聖剣クッキング~勇者の代わりに聖剣を引き抜いちゃったけど、これで料理してええでっか?~

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〇聖剣の霊峰、現在逃走中

頂上に聖剣が刺さる霊峰とは知らずに炊十(たけと)は猪のようなモンスターから逃げ惑っていた。

炊十「やばいって! 死ぬ死ぬ」
猪「グォォ!」

猪モンスターは炊十の背後から突撃してくる。

炊十「ひぃぃぃ! どこここ? やっぱ、珍しいからって虹色のキノコなんて食うんちゃうかった!」

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〇回想に突入 炊十が森を徘徊していた時を思い出す。

炊十「お! なにこの虹色キノコ! せや! スープにして食ったろ!」

〇以上、クソみたいな回想終了。


回想後も猪の突進をなんとか躱しながら、どんどんと頂上を上る炊十

〇場面転換、別方向から頂上を目指す一向あり

二人の男女、男が先、女がそのあとをついて登っている。

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バーム「もうすぐだ! もうすぐで、魔を払う聖剣エクスカリバーが手に入る!」

喜々としてずんずん上る金髪の青男、バーム。その後ろを冷めた顔で追う少女はため息交じりに口を開ける。

フィナンシェ「バームさん、聖剣は認められないと引き抜けませんよ」
バーム「フィナンシェ! 僕のことは勇者様と呼べと言っているだろう!」

フィナンシェ「はいはい、勇者様」

黒髪の少女は呆れた様子で合図を打つ。

バーム「待っていろ、魔王ストロガノフ、聖剣を引き抜いてお前を倒してやる!」

バームは力強く拳を天に掲げている。
そうこうしているうちに頂上が見えてくる。

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〇場面転換、炊十

炊十は頂上まで登り終えるが猪は諦めずについてきている。

炊十「ふーふー、行き止まり、もう走れねえ」

炊十は肩で呼吸をしている。

猪「グゥン!」
炊十「ぎゃっ⁉」

猪モンスターの突進で吹き飛ばされた炊十は転がり、何かにぶつかる。

炊十「い、いてえ」

炊十はよろけながら上体を起こすとそこには光り輝く剣が小岩に突き刺さっていた。

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炊十「こ、これは……落とし物かなぁ?」
猪「ブルルゥ!」

猪モンスターは次の突進に向けて助走をつけ始めている。

炊十「誰のか知らんけど、ちょっと借りるで」

炊十は光り輝く剣を手に取ると、勢いよく剣を引き抜いた。
しかし、剣を構える様子はたどたどしい。

炊十「おっとっと、剣なんて初めてだからちょっと重いな」
猪「ブオォォォ!」

猪モンスターは炊十に向かってくる。

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炊十「なるようになるしかねえなぁ! 天・誅!」
炊十は剣を振り下ろし、見事猪モンスターの脳天に直撃する。
その瞬間、まばゆい光が放たれたと思うと、猪モンスターはその場に倒れていた。

炊十「お、やったか、ふぅ、何とかなったぜ」

炊十は一息ついたちょうどそのとき、バームたちも同じく頂上に到着していた。

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バーム「お、お前、それ」

バームはプルプルと震えながら、炊十が持つ剣を指差す。

炊十「ん? あ、これ?」
炊十は剣を持ち上げて見せる。

バーム「あ、ああ」
バームはポカーンと口を開け、茫然としている。
そして、フィナンシェはあちゃ~といった表情で手で顔を押さえている。

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炊十「あ! もしかして、これ、お前のだった? ごめん、ちょっと借りただけだって」

そう言って、炊十はバームに剣を渡す。

バーム「あ、ああ」

しかし、バームは剣を受け取った瞬間、あまりの重さにそのまま前に倒れてしまう。

バーム「お、重すぎる」
炊十「そうか? ほい」

炊十は剣を片手で軽く拾い上げる。

バーム「こ、こんなバカな!」

そう言ってバームは今度は後ろにぶっ倒れる。

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炊十「?」
炊十は首を傾げる。

フィナンシェ「あー、えと、それ聖剣と言って、主と認めた者にしか持てない剣なんですよ」
フィナンシェは倒れたバームを見ながら気まずそうに言った。

バーム「ぐはっ! 突き刺さる真実!」
悶え始めるバーム

炊十「ふむ、つまりどういうことだってばよ?」

炊十は未だよく分かっていない様子だ。

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フィナンシェ「つまり、この人にその聖剣を持つ資格はなく」

フィナンシェはバームを指差す。

バーム「ぐはっ!」

バームは再び悶える。

フィナンシェ「そして、あなたにはその資格があるということです」

フィナンシェは手のひらを見せて炊十のものだと指示する。

バーム「オーバーキルにもほどがあるだろ、フィナンシェ!」

バームは起き上がって、フィナンシェに文句を言う。

フィナンシェ「たまにはこういう目に合うべきです」

そう言ってフィナンシェはそっぽを向く。

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炊十「へーじゃあこれ貰っていいのか、やりぃ」

炊十は聖剣を掲げる。
そして、聖剣のまばゆい光が辺りに照らされる。

バーム「ギャアアアア! もうやめてくれぇ!」

そう言って、バームは頭を抱えてのたうち回っている。

炊十「大丈夫なんか、こいつ?」
フィナンシェ「ああ、聖剣が手に入らなくてショックなだけです」

炊十「そうか……」

そう言って、倒れているバームの傍に炊十は近寄る。

バーム「なんだよ」

バームはむすっとした顔で見上げる。

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炊十「くよくよすんなって、こういうのは旨い飯食えば忘れるから、な」

炊十はバームの肩を叩く。

バーム「この剣を欲して、幾何年、忘れるわけないだろうがっ!」

そう言いながら、バームは炊十に突っかかる。

フィナンシェ「スタン」

フィナンシェが魔法を唱えて、バームに電流が流れる。

バーム「あばばばばばば」

バームは少し焦げて気絶する。

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〇少し時間経過、バーム目を覚ます。

バーム「う、ぐ、僕は一体何を?」

辺りにいい匂いが香る。

炊十「よお、起きたかよ?」

炊十がバームを見下ろす。

バーム「あ、お、お前は!」

バームは炊十を睨む。

フィナンシェ「何か?」

炊十の横から杖を持ったフィナンシェがにっこりと顔を出す。
そのとき、杖からバチッと火花が散る。

バーム「い、いえ、何も」

バームは意気消沈する。

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炊十「まあまあ、これでも食えって」

炊十はバームに木の深皿に入ったシチューを差し出す。

バーム「こ、れは?」
炊十「残り物にちょっと足しただけのもんやけど、結構いけるで」

炊十はバームに親指を立てて見せる。
そしてバームはフィナンシェの方を見る。

フィナンシェ「美味しかったですよ、これ」

そう言って真に笑って見せる。

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バーム「……いただきます」

バームはスプーンでシチューを口に運ぶ。

バーム「美味しい。なんだか懐かしくて、心が満たされる気がする。そんな優しい味だ」

バームの表情から笑みがこぼれる。

炊十「なら、作った甲斐があったぜ」

炊十は嬉しそうに笑う。
バームは屈託のない笑顔の炊十を見て、彼の中に自分にはない何かを感じて自身のみじめさを飲み込んだような表情をする。

バーム「……いつまでもくよくよしてられないな。お前のような奴だから、聖剣にも選ばれたのだろう」
バームは立ち上がる。

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フィナンシェ「バーム?」
バーム「魔王討伐は一から練り直しだ、行くぞフィナンシェ」

バームはきりっとした表情になる。

フィナンシェ「ええ」

フィナンシェは優しい笑顔で返す。

バーム「炊十とやら、聖剣のことは頼んだぞ」
炊十「おう」

しかし、聖剣の姿は見当たらない。

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バーム「あれ? 聖剣は?」
炊十「ああ、そこにあるで」

炊十指差す方向にはまな板、そしてその上に乗っているのは肉と光り輝くナイフ。

バーム「?????」
炊十「これや、これ」
炊十は光り輝くナイフを取って見せる。

フィナンシェ「聖剣は所有者によって姿を変えるみたいよ」
バーム「……」
微妙な空気が流れる。

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バーム「じゃ、じゃああれは」
バームはプルプル震える指でまな板の上の切られた肉を指差す。

炊十「ああ、こいつで切った」
そう言ってもう一度見せるナイフからはまばゆい光が放たれる。

バーム「マジありえないんだけど、コイツ!」
そう言ってバームは再びぶっ倒れた。

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炊十「そう、あれは(バーム)が倒れた後のこと……」

〇回想に突入

炊十「……これ大丈夫なん?」
炊十はプスプスと煙を上げるバームを指差す。

フィナンシェ「こうみえても人類最強だものこの人、10分もすれば起きるわ」
炊十「ほーん、じゃあその間に飯の用意するわ」

炊十はリュックからラップされた鍋を取り出す。

炊十「ちょうどいい残り物があるんだ」

炊十はガスコンロで鍋を温める。

炊十「このままやとちょっとインパクトに欠けるな」
炊十は倒した猪モンスターを見る。

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炊十「いいのあんじゃん、合うかはやってみなきゃやけどな」
炊十はリュックの中を探る。

炊十「包丁、包丁……あれ? ないな。どっかで落としたんか?」
炊十はリュックから手を放す。

炊十「どうやって解体しよか?」
炊十は岩に立てかけておいた、聖剣を見る。

炊十「いいのあんじゃん♪」

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炊十は聖剣を手に取り、猪モンスターを解体しようとする。

炊十「……使いにくいな、こんなデカくある必要ないよな」
そう言って聖剣を置こうとした瞬間、聖剣は光り輝き、包丁の姿へと変わる。

炊十「お、おお! ほうぅ、なかなかいいじゃん」
聖剣の切れ味は凄まじく、あっという間に肉を切り落としていく。

炊十「気に入った! これからよろしくな、エクス……エクス何たら」

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〇回想終了

バーム「こいつ、聖剣の名前覚えてねえ!」

倒れていたバームは勢いよく立ち上がる。

炊十「カタカナの名前は覚えられんでさぁ」

バーム「いつの時代の人間だお前! ていうか、聖剣を包丁に変えるって聖剣は魔を打ち滅ぼすものだ、そんな成りで戦えないだろう?」

バームは真剣な顔で炊十に迫る。

炊十「ホワイ? なんで俺が戦うんや?」

炊十は首を傾げる。

バーム「そ、そりゃあ、聖剣に選ばれたんだから……」
炊十「だったら俺を選んだそいつが悪い!」

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炊十「俺はこいつで町一の定食者になるんだ!」

炊十は包丁となった聖剣を掲げ、まばゆい光が辺りを指す。

フィナンシェ「聖剣を使うんです、世界一くらい言ったらどうです?」
バーム「そこじゃねえ!」

炊十「戦いとか興味ねえ、俺はただ身近な人が笑ってくれるものが作れたらいいんだ」
炊十は優しい笑みを浮かべる。

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バーム「それは立派なことだとも、だが、何も聖剣を使ってやることじゃない。聖剣に失礼とは思わないのか」
炊十「別に、異国の事情なんて知らないね」

炊十は未だここが外国だと思っている。

バーム「ムムム、聖剣も嫌がっているはずだ! だから、今一度岩に戻して……」

聖剣「ええで、別にこれで」

炊十を諭そうとするバームの声を遮り、聖剣から声が放たれる。

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バーム、フィナンシェ「せ、聖剣が喋ってるー!」

二人はあまりの衝撃にその場に尻もちを着く。

聖剣「え? いや、全然喋るで、普通に」

バーム「どういう原理で喋ってるんだこれ!」

バームは聖剣を指差し、聖剣の発声器官のない様に驚いている。

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聖剣「そりゃあ、聖剣の不思議パワーでこう、ぶわっと、やりゃいけるんやで」
バーム「なんで聖剣も関西弁やねんお前」

フィナンシェ「あんさんもな」
バーム「ほんまや、まさかこれも聖剣の力!」

バームは衝撃の顔で聖剣を見る。

聖剣「いや、違うけど……何ゆうてんの、おかしいんちゃう自分?」
バーム「/////」

バームは赤面し、近くの大岩の前に立つ。

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バーム「ふんっ!」

するとバームは大岩に頭を思いっきりぶつける。
その瞬間大岩は粉々に粉砕される。

バーム「ふぅ、リセッートォ!」

バームは軽くおでこから血を流しながら振り返ってくる。

聖剣「なかなかなパワーやないの、ワイなしでもいけるやろ自分」
バーム「……」

バームは暗い顔で俯く。

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バーム「ダメなんだ、聖剣の力がなければいくら強くても魔王は倒せない。だから……」
聖剣「いやや、魔王なんてほっといてもウジ虫みたいにポンポン現れるやんか、そのたびにワイが使われる。もう血生臭いのは嫌なんや」

バーム「……」

バームは黙って視線をそらしている。

聖剣「一度考えてや、お前はほんまに魔王を倒したいんか?」
バーム「それはそうだ! 魔王は多大な被害を出して……」

聖剣「そんなん向こう(魔王側)も同じや、それより人類の平和よりも魔王を倒すことに固執しとらんか?」
バーム「な⁉」

バームは大きく動揺する。

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聖剣「魔王を倒して、英雄になることに執着しとらんか?」
バーム「そ、それは……」

バームはどんどん小さくなっているように見える。

聖剣「そんな自分が定まってない奴の力にはなってやれんな」

聖剣の鋭い言葉でバームはその場に膝を着く。

炊十「……話はもうええか?」
聖剣「おう、ほな行こか、料理の旅に!」

炊十「おう! エクス……包丁!」

炊十は包丁の聖剣を携えて去って行った。

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バーム「……」

炊十が去った後でもバームはただ立ち尽くしていた。

フィナンシェ「バーム……」

フィナンシェ(仕方ないことだわ、幼い頃から生きてきて思い描いてきたヒーロー、勇者になることが全てだったあなたにとって、これはどの毒よりも効く真実)

フィナンシェはただバームを見つめている。

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〇場面転換、数日後の街

炊十「よーし、なんとか街に着いたわ」

炊十(道中、たくさんの化け物が襲い掛かってきたけど、適当に包丁振り回してたら何とかなったわ)

炊十は街を見渡す。
街はレンガでできた家が立ち並び、中世ヨーロッパを思わせる外観だ。

炊十「にしても、変な化け物には襲われるし、町並みはなんか日本と違うし、ここ一体どこの国や? 異国のことはわからんねえ」

その時炊十の腹からぐぅ~っと大きな音が。

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炊十「腹減った、食料も底を尽きたし、金もない……働かざる者食うべからず、か」

トボトボと歩く炊十だったが、街角に貼ってある一枚のビラを見る。

炊十「異国の字なんて読めるわけねえよな……あれ、なんかだいたい意味わかるわ、なんで?」
聖剣「ワイが翻訳変換してるからやで」

聖剣から声が聞こえる。

炊十「聖剣パワーすげー」

炊十は聖剣に関心した後、再びビラを見る。

炊十「で、どれどれ……きゅ、求人募集! 料理人は経験問わず大歓迎! こ、これだぁー!」
炊十は引き剝がしたビラを握りしめ、走り出した。
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〇とある街の酒場、飲んだくれるバーム

バーム「はあ……」

聖剣を手に入れられなかった日からバームは酒に溺れるような毎日を過ごしていた。

カランカランと酒場に誰か入る音が聞こえる。

店主「バーム旦那、奥さんがお見えだぜ」
フィナンシェ「違います」

店主の言葉をあしらってフィナンシェはバームの前に立つ。

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フィナンシェ「なに、してるの?」

フィナンシェは軽蔑の混じった表情でバームを見下ろす。

バーム「なんだよ、もうほっといてくれよ」

バームは自分の腕に顔をうずめる。

フィナンシェ「情けない、たかが聖剣が手に入らなかったからってそこまでうなだれることないでしょ?」
バーム「僕、分かったんだよ」

バームは腕から顔を少し出す。

フィナンシェ「何よ?」
バーム「僕は勇者じゃなかった」

フィナンシェ「知ってる」

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バーム「僕はただ、勇者に憧れただけだ。勇者という外枠に焦がれたたけの中身のない紛い物なんだ」
フィナンシェ「……」

バーム「本当の勇者は中身が伴って、気が付けば勇者になっているもんだ」
バームはコップに残った酒を飲み干す。

バーム「僕みたいな表面なところしか見えていない人間はなれるはずがないんだ」
そして新たに注がれた酒を口に移そうとしたところでフィナンシェがそのコップを取り上げる。

フィナンシェ「で、話しはそれだけ? 1ページ無駄にしたわ」

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フィナンシェ「じゃあ今まで誰よりも強く鍛錬してきたことは無駄だって? 人を助けてきたのが無駄だったって?」
バーム「それは……」

フィナンシェは強く机を叩く。

フィナンシェ「そんなわけない! 私が言わせてもらうけど、勇者なんて大したことない! モンドセレクション受賞くらいわりとどうでもいい証よ」

バーム「それは初耳なんだけど……」
フィナンシェ「それよりも結果よ、たとえ打算的でも、目的の近道でも、それで頑張って強くなったことは事実であり、成果でしょ?」

バーム「……フィナンシェ」
バームの目からたくさんの涙が溢れる。

《page5》

フィナンシェ「勇者なんかよりも、越えた先の正義の味方になりなさいよ」
バーム「うん」

バームは席から立つ。

バーム「ごめん、フィナンシェ」

バームは涙を服の袖で拭う。

フィナンシェ「これ、貸しだからね」

フィナンシェはバームの胸に拳を当てる。

《page6》

〇場面転換、翌日、街の出口

バーム「魔王を倒すぞ」
フィナンシェ「ええ」

出口の近くに看板が刺さっている。
看板にはこう書いてある ー 魔王城この先徒歩5分、命知らずの人間をお待ちしておりますby魔王ストロガノフ ー

バーム「近いな」
フィナンシェ「近いね」

バーム「そして軽いな、ノリが」
フィナンシェ「軽いね」

バーム「まあ行くか」
フィナンシェ「ええ」

《page7》

〇場面転換、魔王城前

二人は魔王城にたどり着く。

バーム「ほんとに徒歩5分だったな」
フィナンシェ「そうね」

そして魔王城の前には二足歩行のトカゲのような魔物が待ち構えていた。

トカゲ「待てい」

トカゲの魔物は二人を静止させる。

バーム「なんだ?」

バームは鋭い目つきでトカゲの魔物を睨む。

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トカゲ「お前たちはどっちだ?」

バーム「どっち?」
バーム(なんだ、何か問いかけでもされるというのか?)

トカゲ「お前たちは、魔王様に挑戦に来たのか、それとも……」

トカゲの魔物は顎を上げてこちらをより見下すように睨みつけて来る。

バーム「そ、それとも……」

バームたちは生唾を飲み込み、身構える。

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トカゲ「魔王軍採用試験の面接に来たのか?」

バーム「は、はぁ~⁉」
トカゲ「いやはや、近年魔王軍も人手不足、いや魔物手不足か、とにかく人間の手も借りたいのだ」

バーム「そ、そうか、魔物も大変なんだな」

バームは困惑した顔で冷や汗を流す。

トカゲ「で、どっちだ」

バーム「挑戦だ」
トカゲ「わかった。なら、入る前にこの誓約書を書いてもらう」

トカゲの魔物は一枚の紙を渡してきて、バームは紙を奪い取る。

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バーム「なになに……もし、魔王軍に負けた場合、魔王軍の従業員として一生強制労働になります」

バームは手をプルプルさせ、紙にしわを入れる。

バーム「なんだこれは!」

バームはトカゲの魔物に紙を叩きつける。

トカゲ「文面の通りだ、こっちも暇じゃないんだ。ただ魔王様と会えると思うなよ」

トカゲの魔物は淡々と紙を拾い上げ、バームの胸に押し付ける。

バーム「む、むむむ」
トカゲ「で、どうするんだ?」

《page11》

バーム「僕は行く。フィナンシェ、お前は無理について来る必要はないぞ」
フィナンシェ「何言ってるの、行くに決まってるでしょ」

そう言って、フィナンシェは紙に署名する。

バーム「あ、おい」
フィナンシェ「はい、これ」

フィナンシェはトカゲの魔物に二人の署名が入った紙を渡す。

トカゲ「承りました。それでは魔王軍の世界へ行ってらっしゃーい!」

そう言ってトカゲの魔物は入り口の扉を開ける。

バーム「アトラクションの案内かよっ!」

《page12》

〇場面転換、魔王城内、大広間

二人が大広間に出ると二階の展望席に4つの影が。

?「とうっ!」

すると4つの影は飛び下りてくる。

四天王「我らは、魔王四天王!」
影の正体が分かる。

左から二足歩行のカエル、頭が鶏のムキムキマッチョメン、デカいカタツムリ、あとロブスターのモンスターだった。

カエル「本来一人ずつ相手するところだが」
鶏「我らは迅速にも人員が欲しい」

カタツムリ「だから4対1、卑怯と笑うまい」
ロブスター「なぜなら、誓約書の裏には」

バームは誓約書の写しの裏を見る。

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四天王「しっかりと四天王全員と戦うことが書かれているからだ、はっはっは!」

フィナンシェ「()っすいな」

フィナンシェはごみを見るような目で四天王たちを見る。

カエル「フハハ! 人間には魔物労働基準法はない!」
フィナンシェ(魔物にもそういうのあるんだ)

鶏「故に、いくらでもこき使える素晴らしき人的、いや魔的資源」

カタツムリ「労働時間、朝の6時からの夜12時の16時間労働休憩なし」

ロブスター「人間を殺す時代は終わった!」

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四天王「是非、わが社に入社どうぞぉ!」

そう言って四天王たちは前にいたバームに襲いかかる。
バームは冷静に剣を抜いて、ニヤリと笑う。。

バーム「魔物のお前たちにいいことを一つ教えてやる。それは、人間の法律には魔物の殺生に関する記述はない」

カエル「それがどうした!」

真っ先にバームにたどり着いたのはカエルだ。
バームは剣を水平に構える。

バーム「先代勇者の力、借ります」

剣が光輝く始める。

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バーム「初代勇者の技、スターロード!」

バームの剣から星のエフェクトを出しながら、迫り来るカエルモンスターを一刀両断する。

カエル「ぐへぇ!」

四天王残り「な、何!?」

他の四天王たちは思わず後退りする。

フィナンシェ(バームは歴代99人の勇者の必殺技を全て使える。昔から勇者を研究し尽くしてきた生粋の勇者オタクの力。雑兵に敵うわけがない)

鶏「怯むな! やつ(カエル)は四天王の中で最強……あれ? やばくね? まあいい死ねい!」

なりふり構わなくなった鶏マッチョがバームに殴りかかる。

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バームは飛び上がり、鶏マッチョの真上に位置取る。

バーム「28代勇者の技、無限多角斬」

すると、同時に無数の斬撃が鶏マッチョを襲い、一瞬で細切れにしてしまう。
すっとバームが着地したとき、バームの周囲には紫色の煙で満たされている。

カタツムリ「けけ、毒で苦しめい!」
バーム「……56代勇者の魔法、パーフェクトヒール。毒は治癒した」

バームの体が一瞬緑色に光り、ついでにまわりの毒は消え失せる。

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カタツムリ「な⁉ あれほどの魔法を詠唱なしで⁉」

動揺するカタツムリモンスターにゆっくりと接近するバーム

カタツムリ「だ、だが、この私に物理攻撃は効かんぞ!」
バーム「なら、63代勇者の魔法、雷電」

バームがそう言って、指を鳴らすと、カタツムリモンスターに強力な雷が落ち、カタツムリもろとも辺りは焼け焦げている。

バーム「残るは一匹」

バームは冷たい目でロブスターモンスターの方を見る。

《page18》

ロブスター「こ、こっちに来るな!」

ロブスターモンスターはハサミから圧縮された水の弾を次々飛ばしてくる。

バーム「69代勇者の技、衛星オートリフレクター」

バームの周囲に結晶版のような物体が浮遊し、水の弾を防御している。
そして、手元に転送してきた弓を持ち、一本の燃え盛る矢を構える。

バーム「85代勇者の技、爆炎カグヤ」

放った矢はロブスターに直撃し、巨大な火柱を上げる。

《page19》

バーム「終わった。魔王に会おうか」

バームはケロッとした様子で最奥の扉に手を掛ける。

フィナンシェ「ええ」
フィナンシェ(問題はここから)

魔王の部屋の扉を開ける。

〇場面転換、魔王の部屋

部屋の中は真っ暗だったが、突然スポットライトが照らされ、その中に牛の頭を持つモンスターミノタウロスがスーツを身にまとって立っていた。

《page20》

ストロガノフ「ブラボー、まさにブラボー。私の部下たちをこうもあっさり倒すとは、さすがは勇者、と言ったところか」

ストロガノフは大きな拍手で二人を迎える。

バーム「残念だが、僕は勇者じゃない。正義の味方だ」
ストロガノフ「ほう、なんとも奇怪(きっかい)な。では、そんなあなたたちの全力見せてもらいたい」

バームたちは身構える。

ストロガノフ「と、言いたいところですが、誰であろうと客人はしっかりもてなすのが私の流儀」

ストロガノフは指を鳴らす。すると、照明がつき部屋が内装が分かる。
豪華な様相で、中央に大きなテーブル。テーブルの上にはこれまた豪勢な料理が揃えられてある。

《page21》

バーム「敵の飯を食えというのか?」

ストロガノフ「毒は入っていません。腹が減っては何とやら、客人には満足していただいてから全力を出していただきたいのです」
バーム「先に四天王けしかけてきた奴が何を言う?」

バームはストロガノフを睨む。

ストロガノフはゆっくりと頭を下げる。

ストロガノフ「それは失礼いたしました。しかし、あの程度で音を上げる輩は客人とは言えませんので、これは私なりのリスペクトというやつです」

ストロガノフは手のひらで料理を指す。

フィナンシェ「今、調べたけど本当に毒は入っていないわ」

フィナンシェは魔法で一通り料理を調べ上げたようだ。

ストロガノフ「さあ、せっかくの料理が冷めてしまいます」

そう言って、ストロガノフは先に席に着く。

《page22》

バーム「……わかった。食べる、食べればいいんだろう?」

そう言って、バームは席に座る。

ストロガノフ「ええ、ええ、共に食事を楽しみましょう」

バームたちは食事を始める。

バーム「く、くそ、旨い、どれ食べても旨すぎる」

バームは悔しそうな顔で次々と料理を口に運ぶ。

フィナンシェ「ええ、本当に美味しい」

フィナンシェから笑顔がこぼれる。

ストロガノフ「良き、食べっぷりです」

ストロガノフは嬉しそうだ。

《page23》

バーム「食通かよ、魔物癖に」

ストロガノフ「ええ、食事は生物の本懐です。ですので腕のある料理人をたくさん抱えています」
バーム「人間もいるんだろ?」

バームは鋭い目つきでストロガノフにホークを向ける。

ストロガノフ「ええ、ですが、彼らにはそこらの魔物以上の好待遇をしています」
バーム「随分と寛大じゃないか」

ストロガノフ「私は有能なものを買っているだけです」
バーム「それ以外は?」

ストロガノフ「カスです」

ストロガノフは即答する。

《page24》

バーム「世界を征服した暁には何をする気だ?」

ストロガノフ「ふむ、手が足りないのは事実、皆殺しはない。よって、有能な者は引き抜き、それ以外は使い捨ての労働力といったところですかね。カスに食わすほどこの世界の食料は潤沢ではないので」

ストロガノフは意気揚々と語る。

バーム「そうか……ご馳走様」

バームは立ち上がり、フィナンシェは急いでスイーツを口にかきこみモグモグさせながら、立つ。

バーム「さあ、殺るか」

バームはストロガノフに笑みを向ける。

ストロガノフ「ええ、勝ってわが軍門に加えます」

ストロガノフは上品に席を立つ。

フィナンシェ「もぐも、もぐもぐ(ええ、倒しましょう!)

《25》

ストロガノフは手袋を脱ぎ捨てる。

ストロガノフ「私はもっぱらステゴロ派でね、君の得物は何かな? 剣、槍、弓、それとも魔法かな?」

バームは無言で鞘に収まった剣を床に置いて、拳を構える。

ストロガノフ「フェアですか、これも一興」

少し笑みを見せたストロガノフは一瞬でバームと距離を詰め、殴り飛ばす。

フィナンシェ(速い! 身構える隙も与えない)

フィナンシェは杖をもってただそこに立ち尽くすのみだった。

吹き飛ばされた先、めり込んだ壁からバームは瓦礫をどけて出てくる。
そして、ほこりを払ったのちストロガノフを見て、笑みを浮かべる。

《page26》

すると、ストロガノフは大きく両手を広げて、来いと言わんばかりだ。

バーム「お構いなく」

バームはストレートにストロガノフの腹にめり込むほどのパンチを入れる。
ストロガノフは口を血を吐きながら、笑いバームを抱きしめる。

メキメキとバームの体から音が鳴り、そのまま床に叩きつけられる。
舞った砂埃が落ちるより先にバームは飛び上がる。

そしてストロガノフの首の後ろに回りこんで両脚で首を挟み、角を掴んで首を折りにいく。

《page27》

ストロガノフ「ふ、ふふ、ふふふふ!」

ストロガノフは笑いながらバームを掴みに行く。
しかし、その前にバームはストロガノフの頭上に逃げ、そのまま連続キックをお見舞いする。

ストロガノフ「美しい! 合理的な戦闘、これほど楽しいことはないぞ!」

ストロガノフは空中のバームに向け連続パンチを繰り出す。
それをバームは体の回転でいなしながら地面に着地、迫るストロガノフにバク転をしながら顎を蹴り上げる。

バームはバランスを崩したストロガノフの胸に乗ってジャンプする。

《page28》

バーム「勇者合技(ごうぎ)

バームは空中で右拳を構える。それと同時にバームの周囲に炎、水、雷、岩、風、光、闇の玉が発生する。
七つの玉はバームの右拳に集まり、凄まじい光を放つ。

バーム「七光拳(しちこうけん)!」

バームの拳はストロガノフの胸に直撃し、周囲を吹き飛ばす。

フィナンシェ「もう、レベル違いすぎ」

フィナンシェはただその場に踏ん張って、細目で結末を見届ける。

《page29》

ストロガノフ「嗚呼、悲しきかな、悲しきかな」

フィナンシェ「⁉」

写った光景とは、胸が大きく抉れ、そこから紫の玉を露出させるストロガノフに首を掴まれたバームの姿だった。

ストロガノフ「あなたが真に勇者であれば私を殺せたものを……実に悲しき幕切れだ。つくづく、くだらないシステムだな。魔王と勇者とは」

ストロガノフはつまらなそうな顔でバームをさらに持ち上げた、その時。

ストロガノフ「うぐっ⁉」

ストロガノフはバームを放し、膝をついて腹を押さえる。

《page30》

フィナンシェ「効いた?」

フィナンシェはバームの元に駆けつけて治療しながらストロガノフを見る。
しかし、ストロガノフは別の意味で苦しんでいる。

ストロガノフ「は、腹が、腹から浄化される。ま、まさか⁉」

ストロガノフは扉の方を指差す。

ストロガノフ「この料理を作ったやつを出せ!」

《page31》

すると、魔王の部下が炊十を連れて来る。

炊十「どうも、私が作りました」

炊十はケロッとした表情で何が起こっているか分かっていない様子だ。

ストロガノフ「ゆ、ゆるせん、何よりも、素晴らしき食事に毒を混ぜたその行為がな! 死で贖え!」

これまで紳士的な印象を抱かせるストロガノフとは打って変わって、激怒した様子で炊十に襲い掛かる。

炊十「ちょ、一旦落ち着けって!」

そう言って、炊十は聖剣の包丁を及び腰ながら差し出す。
聖剣がストロガノフに掠る。

《page32》

ストロガノフ「グワァァァァ!」

すると、ストロガノフは光となって消える。

〇場面転換、1時間後、街に戻って来た三人。

住民たち「わっしょいわっしょい! 魔王が死んだ! 100代目の勇者が暗殺したぞ!」

炊十、バーム、フィナンシェの三人は魔王城徒歩5分の街の人たちから胴上げをされていた。

炊十「なあ、俺ってば、一体何が起こったのか分かってないんやが?」

炊十は首を傾げる。

バーム「せやな、僕もわからん」

バームは憑き物が取れたような顔で笑った。

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