俺とアイセルにサクラを加えて3人となったパーティ『アルケイン』は、『3名以上かつ、合計レベル150以上、平均レベル50以上』という冒険者ギルドの規則をクリアし、ついに最高位のAランクへと昇格した。
(現在レベル、俺=120、アイセル=38、サクラ=8。合計レベル=166)
引っ越しを済ませたすぐ次の日から、早速クエストを開始する。
ちなみにサクラの育成に良さげなクエストを、冒険者ギルドを通した指名という形でサクラのパパさんから斡旋してもらっていた。
イービル・イノシシの討伐クエストだ。
地域随一の有力者ともなると、冒険者ギルドの手が届いてない情報を掴んで、こんな風にクエストとして用意できちゃうんだなぁ……お金と権力ってすごいなぁ。
この縁は大事にしたいね、うん。
まぁそれはそれとして。
「今回はアイセルは様子見だ。サクラが1人で戦ってくれ」
「ねぇ、ほんとに大丈夫? ケイスケのバフスキルで、私の『狂乱』スキルはほんとに暴走しなくなるの? ケイスケやアイセルさんを襲ったりしない?」
「大丈夫大丈夫、こう見えて俺はレベル120だぞ?」
「でもケイスケはバッファーだし……」
「バッファーもれっきとした職業だっつーの」
「でもうちのギルドにケイスケ以外のバッファーいないじゃん」
「う……っ」
「うーん、なんか心配になってきたよ……」
なかなか踏ん切りが付けないサクラに、
「サクラ、何も心配はいりませんよ」
「アイセルさん?」
「ケースケ様はそれはもうすごいんですから。かくいうわたしもケースケ様のバフスキルには、いっぱいいっぱいお世話になってきたんです」
アイセルが優しく背中を押してあげる。
「……うん、分かった。アイセルさんを信じる」
するとアイセルの言葉をサクラはあっさりと信じた。
「なぁちょっといいか? なんで俺の言葉は信じられないのに、アイセルの言うことならすぐに信じるんだ?」
「だってアイセルさんは目に見えてすごい実績持ちだもん。ギルドでもいろんな噂話でいっぱいだし」
「そうだな、うん……アイセルは凄いもんな、アイセルの言うことなら納得いくよな。ごめんな、不遇職のバッファーで……」
ちなみにどれくらいアイセルが人気かというと、アイセルの魔法剣そっくりのレプリカ剣(ただし普通の剣だ)を、このあたりの冒険者パーティの前衛職がみんな装備してるくらいに有名で人気だった。
最初に魔法剣を融通してくれた武器防具屋が、『アイセルモデル』として売り出していたからだ。
作ったそばから飛ぶように売れて、今は予約で数か月先まで埋まっているとかなんとか。
さすがはやり手の商人、損して得取れとはよく言ったもんだ。
「でもケイスケのこともすごいとは思ってるのよ? 成り手のいない後衛不遇職のバッファーでレベル120なんだもん」
「分かってればいいんだ、分かってれば」
「よほど優秀な仲間がいて、金魚のフンをしてたのね」
「だからお前はほんとイチイチ一言多いんだよ!?」
「ご、ごめんなさい、悪気はなかったの。でも根が正直なものでつい……」
「正直だったらなに言ってもいいと思うなよ?」
「まぁまぁケースケ様、バフがかかればすぐにサクラも実感として納得しますから」
話がもつれかけたのを、すぐにアイセルが軌道修正してくれた。
いつの間にかパーティのリーダー適正まで見せ始めているアイセルだった。
「ま、アイセルの言う通り『論より証拠』だわな。いくぞ、S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動」
俺はバフスキルを発動した。
少し遅れてサクラがバーサーカーの力の源、怒りの精霊『フラストレ』の力を恐るおそる解放する。
『狂乱』スキルが発動し、サクラの瞳が理性を失わせる真紅の怒りに染まっていき――、
「……信じられないっ! 怒りの精霊『フラストレ』が全然暴走しないなんて! むしろすっごく馴染んでる感じ! ケイスケって実はすごかったのね! 不遇職のバッファーなのに!」
だけどサクラは理性を失ってはいなかった。
そして相変わらず一言多かった。
「事あるごとにイチイチ俺が不遇職とか言わなくていいからな。じゃあ行ってこい。でも気は抜くなよ」
「分かってるわよ! おりゃぁぁぁっ!」
イービル・イノシシの群れを相手に、サクラは雄たけびを上げながら真正面から突撃していった。
好戦的なイービル・イノシシはすぐに群れごと応戦してきて、激しい戦いがはじまる。
しかしサクラは巨大な戦斧『バトルアックス』を振りまわしながら、一方的にボコボコに蹴散らしていくのだ。
「バーサーカーってすごいんですね、とてもレベル8の戦闘力とは思えません」
アイセルが感心したように言った。
「バーサーカーのレベルは+10か15するくらいのイメージかな。怒りの精霊『フラストレ』の力さえコントロールできれば、間違いなく最強職の一つなんだよ」
「でもそれが難しいんですよね?」
「そういうこと」
なんてことを話しながら、すぐそばでアイセルに守られていることもあって、俺がいつもよりも気楽に戦闘を見守っていると、
「見てよケイスケ! 私やれるわ!」
戦闘のちょっとした合間に、サクラが後ろで離れて見守っている俺に向かって叫んできた。
「分かってる! そんなことより気を抜くなって言ってるだろ! よそ見してると痛い目見るぞ!」
「へへん、大丈夫よ――って、わぷっ!」
言ってるそばから、サクラがイービル・イノシシに派手に吹っ飛ばされて転がっていった。
10メートルほど地面をゴロゴロして岩にあたって止まる。
サクラの右足は変な方向に折れ曲がっていた。
(現在レベル、俺=120、アイセル=38、サクラ=8。合計レベル=166)
引っ越しを済ませたすぐ次の日から、早速クエストを開始する。
ちなみにサクラの育成に良さげなクエストを、冒険者ギルドを通した指名という形でサクラのパパさんから斡旋してもらっていた。
イービル・イノシシの討伐クエストだ。
地域随一の有力者ともなると、冒険者ギルドの手が届いてない情報を掴んで、こんな風にクエストとして用意できちゃうんだなぁ……お金と権力ってすごいなぁ。
この縁は大事にしたいね、うん。
まぁそれはそれとして。
「今回はアイセルは様子見だ。サクラが1人で戦ってくれ」
「ねぇ、ほんとに大丈夫? ケイスケのバフスキルで、私の『狂乱』スキルはほんとに暴走しなくなるの? ケイスケやアイセルさんを襲ったりしない?」
「大丈夫大丈夫、こう見えて俺はレベル120だぞ?」
「でもケイスケはバッファーだし……」
「バッファーもれっきとした職業だっつーの」
「でもうちのギルドにケイスケ以外のバッファーいないじゃん」
「う……っ」
「うーん、なんか心配になってきたよ……」
なかなか踏ん切りが付けないサクラに、
「サクラ、何も心配はいりませんよ」
「アイセルさん?」
「ケースケ様はそれはもうすごいんですから。かくいうわたしもケースケ様のバフスキルには、いっぱいいっぱいお世話になってきたんです」
アイセルが優しく背中を押してあげる。
「……うん、分かった。アイセルさんを信じる」
するとアイセルの言葉をサクラはあっさりと信じた。
「なぁちょっといいか? なんで俺の言葉は信じられないのに、アイセルの言うことならすぐに信じるんだ?」
「だってアイセルさんは目に見えてすごい実績持ちだもん。ギルドでもいろんな噂話でいっぱいだし」
「そうだな、うん……アイセルは凄いもんな、アイセルの言うことなら納得いくよな。ごめんな、不遇職のバッファーで……」
ちなみにどれくらいアイセルが人気かというと、アイセルの魔法剣そっくりのレプリカ剣(ただし普通の剣だ)を、このあたりの冒険者パーティの前衛職がみんな装備してるくらいに有名で人気だった。
最初に魔法剣を融通してくれた武器防具屋が、『アイセルモデル』として売り出していたからだ。
作ったそばから飛ぶように売れて、今は予約で数か月先まで埋まっているとかなんとか。
さすがはやり手の商人、損して得取れとはよく言ったもんだ。
「でもケイスケのこともすごいとは思ってるのよ? 成り手のいない後衛不遇職のバッファーでレベル120なんだもん」
「分かってればいいんだ、分かってれば」
「よほど優秀な仲間がいて、金魚のフンをしてたのね」
「だからお前はほんとイチイチ一言多いんだよ!?」
「ご、ごめんなさい、悪気はなかったの。でも根が正直なものでつい……」
「正直だったらなに言ってもいいと思うなよ?」
「まぁまぁケースケ様、バフがかかればすぐにサクラも実感として納得しますから」
話がもつれかけたのを、すぐにアイセルが軌道修正してくれた。
いつの間にかパーティのリーダー適正まで見せ始めているアイセルだった。
「ま、アイセルの言う通り『論より証拠』だわな。いくぞ、S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動」
俺はバフスキルを発動した。
少し遅れてサクラがバーサーカーの力の源、怒りの精霊『フラストレ』の力を恐るおそる解放する。
『狂乱』スキルが発動し、サクラの瞳が理性を失わせる真紅の怒りに染まっていき――、
「……信じられないっ! 怒りの精霊『フラストレ』が全然暴走しないなんて! むしろすっごく馴染んでる感じ! ケイスケって実はすごかったのね! 不遇職のバッファーなのに!」
だけどサクラは理性を失ってはいなかった。
そして相変わらず一言多かった。
「事あるごとにイチイチ俺が不遇職とか言わなくていいからな。じゃあ行ってこい。でも気は抜くなよ」
「分かってるわよ! おりゃぁぁぁっ!」
イービル・イノシシの群れを相手に、サクラは雄たけびを上げながら真正面から突撃していった。
好戦的なイービル・イノシシはすぐに群れごと応戦してきて、激しい戦いがはじまる。
しかしサクラは巨大な戦斧『バトルアックス』を振りまわしながら、一方的にボコボコに蹴散らしていくのだ。
「バーサーカーってすごいんですね、とてもレベル8の戦闘力とは思えません」
アイセルが感心したように言った。
「バーサーカーのレベルは+10か15するくらいのイメージかな。怒りの精霊『フラストレ』の力さえコントロールできれば、間違いなく最強職の一つなんだよ」
「でもそれが難しいんですよね?」
「そういうこと」
なんてことを話しながら、すぐそばでアイセルに守られていることもあって、俺がいつもよりも気楽に戦闘を見守っていると、
「見てよケイスケ! 私やれるわ!」
戦闘のちょっとした合間に、サクラが後ろで離れて見守っている俺に向かって叫んできた。
「分かってる! そんなことより気を抜くなって言ってるだろ! よそ見してると痛い目見るぞ!」
「へへん、大丈夫よ――って、わぷっ!」
言ってるそばから、サクラがイービル・イノシシに派手に吹っ飛ばされて転がっていった。
10メートルほど地面をゴロゴロして岩にあたって止まる。
サクラの右足は変な方向に折れ曲がっていた。