次の日の朝のこと。
「お、おはよう!」
勇気を出して、私は黒川さんたちに自分から挨拶をした。すると、黒川さんたちはくるりと後ろを振り向いて、
「あ、白石さん、おはよう。」
「おはよー!」
ニコっと笑顔で挨拶を返してくれた。
「今日は文化祭の出し物決めだねぇ!どんなのになるかな!」
「どんなのになっても頑張りなさいよ。すぐに飽きちゃうんだから、桃花は。」
「ひどいなぁ、芹菜は。私だって頑張ってるんだよ。」
2人のおしゃべりを聞きながら、私はふと、葵ちゃんが話していたコスプレカフェのことを考えていた。
コスプレカフェってどんな感じなんだろう。私のバイト先のカフェみたいなのをコスプレしてやるってことかな。
「ねぇ、白石さんはどんなのがやりたい?」
コスプレカフェについて考えていると、私のほうを向いた赤坂さんとぱっちり目が合った。
「コスプレカフェ?」
「みんなでコスプレして飲み物とか出すってこと?楽しそうね。」
「え⁉あ、うん。」
自分の考えていた言葉がするりと出てきてしまって私は焦った。黒川さんは肯定してくれたけど、内心では「こんな地味な人がコスプレカフェやりたいなんて言い出すとは思わなかった」と感じているのではないか。慌てて弁解しようとするも、時すでに遅し。赤坂さんも
「え、いいね!楽しそう!私はうさぎさんのコスプレしたいなー。」
とものすごい乗り気になってしまった。
あぁぁ、これ、今更否定はできないやつだよ。どうしよう。
困り果てている中、先生がやってきて「はい、ロングホームルーム始めるよ。みんな座ってー。」と声をかけた。
「今回のロングホームルームで話し合うことは前々から決めていた通り、文化祭の出し物を決めます。その時に注意があるんだけど、まず、みんなが協力して準備から当日まで頑張れること。次に、決まらなかったら多数決という方法を取ってもいいけどみんなが同意したうえで決めること。最後に、誰もが楽しめる内容の出し物をすること。この3つを守れないと文化祭で出し物を出せなくなるからね。あ、予算は各クラス2万円。その中でできるだけやりくりしてね。」
先生はすらすらと手に持った資料の内容を説明し終わると、「じゃあ、学級委員の2人にこの後はお任せします」と言って教卓の前から移動した。呼ばれた学級委員の2人は黒板の前まで来ると、学級委員長が「はい、なんかやりたいのあるー?」と呼びかけた。
「お化け屋敷!」
「縁日とかやりたい!」
「劇なんかどう?」
口々にみんなが意見を出す中、私は隣の席の黒川さんに「白石さん、さっきの案は言わないの?」と聞かれた。
「え⁉いや、だって…。黒川さんが言ってもいいんじゃ…。」
「いや、私が考えたんじゃなくて白石さんが考えたんだから取っちゃ悪いじゃない。結構面白そうだなーって思ったんだけど。」
不思議そうに首を傾げられて、私は黙り込んだ。急に地味な奴が言ったって誰かに笑われるだけでしょ、という心の声はしまっておく。すると、不意に誰かに手をつかまれて挙げられた。
「お、白石さん何かある?」
「え、え?」
急に委員長に名指しされ、私が混乱していると、黒川さんの後ろで話を聞いていたらしい陽彩がにこりと笑っていた。
お前か…!
一気にクラス中の注目を浴びてしまい、私が答えに詰まっていると、隣から後押しをするように「大丈夫。」と黒川さんが声をかけてくれた。こうなったら仕方ない!と腹をくくって私はいまにも消え入りそうな声で「コスプレカフェ…とかはどうでしょう…。」と発言した。
あぁ、やっぱり変な奴だと思われるよね。どうかボツにして聞かなかったことにしてください…!
みんなが驚いたように固まっているのを見て、私は下を向いて席に座りかけた。その時!
「いいじゃん、コスプレカフェ。」
陽彩がふわりと楽しそうな笑みを浮かべて言った。その言葉に乗るように、赤坂さんや黒川さんも、
「うん、面白そう!」
「いいわね。」
と口々に賛成してくれた。その言葉に私はホッとして、席に着いた。くるりと後ろを振り向いて、「ありがとう」と口パクで陽彩に伝えると、「自分の意見を言うことも大事だよ」とこれまた口パクで返ってきた。
その後も、しばらく議論は続き…。
「結構出たね。この中から一個選ばなきゃいけないんだけどどうやって決める?」
委員長が黒板を隅々まで見て腕を組んだ。「もう、多数決で決めちゃっていいんじゃない?絶対選べないし。」そう1人の女子が発言した。その言葉に、委員長は少し頷くと、「じゃあ、多数決で決めちゃうけどそれでもいいですか?」とクラス全体を見回して言った。みんなが賛成するのを見て、委員長は黒板に書いてある出し物を次々と読み上げると、「じゃあ、考える時間を30秒つくるから一個に絞って。30秒経ったらみんな伏せてもらうよ。」と告げた。
私は…どうしよう?やっぱり無難にお化け屋敷、かな。
黒板に書いてある出し物を見て、私は表に立つ仕事が少なそうなお化け屋敷を選んだ。
「はい、じゃあみんな伏せたので多数決をしていきます。まずは縁日やりたい人ー。」
委員長がみんなが伏せたのを確認してからどんどんと出し物の名前を読み上げて決を採っていく。
「みんな顔上げて。」
最後の一個が読み上げられた後、私たちは顔をあげて最終結果が知らされるのを待った。
「決まりました。今年の文化祭、クラス出し物は…コスプレカフェです!」
わー!パチパチ。拍手が教室中にこだまする中、私は信じられずにポカーンとしていた。
え、え、え?コスプレカフェって私が出したやつじゃん。良かったの?
周りを見渡すと、みんな口々に「頑張ろうな!」とか、「なんのコスプレしようかな♪」とか楽しそうに話している。
私だけが状況を呑み込めていないようで、隣の黒川さんも「楽しみね、文化祭。」と笑顔で話しかけてきた。
女子はみんな乗り気だけど、男子はどう思ってるんだろう。
辺りを見回すと、ワクワクしていそうな人が半分、それ以外はなんだかちょっと不満そうな顔をしていた。そんな顔には気づかずに委員長は
「今日はここまでにして来週のロングホームルームで役割分担をしましょう!」
と宣言した。
放課後…。
私はバイト先のカフェでバイトの先輩である青山七咲さんに今日のことを話した。青山さんは大学2年生で、明るいお姉さんみたいな人だ。
「へぇー。コスプレカフェやるんだ!楽しそう。」
「楽しいことばかりじゃなさそうですけど…。」
パンケーキに一つ一つトッピングをしながら青山さんはにこにこ笑った。私もアイスをすくいながらちょっと肩をすくめる。
「えー、でもみんなでワイワイできるのなんて今しかないよ。めいいっぱい楽しみな。」
ポスッと私の肩を叩くと、出来上がったパンケーキを持ってキッチンから出ていった。私はその後姿を見送りながら、青山さんにはいろいろと助けてもらったな、とバイトを始めたばかりのころを思い出した。
「よ、よろしくお願いします…。」
自分のコスメ代などを稼ぐため、バイトを始めようと思った私は自分に合ったバイト先を探すため、求人情報サイトを見た。その中で、のんびりした感じのおしゃれなカフェを見つけ、早速応募してみたのだが…。
「接客、できそう?大丈夫?」
キッチンの仕事だけをすれば接客はしなくて済む。幸い、同じ作業をすることはちっとも苦にならないからちょうどいい。と、思い応募したカフェは仕事が選べず、人手不足のため接客もしなくてはいけなかった。
「が、頑張ります…。」
心細い思いで迎えたバイト初日、私はまずキッチンでの仕事を覚えることに専念した。カフェで働く人は面接をしてくれたオーナーと、大学生の女の人が一人。大学生の青山七咲さんが私の指導をしてくれることになり、キッチンでの衛生管理や紅茶やコーヒーの入れ方、ソフトドリンクの作り方やパンケーキのトッピング方法などを叩きこまれた。
「呑み込みが早くて助かるー!ずっと2人で回してたからさ、新しくバイトが増えるの大歓迎なんだよね。」
青山さんが明るく言ってくれたり、オーナーがなるべく私が表に出ない仕事ができるように取り計らってくれたりしてもらったおかげで、私はずいぶんと楽にバイトをできるようになった。けれど…。
「青山さん、1番テーブルの方がお帰りになられるよ!対応お願い!」
「はい!」
「オーナー、こっちのテーブルの片付けお願いしてもいいですか?」
忙しくホールの仕事をしている2人を見て、私は段々と申し訳なくなってきた。
私、キッチンの仕事しかしないって結構ダメダメなのでは?
そのことに気がついた私は思い切ってオーナーに相談した。
「あの、やっぱり私、ホールの仕事もやります。」
言い方がちょっと悪かったかな、と感じたが、オーナーは輝く笑顔で了承してくれた。
「ありがとう、本当にありがとう。」
青山さんが教育係を務めてくれることになり、私は必死で接客を覚えた。最初は慣れないことばかりだし、人と接するのが少し怖かったけれど、青山さんがサポートやアドバイスをしてくれたおかげで、今では普通に接客もできるようになっている。
こうして思い出すと、青山さんに全然恩返しができてないな。もっと頑張らないと。
「あかりん、レジ打ちお願いしていい?こっちの片付けは引き受けるから。」
「はーい。」
私は洗い物の手を止めて、一度手を洗うとキッチンから出た。レジカウンターのそばにあるカレンダーが目に入り、私はハッと思い出した。
そういえば、明日は陽彩と出かける予定があった!服とか、どうしよう?
サッと青ざめた私はそれからある人の姿を思い浮かべた。
お姉ちゃんがいるじゃん!帰ったらアドバイスをもらおう。
そう心に決めて、私はレジ打ちに精を出した。
「お、おはよう!」
勇気を出して、私は黒川さんたちに自分から挨拶をした。すると、黒川さんたちはくるりと後ろを振り向いて、
「あ、白石さん、おはよう。」
「おはよー!」
ニコっと笑顔で挨拶を返してくれた。
「今日は文化祭の出し物決めだねぇ!どんなのになるかな!」
「どんなのになっても頑張りなさいよ。すぐに飽きちゃうんだから、桃花は。」
「ひどいなぁ、芹菜は。私だって頑張ってるんだよ。」
2人のおしゃべりを聞きながら、私はふと、葵ちゃんが話していたコスプレカフェのことを考えていた。
コスプレカフェってどんな感じなんだろう。私のバイト先のカフェみたいなのをコスプレしてやるってことかな。
「ねぇ、白石さんはどんなのがやりたい?」
コスプレカフェについて考えていると、私のほうを向いた赤坂さんとぱっちり目が合った。
「コスプレカフェ?」
「みんなでコスプレして飲み物とか出すってこと?楽しそうね。」
「え⁉あ、うん。」
自分の考えていた言葉がするりと出てきてしまって私は焦った。黒川さんは肯定してくれたけど、内心では「こんな地味な人がコスプレカフェやりたいなんて言い出すとは思わなかった」と感じているのではないか。慌てて弁解しようとするも、時すでに遅し。赤坂さんも
「え、いいね!楽しそう!私はうさぎさんのコスプレしたいなー。」
とものすごい乗り気になってしまった。
あぁぁ、これ、今更否定はできないやつだよ。どうしよう。
困り果てている中、先生がやってきて「はい、ロングホームルーム始めるよ。みんな座ってー。」と声をかけた。
「今回のロングホームルームで話し合うことは前々から決めていた通り、文化祭の出し物を決めます。その時に注意があるんだけど、まず、みんなが協力して準備から当日まで頑張れること。次に、決まらなかったら多数決という方法を取ってもいいけどみんなが同意したうえで決めること。最後に、誰もが楽しめる内容の出し物をすること。この3つを守れないと文化祭で出し物を出せなくなるからね。あ、予算は各クラス2万円。その中でできるだけやりくりしてね。」
先生はすらすらと手に持った資料の内容を説明し終わると、「じゃあ、学級委員の2人にこの後はお任せします」と言って教卓の前から移動した。呼ばれた学級委員の2人は黒板の前まで来ると、学級委員長が「はい、なんかやりたいのあるー?」と呼びかけた。
「お化け屋敷!」
「縁日とかやりたい!」
「劇なんかどう?」
口々にみんなが意見を出す中、私は隣の席の黒川さんに「白石さん、さっきの案は言わないの?」と聞かれた。
「え⁉いや、だって…。黒川さんが言ってもいいんじゃ…。」
「いや、私が考えたんじゃなくて白石さんが考えたんだから取っちゃ悪いじゃない。結構面白そうだなーって思ったんだけど。」
不思議そうに首を傾げられて、私は黙り込んだ。急に地味な奴が言ったって誰かに笑われるだけでしょ、という心の声はしまっておく。すると、不意に誰かに手をつかまれて挙げられた。
「お、白石さん何かある?」
「え、え?」
急に委員長に名指しされ、私が混乱していると、黒川さんの後ろで話を聞いていたらしい陽彩がにこりと笑っていた。
お前か…!
一気にクラス中の注目を浴びてしまい、私が答えに詰まっていると、隣から後押しをするように「大丈夫。」と黒川さんが声をかけてくれた。こうなったら仕方ない!と腹をくくって私はいまにも消え入りそうな声で「コスプレカフェ…とかはどうでしょう…。」と発言した。
あぁ、やっぱり変な奴だと思われるよね。どうかボツにして聞かなかったことにしてください…!
みんなが驚いたように固まっているのを見て、私は下を向いて席に座りかけた。その時!
「いいじゃん、コスプレカフェ。」
陽彩がふわりと楽しそうな笑みを浮かべて言った。その言葉に乗るように、赤坂さんや黒川さんも、
「うん、面白そう!」
「いいわね。」
と口々に賛成してくれた。その言葉に私はホッとして、席に着いた。くるりと後ろを振り向いて、「ありがとう」と口パクで陽彩に伝えると、「自分の意見を言うことも大事だよ」とこれまた口パクで返ってきた。
その後も、しばらく議論は続き…。
「結構出たね。この中から一個選ばなきゃいけないんだけどどうやって決める?」
委員長が黒板を隅々まで見て腕を組んだ。「もう、多数決で決めちゃっていいんじゃない?絶対選べないし。」そう1人の女子が発言した。その言葉に、委員長は少し頷くと、「じゃあ、多数決で決めちゃうけどそれでもいいですか?」とクラス全体を見回して言った。みんなが賛成するのを見て、委員長は黒板に書いてある出し物を次々と読み上げると、「じゃあ、考える時間を30秒つくるから一個に絞って。30秒経ったらみんな伏せてもらうよ。」と告げた。
私は…どうしよう?やっぱり無難にお化け屋敷、かな。
黒板に書いてある出し物を見て、私は表に立つ仕事が少なそうなお化け屋敷を選んだ。
「はい、じゃあみんな伏せたので多数決をしていきます。まずは縁日やりたい人ー。」
委員長がみんなが伏せたのを確認してからどんどんと出し物の名前を読み上げて決を採っていく。
「みんな顔上げて。」
最後の一個が読み上げられた後、私たちは顔をあげて最終結果が知らされるのを待った。
「決まりました。今年の文化祭、クラス出し物は…コスプレカフェです!」
わー!パチパチ。拍手が教室中にこだまする中、私は信じられずにポカーンとしていた。
え、え、え?コスプレカフェって私が出したやつじゃん。良かったの?
周りを見渡すと、みんな口々に「頑張ろうな!」とか、「なんのコスプレしようかな♪」とか楽しそうに話している。
私だけが状況を呑み込めていないようで、隣の黒川さんも「楽しみね、文化祭。」と笑顔で話しかけてきた。
女子はみんな乗り気だけど、男子はどう思ってるんだろう。
辺りを見回すと、ワクワクしていそうな人が半分、それ以外はなんだかちょっと不満そうな顔をしていた。そんな顔には気づかずに委員長は
「今日はここまでにして来週のロングホームルームで役割分担をしましょう!」
と宣言した。
放課後…。
私はバイト先のカフェでバイトの先輩である青山七咲さんに今日のことを話した。青山さんは大学2年生で、明るいお姉さんみたいな人だ。
「へぇー。コスプレカフェやるんだ!楽しそう。」
「楽しいことばかりじゃなさそうですけど…。」
パンケーキに一つ一つトッピングをしながら青山さんはにこにこ笑った。私もアイスをすくいながらちょっと肩をすくめる。
「えー、でもみんなでワイワイできるのなんて今しかないよ。めいいっぱい楽しみな。」
ポスッと私の肩を叩くと、出来上がったパンケーキを持ってキッチンから出ていった。私はその後姿を見送りながら、青山さんにはいろいろと助けてもらったな、とバイトを始めたばかりのころを思い出した。
「よ、よろしくお願いします…。」
自分のコスメ代などを稼ぐため、バイトを始めようと思った私は自分に合ったバイト先を探すため、求人情報サイトを見た。その中で、のんびりした感じのおしゃれなカフェを見つけ、早速応募してみたのだが…。
「接客、できそう?大丈夫?」
キッチンの仕事だけをすれば接客はしなくて済む。幸い、同じ作業をすることはちっとも苦にならないからちょうどいい。と、思い応募したカフェは仕事が選べず、人手不足のため接客もしなくてはいけなかった。
「が、頑張ります…。」
心細い思いで迎えたバイト初日、私はまずキッチンでの仕事を覚えることに専念した。カフェで働く人は面接をしてくれたオーナーと、大学生の女の人が一人。大学生の青山七咲さんが私の指導をしてくれることになり、キッチンでの衛生管理や紅茶やコーヒーの入れ方、ソフトドリンクの作り方やパンケーキのトッピング方法などを叩きこまれた。
「呑み込みが早くて助かるー!ずっと2人で回してたからさ、新しくバイトが増えるの大歓迎なんだよね。」
青山さんが明るく言ってくれたり、オーナーがなるべく私が表に出ない仕事ができるように取り計らってくれたりしてもらったおかげで、私はずいぶんと楽にバイトをできるようになった。けれど…。
「青山さん、1番テーブルの方がお帰りになられるよ!対応お願い!」
「はい!」
「オーナー、こっちのテーブルの片付けお願いしてもいいですか?」
忙しくホールの仕事をしている2人を見て、私は段々と申し訳なくなってきた。
私、キッチンの仕事しかしないって結構ダメダメなのでは?
そのことに気がついた私は思い切ってオーナーに相談した。
「あの、やっぱり私、ホールの仕事もやります。」
言い方がちょっと悪かったかな、と感じたが、オーナーは輝く笑顔で了承してくれた。
「ありがとう、本当にありがとう。」
青山さんが教育係を務めてくれることになり、私は必死で接客を覚えた。最初は慣れないことばかりだし、人と接するのが少し怖かったけれど、青山さんがサポートやアドバイスをしてくれたおかげで、今では普通に接客もできるようになっている。
こうして思い出すと、青山さんに全然恩返しができてないな。もっと頑張らないと。
「あかりん、レジ打ちお願いしていい?こっちの片付けは引き受けるから。」
「はーい。」
私は洗い物の手を止めて、一度手を洗うとキッチンから出た。レジカウンターのそばにあるカレンダーが目に入り、私はハッと思い出した。
そういえば、明日は陽彩と出かける予定があった!服とか、どうしよう?
サッと青ざめた私はそれからある人の姿を思い浮かべた。
お姉ちゃんがいるじゃん!帰ったらアドバイスをもらおう。
そう心に決めて、私はレジ打ちに精を出した。