《page1》

〇聖剣の霊峰、現在逃走中

頂上に聖剣が刺さる霊峰とは知らずに炊十(たけと)は猪のようなモンスターから逃げ惑っていた。

炊十「やばいって! 死ぬ死ぬ」
猪「グォォ!」

猪モンスターは炊十の背後から突撃してくる。

炊十「ひぃぃぃ! どこここ? やっぱ、珍しいからって虹色のキノコなんて食うんちゃうかった!」

《page2》

〇回想に突入 炊十が森を徘徊していた時を思い出す。

炊十「お! なにこの虹色キノコ! せや! スープにして食ったろ!」

〇以上、クソみたいな回想終了。


回想後も猪の突進をなんとか躱しながら、どんどんと頂上を上る炊十

〇場面転換、別方向から頂上を目指す一向あり

二人の男女、男が先、女がそのあとをついて登っている。

《page3》

バーム「もうすぐだ! もうすぐで、魔を払う聖剣エクスカリバーが手に入る!」

喜々としてずんずん上る金髪の青男、バーム。その後ろを冷めた顔で追う少女はため息交じりに口を開ける。

フィナンシェ「バームさん、聖剣は認められないと引き抜けませんよ」
バーム「フィナンシェ! 僕のことは勇者様と呼べと言っているだろう!」

フィナンシェ「はいはい、勇者様」

黒髪の少女は呆れた様子で合図を打つ。

バーム「待っていろ、魔王ストロガノフ、聖剣を引き抜いてお前を倒してやる!」

バームは力強く拳を天に掲げている。
そうこうしているうちに頂上が見えてくる。

《page4》

〇場面転換、炊十

炊十は頂上まで登り終えるが猪は諦めずについてきている。

炊十「ふーふー、行き止まり、もう走れねえ」

炊十は肩で呼吸をしている。

猪「グゥン!」
炊十「ぎゃっ⁉」

猪モンスターの突進で吹き飛ばされた炊十は転がり、何かにぶつかる。

炊十「い、いてえ」

炊十はよろけながら上体を起こすとそこには光り輝く剣が小岩に突き刺さっていた。

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炊十「こ、これは……落とし物かなぁ?」
猪「ブルルゥ!」

猪モンスターは次の突進に向けて助走をつけ始めている。

炊十「誰のか知らんけど、ちょっと借りるで」

炊十は光り輝く剣を手に取ると、勢いよく剣を引き抜いた。
しかし、剣を構える様子はたどたどしい。

炊十「おっとっと、剣なんて初めてだからちょっと重いな」
猪「ブオォォォ!」

猪モンスターは炊十に向かってくる。

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炊十「なるようになるしかねえなぁ! 天・誅!」
炊十は剣を振り下ろし、見事猪モンスターの脳天に直撃する。
その瞬間、まばゆい光が放たれたと思うと、猪モンスターはその場に倒れていた。

炊十「お、やったか、ふぅ、何とかなったぜ」

炊十は一息ついたちょうどそのとき、バームたちも同じく頂上に到着していた。

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バーム「お、お前、それ」

バームはプルプルと震えながら、炊十が持つ剣を指差す。

炊十「ん? あ、これ?」
炊十は剣を持ち上げて見せる。

バーム「あ、ああ」
バームはポカーンと口を開け、茫然としている。
そして、フィナンシェはあちゃ~といった表情で手で顔を押さえている。

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炊十「あ! もしかして、これ、お前のだった? ごめん、ちょっと借りただけだって」

そう言って、炊十はバームに剣を渡す。

バーム「あ、ああ」

しかし、バームは剣を受け取った瞬間、あまりの重さにそのまま前に倒れてしまう。

バーム「お、重すぎる」
炊十「そうか? ほい」

炊十は剣を片手で軽く拾い上げる。

バーム「こ、こんなバカな!」

そう言ってバームは今度は後ろにぶっ倒れる。

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炊十「?」
炊十は首を傾げる。

フィナンシェ「あー、えと、それ聖剣と言って、主と認めた者にしか持てない剣なんですよ」
フィナンシェは倒れたバームを見ながら気まずそうに言った。

バーム「ぐはっ! 突き刺さる真実!」
悶え始めるバーム

炊十「ふむ、つまりどういうことだってばよ?」

炊十は未だよく分かっていない様子だ。

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フィナンシェ「つまり、この人にその聖剣を持つ資格はなく」

フィナンシェはバームを指差す。

バーム「ぐはっ!」

バームは再び悶える。

フィナンシェ「そして、あなたにはその資格があるということです」

フィナンシェは手のひらを見せて炊十のものだと指示する。

バーム「オーバーキルにもほどがあるだろ、フィナンシェ!」

バームは起き上がって、フィナンシェに文句を言う。

フィナンシェ「たまにはこういう目に合うべきです」

そう言ってフィナンシェはそっぽを向く。

《page11》

炊十「へーじゃあこれ貰っていいのか、やりぃ」

炊十は聖剣を掲げる。
そして、聖剣のまばゆい光が辺りに照らされる。

バーム「ギャアアアア! もうやめてくれぇ!」

そう言って、バームは頭を抱えてのたうち回っている。

炊十「大丈夫なんか、こいつ?」
フィナンシェ「ああ、聖剣が手に入らなくてショックなだけです」

炊十「そうか……」

そう言って、倒れているバームの傍に炊十は近寄る。

バーム「なんだよ」

バームはむすっとした顔で見上げる。

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炊十「くよくよすんなって、こういうのは旨い飯食えば忘れるから、な」

炊十はバームの肩を叩く。

バーム「この剣を欲して、幾何年、忘れるわけないだろうがっ!」

そう言いながら、バームは炊十に突っかかる。

フィナンシェ「スタン」

フィナンシェが魔法を唱えて、バームに電流が流れる。

バーム「あばばばばばば」

バームは少し焦げて気絶する。

《page13》

〇少し時間経過、バーム目を覚ます。

バーム「う、ぐ、僕は一体何を?」

辺りにいい匂いが香る。

炊十「よお、起きたかよ?」

炊十がバームを見下ろす。

バーム「あ、お、お前は!」

バームは炊十を睨む。

フィナンシェ「何か?」

炊十の横から杖を持ったフィナンシェがにっこりと顔を出す。
そのとき、杖からバチッと火花が散る。

バーム「い、いえ、何も」

バームは意気消沈する。

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炊十「まあまあ、これでも食えって」

炊十はバームに木の深皿に入ったシチューを差し出す。

バーム「こ、れは?」
炊十「残り物にちょっと足しただけのもんやけど、結構いけるで」

炊十はバームに親指を立てて見せる。
そしてバームはフィナンシェの方を見る。

フィナンシェ「美味しかったですよ、これ」

そう言って真に笑って見せる。

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バーム「……いただきます」

バームはスプーンでシチューを口に運ぶ。

バーム「美味しい。なんだか懐かしくて、心が満たされる気がする。そんな優しい味だ」

バームの表情から笑みがこぼれる。

炊十「なら、作った甲斐があったぜ」

炊十は嬉しそうに笑う。
バームは屈託のない笑顔の炊十を見て、彼の中に自分にはない何かを感じて自身のみじめさを飲み込んだような表情をする。

バーム「……いつまでもくよくよしてられないな。お前のような奴だから、聖剣にも選ばれたのだろう」
バームは立ち上がる。

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フィナンシェ「バーム?」
バーム「魔王討伐は一から練り直しだ、行くぞフィナンシェ」

バームはきりっとした表情になる。

フィナンシェ「ええ」

フィナンシェは優しい笑顔で返す。

バーム「炊十とやら、聖剣のことは頼んだぞ」
炊十「おう」

しかし、聖剣の姿は見当たらない。

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バーム「あれ? 聖剣は?」
炊十「ああ、そこにあるで」

炊十指差す方向にはまな板、そしてその上に乗っているのは肉と光り輝くナイフ。

バーム「?????」
炊十「これや、これ」
炊十は光り輝くナイフを取って見せる。

フィナンシェ「聖剣は所有者によって姿を変えるみたいよ」
バーム「……」
微妙な空気が流れる。

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バーム「じゃ、じゃああれは」
バームはプルプル震える指でまな板の上の切られた肉を指差す。

炊十「ああ、こいつで切った」
そう言ってもう一度見せるナイフからはまばゆい光が放たれる。

バーム「マジありえないんだけど、コイツ!」
そう言ってバームは再びぶっ倒れた。

《page19》

炊十「そう、あれは(バーム)が倒れた後のこと……」

〇回想に突入

炊十「……これ大丈夫なん?」
炊十はプスプスと煙を上げるバームを指差す。

フィナンシェ「こうみえても人類最強だものこの人、10分もすれば起きるわ」
炊十「ほーん、じゃあその間に飯の用意するわ」

炊十はリュックからラップされた鍋を取り出す。

炊十「ちょうどいい残り物があるんだ」

炊十はガスコンロで鍋を温める。

炊十「このままやとちょっとインパクトに欠けるな」
炊十は倒した猪モンスターを見る。

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炊十「いいのあんじゃん、合うかはやってみなきゃやけどな」
炊十はリュックの中を探る。

炊十「包丁、包丁……あれ? ないな。どっかで落としたんか?」
炊十はリュックから手を放す。

炊十「どうやって解体しよか?」
炊十は岩に立てかけておいた、聖剣を見る。

炊十「いいのあんじゃん♪」

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炊十は聖剣を手に取り、猪モンスターを解体しようとする。

炊十「……使いにくいな、こんなデカくある必要ないよな」
そう言って聖剣を置こうとした瞬間、聖剣は光り輝き、包丁の姿へと変わる。

炊十「お、おお! ほうぅ、なかなかいいじゃん」
聖剣の切れ味は凄まじく、あっという間に肉を切り落としていく。

炊十「気に入った! これからよろしくな、エクス……エクス何たら」

《page22》

〇回想終了

バーム「こいつ、聖剣の名前覚えてねえ!」

倒れていたバームは勢いよく立ち上がる。

炊十「カタカナの名前は覚えられんでさぁ」

バーム「いつの時代の人間だお前! ていうか、聖剣を包丁に変えるって聖剣は魔を打ち滅ぼすものだ、そんな成りで戦えないだろう?」

バームは真剣な顔で炊十に迫る。

炊十「ホワイ? なんで俺が戦うんや?」

炊十は首を傾げる。

バーム「そ、そりゃあ、聖剣に選ばれたんだから……」
炊十「だったら俺を選んだそいつが悪い!」

《page23》

炊十「俺はこいつで町一の定食者になるんだ!」

炊十は包丁となった聖剣を掲げ、まばゆい光が辺りを指す。

フィナンシェ「聖剣を使うんです、世界一くらい言ったらどうです?」
バーム「そこじゃねえ!」

炊十「戦いとか興味ねえ、俺はただ身近な人が笑ってくれるものが作れたらいいんだ」
炊十は優しい笑みを浮かべる。

《page24》

バーム「それは立派なことだとも、だが、何も聖剣を使ってやることじゃない。聖剣に失礼とは思わないのか」
炊十「別に、異国の事情なんて知らないね」

炊十は未だここが外国だと思っている。

バーム「ムムム、聖剣も嫌がっているはずだ! だから、今一度岩に戻して……」

聖剣「ええで、別にこれで」

炊十を諭そうとするバームの声を遮り、聖剣から声が放たれる。

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バーム、フィナンシェ「せ、聖剣が喋ってるー!」

二人はあまりの衝撃にその場に尻もちを着く。

聖剣「え? いや、全然喋るで、普通に」

バーム「どういう原理で喋ってるんだこれ!」

バームは聖剣を指差し、聖剣の発声器官のない様に驚いている。

《page26》

聖剣「そりゃあ、聖剣の不思議パワーでこう、ぶわっと、やりゃいけるんやで」
バーム「なんで聖剣も関西弁やねんお前」

フィナンシェ「あんさんもな」
バーム「ほんまや、まさかこれも聖剣の力!」

バームは衝撃の顔で聖剣を見る。

聖剣「いや、違うけど……何ゆうてんの、おかしいんちゃう自分?」
バーム「/////」

バームは赤面し、近くの大岩の前に立つ。

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バーム「ふんっ!」

するとバームは大岩に頭を思いっきりぶつける。
その瞬間大岩は粉々に粉砕される。

バーム「ふぅ、リセッートォ!」

バームは軽くおでこから血を流しながら振り返ってくる。

聖剣「なかなかなパワーやないの、ワイなしでもいけるやろ自分」
バーム「……」

バームは暗い顔で俯く。

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バーム「ダメなんだ、聖剣の力がなければいくら強くても魔王は倒せない。だから……」
聖剣「いやや、魔王なんてほっといてもウジ虫みたいにポンポン現れるやんか、そのたびにワイが使われる。もう血生臭いのは嫌なんや」

バーム「……」

バームは黙って視線をそらしている。

聖剣「一度考えてや、お前はほんまに魔王を倒したいんか?」
バーム「それはそうだ! 魔王は多大な被害を出して……」

聖剣「そんなん向こう(魔王側)も同じや、それより人類の平和よりも魔王を倒すことに固執しとらんか?」
バーム「な⁉」

バームは大きく動揺する。

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聖剣「魔王を倒して、英雄になることに執着しとらんか?」
バーム「そ、それは……」

バームはどんどん小さくなっているように見える。

聖剣「そんな自分が定まってない奴の力にはなってやれんな」

聖剣の鋭い言葉でバームはその場に膝を着く。

炊十「……話はもうええか?」
聖剣「おう、ほな行こか、料理の旅に!」

炊十「おう! エクス……包丁!」

炊十は包丁の聖剣を携えて去って行った。

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バーム「……」

炊十が去った後でもバームはただ立ち尽くしていた。

フィナンシェ「バーム……」

フィナンシェ(仕方ないことだわ、幼い頃から生きてきて思い描いてきたヒーロー、勇者になることが全てだったあなたにとって、これはどの毒よりも効く真実)

フィナンシェはただバームを見つめている。

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〇場面転換、数日後の街

炊十「よーし、なんとか街に着いたわ」

炊十(道中、たくさんの化け物が襲い掛かってきたけど、適当に包丁振り回してたら何とかなったわ)

炊十は街を見渡す。
街はレンガでできた家が立ち並び、中世ヨーロッパを思わせる外観だ。

炊十「にしても、変な化け物には襲われるし、町並みはなんか日本と違うし、ここ一体どこの国や? 異国のことはわからんねえ」

その時炊十の腹からぐぅ~っと大きな音が。

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炊十「腹減った、食料も底を尽きたし、金もない……働かざる者食うべからず、か」

トボトボと歩く炊十だったが、街角に貼ってある一枚のビラを見る。

炊十「異国の字なんて読めるわけねえよな……あれ、なんかだいたい意味わかるわ、なんで?」
聖剣「ワイが翻訳変換してるからやで」

聖剣から声が聞こえる。

炊十「聖剣パワーすげー」

炊十は聖剣に関心した後、再びビラを見る。

炊十「で、どれどれ……きゅ、求人募集! 料理人は経験問わず大歓迎! こ、これだぁー!」
炊十は引き剝がしたビラを握りしめ、走り出した。