私は、どうしていいか分からなかった。
資本で支援してくれた。
先生、先生。トワール先生だけは、私を裏切らない思った。
高校2年からの長い付き合いだ。
ドバイに帰ると、鬱蒼とした亜熱帯特有の臭いがした。
いや、臭いすらも感じなかった。
生命を奪って創りつづけた人類の悲愴が聞こえない。
心もない。
身もない。
音もない。
味気もない。
生きているという実感もない。
消化不良を蓄え続けて、蓄えたことすら忘れている。
ただ。カチカチと進むその時計の針が、トワール先生と鉢合わせた。
大先生は、黒かった。
肌も黒かったが、全てにおいて黒かった。
白を許さないほど黒かった。
ある種の美しさがあった。
その美しさに私は魅了されていた。
わたしは、トワール先生と会話をした。
トワール先生。トワール先生。
世界にヒビが入ってしまったと話した。
とても大きな亀裂が、地球を真っ二つにしそうと話した。
トワール先生はいった。
「素晴らしい。素晴らしいよ。真人くん。
できることもできないことも黒の前では塵同じ。
もっと、まっぶたつに分裂するのだ。
分裂することに意味がある。
分裂は爆発だ。
分裂を恐れている。
恐れているのだ。
黒になることを。
もっと恐れて、黒になるのだ。
黒は真理だ。
不滅だ。
絵の具に黒と白を足してもほとんどが黒だ。
黒こそがこの世なのだ。
いまの世の中はあまりにも光すぎている。
光の幻想が人類を崩壊に導いている。
そなたも黒になればいい。
崩壊そのものになれば崩壊も感じないのだ。
抵抗しているから苦しむのだ」
哲学者でも有名なトワール先生はそういった。
他に頼ることのできない私には、十分だった。
黒に染まることを決意した。
まだ、自分は中途半端な存在なのだ。
エロスを殺せていないのだ。
白があるから苦しむのだ。
黒しかなかったら苦しみようがないのだろう。
存在は、黒なのだ。
私は黒になり、トワール先生に人生を捧げることを誓った。
トワール先生の言葉は、棚を創るのに十分だった。

トワール先生は、ホモ・サピエンスが生き延びた理由は「虚構」と「残虐性」があるからだ。
人類は生き延びるためには、「虚構」と「残虐性」が必要なのだ。
と、論文にし学会で発表して数多くの賞をもらっている。
僕は、そんな賞を貰っている大先生に気に入られ喜びを感じていた。
高鳴る響きは、バク転のことなど忘れさせてくれた。
灯明なるものがあった。
そして、トワール先生は僕を見てこう言ってくれる。
「君ならできる。ノーベル賞も取れる。一緒に学ぼう。そして、真理を追求しよう。人間が黒になってこそ。その真理が解き明かされるのだ」
同窓会で友達は、僕を見て羨ましがっていた。
あいつは、有名な教授になり名誉を手に入れた。
「天才は、やっぱり運命が違う」と嘆いていた。
そうなのだ。僕は天才なのだ。
できると思えば、何だってできる。
当然なのだ。
具体的に何をしていくかはっきりしていた。
できると思えば、何だってできることを証明するのだ。
溢れるばかりの情報で、どれだけ人間が野蛮的で有ることが分かるはずだ。
できない自分を正当化してできない事を証明するのだ。
そうすれば、人類は黒となる。
教育にあらなた黒をもって、システムが変わるのだ。
小さな小さな世界の和にすれば、ユートピアがある。
自分たちの思った通りの黒を作れるのだ。動画で小さな世界を流せ。頭に刻まのだ。
肉体的な苦痛から解き放たれるのだ。
「エロスに筒を抜かすくらいなら自殺したほうがマシだ」
老後の介護いらず、御飯いらず、トイレいらず、性欲いらず、異性いらずとても合理的で魅力的だ。
無限のゲームのキャラクターを作って、新たなゲームをプレイすればいい。
最高にクリエイティブなことではないか。
何を望む。
わざわざ、苦しんで辛い思いする必要もない。
さぁ、ゲームをしよう。
動画を見よう。
家にいよう。
ソトに行かなければ身の安全だ。
ソトに行かなくても、全国見て回れる。
君の代わりとなる機械が君の手足としてリアルに味わしてくれるよ。
小さな世界。
世界中どこだって、笑いあれば、涙あり、みんなそれぞれ助け合って小さな世界に入ろう。
そうすれば、世界はせまくなる。世界も同じ。世界は丸い。ただひとつになるだろう。
そんな世界を僕は証明できるだろう。
私の精は消えていた。