王都を出てから二週間。
特筆することもなく旅は順調に続き、まあ、街や村では泊まらずに、キャンプ生活を続けている。
そしてついに最初の目標だった大きな木の絵が描いてあった森の入口に到着したんだけど……。
「道が途切れてるね、でも、ここに馬車が方向転換した後が残っているし、ここから森に入るはずなんだけど」
「草がぼーぼーだね」
「ぼーぼーですの」
イルの背丈、一メートルほど草が木々の根本を隠すように生えている。
とりあえず森と草原の境目に向かい、気付いたことは、一ヶ所だけ森に入った形跡が残っている。
人ひとりがなんとか歩けるほどの獣道。
それもしばらく誰も通っていないのか、まわりの草が覆い被さり獣道を隠していた。
「ここから森には入れるようだね、茜ちゃん、イルを背負子に乗せて進もうか」
「背負子に乗れるのです! 買ってからずっと乗ってみたかったのですよ! アカネ、お願いしますの」
出した背負子を背負い、しゃがんだ茜ちゃん。
その肩に手をついて背負子に上るイル。もちろん前向きになるように座る。
ちょうど肩から前が見える位置だ。
「あっ、茜ちゃん、イルが落ちないように、ベルトを閉めておこう。身体強化をかけて行くから勢いよく飛ばしてしまうかもしれないでしょ?」
「あっ、そっか、今までは足を持ってたもんね、ベルトは――」
「アカネ、これですの」
手探りで背後を探り、ベルトを探す茜ちゃんに、イルは乗った時から手に取りリュックを背負うようにして肩に通していたベルトを、茜ちゃんの両肩に垂らしてくれた。
「ありがとうイルちゃん。これね、えっと、腰ベルトを先に固定して、ここに引っ掛けるっ! よし完璧! よいしょ」
まだ身体強化を掛ける前だけど、難なく立ち上がる茜ちゃん。
「ふおっ! 良い感じですの♪ アカネは大丈夫なのです?」
イルを見ていたけど、手を放していたのに体がブレる事も無さそうだ。
「うん、大丈夫だよ、おんぶより両手が空くし、ふんっ! ふんっ! うん、これなら剣も振れる」
「長さ、重さ的には木刀だけど……良さそうだね」
茜ちゃんに渡してある木刀、本当は杖で――。
――――――――――――――――――――
カドゥケウス 聖なる者が持つ杖。聖なる魔法の効果が上がる。聖女、聖者のみ装備可能。
――――――――――――――――――――
なんて、聞いたことあるような杖なんだよね。
まあ俺には装備できないから収納の肥やしになっていたんだけど、茜ちゃんは聖女だから問題なく装備できた。
使い方は木刀として使うようだけど……。
俺も守護者シリーズの小手は、召喚の部屋から脱出する時に装備、触手サイズになって、体に取り込んだままだけど、この体だと武器がね。
「うんうん、準備完了だよ、友里くんは草刈りお願いね」
「おう、まずは湖があるはずなんだよね? そこ目指して行くぞ!」
「「おおーですの!」」
俺は茜ちゃん達の前に降り立ち、小さなウインドカッターを無数に飛ばし、獣道を広げていく。
刈った草は、もちろん吸収して足元を掃除していく。
「ユウリ凄いのです、道が綺麗になっていきますの!」
「本当だわ、コンクリートやアスファルトの上を歩いているみたい」
「だろ? 土魔法で平らに均して固めているからね。スケートボードだってこれならストレスなく滑れるはずだ」
ちょっと魔法の無駄遣いしていると、思わなくもないけど、MPは回復するし良いよね。
そして茜ちゃん達の少し前を進みながら獣道を整備していて、何か薄い膜を通り抜けた感覚があった。
「えっ、これって結界? あっ、ヤバ! 止まって茜ちゃん!」
真後ろの少し後ろを歩いていたはずの茜ちゃんとイルは忽然と消えてしまった。
「マジか! ど、どこに消えた! あっ!」
気配を探ると、ずっと後方、森の入口あたりに気配があった。
今のは結界で、たぶんやってたゲームにもあった、ダンジョンでスタート地点に戻される罠だ。
俺は守護者シリーズの小手を装備したままだから、あの召喚部屋にあったような結界をくぐれたってことか。
「とりあえず森の入口に戻らなきゃ!」
まだ十分も進んでいないところだったので、すぐに森が途切れ、光が差し込んでいるところが見えた。
そしてそこには背負子を背負い、心配と戸惑いの表情を浮かべた二人が立っていた。
「イル! 茜ちゃん!」
「「ユウリいましたの!」」
曇っていた顔がパッと明るくなり、駆け寄って来る。
「ごめん、結界の罠があったみたい。」
茜ちゃんが俺の前でしゃがみこみ、掬い上げてくれる。
顔も前まで持ち上げるから、二人の顔がドアップだ。
「驚きましたの、森の中でしたのにお外に出てましたの、無事で何よりなのです」
「ほんとビックリだよ。怪我は無さそうだね、でもさ、これじゃあ森の奥に行けないね」
イルにつつかれたり、茜ちゃんにはもみもみされるしだけど本当に心配を掛けたようだ。
「怪我もないし大丈夫だよ。それに、森の奥には問題なく行けるよ」
「あっ! 守護者のヤツですの!」
イルは経験しているからすぐに分かったようで、元気よく手を上げながら正解を言ってくれた。
「守護者?」
茜ちゃんは知らないから首をかしげ、頭に『?』を浮かべている。
「ああ、召喚の部屋からって歩きながら話そうか」
さっきと同じように俺が前を歩きながら結界について話をしておいた。
そして結界をくぐるのに、今度は触手を伸ばし、二人に触っておく。
ちょっと俺が触手を伸ばした分小さくなっているけど、問題なく結界を越え、森の奥に。
途中で栗を見つけ、大量に落ちていたのでイガを俺が吸収して、二人には拾い集めてもらう。
そんな事をしている内に、夕方になったため、少し広く草を刈り、森の中でキャンプをすることにした。
森に入って二日目、川幅は三メートルほどだけど、深さが足首からスネくらいまでしかない小川を見つけ、少し水遊びをすることになった。
「ねえ、なんで水着があるの? それもスク水よ、神様は狙ってるの? セーラー服に小学生の頃着てた体操服っぽいもあるし、なぜゼッケンに『あかね』『いる』って書いてあるのよ!」
文句言いながらちゃんと着てるし……。
「私の服より着やすいですの。伸びるのです! みよ~んですの!」
「この前、焼肉のタレをもらった時にこれもあっただけだから! イル、引っ張っちゃ駄目! 男の人の前では絶対駄目だからね!」
二人がなんだかんだ言いながらも浅い川で遊び出したので、俺は少し川下で川底にある石を収納し、深くしていく。
触手を伸ばし、二メートル五メートルの長方形になるよう五十センチほどまで掘り下げて、まわりに大きめの石を並べ小さなプールを作る。
これならイルでも少し泳ぐ感覚になれるんじゃないかな。
「浮き輪プカプカなのです! くるくるーって回すのもう一回して欲しいですの!」
「にゅふふふ! 任せなさい! 私はこれでも洗濯機のボタンを毎日押していたの! 回すレベルはマックスよ!」
いや……洗濯機のボタン押してるだけで、回してるのは洗濯機さんだからな。
それに回すレベルってなんだよ。
「って茜ちゃん! 途中で回転方向変えたら酔っちゃうよ!」
「めーがーまーわーりーまーすーの~♪」
半日も、水遊びをしたせいで、今日はここで夜営をすることにした。
凄く楽しめたし、先を急ぐ旅でもないしね。
お昼に鮎に似た魚を焼いたところでお湯を沸かし、今夜はカレーにするべく準備を進める。
お米を炊くのに炊飯器がないので、土魔法で土鍋を造る。
「土魔法って便利ね、私も練習しよっかな、イメージでしょうし、友里くんが土鍋を作ったんなら私は……陶板のステーキ皿造るわ! むむむむむむー!」
土鍋を造り、触手でお米を研いでる俺のことを上から覗き込んでいた茜ちゃんが横で唸り始めた。
「頑張るですのアカネ! ステーキ大好きですの!」
同じように覗き込んでいたイルは拳を握りしめて応援してる。
「茜ちゃん、スキルが無いから無理だって、陶板のステーキ皿なら俺がぁぁぁ…………ん? なんでできてるの!?」
唸る茜ちゃんの目線の先には立派な一人前のステーキ皿で、焼く面がなみなみになっていてる物が鎮座していた。
これは余分な油を落としながら焼ける奴じゃん! 完成度高いよ茜ちゃん! それになんで土魔法が使えるの!?
「あー、駄目、魔力が一気に無くなった感じ」
横で腰を下ろす茜ちゃん。
やはり、できたと言ってもスキルがないと、魔力を沢山使って無理矢理やってる感じなのかな。
「アカネ大丈夫ですの?」
「あはは、大丈夫と言いたいところだけど、一枚が限界かな。三年殺しより魔力を使った感じだし効率悪すぎるね~」
「いや、できることの方が凄いって、まあ、茜ちゃんのステーキ皿を見本に俺が造るよ。造形はバッチリだしね、この人になみなみのところ……あれ」
茜ちゃんのステーキ皿は、触ると砂浜で作ったお城のように、簡単に崩れてしまった。
「嘘っ! ごめん茜ちゃん!」
「はわわ、崩れちゃいましたの!」
「ありゃ、固まってなかったかぁ、これは無理ね、もっとイメージを固めなきゃ、クソ金谷のツルツル三年殺し計画は失敗してるかも……ショック」
いや、あれもちゃんと光っていたから、毛根死滅までは行かなくても、しっかり効果はあると思うよ。
「元気出すですのアカネ、ユウリが造ってくれますの。カネタニの頭もやってくれますの」
魔力不足でガックリしている茜ちゃんの肩をポンポンと叩き、手を頭に移してナデナデするイル。
そうだな、会うことがあったら茜ちゃんの代わりに仕返しの手伝いはしようと心に誓うよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ご指導ありがとうございました!」
「「ありがとうございました」」
「カネタニ、中々動きは良くなってきたが、お前達の評判は下がり続けている。そろそろ私が取りなすことも難しくなっている」
はぁ? それくらい師匠の力でごまかすか、ねじ伏せれば良いじゃねえか、拳聖でギルマスなんだからよ。
ちっ、師匠も使えねえな、クラスメイトの奴等も使えねえし、早いところ拳聖をマスターして好きにさせてもらう方が良さそうだな。
「分かりました。俺から指導しておきます」
「あのな、カネタニ、お前もだぞ? 力があるんだ、私はお前達の力がこの街、この国で役立つと思うからこそ指導をしているんだ。頼むからそこら中で暴れてくれるな」
「「押忍!」」
冒険者ギルドの訓練場から出ていくギルマスを見送り、俺達も服についた汚れを払い落として訓練場から出て街に繰り出す。
「腹減ったな、オークステーキでも食いに行くか」
「良いね、昨日のところは店を無茶苦茶に壊したから……あっ、その店にしますか? まだ入ったこと無いですし」
古びた店だが、そこから美味そうな匂いが出てる。
「そうだな、そこで良いだろ、行くぞ」
店に入り分かったことは、中身も古くさいが客は多そうだ。
「おい、オークステーキを三人前だ、席にあんないしな」
「は~い、オークステーキ三人前で~す、お客さん、席は好きなところに座ってくださいね~、飲み物はいかがですか? この店自慢のキンキンに冷えたエールがおすすめですよ~」
ソバカスがあるがデケエな! 顔うずめてえ! よし、飯の後はこの女で遊ぶか。
「おう、そのエールも三人前だ、すぐ持ってこい!」
店の中で、一番デカい席が空いてる。
俺達はそこへ向かいエールとオークステーキを待つことにした。
「うげっ、こんなもん飲めたもんじゃねえな」
「うん、泡をひと舐めで口の中が最悪だよ」
すすめられるままエールとやらを頼んだが、俺の口には合わない、こりゃ駄目だな。
大人達は美味そうに飲んでるからいけるかと思ったが、こりゃ口直しが必要だ。
エールの入ったカップをテーブルに戻し、目線を上げると、ちょうどあのデカい物を持った女が俺達の方にオークステーキを三皿持ってやってきた。
手が塞がっているからちょうど良いな、トレーの影から死角をついて揉みまくってやる。
来たっ!
俺とは反対側に持っている一皿をテーブルに置く瞬間に――今だ!
「お待たせしましたぁ~、オークステーキ三人前でぇ~す。っ! あにすんのよこのガキィ!」
ひゃはっ! やわらけぇ! は? 目の前に影――っ!
ドゴン、顔面と後頭部に衝撃が、なんだ? 何が起きた? オークステーキを持ってきた女の胸を揉んで、次の瞬間目の前に拳が見えた……?
「あんた達! 有り金全部出しな! ぐずぐずすんな! その剣と杖も置いていけ! この拳聖女の胸を鷲掴みにしやがって! このクソガキ!」
「あははは、まだこんな奴いたのか、王都最強に挑む奴。おーいみんな、ひんむくの手伝うぞー、ほら犯罪者は大人しくしてなっ!」
体がうまく動かない、脳震盪のせいか、また殴られた……。
「クヒョッ、服を脱がすんじゃねえ! 動けねえんだよ! コラベルトをはずすんじゃねえよ!」
「ハイハイ、何言ってるか分からねえよ、黙ってろ犯罪者が。ん~、だがよ、まぐれだと思うが触れるだけこのガキやる方なんじゃねえか? おっ、変わった服だな、高く売れそうだぞ?」
「あっ、コイツら最近暴れまわってる黒髪達だよな? ギルマスが戦い方教えてる? おっ、金袋発見、テーブルの上に置くぞ~」
ベルトに繋いでいた財布の鎖が外され奪われ、ズボンをパンツごと引き脱がされた。
「いやいや弱いから気配を掴めなかったんだろう。ってか武器は……こりゃ盗品だな、騎士団と魔道士団の物だぞ、こりゃ本物の悪党だ、衛兵を呼んでくれ」
まわりの男達がよってたかって俺達の物を奪い、俺だけじゃなく二人も暴れ、叫んでいるが裸にされてしまった。
動けねえ俺はしかたねえが、無傷の二人も抵抗しようとしてるが歯が立っていない、相手が強すぎるようだ。
それに何か色々と言ってるが、殴られた顔面と壁に打ち付けた後頭部が痛すぎてそれどころじゃない。
裸にされ、壁にもたれている俺はそっと手を伸ばし、ズキズキどころじゃない痛みを感じる後頭部に触る……? 湿っている……。
顔面は……は? 鼻が無い? いや……平らになって――っ!
「ふぁっ! 鼻がぁぁぁぁ!」
「やかましいクソガキ! 女の胸を鷲掴みにした報いだ! その粗末な物を潰されなかっただけ感謝しろエロガキが!」
「か、金谷君、ヤ、ヤバいくらい血が出てるよ! 悪かったからさ、もう許して下さい! それにせめてパンツは返してよ!」
「金谷君の鼻が食い込んでるんです! い、委員長のところに連れていかなきゃ! こんなのヒドイよ!」
ヤられっぱなしで終われるか! 顔と頭以外は無傷だ、俺は拳聖! 裸でも拳があればこんな奴らは――だ、駄目だ、た、立てない、あれ? なんで目の前に床が……。
ゴンと横倒しになりまた頭を打ったようだ。
「店を出たところにいたから衛兵連れてきたぞ~」
衛兵? そうか、コイツらを捕まえに来たんだな。
よし、委員長のところへ連れていくようにしてもらえば、今度は油断せずにこの女をヒイヒイ言わせてやる。
五人の衛兵は俺達に近づき、俺達をこんな目にあわせた奴と話をしてやがる……さっさと俺を委員……駄目だ、もう起きてられ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
土鍋のご飯は良い感じに蓋の隙間からブクブクし始めた。
確か……ふきこぼれだしたら弱火にしないといけなかったよな……飯盒の炊き方だったかな? まあ、やって覚えるしかないね。
木の棒で土鍋の下にあった薪をズラして火力を調整する。
そしてズラしたところで陶板を熱し始め、次はカレー用の鍋も、野菜も柔らかくなってきたし、焦げ付かないように底からかき混ぜる。
「友里くん、そろそろカレールーを入れようよ、甘口で良いよね?」
「うん。イルも食べるし、俺は激辛一味唐辛子で辛さをプラスするから甘口にしよう。三人前だからルーを三個で良かったはず」
「あっ! ユウリ、このルーは私が入れたいですの! この茶色い塊、とっても美味しそうな匂いがしますの!」
イルはちょっと前からカレールーを鼻の前に持ってきて、すんすんと匂いを嗅いでとろけた顔をしていたしね。
「じゃあイルにお願いしようかな、三個鍋に放り込んでくれる?」
「は~いですの! い~ち♪ にぃ~い♪ さ~ん個ですの~♪」
ひとつずつカレールーを鍋に放り込んでくれたイルの頭を触手を伸ばして撫でておく。
溶け残らないようにしっかりとカレーの鍋をまぜながら次はステーキの準備だ。
熱々になったステーキ皿にオークの脂を引き、分厚く切ったオークリーダー肉を三枚のお皿へ乗せる。
「ジューですの! 良い匂いがしてきましたの! よだれがたれちゃうのです!」
ご飯が炊け、カレーもとろみが出た頃、ステーキも鑑定をしながら、一番美味しいタイミングで焚き火から下ろし――――――。
『異世界で初カレー☆贅沢オークステーキを添えて』が完成した。
三日目、四日目と何事もなく小川沿いを進み、五日目に森に入ってからの目標の一つ、湖に到着した。
何事もないとは言っても、ゴブリンやオークなどの魔物は会ったら倒してきたけどね。
そして湖だけど、王都近くの湖よりは小さめだろうか、対岸が見えている。
「綺麗ですの、魚釣りはしますの?」
イルは頬に手を当て見惚れていたけどすぐに、釣りが楽しかったのを思い出したのか、竿を持って、魚の引きを楽しむような動きをしている。
「魚もだけど貝は食べたいよね、今日はまだ早いけど、ここでお泊まりでしょ?」
茜ちゃんは茜ちゃんで、口元を拭う仕草で貝を焼いて食べたことを思い出しているようだ。
「くくっ、うん。そのつもり、二人とも楽しみができたところ悪いけど、対岸近くに砂浜があるからあっちで釣りをして貝も探そうか」
俺の提案に賛成した二人は湖の畔をぐるりと回り込むように対岸を目指す。
イルも背負子から降りて自分の足で歩き始める。
「でも森が湖まで張り出してなくて良かったね、見張らしも良いから魔物が出ても迎撃しやすいしな」
そう言い二人の前を進み、足元を土魔法で地ならしをしながら触手は二人に伸ばしている。
初日以降も、何度結界を抜けたか数えきれない。
絶対この森には結界を張った人達がいるはずだし、歓迎はしてないんだと思う。
できれば友好的だと嬉しいけどね。
「明るくて~♪ 気持ち~が良いですの~♪ で~も~♪ ちょ~っとお腹がす~きま~した~の~♪」
「ぶはっ、イルちゃん串焼き食べる? 私も少しお腹空いたし」
楽しそうに変なリズムで歌い、茜ちゃんと手を繋ぎついてくる。
収納からオーク肉の串焼きを取り出す。
塩コショウで味付けした物で、これなら歩きながらでも食べれるからね。
「おーにーくーで~すの~♪ はぐっ」
「くふっ、ほらほっぺたについたわよ。ありがとう友里くん、あっ、看破で見たけどそこの草は食べれるみたい」
茜ちゃんが指差した方を見て、トゲトゲした葉を持つ草を鑑定すると、毒草だった……シビレ草、名前の通り生で食べたりすると、ほんの少しシビレる弱毒で、火を通せば食用、美味とは書いてある。
「生で食べれないのかぁ、まあトゲトゲしているから食べにくそうだもんね」
「シビレちゃうのです? ん? あっ、猫さんが起きましたの? 籠からカサカサ音がしますの。おはよう猫さん、お寝坊さんですの」
「あっ、本当だ、目が開いてる。おはよう猫さん、大丈夫? お腹空いてない?」
「ずっと寝っぱなしだったからね、ここで休憩して猫にご飯をあげようか」
薬草採取用の籠に入れて、茜ちゃんが背負子とは反対に前で担いでいたんだけど、王都の森近くで拾ってから十日近く寝っぱなしだった猫が起きた。
ご飯と水は俺が触手を猫の口の中、胃にまで届くように収納から少しずつ出してたから大丈夫だと思うけど、起きたなら普通に食べてもらいたい。
足を止め、籠を地面におろした茜ちゃん。
籠を覗き込むイル。
俺も籠を壁歩きで登って同じように覗き込むと、しっかり綺麗な青色の目を開け俺達を見上げていた。
「やっぱり魚かなっと、焼いてほぐしたヤツを――」
籠の底で丸まり顔だけこちらを向けている白猫の前に小さいお皿を二枚出して、その皿に魚のフレークと水を出してあげる。
最初は驚いたのか、ビクッとしてゆっくりとだが体を起こしてお座りになる。
俺達とお皿を交互に見た後鼻を近づけて匂いをかいだ。
「食べても大丈夫だよ、遠慮しないでね、見てると食べにくいなら――イル、茜ちゃん、しばらく覗かないで待とうか」
「うん、そうだね、待つ間にシビレ草を採取して、夜はオーク肉の野菜炒……シビレ草炒めにしましょう」
俺達はそっと籠から離れ、シビレ草の採取を始める。
シビレ草は根っ子まで食べられるので、二人にスコップを出してあげると早速掘り始めた。
ピチャ、ピチャ――おお! 水を飲む音が聞こえてきた! よし、中々起きなかったから心配したけど、さすが魔物の猫だね。
元気になって、俺達に警戒心が無くなったらテイムしたいと思っていたし、なんたってエンペラーキャット(幼体)と、名前から大物感がにじみ出てるし。
おっ、このシビレ草の根っ子、山芋じゃない!?
「鑑定!」
――――――――――――――――――――
シビレ草 体をシビレさせる効果(弱)、加熱すると毒素が消え美味。
粘り気があり、滋養強壮に効果あり。
――――――――――――――――――――
おお! やはり思った通り! これは山芋的に絶対美味しいヤツ!
「イル、茜ちゃん、たぶんこれ山芋みたいなヤツだよ! 根っ子を折らないように慎重にね!」
「「慎重ですの?」」
イルは分かってないようだけど、茜ちゃんは俺と同じように色々な料理を思い浮かべたのか、既に垂れてるイルを見ながらも、我慢ができず、
よだれが垂れそうだった。
山芋(シビレ草)を掘るのに集中している茜ちゃんを見て、真似するようにチラチラと茜ちゃんの動きを見て、慎重に根本を掘り返すイル。
俺は二人の掘る所を土魔法で柔らかくしておくことにした。
そして触手を伸ばし、バレないように籠の中を覗くとお水の皿に顔を突っ込み、ピチャピチャと水は飲むんだけど、魚のフレークには舌を伸ばさない。