聖女の報告や対策は国に任せ、わたしは本来の目的を果たすために動くとする。
マルケルさんと打ち合わせをし、マレイスカ様を鍛冶工房に連れて行った。
大まかな形は伝え、雑でもいいから形にしてもらった。
「重さや安定感はどうですか?」
「うーん。やはり重いな。安定感もよくない」
わたしも持たせてもらい振ってみる。
「確かに重くて安定感がありませんね。それなら鉄の板を貼るようにしますか」
手頃な鉄板を貼ってもらい、マレイスカ様に振ってもらう。
「まあ、悪くないな」
「では、いろんな型を作ってもらいますね。マルケルさん。革職人さんに握るところに革を巻いてください」
絵にしてマルケルさんに渡した。
「あと、工房名も棒に刻んでください。初めてマラッカ棒を作った工房として名を刻んでおきたいので」
プレートに記録を刻んで工房に掲げてもらいましょう。
「念入りだな」
「記録として残しておくことは大事です。元祖を他に捕られては堪りませんから。マレイスカ様の名を刻む許可もいただけますか? 初めてのマラッカ棒に製作番号とマラッカ棒を作った工房名、そして、マレイスカ様の名を後世に残したいので」
「わたしの名を後世に? 本当に残るものなのか?」
「歴史は残るものではなく残すものです。名と現物があれば数百年先までマレイスカ様の名、あ、肖像画も残したいですね。後世の者に変な風に描かれたら困りますし」
この時代に肖像画を描く絵師さんっているんだろうか? お城に肖像画ってなかったけど?
「貴族として名が残るのは名誉だが、そこまでやると気恥ずかしくなるのぉ」
ちょっと気恥ずかしそうにするマレイスカ様。わたしなら全力で拒否するけどね。
「自伝も残しておくとよいかもしれませんね。マレイスカ様を調べたいと思う歴史家さんもいるでしょうから」
「あまり大袈裟にするでない。気恥ずかしくて堪らんわ」
「失礼しました」
「アハハ。よいよい。自伝か。忙しい老後になりそうだ」
うん。気恥ずかしいながらもやる気はあるようだ。よかったよかった。
嬉しそうにマラッカ棒を振るマレイスカ様からマルケルさんを見た。そのサポートをよろしくお願いしますってね。
苦笑いをするマルケルさんだけど、わたしの言いたいことは察してくれたようで頷いてくれた。
「マレイスカ様。市場で食事でもしてみませんか?」
「市場で?」
「はい。経験したことがないことをしてみるのもよいと思います。王都がどんなかは知りませんが、ここなら王都ほど人はいませんし、知らない土地を歩いてみるのも楽しいと思います。土地土地の食事を楽しみ、そこにしかない空気を感じる。今しか出来ないことだと思います」
どんなに偉くても好き勝手に旅行など出来ないはず。引退した今だからこそ自由に旅行が出来るのだ、いろいろ見て回らないともったいないわ。
「そう、だな。町を歩くなどしたこともなかったな……」
遠くを見るマレイスカ様。偉くとも自由がないってのも嫌なもののよね。
「……第二の人生を歩んでください」
「第二の人生か。お前はおもしろいことを言うな」
「大きな役目から解放されたのです。残りを自分のために使ってもよろしいと思います」
それだけの財力と権力があるのだ。悪いことに使うんじゃなければ自分のために使ったっていいじゃない。わたしも授かった魔法を自分のために使っているしね。
平等なんてないことは前世で学んだ。恵まれた者がいれば恵まれない者もいる。努力じゃ覆せないものがある。あるものはある。ないものはない。あるなら使う。自分のために使うのよ。
「ふふ。お前を見ていると人生もまんざらではないと思えてくるよ」
「わたしは生きていることは素晴らしいことだと思ってますから」
運や才能が物言う世界でも努力で覆させることは多くある。生きていられるなら努力し放題なのよ。
「素晴らしいか。わたしもキャロルを見習うとしよう」
「はい。たくさん見習って長生きしてください」
と、柔らかく微笑んだマレイスカ様に頭を撫でられてしまった。わたし、そんなに幼く見えるか? いや、見えるか。他から十歳以下に見えているようだしね……。
「では、行こうか」
何だか人が変わってしまったかのようなマレイスカ様。今、何が起こったの?
「は、はい」
マルケルさんに視線を送り、先に人を走らせてもらう。何もないとは言え、この国の重鎮。もしものことがあってはならない。先に走ってもらい、準備を進めてもらいましょう。
「こうして歩くのもいいものだな」
「はい。いろんな人の暮らしが見えておもしろいです」
「……人の暮らしか……」
「本の知識ですが、社会は上から腐り、下から崩壊していくと書いてありました。わたしはコンミンド伯爵領に生まれて幸せですし、この光景が美しいと思います。十年後も二十年後も残していきたいです」
前世のわたしに故郷はなかった。あるとしたら病院でしょう。
こうして小さい頃から見た光景を残しておきたい。そして、大人になってもこの光景を見たいものだわ。
マルケルさんと打ち合わせをし、マレイスカ様を鍛冶工房に連れて行った。
大まかな形は伝え、雑でもいいから形にしてもらった。
「重さや安定感はどうですか?」
「うーん。やはり重いな。安定感もよくない」
わたしも持たせてもらい振ってみる。
「確かに重くて安定感がありませんね。それなら鉄の板を貼るようにしますか」
手頃な鉄板を貼ってもらい、マレイスカ様に振ってもらう。
「まあ、悪くないな」
「では、いろんな型を作ってもらいますね。マルケルさん。革職人さんに握るところに革を巻いてください」
絵にしてマルケルさんに渡した。
「あと、工房名も棒に刻んでください。初めてマラッカ棒を作った工房として名を刻んでおきたいので」
プレートに記録を刻んで工房に掲げてもらいましょう。
「念入りだな」
「記録として残しておくことは大事です。元祖を他に捕られては堪りませんから。マレイスカ様の名を刻む許可もいただけますか? 初めてのマラッカ棒に製作番号とマラッカ棒を作った工房名、そして、マレイスカ様の名を後世に残したいので」
「わたしの名を後世に? 本当に残るものなのか?」
「歴史は残るものではなく残すものです。名と現物があれば数百年先までマレイスカ様の名、あ、肖像画も残したいですね。後世の者に変な風に描かれたら困りますし」
この時代に肖像画を描く絵師さんっているんだろうか? お城に肖像画ってなかったけど?
「貴族として名が残るのは名誉だが、そこまでやると気恥ずかしくなるのぉ」
ちょっと気恥ずかしそうにするマレイスカ様。わたしなら全力で拒否するけどね。
「自伝も残しておくとよいかもしれませんね。マレイスカ様を調べたいと思う歴史家さんもいるでしょうから」
「あまり大袈裟にするでない。気恥ずかしくて堪らんわ」
「失礼しました」
「アハハ。よいよい。自伝か。忙しい老後になりそうだ」
うん。気恥ずかしいながらもやる気はあるようだ。よかったよかった。
嬉しそうにマラッカ棒を振るマレイスカ様からマルケルさんを見た。そのサポートをよろしくお願いしますってね。
苦笑いをするマルケルさんだけど、わたしの言いたいことは察してくれたようで頷いてくれた。
「マレイスカ様。市場で食事でもしてみませんか?」
「市場で?」
「はい。経験したことがないことをしてみるのもよいと思います。王都がどんなかは知りませんが、ここなら王都ほど人はいませんし、知らない土地を歩いてみるのも楽しいと思います。土地土地の食事を楽しみ、そこにしかない空気を感じる。今しか出来ないことだと思います」
どんなに偉くても好き勝手に旅行など出来ないはず。引退した今だからこそ自由に旅行が出来るのだ、いろいろ見て回らないともったいないわ。
「そう、だな。町を歩くなどしたこともなかったな……」
遠くを見るマレイスカ様。偉くとも自由がないってのも嫌なもののよね。
「……第二の人生を歩んでください」
「第二の人生か。お前はおもしろいことを言うな」
「大きな役目から解放されたのです。残りを自分のために使ってもよろしいと思います」
それだけの財力と権力があるのだ。悪いことに使うんじゃなければ自分のために使ったっていいじゃない。わたしも授かった魔法を自分のために使っているしね。
平等なんてないことは前世で学んだ。恵まれた者がいれば恵まれない者もいる。努力じゃ覆せないものがある。あるものはある。ないものはない。あるなら使う。自分のために使うのよ。
「ふふ。お前を見ていると人生もまんざらではないと思えてくるよ」
「わたしは生きていることは素晴らしいことだと思ってますから」
運や才能が物言う世界でも努力で覆させることは多くある。生きていられるなら努力し放題なのよ。
「素晴らしいか。わたしもキャロルを見習うとしよう」
「はい。たくさん見習って長生きしてください」
と、柔らかく微笑んだマレイスカ様に頭を撫でられてしまった。わたし、そんなに幼く見えるか? いや、見えるか。他から十歳以下に見えているようだしね……。
「では、行こうか」
何だか人が変わってしまったかのようなマレイスカ様。今、何が起こったの?
「は、はい」
マルケルさんに視線を送り、先に人を走らせてもらう。何もないとは言え、この国の重鎮。もしものことがあってはならない。先に走ってもらい、準備を進めてもらいましょう。
「こうして歩くのもいいものだな」
「はい。いろんな人の暮らしが見えておもしろいです」
「……人の暮らしか……」
「本の知識ですが、社会は上から腐り、下から崩壊していくと書いてありました。わたしはコンミンド伯爵領に生まれて幸せですし、この光景が美しいと思います。十年後も二十年後も残していきたいです」
前世のわたしに故郷はなかった。あるとしたら病院でしょう。
こうして小さい頃から見た光景を残しておきたい。そして、大人になってもこの光景を見たいものだわ。