「……気付いていたの?」

ベッドに横たわったユウリさんが、呟く。

「僕は、疑り深いんです」

その横、ユウリさんに背を向けて腰かけた僕は、答える。

「あなたがポーチの中身をちらっとでも見せたのは、なんでだろうって、ずっと考えていました。わざわざ凶器がここにあると示したのかもしれない、それはどうしてだろうって。でも、あると見せておいたナイフの下に拳銃を隠しているとは、取り出されるまで、気が付きませんでした」
「……じゃあ、仕込みは成功してたってことね。誤算は、あなたの、身体能力」
「いやあ、ギリギリでしたよ。さすがに、銃弾を百パーセント狙って避けられはしませんから」

素晴らしいマッチングだった。
確かに、これ以上ない相手だった。
殺し屋向けマッチングアプリ『Killer Killer』の評価は、正しかった。
こんな素敵な相手と巡り合わせてくれ、殺し合わせてくれるなんて。

対等の相手でないと、愛せない。
命のやり取りをし合える人でないと、気持ちが燃え上がらない。
そんな僕にとって、そしておそらく同類であろうユウリさんにとって。
『Killer Killer』はまさに、救いの手のような存在だ。

「わざわざ服を脱いで見せたのも、巧妙でしたね。上着の下にも武器が隠してあると、当然思い込んでいたので」
「そう……あえて隠し武器はないと示して、ポーチから取り出す、それはナイフ、と……誤認を集中させるようにってね」
「事前準備が楽しいってお話どおりだなって。……でも、念入りすぎて、おかしいな、誘導されているかもしれないなって、頭の片隅に残っていたんです。本当に、それだけの差でした」
「そう……嬉しいな。やっぱり、あなたは私の『運命の人』だった……」

ユウリさんの言葉は、そこで途絶えた。

キラキラと輝くような、素晴らしい出逢いだった。
初対面どうし、引き合わされて話をして、それでこんなに素敵な、紙一重の殺し合いのひとときを持てるなんて。
幸せな時間が一日だけで終わってしまったのが、とても悲しい。でも、自分の性癖ゆえのことだから、仕方ない。
それに、きっとまた『Killer Killer』が、素晴らしい『運命の人』を見繕ってくれるに違いない。
また、マッチングの時を待とう。
「好みのタイプ:自分を殺してくれる人」が現れる、その日まで。