ニクシアと対峙したケイデン。

 圧力を放ちながら、ゆっくりと近づいてくるニクシア。
 
 その印象は――――

(強烈な獣気……距離があっても、油断した直後に斬りかかってくる獣の身体能力がある)

 ケイデンは剣を構えた。

 しかし、その構えに違和感を持つのはユウトの横で戦いを見守っていたオリビアだった。

「――――あれ、ケイデンさんの構え。いつもと違って……あっ! 剣を右手じゃなくて左手に持ってます」

「あぁ、ケイデンは魔物と戦う時は剣を右手に、あるいは両手で構えるけど、対人戦闘では逆に左手で構える」

「え? 相手によって剣を振るう腕を変えているのですか!? でも、それは、どうして?」

「魔物の種類によっては、鎧のような頑丈な肉体を持つものもいる。ケイデンはそれを切り裂く剛腕と技を有している。逆に言えば、対人戦闘では剛剣は不要って考えてる」

「なるほ……いえ、わざわざ利き腕を使わない理由にはならないと思いますけど?」

「うん、ケイデンは左右同じ――――両利きで剣を振る事ができるってのが前提だけど――――左で剣を振るいながら、空いた右腕は敵を捕縛することに専念する」

「え? 剣の打ち合いをしながら、相手を抑え込むんですか?」

「うん、見てな。そろそろ動く」

 ニクシアの圧力。 隙を見せた瞬間に襲い掛かる猛獣の如く――――しかし、動いたのはケイデンの方だった。

「む! 攻めに来るか。面白い!」とニクシアは斧槍を振るう。

 剣のケイデンよりも、ニクシアの方が間合いが長い。

 低い軌道。 剣の間合いに入らせないと脛斬りを狙った一撃。

 それを――――「とうっ!」と彼は飛び越えて間合いを詰める事に成功する。

 剣の間合い――――しかし、斧槍は間合いが長いと言っても接近戦に弱いわけではない。

 速剣の打ち合い。 ケイデンの猛攻を、斧槍を両手に持ち直して防ぎきるニクシア。

 しかし、ここで生きるのは前記した通り、ケイデンの組技だ。

 彼の腕が彼女の肩を掴む。 肩を掴まれただけ――――されど、万力のようなケイデンの握力によって彼女の技は動きが阻害される。

 一方、ケイデンは元より左手のみの剣技。 自由だ。自由に剣を振る。

「もらった!」と勝利の確認からか? 珍しく、大声を出すケイデン。

 しかし、その一撃は彼女に届かなかった。

「そこまで簡単に勝利を与えるわけにはいかない」

 彼女の反撃はシンプルな打撃。 蹴りがケイデンの腹部に突き刺さり、縮まったはずの剣の間合いが、大きく広がっていく。

「いいのか? そこは我の間合いだぞ」と彼女――――ニクシアは斧槍を振るう。

 その一撃こそ、剛腕。 人間離れした一撃にケイデンは咄嗟に両腕で剣を構える。

 その圧力に押し潰されて前を向いて倒れそうに――――だが、踏み込んで堪えるケイデン。

(あぁ、なんて剛剣。 まるで崖から転がり落ちた大岩を剣で受けたように――――)

 その思考よりも速く、ニクシアの蹴りが再び放たれた。

 ケイデンの体。 決して細身とは言えず、むしろ大柄と言える彼の体が跳ね飛ばされる。

 大の字になって倒れるケイデン。その胸にニクシアは斧槍の先端を置いた。

「これで決着。我の勝利でいいのか?」と彼女は問う。

「いや、まだやれそうだ」とケイデンは斧槍は退けて立ち上がる。

「やはり、思った通りだ……」

「なに?」

「この俺の想い。最初は異性への恋心かと思った――――しかし、その実は強者への憧れ。ならば、これは激しい好意に違いない! これが――――恋愛か!」

 剣先をニクシアに向けるケイデン。

 瞳は爛々と輝く。その輝きは怪しい光を秘めている。

 その光景――――
 
「え? なんか気持ち悪くないですか? あのケイデンって人」

「シルキア……言いたい事はわかるが、あれがケイデンの個性だ。本人も気にして声を発しない所もあるのだから、言ってやるな」

 そんなユウトのフォローも通じたのかわからない。 その確認する間もなく、両者の戦い。 

 ニクシア対ケイデンの2回戦が始めた。