
また、どこからともなく現れたのはスフィル。
彼女もまたドラノアの迎撃態勢が出来ていたらしい。
もうツッコむのも疲れた。
しかし、まだまだ元気なドラノアさん。
「あんたたち中々やるじゃない! でも、あたしは絶対にエアルと一緒に寝るわ!」
「「あぁん?」」
その言葉には、シャーリー・スフィルまでもがヤンキーになる。
もは悪役にしか見えない。
「そうはさせないわよ!」
「そうですよ! エアルさんと一緒に寝るなんてずる……ダメです!」
それを面白がったドラノアがさらに挑発した。
「なら二人してかかってきなさい!」
「上等よ!」
「上等です!」
「おいおい、三人とも……」
盛り上がっているところ悪いが、俺の周りでぎゃーぎゃーしないでほしい。
って言っても聞かないか。
それならしょうがない。
「そらっ!」
「わっ!」
俺はドラノアに向かって枕を投げる。
これは前世で言えば、開戦の合図。
宿泊合宿なんかでは名物の『枕投げ大会』だ。
「やったなエアル! それ!」
「ごはぁっ!」
そこからは戦いが始まってしまった。
そうして、俺たち四人が至近距離で寝ていたことに気づいたのは次の日の朝。
破天荒なドラノアを迎え入れ、これからさらに騒がしくなる予感がした初日でしたとさ。
あのドラノアのやらかし発言から、数十分後。
「「さあ、召し上がれ」」
俺たちの前には二つの皿が広げられた。
「おおー! おいしそうじゃない!」
「お、おう……」
一方はスフィル作。
森の神聖な野菜をふんだんに使った香ばしい『ポトフ』。
もう一方はシャーリー作。
野菜をメインにしつつチーズで膜を張った、食欲をそそる『グラタン』。
テーマは、森らしく「野菜」。
どちらもすごく美味しそう。
……だが、俺の反応は少し気後れしている。
それもそのはず、
「「さあ」」
料理人の目の圧が強すぎるんだよ……!
「早速食べるわ!」
しかし、そんな二人の目線も気にせず、ドラノアはぱくぱくっとそれぞれ一口ずついった。
こういう鈍感さが俺にも欲しい。
そして、そのままパアっと晴れたような顔を浮かべた。
「うまー!」
「良かったわ」
「とても嬉しいです」
ドラノアのがっつき具合に、二人もにっこり笑顔。
「ほらエアルも」
「遠慮せずに」
「お、おう……」
しかし、二人とも俺のことを見る目はどこか怖い。
この恐怖からやっと逃げられたと思ったのに!
よくもやってくれたな、ドラノアよ!
これはドラノアへの料理と言いつつ、俺への料理対決と言っても過言ではない。
「ふう……」
だが俺も男だ。
覚悟を決めて、いくぞ!
そうして、料理に手を付けようとした瞬間──
「あら、シャーリーの方から食べられるのですね」
「へ?」
スフィルが口を挟む。
それに答えたのはシャーリーだ。
「ふっ、当たり前よ。私の料理から食べずして誰の料理を食べると言うのかしら」
「へえ~。そうなんですかあ」
スフィルの怒りを表すかのように、彼女の背後には黄緑色のオーラが浮かぶ。
あれは精霊か!?
ダメだ、ダメだ!
ならばと、俺はスフィルのポトフを手に取る。
「あれエアル、私の方から食べるんじゃ?」
「ふふっ。嬉しいですエアルさん」
と思えば、今度は逆のパターン。
精霊を使えないはずのリーシャの背後には、赤色のオーラが。
あれ、あんな魔法あったっけ。
「……」
ガチで詰んだじゃん、これ
「ええい、こうなったら!」
俺は【風魔法】を操作。
ふわっと二つの料理を浮かせる。
「エアル!?」
「何を!?」
そしてそのまま……ばくん!
「──! あっつ、あっつー!」
「エアル!」
「大丈夫!?」
だが勢いのままに頬張ると、とんでもない熱さを感じる。
あぶねえ、死ぬところだった。
「エアルはこんなのが熱いの? 人間はひ弱ねー。あーむ」
「舌の耐性もあんのかよ……ドラゴン」
そんな俺を横目に、ドラノアは平然と食べ続ける。
ドラノアが平気そうだったから一気に食べたのに。
なんだか散々だ。
そうして、俺の安全も確認出来たところで、リーシャとスフィルは口を開いた。
「どっちが美味しかった?」
「どちらが美味しかったですか?」
「うぐっ」
熱さで話題も逸れるかなと思ったのに。
けど、ここはもう正直に言うしかないだろう。
「どちらも、美味しかったです……」
舌を火傷したが、瞬時に【氷魔法】で修復。
その後はしっかりと味わった。
その上での感想だ。
でもこんな答えじゃ……とは思っていたが。
「そ、そう……」
「良かったです……」
意外にも反応は良かった。
どちらも嬉しそうにしている。
「あれ」
もしかして、ここ数日の料理バトルを通じて認め合ったか?
そんな考えを表すように、シャーリーがスフィルに話しかける。
「ねえ、提案なのだけど」
「なんでしょう、シャーリーさん」
二人はお互いに向き合った。
「料理の腕は私の方が上だけど、エルフの里の料理や魔力操作も習いたいわ。ダメ……かしら?」
「あら」
シャーリーの言葉は、意外にも和解を申し出る言葉。
対して、スフィルもふふっと笑って返す。
「はい。料理の腕はわたしの方が上ですが、シャーリーさんの方がエアルさんの舌を分かっているのは確かです。だからわたしも、エアルさんの好きな料理をもっと教えて欲しいです」
おお、スフィルもこれに同意見みたい。
お互いに「自分の方が上」と言うのが気になったけど、まあ大丈夫だろう。
「そういうことなら! よろしくね、スフィル」
「ええ。こちらこそ」
なんだかんだ良い感じになったね。
結局欲しかったのは、俺の「美味しい」ということだったのだろうか。
そして、ドラノアがスプーンを掲げた。
「めでたしめでたし、ね!」
「おいおい、調子が良いな」
この戦いを引き起こしたのは自分ということは忘れないでほしい。
けどまあドラノアの言う通り、めでたしではあるかな。
「……」
ここに来てからずっと、それはもう大変な出来事があった。
でも、終わり良ければすべて良し。
この言葉に尽きる。
「スフィルのポトフも美味しいわ」
「シャーリーさんのグラタンも素晴らしいです」
この後、シャーリーとスフィルはお互いの料理を食べながら称え合っていた。
その姿はとても微笑ましいもので、先ほどまでの喧噪な雰囲気はなかった。
じゃあ、最初から争いを起こさないでほしい。
とはとても言えなかったけどね。
「今日も頑張った」
つぶやきながら、ベッドにゴロンと転がる。
あの夕食後はみんなで団欒をしていた。
気が付けば、もうおやすみの時間だ。
ドラノア・スフィルが来たので、俺はコテージに一階で寝ることになっていた。
女性陣はそれぞれ二階の部屋だからね。
「さてと、俺も寝──」
「エアルー!」
そうして、いよいよ電気を消そうとしたところで、ドラノアが階段を駆け下りて来る。
「一緒に寝るわよ!」
「寝ねーよ」
「ダメ、寝るもん!」
「ちょっ、おい!」
断ろうとするも、ドラゴン持ち前の身体能力でベッドにダイブしようとする。
なんて速さだ。
──だが、また新たな刺客が。
「そうはさせないわ!」
「うわっ!」
ダイブしようとしたドラノアに対して、シャーリーがラグビー部ばりのタックル。
どうやらこの行動を予測していたらしい。
というか、シャーリーも一階に潜んでいたのね。
「さすがです、シャーリーさん。もう一歩でも遅ければわたしがやっていましたよ」
「スフィルもいんのかよ……」
また、どこからともなく現れたのはスフィル。
彼女もまたドラノアの迎撃態勢が出来ていたらしい。
もうツッコむのも疲れた。
しかし、まだまだ元気なドラノアさん。
「あんたたち中々やるじゃない! でも、あたしは絶対にエアルと一緒に寝るわ!」
「「あぁん?」」
その言葉には、シャーリー・スフィルまでもがヤンキーになる。
もは悪役にしか見えない。
「そうはさせないわよ!」
「そうですよ! エアルさんと一緒に寝るなんてずる……ダメです!」
それを面白がったドラノアがさらに挑発した。
「なら二人してかかってきなさい!」
「上等よ!」
「上等です!」
「おいおい、三人とも……」
盛り上がっているところ悪いが、俺の周りでぎゃーぎゃーしないでほしい。
って言っても聞かないか。
それならしょうがない。
「そらっ!」
「わっ!」
俺はドラノアに向かって枕を投げる。
これは前世で言えば、開戦の合図。
宿泊合宿なんかでは名物の『枕投げ大会』だ。
「やったなエアル! それ!」
「ごはぁっ!」
そこからは戦いが始まってしまった。
そうして、俺たち四人が至近距離で寝ていたことに気づいたのは次の日の朝。
破天荒なドラノアを迎え入れ、これからさらに騒がしくなる予感がした初日でしたとさ。