「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
私は、慌ててフネの後ろに回り込んで隠れようとする。まあ、フネの姿は私以外に見えてないから無駄な抵抗なんだけど。
「なに、なぁしたの、やよい」
呑気に言うフネ。私は、小声で言う。
「……向こうに、クラスメイトがいる」
「え?友達?」
「全然、友達でねぇって。友達いないんだって。ただのクラスメイトだよ」
視線の先にいたのは、古川さんと三上さんだ。一年生のとき、同じ委員会だった例の二人。二人並んでチーズハットグを持ち、歩いている。
フネは、急に目を輝かせて、私の背中を押した。いや、実際は触れられてないから、背中を押す仕草をしただけだけど。
「行って、話しかけろって。友達になる、チャンスだべ」
「へっ?いや、ありえないでしょ!」
二人にとって私は、「クラスメイトB」いや、「D」くらいの存在だと思う。仲良し同士で歩いているところに、突然昔少し喋ったことがあるだけのモブキャラみたいなクラスメイトが突撃して来たら、怖いでしょ。
だけど、フネはのんびりとした調子で言い続ける。
「なにやぁ。せっかく桜咲いてるし、美味しい出店もあるし、なんぼでも話題もあるし、案外大丈夫だって」
「で、でも……」
無理だよ、そんな。どうしたらいいか分からず泣き出しそうになる私に、フネはくしゃっと笑ってみせた。
「もしうまくいかなかったら俺が慰めるから、なんも心配しないで行って来いって」
心が、とくっ、と跳ねる。その笑顔は、あまりにも眩しかった。
「やよい、頑張れ」
ほら行け、ともう一度背中を押され、突き動かされるように一歩踏み出した。もう既に遠ざかっていく古川さんたちを、小走りで追いかける。
どうしよう。完全に快速見切り発車ライナーなんだけど、最初はなんって言ったらいいの?なんて声かけるのが正解?
分からないまま、距離だけがどんどん縮まっていく。
どうしよう、どうしよう、どうしよう――。
頭の中が真っ白になりかけたそのとき、突然、かかとが地面に転がっていた石の上で滑った。
「うわぁ!」
瞬間、世界が反転する。気づいたときには、思いっきり地面にダイブしていた。
ウソ。コケた――。
どこからか、あはは、と笑い声が聞こえる。恥ずかしさで、顔と耳の後ろが熱い。
何やってんだよ、私――。
半泣きで顔を上げたとき、目の前で、スカートが揺れた。
「え、奈良岡ちゃんだよね。大丈夫?」
もっと顔をあげて、思わず「あっ」と声を出す。古川さんと三上さんが、心配そうに私を見ていた。
「うわ、え、えっと、大丈夫!ぜんっぜん、大丈夫!」
私はスカートについた土や桜の花びらを慌てて落とし、どうにか笑顔を見せた。幸い、どこかが擦りむけて血が出たり、打撲のあとがついたりはしてない。
ただ、顔が真っ赤っかだよ……。
立てる?と古川さんに手を差し伸べられたので、ありがたくその手を握って立ち上がる。おろおろしている私に、三上さんが優しい声で聞いた。
「奈良岡ちゃんも、弘前城見に来てたの?」
「え?あ、いや……城っていうより、桜を」
桜、っていうより霊を。言いかけて、慌てて喉の奥に引っ込める。かわりに、私は二人が持っているチーズハットグを見ながら言った。
「なんか……それ、美味しそうだね」
「あ、これ?」と、古川さんが出店のほうを指さした。
「これ、向こうに売ってるよ?」
「あ、そ、そうなんだ」
ありがと、と言いかけると、古川さんが明るい笑顔で言った。
「私たち、ちょうどもう一回出店のほうに戻ろうとしてたところなんだ。案内しようか?」
「え……いいの?」
恐る恐る聞くと、二人は「いいのいいの!」と微笑んでくれた。ちらっと真横を見ると、いつのまにかついてきていたフネが、嬉しそうにグッと親指を立てていた。
なんか……慰めてもらわなくても、大丈夫そうみたいだよ。
私は、慌ててフネの後ろに回り込んで隠れようとする。まあ、フネの姿は私以外に見えてないから無駄な抵抗なんだけど。
「なに、なぁしたの、やよい」
呑気に言うフネ。私は、小声で言う。
「……向こうに、クラスメイトがいる」
「え?友達?」
「全然、友達でねぇって。友達いないんだって。ただのクラスメイトだよ」
視線の先にいたのは、古川さんと三上さんだ。一年生のとき、同じ委員会だった例の二人。二人並んでチーズハットグを持ち、歩いている。
フネは、急に目を輝かせて、私の背中を押した。いや、実際は触れられてないから、背中を押す仕草をしただけだけど。
「行って、話しかけろって。友達になる、チャンスだべ」
「へっ?いや、ありえないでしょ!」
二人にとって私は、「クラスメイトB」いや、「D」くらいの存在だと思う。仲良し同士で歩いているところに、突然昔少し喋ったことがあるだけのモブキャラみたいなクラスメイトが突撃して来たら、怖いでしょ。
だけど、フネはのんびりとした調子で言い続ける。
「なにやぁ。せっかく桜咲いてるし、美味しい出店もあるし、なんぼでも話題もあるし、案外大丈夫だって」
「で、でも……」
無理だよ、そんな。どうしたらいいか分からず泣き出しそうになる私に、フネはくしゃっと笑ってみせた。
「もしうまくいかなかったら俺が慰めるから、なんも心配しないで行って来いって」
心が、とくっ、と跳ねる。その笑顔は、あまりにも眩しかった。
「やよい、頑張れ」
ほら行け、ともう一度背中を押され、突き動かされるように一歩踏み出した。もう既に遠ざかっていく古川さんたちを、小走りで追いかける。
どうしよう。完全に快速見切り発車ライナーなんだけど、最初はなんって言ったらいいの?なんて声かけるのが正解?
分からないまま、距離だけがどんどん縮まっていく。
どうしよう、どうしよう、どうしよう――。
頭の中が真っ白になりかけたそのとき、突然、かかとが地面に転がっていた石の上で滑った。
「うわぁ!」
瞬間、世界が反転する。気づいたときには、思いっきり地面にダイブしていた。
ウソ。コケた――。
どこからか、あはは、と笑い声が聞こえる。恥ずかしさで、顔と耳の後ろが熱い。
何やってんだよ、私――。
半泣きで顔を上げたとき、目の前で、スカートが揺れた。
「え、奈良岡ちゃんだよね。大丈夫?」
もっと顔をあげて、思わず「あっ」と声を出す。古川さんと三上さんが、心配そうに私を見ていた。
「うわ、え、えっと、大丈夫!ぜんっぜん、大丈夫!」
私はスカートについた土や桜の花びらを慌てて落とし、どうにか笑顔を見せた。幸い、どこかが擦りむけて血が出たり、打撲のあとがついたりはしてない。
ただ、顔が真っ赤っかだよ……。
立てる?と古川さんに手を差し伸べられたので、ありがたくその手を握って立ち上がる。おろおろしている私に、三上さんが優しい声で聞いた。
「奈良岡ちゃんも、弘前城見に来てたの?」
「え?あ、いや……城っていうより、桜を」
桜、っていうより霊を。言いかけて、慌てて喉の奥に引っ込める。かわりに、私は二人が持っているチーズハットグを見ながら言った。
「なんか……それ、美味しそうだね」
「あ、これ?」と、古川さんが出店のほうを指さした。
「これ、向こうに売ってるよ?」
「あ、そ、そうなんだ」
ありがと、と言いかけると、古川さんが明るい笑顔で言った。
「私たち、ちょうどもう一回出店のほうに戻ろうとしてたところなんだ。案内しようか?」
「え……いいの?」
恐る恐る聞くと、二人は「いいのいいの!」と微笑んでくれた。ちらっと真横を見ると、いつのまにかついてきていたフネが、嬉しそうにグッと親指を立てていた。
なんか……慰めてもらわなくても、大丈夫そうみたいだよ。