市民の人たちも、空き地から開放され、みな商店街の中に戻っていった。
夏芽は、フリーニャのレイピアを拾い上げ、フリーニャに渡した。
レイピアの持ち手には、小さなハートのマークが刻まれていた。
「はい、これ!怪我とか大丈夫だった?思いっきり地面に叩きつけられてたけど」
夏芽が心配すると、フリーニャは自分の腰を叩いて笑顔でピースを作った。
「心配してくれてありがとう。なんとか回復呪文で治すことができたわ。でも、回復呪文にも、一日の上限があるから…。ローリアが駆けつけてくれなかったら、私、やられてたかもしれない……まだ未熟よ」
「よかった~。フリーニャが無事なら私も安心だよ!」
夏芽が話し終わった瞬間、夏芽のお腹から、ぎゅるるると音がなり、夏芽は、顔を赤くしてフリーニャの方を見た。
フリーニャは、その音を聞いてお腹を抱えて笑い出した。
「朝ご飯、まだ食べてないでしょ?昨日あのまま公園で寝ちゃってたんじゃない?」
「あ、なんでそれを……」
「やっぱりか…。今から一緒に「家」に帰りましょ。これからのこととか話し合いながらね。」
「はーい!」
二人はそうして、商店街の中に入った。
さっきまでシャッター街だった商店街も、今はそこそこ店も開いていて、かなり賑わっていた。
「さっきまで誰もいなかったのに、こんなに混んでるなんて」
夏芽が、お店の様子を一軒一軒まじまじと見ながら呟いた。
「みんな朝の内に買い物を済ませておくの。夜は邪鬼が出やすくなるからね。みんな気をつけているの」
「じゃあ、さっきの邪鬼は、割と珍しいの?」
「そうね。朝から出てくる邪鬼は、かなり珍しいといえば、珍しいわね。しかも、あんなにしっかりと鬼の見た目をしているのもめったにないわ。やっぱり、人型とかの一目でバレにくいものが多いからね」
「へぇ~。邪鬼は、夜の方が多いんだ。だからみんな夜の街を歩いていなかったのかあ。昨日から変だと思っていたんだよね」
夜に独りで歩いていて、人とすれ違うことがなかった原因はこれか。と分かり、夏芽は、深く納得した。
夏芽が来た道の角を曲がろうとすると、フリーニャが夏芽の服を軽くつまんだ。
「おっと、ちょっと待って。私たちの「家」は、ここだよ。」
そう言って、フリーニャは角にあった地下に続く階段を指さした。
その階段がある場所は、アーケードからの太陽の光が照らしていたため、なんとか見えたが、ほとんど暗くて、ほとんどの人が気づかないのではないかと夏芽は思った。
入口には看板で、「BAR↓」と錆びた字で書かれてあった。
その看板もボロボロで、今にも外れそうなほど、宙にぶらぶらと付いていた。
その真っ暗で、ホコリだらけの階段を二人は下り始めた。
「焦らないで。この階段もうボロボロだから、急ぐと壊れちゃから」
フリーニャについていく夏芽。
ギシギシと階段の軋む音が空洞内に広がる。
奥の方まで行くと、太陽の光が届かず、暗闇の中で、ひたすらに階段を降り続けた。
夏芽はこけないようにフリーニャの服を軽くつかんだ。
そして、ゆっくりと一段一段進んでいくと、中からぼんやりと光が漏れている銀色のドアがあった。
ギギギ……とそのドアを開くと、中は赤茶色の光が灯された静かなバーだった。
カウンター席には、他に誰もいない。
ただ静かにマスターがコップを拭いていた。
「どうして、いきなりこんなところに来たの?」
「決まっているよ。ここで、あなたと今後のことについて話すためよ。やっぱりこういう静かな場所で話さないと」
「だからってこんな……真っ昼間から…」
バーにあるおしゃれな時計は、ちょうど正午になったことを伝えていた。
カーン、カーン、と高い音が響く。
「よし、開店したよ。入ろう!」
フリーニャはカウンターの一番奥の席に座り、夏芽はその横に座った。
「ローリアもなにか頼めば?私が奢ったげる」
目の前にカタログが広げられる。
そこには美味しそうな料理やドリンクがたくさん載せられていた。
「じ、じゃぁ、これ、買って」
夏芽はメロンソーダを指さした。
「私もメロンソーダにしようかな。こんな真っ昼間から酒を飲むのは気が引けるからね。マスター、メロンソーダ2つ!」
マスターは何も言わずに頷くと、メロンソーダを作り始めた。
「ところでさ、ローリア、何であんなに強かったこと隠してたの?」
夏芽は喉から言葉が出なかった。
自分の体の特性を説明しても、信じてもらえる気がしなかったからだ。
「いいんだよ、ローリア。あなたの言うことはなんでも信じてあげる。幼なじみの私だよ。だから、心配しないで」
「あ、あの、私、朝しか力が発揮できなくて、その、、、しっかり寝ないと、力が出ないの。だから、夜になるにつれて、だんだんと力が弱くなって剣を持つのも辛くなるの。起きてすぐはとても元気なんだけど……」
夏芽はどんな反応が返ってくるか心配だったが、意外にも、フリーニャは笑い出した。
「なーるほどね。夜になると、だんだんと力が出なくなるんだ。昨日の夜は、あんなに剣を持つのもきつそうだったし、おっぱいも小さかったんだ。あはははは。おっかしい。おっ、てことは、今は結構大きいんじゃないの?」
そう言うと、フリーニャは、夏芽の胸を揉みだした。
夏芽は、フリーニャにいきなり胸を触られて、びっくりした。
「あっ!」
「うりうり~私、このバーに来ると、人格が豹変するんだぞ~!そりゃ、こりゃ」
フリーニャは、酒を飲んでいる訳ではないのに、酔っ払ったエロじじいのように夏芽の体に触れてくる。
「あなた、本当にフリーニャ?昨日会った人とは別人なんだけど……」
「え~、いいじゃ~ん。死んだと思われた親友が生き返ったんだぞ!あなたの記憶はないかもしれないけど、もう一度、ローリアとここにこれて嬉しいからつい」
そうか、ローリアもここに通っていたのか。と夏芽は悟った。
中身は夏芽だが、ローリアともう一度バーで飲むことが出来て嬉しいんだろうなと思うと同時に、フリーニャと一緒に飲むローリアは、さぞ大変だっただろうな。と思い、椅子の下に置いている剣にそっと敬礼した。
敬礼すると、夏芽に返事をするかのように、刃がぴかりと光った。
すると、マスターが、出来たてのメロンソーダをカウンターの上に置いた。
「メロンソーダ2つでごさいます」
「ありがとう。マスター。これお代ですっ」
フリーニャはその場でお金を支払った。
そして、夏芽の方を見て口角をあげてにやりと笑った。
「なんで私がここで酒を頼まなかったか分かる?」
「さっき昼間から飲まないって言っていたじゃん」
夏芽がそう言うと、フリーニャは指を立てて横に揺らした。
「チッチッチッ。残念。正解は、今日剣士の飲み会があるからなのだ。」
「あ、そう」
「ローリアも強制参加でーす!」
「え?」
まさかの展開に夏芽はびっくりとした。
別に剣士になる予定も未だ考えていなかったのに、いきなり剣士の会に呼ばれるなんて。
「まあ、だいじょーぶだよ。みんなで、酒を飲むだけだから」
「それ、何時から?」
「ん?18時」
「え~、私、そんな時間になったらもう力発揮できないんだけど」
「安心して。戦うこととかないから、夜は弱いなんてバレないバレない。もし何かがあっても私がなんとかしたげるから」
夏芽は、嫌な予感と不安しかなかったが、ここで断るとせっかく誘ってくれたフリーニャに悪いかと思い、心底嫌がったが、仕方なく参加することにした。
「しょうがないなあ。行くよ!」
「おお、それでこそ我が親友だ!」
フリーニャは、夏芽の背中をバンと叩いて、メロンソーダを飲み干した。
メロンソーダの氷が完璧に溶け、時間の経過を伝えた。
「よし、そろそろ会場に向かうぞ。準備は良いかー?」
「おー」
正直乗り気じゃないが、仕方なく右腕を上げて乗ってますよ感を出し、そのまま店内を出た。
ボロボロの階段をゆっくりと登り、商店街の中に戻ってきた。
すでに、もう外は暗くなりかけのオレンジ色の空であることがアーケード越しでも分かった。
その空の色と、周りに誰もいない景色を見ると昨日、死ぬ思いをして剣を持ち運んでいた記憶が蘇り、持っている剣がまた一段と重くなったのを感じた。
この時間帯からだんだんと剣が重くなってくるのかと思うと、夏芽はちょっぴり憂鬱になった。
もう既に剣が少し重く感じるようになり、力を入れて持っていると、それを見かねたフリーニャが、
「大丈夫?重い?」
と気遣ってくれた。
本当に店を出ると、人格が変わるなと思い、ちょっとおもしろいなあと感じてフッと笑ってしまった。
「あ、今私のこと笑ったでしょ?もういいもん!もってあげない!」
くそ、笑わなければ良かった。
「でも、今から行くところはそんなに遠くはないから大丈夫だよ。あとちょっと歩くだけでいいから。では、出発!」
二人は、夏芽の家の反対側の商店街の出口に歩き出し、会場へと向かった。
アーケードを出て、豪邸のある方向へと歩き、景色はたちまち西洋の住宅街になった。
夏芽はかなり体の限界を迎えていたが、フリーニャは、その住宅街のうち、最も大きいドアが両開きの家の前で止まった。
「ここよ」
そう言うと、その家のドアを両手で軽々と開いて、中にずんずんと入っていった。
外から見てもわかるように、その家は、とても広く、中には、銅像や壺、絵画などが、おしゃれに飾られていた。
そして、一番奥のドアを両手で押して、中を見ると、そこには、ガタイのいい男女がたくさんいて、みんなが立って酒を飲んでいた。
よくドラマなどで見るこの光景を目の当たりにして夏芽はとても興奮していた。
先程まで嫌がっていた自分が嘘のように、楽しくなった。
夏芽がその場の光景に見惚れていると、フリーニャは背中を押して、部屋の中に入れた。
「ふふふ、楽しまなくっちゃね。とりあえず席を取って、私のパーティーメンバーを探そう」
そして、二人は、部屋の奥の料理が並んでいるところの横にある席にレイピアと剣を置いて同じ剣士仲間に会いに行くことにした。
剣を置いた夏芽は身軽になったが、それと同時に自分の体が既に剣士には見えないほど弱々しくなっていることを実感した。
フリーニャはカップにワインをを注いで、仲間に会いに行った。
夏芽もそれについて行った。
人混みの中で二人は、はぐれないように手を繋いで、フリーニャの剣士仲間を探した。
すると、フリーニャがいきなり手を挙げてそれを左右に揺らした。
それと同時に夏芽は入口の近くから手が挙げられているのに気がついた。
その方向へ二人は歩いていった。
「お、みんなおつかれー!」
いきなりフリーニャが、とある三人組に話しかけた。
その反応を見るとすぐに、その人たちがパーティーメンバーだと分かった。
三人は、全員若く見え、自分と同世代なのだろう。
一人はとてもガタイの良い女で、もう一人は、小柄で髪の毛がぱっつんな女である。そして、最後の一人はお面を被ったツインテールの女だった。
「おまたせー!みんなー」
フリーニャがそう声をかけると、ガタイの良い女が、手を挙げて返事をした。
「おうっ、フリーニャ、おつかれ…って、横にいるのは誰?」
その女は、夏芽を指さして首を傾げた。
「あ、紹介するね。この子はローリア。私とずーっとコンビで組んできたんだけど、いろいろあって記憶を失くしちゃったの。この子が気を失っている間にこのパーティーに入ったからみんなまだ知らなかったよね。この子、とても強いのよ!記憶を失くしてしまってからは、真価を発揮しづらくなってしまったけど、それでも、めちゃくちゃ強いのよ。邪鬼なんて一発でたおせるんだから!」
夏芽はこんなに誇張して紹介されて、ちょっと恥ずかしかったが、嬉しかった。
そして、ニヤけていると、三人組はいきなり笑い出し、夏芽の顔と体をまじまじと見つめた。
そしてなんと、小柄でぱっつんの女が、夏芽の胸と腕を指さして高笑いをし始めた。
「ははは、こんなにほっそい腕と貧乳の女が強いなんて……クククッ。あっ、嘲笑っているとかじゃないから。ほら、あの~意外だな~って思っちゃった。あ、でも、私たちのボスには敵わないでしょ流石に、ははは。」
そして、ボスであるガタイの良い女と比べて、夏芽のことを馬鹿にし始めた。
本人たちはバカにしていないと言っているが、絶対に自分のことを小馬鹿にしていると夏芽は確信した。
夏芽は、寝起きの自分の姿を見せつけてやりたいと思ったが、ここでは眠るにも眠りようがない。
すると、ガタイのいい女が、夏芽の前に出てきて
「お前、ちょっと剣を持ってみろよ!」
と言い、画面を被った女が腰につけていた剣を取って夏芽に持たせようとした。
その剣はとても重そうだったので、夏芽は最初、首を振って持つのを拒否していたが、「なにぃ~?こんなのも構えられないの~?」と挑発され、仕方なく柄をつかんだ。
その瞬間、いきなり女が剣から手を離し、夏芽が剣を支えられずに、床に突き刺さった。
バリッという音が、剣が地面にめり込んだことを伝えていた。
すると、女はとうとう腹を抱えて笑い出し、
「お前、面白すぎるだろ!何が強いんだ、あはははは。流石フリーニャが連れてきた仲間だ。面白さでは最強だな!がははははは!」
ともう隠すこと無く笑い始めた。
夏芽はもう涙でいっぱいだったが、泣いたら負け、泣いたら負けとなんとか踏ん張って泣くのをこらえていた。
なにやら危ない雰囲気になったなと感づいたフリーニャは、ガタイの良い女とツインテールの女をトイレに誘ったが、ガタイの良い女は、その場に残ると言い張り、とうとう夏芽とガタイの良い女、仮面をつけた女の子の三人だけなってしまった。
夏芽の感じていた嫌な予感は的中し、三人でフリーニャたちを待っている時に、女は、夏芽に直接悪口を言った。
「てかさ、何お前?なんでお前がこんなところにいんだよ?とっとと帰りな、雑魚が!お前みたいな剣士はいらないんだよ!帰れ!死ね!」
夏芽は、フリーニャが帰ってくるまでなんとか我慢しようとしたが、しびれを切らした女は、なんと、夏芽の体を持ち上げてその会場から外へと投げ捨ててしまった。
中から女の豪快な笑い声が聴こえた。
外に追い出された夏芽は、その声を聞いてとうとう泣き出してしまった。
そして、目をこすりながら、その豪邸から出て、暗い夜道を独りで歩き出した。
しくしく、しくしく。
その音は、真っ暗な夜空に響いていた。
そうして、泣きながら歩いていると、小さな看板の裏に小さな何かが隠れていた。
小さな動きだったが、夏芽の目にはそれがはっきりと写っていた。
「ねえ、何?」
夏芽が、怯えた声でそれ話しかけながら近づくと、その瞬間に、大きな影が目の前に現れた。
「え?邪鬼?」
すると、その影は、夏芽の体を包み、夏芽はその影に身を奪われるほどに激しく痙攣させられた。
「うっ、やめて、痛いっ!」
抵抗しようにも、剣がないのでどうしようもできない非常にまずい状況だった。
そして、その影がより強く夏芽を包み、夏芽はだんだんと体の力が抜けていった。
「ああ、私、死ぬんだな」
そう確信した時、影の外から人の足が入り、その影を蹴り飛ばした。
たちまち影は、夏芽を包むのを止めて何処かへ飛んでいってしまった。
「し、死ぬかと思った……」
夏芽が四つん這いになって呟くと、目の前に誰かの手の平が伸びてきた。
上を見上げると、そこには、ショートヘアで、胸をかなり露出させた大胆な服を着た美人のお姉さんがいて、夏芽に優しく話しかけた。
「大丈夫だったきみ…って!ローリアじゃない!あなた、生きてたのね!」
「フリーニャにローリアは、死んだって言われたからすごく泣いたんだぞ!うりうり~。流石は私の相棒だ!」
女性は夏芽の頭を撫でながら、ニヤけている。
「ごめん、ちょっと記憶を失くしちゃってて、あなたのことも良くわからないの」
再開を喜ぶ女性とは対象的に、瞳を曇らせて夏芽は言った。
「可哀想に。あの戦いのせいで記憶がなくなっちゃったのね…。くそ……私が馬鹿なことをしなければ……。お前が記憶をなくすことなんて無かったのに……。」
「なにがあったの?」
すると、女性はローリアの記憶が無くなった日の一日前のことを語りだした。
~(飲み会にて)~
「ローリア、今日もおつかれ~。そして、明日も頑張ろ~ね」
アキホは、ローリアの持っていたグラスに自分のグラスをつけた。
カンという音が鳴る。
一口飲むと、食道にアルコールが通るのをしっかりと感じた。
「ぷはぁ~やっぱりこれ最高!って、ところでフリーニャはどこにいるの?」
すると、ローリアは笑いながらドア付近にいる集団を指さして言った。
「ふふふ。あの方たちとお話しているようですよ。何の話をしているかは分かりませんが、ちょっと見に行きますか?」
ローリアが話すその敬語には、上品さとしつけの良さが伝わる。
「なーにやってんだが、フリーニャは。ちょっと呼びに行こーぜ」
そして、アキホとローリアは、フリーニャのいる集団に近づいていった。
遠くから見ると、楽しい会話をしているのかと思いきや、近づくに連れてなにやら嫌悪な雰囲気であった。
どうやら、フリーニャともう一つの集団のリーダーが、真っ向で睨み合っている。
アキホとローリアは、フリーニャと相手の三人組の会話をバレないように聞いた。
「だから、ローリアを私たちのグループによこしなさいっていってるの!あんたとアキホと組むぐらいだったら、私たちと組んだほうが強いに決まってる!」
「そんなことはさせません!私たちは最強のトリオなんですから、一人も欠けることなんてありえない!」
「うるさいうるさい!だいたい何なの?あんたらのアキホって奴。剣や武器も持たずに露出させた服だけ着て戦っている奴。あんなのただ男を惹きつけたいことが目的の変態じゃない!!あんなクソ雑魚は、ローリアさんの足を引っ張るだけなんじゃないんですかー?」
相手のリーダーの挑発に対してフリーニャは、我慢しているようだったが、横で聞いていたローリアとアキホが、しびれを切らして会話に割り込んでいった。
そして、ローリアは冷静に相手のリーダーの顔をまじまじと見ながら冷たくこう言い放った。
「私は移籍なんてしないわよ。あと、アキホを馬鹿にするのは許せない。どう?ここで死ぬのは?あなたのお墓にここはピッタリよ。私が殺めて差し上げても構いませんが?どういたしますか?」
ローリアの口から淡々と出てくる言葉は、冷たく感じるが、そこには熱い怒りが含まれていた。
そして、相手のリーダーは一歩引いて、反省をしている様子だったが、ローリアの横にいたアキホの顔を見てさらに態度が豹変した。
腰につけていたナイフを取り出して、アキホに突っ込んで来たのである。
アキホは、いきなりの出来事過ぎて避けることができなかった。
腹にナイフが刺さる。
血が吹き出ていく。
悲鳴を上げる人たち。
そして、意識が途絶えた。
「で、この次の日に、邪帝にお前がやられてしまったんだ。私が、あの時に攻撃を避けれていたら、次の日にお前を守れたのかもしれないのに……。お前の記憶を守ってあげられたのに……。私が目を覚ましたのは、お前がやられてからだったんだ……本当に……ごめん……」
泣きながら抱きつくアキホに夏芽は優しく呟いた。
「いいよ。私も、ごめんね……」
アキホは包容を解いて、夏芽を見つめて言った。
「ところで、フリーニャのこと分かるか?」
「うん。分かるよ。フリーニャが、今どこにいて、何をしているかまで私は知ってるよ」
それを聞いた瞬間、アキホは、夏芽の肩を持って体を揺さぶりながら、
「どこ?教えて!教えて!」
と問いかけた。
「フリーニャは、今………」
夏芽は、飲み会で起きた一部始終を全て話し終えた。
フリーニャが、変なグループに入ってしまったこと、そこで、自分が馬鹿にされて追い出されたこと、剣を置いてきてしまったこと等……。
話している途中に夏芽の瞳に涙が浮かびそうになったが、なんとか耐えた。
ローリアは、話を聞くに、そんなに弱い人ではなく、心まで芯の強い大人だったのだと思い、自分も見習わなければと感化されたからである。
話を聞き終えたアキホは、怒りを全面に押し出していた。
「もういい!今からその飲み会とやらに乗り込んでやる!!!!!ローリア、ついて来い!!」
二人は、月に照らされている通りを走り出した。
夏芽は、走るのも辛くなるほどに疲れていたが、アキホはそのスピードに合わせてくれた。
「ねえアキホ、ちょっと聞いていい?」
今から飲み会に乗り込むに従って夏芽は一つ疑問を抱いていた。
「お、どうした?」
「前に私のことでフリーニャと喧嘩していたっていうグループの人たちって今日いるのかな?」
「なんだそんなことか。あいつら、消滅したらしいぞ。何と言ってもリーダーと魔道士の二人が死んでしまって、一人残った女も、顔が見るに絶えない姿になってしまっているらしいからな。」
「ひええ、そうなんだ…。でも、今日いないなら安心だね」
「まあな。あたしとアンタじゃ、またいざこざが起きそうだからな」
「ふふふ。そうだね」
不幸中の幸い、そんなに会場から遠くなかったこともあり、夏芽が倒れる前に会場に着いた。
「よし、ここだな!入るぞ!」
アキホは、両開きの扉を軽々と開き、建物の中に入り、飲み会の部屋まで急いだ。
そして、飲み会の部屋の前に立ち、アキホがその扉を開けようとした時、扉の隙間から血の匂いがした。
「なんだ、みょうな匂いがするぞ」
「これって、血?」
アキホは扉を押し開けて中に入ると、その部屋は血の匂いで充満していた。
さらに、先程夏芽がいたときとは違い、部屋中の床に、ワイン、ビール、ウイスキーの瓶が割れて、破片が散らかっていたり、血のような赤い液体が塗り広げられていた。
そしてなりより、ここの会場にいた人が皆いなくなっていて、所々に剣士らしき人の死体が転がっていた。
「な、何があったんだ?ローリア、本当にここであってるんだよな?」
「た、たぶん、ここで合ってるよ」
夏芽は、あまりの変わりように、恐怖と絶望感を覚え、場所を間違えているかを本気で疑ったが、奥の方の席に自分の剣と、フリーニャのレイピアが置いてあることに気づいた。
「い、いや、ここであってるよ!私の剣、前の席にあるもの!」
「くそ、間違っていなかったか!だったら何で、誰が、こんなひどい目に??」
殺風景が広がっている中、二人は部屋の奥の席に足を進め、なんとか剣とレイピアのある位置までやってきた。
「フリーニャ、フリーニャ、お前、どこ行っちまっまったんだよお???」
アキホが叫ぶも返事がない。
二人は、「ここに生きている人は私たち以外いない」と確信した時、入口の方から男の野太い声が聞こえた。
「おお、まだ生き残りがいたのか、なんだ、私としたことがまたここでヘマを犯してしまうところでした」
入口のドアが開き、出てきたその人は、先程、夏芽のことを散々馬鹿にしていたガタイの良い女だった。
しかし、声質は全然異なり、今の声は野太く、恐怖感を募らせる。
「お、お前、何をしたんだ?ここにいた人たちをどうしたんだ?」
アキホが、入口に向かって叫ぶと、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ふおっふおっふおっ。大丈夫。今から君たちの体にも他の人たちと同じことをしてあげるからね。すぐに楽になれるよ。」
怪しい声はそう言って、背中から杖を取り出し、上に掲げて魔結界を作り出した。
夏芽が、困惑していると、アキホが横で呟いた。
「邪帝…こんなところに…」
アキホの声を聞いて、邪帝は驚いている様子だった。
「ほお、よく見抜けましたね。私が邪帝であることを。褒めて差し上げましょう。アキホさん。そして、ローリアさん。そんな貧弱な体ではもう私と応戦することも難しいでしょう。直ちに諦めたほうが身のためですぞ。今なら楽に殺めてあげましょう。うぉっほっほっほっ」
邪帝は、不気味な笑いを再度始めて、剣に魔力を貯めだした。
「もし、これから私に逆らうと言うのだったらこの男のようになりますぞ」
そう言うと、邪帝は杖に貯めた魔力を地面に倒れている男の死体に当てた。
すると、その死体は、赤色の液体となり、たちまちこぼれていたワインと同化した。
「ひぇっ…」
夏芽は、人が溶ける恐怖のあまりその場で動けなくなってしまった。
「さあて、君たちはどの道を選ぶのかな?まあ、どの道君たちが死ぬことは確定しているんだがな。がはははは」
アキホは、歯を食いしばって邪帝を睨んだ。
それでも、アキホと夏芽は邪帝の誘いには動じなかった。
「はっはっはっ。君たちは安楽死よりも地獄を選んだのですね。いいでしょう。私が相手になって差し上げましょう!」
その瞬間、女性の姿をしている邪帝の衣がほろほろと剥がれていき、頭部が紫色のドクロで、黒い薄着を羽織った骸骨が、姿を現したのである。
「こんにちは。アキホさん、ローリアさん。いえ、久しぶりですねの方が正しいでしょうか?まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。今から君たちとはお別れのお時間です。ぐっとばいです」
そうすると、邪帝はアキホのいる方向に向かって杖を振りかざした。
その時、部屋の中に衝撃波が巻き起こり、その波動はアキホの体へと一直線に飛んできた。
波動が飛んできた瞬間、アキホは自分の足を振り上げてその波動を打ち消した。
それを見た邪帝は、口をあんぐりと開けて笑い出した。
「ははははは。愉快愉快。お前みたいな自信に満ち溢れた無能が私は大好きなんだ。中途半端に調子に乗るような愚かな人はわしの大好物なのだ」
「ねえ、なんとかここから逃げ出す方法は無いの?」
夏芽は小さな声でアキホに尋ねた。
「今のままだと、、、正直厳しい。なにか、なにか、アイテムか何か今の戦況を変えるものがなかったら、、、私たちは死ぬ。邪帝を舐めてはいけない。あなたは忘れているかもしれないが、あなたはこの骸骨にやられたんだ。それだけ邪帝は強敵なのよ」
「そ、そんな……私も、今は力を使えない……ってことは、私たち、勝てないってことなの?」
今にも泣き出しそうな夏芽に、アキホは首を縦に振った。
「そんな、そんな、、、」
遂に夏芽は泣き出してしまった。
すると、その光景を見て、さらに邪帝は笑い出した。
「はっはっはっ。いい気味いい気味。かつては自らが苦しめられていたローリアが、こんなに貧弱な体になって、私に勝てない、勝てないと泣いているのはとても滑稽なのだ。がはははは。これも全て、あのフリーニャのせいなのだ。お前をその貧弱な体にしてしまったのは、あの女のせいなのだ。恨むが良いぞ。ぐはははは」
「違う!」
夏芽は、邪帝に向かって泣き声で言った。
「違う!フリーニャのミスなんかで私が弱くなったんじゃない!フリーニャのせいなんかにするもんか!!!」
「ほお、仲間思いの奴だとは、、、まあいい、こんな面倒臭いやつは、一撃で殺して差し上げましょう!!!」
そして、邪帝は杖を上に掲げて紫の波動砲を作り出した。
先程、男の死体に当てられたものと同じものである。
「くらえーーー!!!」
邪帝は、杖を振り、その波動砲を夏芽に繰り出した。
その波動砲は、とても速く、目で追いつけるような速度ではなかったが、奇跡的に外れて夏芽の目の前にあった剣を置いていた机の脚に命中した。
目の前で机がトロトロと溶けていた。
そして、前を遮るものがなくなったと思われたが、机の上にあった剣とレイピアが、床にカランという音を立てて落ちてきた。
夏芽は、目の前にある落ちた剣を見た。
すると、その剣の持ち手に何かが結ばれているのが見えた。
一歩前に踏み出して見てみると、二枚の葉っぱと小さな手紙だった。