魔王とスライム悠々自適スローライフ

「カネタニ様! ここから先は困ります! どうか――がっ!」

 ドガッと大きな扉の前で金谷を止めようとした騎士が蹴り飛ばされる。

 騎士は飛ばされた勢いで護っていた扉に当たり、その勢いで扉が片方だけ開いた。

 騎士はその勢いのまま、貴族達が立ち並ぶ間を抜けて部屋の中央にまで飛び、床に落ちたが何度かバウンドした後滑り、王様が座る王座前の階段のところに当たり止まった。

「な、何をしておる! その者を取り押さえよ! 王の御前だぞ! 近衛達は王を護れ!」

「やかましい! テメエらが渡したこの腕輪を取りたいだけだ! 王様に直接聞くからよ! ゴチャゴチャ言ってっと全員シバき倒すぞオラッ! ――ダリャッ! 逃げんじゃねえぞ王様!」

 金谷のやり方は乱暴すぎるけど、拳聖なだけあって、殴る蹴るの威力もそうだが捕まえようとする騎士達の事も余裕をもって躱し、強烈な一撃を入れて吹き飛ばしている。

 その吹き飛んだ騎士達は、貴族達にぶつかり巻き込んでこの広い部屋、三十メートル四方はある壁まで中央付近から飛ばされ動かなくなるほどだ。

 階段上の王様は騎士達に護られているが、表情さえ変えず、王座に座ったまま……。

 絶対におかしいよね……これは、鑑定!

 ――――――――――――――――――――

 王のホムンクルス 王の影武者。
 自我無し。

 傀儡の腕輪 傀儡の腕輪を嵌めたものは、傀儡のネックレスを装備した主により言動から体の動かし方まで全て操られる。

 ――――――――――――――――――――

 おいおい、この王様偽物じゃん。

 ホムンクルスって確か錬金術で造られる人造人間だったはず。

 それに傀儡の腕輪か、じゃあ操ってる人が傀儡のネックレスを持ってるはずだよね。

 ならまずは腕輪を取るのと、高いところからあたりを見て、ネックレスを探すのもありだ。

 動き回り騎士達を殴り飛ばしながら少しずつ前に進む金谷の体から飛び下り、素早く王様のところに移動する。

 途中何度か踏まれそうになったが、今の俺は一センチしかないのと、金谷が騒いでくれているから見付かることもなく階段を上り、ホムンクルスの王様に取り付いた。

 足を登り、王座のひじ掛けに乗せている腕に到達したが――っ!

 ――ネックレス!

 王座の斜め後ろに立っていて、フードを被ったおっちゃんが、首からかけたネックレスをカタカタ震えながら握っているのが見えた。

 あれだ! 鑑定! よし、やっぱりだ! それにどことなくホムンクルスと似てるなと思ったら、ホムンクルスとそっくり……ってか本物の王様がホムンクルスを操ってるじゃん!

「オラ! 王様よ、俺達に配った腕輪を外しやがれ!」

「ふむ。ここで生きていこうとするならば、必要なものだ」

「んなこと聞いてねえんだよ! 俺は外せと言ってるだろうが!」

 表情すら変えず、抑揚の無い言葉で金谷に答えるが、騎士達を倒してしまったから遮るものもなく、凄い勢いでこちらに向かってくる。

 ヤバっ!

 金谷は階段も一歩で上り、二歩目で王座に迫るとホムンクルスの王様に向かって拳を伸ばした。

 ドゴンと王座の背もたれが半分砕け散り、ホムンクルスの胸ぐらを掴んで砕けていない背もたれにドンと、押し付けた。

 どわっ! 破片が! くっ――そおいっ!

 押し付けられて割れた王座の破片が俺の取り付く腕に落ちてきた。

 おもいきって腕から王座に向かって飛び、そこからさらに王座の後ろへ。
 後ろにいた本物の王様に向かって飛びついた。

 あっぶっ! くそ、腕輪を取れなかったが仕方がない、こっちのネックレスからもらう――。

 フード付きのローブに張り付いた俺は、素早く体を伸ばしてネックレスに触れると収納。

「さっさと外しやがれ! オラッ!」

 ネックレスを収納して、さらに王様の鑑定――ってか、収納! 収納! 収納!

「なっ! こ、これはどうなっておる!」

「そっちのジジイもうるせえぞ! ウラッ! くそっ! まだ来やがるか」

 王様の鑑定の結果は魔道具だらけということが分かり、どれがどれとか言ってられない。

 片っ端から触手を伸ばし収納していく。

 王様のローブも収納してしまったから、完全に顔が見えてしまっているが、金谷はホムンクルスを一発殴った後、増援に来た騎士達の相手をしているから気付いていない。

「ま、まずい、魔道具が消えていく、これでは隣国へ攻め込む戦力が――」

 王座前の階段に、騎士達が倒れ、積み重なっていき、あれだけいた貴族達も俺達が入ってきた扉から次々と逃げ出ていく。

 一応パンツは残してやったが、王様は床にパンツだけの姿になり座り込んでいる。

 ってか隣国へ攻め込む? っとそれどころじゃない!

 するとすぐに金谷は騎士を倒しきり、立っているのは金谷と、この部屋の入り口で見守っている取り巻きの二人だけになった。

「よ~し、片付いたぞお前ら。こっち来い、王様をひんむくぞ! 絶対鍵かなにか持ってるはずだからな」

 よし、気になるところ満載だけど今の内に隠れて魔道具を調べなきゃ!

 王様から離れ、王様が出入りするだろう奥にあった扉の無い出口にダッシュで向かい走り出た。

 出た先は十メートル四方のたぶん応接室で、座り心地の良さそうなソファー、大きなテーブル。
 大きな外に出れる窓があり、本棚や、お酒っぽい瓶が並べられた棚、そして奥に扉が一つがあるだけだった。

 よし、早く奴隷の腕輪を外す魔道具を見つけなきゃ。

 入ってきた入口から見えないようにテーブルの下へ移動して、王様からいただいた物を片っ端から出して鑑定、出して鑑定を続け、王様の物っぽくない宝石すらついていない指輪を鑑定したら当たりだった。

 ――――――――――――――――――――

 奴隷主の指輪 対になる奴隷の腕輪を着けた者への絶対命令権を有する指輪。
 永続:使用者が指輪を外すまで。
 短期:命令時に期間をもうけた場合のみ。
 対の奴隷の腕輪を外す方法は、奴隷主の指輪の破壊。

 ――――――――――――――――――――

 よし、じゃあこれを壊せば後は放っておいても、あの様子なら二度と言うことを聞いたりしないだろうな。

 指輪を壊すのは……握り潰そうにも無理だよな。

 ……あっ、食べれば良いじゃん。

 俺は指輪に覆い被さり、指輪を溶かして吸収すると、金谷の声が聞こえてきた。
 金谷の声が聞こえたから、慌ててテーブルの下から出て、王様達がいるホールに戻ると、金谷達の足元に真っ二つに割れた金色の腕輪だったものが落ちていた。

「あははははは! やっと邪魔なもんがとれたぜ! さっさと言うことを聞いてりゃ良かったのによ! ウラッ! てめえらまたこんな下らねえ事をしやがったらこの城ごとぶっ飛ばしてやるからな!」

「やった! 流石です金谷君、早くみんなのところに行こうよ」

「おう、いや、ちょっと待て。おい、誰か金を持ってこいや! 街で肉でも買ってバーベキューでもしようぜ」

 金谷は足元に倒れていた騎士の剣を拾い、腰についていた鞘も外して剣を収めると、取り巻きの一人に投げ渡す。

 それから壁際でガタガタ震えている魔法使いっぽいお爺さんから持っていた杖を引ったくると、もう一人の取り巻きに投げ渡した。

 いやいや、好き勝手だな……。

 その後、倒れている貴族っぽい人達からも、色々と奪っては取り巻きに渡し、腕輪についていた収納がなくなったからか、騎士のマントを外してそこに指輪や腕輪、ネックレスなどの貴金属を包み込んで、お金を持ってきた騎士を殴り飛ばして、ホールを出ていった。

 ……滅茶苦茶だな……絶対に関わらないようにしなきゃ。

 金谷達が出ていった後、俺も長居はしなくてもいいかと、このまま出ていこうと思ったんだけど、床をチョロチョロと進んで見つかるのはまずいと気付き、近くの壁を登って天井を行くことにする。

「おい! クソ勇者達を城から出してはならん! あらゆる手を使ってもよい、もう一度奴隷として捕らえるのだ!」

 裸になってる本物の王様は、シバかれなかったのか元気いっぱいで、ボロボロになっている騎士達に命令をしている。

 ……無理だろ。

 と、思うけど魔法がある世界だし、なにか手があるのかもしれない。

「無理なら多少殺してもかまわん! そうだ、生産職の者を捕まえ人質にしてでも連れ戻すのだ!」

 なにか無茶な事を言ってるけど、生産職なら捕まえることも可能だよな。

 はぁ、どうするかな。

 天井まで上った俺は、ちょうどホムンクルスの王様の上にいる。その横に本物の王様。

 とりあえず、時間稼ぎができそうなスキルは……。

『――ん! ――里くん!』

 え? 茜ちゃんの念話?

『茜ちゃん! どうかしたの! またゴブリンでも――』

『ゴブリ――だ――いっぱ――いるの!』

 クソ、途切れとぎれでよく分からないけど、ゴブリンが出たみたいだ。

 ここの事もやっておきたいけど優先順位はこっちじゃない!

 俺は王座の真上で意識を本体に飛ばす。

 意識が薄れ、眼下であわただしく動き出した騎士達を見ていたが、視界が暗転した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「イルちゃん、早く友里くんの冒険者登録に行きましょう」

「はいですの。アカネじゃなくて、ユウリ、行くのです!」

 イルちゃんは私の手を取り路地から大通りに引っ張っていきます。

 ちょこちょこと歩くイルちゃんに合わせてゆっくり歩いて冒険者ギルドに入ったんだけど、朝だからすごく混んでる。

 先に薬草採取の依頼書を取りに行き、受け付けに向かったんだけど、しばらく時間がかかりそうね。

 ちょっとテンプレを期待しちゃってるけど、よく考えたら今はユウリ君がいないのよね……怖い方が絡むテンプレは遠慮しましょう。

 左手に依頼書を持って、右手は私の人差し指と中指の二本を掴んでいるイルちゃんは、もう十日ほど依頼の受け付けを経験しているから、大人しく、色んな所に目を向けている。

「アカ……ユウリ、あのおじさんまたお酒飲んでますの。朝から飲んじゃ冒険できないのです」

 イルちゃんが依頼書を持った手で食事処を指差すと、初日に並ぶ場所を教えてくれたおじさんが、仲間の方と言った通りお酒を飲んでました。

 その事に気付いたのか、私の横で手を振るイルちゃんと私に向かって軽く手を上げてくれました。

 私も会釈をしたのですが、おじさんは『ん?』って顔をして、席から立ち上がり、こちらに向かってきました。

「おじさんこっち来ますの? アカ、ユウリ、大丈夫なのです?」

「え、あっ、そ、そうでした……んんっ、だ、大丈夫だイル。上手くできるはず」

 だ、大丈夫。友里くんの事はいっぱい見てきたし、喋ってきたもん。

 声を少し低く造り、立ち姿も確か正々堂々と立つ!

 少し手に汗を握ってるけど頑張るもん!

「ようガキ、今日は……兄ちゃんと一緒のようだな、いつもの姉ちゃんは具合でも悪いんか? それならこのポーションでも飲ませてやれ、二日酔いも一発で治るぞ」

 そう言ってイルちゃんにポーションを渡そうとしたんだけど、手が塞がってるよね~。

 よ、よし、この危機的状況を格好良く乗りきるのよアカネ!

「妹のイルやアカネの知り合いのようだね、でも、アカネは少し用事で俺が代わりなんだ」

「おう、それなら良かったぜ、ガキの兄ちゃんなら心配ねえな。……そうだな今日も薬草採取だろ? ちと森が騒がしい気配があったからな、気を付けて行きやがれ、じゃあな」

「おじさんありがとですの! 気を付けますの!」

「おう」

 それだけ言うと、私の空いている手を素早く取ると、その手にポーションを握らせ、さっさと仲間の待つ食事処へ戻っていった。

 戻っていったおじさんを『また子供達の世話か、好きだなお前』『その喋り方直せば町中の子供から人気者になれるぜ』と囃し立てられている声を聞きながら、もう一度会釈をして友里くんの冒険者登録に戻りました。
 友里くんの冒険者登録も滞りなく……ち、ちょっと普段の私が喋る言葉になっちゃって焦ったけど終わった。

 うう……友里くんが少し変な喋り方する子だと思われたかも……ごめんね友里くん。『はわわ』とか言っちゃったし。

 後で謝ろう。

 ギルドカードを受け取り、冒険者ギルドを後にして、いつも通り門をくぐり街の外へ出た後、遠くに見えている森に向けて歩いていきます。

 ちょこちょこ歩くイルと一緒に歩調を合わせ進むんだけど、同じように薬草採取を請けたのか、私と同じくらいの子達やおじさん達が後ろから来て、スイスイ追い抜いていく。

 あはは、仕方ないよね。
 イルちゃんも一生懸命歩いてるんだし、大きな子達と同じ速さで歩ける訳ないもの。

「アカネ、ユウリ大丈夫? 心配ですの」

 街を出たらユウリ呼びは無くなりアカネに戻っているけど大丈夫よね。
 今は……うん。近くに誰もいないから大丈夫。

 イルちゃんは、くいくいっと掴んだ私の指を引っ張りながら聞いてきた。

「うん。友里くんは強いんだもの、きっと目的を達成して戻ってくるわよ」

 イルにはそう言ったけど、やっぱり心配は心配ですよ。

 肩に乗っているぷるぷるの友里くんを、そっと触って、ふにふにしていてひんやりした感触で心を落ち着かせ……あっ、良く考えたら、これって友里くんの裸を触っているってことじゃ――っ!

 バッと手を離し、赤くなってらだろう頬を揉みほぐし、集まった血液を分散させる。

 友里くんの裸を触ったのなんて保育園の水遊び以来だけど、帰ってきたら謝って……ん? 今はスライムだし、良い……のかな?

 ……はっ! ダメダメ、そんなR18的なこと考えちゃ、これから一緒にいるのに友里くんの顔見れなくなっちゃうよ!

「くふふっ、アカネ変な顔ですの、私もやりますの! ふにふに~ふにふに~なのですよ~♪」

 ちょっと小さい頃の事を考えて、赤面していると、イルは私の真似をしていた。
 両手を頬にあて、ぐにんぐにんと顔を歪め押し潰しながら可愛い顔を揉みほぐしている。

「……もぉぉぉー! イルちゃん可愛すぎますよ!」

「はわわわーですのー♪ ぐるぐるぅ~♪」

 思わず抱き上げてぐるぐる回っちゃいました。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 しばらくして森の手前まで来ると、今日も数組のパーティーが薬草採取をしに来ている。

 私はかついで来ていた籠を下ろして、二日目に買ったスコップの二本取り出し一本をイルに渡す。

「はい、イルちゃんのスコップよ」

「ありがとですの、今日も頑張るのです!」

 籠を、手に持ち、あたりの薬草を探す。

 この薬草を探す事に私のスキル看破が中々役に立つ。

 とりあえず広い範囲で看破かけると、ほら、薬草や、毒消し、それに毒草まで大体の場所が分かるの。

「イルちゃん、薬草と毒消しがあっちにあるわよ」

「あっちなのです? 分かりましたの、よーいどんですの!」

「あっ、イルちゃん待って!」

 私が指差した方向に、スコップを持った手を振り回しながら、二日目に教えた競争する時の合図を言って走っていく。イルちゃんを追いかけ私も走り出す。

 でも足の遅い私でも、トテトテ走るイルちゃんにはすぐに追い付いちゃうんだけどね。

 追い付いた後は走る速さを合わせて横並びで十メートルほど走り、看破で見えた場所にたどり着いた。

「あっ、ありましたの! アカネ、そこにもありますの! 今日もいっぱいなのですよ!」

 早速イルちゃんはしゃがみこむとスコップで薬草を掘り始める。

 私もすぐ側にあった薬草を掘り始めたんだけど、少し離れた森の際で採取をしていた冒険者達が何か騒ぎ始めた。

「なんだろう? あっ、またゴブリンが出たとか!」

「ゴブリンですの? ん~、見えませんの」

 一本目の薬草を引き抜き立ち上がったイルちゃんは、スコップで目の上にひさしを作り、背伸びをして騒いでる冒険者達がいるところを見ている。

 けれど、同じように一本目を引き抜きつつ立ち上がった私にも見えないから――。

「森の中ですの! ゴブリンがこっちに走ってきてますの! アカネ、逃げますの! よーいどんなのです!」

「う、うん! イルちゃん手をつないで! 行くよ!」

 私には見えなかったけれど、イルちゃんがそんな嘘をつくはず無いので、手を取り合い街に向けて走り始めた。

 するとすぐに背後から『来たぞ! ゴブリンだ!』『クソっ! 思ったより数が多い、逃げるぞ!』そう叫んでいるのが聞こえた。

 やっぱり! 流石イルちゃん、小さい子だけど魔王だからかなと考えてしまう。

 けど、今は途中後ろを振り向かず走らなきゃ!

 でもやっぱりイルちゃんの足の歩幅が狭く、このままじゃ追い付かれてしまう。

 私は立ち止まり手を離すと『え?』って言うイルの前で、籠を背中から前に持ってきて、背中を向けてしゃがみこんだ。

「イルちゃん、おぶさって! イルちゃんをおんぶして走るから!」

「はいですの! よいしょ、アカネ、おぶさりましたの!」

 首に回った細い腕を感じながら、両手でイルちゃんの足を持ち立ち上がった。

「うそっ! 初日より多いよ! 行くよイルちゃん! しっかり掴まっててね!」

 立ち上がった時に、チラリと後ろを見ちゃったんだけど、初日に遭遇した十匹のゴブリンの倍はいるように見えた。

 急いで走り出しながら、イルちゃんには友里くんの事をトントンと叩いていてとお願いして、街にいる友里くんに念話を送る。

「お前らもっと速く走れ! 追い付かれるぞ!」

「そんなこと言ってる場合か! 俺達もヤバいんだ! 悪いけど先に行かせてもらうぞ!」

 次々と薬草採取に来ていた他の冒険者達に声をかけられるけど、その人達も必死に逃げているから簡単に抜かれちゃった。

 友里くん早く気づいてと、全開で走りながら念話を送っていたのに、すぐ後ろまでゴブリンの声が近づいてきていた。

「アカネ!」

 イルの叫びを聞いた時、草に足をとられ絶対転けちゃ駄目な場面で私は地面に投げ出された。
「きゃっ!」

 意識が本体に移り、見えたのは青い空を隠すように覆い被さってきたゴブリン――っ!

「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」

 ドゴンと覆い被さってきたゴブリンの一匹目を吹き飛ばし、次から次へと飛びかかってくるゴブリンに向けてファイアボールを連射する。

 ドゴン、ドゴンと爆発音が響く中、体の下に震えながらもイルを抱え込んで守っている茜ちゃんがいる。
 絶対にやらせない!

 次から次へと向かってくるゴブリンと、俺達を迂回して、先を走る冒険者達を追いかけるゴブリンに分かれた。

「ファイアボール! くそっ、もうちょいでこっちは終わるのに、向こうがヤバい!」

 ここからでも狙えそうだが、ミスしてしまうと、冒険者達にファイアボールが当たってしまうかもしれない。

「茜ちゃん、こっちはもう終わるから立ち上がって! 俺達を避けたゴブリンがあっちの人達を狙ってる! 走って追い付いてほしい!」

「ゆ、友里くん! こ、怖かったよー。お、追いかけるのね! こ、怖いけど頑張る! イルちゃん、ぎゅっと掴まっていてね!」

 地面を手で力強く押して体を起こし、イルを背中におんぶして、カクカクと笑う膝を無理矢理立たせると茜ちゃんは走り出した。

 走り出したタイミングでこちらに向かってきていたゴブリンを倒しきり、茜ちゃんに身体強化をかけた。

「な、なんにゃっ! にゃ、にゃにこれ! 凄く早く走れる! でもこれなら! 友里くん、射線が被らなければ良いんだよね! 行くよ!」

「身体強化をかけた! 射線――そうだ! 横とは言わないけど、斜めで良いからお願い!」

 茜ちゃんは言った通り進行方向を冒険者達からずらして進む。

 身体強化のお陰かどんどんゴブリン達との距離を詰め、ゴブリンが冒険者達との射線から外れだした。

「よしそのまま頼む! ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「助かった! 君達のお陰だ!」

「すげえな嬢ちゃんの兄ちゃんは」

「ツヨツヨですの! ユウリはすごいのですよ!」

 冒険者達を追いかけていた十匹ほどのゴブリンをファイアボールで倒しきった後、ドゴン、ドゴンと派手な音が鳴るから冒険者達も気付いたのか、振り向きゴブリンが煙を出して倒れているのを見て立ち止まった。

 そして俺達は合流したって訳なんだが……ちょっと褒めすぎじゃない?

 あっ、そんなことより――。

「イル、怖がらせてごめんね怪我とか痛いところはない? あっ、お兄さん達も怪我はないですか?」

 念話で茜ちゃんにも聞いておく。

「大丈夫なのです! 元気いっぱいですの!」

『はい、少し膝を擦りむいたくらいなので大丈夫です。友里くんが来てくれたから』

 イルは両腕の力こぶを見せるような格好をして、ふんすと鼻息をもらしている。
 それもだけど茜ちゃんの膝に回復魔法をかけなきゃね。

『回復魔法と言えばヒール! どうかな?』

『ヒール凄いです! 痛みがなくなりましたよ友里くん! 攻撃魔法が使えて回復魔法まで使えるなんて、チート過ぎますよ!』

 なんだか茜ちゃんも、イルと同じようにふんすと興奮したように鼻息をもらした。

「ああ、俺達は大丈夫だ。しかしいつもの子は一緒じゃないんだな」

 茜ちゃんの事を知っているのか……よく見ると、薬草採取している時に見かけるお兄さん達だった。
 えっと、パッと見だけど五人と三人のパーティー全員怪我もなかったようだ。

「そうだ、こんなに沢山のゴブリンが森から出てくることはよくあるのですか? 十日ほど前にも十匹近くのゴブリンをこの薬草採取の場所で見かけたのですが」

 俺が少し疑問だったからそう聞くと、お兄さん達は顔を見合わせた後、俺達を見て『は?』って顔をする。

「いや、めったに無いし、出て来ても十匹もの群で出てくる事もまず無いぞ、俺達が見たことある最高で五匹だ」

 マジかよ……だったら十匹も倒したと言ったら目立ってしまうんじゃ。

「君達ってなぜ薬草採取してるんだ? ゴブリンを十匹倒し、今回は三十匹もいた大きな群を単独で倒せるって言うのに」

「え? 冒険者ギルドに登録したのが十日前ですから、討伐依頼は請けられないんじゃ?」

 と言うより、前回は収納しちゃったから出すに出せなかったんだけど……まだ収納持ちの人を見たことないし、レアなスキルだよね?

 お兄さん達はまた顔を見合わせため息を。

「はぁ、あのな、登録したてのEランクでも、ゴブリンは倒して良い。逆にDランクに上がる条件の一つでもある。お前達、そんなの冒険者になる奴なら誰でも知ってることだぞまったく」

 その後、ゴブリン討伐を証明するため、魔石を取り出すやり方を教えてもらい、倒したゴブリンは穴を掘って埋めるか燃やすかするらしい事を教えてもらった。

 いや、精神耐性様々だよロリっ子様。
 召喚前ならこんなグロ耐性とか、ましてやゴブリンを食べようなんて思わなかっただろうし……でも茜ちゃんには悪い事をしました。

 ゴブリンの胸を割り、心臓の近くにある魔石を取り出すのをお手本を見せてもらったけど、俺の姿の茜ちゃんは解体用のナイフを突き立てることはできなかったので、俺をゴブリンに押し付けてもらうことで解体は回避することに成功した。

 二匹目からも俺が魔石だけを残して吸収しておいたんだけど、それを見ていたお兄さん達の目がおかしいんだが。
 最初に倒した二十匹ほどいたゴブリンも食べたくはなかったが、魔石が討伐の証拠って言うから残さず吸収させていただいた……。

 その後、薬草の採取を再開しようとした俺達にお兄さん達は声をかけてきた。

「ユウリだったか、この状況で薬草採取を続けるか? 普通なら冒険者ギルドに報告しなきゃ駄目だろ」

「え? だけどイルが請けた依頼が失敗になるだろ? 請けたのは薬草採取で、ゴブリンの討伐じゃないし」

「失敗になるのです? 困りましたの、頑張って早く集めますの! 少し待って欲しいですの!」

 イルは茜ちゃんから渡してもらったスコップを空に向かって掲げて、今にも薬草がありそうな方向に走り出しそうだ。

 ……鑑定! あそこだな。そうか、茜ちゃんからある場所を聞いてあったんだね。

『友里くん、今回みたいなゴブリンの群は珍しいって言ってたし、もしかしたら報告の義務があったりするのかも。イルちゃんの言う通りすぐに集めてあげたいけど依頼は今回諦めた方が良いかも』

 なるほどそうか、めったにない数のゴブリンがいた証拠の魔石は、茜ちゃんが持つちょっと潰れた籠に入ってるし。

「それになんだそのスライムは、小さいのにアレだけのゴブリンを食べてしまうなんて」

「いや、スライムはそんなもんだって、止めないとどれだけでも吸収するそうだぞ。しかし、よく見ると普通のスライムより小さいな」

 別のお兄さんがそう言ってつついてきた……。

「ん~、さわり心地も普通のスライムだけど、よく懐いてるな、っと、分かった薬草だろ、俺達も手伝ってやるから心配するな」

「ふおお! 手伝ってくれますの! こっちですの! 沢山ありましたからすぐなのです!」

「あっ、イル!」

『イルちゃん急に引っ張っちゃ!』

 あっぶねー、もうちょっとで茜ちゃんから落とされるところだった。

 今離れると幻影(ミラージュ)が解けて茜ちゃんの姿が出てしまうんだけど、繋いでいた手を引き、イルがいきなり走り出したため、茜ちゃんがつんのめったが、なんとか空いてる手で押さえてくれたので助かった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その後は、俺が鑑定するまでもなく、茜ちゃんの看破で薬草が生えている場所を見つけ、お兄さん達にも教えると。

「おいおいユウリだったか、お前すげえな。これだけあれば、俺達の依頼分も集まりそうだぞ」

「ああ、それなら良いですね、やっぱり依頼失敗はそれだけ収入も減りますし、いっぱい集めて行きましょう」

 ま、まあ俺は薬草を採取している茜ちゃんの肩の上であたりを警戒しているだけなんだが……頑張れ。

 結局、俺達と、お兄さん達の依頼分も採取が終わり、報告しないといけない冒険者ギルドには、いつもより少し早いくらいの時間に帰ってこれた。

 受け付けも、並び始めていたけど俺達は列を飛ばして受け付けではなく奥にいるギルドマスターに声をかける。

「ギルドマスター、ちょっと緊急かもしれない情報を持ってきた」

 お兄さんが声をかけると、チラリとこちらを見たギルドマスター。

 イルはいつも通りカウンターに背伸びをしながら顎を乗せるスタイルだ。

 忙しく、戦場のような緊張感漂う場が、ほんわかと緊張感が薄れた。

 ニコニコ顔でやってくるギルドマスターに向かって笑顔を振りまきながら、お兄さんが言う前にイルが先に報告し始めた。

「ゴブリンが出ましたの! えっと、三十匹くらいいましたの! ユウリがやっつけたのです!」

「先に言われてしまったか、本当だぞギルドマスター。この子の兄貴が魔法で倒してくれなきゃ俺達は今頃ここにはいなかっただろうな」

 そう言ってイルは頭を撫でられている。
 だがギルドマスターや、それを聞いた冒険者達は、緊張感が戻る人と、冗談だと思い笑う人達がいる。

「嘘ではないのだろうが、魔石はあるのか? それとも、数が数だ、現地に置いてきたなら今からでも処理をするために人を出すが――」

 魔石と言い始めたので、茜ちゃんに籠を見せるように念話を送る。

「ん? その薬草ではないんだが」

「いや、その薬草の下に魔石が入っているので見てもらえれば」

 イルの目の前に置かれた少し壊れかけの籠から薬草取り出し、底に入っている魔石を見て、ギルドマスターの顔がイルを見ながらにこやかだったのに、真剣な顔に変わり緊張感が出てきた。

 籠から魔石を取り出し始めたギルドマスターに冒険者ギルド内の視線が集まる。

「ちょうど三十だな、これほどの群れが薬草採取の草原に出てきたのか……、これは森の中の勢力図が変わったと見て、調べる必要があるな」

 ギルドマスターは一度自分の席に戻り、何か紙を引き出しから取り出すと、サラサラと何かを書いて印をダンと、こちらに戻ってきた。

「緊急依頼を出す! Cランク以上のパーティーは強制参加だ! 明日の朝より森の調査を頼む! 一日銀貨二枚! 成果によって追加報酬もつける! Dランク以下は結果が出るまで森には近づくことを禁止だ!」

「ユウリ、私達はEランクですの、ダメダメなのですよ」

「そうか、仕方がないか、解決するまで別の依頼を請けないと駄目だな」

『えー、冒険者の私達が大活躍して一気にランクアップできそうなイベントなのにー』

 うん。俺もそう思うが、ランクの縛りがあるなら仕方がないか。

「俺の予想たが出てきたのはゴブリンだ。今までならオークがあの森のヌシだったから性質のよく似たゴブリンはそこまで外には出てこなかったが、そのオークからヌシが別物に変わった可能性が高い。分かっているとは思うが気を抜くな!」

 ギルドマスターの言葉に反応した冒険者達は歓声と言うか歓喜して叫ぶものと、寡黙に仲間達と相談を始める者達に、低ランクの依頼に対して不安な声が飛び交っている。

「よし、この者達の精算を済ませておいてくれるか」

 そう言うと、お兄さん達の持っていた薬草も出させて俺達は別室で詳しい話を聞きたいと、奥にある応接室に連れていかれる事に。

 話すのは構わないし、イルは初めて入るところなのでキョロキョロと楽しそうで良かった。

 ……のかな?
「そこにかけてくれ。茶を……ん? 空じゃねえか。すまん、ちょっと待っていてくれ」

 大きなL字ソファーでお兄さん達は、少し詰まっている気もするけど並んで座る。

 俺達は二つある一人掛けのソファーの一つに茜ちゃんが座り、そのひざの上にイルを乗せて待つことになった。

 部屋の中を見渡すと、大きな窓が一つあって、その前には大きな執務机。

 応接室と言いながら執務室でもあるようだ。

 それに小さいけど本棚が一つと、お兄さん達が座るL字のソファーが一つに、一人掛けのソファーが二つ。
 後は真ん中に茶器の乗ったテーブルがあるだけだった。

 ギルドマスターが女の人を連れて帰って来ると、テーブルの上にあった茶器を持って出ていく。

「すまないな、お茶はもう少し待ってくれ。先に話を進めよう」

 そう言って持っていた、いくつかある箱を開けると、クッキーが入っていたようで、お兄さん達と俺達を見て『くくっ』と笑い、興味津々で、身を乗り出しかけているイルの前に、一番大きな箱を置いてくれた。

「食べながらで良い、どうなったのか始めから順に話してくれるか」

 そう言って俺達の方を見てきたが、俺は最初知らないぞ! 茜ちゃん、教えて!

『はわわっ! そ、そうでした! まずお兄さん達が騒ぎ初めて――』

「――その後ファイアボールで倒していたんだけど、俺達を迂回して、お兄さん達を追いかけるゴブリンまで出てきたんだ」

 茜ちゃんの念話を聞きながら説明していく。
 もちろんイルは箱に手を伸ばしてクッキーをサクサクと頬張ってご機嫌だ。
 
 ギルドマスターは真剣な顔で、お兄さん達は、逃げていて見てなかったところもあったから『そうだったのか』と小さく呟きながらも最後まで聞いてくれた。

「では話の通りだとするなら、ゴブリン30匹すべてユウリが倒した? 今日冒険者に登録したところの新人が?」

 や、ヤバい……どうしよう。ギルドマスターが怪しんでるような顔してるよ!
 あー、そうだ! ラノベなら……っ!

『えとえと、ラノベ――こ、隠れ住んでて修行してたパターンでどうかな!』

『よしそれで!』

 茜ちゃんのアイデアを使わせてもらう。

「は、はい。山奥でずっと修行していたので、そのくらいは。結構必死でしたけどね。冒険者に登録したのも、妹のイルが冒険者に登録したと聞いて俺も登録しただけなので」

「ふむ。高名な魔法使いだろうか、名を聞いても良いか?」

 ひとまず信じてくれたようだけど名前――よし!

「えっと、師匠は人との関わるのが嫌いだから隠れ住んでいるので……すみません、教えることはできないです」

 本当にごめんなさい! それと信じて下さいお願いします!

 ギルドマスターは眼を閉じて考え込んでいる。
 そこへギルドマスターと一緒に来て茶器を持って出ていったお姉さんが戻ってきた。

 考え込んでいるギルドマスターをチラリと見た後、お茶をいれ始め、俺達の前に置いてくれた。
 イルはひざの上からテーブルの上のカップに首を伸ばし、小さな唇をとがらせて息を吹き掛け湯気を揺らしている。

 もちろん両手には、噛られたクッキーを持っているんだけどね。

「ふぅーふぅー、熱々ですの。アカ、ユウリもふぅーふぅーしてから飲むのですよ」

 それを見たお兄さん達はもちろん、お茶を入れてくれたお姉さんにギルドマスターも笑顔になって、イルを見ている。

 イル、ナイスだ! このままイルの可愛さにやられて誤魔化されてく下さい! と願いながら次に進むよう促しておく。

「うん。火傷しないようにね。以上ですがギルドマスター、俺からの報告はこれでいいですか?」

「可愛――んんっ、あ、ああ。分かった、詮索はやめておく。そうだな、ユウリからの報告はとりあえずそれで良い。次はお前達だ、頼む」

 次に説明を始めたお兄さん達の話を聞き、最後の三組目のパーティーの証言が終わり、矛盾なく一致したところで、ギルドマスターは大きくうなずく。

「情報提供ありがとう。ユウリ、君達はDランクに昇格だ。パーティーランクも同じくDランクになる。後でギルドカードの更新をしておいてくれ」

「はい。後、気になるのですが、明日からの依頼は」

「ああ、そうだな、高ランクの者達が今回の異変調査が終わるまでは低ランクのお前達には少し依頼を請け辛くなるが……」

 また考え始めるギルドマスター。
 サクサクとリスのように少しずつ噛る音だけが部屋に響いていた。

「ギルドマスター。街中の掃除、荷物運びなどがありますね。後は少し遠くなりますが、湖の(ほとり)にも多少は薬草が生えています」

 できれば街中をうろつくのは遠慮したい。
 湖か、どれくらい遠いのか分からないけど、それを一度請けてみるのも良いか……それとも、まだ早いと思っていたけど別の街に移動するのもありだ。

 遠くまで移動して、少ない薬草を取り合いになるのも勘弁してほしいし、少ないと買い取りも――。

「よし、薬草の買い取りはギリギリまで値上げをしておくから、少し遠いが請けてくれると助かる」

 少なくて、買取価格が上がるなら、それはそれでありか?

『友里くん、湖だよ! 異世界の湖ってやっぱり凄く綺麗なのかな♪ ボートに乗ったり、魚釣り、お弁当を持ってピクニックにするのも良いね♪』

『ぴくにっく? それはなんですの? お弁当?』

 振り向いて、茜ちゃんの顔を見上げてくるイル。
 ピクニックとお弁当のことを念話で聞いててきたけど、サクサクと口は止まっていない……美味しいんだね。

『えっと、普段は友里くんの収納に直接ごはんを入れてるでしょ?』

『はいですの。いつもパンでしょ、腸詰めでしょ、それに焼きたて熱々の串焼きでしたの! 今日は籠に入ってたから冷めてましたの! 冷めても美味しかったのです!』

『あ~うん、冷めてたね~。それでね、お弁当はそのクッキーが入ってるような箱に食事を入れたものだよ。ピクニックはその弁当を持って――』

 茜ちゃんが説明をしてくれそうだ。
 そうだな、数日は湖に行ってピクニック、釣りでもして過ごしても良いか。
「見て! 湖が見えてきたよ!」

 そう言って手を繋いだまま駆け出すイルと茜ちゃん。
 林を通り抜ける小道を抜けた先に見えたのは、言った通り湖だ。

 街から二時間もかかったけれど、湖は光が反射してキラキラと輝き、林を抜けると、その全貌が見えてきた。

「へえ。思ってた通り綺麗だね」

「キラキラですの! お魚いっぱい捕まえますの!」

「よーし、私も頑張るよ! そのために塩を買ってきたんだもん!」

 うん。それは楽しみなんだけどね。君達に『薬草採取の依頼を忘れてないかい』と聞いてみたい。

 林を抜ける手前から、鑑定で見ていると、結構な数の薬草が生えているのを見つけたから、少し集中すれば、いつもくらいの量は昼前に――。

「アカネ、早く行くですの! お魚が待っているのですよ!」

「うんうん、あっ、イルちゃん! そんなに慌てると転けちゃうよ!」

 ――って、集められると思ったけど、まあ、楽しんでからで良いかな。

 人が歩く分だけ茶色く草が生えていない。
 その道をトテトテと走るイルのスピードに合わせて走る茜ちゃん。

 俺はイルの頭の上に乗り、緩やかな風を感じてる。
 この世界で生きてくなら、この二人は絶対に護って行こうと心に決めた。
 そして……どこかをのんびり旅するのも良いな。

 なんて事を考えてたんだけど。

 俺は茜ちゃんに飛び移り、幻影(ミラージュ)をかける。

「ほへ? どうしましたの?」

「くそっ! なんでここに来てるんだ! ちょっと左のずっと先! あれを見て、ゴブリンだ」

「誰か戦ってます! 助けに――嘘っ!」

 イルの頭の上から微かに見えたんだけど、茜ちゃんに飛び移り見えたのは、俺達がいる道から左に外れた二百メートルほど先、湖の畔でゴブリン二匹を取り囲む三人。

 金谷と取り巻きの二人だ。

「ゴブリンは二匹か、微かだけど叫ぶ声が聞こえる」

「友里くん。もしかすると――」

「仲間を呼んでると思う……っ! 後ろっ! イル、茜ちゃん、後ろの林から気配がするぞ! それも昨日より大量だ!」

「ほへ? またゴブリンが来ますの? ユ、ユウリ、大丈夫なのです?」

「やるしかない! 茜ちゃん、もう少し林から離れて湖の近くへ!」

「はい! イルちゃんおんぶです!」

 イルに背中を向けてしゃがむ茜ちゃん。
 イルはすぐさま茜ちゃんの背中に飛び乗ると、グンっと立ち上がるタイミングで茜ちゃんに身体強化をかける。

「にょわっ! ま、また! でも、これで早く走れます。いきますよ!」

「はいですの! よーいどんなのです!」

 くそっ! ゴブリンはいつもの森にいると思い、まったく警戒してなかった。

 走り出してすぐに林から飛び出すゴブリンが見えた。

 その数は五十を超えていそうだ。
 それにゴブリンだけじゃない。数匹だけど灰色の肌をした、豚っ鼻がいる。

 鑑定の結果、オークだと言うことが分かる。

「オークもいるぞ! 茜ちゃん、ここで良いから止まって! 迎撃だ!」

 林から百メートル。
 金谷達とも百メートルの位置で止まってもらい、魔法を唱え始める。

「ウォーターランス! ウォーターランス! ウォーターランス!」

 茜ちゃんには一応ポーズだけだが、ゴブリン達に向けて手を伸ばしておいてもらう。

 ウォーターランスが発射され、まっすぐゴブリン達に向かい、先頭の一匹目に突き刺さり、そのまま体を抜けて後ろのゴブリン達にもウォーターランスは届いた。

 三匹は一発で倒せるようだ。

「よし! ウォーターランス! ウォーターランス! ウォーターランス!」

 それでも数が多いため、少しずつ間合いを詰められている。

 最初、七十メートルは開いていたのに、今はもう五十メートルを切ってきた。

「ユウリ! 頑張ってですの!」

「おう! 手はもう良いからイルをしっかりおんぶして、少しずつで良いから下がって! 間合いが近すぎる!」

 俺の言葉に茜ちゃんは、イルのおんぶをしっかりと腕を回して担ぎ直し、身体強化の効いた体でバックステップしてくれる。

 グン、グンと後ろ向きに下がってくれるため、詰まり始めた間合いが縮まなくなった。

 だが背後で『なんだありゃ! 逃げんぞ!』『うわぁぁー! 金谷くん待って!』『おいてかないで!』と、アイツらもこの状況に気付いたようで、逃げ始めたようだ。

「ってか、倒してから逃げてくれよ! ウォーターランス!」

 背後に一発だけ飛ばし、ヨタヨタとこちらに向かってきていたゴブリンを倒す――が、二匹を突き抜けたウォーターランスは逃げた金谷達を通り越し、十数メートル先で地面に突き刺さった。

 アイツらに当たらなくて良かったけど『テメエ! 何しやがる!』『そんなことより早く逃げよう!』『冒険者ギルドに報告すればアイツら終わらせられるから!』なんて――くそっ!

「好き勝手言ってるけど、今はこっちだ! ウォーターランス!」

 長く戦っていた気もするけど、たぶんまだ五分もたってない。
 残りはゴブリン五匹と、オークの残りが二匹だ。

 ここまで来て一気に近付いてこようとせず、遠巻きに俺達を湖の畔に追いやって来る。

「ゆ、友里くん、もう後ろが無いよ、私も攻撃魔法が使えたら少しは役に立てるのに」

「聖女は回復系だから仕方無いって、ここは俺に任せておいて、大丈夫、次は逃げられないから――ウインドカッター!」

 透明な三日月が俺達の上に浮かび、シュンと微かな音を立てた次の瞬間、避けることもなく、オークとゴブリンに吸い込まれ、背後に抜けていった。
「はわわ! 来ましたですの!」

「イルちゃん頑張れ! って私も来ちゃいました!」

 ゴブリンとオークを倒しきった後、昨日と同じようにゴブリンを俺が吸収して、オークは肉が食用ということで収納。

 金谷達が遊び半分で痛め付けていた二匹のゴブリンは吸収せずに収納しておいた。

 その後、金谷達のことも気になったけど、当初の予定どおり街で買ってきた釣竿を使い、湖で釣りを始めたんだが、一投目から棒状のウキが沈み、二人の竿を曲げた。

「マジかよ! 二人とも竿を立てるんだ! 魚が弱るまで糸を切られないように耐えるんだぞ!」

「んぎぎぎ! おーもーいーでーすーのー!」

「イルちゃん頑張れ! 私も頑張る! ぬあっ!」

 水際で腰を下ろし、両手で竿を立て踏ん張っているイルに茜ちゃんが声援を送る。

 その茜ちゃんもしゃがみながらグイっと竿を立て、右に左にと走る魚に耐えていたんだが、茜ちゃんにかかった魚は、引く力に負けて水面から空中へ引き抜かれてしまった。

「はにゃ!」

「ぬおっ!」

 魚の抵抗がなくなった茜ちゃんは、コロンと後ろに転び、空中へ引き抜かれた魚に飛ぶ力は無く、弧をえがき俺達の上を飛び越えて背後にトサッと落ちた。

 落ちた魚を見るに今の俺の五倍ほどデカいってことが分かったんだが。

「すげー! 俺も釣りてー! って茜ちゃん、竿を置いてイルの援護を!」

「たーすーけーてーでーすーのー!」

「はわわ! イルちゃん今行きます!」

 竿を手放し急いで立ち上がった茜ちゃんは、すぐ隣にいたイルにかけより、背後から抱きつくように手を伸ばして一緒に竿を握る。

 それまで抵抗を続けていた魚も、引っ張られる力が二人分になったため、抵抗むなしく徐々に岸へ引き寄せられ、ついには岸に引っ張り上げられてしまった。

「やりましたのぉー! 大きいですの!」

「やったー! イルちゃんおめでとう♪」

「二人とも凄いよ! こんな大きいのが釣れるのかよ、俺も釣りてえー!」

 釣り上げた二匹のシャケ? いや、シャケって湖にいる魚だったか? だけど形はどう見てもシャケにしか見えない……鑑定。

 ――――――――――――――――――――

 ワイルドトラウト(オス) 食用、美味
 ※加熱して食べないと、高い確率で食あたりを引き起こす寄生虫がいます。

 ワイルドトラウト(メス) 食用、美味、卵巣あり
 ※加熱して食べないと、高い確率で食あたりを引き起こす寄生虫がいます。

 ――――――――――――――――――――

 トラウトは確かシャケで良いんだよな。

 それに寄生虫は聞いたことある、確か、シャケ生で食べる場合は、冷凍して寄生虫を殺しておかないとお腹が痛くなるって。
 だから昔は生でほとんど食べられなかったと。

 まあ、冷凍で無害になるんだし食用で美味しいようだ、それに片方はメスで卵巣ってことはイクラだよ! くくく、俺、好きなんだよな。

「よし、ワイルドトラウトって魚で食べられるぞ」

「「わーいですの♪(やったぁー♪)」」

「良いなぁ、俺もこの体じゃなきゃ釣ってみたかったよ」

 まあ、無理すれば竿を持つことも出きるだろうけど、俺の五倍はあるワイルドトラウトを釣り上げられる自信はない。

「じゃあ、冷凍して収納だけど、これさ、二匹で十分だよね?」

「こんなに大きな魚は全部食べられませんの」

「うん。切り身で十分だけど、このワイルドトラウトいったい何人前くらい?」

「十人は余裕だろうな、よし、血抜きするから茜ちゃん、ワイルドトラウトに近付けててくれる、あっちに人が来たから離さないようにね」

 肩に乗ってた俺を持ち、二匹のワイルドトラウトに近付けてもらい、触手を二匹に伸ばして口から突っ込んで、針の刺さった傷から一気に血を吸い取ってみる。

「「ほわっ!(っ!)」」

 ワイルドトラウトは一瞬だけビクリと跳ね、二人を驚かせたが上手く血が抜けたようで動かなくなった。

 あっ、ついでに鱗とか内臓は吸収しておくか。

「――よし、成功だね。後は凍らせるんだろ、だったら……フリーズ!」

 ワイルドトラウトは、一瞬で表面に白い霜ができて、つついてみるとカチカチに凍っているのが分かった。

「ほへ~、カチカチですの、それに冷たくなりましたの」

「友里くんって、一家に一人いると絶対便利だよね」

 ま、まあ、自分でもそう思うけどさ……。

「よし、収納っと。この後どうする? 俺の見た感じ、この湖って貝もいるよね、ほらそこ貝殻落ちてるし」

 触手で指した砂地にアサリのような貝殻と、サザエのような物も落ちている

「うん、私も気になっていたんだけど……海じゃないんだよね?」

 気になったから湖の水を鑑定したんだけど、やっぱり真水で、塩は少し含まれてるんだろうけど、ほぼないってことだ。

「鑑定したけど真水だね、ま、まあ異世界ってことで、納得するしかないよね」

 少し複雑な気持ちもあるけど、竿を収納して、今度は薬草採取用のスコップを取り出してあげる。

 スコップを受け取ると不思議な顔をして『薬草はここに無いですの、森に行きますの?』とイルは聞いてきたが、茜ちゃんは笑顔で『イル見ててね』と見本を見せるように湿った砂地に小さな穴があるところを掘り出す。

 しゃくった砂を横に捨て、二回目を掘った時、カチっと金属製のスコップが、何か硬い物に当たる音がした。

 そして慎重に掘り起こした砂の中に、貝殻を鑑定して出た物と同じ大きさの貝、スモールクラムって言う二枚貝が出てきた。

「ははっ、こんなに簡単で良いのか? まあこれも食用だし、美味しいって出てたから、食べられそうな分だけ取ろうか」

「「は~いですの♪(うん♪)」」

 掘り出した二人の間に水桶を出してやり、伸ばした触手を湖につけて、水を収納。
 水桶に少し出して、取れた貝を入れてもらうことにした。

 食べきれなかったら、逃がすことも出きるだろうしね。

 少しずつ移動しながら二人は小さな水桶の半分ほどのスモールクラムを採取すると、ちょうどお昼時になっていたので、このピクニックに来た目的の一つ、バーベキューをすることにした。
「やーけたーかなー♪ すんすん♪ いーい匂いですのー♪」

 湖の畔で石を収納で拾い集めめた後、草の生えていない乾いた砂地にたき火の囲いを作る事にした。
 街で買った薪で火を起こした後、そこそこ大きめのフライパンが置ける台も作り、予定していたバーベキューを始めた。

 逃げていった金谷の事も気にはなるんだけど、俺達は何も悪さは……まあアイスランスがニアミスしたくらいだし、大丈夫だよね。

 茜ちゃんの頭の上で俺が周囲の安全を見守っていると、ジュウジュウと良い音を立て、ワイルドトラウトとスモールクラムをバター焼きにしているんだが、良い匂いがしてきた。

 茜ちゃんの横では、体をユラユラと揺らしながらイルは顔をつきだし鼻をヒクヒクさせ、ちょっと変わったメロディーを付けて歌っている。

 湖の畔は少し風があるのでコゲちゃわないように、茜ちゃんがイルの髪の毛を持っていたヘアゴムで頭のてっぺんに、俺くらいの団子状にまとめられ縛られていた。

 これ……銀髪だから後ろから見ると、雪ダルマだよ。

「これは絶対美味しい匂いってヤツですよ! あっ、またポコって! イルちゃんもうすぐ食べられるからね」

「は~いですのー♪ ヨダレがぁー♪ 止まらない~♪ ので~すぅー♪……まだ?」

 もう何度目かと言いたいくらい何度も『まだ?』『まだですの?』『もう少し我慢なのです』と、目線はフライパンから離さず聞いて来たりするイル。

「そろそろかなぁ~、蓋開けちゃうね」

 音の連続がなくなったので、そっと蓋に手を伸ばし蓋を開ける。
 そっと覗いてみると、ほぼ全てのスモールクラムは口を開けているのが見えた。

「お口が開いてますのー!」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 バーベキューを終えてもう一つの目的、薬草採取も終らせて、王都には思ったより早く着いた。

 帰り、途中でイルが疲れたようで、茜ちゃんが手を引きながらも船を漕いでいた。なので茜ちゃんがおんぶで王都に帰ってきたからだ。

 もちろん身体強化の継続時間と、今後のために重ねがけした時の体の動きなんかも確かめながらだけど、思わぬ結果が出た。

 茜ちゃんは両手が開くように、ローブを抱っこ紐代わりにイルをおんぶして、小学生の高学年まで俺と一緒に習っていた剣道の竹刀サイズの棒切れを拾い、歩きながら素振りをし始めた。

 身体強化しているからか、竹刀のような軽さじゃなく、木刀くらいの重さがあるはずの棒切れを、片手で何も持っていないかのように振り回していた。

 まあ、あまりに軽すぎて『何も持っていないみたい』『ある程度重さがないと上手く振れないのね』『あっ、この木の枝なら!』なんて言って持っていた枝と交換で、自分の身長くらいあり、自分の腕ほどある太めの枝を拾い上げた。

 まだ小枝がついていて、葉っぱも付いたまま振ろうとしたので、いらない枝を吸収してやり、形を俺の趣味で両手持ちの大剣にしてあげたんだけど『これこれ、ちょうど竹刀の重さだよ』と、ブオン、ブオンと片手で振り回し始め、さっき離した枝も空いている手に持ち『宮本さんだよ!』と二刀流だ……。

 聖女で剣術が使えるのか良いのか分からないけど、街に帰ったら、武器屋に寄ろうって事になった。

「はい、次のって嬢ちゃん達か、嬢ちゃん達、今は買取りできない、殺人未遂の容疑がかかってるからな」


「は? 殺人未遂? どういう事ですか?」

 冒険者ギルドの買い取りの列に並び、直ぐに順番が回ってきたのにいきなりそんな事を言われた。

「おい、私は嬢ちゃん達を連れていくからここは任せたぞ」

「分かりましたギルドマスター。ですがお気をつけを、なにもしていないのに、いきなり攻撃されるとのことですから」

 いつも買い取りをしてくれるおっちゃんが、ギルドマスターって言う事にも驚きだけど、いきなり攻撃されるって……。

『あっ、そう言えば取り巻き君の一人が通報がどうとか言ってました!』

 あっ! ああ~、金谷達か、確かにそんな事を言ってたね……。

「っと、妹の方は寝ているようだな。まあ良い、大人しく付いてくるんだ」

 ギルドマスターは買い取りカウンターを離れ、奥へ続く通路に足を向けながら、クイっと親指で奥を指差した。

『はわわ! どういう事なの友里くん! 友里くんが殺人未遂! いつのまにそんな事したんですか! ……あれ? この世界に来てからずっと一緒ですし、してないですよね?』

『してないよ! 茜ちゃん、俺がそんな事しないの知ってるでしょうが! 一緒の師匠に習ってたんだぞ! 悪い事しようものなら……うわっ、鳥肌っ、は立たないけどゾワって来た』

『ううっ、想像しただけで私もです。今ならワサビが肌でおろせそうですよ』

 茜ちゃんの腕には見事な鳥肌が見えた。

 俺達が、動き出すまで奥を指差した格好のままなのは可哀想なので、念話で指してる方に進もうと言い歩き出すと、真横に。

 真横? いや、ほんの少し後ろでいつでも飛びかかるぞ! って絶妙な位置で俺達に付いてくる。

 そして向かう先には扉が一つしかなく、あそこに入るんだろうなって事が分かった。
 俺達は止まりギルドマスターはノックもせず扉を開けると、廊下の暗さとは比べようもない、明るい部屋が目に入った。

「だれだ!」

 扉が開いた先から聞こえてきた声と、明るい部屋だが物が散乱して足の踏み場もない部屋。

 そしてそこにいたのはあの三人だった。