異世界エイナール・ストーリー

コウル達とカーズの間に、エルドリーンが立つ。

「エルドリーンさん!?」

「貴様……」

コウル達は驚きを、カーズは不機嫌な表情を見せる。

「それっ」

エルドリーンが剣を向けると、コウル達を縛っていた鎖が消える。

「あ、ありがとう」

「助かりました。エルドリーン」

二人は立ち上がるとエルドリーンに礼を言い、三人はカーズに向き直る。

「貴様、いつかは世話になったな」

「ああ、そうね。互いにね」

エルドリーンとカーズが互いに見合う。

「女……。あの時はそっちの女を消そうとしてたんじゃないのか?」

「消そうとしてた、とは物騒ね。倒してくれればそれでよかったのよ」

「「……?」」

エルドリーンとカーズの会話は、コウル達にはわからない。

「まあいい。貴様もそちらに付くなら、一緒に消えてもらうだけだ!」

カーズが改めて剣を構えた。ジンも同じように剣を構える。

「エイリーンお姉さま? そろそろ昔に戻ってもいいんじゃないかしら?」

「え、ですが……」

エルドリーンが苦笑しながらコウルを指す。

「そんなに愛しの人の前で素を出したくないの?」

「……いえ。こんな状況です。わかりました」

エイリーンはコウルの方を向くと。真剣な表情になった。

「コウル、いつもの剣を貸してください」

「え……。いや、わかったよ」

エイリーンの表情に、コウルは素直に剣を渡す。

「いきますよ、エルドリーン。そして……ジン様を頼みます、コウル」

エイリーンとエルドリーン。姉妹が飛翔する。コウルもそれに合わせ剣を構えなおした。。

「む――!」

姉妹の剣による攻撃がカーズを怯ませる。

「コンビネーションで俺たちに挑む気か――!」

ならばとカーズはジンと並ぼうとする。だがそこをコウルが割って入りジンを押さえる。

「……!」

ジンは人形ながら驚いたような動きを見せる。

「っ! 貴様っ!」

カーズがコウルを攻撃しようとするが、そこに姉妹の鋭い一撃が飛んでくる。

「ちいっ!」

「お兄様!」

シズクが兄を救おうと、エイリーン達に魔力弾を放つ。

だがその魔力弾は、高速で飛び回る姉妹を捉えることはできない。

ただ速いだけでなく、エイリーンとエルドリーンの動きは、予測のしにくい息と軌道をしていた。

「こんな…ことが……!」

カーズの体勢が徐々に崩れだす。

コウルはジンと対峙しつつも姉妹の圧倒に驚いていた。

そしてついに――。

「これで」

「終わりよ!」

勢いを増した姉妹の剣。それがカーズに突き刺さった――。

「かはっ……」

カーズは咳き込み、魔力を吐き出す。これで勝負は完全に決まっていた。

「あ……あ……」

シズクはその兄の様子を見ていることしかできない。

コウルはジンの動きも止まっていることを見ると、シズクの方へ向き直った。

「シズクさん、僕たちはあなたに恨みはありません。ここでやめてくれませんか」

だがそう言った瞬間、コウルに悪寒が走った。

「まるでもうわたくしに手がないような言い草ですわね……?」

シズクがそう言うとともに膨大な魔力が放たれる。

「……っ!?」

「これは!?」

コウル、エイリーン、エルドリーン。三人とも考えは違うがシズクから感じるのは闇の魔力だと感じ取った。

「あの闇の魔力……。エルドリーン、これは――」

「そうね。私のとは魔力が違う。でもこれは――」

話をする二人を妨害するかのように、シズクから三人に闇の魔力弾が発射された。

三人はそれぞれ回避しようとするが――。

「くっ……――!?」

コウルが飛びよけようとするのを、ジンが掴む。

「なっ、ジンさん!?」

ジンの動きが完全に止まっていたからこそ、コウルはシズクの方を向いていた。

だがジンの目は闇に染まりコウルを押さえ離さない。

「わたくしがジンの制御を手放すとお思いでしたか? あれは貴方をこちらへ向かせる芝居」

「ぐっ……」

シズクの闇の魔力に比例するように、ジンの力は強くコウルを離さない。

「お兄様の策でした。もし自分がやられるようなことがあればと。本当に使うことになるとは思いませんでしたが。

そして……貴方は道連れです。この魔力を使った以上、わたくしも無事ではすみませんので――」

言う通り。シズクは闇の魔力弾を飛ばし会話を終えると崩れ落ちた。

だがコウルは魔力弾を回避する手段がない。その時だった――。

「コウルー!!」

エイリーンがコウルの前に立ち魔力の壁を広げる。

「エイリーン!?」

「コウルは……私が……守ります!」

必死の様子でエイリーンは闇の魔力弾を防いでいる。

コウルは驚いていた。エイリーンの女神見習いとしての魔力でも抑えるのに苦労していることに。

「無茶を――しない!」

エルドリーンも割って入り魔力の壁を展開する。それでようやく数秒後、闇の魔力弾は消え去った。

「はあ……はあ……」

「お姉さま……無茶しすぎ……」

姉妹が息を切らしているのに、コウルは本当に止まったジンをどかしながら近づいた。

「ごめん二人とも」

「いえ。コウルを守れて……よかったです……」

エイリーンは汗をかきながらも笑顔で返す。

「それよりエルドリーン」

エイリーンはエルドリーンの方を向く。エルドリーンは分かったように頷くと。

「あの闇の魔力については、私が調べておくわ」

そう言って一人、先に飛び帰った。

それを見るとエイリーンは倒れそうになる。それをコウルが受け止めた。

「エイリーン!? ……って熱がある!?」

「はあ……はあ……」

コウルはエイリーンを壁に寄りかからせる。

「く、薬……。熱さましとか持ってないし――」

「コ、コウル、大丈夫です。少し寝たら回復しますから……」

そう言ってすぐエイリーンは眠りに落ちる。

コウルはそれをただ見ることしかできなかった。
その日、コウルはいつものように眠りに落ちていた。
そして、いつものように――

「孝瑠ー、朝よー。起きなさいー!」

「はーい……。……って!?」

コウルは跳ねるように飛び起きる。

そこは異世界エイナールではなく、現実世界のコウルの家。そして今の声はコウルの母の声だった。

(え、な、なんで……)

コウルは状況がつかめず慌てるが、落ち着き直すとまず思い出し始めた。

(エイリーンの熱が下がって……心配だったけど旅に戻って……それから何日か経って、野宿をして……)

そしてコウルは気づいた。

(野宿の後の記憶がない――)

つまり野宿の時に何かあった。そうに違いないとコウルは感じる。

(そういえば、エイリーンの様子がおかしかった……)

コウルは野宿の時のエイリーン思い出す。

熱は下がっていたはずだが、エイリーンは明らかになにか苦しそうにしていたことを。

「孝瑠ー! 学校、遅刻するわよー!」

「う、うん。今行く!」

状況がわからないながらも、現実世界にいるコウルは学校に行くしかない。

カバンを取りコウルは準備をするしかなかった。



「……」

その日、コウルは学校で考え事しかしていなかった。

授業であてられても上の空で、怒られても気にしていなかった。

学校が終わると、コウルはすぐに帰路にある公園に向かう。

コウルが異世界エイナールへと飛ぶきっかけの光が落ちてきた公園。

ここならば何かあるのではとコウルは考えた。しかし――。

「何も……ない」

周りにいる人たちの視線を無視し、片っ端から公園を回ったコウルだったが、結局何も手がかりはなかった。




「……」

その後の数時間、コウルはあてもなくブランコに乗っていた。

「エイリーン……」

コウルの呟きが、誰もいなくなった公園に消える。

そのままブランコでゆっくり揺れているコウルに一つの影が近づいた。

「孝瑠くん……?」

「え……?」

コウルが顔を上げるとそこには一人の少女が立っていた。

その制服はコウルと同じ学校の女生徒の服であり、コウルはその少女に見覚えがあった。

「鈴花……さん?」

「はい」

少女、鈴花(リンカ)はコウルの目線に合わせると頷いた。

「どうしてこんな時間に?」

「部活の帰りです。孝瑠くんはこんな時間にブランコで何を?」

「えっと――」

コウルは何て言うかを考える。

異世界に行って? 旅をして? 気づいたら元の世界に戻って?

(ダメだ。とても信じてもらえうわけない。夢とバカにされるだけだ……)

考え込むコウル。それをじっと見つめる鈴花。

その純粋に自分を心配してくれていると思う目に、コウルは口を開いていた。

「実は――」

コウルは語り始める。異世界エイナールのこと。旅のこと。そしてエイリーンのこと。 

それを鈴花は何も言わずじっと聞いている。

「――という訳なんだけど」

「……」

無言の鈴花にコウルは今更恥ずかしくなる。

(やっぱり信じてもらえないよね……)

しかし――。

「大変でしたね。孝瑠くん」

鈴花は、ブランコに座っているコウルをそっと撫でる。

彼女はバカにせず、ただ慈愛の目を持ってコウルに接した。

「信じて……くれるの?」

「ええ。嘘を言ってないのはわかります。……それとも嘘なんですか?」

「そ、そんなわけないよ!」

コウル慌てて手を振る。その様子に鈴花は笑った。

その笑顔を見てコウルは思う。

(鈴花さんって髪の色も声質も全然違うけど、なんかエイリーンっぽいな……)

そう考えてから慌てて首を振った

(ってなに考えてるんだ。エイリーンがいるっていうのに僕は!)

考えを変えようとコウルは強引に話を戻そうとする。

「で、えっとどうやったら――」

「どうやったら、その異世界エイナールに戻れるか……ですね?」

そう、1日中コウルが考えていたこと。そしてどうにもなっていないこと。

「孝瑠くんの中で、何でもいいので他に手がかりや、思い出せることはないんですか?」

そう言われてコウルは再度思考を巡らせる。

「そういえば……」

ひとつだけコウルは気が付いた。

「カーズの塔で見た歪み。どこかで見た気がする」

「それは……?」

コウルは記憶を辿っていく。

わりと近く。コウルの知っている場所。鳥居が思い出される。

「そうだ、以前行った隣町の神社!」

コウルは立ち上がると早速駆け出した。

「私も行きます」

「え、でも……」

「ここまで聞いて今更関わらせたくないは無しです」

そう言うとコウルを抜いて先に進みだした。

「ま、待って――」

コウルはその彼女、鈴花を慌てて追いかける。



時間を気にせず、コウル達は夜の闇の中を隣町に進む。

そして隣町の神社までやってきた。

二人は神社内をゆっくり探しながら進んでいく。

「何もないですね……」

「いや待って。何か聞こえる」

コウルは神社の境内の裏に走る。鈴花もそれを追って走る。

「――」

「ここだ」

そこには、コウルが異世界エイナールに飛んだ時と似た光があった。

コウルはそれにそっと触れる。

「やっと……繋がったわね。聞こえる、コウル」

「その声は……エルドリーンさん?」

コウルはすぐにエイリーンの声が聞けなかったことに少し落胆しつつも、異世界エイナールに繋がったことに安堵する。

「そう。まったく、気づくのが遅すぎるわ」

「ご、ごめんなさい。えっと、何があったんですか?」

「ええ。よく聞きなさい」

エルドリーンは語り始める。

「あの時、シズクって子が放った闇の魔力。あれがちょっと厄介なものでね。

エイリーンお姉さまはあなたを守った時にダメージを受けてしまった。それで闇の魔力に浸食されはじめてるの。

そしてヤバくなったから、あなたを仕方なくそちらに逃がしたわけ」

「そ、そんな! なんで元のこっちの世界に!?」

「あなたはエイリーンと女神の契約を結んでいる。そのまま一緒にいたらお姉さまの浸食があなたにも影響を与えていた。

だから影響がないようそっちの世界に送った。……たぶんそんなとこでしょうね」

エルドリーンは淡々と告げる。

最後にコウルは一番大事なことを聞いた。

「それで今エイリーンは……!?」

「……なんとか浸食に耐えているようだけどそろそろ限界かしらね」

「っ……!」

コウルはそれを聞くと叫んだ。

「エルドリーンさん、そっちに戻る方法は!?」

「来る気? 聞いてなかったの、今こっちに来たらあなたにも影響が出るわよ」

「それでも!」

そうそれでも、コウルにはエイリーンを見捨てることなどできなかった。

「はあ、わかったわ。戻る方法、簡単よ。私がこっちから魔力で歪みを作るからそこに飛び込んで」

「うん!」

その声に合わせて、光が広がり、異世界エイナールへつながる歪みが広がる。

コウルはそれを確認すると飛び込む前に――。

「鈴花さん、ここまでありがとう。僕、行くね」

そう言って飛び込もうとした時だった。コウルの腕が掴まれる。

「鈴花……さん……?」

「私も……一緒に行っていいですか」

鈴花のその一言にコウルは驚いた。

「でも、そのめったなことがない限り、こっちには戻れないよ?」

「構いません」

鈴花の目は真面目にコウルを見つめる。それを見てコウルも覚悟を決めた。

「行くよ。しっかり捕まって!」

コウルはそう言って鈴花の手を掴むと、開いている歪みに飛び込んだ。
コウルと鈴花、いや『リンカ』は、異世界エイナールの平原に降り立つ。

降り立ったその時だった。

「ぐっ!?」

コウルに何とも言えない苦しみが走る。油断してると意識がなくなりそうな苦しみが。

「だから言ったでしょう。あなたにも影響が出るって」

エルドリーンが呆れながら現れる。

コウルは苦笑いを浮かべながらも、立て直すと聞いた。

「エイリーンは?」

エルドリーンは近くの森を指した。ついでのようにコウルに剣を投げる。

「ありがとう」

礼を言うとコウルはふらつきながら、森へ向かう。

それをリンカは横から支え一緒に歩く。

「なんか増えてるし……」

エルドリーンはリンカを見つつ、結局二人についていく。

森は深い闇に覆われていた。

森が元からこうなのか、エイリーンに浸食している闇の魔力の影響なのかはわからない。

そんな闇の森をコウルは迷わず進んでいく。

「道はあっているのですか?」

リンカの言葉に頷きながら、コウルは歩を急がせる。

そして――。

「はあ……はあ……」

その先の一角に、一人苦しそうに闇を押さえるエイリーンの姿があった。

「エイリーン」

コウルは自身もふら付きながらエイリーンに近づく。

「コウル……どうして……戻ってきたんですか」

エイリーンが苦しそうに呟く。

「向こうの世界にいてくれれば……あなたは平気だったのに」

「馬鹿なことを言わないで、エイリーン」

ゆっくり近づきながらコウルは言葉を続ける。

「そんなことしてもダメだ。僕にはエイリーンが必要だ」

エイリーンが首を横に振る。

「ダメなんですコウル。今のわたしは闇の魔力に侵されている。暴走してしまうんです」

「それがどうしたの」

コウルはさらに語る。

「それを抑えるのにも協力する。僕たちはそれくらい乗り越えられる」

「でも……もう……!」

エイリーンが闇に包まれながら剣を抜く。

「抑え……られない!」

エイリーンが突撃してくる。

コウルは剣を抜きそれを防ぐ。そして――

「エイリーン!」

コウルは剣を弾くとエイリーンを抱き寄せた。

「そんなことしたら!」

エルドリーンが叫ぶ。

エイリーンを抱き寄せたコウルに、エイリーンが抑えていた闇の魔力が流れていく。

「ぐうぅ……」

「いけない。コウル、離れて――」

「離れない!」

コウルは顔をエイリーンに向ける。その顔は闇の魔力を受けながらも、綺麗な微笑みだった。

「大丈夫。僕は大丈夫だから。そして、こんなになるまで気が付かなくてごめん」

それを聞くとエイリーンは涙を浮かべた。

「いいんです、コウル。黙っていたのは私ですから。でもこのままだとこの魔力が……」

「聞いて。エイリーン。確かにこの闇の魔力は強大だ。最初は苦しかった。

でも思ったんだ。闇は誰だって持ってるものだって。

カーズみたいなのは極端だけど、僕にだって元の世界での嫌なこととかを考えると暗いことを考えることがある。

闇は絶対悪じゃないんだ。この魔力もなんとか受け入れればいいんだよ」

「受け……入れる……?」

それはエイリーンにはない考えだった。

女邪神のエルドリーンと違い、エイリーンは純粋な正の女神。

光と闇は決して交わらないと思っていたから。

「それだよ」

エイリーンの思いを読みコウルは答える。

「光のエイリーンかもしれないけど、エルドリーンさんという闇とも姉妹だ。

エイリーンがこの闇の魔力を受け入れても問題ないと思うよ」

その答えにエイリーンはエルドリーンを見る。

「そうよ。私という存在と姉妹なのにお姉さまは何を今更闇の魔力の扱いに苦労してるの。

さっさと何とかして元のお姉さまに戻りなさい、まったく」

「エルドリーン……」

呆れて顔を振るエルドリーン。それを見るとエイリーンも思いを決めた。

「わかりました。コウル、力を貸してください」

「うん」

コウルとエイリーンが集中すると、膨大な闇の魔力が二人の中に入っていく。

「う、言っておいてなんだけど、やっぱり結構キツイね……」

「それだけの量ですから……」

苦しむ二人に近づくエルドリーン、ではなく。

「わたしも、協力させてください」

「リンカさん!?」

「あなたは? ……いえ、後にしましょう。協力してくださるなら、コウルと私に手を触れてください」

言われた通りリンカは二人に手を触れる。二人への闇の魔力が三人に分割される。

「そして。お姉さまはまず私に言えばいいのよ」

さらにエルドリーンが加わり四分割された闇の魔力は、ゆっくりと次第に落ち着き、四人の中に入っていった。

「ふう……。終わった、かな?」

「はい。ありがとうございます。コウル、エルドリーン。そしてそちらの……」

「リンカです。よろしくお願いします」

「こちらこそ。リンカさん」

二人は互いに礼をする。

(やっぱり、なんか似てるなあ)

こっそりコウルはそう思った。

「でも、もうほんとにこんなことはなしだよ。エイリーン」

「はい、わかっています、コウル」

これで一件落着……。

「ところでコウル。あのリンカさんという方とはどういう関係ですか?」

エイリーンが突然聞いた。

「え? 元の世界のクラスメートだけど」

それを聞くとエイリーンはほっとした。

「私はコウル君のこと、気になってますよ」

「「「えっ」」」

リンカの発言に、コウル、エイリーン、そしてエルドリーンも驚きの声が出る。

「そ、それはどういう意味ですか!?」

エイリーンが慌てて問う。

「フフ、そういう意味です」

リンカは意味深な笑みを浮かべると、コウルを見る。

「え、えっと」

コウルも嬉しいやらよくわからない。

「おほん!」

エルドリーンが大きく咳ばらいをする。

「とにかく一件落着ね。お姉さま、この魔力については引き続き調査しておくわ」

「お願いします。エルドリーン」

エルドリーンは頷くと、飛び立っていく。

「じゃあ僕たちも旅に戻ろうか」

「はい」

「よろしくお願いします」

エイリーンがリンカを見る。

「ついてくるんですか?」

「ほかにどこに行くんです? 私ここ初めてなのに、一人置いていくんですか」

「ま、まあまあ、いいじゃないエイリーン。ね?」

エイリーンは渋々頷く。

こうして三人になって旅は続いていくことになる。

しばらくの間のことである。
神の塔の一室。

そこでエルドリーンは映像を見ていた。

「私や姉さまが見落としていたなんてね……」

そこに映るひとつの村。そこに立つ、膨大な闇の魔力を持つ男。

「この闇の魔力、間違いなくあれと同じ。そしてこれは……」

エルドリーンは手に持つ絵を見つめる。

「これはまた大事を見落としていたわね……。お姉さまたちに報告しておきましょう」

エルドリーンは神の塔を飛び立ち、コウル達の元へ向かう。


これがコウル達の次の物語へと繋がる――。
とある森の中、剣の一閃が放たれる。

その一閃はモンスターを切り飛ばし木に叩きつけた。

青年、いや少年とも呼べる人物は、自分ほど大きいその大剣を背負いつつ、モンスターを引きずりながら森を抜けていく。

森の奥の小さな村。少年はそこに向かっていく。



「ほら」

村につくと少年は、モンスターの死体を見せるように投げる。

それを見た村人たちは「おお」と驚きの声を上げた。

「あ、ありがとうございます。討伐していただけるとは」

村長が少年に微笑みながら話しかける。少年は一瞬照れた様な表情を浮かべるがすぐに表情を戻すと。

「……依頼だ。報酬が貰えればそれでいい」

そっと村長から目を逸らした。

「そうですか。ではこちらを」

村長から袋にいくらか入った硬貨を受け取ると、少年は立ち去ろうとする。

「お待ちください。もしよろしければもう一つお願いがあるのですが……」

村長が少年を止める。それに少年が振り向くと、村長の後ろから別の老人が近づいてきていた。

「メ、メル様はワシが! ぐううっ」

老人は腰を擦りながら苦しむ。

「あれは?」

少年は村長に問う。

「彼は『ジライ』さん。君と同じく旅人らしいのだが……」

村長は老人ジライを見る。ジライも村長を見ると大声を上げた。

「こんな小僧に頼らなくても、ワシ一人でメル様を助けれるわ! ……アタタ」

村長はやれやれと首を振る。

「なんでも連れの少女をモンスターにさらわれたとかで。自分一人で助けに行くと言ってはいるがあの通りというわけです」

「そうか……」

少年はジライに近づく。

「爺さん、その子の救出、俺が引き受けよう」

「いいと言っておるじゃろ! それに――」

ジライは少しバツが悪そうな表情をする。

「――依頼するほど金もないわい」

その答えに少年は苦笑した。

「報酬はさっきの村長の報酬でまけてやる」

「ぬ。ぐううっ。わかったわ小僧! ……メル様を頼む」

「ああ」

ジライは折れ、少年に少女救出を託す。

少年はジライにいくつか質問をし、村を出発しようとした。

「待て小僧。お主、名は?」

その時、少年は自身がまだ名乗っていないことに気づいた。

少年のような背丈と顔でありながら、巨大な剣を背負い、漆黒の鎧を身にまとった少年。その名は――

「俺は『クロン』だ」


これは少年クロンと一人の少女の物語。

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