またやってきましたね、くっちゃんさん。
 今日はなんでしょうねー、こんばんは。
 また面白いことが起きました。ある女の子が僕の家にきました。

 パーソナリティーの相方がくっちゃんの言葉に反応して、女の子来たんですか? え? 今から話すのは恋愛系ですかねーと返していた。

 さあ? まだ分かりませんが、読んでいきましょう。

 女の子が来たからって家には上げていません。
 
 外で話したのですが、僕はあの言葉に救われました。

 なんなんだろうね、あの言葉とは。気になりますね。

 パーソナリティーの方は、またの展開に期待していますと言い、ラジオは終わった。

 ラジオはいつも大体十七時あたりからやっている。

 なぜか毎回くっちゃんさんの手紙が読まれる。

 違うリスナーの方もいるがラジオのパーソナリティーに評判よく読まれるのかもしれない。

 私はそのあと母さんに呼ばれて、リビングで夕食の支度をはじめた。

「宙ちゃんはこれやっておいて、はい」

 母さんから渡されたザルにレタスがあり、洗ってキッチンペーパーで水分を取った。

「できたよ。はい」

 私はやり終わると、母さんに渡した。

「ありがとう。あとは飾りつけるだけだから大丈夫」

 母さんがそう言うと、あらかじめ作っていたハンバーグをフライパンにのせて焼いていた。

「わかった」

 私は返事をして、後ろを振り返り、リビングにあったソファーに座ろうと向かった。

 その時、母さんから声をかけられた。

「宙ちゃん。新しい学校はどう? 楽しくしてる?」
 
 母さんは心配そうに私に聞いてきた。
 
 心配症で新しい生活になると、質問攻めが始まる。

 まだ今のはいい方だ。
 
 学校で何かの行事があると、どんな状況なのか聞いてくる。

「…大丈夫。なんとかやっていけてるよ。大丈夫」
 私は身体を母さんの方に向けてから笑みを浮かべて、私の方を向いていた母さんと面と向かい、なんともない様子で声を発した。

「…ならいいけど………」

 母さんは少し眉をひそめながら、返事をして、途中だったハンバーグを焼き加減を確かめながら作っていた。リモコンを持ち、テレビ番組をつけた。

 まだ十八時になっていないので時間が中途半端で、どのチャンネルもCMが流れていた。

CMをただ見つめて、カラフルに溢れた画面を見続けながらニュースになるのを待っていた。

 急にニュース番組が始まった。
 
 何かと思えば、ニュース速報だった。

 ニュース速報です。今日女子高生がストーカーに襲われる事件がありました。

 命に別状はありませんが、最近はストーカー被害が多くあるので気をつけてください。

「最近、多いわね、変な事件。気をつけるのよ、宙ちゃん」

 母さんは両手をエプロンで拭き、テレビ画面を見ていた。

 テレビ画面のニュースを見て、母さんは険しい表情を浮かべて、ため息をついていた。

「そうだね。気をつけるよ」

 私はテレビを見ながら、母さんに返事をした。このニュースを見てから、私はこう思った。

 ストーカー被害を受けたのは私と同じ高校生でこんな被害を受けたくてなった訳じゃない。

それと同時にそんなに好きで付きまとうことの好意は狂気にもなるし、幸せにもなれない。

私は胸の中で人に想われることを羨ましさとともに、人に好かれるのは恐怖を感じた。

 そのあと、父さんが帰ってきて、夕食を家族全員で囲んだ。

父さんは今日あったことを娘の私になんともなく言って、楽しそうに仕事の話をしていた。

辛いこともあるはずなのに、笑って話せるなんて、私には出来ない。

 ……一人で我慢するしかない。

 そう思いながら、私は食べ物を口にした。

 夕食を食べたあと、私は自分の部屋に戻った。
 部屋に戻ると、ベッドに横になった。ベッドの上を見て、考える。

 いろんなことを考えていた。

 家族・学校など……

 考えてもなにもわからなくなっていた。
 
 自分がどうしたいかも。

 お風呂に入らず、そのままベッドに横になって目を瞑った。

 思い出されたのは、学校の出来事。
 
 私が話すと、無視した今野琳達。
 
 その瞬間が心に黒い雨が落ちていく。

 黒い雨をなんとか雫にしようと必死に深呼吸した。
 
 翌日。私は何も考えずに、学校に向かった。

 教室に入り、自分の席に座ってカバンから教科書を出して、机に置いた。

「……また、いない。なにしてんだろう」

 私は隣の工藤の席を見て、声を発する。

 ザワザワとした教室では、今野琳らは他のクラスメイトと楽しそうに話をしていて、私とは目を合わせなく、挨拶さえしなくなった。

「…工藤いないね」

 私が工藤の席を見つめていたら、誰かの声がすると思い、声をした方に視線を向けると六弥くんがいた。

「六弥くん… なんかあったの? 二日連続こないなんて」

 私は六弥くんを見つめ、聞いた。

「……なんかあったんだろう」

 工藤の席を悲しげな目で見つめて、六弥くんは私に声を発した。

「……そうなのかな」

 私は間を置いて、返事をした。
 
 本当になにもないのだろうか。

 何もなかったら、いいんだけど…。
 
 けど、昨日の工藤の様子が気になる。

 腕の傷だって手当しないで、あのままだし。

 着ていた服を見たら、少し破れた長袖シャツに汚れているパンツであった。

 そして、私が現れると、驚いた様子で私を見ていた。

 あまり気にしないようにしたいけど、頭の中で工藤の表情が引っかかる。

 もう諦めかけたような、でも、助けてほしいとの想いが重なっているような目であった。

 そんなことを考えながら、朝礼を済ませて授業が始まった。

次の授業は移動教室だったので思い切って今野琳達に話しかけようと思って、声を発した。

「…あ、あの、一緒にいてもいい?」

 私は教科書を両手で握りしめて、今野琳達を下に俯きながら声を掛けた。

 すると、意外な言葉が出てきた。

「いいよ、行こう」

 今野琳は平然とした様子で私の方に振り返り、顔色ひとつ変えることなく返事をしていた。

 私は一安心して、ふーと息をして今野琳達の隣にくっついて移動教室へ向かった。

 教室へ向かうと、黒板に書かれていた出席番号順通り、指定された席に座った。

 出席番号順に座ると、ひとつのテーブルごとに六人いた。

 化学の授業ということで、テーブルごとにグラスなどが置かれていた。

 私の席の目の前には、六弥くんが座っていた。

 工藤が休みなので、いない分詰められて、六弥くんと一緒のグループになった。

 六弥くんは目で私に声をかけてきた。
 
 私も黒目を開けて、六弥くんに微笑んだ。

 その後、先生が来て、授業が始まった。
 
 六弥くんは目でなにを言いたかったのかな。

 授業は至って変わりなく、化学はどういうことをするのかなどの先生の話だけであった。

 入学して間もないので、まだ授業というものを本格的に始まってはいない。

 来週あたりから、どの授業も勉強を始めるらしい。

 二週間ほど経てば、まともに今野琳達と仲良くなれるとその時まで私は信じていた。

 だが、時間が経てばという暗示は聞かなかった。

 人間関係は変わることはなかった。
 
 人は思うようにはいかない。

 胸が踊るような楽しい毎日にはならない。
 
 理想通りの学校生活とはいかないものだ。

 二ヶ月後、やっと学校生活に慣れてきた頃、私は特に変化もなかった。

 勉強は授業ごとに予習して、授業が終わったら復習をしての繰り返しだった。

 大体勉強は図書室でしてから、自宅に帰った。
 今野琳達とは一緒のグループであるが、ただいるだけで私の存在意義はない。

 空気みたいな感じだ。ただいても、なにも存在していない。

 十分休憩もお昼もいるだけで、何も言葉を発してない。声が出てこなくなりそうだった。

 終礼が終わり、自分の鞄を肩にかけようとした時、今野琳達の声が響き渡る。

「ねぇねぇ、今日はコーチ来るらしいよ。しかも、男だって」

 今野琳は他のクラスメイト二人とバトミントン用のラケットを手に持ち、嬉しそうに伝えていた。

「そうなんだ。どんな人かな。ってか、練習厳し過ぎたらやる気もなくなるよ」

 他のクラスメイトは今野琳をまばたきをして見てから、バトミントン部の練習について思い出しながらため息をついていた。

「ほんと、それ。バトミントンするのは楽しいけど…高校生ってやることいっぱいあるんだよって知らせたい」

 うんうんと頷きながら他のクラスメイト一人は、遠い未来を見つめて、言葉を発していた。

 今野琳達は、バトミントン部に入った。

 部活動について聞かれた次の日には見学を済ませて、部員届を出していたのだ。

 私にはもう聞いてこなくなった。何もかも……

 今野琳達は部活動の話をしながら、教室から出ていた。 

 教室には誰もいなく、部活動やバイトがあるのだろうか。

 クラスメイト一人ともいなかった。

 私は教室を見渡してから、自分の鞄を肩にかけて、図書室に向かった。

 図書室にはいつも同じ席に座っている人や、悩んで本を選び一人で読んでいる人など当たり前だが学年男女問わずいる。

 その空間だけが、私の中だけの世界でいられるのだ。

 定位置に座っている窓際の椅子に私は座り、窓から見える眩しい光とゆっくりと動いている雲たちに見守られて、鞄から教科書を出す。

 昨日YouTubeで流れてきた音楽を私なりのアレンジで歌っていたら、後ろから声がした。
「…そんなに大きい声で歌ってたら、迷惑だよ」

 後ろを振り返ると、そこには六弥くんがいた。
 
 六弥くん……なんで。

「…え? 六弥くん。…なんで」

 私は驚いて、ニコッと微笑んでいる六弥くんをただ見つめた。

「いや、図書室に用事あったから寄ったんだよ」

 六弥くんは私の前にあった椅子に座り、腰をかけた。

「そうなんだ」

 私は返事をし鞄から出した教科書のページを開こうと手にかけた時、六弥くんは声を発した。

「今宮さんさ、工藤見かけてない?」

 頬杖を付けて、私の方を見て低い声で聞いてきた。

「いや、見てないけど…。先週あたりは通りすがりに工藤見たくらいで分からないよ。なんで」

 六弥くんを一度見てから、私は教科書に目を通したあとに声を発した。

「…僕もさ、工藤と連絡取れなくてさ。何回もかけたし、家にも行ったんだけど。誰もいなくて…今宮さんなら知っていると思ったんだけど。分かった、ありがとね、今宮さん。またね」

 心配そうに六弥くんは、私に声を詰まらせて言ってきた。

 本当に工藤がどこにいるのか不安そうにしている様子だった。

「…ちょっと待って。六弥くん。私も探す」

 私はその様子を見て、迷った結果、六弥くんに言う。

「今宮さんはいいよ。工藤とは知り合って間もないでしょ」

 控えめに六弥くんは私に優しく言う。
 
 確かに。知り合って間もない。

 だけど、腕のケガに服の汚れなど普通の日常生活で送っていたらできないものがあった気がしたからだ。

「…なんか気になるんだよね。前、工藤の家行くことあってなんか引っかかることあるから」

 私は前行った工藤の家を思い浮かべながら、言葉を返した。

「…分かった。探そう」

 六弥くんは返事をしてから、椅子から立ちあがった。

 私も教科書を鞄に入れ直して、六弥くんの後を追った。
 六弥くんは学校から出ると、学校とは反対方向のどこかに向かっているようだった。

 私は六弥くんの後をついていくかのように、駆け足でかけた。

 向かい風が私の髪を揺らして、息を切らした。

 着くと、そこはコンビニ店が小さい町中にひっそりと潜んでいた。

 ビルなどが溢れているのに、小さい狭い小道があったのだ。

 学校からそんな遠くないのに小道を通るとそこはあまり人通りがなかった。

 コンビニ店の看板が汚れていて、あまり人が来なそうな感じであった。

 六弥くんはカランカランとコンビニのドアを勢いよく開けた。

 そこには、コンビニ男性店員一人だけがいた。

「いらっしゃいませ~」

 元気よくお客に挨拶をして、商品の確認をしているのか手元に持っていたプリンと片手で商品のシートを交互に見ていた。

「…あの、この子見たことありますか」

 六弥くんはズボンに入っていたのか左手で写真一枚取り出して、男性店員に見せていた。

「…えーと、あー緑色のマフラーしていた子ですかね」

 男性店員は写真を手に取りマジマジと見て、頭の中で考えながら声を発した。

「…いつ見ましたか?」

 目を丸くして六弥くんはテーブルをバンッと叩いて、脅すかのように聞いていた。

「…あー、三日前ですかね。なんかを探しているようでしたけど、店内にはないと分かって…すぐ出て行きましたよ」

 男性店員は肩をビクッと上げてから、小さい声を出して、六弥くんに伝えた。

「どこに向かいました?」

 六弥くんは大きい声を出して、男性店員に聞き出す。

「右方向に歩かれていきましたよ」

男性店員はなんかがあったのかと思ったのか、優しく右手で指をさして六弥くんに言った。

 すぐに、六弥くんは走り出した。

 私は六弥くんの隣にいて見ていたので、六弥くんは男性店員を少し見てから黒目を動かして何かを思い出したかのようにまたどこかへ向かっていた。
「六弥くん、どこに向かっているの」

 私は走っている六弥くんに大きい声で聞いた。

「…工藤がいそうな所。あそこならいると思うから」
 
 六弥くんは走りながら、私に聞こえるように顔を上にあげて、声を出した。

「ほんとにいるの?!」 

 私は工藤がいないのではないかと思った。

 何日もいない工藤を心配していたが、ただボッーとしていて、一人になりたいのかと…

「分かんない!行ってみないと…」

 六弥くんは再度大きい声で私に言い放ち、走り続けた。   

 一〇分後。六弥くんはあるところに立ち止まった。そこは、小さい空き地だった。

 こんな小道通りに、空き家があるとは…。

 空き地の中にあったマンホール管の中に行き、六弥くんが覗くと、そこには小さな子供のように工藤が縮こまっていたのだ。

「工藤!探したんだぞ。何してるんだ」 

 六弥くんは工藤を外に引っ張り出してから、工藤の両肩を掴んで、心配そうな目をして彼に聞いた。

「見ればわかるだろ。小さな世界にいるんだよ」

 工藤はいつもと違う様子で黒目を左右に動かして下に俯き、何か本当の子供のような行動をしていた。

 凛々しい表情をしていた彼が幼い頃に戻ったみたいだった。

「あー、またあれ発症したか」

 六弥くんは両手で頭を抱えていた。 

「何が起こってるの」

 私は工藤の様子を見て、六弥くんの方を見て聞いた。

「……っ。母親に暴力ふられてるんだ。軽傷な時は大丈夫だけど、重症な時は子供に戻ったようになってしまうんだ。最近はなかったんだけどな……、また発症するなんて」

 そう言ってから息を吐いて、六弥くんは腕を組んで工藤を見つめながら、考え始めた。

「…どうするの? 対処方法はあるの?」

 六弥くんが立っている横に私がいて、立ち尽くしている私は頭を抱える彼に聞いた。

「…あるはある。けど、今は通じるかどうかまで……は。やってみるしかないな」
 六弥くんはマンホール管に工藤が座っていたのを立たせてから、話をし始めた。

「工藤。今からやることは一番効果的なやり方だからな」

 そう言ってから、工藤の腕を掴んで、抱きしめた。

 男同士のハグ。
 
 同性同士の抱き合いを初めて見たので、目を丸くして私は見た。

 すると、工藤は徐々に顔色が良くなっていたが、彼は声を発した。

「……はぁはぁ。俺だけじゃ、ダメなの」

 工藤は切なそうな表情をしてから、涙を流していた。

「はぁ、やっぱダメか。今宮さん、悪いんだけど。工藤にハグしてくれない?」

 工藤の両肩を持ってから離して、六弥くんは真っ直ぐに私の方を見て言ってきた。

「え? いやいや、なんで私!?」

 私は動揺した。まだ知り合って間もないのに、工藤にハグ。

 あまりの驚きに目を見開き、六弥くんに問いかける。

「誰でもいいわけじゃないんだよ。前に発症した時は、僕が久々に工藤と話した時になって、今みたいにハグしたら治ったけど。今回はそうはいかないみたいなんだよね。今宮さんも一応工藤と話したことあるから大丈夫かなと……」

 六夜くんはお願いと両手を揃えて、私に言ってきた。

「……ハグだけだよね?」

 私は六弥くんに聞いた。

 ハグ。ハグだけなら、猫を助けると思って…これは人助け。

 愛のあるハグじゃない。

 人助け。

 自分で言い聞かせながら、六弥くんに言ったのだ。

「そう。さっきみたいにやれば大丈夫」

 六弥くんは笑顔でオーケーと指でポーズをして、私に伝えた。

 私は返事をした後、一歩足を踏んで、工藤に歩み寄る。

 涙を流しながら立ち尽くしている工藤の右腕を掴んでから、工藤の胸もとに近づけようとした時、工藤が私の左腕を瞬時に掴んできたのだ。

「…っ。ちょっと……」

 私は力強く抱きしめられて、苦しかったので、工藤に声を発したが、応答はなかった。

 それを見た六弥くんは声を発した。