昼間はクエストで実戦的に鍛えながら、夜になると冒険者の基礎的な知識を俺はサクラに教え込んでいた。
サクラの隣には「わたしもケースケ様の夜のレッスンを受けたいです!」と言って、やたらやる気満々なアイセルも座っている。
『夜のレッスン』とか言ってるし、なにか微妙に勘ちがいしてないか……?
そもそもアイセルには冒険者の心得を実戦を通して丁寧に伝えてきた。
今さら改めて聞く必要があることはまずないと思うんだけどな?
ま、せっかくのやる気に水を差すのもなんだよな。
俺は今日の夜の講義をスタートする。
「サクラ、冒険者にとって一番大切なことは何だと思う?」
「うーん、そうね……クエストの完了? だってクエストの依頼を受けた以上は、ちゃんと果たさないといけないと思う」
「確かにクエストを完了するのは大切なことだな。冒険者の信頼度ってのは、いわばその積み重ねであるわけだから。でも残念ながらそれは一番ではないんだ」
「ええっ? クエスト完了よりも大事なことがあるの? えーと、うーん、うーん……分かんない」
「じゃあアイセルは分かるか?」
「生き残ることではないでしょうか? 自分の命とパーティの仲間の命は最優先で守るべきだと思います」
「正解、さすがアイセルだな」
「えへへ、ケースケ様に褒められちゃいました」
「サクラ、まずは自分の命を、次にパーティの仲間の命を大事にしてくれ」
「自分たちの命を大事に……」
「そうだ。命があればクエストの再挑戦だってなんだってできる。でも死んだらそこで終わりだ。だから冒険者は時に撤退する勇気を持たないといけない。そしていざという時に備えて、常日頃から判断力を磨いていって欲しいんだ」
「死んだら終わり、なるほどね。真理だと思うわ」
うんうん頷きながらサクラがノートに書き込んでいく。
サクラはこうやって俺やアイセルに言われたことや感じたこと、考えたことをメモに残しては時々見返しているみたいだった。
言動は一見、雑で子供っぽいように見えて、意外とサクラは勤勉なんだよな。
「でもあれ?」
サクラが変な顔をした。
「お、質問か? 気になったことは何でも聞いてくれていいぞ。ここはサクラの理解を深めるための場だからな」
「じゃあ聞くけど、パーティを組む時に『俺を裏切るな』ってケイスケは言ったよね?」
「ああ、言ったな。むしろそれがパーティ『アルケイン』の唯一のルールだ」
「仮に『もしも』の時があったとして、自分がなんとか助かるためにケイスケたちを見捨てて逃げたら、裏切ったことにはならないの?」
「ああ、そういうことか。俺が言った『裏切るな』ってのはさ、仲間の信頼を裏切るなってことだ」
「見捨てて逃げるのは信頼を裏切ってないの?」
「自分勝手に仲間を売ったり約束を反故にしたりするってのと、もしもの時に誰か1人でも生き残るように仲間の思いを背負って行動するのは、全然違わないか?」
「あっ……うん、そういうことね。よく分かった」
しっかりと納得できたんだろう、サクラがノートにさらにあれこれ書き込んでいく。
「ちなみにですが、わたしは最後の最後までケースケ様の側で務めを果たしますので」
アイセルが自信満々に言った。
「いやもしもの時は、アイセルが一番生き残らないといけないんだからな? アイセルさえ生き残れば、いつか新しいパーティを組んでクエストに再挑戦して、骨くらいは拾ってもらえるだろうし」
逆にバッファーの俺じゃ、アイセルが死ぬような高難度クエストをクリアするのは絶対無理だからな。
でもアイセルは首を横に振って言うんだ。
「いいえケースケ様。わたしはケースケ様の剣であり、ケースケ様の楯ですから。持ち主であるケースケ様が倒れるその時まで、わたしは役目を全うします」
アイセルの目は本気だった。
「アイセル……気持ちは嬉しいけど」
「ケースケ様のいない世界で、ケースケ様のいないパーティで生きるくらいなら、ケースケ様と共に散ります」
アイセルの決意は有無を言わせぬほどに固かった。
「ちょ、ちょっとケイスケ、間違っても変なことして身内に刺されないようにしてよね!?」
「……善処するよ」
おおむねこんな感じで、夜の座学は毎日欠かすことなく行われていった。
サクラの隣には「わたしもケースケ様の夜のレッスンを受けたいです!」と言って、やたらやる気満々なアイセルも座っている。
『夜のレッスン』とか言ってるし、なにか微妙に勘ちがいしてないか……?
そもそもアイセルには冒険者の心得を実戦を通して丁寧に伝えてきた。
今さら改めて聞く必要があることはまずないと思うんだけどな?
ま、せっかくのやる気に水を差すのもなんだよな。
俺は今日の夜の講義をスタートする。
「サクラ、冒険者にとって一番大切なことは何だと思う?」
「うーん、そうね……クエストの完了? だってクエストの依頼を受けた以上は、ちゃんと果たさないといけないと思う」
「確かにクエストを完了するのは大切なことだな。冒険者の信頼度ってのは、いわばその積み重ねであるわけだから。でも残念ながらそれは一番ではないんだ」
「ええっ? クエスト完了よりも大事なことがあるの? えーと、うーん、うーん……分かんない」
「じゃあアイセルは分かるか?」
「生き残ることではないでしょうか? 自分の命とパーティの仲間の命は最優先で守るべきだと思います」
「正解、さすがアイセルだな」
「えへへ、ケースケ様に褒められちゃいました」
「サクラ、まずは自分の命を、次にパーティの仲間の命を大事にしてくれ」
「自分たちの命を大事に……」
「そうだ。命があればクエストの再挑戦だってなんだってできる。でも死んだらそこで終わりだ。だから冒険者は時に撤退する勇気を持たないといけない。そしていざという時に備えて、常日頃から判断力を磨いていって欲しいんだ」
「死んだら終わり、なるほどね。真理だと思うわ」
うんうん頷きながらサクラがノートに書き込んでいく。
サクラはこうやって俺やアイセルに言われたことや感じたこと、考えたことをメモに残しては時々見返しているみたいだった。
言動は一見、雑で子供っぽいように見えて、意外とサクラは勤勉なんだよな。
「でもあれ?」
サクラが変な顔をした。
「お、質問か? 気になったことは何でも聞いてくれていいぞ。ここはサクラの理解を深めるための場だからな」
「じゃあ聞くけど、パーティを組む時に『俺を裏切るな』ってケイスケは言ったよね?」
「ああ、言ったな。むしろそれがパーティ『アルケイン』の唯一のルールだ」
「仮に『もしも』の時があったとして、自分がなんとか助かるためにケイスケたちを見捨てて逃げたら、裏切ったことにはならないの?」
「ああ、そういうことか。俺が言った『裏切るな』ってのはさ、仲間の信頼を裏切るなってことだ」
「見捨てて逃げるのは信頼を裏切ってないの?」
「自分勝手に仲間を売ったり約束を反故にしたりするってのと、もしもの時に誰か1人でも生き残るように仲間の思いを背負って行動するのは、全然違わないか?」
「あっ……うん、そういうことね。よく分かった」
しっかりと納得できたんだろう、サクラがノートにさらにあれこれ書き込んでいく。
「ちなみにですが、わたしは最後の最後までケースケ様の側で務めを果たしますので」
アイセルが自信満々に言った。
「いやもしもの時は、アイセルが一番生き残らないといけないんだからな? アイセルさえ生き残れば、いつか新しいパーティを組んでクエストに再挑戦して、骨くらいは拾ってもらえるだろうし」
逆にバッファーの俺じゃ、アイセルが死ぬような高難度クエストをクリアするのは絶対無理だからな。
でもアイセルは首を横に振って言うんだ。
「いいえケースケ様。わたしはケースケ様の剣であり、ケースケ様の楯ですから。持ち主であるケースケ様が倒れるその時まで、わたしは役目を全うします」
アイセルの目は本気だった。
「アイセル……気持ちは嬉しいけど」
「ケースケ様のいない世界で、ケースケ様のいないパーティで生きるくらいなら、ケースケ様と共に散ります」
アイセルの決意は有無を言わせぬほどに固かった。
「ちょ、ちょっとケイスケ、間違っても変なことして身内に刺されないようにしてよね!?」
「……善処するよ」
おおむねこんな感じで、夜の座学は毎日欠かすことなく行われていった。