『これだけ食料とかオマケがあれば大丈夫かな?』
と、止まった?
木箱や袋に入ったなにかと、武器や防具なんかが、祭壇を埋めつくしたところでようやくとまったみたいだ。
『そだ、ヒントをひとつ♪ 下の祭壇と~、上の祭壇を入れ替えたら面白いことになるからね~、頑張って~、君の事は面白いからたまに覗いておくからね~。ばいば~い♪』
は? いやいやロリっ子! 何かいっぱいくれたみたいだけど、ここからの脱出のやり方とか、いっそのこと外に出してくれるとかじゃないの!?
呼ぼうが叫ぼうが返事はない。
じゃなくて、これからどうしたら良いんだよ……もう返事も来ないし……。
よし、一旦落ち着け! し、深呼吸だ……って息してないし!
ま、まずは現状を把握するんだ、扉は――閉まってる。
小窓に一度挑戦はするとして、ロリっ子が出していった物は脱出前に全部収納しておくべきだよな。
高く山積みにされている物を一つずつ、収納しながら鑑定していく事にする。
こんなのは勢いよく全部まとめて収納しちゃうのがテンプレで『あっ! これ最初に拾ったヤツだよ!』とかやるには良いかもだけど、それは小説とかの話であって、実際にこの状況だと何があるか知っておかないとマズイ気がするよな。
ロリっ子が出したもので見えなくなった祭壇へ、ぽよぽよと近付いて端から鑑定しながら収納していく。
どれどれ最初はこの袋からだな、一袋の大きさは俺の倍くらいか、ぼこぼこして何が入ってるか分からないけど、あまり大きな物は入っていないいみたいだな、よし、鑑定っと。
――――――――――――――――――――
じゃがいも 美味
魔法の麻袋 じゃがいも入り
――――――――――――――――――――
うん、食料だね。でもじゃがいもを選ぶか普通……。
ま、まあ、まともな食材ではあるし、次の見てみよう。
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ピメンタ 日本では胡椒
魔法の麻袋 ピメンタ入り
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おお胡椒じゃん! ピメンタとか知らない名前だからさ、そのままだと絶対分からないけど、鑑定のお陰だよね♪
でもこれでバターがあれば、じゃがバター胡椒風味が出きるじゃん!
バター様かもーん! おいでー! こわくないよー。
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チーズ(各種) 色んなチーズ
魔法の麻袋 色んなチーズ入り
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ちょっと違うけどチーズ来たぁぁぁー!
と、最初はドキドキしながら鑑定&収納を繰り返していたんだけどさ、バターは見付からず、積まれてた麻袋は無くなった。
次は多くはないが、魔法の麻袋とそう大きさが変わらない木箱に移ったんだけど、食材だけじゃなくて、鉄とか銅、銀、金なんかの素材に始まり、衣類なんかも入っていた……スライムの服って無いよね……王冠とマントがあればワンチャン……。
ひとつずつ中身を確かめながら、木箱も収納し終わると、残りは剣とか槍、盾に鎧と装備品は剥き出しで積まれてあってので、鑑定するまでもなく収納してまわった。
途中で王冠っぽいけど腕輪、力が上がる魔法の腕輪を見付けたから頭に乗せておく。
ちょっと王様気分で麻袋と木箱、装備各種を収納し終えて気付いたんだけど、小さな革袋が一袋ポツンと落ちている。
体を伸ばしてつついてみると、チャラチャラと細かくて、そこそこ硬い何かが入ってるようだ。
何も考えずに鑑定してみると。
――――――――――――――――――――
種(確定前) 種(確定前)
魔法の革袋 種入り
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は? 種? 何の種なの? 確定前ってことは何が育つのか植えてみないと分からないってことかな? それとも確定してから植えれば良いのか?
謎だけど、一応神様だろロリっ子は……ってことはこれをどこかに植えるんだろうと思うけど……。
まわりをぐるりと見渡してみても、召喚された部屋で、絵や鏡を収納した時見たけど石の壁に床、天井だろ?
後ろを振り向けば見上げる祭壇……まだ上に乗ってるじゃん!
回収するのは当然として、後は扉と、この祭壇だけだし、種を植えるところないよな。
……よし、収……これ、この革袋って模様が入っていてちょっと格好いいしマントにできそうだよね……うん、装備しておこう!
次は祭壇の上に残っていたものも鑑定しながら収納し終わったんだけど、この後は……そうだ、扉の小窓!
ちなみにバターを発見して思わず飛び跳ね喜んでしまったけど、途中で一人だし、ロリっ子がまた見てるかもと思い、恥ずかしくなってきたので止めておいた。
次は小窓に挑戦するため祭壇から飛び降り――ることはせず、壁歩きで床に降りて扉に向かい、貼り付いて小窓に向かって登る。
くははは! 今の俺がちょうど通れるだけのサイズだし、ひょいっと――むきゅ……だ、駄目か。
今の『むきゅ』もロリっ子が見てたのかと思い、とぼとぼと扉を壁歩きで降り、途方にくれてぇぇぇー! ってロリっ子が祭壇をどうとか言ってたじゃん!
えっとなんて言ってたか……『下の祭壇と~、この祭壇を入れ替えたら面白いことになるからね~』だったよな。
そうと決まれば! 収納! で~、階段を下りながら~祭壇で蓋をするように出しておけば良いかな。
しばらくは召喚部屋には誰も来そうにないよね、スニーカー以外一緒に来た人達の忘れ物は無かったし。
ほいっと!
ズンと階段の入口が祭壇で閉ざされて、天井になった。
よしよし、その後下の部屋に下りてきたんだけど、本当に何もない。
そして上の祭壇を置いたんだけどさ……何も起こらないんだけど!
あ? もしかして上下逆? 考えたら上で収納した祭壇をそのまま出した気がするかも……。
そう思い当たったらやってみるだけだよね。
今置いた祭壇を収納して、階段を上り、上の祭壇を意識して収納して、下から持ってきた祭壇を意識して出す。
ズンと音を響かせて蓋完了。
急いで下に戻って上の祭壇を収納から出した途端――ズズズズと置いた祭壇がいや、これは蓋が開いてる! もしかしてこれは石の柩で中に階段があるパターンでは!
ゴンと柩の蓋が開ききったようで、石同士がこすれるこすれる音も聞こえなくなった。
俺はロープレで柩の中と言えばこれくらいしか知らない! 宝か階段だ! 中には金銀財宝またはダンジョンへの入口だ! ワンチャンって言うか、骨の魔物が出てくるパターンは心の底から遠慮したい!
考えていても仕方がないので、急ぎ柩を上り、縁に乗って中を見たんだけど……幼女が……なんだか悪魔のお姉さんが着るような露出が激しく、ほとんど裸な服を着て寝てるんだけど……。
ってかロリっ子が言ってた面白い事ってこれ?
ってか生きてるの?
えと、生きてたら生きてたで放っとく訳にはいかないしな。
いやいや召喚されてスキルはいっぱいあるかもしれないけどさ、HPもMPも確か……。
――――――――――――――――――――
HP 3
MP 3
――――――――――――――――――――
だよね~。自分の事だけでもこのステータスだし、幼女のお世話をしながらとかハード過ぎだよ……。
あっ、それより生きてるかどうか調べてからだよな。
柩の縁から内側に入り、壁歩きで降りていく。
寝ている首もとを見ると、脈打ってるのが分かった。
一応鑑定してみるか。
――――――――――――――――――――
名前 イル・ミンスール
性別 女
HP 3
MP 測定不能
備考 魔王
――――――――――――――――――――
おいロリっ子神よ……ロリっ子魔王だぞ……。
「だれですの? やかましいですの」
俺が天を仰ぎ見て、ロリっ子に恨み辛みを愚痴ろうとした時、ロリ魔王が目を開けて俺を見ていた。
目の前にある、ロリ魔王の燃えるような紅い目に、俺のぷよんぷよんボディーが映り込んでいた。
視線をずらすと、少し開いた薄桃色の薄い唇の奥に、二本の牙がちょこんと顔を見せている。
視線を引いて見ると、上から覗いた時より頬も赤身をおびて、生きているのか死んでいるのか分からなかった顔色が、精気を取り戻したように見えた。
「えっと、スライムさん?」
ゴロンと寝返りをうち、俺の方に体を向け、手を伸ばしてきた。
ふよんと優しくつつかれて、あまりにも可愛い顔に見惚れて意識が飛んでいた事に気が付いた。
「あっ、スライムさんは喋れなかったのです? でも、どこからか入ってきたのです? ここは複雑な封印がされていたはずですの」
つつかれた後、優しく体の下に手が添えられ手のひらに乗せられていた。
『あ、あのね、色々とやってたら君が入ってたこの柩が開いたんだよ』
「そうなのです? あっ喋れましたの♪ 嬉しいですの♪」
『うん、念話スキルかな? 声は出ていないけど、君には俺の声が聞こえるようだね』
楽しそうに、もちゅもにゅと体をマッサージされていたけど、手を止めてじぃ~っと見つめてきた。
『どしたの?』
「ん~、それなら私はこの中からお外に出ても良いですの?」
『そうだね、でも、この部屋と上の部屋だけしか無いんだけどね、扉はあるけど出られないんだ』
なぜかさっきから子供に言い聞かせるような感じで喋っちゃってますけど。
「扉があるなら出られるですの、私はお外に出たいですの」
じっと見てこられても、鍵が開けられて、神器がないと無理なんだよな。
でも、いつからここに閉じ込められているのか分からないけど、出たいのは俺も同じだし、ここは協力して外に出れるように頑張ってみるか。
『よし、えっと、俺は東雲 友里だよ、友里って呼んでくれるかな?』
「ユウリですの? 分かりましたの」
幼女は俺を手のひらに乗せたまま、起き上がって立ち上がると、柩をよっこいしょとまたいで外に出てしまった。
「私はイル・ミンスール、イルって呼んで欲しいのです。駄目です?」
『うん、イル、よろしくね』
「わーいですの♪」
ぴょんぴょんと、ほんの少ししか跳び上がれてないようだけど、顔は満面の笑みで、体全体で嬉しさを表しているようだ。
そうだ、持っていける物は全部持っていかなきゃな。
イルが入っていた祭壇改め柩を収納してしまう。
「あっ、私の寝床が消えちゃいましたの」
『大丈夫だよ、僕が収納して持っていくから安心してね。それじゃああの階段から上に行こうか』
「は~いですの、ユウリはスゴいのです、頑張って階段上っちゃいますの」
ペタペタと裸足で歩く音が聞こえて、ロリっ子からもらった装備に確か靴なんかも色々とあったよな。
それもサイズ調整ができる装備が。
『イル、ちょっと待って、裸足だと怪我しちゃうかも知れないから靴とか、そうだ、服も出しちゃうよ』
何か良いのあったかな、サイズ変更ができて――は? なんだあれ……。
「あっですの! 封印が解けても駄目だぞって言われてましたの! やっつけられちゃいますの!」
へ? 誰に何を言われたか知らないけど、どゆこと!?
階段があった対面の壁に縦線が入り、音もなく横にスライドするように開いて、その奥には青く光る目が二つ浮いていた。
『なんだよ! 何が出てくるんだ!』
コツコツとゆっくりとだが青い目がこちらに向かって近付いてくる。
「しゅ、しゅ、守護者ですの! とぉ~っても強いのです! あわわわ――まだ力が出ないので逃げられないのです!」
手のひらに俺を乗せて右往左往のイル。
イルが魔王で出てくるのが守護者か……、魔王を封印して外に出させないようにしているのが守護者、と言うことなら、イルを守るためには倒さなきゃってこと?
目以外見えなかった守護者とやらが、壁が開いたところから部屋に入ってくる時、何か透明な膜を通りすぎたように見えた。
ん? もしかして上の扉をくぐるための神器をこの青いラインが入った真っ白な鎧を装備して、青白く輝くこれぞ聖剣って剣を持った奴が持っているって事か?
それなら……いただいちゃうしかないよね、イルを外に出すって決めたのだから。
『イル、階段のところまで下がって! 俺がなんとか神器を手に入れてみるから!』
「ほへ? 危ないですの! 守護者には勝てませんの!」
大丈夫! やってみるから俺を下ろして階段まで下がってて!
あわあわしているだけで、俺を離そうとしないから、無理矢理飛び降りることにした。
そして飛び降りながら鑑定だ!
――――――――――――――――――
封印の守護者 聖なる鎧
封印の守護者 聖なる盾
封印の守護者 聖なる兜
封印の守護者 聖なる剣
――――――――――――――――――
なんだよそれ! 聖なる装備品が集まって勝手に動いているのか! ってことはリビングアーマーかよ!
『きゃは♪ きゃははは♪ きゃははははは♪ リ、リビングアーマー! 遥か昔にヘーパイストスが打ち、勇者が装備した聖なる神器がリビングアーマーって、も、もうだめぇぇー! お腹痛いぃぃぃ!』
ロリっ子! 笑っていても良いが邪魔するなよ! こいつが持つ神器がここから出るのに必要なんだから!
ロリっ子が笑い声と共に動きが止まったリビングアーマーに素早く近付く。
中身がなくて、倒せなくても神器だけは触れば収納できるはずだ。
まだ止まっている、手を、いや触手を伸ばして振りかぶり、鞭を前に振るうようにリビングアーマーに当てる。
咄嗟に動き、盾で塞がれたが狙いどおりだ! 収納!
伸ばした触手はペチンと盾でガードされたが、弾き飛ばされそうにったがそのまま引っ付き、収納してやった。
『うそん! 神が造りし聖なる盾を収納しちゃったよ!』
「はわわわ! 盾が無くなりましたの!」
よし次は剣だ! できれば鎧からいただきたいけど、絶対剣で邪魔されるはず。
それに――どわっ!
ブオンと足が目の前に迫ってきた――が床にペタンと潰れるように避け、元に戻る勢いも利用してリビングアーマーの背後にダッシュで回り込み、また鞭のように触手を振るう。
サク。
――ぐあっ! 収の――体が切られた! 間に合わなかった、背後に回ったはずが一瞬の内に向きを変え、伸ばした触手を切り飛ばされたぞ!
「ユウリ!」
『へえ、やるね。守護者の盾を奪っただけじゃなく……これは僕の予想より当たりかも』
チッ! ロリっ子それ以上言うなよ!
連続で繰り出される剣を掻い潜り、前に後ろにあらゆる方向に避けながら、もう十本以上触手を切られている。
最初に切られた時は、一気に死んだかと思った。
でもHPが3しか無いのに触手を切り飛ばされても減っていなかったんだ。
それに――。
「が、頑張るですよユウリ! 負けるなです!」
『任せて、外に出るって言ったからには一緒に出るから!』
(東雲友里君、召喚前の場でも一人だけ動けていたし、下位の精神耐性では押さえきれない精神の強さを持ってるなってと思ったけど……僕を救ったこの子ならもしかすると)
階段の一段目に立ち、俺とリビングアーマーが戦うところを見守るイル。
「あーまた切られたのです! も、もう逃げてです! 切られて小さくなってるですよ! 無くなっちゃうです!」
そう、十センチはあった俺の体は既に半分以下の大きさになっている。
だが諦めない、小さいから狙いが雑なリビングアーマーでは決定打さえ……来た……どんどん……意識が……薄く…………。
「いやぁぁぁー!」
この体で最後に見たものは階段で叫ぶイブと、迫り来る剣だった。
「いやぁぁぁー! ユウリィィー!」
『収納!』
『あははははは♪ お見事だよ東雲友里君! 炎と鍛冶の神、ヘーパイストスの神器を全て収納しちゃう事で守護者を倒しちゃうなんて、面白いものを見せてもらったよ♪』
リビングアーマーが消えて、足場がなくなった。
ポテっと床に着地したところにイルが涙と鼻水でくちゃくちゃな顔をして走りよって来る。
――と思ったら、俺を掬いあげ、胸に抱いた後、さらに持ち上げどろどろの可愛い顔の前に。
「ばべ? じんでないでずの? いぎでまずの?」
『うん、生きてるよイル。バレないように移すのちょっと難しくて、間違えば本気で死ぬかと思ったけどね』
精神耐性様々だよまったく。
イルは俺がどうなったのか、どうやって生きていたのか分かってないって言うから説明してやることにした。
『最初に触手を切られた時、リビングアーマーの足に切られた触手が張り付いたんだ』
真剣な顔の前に俺を持ち上げて聞いている。
『その時はヤバいとしか思えなかったんだけど、その切り飛ばされた俺の一部はナゼか動かせたんだよ。それなら少しずつ体を移していけば、リビングアーマーにくっついてる方が本体になるんじゃないかと思ってね』
「な、なるほどですの!」
『少しずつ気付かれないように本当に少しずつ体を移して、鎧の中に潜り込ませて、中でまとまることにしたんだ。それで少しずつ大きくなりながら胸のあたりにまとまってね』
「無くなっちゃったと思いましたのに、守護者の中にいたのです!」
『それから収納するには触れてないと駄目なのと、俺の……意識で良いのかな、本体が触れてないと駄目なんだと分かったんだ。既に胴体には小さい体がくっついていたのに収納できなかったからね』
イルは俺の話を真剣……興味津々で聞いている。
目は涙に濡れて、鼻からは鼻水が出たままだけど、悲しんだり、疑問を浮かべる表情ではなくなって、もっと知りたいって顔をしているから話を続けた。
『まあそれで、引っ付いた小さい俺を動かして兜と鎧の下半身、腕にも触手を伸ばして、最後はガントレットって分かるかな? 金属で造られたグローブなんだけど、少しあった隙間から剣にも触れて準備が終わったんだよ』
でもその頃には外で頑張ってる俺は二センチほどしか無くなっていたんだけどね。
イルはふんふんと鼻息荒く、アクション映画のラストシーンでも観ているのかと思えるほど興奮している……。
『そして外の体が最後の一撃を受けた時、意識をリビングアーマーに入り込んだ中の体に移したんだ』
『ほんと、あり得ない事を考えたものよね~、精神耐性と、そう言えば苦痛耐性もか、まあスライムには痛覚が元々ないんだけどね。でもそれがなきゃ体をわざと切らせるなんて普通考え付かないわよ、そうだ、ヘーパイストスには今度教えてあげよっと』
ロリっ子よ、その方って神様でしょ? お願いだから変な言い方しないで、一応謝っておいてね。
ロリっ子が変なことを言うから意識がそっちに行ったが、イルは俺を両手で掲げ上げている。
「凄いのですよ! 四天王の不死王ヴァンより死なないのです!」
『おお! 四天王! 不死王ヴァン! 響き的に吸血鬼かな? ってか、ロリっ子まだいる? この鎧セット持ってれば外に出れるかな』
『出れるよ~、その鎧を装備したらほとんどの結界や封印でも無効に出きるだろうからね~。よ~しヘーパイストスのところに遊びに行っちゃおっと、またね~東雲友里君』
は? 装備って無理に決まってるじゃん! 俺スライムだよ! 兜とかだけでいいの? って聞いてる!?
肝心な事を聞きたい時に! ……ったくまた消えちゃったよ。
「ずずっ、ね、ねえユウリ、本当にもう大丈夫なのです? それにロリっ子?」
『ああ、大丈夫だよ、ロリっ子は神様かな? 俺をこの世界にってか、そうだ残りの体も回収するから下ろしてくれるかな?』
涙は止まっているけれど、まだ心配そうな顔で覗き込んでくるイルだけど、鼻水が出たままなので触手を伸ばし、涙と鼻水を拭き取るつもりで吸収しておい。
剣を吸収できるんだし、可愛い子が俺のために流した涙と鼻水だしね。
「くふふ♪ ユウリありがとです、あの上に下ろせばいいですの?」
『ああ、それで良いかな』
イルがとった行動は、一センチあるかどうかの俺の体へ、しゃがみこんで俺を持ったままその上に置いてくれた。
体に触れた瞬間に、回収は完了だ。後もう一個は、飛ばされてそっちのリビングアーマーが出てきた部屋に入っちゃってるね……あれ?
確かあそこにも膜みたいなものがあったよね?
イルに待ってと言う前に何か透明で、本当に薄い膜をイルに抱えられたまま、くぐり抜けた感覚があった。
『――ヤバい! イル、外に出れるか試してみて! もしかしたらまた閉じ込められたかも!』
「ですの? それは困りますの、私はお外に出たいのです、えい! あっ……」
イルは俺が言ってすぐに振り向き、向こうの部屋に通じ、何もないように見えるところを、手を伸ばしたんだけど、見えない壁に触れたように手が宙で止まった。
「何かここにありますの……」
『イルごめん、もっと早く言うべきだった、リビングアーマー倒して浮かれていた俺のせいだ。』
透明な壁に手をついたまま、うつ向いてしまったイルだけど、壁から手を離し、両手で俺を抱えてくる。
「……でも、今度は一人じゃないから寂しくないですの、ユウリがいるのです」
うん、そうだな、俺も一人になっていたからその寂しさは分かる。
イルはどれくらい前かは分からないけど、あの柩に一人で封印されてたんだもんな。
俺の場合は一年足らずだし、分かると言ってもイルの寂しさとは比べられない。
腕の中の俺を見つめてくるイルに、そっと職種を伸ばしてほっぺを撫でてあげた。
『これからはイルと一緒にいるから、よろしくね』
「よろしくですの! あっ、ユウリのあそこにいましたの」
ちょこちょこと小走りで、何もない壁も床も天井さえも石造りの小さな部屋の中央でぷるぷるしている小さい体を見付けてくれたようだ。
さっきと同じように、そっとその上に下ろしてくれて体が元の大きさに戻った。
「これでユウリが元に戻りましたの♪」
『ありがとうイル――そうだ! あの鎧だよ!』
ふと、ここにあのリビングアーマーがいたのかと考えた時、神様が造った鎧ならイルでも装備できないか? ロリっ子がくれた装備でも、サイズ調整ができたんだ、いただいた聖なるセットをイルが装備できたなら……、やってみる価値はあるよね。
『ねえイル、そうだねこのガントレットを装備してくれない?』
俺を床に下ろしたまましゃがみこんでいるイルの前にガントレットの右を出す。
「これ着ますの?」
『そうだよ、本当は俺が着れれば良いんだけど、これだからね~』
ガントレットの手が入るところに触手を伸ばして入れてみて、ブカブカなのを見せようとしただけなのに――。
へ? ガントレットは縮み、俺の触手のサイズにピッタリになってる……おい、これってもしかして!
「小さくなりましたの!」
ちょ、ちょっと待ってね!
「待ちますの!」
俺はそのまま透明な壁に近付き、もちろんイルも真後ろについてくる。
そしてガントレットの形のまま小さくなった手で壁に触れ――ない。
抜けられるぞ! ――いや待て! これじゃ俺しか出られないってパターンじゃないのか!?
……俺はガントレットを引いて、触手だけで透明の壁を触ってみる――薄い膜を通り抜ける感触はあるけど装備していない触手も透明の壁を抜けることができた。
『よっし! 抜けられるぞ! イルおいで、そして俺を持ってくれれば壁を抜けられるはずだ!』
装備は別に全部しなくても良かったんだ、これならイルに引っ付いて通り抜ければ良いだけだ。
「はいなのです、よいしょ、行きますですよ!」
イルお願いね、ほら、手を伸ばしてごらん。
そ~っと慎重な顔で手を伸ばし、さっきはあった壁を、なんの抵抗もないように通り抜け、そのまま祭壇だけあった部屋に戻れた。
「出ましたです! やりましたの!」
『よっしゃー! よし、このままとりあえず上まで行こう!』
「は~いです♪」
ちょこちょこと足を動かし、階段をうんしょうんしょと登って、階段の突き当たりで、天井というか蓋になっていた祭壇に触手を伸ばして収納。
「上の部屋に到着できましたの!」
色々とあったけど、とりあえず俺が召喚された部屋に、イルと共に戻ってこれた。
「到着なのです、ユウリ、ここからどうしますの?」
『イル、あそこの扉から外に出れるはずなんだ。その前に、祭壇を戻しておいた方が良いよね』
今上がって来た場所に祭壇を戻した時、ふと目に入った鏡……。
確か、スライムの俺が人間の姿になるようなスキルはなかったけど、イルなら人の姿だし、えっと確か……。
――――――――――――――――――――
幻影 術者が触れたものの姿形を、術者の想像通りの姿形、声色まで、変えることが可能。
――――――――――――――――――――
これだ、これを俺ができれば一番なんだけど、俺が触れてないと駄目で、仮に使えたとしても、色違いのスライムにしかならないってことだもんな。
それから声か……いくら声色を変えても、イルの喋り方だとすぐにバレてしまうよな。
ってかさ……俺、念話で喋ってるけど、普通に喋る事ってできるのか?
スライムだぞ……よ、よし、駄目なら駄目で仕方がないし、やるだけやってみるか!
「あいうえおおお! 喋れるじゃん!」
「ユウリが喋りましたの!」
発声練習で、音くらいは出るかなと思ってたけど、普通に声出るじゃん!
イルは俺が喋ったのが嬉しかったのか、持ち上げた後、回したりひっくり返したり、眼をキラキラさせて俺の事を観察している。
「ああ、俺もびっくりしたよ、まさかスライムが喋れるとは思わなかったからね、うめき声とか出ればワンチャンと思ってた」
「わんちゃんですの? ユウリはスライムさんなのですよ? でも確かスライムさんは喋りませんでしたの、ユウリは凄いのです」
こてっと小首をかしげるイル可愛いな……オラはロリコン違うぞ! ってオラって何だよ。
「あはは、元々は人間なんだけどね、ロリっ子の神様にスキルをもらい過ぎてスライムになっちゃったんだ、って、イル、あそこの鏡の前に行ってくれない?」
「神様です? よく分からないのですけれど、あの鏡のところ行けばいいのです? 任せて下さいですの」
素直に鏡の前に進んでもらっている間に、自分の姿を想像しておく。
多少美化しても良いよねと考えている内に鏡の前についていたので、イルに説明する。
イルの姿を俺にみせかける事にして、ここから脱出する事にしたいと伝えた。
途中で言葉を挟むこともなく、真剣な顔で聴いてくれたけど、
「楽しそうですの! ユウリになりきりますの!」
「断られなくて良かった、イル、早速やってみるね。自分を想像して……幻影!」
スキルを意識して口にした途端、鏡に映るイルがほんのりと優しい光る膜に包まれ、見えなくなったと思った次の瞬間、パッと光が消えて鏡に映っていたのは、異世界に来る前に部屋で来ていた黒色Tシャツに、サルエルパンツを着た俺だった。
「おお!」
「はわわ! 男の人になりましたの! この方がユウリ? 可愛い顔してますの♪」
うん、自分の声はこんな風に聞こえるのか、普段自分で聞いてるのとは違うけど、まあ良いか。
姿はほんの少しデフォルメ、髪の毛を入学当時の短髪にしておいた。
本当はもっと格好良くもできると思ったけど、想像力だからやはり自分の知っている姿しか無理だった。
「可愛いかな? 格好良いって言われたいんだけど、ありがとうイル、じゃあ扉に向かってくれる?」
「分かりましたの、次はどんなお部屋か楽しみなのです。ユウリはお兄ちゃんみたいで格好良くもありますので大丈夫ですの」
ありがとうと返し、扉前まで移動した後、扉に引っ付けてもらい、小窓まで壁歩きで登る。
さあ、さっきは駄目だったけど、やってみるしかないね。
「じゃあ外に出て鍵を開けてくるから待っていてね」
眼下で頷くイルから目を離して小窓に向ける。
せーので小窓をくぐると、見えない薄い膜を通りすぎた感覚があり、俺は召喚された部屋からの脱出に成功した。
よし! このまま早速鍵を……閂かよ。
鍵は三ヶ所、その三つとも小さな閂だったので、容易に外す事に成功した。
そこで鍵を開けることに集中していたから見てなかったけど、回りを見ると、ぼや~っと壁が光っている事に気が付いた。
そして通路は窓もなく、なんだか凄く豪華そうな絨毯が敷かれているし、召喚だからお城のどこかってことか。
とりあえず誰もいないようだし、イルを連れて部屋を出てから考えよう。
小窓からまた召喚されたら部屋に戻り、待っていたイルの肩へ飛び乗り幻影を唱え直した。
「お待たせ、さあ行こうか、もう扉は開いているしね」
「はいですの! 行くのです!」
意気揚々と手を伸ばし、ふんふんと鼻息を荒くしてガチャとノブを回し、扉は内側へ簡単に開き、部屋の外へ一歩を踏み出した。
「やったね、イル、ここはお城のどこかだと思うんだけど、知らないよね?」
「ほおぉぉ! 明るいですの! もちろん知らないところなのです、このまままっすぐ行けば良いのです?」
「そうだね、あの先に見えている扉まで行ってみようか、それと、イルは念話を使えるよね?」
「はいですの!」
『念話できますの♪ お外ですの~♪』
外に出れたことが嬉しいのかごきげんだが、ただの通路なのにキョロキョロとあちこち見ながら足は先に見える扉に向かって進んでいく。
結構みんなが出ていってから時間が経ってしまったから誰もいないため、何事もなく扉までこれた。
念話もできる事が分かり、誰かに会ったら俺が話すねと決めてから、イルが取っ手を握り、扉を開けたんだが――。
「きゃっ!」
ヤバい、外に誰かいたようだ。
急に開いたから驚いただけなら良いんだが、ぶつかってはなかったよな?
そっと開けた扉から顔を覗かせたるイル。
『えとえと、どうすれば良いですの!』
『任せて、イルは落ち着いてまずは外に出よう』
それと姿消し!
『俺の姿を消しておいたけど大丈夫かな?』
『はいですの! 乗っているのは分かりますけれど、姿は見えませんの! では、お外にでますの!』
意気揚々と扉を開けきり一歩外へでた。
「ごめんなさい、怪我とかしていませんか? 俺、東雲友里と言います。召喚されたのですが置いていかれたみたいで」
イルはちょっと遅れているけど俺の声に合わせて口をパクパクしてくれている。
扉の前にはイメージ通りのメイド服を着たお姉さんが固まっていた。
ハッと気を取り直し、俺の頭の先から足の先まで目をやった後、なんとか笑顔を作り、返事をしてくれたんだが、ヒクヒクと頬が痙攣している。
「シノノメ・ユウリ様、勇者様と他の者達は既に謁見のため、王を待つ控え室に移動して待機しております。城の中は複雑でございますのでご案内いたしましょうか?」
――――――――――――――――――――
なぜこんなところに一人忘れているのよ! 近衛達はどこを見ていたのよ! クソ勇者の世話なんてしたくなかったから連れていった後、ここでサボっていたのに!
――――――――――――――――――――
は? これはなんなの!?
鑑定もしてないのに、メイドのお姉さんの頭の上に鑑定した時のようなものが浮かび、目の前でニコニコして俺に話しかけてきた内容とは意味がまったく違う文字列が並んだ。
クソ勇者? 勇者が必要だから召喚したんじゃないの?
「あ、ありがとうございます? えと、お忙しいとは思いますが、良ければ案内をお願いしても良いですか? 駄目なら自分で探しますけど……」
――――――――――――――――――――
あら、この子はまともそうね。
今回喚ばれるのは蛮族のような振る舞いしかできない、下半身で物事を考える男と、悪女が可愛く思えるほどの女って聞いていたのに……。
まあ大人しいなら連れていってあげても良いわ。
――――――――――――――――――――
「お気遣いありがとうございます。ですがこの世界に来ていただいた勇者様を一人で迷子にさせるわけにはいきません」
「ありがとうございます」
「ではこちらに」
メイドのお姉さんは軽く会釈をした後、綺麗に向きを変え歩きだした。
『イル、とりあえずついていこうか、お願いできる?』
『分かりましたの! お姉さん怪我なくて良かったのです』
お姉さんについて行き、お姉さん以外とは誰にも会わず、あっち行きこっち行きした後、扉前を騎士が護る部屋に到着した。
「こちらのお部屋です。沢山の食べ物、飲み物が用意されていますので、しばらくの間こちらでお待ちください」
――――――――――――――――――――
ほんと大人しい子ね。
少し試しで遠回りしてみたけど、一言も文句を言わなかったわ……噂が間違っていたのかしら?
この子みたいな子達ばかりなら、騙されるのが可哀相に思えてくるわね。
――――――――――――――――――――
遠回り中に色々と考えてくれたから、どういう状況かは分かった気がする。
結局魔王がどうとかじゃなくて、隣国との戦争のためだとか、魔物討伐の要員として召喚されたたって事だ。
「ありがとうございます。お姉さん忙しいところすいませんでした」
「いえいえ。ユウリ様、食事の前に王からお話がありますので、しっかり聞くようにお願いいたしますね。では私はここで」
お姉さんが会釈をして、立ち去ろうとした時、みんながいるであろう部屋の扉が開いて、ガヤガヤと声が聞こえてきた。
謁見の間に入った俺とイル。
そこはバスケットボールのコートが二面できるような広さがあった。
クラスメイト達が中央に並べられたテーブルで、ザワザワと談笑している。
貴族達は左右の壁際に並んでテーブルにつき、その後ろに騎士達が立ってた。
……三十……いや、もっと沢山、相当な人数がいるように見える。
俺とイルは、クラスメイト達が座る席の一番後ろへ向かう。
正面にある一番奥の椅子は、他の質素な椅子とは違い、金ピカだ。
あれは王様が座るんだろうな。
その椅子の方を見ているクラスメイトの一番後ろに到着した俺は、自分で椅子を引き、小さくガタガタと小さな音を立て、みんなと同じように座った。
その音で気付いたのか正面の子が俺の方をチラリと見て、驚いた顔をしただけでまた前を向いてしまう。
あれ? この子――。
「勇者の皆様、王が参ります。そのままで結構ですのでお待ち下さい」
――ヤバい、よそ見してる場合じゃないな、タイミングよく王様が来たようだ。
目線を前に戻し、部屋の奥にある扉前にいたメイドさんが、王様が来たことを知らせてくれた後、すぐに扉が開いた。
部屋に入ってきた人物は、金ピカな椅子まで来てメイドに椅子を引いてもらい座ったのだが……金ピカな服を着た『これぞ王様!』って格好の王様だろう人物だ。
だが、まだ三十歳いってるかどうかの王様が話し始めたところへ、かぶせるように喋り始める空気読めない奴がいた。
「勇者様方、お越しいただき感謝する。ビスマス王国国王のカドミウム・フォン・ビスマスだ。皆に来――」
「なあなあ王様~、神様に聞いてんだけどよ、俺達は元の世界にゃ帰れねえようだな、それもお前らのせいでよ」
いきなり話しかけ、この場にいた貴族、騎士、メイドなどの使用人達が『はっ』と息を飲む音が耳に届いた。
「王様よ~分かってんだろ? それに自由に生きて良いらしいんだ、そのためにとりあえず使いきれねえ金と、誰にも命令されねえ地位をくれよ」
クラスメイトの中で素行が悪く、俺の事を無視するだけじゃなく、筆箱やノート、教科書なども隠したり壊し破きしていた奴だ。
そういや先生の話も聞かないで、ホームルームも早く帰りたいのに邪魔とかしていたな金谷は。
それに王様に向かってトンでもない事を言い始めるってか、もう用意された食事に手をつけているぞ……。
「金谷~、住むところも貰おうぜ、美人なメイドもよ~」
「おっ、お前頭良いな、それも頼むぜ王様よ」
金谷のグループで、いつもつるんでいた二人も同調してそんなことを言い始めたが、ガタンと壁際から音が響いた。
「何と言う無礼!」
「不敬であるぞ!」
まわりの立ち上がった貴族達から非難の声があがるが、王様が一声『よい、座れ』と言った途端、まわりは静かになって貴族達は金谷達を睨みながら座った。
マジで召喚の部屋からここに連れてきた騎士達に何も言われたり注意されなかったのか? いや、言われても聞かないか……。
それもだけどメイドの言った通り、みんなの顔を見渡し分かったことは、クラス全員が異世界に勇者召喚されたようだ。
その中の一人、俺の横でふひふひ言ってる奴もヤバそうだ。
――――――――――――――――――――
ふひひっ、僕が勇者ですか、光の玉が浮きながら話しかけてきた時は驚いたけど、異世界に来ても僕はトップになる運命なのですね♪
そう言えばクラス全員がって言ってたのに僕が付き合うつもりだった、西風 茜に色目を使った友里の野郎はいないな? まあ、その後言うことを聞かなかった西風も無視して苛めてやったけどな。
まあ二人ともいてもいなくても、僕が県議会議員で保護者会の会長である父の権威を使い、クラスメイトの親に圧力をかけ、ちょっと無視させただけで登校拒否する奴と、言うことを聞かない女など、僕の異世界ライフの駒には必要ないか。
――――――――――――――――――――
は? 森辻のやろうが俺の事を無視するように命令してたのか? 俺はてっきり金谷の仕業だと思っていたんだが……。
ってかよ、コイツ、さっき俺の事を見ただろ! 横に来てるっての! 目が腐ってんのか!
「――心配は不要、この世界で生きていくために必要な魔道具は渡すつもりだ。魔道士長」
「はっ」
え? 色々と考えてたりしたら何も聞いてなかった……だが何か木箱に入れて持ってきたけど魔道具?
「お、おい委員長、魔道具とはなんの事だ?」
森辻の隣にいつもいて、俺を最初に宣言して無視を始めたクラス委員長の国分に小声で話しかけている。
「なんだ、話を聞いてなかったのかい? この世界は召喚者には厳しい世界、魔物と命のやり取りをしなきゃならないって聞いたよね?」
「お、おう」
ヤバい、何も聞いてなかったぞ……魔物か、俺なら大丈夫なのか? 魔法なんかもいっぱい神様からもらったし大丈夫だよな?
俺の疑問をよそに委員長はさらに話を続けるから耳を傾けながらまわりのみんなの様子も見ておく。
「その為に僕達召喚者は強力な精神耐性の魔道具を嵌めておかないとやっていけないそうですよ、僕達は神様から『精神耐性弱』をもらってはいるけれど、やはり沢山の血なんかを見るとね」
「そ、そう言うことか」
「それに神様に言ってもらえなかったアイテムボックスも付いてるようです、まあ、それほど大きな容量ではないみたいですけどね」
「おお! それは欲しいよな、鑑定も必要だったけど、鑑定は付いてないのか?」
委員長は首を振り、無いんだと分かった。
森辻と国分が話している間も、みんなは次々と腕輪の魔道具を受け取り、ついに俺の手にも渡され、嵌め方の説明をしてくれるそうだ。
ふと、握った魔道具から顔を上げると、テーブルの対面にいた幼馴染みの西風 茜の姿に目がいった。
他のみんなは受け取った腕輪を『かっけー』とか『可愛い~』などと、一つひとつ形やガラの違いをキラキラした目で見ていたが、様子がおかしい。
茜ちゃんは、青ざめた顔で手に持つ腕輪の魔道具を見つめている。
なぜすぐに茜ちゃんと気が付かなかったんだろうと思ったら、あるべき物がなかった……。
産まれてから毛先を整えるだけで、バッサリと切ったことがないと言ってた真っ黒で艶々で、触ると凄く手触りが良かった腰まで伸ばしていた髪の毛が、無理矢理切ったばかりと思える段違いの髪型だったからだ。
その小顔で色白な肌にうっすら桜色の小さな唇に、真っ黒な大きい瞳がわなわなと震えている。
そんな姿で青白い顔色をして何を見ているんだろうと思ったら何か口を動かしたのと同時に茜ちゃんの頭の上にあの文字が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
うそ……これって精神耐性とアイテムボックスはついてるけど、奴隷の魔道具じゃない……。
こんなの嵌めちゃったら……ど、どうしよう、みんなに教え……駄目ね、友里くんが学校に来なくなってからいじめられていたのは私だもん、誰も話なんて聞いてくれないよね。
――――――――――――――――――――
くそ、髪の毛はそのせいか……茜ちゃんが……俺の代わりにだなんて森辻の奴……そ、それもだけど、奴隷の魔道具なのかこれ……。
まずいぞ、やっぱり召喚の部屋で騎士達が言ってた通り、奴隷にするつもりだ。
俺が受け取った腕輪を鑑定したが、やはり奴隷の魔道具のようだ。
――――――――――――――――――――
奴隷の腕輪 精神耐性(中)、アイテムボックス(小)付き、取り外し不可
※奴隷主 ビスマス王
――――――――――――――――――――
国分が言ってた精神耐性とアイテムボックスの機能は付いてるけれど、取り外し不可で奴隷主が王様だ。
茜ちゃんを鑑定すると、やっぱり看破のスキルを持っている。
鑑定じゃないけど、俺も持っていた看破のスキルを使うと奴隷の魔道具ということだけが分かった。
「茜ちゃん、これ」
「ゆ、友里くん。さっきは見当たらなかったけど友里くんも召喚されちゃったんだ」
うんと頷き今度は念話を飛ばしてみる。
『茜ちゃん、返事は頭で考えてね、声に出さなくても通じるはずだから』
「へ?」
『あっ、こ、こうかな? もしもし茜です、友里くん聞こえますか?』
一瞬声を出しかけたけど、すぐに念話で話しかけてくれた。
『聞こえているよ、今は時間がないからその腕輪を違う物に交換しちゃうね』
それだけを念話で飛ばし、自分用の王冠と、茜ちゃんが持っている腕輪を一瞬で取り替えておいた。
もちろんイルが持っていた腕輪もだ。
『うそ! 腕輪が変わったよ! それに身体強化の腕輪だよ!』
『うん、みんなの分は時間がないから無理だけど、俺と茜ちゃんの分だけは交換しておこう』
まわりは一番後ろの席の俺達には見向きもしてないから、気付かれてはいないだろう。
みんなは次々と魔法使いの格好をした爺さんに言われるがまま腕輪を嵌めてしまっている。
俺が持つ腕輪の数も足りないが、半分以上が既に嵌めてしまっているから今さら交換も間に合わない。
『茜ちゃん、なんとかここから抜け出すことを考えないとまずいんだ』
『で、でもみんなは――ああ、もう嵌めちゃってます』
俺から視線をはずして、奴隷の腕輪をなにも考えずに嵌めてしまったみんなの事を見て、オロオロしだした。
このままではまずいな……考えろ俺……。
――――っ! そうだ!
『茜ちゃん、とりあえず嵌めて、その腕輪なら問題ないから。後、ステータスは誰にも言ってない? 知ってる人がいたらこれも難しいんだけど』
俺は茜ちゃんの返事を待たずにイルのステータスを擬装しておく事にした。
まずはイルだ、目の前の顔を見て鑑定!
よし見えた。後はこのステータスを擬装すれば良いはずだ。
それから逃げ出しても気に止めることもないステータスに……擬装!
――――――――――――――――――――
名前 ユウリ・シノノメ(イル・ミンスール)
性別 男(女)
種族 人族(魔族)
職業 ――
HP 3
MP 3(測定不能)
スキル 言語理解
備考 ――(魔王)
――――――――――――――――――――
名前に性別、イルは職業とスキルが無いから言語理解を付けて、職業は……無しで良いか。
備考も無しにしておかないと魔王が見られるのは絶対駄目だよな。
ここも変えて……うん、これで良し、スキルが言語理解だけで無いより怪しまれないだろう。
『茜ちゃん、返事がまだみたいだけどステータスの擬装しちゃうね』
『う、うん。それと、誰にも言ってないし、知られてないよ』
茜ちゃんはゴソゴソと腕輪を左手に通すと、サイズが自動で合わせられてピッタリと嵌めてしまう。
イルも同じように魔力自動回復の腕輪を嵌める。
次だ、茜ちゃんを鑑定! それに擬装!
――――――――――――――――――――
名前 アカネ・ニシ
性別 女
種族 人族(エンシェントエルフ)
職業 ――(聖女)
HP 3(100)
MP 3(9999)
スキル 言語理解(魔法の才能、弓術の才能、看破)
備考 ――(聖魔法)
――――――――――――――――――――
うお! 擬装はイルの物と合わせたけど、色々と茜ちゃん凄くない!?
って驚いている場合じゃない、説明しておかなきゃね。
『茜ちゃん、たぶんステータスを見れば擬装したものが見えるはずだから、()の中の事は言っちゃ駄目だからね。自分では見れるけれど、他人には分からないようになってるから、どんなのか確認だけしてくれる』
『は、はい、ス、ステータス……ほへ? 見た目が弱くなってます……これは良いの?』
『うん。みんなには悪いけど、俺と茜ちゃんが役立たずと思わせたいんだ。それでここから逃げ出したいと思ってる』
逃げ出すと聞いて驚いたのか、口をポカンと開けている。
『もちろん、クラスのみんなの事は、助けたいと思ってるよ。いくら虐められて学校に行けなくなったとしても、この世界じゃ元の世界に帰れない……仲間だからね』
『わ、分かりました。一度この城から抜け出して、みんなを迎え入れる準備をするのですね』
『…………いや、抜け出すところまでにしようと思う。奴隷のままなのは流石に可哀想だけど、ずっと虐められると分かっているのに一緒にはいたくないでしょ?』
まだほんの少し迷ってるんだけどね。
でも、僕の言葉にはっとした表情に変わり、コクリと頷いた茜ちゃん。
その時、全員が腕輪を嵌め終わったようだ。
それを見たからなのか、魔法使いの人が話し始める。
「これより、勇者の皆様が持つステータスやスキルを確認したいと思います。ステータスによって皆様には分かれてもらい、その別れたグループで行動してもらいます」
「ってかよ~、勝手に話を進めんなよなぁ~、そんな事をしたかねえんだけどさぁ~、先に約束してくれよな、俺が言ったことはちゃんと聞いてくれるんだろ?」
金谷は立ち上がり、王様の横で立ってる魔法使いの所まで進んだかと思ったら、肩に手を回して肩を組んでしまった。
だが、魔法使いは動揺もせず、肩にかけられた手を叩き落とす。
「ふむ、あなたは拳聖ですね、Sクラスですので――」
Sクラスと言われた金谷に、魔法使いのところによって来た一人の騎士が金色の新たな腕輪が渡された。
「なんだよこれは、Sクラス? 訳の分かんねえこと言いやがって、お前頭悪いんか?」
「Sクラスですと、伯爵と同じ身分です。平民が一年遊んで暮らせるほどの報酬が国から渡され、もちろんSクラス専用の屋敷と使用人も派遣されます。その働きによって追加も支払われますが、納得いただけましたか?」
「おっ、なんだよ職業でそのクラスってのが分けられんのか、先に言えよなジジイ」
「ご理解ありがとうございます。では、席に戻って話の続きをお聞き下さいま――」
納得したのか金谷はバンバンと魔法使いの肩を乱暴に、そして強く叩いたようで、『グアッ!』と言いながらその場で崩れ落ちてしまった。
「だがお前は生意気だ、二度と偉そうな口を叩くんじゃねえぞ。王様よ、お前もな、ペッ」
そう言って唾を吐き捨て、今度は騎士に近付き、持っていた残りの金の腕輪を乗せたトレーを引ったくると、騎士を蹴飛ばし『よえーな』と言いながら元の席に戻り、取り巻きの二人に同じ金の腕輪を渡して嵌めてしまった。
まわりからは『副騎士団長が簡単にやられるとは』『Sクラスと言えど鍛える前にあの強さとは』と小声だけどそんな声が聴こえてきた。
その後、魔法使いは肩の骨が折れたのか、気絶して動かなくなった副騎士団長と一緒に、両脇から支えられて部屋から外へ運ばれていった。
と言うより今ので文句を言わないなんて、おかしくない?
「元気が良いな。続けてクラス分けを終わらせよ」
と思った瞬間に文句じゃない言葉が出たけどあっさりだよね!
それに王様が考えている事は森辻やメイドのように、頭上に文字が浮かばないから何を考えているのか分からない。
座ったままのクラスメイトに次々と職業とそれに合ったクラスの金>銀>銅>鉄の順で待遇も違うようだ。
もちろん隣の森辻は職業『勇者』で金谷と一緒でSランクで金。
その隣の委員長は『剣聖』で同じくSランクの金だった。
そして最後は俺と茜ちゃんの番になり、もちろん無職で最低ランク……のはずだが。
「なんだこの方は! 無職だと!」
「こ、こちらの方も無職です。これではこちらの勇者様を補助して戦うのはもちろん、生産職の方より劣ります」
うんうん、少し()の中が見えたらどうしようかと思ったけど、擬装したところだけが見えているようだ。
その言葉を聞き、まわりがザワザワとしている中、隣に座ってた森辻が笑い始めた。
「くふふふふふ、東雲~それに西風もかぁ~、やっぱり二人はこのクラスには必要のない人間だったようだな」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がる森辻。
椅子に座る俺達を見下ろしながら、勝ち誇ったようなドヤ顔を向けてくる。
「王様! この二人は僕、勇者の仲間には必要ありません。コイツらにできる事は何一つ無いので、このまま放り出してやりましょう。いるだけで邪魔ですし」
おっ、森辻。俺は初めからそのつもりだったけれど、穏便に追放してもらえるなら助かるな。
「……ふむ。君は?」
「僕は職業が勇者の森辻です。この二人にかける金銭や労力は、優秀な職業を光玉の姿をした神から授かった残りの僕達に使ってもらえれば、王様の懸念、魔王を倒すことなと容易いことです」
「……その二人はいてもいなくても良いと」
王様がそう聞くと、クラスメイトのみんなはそろって森辻の顔を見る。
すると、委員長はもちろん、金谷も含めて全員が頷いた。
『はわわ! ユウリがきらわれてますの! お友だちではなかったのです! あっ、このパン柔らかくて美味しそうな匂いですの』
分かってはいたけど、異世界に来たんだよ? それも帰れないと言われてここにいるのに、誰一人味方は……いや、茜ちゃんは味方か。
心の中でやっぱり一緒にと、ほんの少し思ってたのに……でもこれで奴隷からは解放できるように頑張るけど、その後はみんなと別行動にする決心がついたよ。
イルは、結構注目されているのに、目の前にあったパンを小さくちぎって口に放り込んでいた。
『友里くんたら……』
う、俺じゃないけど見た目は俺なんだよな……ちょっと恥ずかしい。
「……勇者モリツジよ、ソナタの言う通りのようだな。その二人にはこの城を出て貰おう。城外へ連れて行け」
よし、予定通りの進み具合だ。
俺と茜ちゃんの横に騎士がやって来て、パンをまだ一生懸命もぐもぐしている俺とオロオロしている茜ちゃんの椅子を引くために背もたれに手を置いた。
「お立ち下さい。城外へ案内させていただきます」
有無を言わせないようなキツい言葉ではなく、丁寧な口調で俺たちの動きを促した。
『ゆゆゆ友里くん、たたた立ち上がって良いんだよね?』
焦りまくりの茜ちゃんを見て、さらに落ち着いてしまった俺は、イルにも一緒に念話を送った。
『うん。立ち上がって、この騎士について行こう』
『『うん』』
『『はへ?』』
ヤバっ! 声には出してないけど、驚いたからなのか、二人は勢いよく立ち上がり、ガタンと椅子が大きな音を立てた。
うっわ~、ただでさえ注目されてたのに……。
見られて恥ずかしかったのか、真っ赤になった茜ちゃんと、立ち去る前にもう一つパンをテーブルから取ったイルは、部屋中の注目を浴びながら部屋を出た。
跳ね橋を渡る。
橋の下の堀を眺めたり、後ろを振り返り出てきた門を見上たりしながら俺達はお城を出た。
「君達二人には大変申し訳ないと、王や、この国全ての民に代わり謝罪する。本当に申し訳ない」
「私達にはこの程度しかできないが、しばらくはなにもしなくても生活できる程度は入っているはずだ」
城の外まで案内してくれた騎士さんは、ちょっと重そうな革袋を差し出してきた。
『イル、受け取ってくれる?』
『はいですの! お任せ……パンで手がふさがってますの……アカネ、お願いしますの』
『あはは。うん、イルちゃん』
茜ちゃんが騎士の一人から革袋を受け取ると、その人は回れ右をして跳ね橋を城に向かって渡り始めた。
「冒険者ギルドで身分証を作れば身分は保証されます。まずは大通りをまっすぐ行けば王都から出る門があり、そこの門前広場にギルドがあります……どうかご無事で、頑張ってください」
もう一人もそう言った後、俺達に背を向け跳ね橋を渡っていった。
「ふう。とりあえず王城からは無事に出れたね。この後――」
「そ・れ・よ・り! 友里くんなぜスライムさんなのですか!」
ここに来るまで念話でお話して、イルの事や俺の事を話してなんとか納得してくれたと思っていたんだけど……まだ納得はしてなかったようでだ。
「ユウリは凄いスライムなのですよ? ダメなのです?」
『あ、茜ちゃん、イル、あまり声を出してこんなところで喋ることじゃないし、冒険者ギルドに向けて歩きながら念話にしようか』
俺が念話でそう言うと、二人は手を繋ぎ、歩き出してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王城を離れてそろそろ一時間。
遠くに街を取り囲むようにある壁が見え、道の先にその壁がくりぬかれたような門が見えてきた。
茜ちゃんとイルに、俺が召喚される前、ロリっ子のところからのことを一つずつ説明していく。
『クラス全員と言ってましたから、やっぱりあの時いたのですね』
『ロリっ子? 私には光の玉にしか見えませんでした』
『召喚されたら大人しくそこの人達について行くように言われてました』
と、話と途中でつっこまれながら分かった事は、茜ちゃんと俺とはロリっ子の見た目から、話の内容までまったく違うという事が分かった。
そして俺の妄想したスキルなんかを面白がって全部詰め込まれ、体がスライムかドラゴンしか無理だと言われ、種族選択がスライムしかなかった事を話した時、剣が✕の形をした絵が描かれている看板を見付けた。
そこで不味いことに気が付いた。
『イル、はイルで登録した方が良いよね? そうじゃないと身分証がないのと同じだし』
『おお! 冒険者になりますの! 冒険者がどんなのか分からないですがアカネと一緒ですの!』
『ん~、そうだね、友里くんがくっついてないとその姿になれないのですよね? それじゃイルちゃんも不便だし良いと思うよ』
賛同を得られたと言うことで、大通りから少しだけ路地に入り、人がいない事を確かめてから幻影を解除したんだけど――!
ほとんど体を隠す布がない、悪の女幹部が着るような黒い水着らしき姿になったイルが現れた。
『忘れてたぁ! あ、茜ちゃん、とりあえずえとえとこれとこれ着せてあげて!』
『友里くんこれはオマワリさん呼ぶ案件! ギルティですよ! 早く服を寄越してください!』
よく考えたら靴も掃いてないじゃん!
白い頭から被るシャツとポケットの沢山付いたズボンにくるぶしまである革靴。
それとベストがあったので、それも着てもらう事にした。
やはりサイズ調整がついていたからシャツ、からズボン、靴までイルのサイズに変わって、幼い子が冒険者の格好をした見た目になったと思う。
『ほへ~、私の新しい服なのです! ユウリありがとですの。アカネも着せてくれてありがとうですの』
「はぁ、焦った、誰も見てないよね?」
服を着せるために邪魔になってた俺は、イルの肩から茜ちゃんの肩に移る。
少し目線が高くなったところから周囲を見渡し目撃はされてないと安堵した。
「友里くんの生声が耳の横で聴こえるよ~うぅっ」
「あっ、そっか、不登校になってから一度も会ってなかったもんな」
涙ぐんでる茜ちゃんの目尻に触手を伸ばし、涙を吸収しておく。
数分泣いた後、俺はイルの頭の上に乗せられて先程見付けた冒険者ギルドに向かう。
ギルドの入り口は扉は無くて、そのまま止まらず入れた。
ギルドの中は異世界物の小説で想像していた通りの作りだ。
色々と見て回りたい気もしたが、とりあえず正面に合った受け付けカウンターに向かう。
並ぶ事もなく、そのまま受け付けのお姉さんの前に進む。
「こんにちはですの。冒険者に登録したいですの。ここで大丈夫なのです?」
事前にって入る直前に、茜ちゃんに登録の受け付けを頼んだんだけど、イルがやりたいと言い任せた。
背が低くてカウンターの端に掴まり、背伸びをしてなんとか天板にアゴを乗せ、お姉さんに話しかけたものだから、お姉さんと、両隣のお姉さん、隣で受け付けしていた冒険者だと思うお兄さん達もその姿にやられたようだ。
「「「「「可愛い持って帰る♡」」」」」
「「誰がやるか!」」
俺と茜ちゃんの声が重なりギルドの中に響き渡った。
『ヤバっ! ごめん茜ちゃん、イル、なんとか誤魔化して!』
「だ、だれーがやるかですの! 私は私のものですの!」
う、うん、ありがとうね。
イルがカウンターにアゴは乗せたままちょこっとだけ隣の冒険者達に顔を向けそう言ってくれた。
「「も、もうダメ♡」」
その後は茜ちゃんがワタワタとしながらもなんとか場を収め、冒険者に登録できた……俺は従魔として。
「ではアカネ、イルのパーティー登録も終わりました。まだ見習いなので、こちらの見習い用の依頼ね。正門から王都を出て左、街壁沿いにしばらく進んだところから見える森の近くに生えている薬草を十本で依頼達成です」
「お仕事ですの! 薬草いっぱい採ってきますの!」
興奮気味のイルを落ち着かせながら、森までの距離や、薬草の色や形でどの部分が必要か、後、危険は無いのかなど聞いて、その依頼を請ける事にした。
楽に今日中に行って帰れる距離で、片道三十分ほど、それも道が細いがついているそうだし、出てくる魔物も極たまに角ウサギが出るくらいで、今まで見習い試験で出てきて襲ってきた事はないそうだ。
薬草の見本が描かれた木札、依頼を請けた書類代わりの物と、二人分の見習いカードをもらった。
まだ握ってたパンは俺が収納で保管しようとしたんだが、イルはズボンに付いた沢山のポケットに入れてしまった……こっそり収納しておいてあげよう。
カードを受け取り、付属の紐を首にかけた二人。
そして木札を掲げながら満足そうなイルと俺達は冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお! ありますの! アカネこっちですの!」
「イルちゃん走っちゃ危ないよー」
王都を出た俺達は、言われた通り進み……って出たところから、もう言われた森が見えていたし、言われた通り、三十分を少し切る時間で森手前の原っぱに到着した。
少し心配だった角ウサギはおらず、イルが早速薬草を見付けたようで、俺を頭に乗せたまま走り出し、その後を茜ちゃんが追いかけてくる。
そしてその後をイルとそう変わらない身長の、薄汚れた緑色で、額に角の生えたウサギにはまったく見えない、人形のなにかが……うん、追いかけてきてるね……。
……おい!
「イル! 茜ちゃん! 後ろを見ずにそのまま走って!」
あー! えとえと何か――攻撃魔法は!
――――――――――――――――――――
魔法の才能 (測定不能)
――――――――――――――――――――
役に立たねえですやん!
魔法の名前くらい書いておいて欲しいっすよ!
だぁぁぁぁー! ロリっ子ぉぉぉおー!
念話で呼べど返事は無く、手詰まりだ。
「こうなったら――ファイアアロー! ウインドカッター! アースバレット! ウォーターランス! ライトニードル! ダークバインド! 後は――はれ?」
俺がやけくそで唱えた呪文は炎でできた矢。
透明だけど、三日月形をしたもの。
鋭く尖ったひし形の石。
光を浴びてキラキラした水っぽい槍。
数えきれないほどの金色に輝く針の群れ。
そして追いかけてきた緑色の小人の足元から伸びた真っ黒な触手になった。
触手が迫ってきた奴を絡めとり、動きを止めたところへ矢、三日月、石、槍、そして針の群れが一斉に飛んで行き、全てが命中したと思ったら――爆発した。
ドゴーンと、耳があれば痛かっただろうなと思えるほどの音が、空気を震わせ俺の体をプルプルと震わせる。
そしてもちろん、横を走ってた茜ちゃんと必死に走ってたイルが、爆風な背中を押されて地面に飛ばされた。
「きゃーですのー!」
「ひゃぁぁーっ!」
「ぬおっ!」
俺もイルの頭に乗っていたから漏れること無く地面に投げ出されたわけだが、ひとまずの危険は退けられ――てねえ!
転がりはしたが上手くお座りした形で止まったイルの頭の上に伸びた体を戻しす。
戻った頭の上から見えた景色には、終わったと思ってた緑の野郎一匹がはぐれていただけで、少し離れたところにまだ十匹はいた。
「ほえぇぇ! まだたくさんいますの! ユウリ!」
「あたた、どうひたの――へ? ひにゃぁぁー! なにあれぇぇ!」
「くっ、任せておけ! ウインドカッター! ウインドカッター! ウインドカッター! ――!」
まだ遠く、五十メートルは離れたところにいる緑のやろうに向けて一番飛びそうなウインドカッターを連射する。
シュンと風切り音も微かにしか聞こえず、十匹がいる方向へまっすぐ飛び、次々に命中していく。
二十発以上は飛ばしたと思うんだが、十匹共に地面に崩れ落ち、スネあたりまである草を押し潰して倒れたのを確認した。
「倒しきったか……な?」
「ユウリすごい魔法ですの! ゴブリンがあっという間なのです!」
ぴょんと立ち上がり、ピョンピョン飛んで喜ぶイル。
「ううっ、グロはできれば遠慮したかったのですが、思ったより精神耐性が働いているようで、特になんともないのが複雑な気分です」
イルとは違い、よっこいしょと立ち上がった茜ちゃんは、遠くに見えているバラバラになった緑のやろうを嫌そうに見てそう言った。
「それな。……はぁ、でもなんとか初エンカウントは無事に乗りこえられたね。ってかゴブリンか、リアルで見ると……ほんと悪そうな顔してたよね」
「うんうん、ラノベでどんな姿なのか想像してたけど、まさに背が低くて緑色の肌……それにえっちなことされちゃったり……ごにょごにょ……」
いやいや、茜ちゃん、どんなラノベ読んでたんだよ。
俺達はまだ読んじゃ駄目なヤツなんじゃ……でも、男性用のラノベより、女性用の方がえっちだと噂で聞いたことが……貸して、じゃなくて!
「あ、茜ちゃん、とりあえずあのゴブリンは持っていった方が良いよね、たぶん冒険者ギルドで買い取りしてくれるはずだし」
「そ、そうですよ! 私達はこれから冒険者をして生活しなくちゃ……うっ、大丈夫でしょうか、役立たずだから脱出できたのに、こんな力があると分かれば連れ戻されてしまうかも」
「そうか、それがあったよね……よし、俺の収納は沢山入るから貯めておいて、怪しまれないようにちょっとずつ出していこう。それまでは、薬草の採取でクラスのみんなを奴隷から解放する事に集中だ」
胸の前で手を組み、うんと頷いた茜ちゃん。
それを大人しく聞いていたイルは茜ちゃんの手を握り、引き始めた。
「それじゃあユウリが倒したゴブリンを見に行きますの! 茜ちゃん、あっちなのです!」
ゴブリンの近くまで行ってから気が付いた事。
最初の爆発したゴブリンは跡形も無くなっていたんだけど、ウインドカッターで倒したゴブリンは、上半身が自主規制な事になっていました。
首に腕に……切れてないところがないくらい。
それと、有名なゴブリンの腰布――っ!
「きゃぁぁぁぁぁー!」
「び、びっくりしますの! 茜ちゃん、どうしましたの?」
いやまあ魔物が服を来てる方がおかしい気もしないでもないけどさ、あの腰布はラノベ作家先生の優しさでできていた事を実感しました。
イルに地面へ下ろしてもらい、さっさと収納してしまう事にした。
収納を続ける俺の背後で『ううっ、昔見た友里くんのより小さかったけど、すごいの見ちゃったよ……』『変なの付いてますの! アカネ、ほらほらこれ見るですよ!』とか……いつ見られた?
それにイル……どこで拾って来たか分からないけど、木の枝でつつかないでね……。
ゴブリンの収納を終え、今度は周囲の警戒を怠らないように、薬草の採取を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「初めての依頼で薬草いっぱい採ってきましたの! 買って欲しいのです!」
ドサッと冒険者ギルドの買い取り場に、収納が珍しく、持っていると目立つかもしれないと買っておいた薬草満載の背負い籠を下ろした。
「嬢ちゃん達……見たことないな、初めてか? それにしては大量だし、頑張ってきたようだな。仕分けするから待ってくれ」
買い取り場にいたおじさんは、小さめのリュックほどの背負い籠から種類別に丁寧な手付きでカウンターに並べていく。
「ほう。全て薬草と毒消しか、嬢ちゃん達はちゃんと薬草がどんなものかを勉強したんだな、偉いぞ。それに丁寧に採取をしてあるようだ」
そう言いながら残りも籠から出して、全て出しきると、薬草の数を数えて依頼の紙に本数を書いて、その場で買い取り分の大銅貨を八枚と銅貨九枚を、両手を掲げるように待つイルの手に乗せてくれた。
「買い取りは終わりだ、後は受け付けにそれを持っていくんだ。そうすれば依頼完了となる」
「ほほー! お金いっぱいなのですよ! ありがとございましたの! また来ますの!」
そう言い俺を頭に乗せたイルは茜ちゃんの手を握るため、持ってたお金を半分茜ちゃんに渡すと、空いた手で手を繋ぎ、受け付けに歩きだした。
夕方の混雑した冒険者ギルド。
イルは何もかもが目新しそうで、キョロキョロとあたりを見て楽しそうに受け付けの列に並んでいる。
だが俺と茜ちゃんは、また別の事に気を取られている。
『友里くんも異世界ファンタジー小説を読んでいたのですね。では今のこの状態はかの有名なテンプレが起こる可能性が高いとワクワクしている私の思いが分かるはず!』
『もちろんだ茜ちゃん。何を隠そうゲームや漫画に続き、高い関心を俺は異世界ファンタジー小説に向け、少ないお小遣いをやりくりしながら購入を続けていた俺にもこの状態は非常に好ましいシチュエーションだよ!』
『『ぬふふふふふふふふ』』
「おい! ガキども! お前らだ! 無視すんじゃねえ!」
『『来たぁぁぁぁぁぁ!』』
子供だけ。それも女の子だけに見えるパーティー。
冒険者ギルドなら場所をゆずれパターンか、ナンパ目的か、それともまだ見ぬパターンで絡んで来るのかと待っていた。
それはもう今か今かと、心待ちにして念話をしていた俺達。
そこへテンプレのごとく乱暴な言葉で話しかけられたのだ。
そんな声にも動じずあたりを楽しそうに見ているイルは放っておいて、待ってましたと振り向いたイルの頭の上の俺と茜ちゃん。
そこには小太りのおっちゃんがいた。
顔を真っ赤にして茜ちゃんの事を見下ろすように睨んでいるし、手にはお酒が入っているであろうカップだ。
「あ、あの、私達の事でしょうか?」
『ぷはっ、茜ちゃん、声がうわずってるし、口の端が上がってるよ、くはっ』
『だ、だって、あまりにも完璧なテンプレおじさんなんだもん……くふっ』
念話をしながらも、殴られるのは嫌なので練っていた作戦通り、物理防御のスキルをイルと茜ちゃんに、今かかっている物の上に重ねてかけた。
この物理防御のスキルは、体を完全に覆い、もう一枚全身タイツを着た感じになるんだけど、木の棒でおもいっきり叩いても、衝撃さえ来ない優れものでゴブリンに会ってから、常にかけるようにしたスキルだ。
それだと言うのに……。
「おう! ガキども、てめえらが並んでるのは依頼を受ける列だ! チラっと見てたんだがてめえらの依頼書は完了してるじゃねえか!」
……あれ? なんだか雲行きが……。
「完了報告はな、この時間はこっから向こうの列に並べ! 分かったかガキども!」
そう言いながら、俺達が並ぶ列の二つ隣の列を指差した……。
「ん? これここ駄目ですの?」
俺と茜ちゃんが小太りのおっちゃんの言葉に唖然としていると、イルがキョロキョロを止め、振り返って、依頼書をおっちゃんに見せるように頭の上でかかげながら、こてっと首を傾げた。
「その通りだ。ったくよ、買い取りのジジイも説明してやれってんだ。おら、早く並び直さねえと、どんどん遅くなるぞ」
「おお! ありがとございますの、アカネ、並び直しますの! あっちなのです!」
イルは依頼書を掲げた格好のまま、ペコリと頭を下げながらお礼を言うと、茜ちゃんの手を取り列を離れ、報告用と言われた二列横の列の最後尾に向けて歩きだした。
「はっ! お、おじさんありがとうございます!」
茜ちゃんは引っ張られ、おっちゃんが親切心で絡んできたことに気付き、引っ張られながらもお礼を言って、イルについていく。
俺も、声は出せる状況ではないが、心の中で『ありがとう』と言い、下げたように見えないだろうが頭も下げた。
場所をゆずれだと思っていたのに、実は『場所を間違えてるぞ』だったため、テンプレが不発に終わったんだけど、その後は何もなく、依頼完了の登録も終わった。
ちょっと残念だったのは否めない……。
結局薬草採取七回分の量があったそうで、受け付けのお姉さんに褒められて、ご機嫌のイルを連れて冒険者ギルドを後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初日、ゴブリンに会ったイレギュラーはあったけれど、その後の数日は、同じ薬草採取を続けているけれど、そんなこともなく、買い取りのおじさんとも仲良くなり、小太りのおっちゃんとも、言葉は交わさないが、軽く手を上げて挨拶するまでになっていた。
そして十日が経ち、今日も薬草採取を請けようと冒険者ギルドに来たんだけど何やら朝から騒がしい。
なんだ? なにが――ヤバっ!
『二人ともギルドから出て! 金谷達がいる!』
『か、金谷君が! ヤ、ヤバいです! イルちゃん早くこちらへ!』
奴らはいつもの三人で、受け付けのところで騒いでいた。
イルの手を引き外に出てもらい、ギルドの建物と隣の雑貨屋との間にある路地に飛び込んでもらう。
「危なかった、イルは大丈夫だけど、茜ちゃんの事はすぐにバレて、何されるか分からない」
「はぁ~、怖かったです。今日は依頼を請けずに薬草だけ採取しておく? お金はまだ余裕あるし」
「どうしましたの? 悪者がいたのです?」
繋いでいる茜ちゃんの手を、凄く楽しそうにプラプラと揺らしながら聞いてきた。
「う~ん悪者と言いきれないけど、俺達ができればまだ会いたくない奴らなんだ。茜ちゃん、茜ちゃんの姿をこの世界の人っぽく変えようか、そうすればバレないはずだし」
「あっ、それならイルちゃんに依頼を請けてもらえるよね」
俺はみにょ~んと伸びて、イルの頭の上から茜ちゃんの肩に乗り移り、早速召喚の部屋から出た時のスキル、幻影を使い、イルと同じ髪の毛を銀髪に目を赤色にして、ヘアスタイルはボサボサ伸び放題だった俺の姿に。
「ほへ~! ユウリが格好良いのです! アカネがユウリになりましたの!」
「へ? わ、私が友里くんに? でも、この銀髪……まさか目は赤か銀、レアなら紫もありだよね!」
「落ち着け、イルに合わせて赤目にしたけど……うん。髪の毛と目の色を変えるだけでほぼ別人だよ。この後は俺が喋るから茜ちゃんは念話でお願いできる?」
「はい。そうだ、このまま友里くんも冒険者ギルドに登録しておけば、良くない? 金谷君達がギルドに来たっていう事は他のクラスメイトも――」
「おいそこのガキ、黒髪の女を見なかったか?」
声をかけてきたのは、ちょっと前に冒険者ギルドで騒いでいた金谷だった。