色々と先の事を考えると少し不安になるのだが、まぁ考えても仕方ない。
 今は前に向かって進むのみ。
 俺は地図を片手にヴィルヘルミナ帝国に向かって歩き出した。

『はははっ! この琥珀様を捕まえる事は誰もできないでちー!」
「わりぇ! わりぇ!」
『キャウ! キャウ!』

 琥珀がマントを首に巻き、稲荷達から逃げ回っている。
 怪盗琥珀ごっこと言う遊びらしい。
 何だその遊びは。

 俺が琥珀達を横目に歩いていると。

『……乱道様。この先で悲鳴が聞こえます』
「なっ? 本当か我路!」
『間違い無いですね。この街道を北西の方角に、五キロ程進んだ辺りでしょうか?』

 我路が北西に向かって真っ直ぐ指をさす。

『どうしますか? このまま進むと出くわす事になりますが。森に入り回避しますか? それとも助けに行きますか?』

 我路が、無視するか助けるかどうする? と聞いてきた。

 俺は別にお人好しでも何でもねーが……流石に聞いちまうと、無視するのは夢見が悪りい。

「……助けるよ!」
『了解です。では急ぎましょう』

 我路が先導してくれる後を、俺はついて行く。

「らんちゃ!」

 それにいち早く気付いた稲荷が、俺の背中に飛び乗ってきた。すばしっこい狐だ。

『む? らんどーちゃま!? 急にどうしたでち?』
『キャウウン』

 その後をわちゃわちゃと戯れながら、琥珀と銀狼が付いてくる。
 危機感の無い奴らだぜ……全く。




 現場に到着すると……その惨状の酷さに息を呑む。

「……これは、酷いな」

 我路の言っていた通り、五キロ走った先で馬車が横転しその馬車を守るように人と魔物が争っている。
 …………馬車の中に人が倒れている? それを守っているのか?
 中にいるのは……女か? 獣人の?

 そんな中、最後まで戦っていた人が倒れた。もうマトモに立っている人は居ない。
 みな虫の息だ。
 魔物たちが馬車へと近付いていく。

『さぁ乱道様。私を使う練習ですよ?』

 我路が日本刀の姿に変身した。
 この力……加減を間違えると、後でとんでもない事になるからな。
 前みたいに倒れないようにしないと。

「行くぞ!」

 俺は我路を握りしめ、馬車に向かって走っていく。
 近付くと魔物の姿形が良く見えてきた。
 あれは緑色の魔物……確かオークと言ったか? それが五……六匹。

 それに大きなツノの生えた魔物が一匹か。あいつがボスっぽいな。

「……よしっ」

 俺は我路を抜刀した。
 たちまち反り返った細身の刀身が冷たく光り、獲物を捕らえて離さない。
 いつでも狩れると輝きを増していく。


 前は我路に振り回されているだけだったが、今回は自分で動いてみる。
 それが分かっているのか、我路も前回の時のように勝手に動いてはくれない。

 剣先をオークに向けると、瞬時に懐に入り込み腹を一太刀で掻き切った。

「なっ……だんだこの感触は。空気を斬ったみたいだ!」

 思わず声を出し驚いていると。

『ふふっ何を今更? 私の力をみくびって貰っては困りますね』

 我路がさっさと片付けろとでも言ってるかの様に、剣先から闘気が溢れ出る。
 この前の時のように、闘気を纏い刀身が何倍もの長さへと変化する。

「……力が」

 我路の力が体中を巡っているのがわかる。
 指先から掌に力を集中させ、俺は右脚に力を入れ強く踏み込んだ。

 次の瞬間。

 長くなった刀身を、横から真一文字に薙ぎ払った。

「へっ!?」

 カチリっと音を立て、我路の刀身が鞘に戻ると同時に。

 全ての魔物の体が真っ二つに綺麗に切られ、上半身がズズズっと地面へと崩れ落ちた。

 あれ? ボスっぽい奴も一緒に倒しちまったのか?

『ふふ見事な刀捌きでしたよ?』

 人型に戻った我路が誉めてくれるが、これは後の反動がやばい様な気がする。

「…………あのぅ」

 馬車に隠れて見ていた獣人が、恐る恐る近づいてきた。

「あなた方が私達を……!?」

 大きな長い耳が二つ……コイツはウサギ獣人か?
 
「……私はキャロと言います。助けて頂き有難う御座います」

 キャロが大きな耳を揺らせながら、頭を深々と下げる。

「ああ……気にするな。俺は乱道だぁ!?」

 握手しようと手を伸ばしたまま、俺は膝から崩れ落ちた。

 これは……またか。

 やっぱりな……力を使い過ぎたと思ったんだよな。

 

 ———などと考えながら俺は意識を手放した。