ーーあれから、季節は過ぎた。
長く厳しい冬を越え、弘前に春の気配が訪れた新しい四月。
私は、入学式の日にできた友達の亜美ちゃんと一緒にキャンパスを歩いている。大学の授業ってのは一コマが長いかわりに、一時間目と二時間目が終わったらすぐお昼休みなのがいいところ。
「昼休み明け一発目の講義、英語だっけ」
「うん。なんで大学入ってまで英語やんなきゃなんないんだろう」
英語が苦手らしい亜美ちゃんは唇を尖らせた。可愛い。
関東出身だという亜美ちゃんの話し方はきれいで、一瞬自分のイントネーションを無理やり直そうかと思ったけど、「やよいちゃんの話し方、好きだよ」って言われたから、そのままでいることにした。
亜美ちゃんは、きれいに巻いた髪を人差し指でいじりながら言った。
「今日お昼作る気力なくて持ってきてないんだよねー。購買寄っていい?」
「あ、実は私もお昼ないー!学食行かない?」
「いーね!」
二人肩を並べて学食に向かいながら、不思議だなと思う。高校のときは事務的な話以外で誰かに話しかけるのがあんなにうまくできなかったのに、入学式の日に思い切って話しかけた子とこんなに仲良くなって、毎日のように一緒にいられて。
でもそれはきっと、去年放課後の弘前公園で古川ちゃんたちと喋ってみて、人の優しさを知ったおかげだろう。
ちなみにだけど、無事志望校に合格して弘前を出た古川ちゃんと三上ちゃんとも、未だに連絡をとっている。春休みは、無事長崎旅行も行けたし、本当に楽しかった。二人が帰省したら、また「城★男子」について心置きなく語ろう。てか、亜美ちゃんにも布教しちゃう?
たくらんでいる私の横で、亜美ちゃんは窓の外を見ていた。
「もうちょっとで、桜咲くかな」
ーーそうだ。もう少しで、弘前のまちに桜の花が開く。
「あー、んだね。そろそろ、さくらまつりの準備が始まる頃かも」
「弘前の桜、すごいんでしょ。めっちゃ楽しみにしてんだよね」
「さくらまつり、一緒に行こっか」
「マジ?よっしゃ!」
大げさにガッツポーズを決める亜美ちゃん。なんでもない風にふるまうけど、弘前公園の桜の話になると、どうしても思い出してしまう。
大学の入学式でさえ桜が咲いていないくらいだから、高校の卒業式にはもちろん桜なんて咲いていなかった。
それでも私は卒業の日、少しだけあの日々に思いを馳せた。
春から夏にかけての、ほんのひと時の恋だった。それでも私は幸せだった。
そして、あのときの幸せは、今の幸せにも繋がってる。
私がぼーっとしていると、亜美ちゃんは唐突に言った。
「なぁんかさ。大学生になったら自然に彼氏できると思ったんだけど、全然そういうのないね」
そう言う亜美ちゃんの視線の先にはラブラブのカップルがいて、苦笑する。でも、亜美ちゃん顔かわいいし、そのうちできるんじゃないかな?
「そういや、やよいちゃんは、彼氏いるの?」
「ううん。いないよ」
「好きな人も、いない?」
「うん……いないかな」
まだ、あの子以外の誰かを好きになる日が来るとは思えない。でも大学生になったわけだし、いずれは恋愛も経験してみたい。
だから――そろそろ、一区切りつけに行きたいな。私のためにも、あなたのためにも。
光に溢れた廊下を歩きながら、私は決心を固めた。
長く厳しい冬を越え、弘前に春の気配が訪れた新しい四月。
私は、入学式の日にできた友達の亜美ちゃんと一緒にキャンパスを歩いている。大学の授業ってのは一コマが長いかわりに、一時間目と二時間目が終わったらすぐお昼休みなのがいいところ。
「昼休み明け一発目の講義、英語だっけ」
「うん。なんで大学入ってまで英語やんなきゃなんないんだろう」
英語が苦手らしい亜美ちゃんは唇を尖らせた。可愛い。
関東出身だという亜美ちゃんの話し方はきれいで、一瞬自分のイントネーションを無理やり直そうかと思ったけど、「やよいちゃんの話し方、好きだよ」って言われたから、そのままでいることにした。
亜美ちゃんは、きれいに巻いた髪を人差し指でいじりながら言った。
「今日お昼作る気力なくて持ってきてないんだよねー。購買寄っていい?」
「あ、実は私もお昼ないー!学食行かない?」
「いーね!」
二人肩を並べて学食に向かいながら、不思議だなと思う。高校のときは事務的な話以外で誰かに話しかけるのがあんなにうまくできなかったのに、入学式の日に思い切って話しかけた子とこんなに仲良くなって、毎日のように一緒にいられて。
でもそれはきっと、去年放課後の弘前公園で古川ちゃんたちと喋ってみて、人の優しさを知ったおかげだろう。
ちなみにだけど、無事志望校に合格して弘前を出た古川ちゃんと三上ちゃんとも、未だに連絡をとっている。春休みは、無事長崎旅行も行けたし、本当に楽しかった。二人が帰省したら、また「城★男子」について心置きなく語ろう。てか、亜美ちゃんにも布教しちゃう?
たくらんでいる私の横で、亜美ちゃんは窓の外を見ていた。
「もうちょっとで、桜咲くかな」
ーーそうだ。もう少しで、弘前のまちに桜の花が開く。
「あー、んだね。そろそろ、さくらまつりの準備が始まる頃かも」
「弘前の桜、すごいんでしょ。めっちゃ楽しみにしてんだよね」
「さくらまつり、一緒に行こっか」
「マジ?よっしゃ!」
大げさにガッツポーズを決める亜美ちゃん。なんでもない風にふるまうけど、弘前公園の桜の話になると、どうしても思い出してしまう。
大学の入学式でさえ桜が咲いていないくらいだから、高校の卒業式にはもちろん桜なんて咲いていなかった。
それでも私は卒業の日、少しだけあの日々に思いを馳せた。
春から夏にかけての、ほんのひと時の恋だった。それでも私は幸せだった。
そして、あのときの幸せは、今の幸せにも繋がってる。
私がぼーっとしていると、亜美ちゃんは唐突に言った。
「なぁんかさ。大学生になったら自然に彼氏できると思ったんだけど、全然そういうのないね」
そう言う亜美ちゃんの視線の先にはラブラブのカップルがいて、苦笑する。でも、亜美ちゃん顔かわいいし、そのうちできるんじゃないかな?
「そういや、やよいちゃんは、彼氏いるの?」
「ううん。いないよ」
「好きな人も、いない?」
「うん……いないかな」
まだ、あの子以外の誰かを好きになる日が来るとは思えない。でも大学生になったわけだし、いずれは恋愛も経験してみたい。
だから――そろそろ、一区切りつけに行きたいな。私のためにも、あなたのためにも。
光に溢れた廊下を歩きながら、私は決心を固めた。