・【魔法とは強弱のイメージ】


「魔法とは、簡単に言えば強弱のイメージです。魔法使いは自分が扱いやすいように、自分が決めた、設定した強弱に名前を付けて魔法を使いますが、基本的に強弱で使用します」
 なんとなく言っていること分かったような、分からんような。
 そんな表情をしていたんだろう、魔法オタクの男性は続ける。
「水の魔法だとそうですね、ジョウロの水のような水を出現させることを弱とするなら、水をレーザービームのように鋭く発射することが強になるでしょう。それを咄嗟にイメージして魔法を出現させることは強弱の幅が大きい大魔法使いほど困難とされています。だから大魔法使いならジョウロの水のような弱に”ジョーロー”という魔法名と強弱や特性を設定し、唱えたらすぐに出せるようにします」
 なるほど、大体分かった。
 魔法とは特性の強弱ということだ。
 ジョウロのようにパラパラの水で、広範囲にかかるような優しい雨みたいなモノが弱……と、心の中で反芻していたその時だった。
「「「わー--------------」」」
 私の指先からジョウロの水のようなモノ、というか、今反芻していたような水が出てきた。
 その水が掛かった範囲の人たちが、ふんわりとした喜び声を上げたのであった。
 水が掛かっているわけだから怒ってもいいのに、何だか優しく拍手をしてくれて、その水が出ていることに気付いた人たちが続々とさらに拍手してくれて、口々に、誰が誰やらみたいな感じで、
「すごい!」
「本当に何も無いところから水を出してる!」
「水の魔法って他の魔法よりすごいんだろっ?」
「すげぇ! 水の魔法は初めて見た!」
「火だってすごいんだぞ!」
 あっ、最後に喋ったのはヒロさんだった。
 魔法オタクの男性は何故か満足げに頷きながら、
「では、一番強い水魔法を使ってみて下さい。出力最大にしてみて下さい。勿論誰もいない方向へ向かって」
 私は自分の心の奥に聞いてみると、どうやらこれくらいはできるみたいだと思った刹那、指先からまるで、車を掃除するお父さんがホースから水を出しているくらいの水が出てきた。
「「「「「わぁぁああああああああああああ」」」」」
 さっきよりも強い歓声が沸いた。
 みんなの注目を既に浴びている状態だったので、大勢が反応してくれた。
 それを見た人々はまた、
「サトイモを作るにはちょうどいい水量だ!」
「ホースくらいなら安心ね!」
「太い水の魔法だ!」
「水の魔法使えるなんてすごすぎる!」
「じゃがいもを美味しく食べられる火の魔法もすごいぞ!」
 あっ、最後に喋ったのはヒロさんだった。最後に喋って余韻を自分のモノにしようとしている。
 魔法オタクの男性はほほうといった感じにアゴを触りながら、
「では次は木の魔法へいきましょう。木の魔法は攻撃と補助に分かれています。まず自分の特性を見極めましょう。その自分の中の奥は、トゲトゲしていますか? それとも丸みを帯びていますか? その緑色は」
 心の奥に形なんてあるんだ、と思いながら私は自分の奥底を覗くと、そこには真ん丸の緑があったので、
「丸いです、真ん丸です」
 と答えると、魔法オタクの男性は案の定、
「それは補助系ですね、それなら農業に適していますね。試しにこの花が咲きそうなナスの苗に手をかざして下さい」
 と言ったところで、私をしっかり見て、
「水の魔法を止めて下さい」
「あっ、そうだった」
 私は念じるとすぐに止まった。
 それを周りの人たちは、
「「「「「おぉぉおー----------」」」」」
 と拍手をした。
 いやそれは別に普通だろ、と思ったけども、魔法オタクの男性が、
「魔力の暴走もしていないようですね、貴方、魔法を使うこと、本当に初めてですか?」
 と言われて、何か才能あるのかなと思って、照れてしまった。
 魔法オタクの男性は優しく微笑んでから、また説明を始めた。
「ではナスの苗に手をかざして下さい」
「はい」
 言われるがままに手をかざすと、
「さらに生長してほしいと念じて下さい」
 もし生長させることができたら、かなり強い農夫ではと思っていると、その”強い”という言葉が自分の心の中に深く残っていたのか、出力が強く出てしまった感覚がした。
 すると、私が手をかざした、まだつぼみのナスはぐんぐん生長し、一気に実をつけてしまったのだ。
「「「「「わぁぁあああああああああああああああああああ!」」」」」
 これはかなり盛り上がったな、と思った。
 実際自分でもテンションかなり上がったし、当然かな。
 育ったナスは貧相なナスではなくて、つやつやとして、健康なナスだった。
 魔法オタクの男性は驚きながら、
「それは”強”ですよね、いや本当にすごいですね、キングオブ農夫ですね」
 キングオブ農夫なんて言葉初めて聞いちゃった、向こうの言葉では本当はどう言っているんだろう、とか思っていると、魔法オタクの男性は一礼してから、
「貴方の魔法はこの村に必要不可欠です。是非、尽力して頂けると有難いです」
 キングオブ農夫と言った人間が、めちゃくちゃ丁寧な言葉を使ってきて、ジェットコースター並の高低差だなと思いつつ、私は頷いてから、
「勿論! 働かぬ者食うべからずですからね!」
 と返事をすると、またしても周りがワッショイ祭りになってきた。
 こうなると自己肯定感から自尊心、全てのモノがアップするもんで、何かエイリーの服のことも、もういいやと思えるようになってきた。
 だって何か私、この村の主人公っぽいから。
 それから私はこの村で農業に従事するようになった。
 勿論私中心に話が回っていく。
 こんなこと初めてで、うわっ、調子に乗った喋りしないように気を付けようと毎日思った。
 アニメや漫画だと、ここで調子乗ると一気に地獄へ叩き落される『ざまぁ』展開になってしまうから。
 でもまあそう思ってしまうくらいに私は崇められて、さらには男性にも女性にもモテて、いつも最初にお伺いを立てられる存在になった。
 もっと言えばこの村には悪い人がいなく、みんな優しく受け入れてくれて、最高だった。
 他村と交流するために、一応通貨はあるけども、村の中では基本物々交換だった。
 そんなある日、旅商人が村にやって来た。
 私は早速何があるのか見に行くと、何だかカッコイイ、都会に住む悪い人間が着ているようなバスローブを発見した。
 高級そうで分厚く、でも持ってみると軽いバスローブ。
 私はおうち時間は豪華にいきたいと常々思っていたので、思い切ってそのバスローブを買うことにした。
 お金は全然足りなかったけども、残りの分は野菜や果物と交換して、それに対して旅商人はめっちゃ笑顔で、
「野菜の瑞々しさ、パないね」
 と言っていた。農に対してチャラいな、と思った。
 バスローブを買って、家へ戻り、まだ全然昼だったけども、私は一旦着てみることにした。
 さっき一応服の上から試着したけども、サイズが思ったより合わなかったら返したかったので、旅商人がまだ村にいるうちに。
 バスローブを素肌に着てみると、何だか急に体がマッサージされたかのように軽やかになった。
 なんというか、体のちょっとした違和感が消えたみたいな感じ。
 その時に私はなんとなく理解した。
 これは魔法のバスローブだと。
 あの旅商人は気付いていなかったけども、これは魔法のバスローブで着るだけでリラクゼーションするバスローブなんだ、と。
 魔法オタクの男性が魔力のある服は特殊な効果があるみたいなことを言っていたこともあったけども、これはまさにそれなんだ、と。
 うわっ、ラッキー過ぎる、そんなことを思いながらまた私は着替えて、外に仕事のため出て行った。
 それにしても農夫の恰好に戻ると、キリッとやる気が出てくるなぁ。