豪奢な衣装と宝飾品を纏った女は、護衛の男と主人の美を磨き上げるのに余念がない侍女に囲まれて、挨拶に現われる者に唇を吊り上げて応えていた。その合間に、今夜は派手な色に染められている爪で小間使いの妖精が持ってきたグラスや軽食の乗った皿を手持無沙汰につつき回しながら、小さく息を吐く。やる事がないわけでもないが、今回のパーティは退屈だというのが正直な感想だった。
 パーティーやお茶会、生まれ育った世界では無縁だったイベントに最初はときめいた。けれど慣れてくると、上流階級の付き合いというのは案外面倒臭いものだった。いや、亡母も後見人も寛大で、あまり無理な教育をせず、希望の事を学ばせてくれているからこその退屈さなのかもしれない。要するに贅沢な悩みというやつだ。
 魔王討伐召喚にされたと思ったらスキル横取りされて、投獄されて脱獄して、重婚して……。どんな刺激的な展開も続けば日常に溶け込んでしまう事を、ヒカルは異世界で思い知る事になった。