温泉とは至高である。
あの温かい湯、全ての疲れを取ってくれる気持ちよさ、裸の付き合い、覗き……おっと失礼。
最後のお約束展開は説明しなかったが、俺はこの良さを二人に存分に伝えた。
結果、
「今すぐ取り掛かりましょう!」
「我も手伝うぞ!」
こうなった。
シャーリーはお風呂が大好きだからなあ。
けど大好きになったのも、実は俺が記憶を取り戻し、風呂の文化を広めてからだ。
というのも、元々グロウリア王国にはお風呂という文化がそこまで広がっていなかった。
それは、この世界の風呂の拙さにある。
グロウリア王国領地内には温泉の様な、お湯が出る場所は存在しない。
水源から引っ張って来た水を溜め、火属性魔法で温める。
これは当時からも周りがやっていたことで、れっきとしたお風呂だ。
しかし、元々冷たい大量の水に、疎かな火属性魔法を使って温めても結果は芳しくなかった。
もう冷え切った風呂に、どれだけお湯を足しても微妙な感じにしかならないあれと同じ事だ。
そのため、ぬるい水にさっと浸かる、もしくは水を浴びる、というのが主流だった。
でも、やはり俺は許せなかった。
記憶を取り戻した八歳の俺は、もはや娯楽・リラックス法の一つにまで進化した、前世の“お風呂”というものを思い出したのだ。
そこでまずは、元から温かい水を出すという、前世では常識だったことを思い出してすぐに研究に取り掛かった。
水を運ぶパイプに魔法を刻み、元栓からお湯が出るようにしたのだ。
そして、グロウリア王国ではお湯が出るシャワー、お湯を溜めたお風呂は大流行。
シャーリーも、その虜となった一人というわけだ。
それと、後で言われて気づいたのだが、そもそも物体に魔法を刻むという所業は普通の人間には出来ないらしい。
けどすでに世間には出回っていたし、後の祭りだよねということで誤魔化した。
そして今。
「早く早く!」
そんなお風呂大好きなシャーリーが喜ぶのは分かっていた。
けど、
「我も楽しみだぞ!」
フェンリルさんまでこんな楽しみそうにしてくれるとは。
意外ではあるが、これは嬉しい誤算。
なおさらやる気が出るってもんだ。
だがここで一つ、問題が発生。
「フェンリルさんのサイズが……」
これほどの体を入れるとなると、どれだけ大きい物にすればいいんだ?
出来るは出来るだろうけど、かなり大掛かりなことになる。
そんな考えを巡らせていると、
「む、サイズ感が問題なのか?」
「問題というか、かなり大きくなるなってだけなんだけど」
「そうか。ならばこうしよう」
「え」
しゅんしゅんしゅん……。
フェンリルは、そう言うと見る見るうちに小さくなっていき……
「どうだ、これなら大丈夫そうか?」
俺たちの前に、ちょこんと座った。
大体、前世の大型犬よりも少し大きいぐらいのサイズ。
四足歩行時で、縦に一メートルぐらい、俺の腰あたりまでのサイズになった。
この姿、この形。
「「……」」
「む、どうしたのだ。二人とも固まって──」
「「可愛いー!」」
「のわっ!」
俺は、シャーリーと争うようにフェンリルに抱き着いた。
「シャーリー、俺が先だぞ!」
「嫌だ! ずっと抱いていたい、この可愛い生物!」
「や、やめろお前たち!」
フェンリルさんのサイズが小さくなったことで、抱ける範囲が減った。
俺はシャーリーと取り合うようにフェンリルにしがみつく。
シャーリーが俺に反抗してくるようになったことは若干嬉しさを感じるが、ここは負けられない戦い。
この愛くるしい生き物は放すわけにはいかないのだ。
「こ、この! 放さんかー!」
「うわっ」
「きゃっ」
フエンリルはぼんっ! という音と煙と共に、また大きくなってしまった。
「ふう、まったく」
まあ、こちらはこちらでモフれる部位が多いから良いんだけどねー。
モフモフ、モフモフ。
「我に逃げ場はないのか」
「ない!」
「むう……」
と、ここまでして話を戻そう。
「それはそうと、器用なことが出来るんだね」
「うむ。我は風を操る力と、これだけは昔から出来てな」
「へ~」
なんとなく観察してみた感じ、魔法とはまた違った何かって感じだった。
風を操る力も割とイメージ通りだし、フェンリル固有の能力……なんてのも考えられる。
けど、それはまた今度。
今はとにかく、温泉作りに気を向けよう!
とりあえず、フェンリルのサイズでかすぎ問題もクリアされた。
では、もう一つの取っておくべき確認だ。
「言い出しておいてだけど、地中のお湯って使って良いものなの?」
「ああ、構わんぞ。そもそも、お湯とやらがあるのも知らなかったが」
「そりゃ助かる」
よしよし、こちらの問題も無事解決された。
ぶっちゃけ、ここが突破できないとアウトだったわけだが。
「ふむ」
俺は地面に手を付いて、改めて地中を探知する。
「この辺だな」
源泉は、『癒しの泉』の地下深くに広がっている。
それも住処よりもずっと広い範囲だ。
その源泉が、範囲を狭めるにつれて段々と熱が魔力へと変換され、魔力が異様に濃くなり噴き出したのが『癒しの泉』だ。
そんな原理で『癒しの泉』自体は冷まされているよう。
まるで、かつてお風呂がない時代のグロウリア王国の水道だね。
「となると……」
一番手っ取り早いのは、泉から直接掘ってしまう事。
でも、あの泉は景観的に素晴らしいものなので残しておきたい。
「じゃあ、そうだな」
温泉施設は少し離れたところに作り、地中を伝ってお湯を冷まさないように持ってくるのが良さそう。
ゆっくりお湯に浸かりたい時も、気軽に入りたい時も使いたいので、場所はコテージの隣が望ましいだろう。
熱源は、俺が発明したパイプの原理を拡大させれば大丈夫。
「よし!」
そうと決まれば、早速作業だ!
「じゃあ二人とも、手伝ってくれよな!」
「うんっ!」
「ウォンッ♪」
元気な返事と共に、俺たちはさらなる至高を求めて作業に取り掛かる!
あの温かい湯、全ての疲れを取ってくれる気持ちよさ、裸の付き合い、覗き……おっと失礼。
最後のお約束展開は説明しなかったが、俺はこの良さを二人に存分に伝えた。
結果、
「今すぐ取り掛かりましょう!」
「我も手伝うぞ!」
こうなった。
シャーリーはお風呂が大好きだからなあ。
けど大好きになったのも、実は俺が記憶を取り戻し、風呂の文化を広めてからだ。
というのも、元々グロウリア王国にはお風呂という文化がそこまで広がっていなかった。
それは、この世界の風呂の拙さにある。
グロウリア王国領地内には温泉の様な、お湯が出る場所は存在しない。
水源から引っ張って来た水を溜め、火属性魔法で温める。
これは当時からも周りがやっていたことで、れっきとしたお風呂だ。
しかし、元々冷たい大量の水に、疎かな火属性魔法を使って温めても結果は芳しくなかった。
もう冷え切った風呂に、どれだけお湯を足しても微妙な感じにしかならないあれと同じ事だ。
そのため、ぬるい水にさっと浸かる、もしくは水を浴びる、というのが主流だった。
でも、やはり俺は許せなかった。
記憶を取り戻した八歳の俺は、もはや娯楽・リラックス法の一つにまで進化した、前世の“お風呂”というものを思い出したのだ。
そこでまずは、元から温かい水を出すという、前世では常識だったことを思い出してすぐに研究に取り掛かった。
水を運ぶパイプに魔法を刻み、元栓からお湯が出るようにしたのだ。
そして、グロウリア王国ではお湯が出るシャワー、お湯を溜めたお風呂は大流行。
シャーリーも、その虜となった一人というわけだ。
それと、後で言われて気づいたのだが、そもそも物体に魔法を刻むという所業は普通の人間には出来ないらしい。
けどすでに世間には出回っていたし、後の祭りだよねということで誤魔化した。
そして今。
「早く早く!」
そんなお風呂大好きなシャーリーが喜ぶのは分かっていた。
けど、
「我も楽しみだぞ!」
フェンリルさんまでこんな楽しみそうにしてくれるとは。
意外ではあるが、これは嬉しい誤算。
なおさらやる気が出るってもんだ。
だがここで一つ、問題が発生。
「フェンリルさんのサイズが……」
これほどの体を入れるとなると、どれだけ大きい物にすればいいんだ?
出来るは出来るだろうけど、かなり大掛かりなことになる。
そんな考えを巡らせていると、
「む、サイズ感が問題なのか?」
「問題というか、かなり大きくなるなってだけなんだけど」
「そうか。ならばこうしよう」
「え」
しゅんしゅんしゅん……。
フェンリルは、そう言うと見る見るうちに小さくなっていき……
「どうだ、これなら大丈夫そうか?」
俺たちの前に、ちょこんと座った。
大体、前世の大型犬よりも少し大きいぐらいのサイズ。
四足歩行時で、縦に一メートルぐらい、俺の腰あたりまでのサイズになった。
この姿、この形。
「「……」」
「む、どうしたのだ。二人とも固まって──」
「「可愛いー!」」
「のわっ!」
俺は、シャーリーと争うようにフェンリルに抱き着いた。
「シャーリー、俺が先だぞ!」
「嫌だ! ずっと抱いていたい、この可愛い生物!」
「や、やめろお前たち!」
フェンリルさんのサイズが小さくなったことで、抱ける範囲が減った。
俺はシャーリーと取り合うようにフェンリルにしがみつく。
シャーリーが俺に反抗してくるようになったことは若干嬉しさを感じるが、ここは負けられない戦い。
この愛くるしい生き物は放すわけにはいかないのだ。
「こ、この! 放さんかー!」
「うわっ」
「きゃっ」
フエンリルはぼんっ! という音と煙と共に、また大きくなってしまった。
「ふう、まったく」
まあ、こちらはこちらでモフれる部位が多いから良いんだけどねー。
モフモフ、モフモフ。
「我に逃げ場はないのか」
「ない!」
「むう……」
と、ここまでして話を戻そう。
「それはそうと、器用なことが出来るんだね」
「うむ。我は風を操る力と、これだけは昔から出来てな」
「へ~」
なんとなく観察してみた感じ、魔法とはまた違った何かって感じだった。
風を操る力も割とイメージ通りだし、フェンリル固有の能力……なんてのも考えられる。
けど、それはまた今度。
今はとにかく、温泉作りに気を向けよう!
とりあえず、フェンリルのサイズでかすぎ問題もクリアされた。
では、もう一つの取っておくべき確認だ。
「言い出しておいてだけど、地中のお湯って使って良いものなの?」
「ああ、構わんぞ。そもそも、お湯とやらがあるのも知らなかったが」
「そりゃ助かる」
よしよし、こちらの問題も無事解決された。
ぶっちゃけ、ここが突破できないとアウトだったわけだが。
「ふむ」
俺は地面に手を付いて、改めて地中を探知する。
「この辺だな」
源泉は、『癒しの泉』の地下深くに広がっている。
それも住処よりもずっと広い範囲だ。
その源泉が、範囲を狭めるにつれて段々と熱が魔力へと変換され、魔力が異様に濃くなり噴き出したのが『癒しの泉』だ。
そんな原理で『癒しの泉』自体は冷まされているよう。
まるで、かつてお風呂がない時代のグロウリア王国の水道だね。
「となると……」
一番手っ取り早いのは、泉から直接掘ってしまう事。
でも、あの泉は景観的に素晴らしいものなので残しておきたい。
「じゃあ、そうだな」
温泉施設は少し離れたところに作り、地中を伝ってお湯を冷まさないように持ってくるのが良さそう。
ゆっくりお湯に浸かりたい時も、気軽に入りたい時も使いたいので、場所はコテージの隣が望ましいだろう。
熱源は、俺が発明したパイプの原理を拡大させれば大丈夫。
「よし!」
そうと決まれば、早速作業だ!
「じゃあ二人とも、手伝ってくれよな!」
「うんっ!」
「ウォンッ♪」
元気な返事と共に、俺たちはさらなる至高を求めて作業に取り掛かる!