『対象:島野大和。トノ完全融合。ヲ。確認。此レニヨリ。天空の破片の人格を起動。マデ。三・ニ・一・完了。ヨウコソ。天釣ノ執事。ワーレン・シャール・ロッドマン』
無機質な声がそう言うと、俺の右手の棒きれがかすかに動き、その後驚いたことに話し出す。
『ん……ここは……? ッ――またアナタ方ですか〝理〟!? 毎度まいど気高い私を勝手にコアに設定してからに! しかもこんな棒っきれに封じるとは、言語道断ですよ!!』
「な、なんだぁ? 棒が話したぞ?!」
『棒って言わないでください! とはいえ、ほぉ……私を持てるほどの釣り馬鹿ですか。私はワーレン・シャール――』
上から話す棒っきれに被せて話す。時間がないのだと。
「――ワーシャ! この際お前でいい、今すぐ釣らせろ! 人生最後の釣りが俺を呼んでいるッ!!」
『略さないでください! はぁ、またえらいド変態が今回の主ですか……よく分かりませんがいいでしょう。協力をいたしますよ』
「よっしゃ、そうこくてはな! それで〝理〟って言うのか? どうすればいいんだ?」
すると入口側の鳥居が消え失せ、その先に来た時に通った瑠璃色の池が見える。
『天空の破片ヘノ。入魂ガ。完了。此レニヨリ。釣具完全開放ト。ナリマシタ。【告】 対象:島野大和。ノ。死亡マデ。残リ。八十秒。質問ヘノ回答:池ノ。蒼ク。プラチナ色ノ魚。釣リ。食ウ。以上』
「ちょ、ちょっと待て! いくらなんでも一分ちょいで釣って食えってのか!?」
まずはルアーを糸に結束し、棒の質感を確かめながら釣る……。しかも魚がどこに居るかすらも分からない。
この状況でたった八十秒だと? 冗談じゃない、冗談じゃない、が。
「だからこそ人生最後の釣りとしての条件は完璧だッ!! 行くぞ棒っきれ、俺に力を貸せ!!」
『誰が棒ですか誰が!! とはいえ、その体で走りながら仕掛けを作るとは面白い』
無理だと分かりつつも、体が魚を求める。
高熱と激痛で意識が飛びそうになるが、それを凌駕する釣りへの執着。
超濃密に脳内を駆け巡るアドレナリンが痛みを吹き飛ばすが、進む度に手足が縮む感覚に襲われる。
だからなのか、先程祭壇にあった黄金のルアーを、ナイロン糸と結束しようとするがうまくいかない。
「クッ……うまく結束出来ねぇ。普通なら走りながらでも簡単にできるのに」
『無理もないですよ。貴方死にそうじゃないですか』
「だからそうなんだよ。でもな、死んでも釣ってやるのさ」
『生粋の変態デスネ。普通なら泣き叫びそうなものですがね』
棒きれのくせに呆れながら俺を嗤う。
生意気なやつだが、なぜか憎めない。そんな気がするやつだが、驚くことを言い出す。
『さて主よ。最初にして最後の奉公となりましょうか。まずはWSLを強く握りしめ、こう願ってください――〝神魚の疑似餌よ、我に力を示せ〟――と』
瞬間その意味がストンと頭へ落ちてくる。
どうしたらいいのかが棒より伝わり、そしてその意味を理解してルアーへと迷いなく口を開く。
「そう真っ赤な瞳で期待するなよ。大丈夫だ……もっと、ハデに、期待以上の面白さを魅せてやる! だから神魚の疑似餌よ俺に力を示せ!!」
硬質なルアーが、まるで生きているようにビクリと動くと、驚いたことに口が開き、ナイロンの糸を噛みしめる。
瞬間、ルアーと棒が一体となった感覚を感じ、その後に俺の体とも繋がった感覚になった。
「うぉ!? な、なんだこの感覚は。しかも糸とルアーが融合してるぞ!」
『ふふ、そうです。これが私と主のスキル〝人釣一体〟です。今の主ならルアーの半径十センチほどに、何があるのかが分かるはずです』
そう言われて初めて気がつく。
黄金のルアー周辺にある空気の密度が、右手から伝わりまるで触っているかのように感じた。
「これは凄いな。あぁ凄い……ふふ……フハハハッ、なんて最高のスキルだ! こんなルアーに目がついたようなもの、完全にチートすぎるぞ!」
『ぇ、いや。まだそこまでのモノでは無いはずですが』
「分かっていない、分かってないねぇ棒っきれ。魅せてやるよ、本当のアングラーってやつをな!!」
そう言いながら、瑠璃色の池のほとりへとたどり着き、池の中を鋭くにらむ。
すると複数いる魚の中に、一匹だけ妙に美しく蒼白銀色に輝く、神秘的な魚がいた。
「見つけたッ! アイツが俺の最後の獲物か!!」
池の中を泳ぐ、全長三十センチほどの蒼白銀の魚。
細身だが、身が引き締まり実に美味そうだと、熱で熱いのどを鳴らす。
『主よ、一つアドバイスを。ルアーをヤツの目前へ投げてはいけません。特にあの魚は特殊です。警戒し、二度と同じルアーを食うことはないでしょう』
棒っきれにそう言われ、その意味を理解する。警戒心の強い魚は一度でも恐怖を感じると、ルアーはむろん、生餌すら食べない。
特にあの獲物はそれが激しいらしく、恐怖を与えると二度と食わない。ならやる事は一つだ。
だから「了解だ、任せとけ」といいつつ、木の棒を強く握りしめ「行ってこおおおおい!!」と黄金のルアーを放り投げる。
ピッチングと呼ばれる手法でルアーを左手に持ち、棒っきれを下に向けて、振り払うようにルアーをキャストする。
低弾道で伸びながら、蒼白銀の魚へ向けて飛んでいく黄金のルアー。
やがてヤツの目前に着水した事で、棒っきれが声を張り上げる。
『ッ!? な、何をしているのですか貴方は!! もう二度とあの魚は食いませんよ!!』
そう棒っきれが叫ぶと同時に、〝理〟が無情にカウントダウンを始める。
どうやら残り四十秒らしいが、それだけあれば十分だ。
さらにルアーを激しく動かし、水面を波立たせた。
「大丈夫だ問題ない」
『何を言っているのです! ヤツ意外の魚も全て散ってしまったではないですか!!』
「そう、そこが狙い目だ……いいか、棒っきれ。魚の習性を見極めろ。こんなふうに、な?」
棒っきれを小刻みにシェイクし、蒼白銀の魚の横へと誘導させる。
当然ヤツはそれを捕食するどころか、距離が離れてしまう。
『ほら、もう興味が無くなった! 捕食する気がないのですよ!』
「だろうな……が、コイツならどうだ?」
『何を言って――ッ、まさか!?』
棒っきれが驚くと同時に、蒼白銀の魚がルアーへと突進してきた。
それを棒っきれを動かして躱し、さらに水深が浅い場所へとルアーを誘導。
そこにある岩の裏側へとルアーを潜らせて、そのまま待機させ静かに沈ませる。
「そう、そのまさかだ……蒼白銀の魚は極度の臆病であると同時に、その習性は守りにある。こいつは縄張り意識がとてつもなく強い。だからその石の周辺だけ、他の魚が寄って来なかったのさ」
ひと目見た時から分かった。あの独特な動きは、縄張り意識が強い鮎にそっくりだった。
だから俺は賭けた。ルアーを食わせるには、何投か投げなくてはいけないこともある。
それではタイムオーバーだ。だからヤツの闘争本能に賭けた。つまりヤツの縄張りに入った魚を追い出す習性に。
「水圧の変化を感じる……近づいて来ている……あと一メートル……三十センチ……射程内……ニ、一、フィィィィッシュッ!!」
ここから見れば岩の裏だが、棒っきれのスキル〝人釣一体〟で水圧の変化を感じ、さらに蒼白銀の魚がルアーへとアタックした瞬間を感じ、同時に透明な針をヤツのアゴ先へと突き刺す。
これまで感じたことのないルアーから伝わる振動と、蒼白銀の魚の動きが手に取るほどに分かる感覚に驚く。
「くああああッ! なんつぅ引きだよ! あの魚体でこの引きとか異状すぎるぞ!?」
『た、たしかにおかしいです。この引きはメーターオーバーの大物クラスですぞ!?』
「もう少し棒っきれに粘りがあればあああッ!」
ほぼ曲がらない棒っきれのスペック。それは仕方ない、ただの棒なのだから。
カウントダウンも残り三十秒をきった。焦りがもれるが、棒っきれが鋭く叫ぶ。
『主よ! 今の貴方の目には棒に視えるかも知れません。が、私は貴方の半身だと言うことをお忘れなく!!』
「そうだったな。もうお前が俺の一部だと言うのは分かる」
〝理〟に無理やり融合させられた時から分かる。
この棒っきれは俺の相棒なのだと。だからこそ信じる、コイツがWSLであると。
「あぁ分かった、おまえを信じる。どうすればいい?」
『強く、強く、念じるのです。主の理想どおりのWSLの姿を!』
短く「分かった」と応え、棒っきれに意識を集中する。
ギシギシと苦しそうに悲鳴をあげる棒っきれ。そうコイツはただの棒だ、が、俺には分かる。
コイツは曲がるのだとハッキリと理解し、そのイメージどおりに棒っきれを曲げた。
ふつうなら長さ一メートル五十センチほどで、直径一センチもない棒なんて、こんな無理な角度をつけて引っ張れば確実に折れる。
だから緩やかに角度をつけて、蒼白銀の魚とバトルした。
しかし予想外の引きと暴れっぷりに、正直無理だと思いかけたが、棒っきれの言葉で俺は覚悟を決める。そう、ぶち折ってやる覚悟で曲げてやると。
「ヴチ曲がれええええ!!」
そう強く念じながら、持ちて部分から弓形に曲げるイメージで棒っきれを立てる。
一瞬〝ビシッ〟と硬質な物にヒビがはいった音がし、しまったと思った瞬間。
『主ためらってはいけません! そのまま竿を立てて思いっきり引き抜くのです!!』
「わかったあああ! ぶっこ抜けろおおおおおおお!!」
右足を前に滑り出し、左足を後ろへと下げて重心を後ろへとかたむけ吠える。
するとあれほど硬質だった棒っきれが、徐々に曲がっていき、まるでWSLが手元にあると錯覚するほどに美しい曲線を描く。
「美っつくしぃぃ曲がりだ!! 最ッッ高だろおまえ!!」
『お褒めにあづかり恐悦至極』
「ならあとは!?」
『そう、主が釣るだけです!!』
「魅せてやるよ、これが本当の釣り人だって事をな……出てこい蒼白銀の魚! ウオオオオオッ!!」
一気に棒っきれに力を込めて、斜めへとのけぞりながら右後ろへ棒っきれを背負うように引き抜く。
と、同時にカウントダウンが残り十五秒をきり、水面が弾け飛ぶ。
そこから現れた蒼白銀の魚が水面へしがみつくように抜け出て、放物線を描きながらこちらへと飛んでくる。
おもわず棒っきれと声が重なり『「やったッ!!」』と叫んだ次の瞬間、ありえないモノを見て『「え゛?!」』とまた声が重なる。
ありえないモノ……その姿は水の中に居てはいけない生物。
そいつが「うわあ~!?」とマヌケな声を出しながら、蒼白銀の魚の後ろから飛んできた。
「な、なんで子狐が釣れたんだ!?」
『し、知りませんよ! 私が神竿だとはいえ、どうしてあんなケモノまで?!』
呆然としていると、メインだった蒼白銀の魚が顔にべちょりと当たり、その後同じ色をした子狐が顔面へと降ってきた。
「あべッ!? ぺぺ、なんだおまえは?!」
「んあ~? ひどい目にあったワン。って、ここどこぉ?」
「俺が聞きたいんだワン。教えてくれ」
『主! 時間がありませんぞ!!』
ったく、〝理〟ってやつは、心が非常で無情で氷で出来ているのか?
そう思えるほど、ヤツらは遠慮なくカウントダウンをすすめる。
『残り:十一秒。十秒』
『主! 今すぐ蒼白銀の魚を!!』
「そ、そうは言ってもどうやって食うんだよ。鱗もあるしさぁ」
水中に居た時は、ウロコも小さく簡単に食べれるきがした。
しかし釣ってみたら意外とウロコが厚く、かじりつく事も難しそうだ。
それを察した棒っきれは、「ぐぅ……」と言葉を詰まらせるが、意外な所から声がした。
「んぁ? おまえ蘇生魚を食べたいんだワン? ならちょうど良かったワンよ。ワレも蘇生魚を食べるために釣りをしていたんだワン」
そう言うと、青白い子狐は右の前足を数回動かすと、驚くことに蒼白銀の魚が三枚におろされた。
しかもご丁寧に厚さ一センチほどの切り身になっており、なぜか塩らしきものまである。
「ワレは藻塩で食べるのが好みだワン。ほれぇ、おまえも食ってみるんだワン」
突然の事態に驚くが、まずは「サンキュー子狐!」と言いながら、白銀色に輝く見たこともない刺し身へとかぶりつく。
右手で文字通り白銀色に輝く、刺し身をつかみ、それを勢いよく口の中へ放り込む。
「な、んだ……これは?!」
口に入れた瞬間、複雑な旨味が三つ口の中へと広がる。
まずは驚くことに奥歯が、熟成四日目の白身魚の旨味を感じるという、意味のわからない感覚で驚く。
さらに旨味は広がり、舌の上で白身から溶け出たタンパクな油の旨味を感じ、のどの奥へ行く頃には強烈だが、自然に生成されたアミノ酸の塊ともいうべき衝撃が食道を通過し、胃の中まで落ちるのを感じるほどに旨い。旨すぎる。極上だ!
「最高すぎる!! 塩もくれ!!」
「ほれぇ~ちょっとだけ付けて食べるんだワンよ?」
ちょっぴり藻塩を付ける。一瞬白身が輝きがまし、さらに白身自体からなんとも言えない香が立ち上る。
そう、これはあの川魚。俺の中では最高の四万十川で釣った鮎と同等……いや、そんな表現すらおいつかないほどに、澄んだ夏の川の香りが体中にしみ見込んだ瞬間それはおこる。
「ぐゥッ?! か、体が溶け――」
そう感じたと同時に、体が〝どしゃり〟と色々な水分とともに落ちた。
それが何かが分からなかったが、小狐と棒っきれが「「ぎゃあああ?!」」と言っていたので、多分そういう事なのだろう。
ふしぎと体に痛みは無く、ただ眠く感じるけど体が無い。そんな不思議な感覚と共に意識を手放す……。
◇◇◇
正直驚いた。主の力が未熟ゆえに、天空の破片たる私を使いこなせいのは当然。
それをあのような方法。しかもスキル・人釣一体を使いこなし、ルアーで蒼白銀の魚の闘争本能を刺激して、縄張り争いの結果釣り上げた。
そもそもあの魚がそういう習性があると、一発で見破るアングラーとしての特異な資質……おそるべし。
しかしそんな逸材だというのに、まさかこんな事になるとは……。
『主……ここまでになったらもう……』
見るも無惨な主の体。それを空中に浮きながら見ていると、忌々しい〝理〟が早速動き出す。
『対象:島野大和。ノ。死亡ヲ確認。ト。同時ニ。残リ時間内。ニ。クエスト達成ヲ確認。人体ヲ再構成。文殊システム。ニ。サポートを依頼』
『〝文殊Ⅰ:了〟 〝文殊Ⅱ:了〟 〝文殊Ⅲ:了〟 コレヨリ〝理〟ノ支援ヘ移行。聖生術。第七・第十・第十三術式展開』
〝理〟の一部たる文殊システムが、光の柱と共に天使の姿をして顕現。
その無駄に凝った中身のない演出にイラつきながらも、主の肉体に変化が在るのかを観察する。
どうやらうまくいったようで、三重の魔法結界の中に封じられた主は、空中へと浮き上がる。
『ソノママ。時間凍結。此レヨリ対象:島野大和。ノ。肉体ヲ完全改造。後。〝神釣り島〟ノ。正当所有者トシテ。〝理〟ニ。記載。デハ。作業。開始』
さらに天から緑と金色のオーロラが主を包み込み、そのまま内部は見えなくなってしまう。
『歯がゆいが見ているしか無いようですね』
「んぁ? ならおまえも食べるぅ?」
『いりませんよ。それより貴方はなんです? 子犬? いや子狐? まぁいいです、今はそれよりも……』
私となぞの生物は主の帰還を待つ。
しかしそれは、先程まで見て話して触れ合った人物と、二度と会えないという事でもあった。
◇◇◇
「なんだ……妙に体が楽になった……」
薄っすらとまぶたを開く。すると頭上から見えるたのは、木陰からこぼれる明かりであり、それが木漏れ日と理解するまで数十秒かかった。
「悪い夢でも見ていたのか俺は……?」
妙に体が楽だ。またそんなふうに思いながら上半身を起こす。
すると目の前にあったのは、瑠璃色の池であり、それが全てを思い起こさせた。
「現実……だったのか」
何とも言えない感覚と、奇妙な喪失感。それが何か分からずに周囲を見渡す。
「誰もいないのか? 棒っ切れも、〝理〟ってのも居ないし、あの変な生き物もいないのか?」
そう不思議に思っていると、もっとおかしなことに気がつく。
上半身をおこしているから景色が低いのは当然だけど、何かが違う。
「あれ? なんか低いぞ?」
なんとも言えない不思議な感覚。それに疑問を持ちながら、四つん這いになりながら目の前の池を覗き込む。
するとそこに――知らないヤツがいた。
「……? え、誰だこの子供は?」
瑠璃色の水面にうつる、蒼白銀の髪の色をした少年。
そいつが水中から俺を見ているのだが、なんだか様子が変だ。
「おい、水中に住んでいるのか? おーい?」
なんとなく右手を振ってみるが、向こうも同じように手を振り返す。
おかしい。どう考えても俺と行動が同調しすぎている。
だからフェイントで右手を振りつつ、左手で鼻の穴へと指を突っ込む。
「うぉ?! バカが居るぞ! って……まさかやっぱりコイツは……俺?」
恐る恐る顔を触ってみる。当然水面にうつるガキも同じく顔を触り、驚愕の表情をうかべる。
だから叫んだ。力の限り全力で「うっそだろおおおおおおおおお!!」と。
「な、なんだよこれ? どうして俺が十三歳位のガキになってるんだ!? しかも顔も少し美少年に変わっている気もするし、髪だってあの蒼白銀の魚と同じ色だ!」
思わず立ち上がり、体をあちこち触りまくる。
「うわ!? アレもコレもちっさい!! やっぱり良くて中学一年くらいだぞこれ!! 俺のアレとコレはどこにいったんだああああ!?」
がくりとヒザから崩れ落ち、無くした戦友との別れを悲しむ。
色々と世話になったアイツだけど、居なくなると寂しいものだ。
さめざめと悲しみが雫となり落ち、足元のコケがそれを吸収して輝きを増す。どうだうまいか、俺の悲しみが?
「さらば美中年。そしてこんにちわ美少年、か。一体何があったんだよ……そもそも俺は死んだはずじゃ?」
ぼぅっと空を見上げると、怪しげな鳥が怪音で叫んでいる。
やっぱりここは別世界なのかと思うと、若い相棒がキュっとして緊張が走る。
「怖ぁ~。やっぱり俺ってエサ扱いになるのかな」
そんな風に思っていると、背後から高めの声質な棒っ切れの声がし、見るとそれが浮いていた。
『主! 無事に目覚めたのですね! よかった、本当によかった……』
「あぁ~そのまぁ、心配かけてごめんな? つか、主? 俺が?」
『そうですとも。あの忌々しい〝理〟にそう設定されましたからね』
確かに俺は主と呼ばれる存在になったのだと、理屈以上に体で感じていた。
あの無くしたはずのWSLが、俺の体と一体となった感覚からそれが分かる。
だがその原因となった、謎の機械的に話す〝理〟という存在。
それが現れた後、急速に色々とすすんだからこそ、アイツらに対する疑問がわく。
「その〝理〟ってのは何だ? あの時は色々とあったから、聞く余裕も無かったよ」
『そうですね……一言で言ってしまえば、超自然現象そのものといった感じですか』
その後、棒っ切れの説明はつづく。
どうやら普通の存在じゃないらしく、何か特殊な条件がそろうと、何処からともなく現れて結果を押し付けるそうだ。
「特殊な条件? 俺がそれをしたって事か?」
『ええそうです。主がこの島――神釣り島へ来たことが一つ』
さらに説明は続く。どうやらあの金色の疑似餌を見つけた事と、それに触れて無事だった事が原因らしい。
通常は見ることはおろか、見えても触れることが不可能だし、何かの理由で間違って触れでもしたら命を落とすらしい。
『さらにイレギュラーな事態が起こったと、忌々しい〝理〟から説明がありました。それがあのゴッド・ルアーに触れた時に負った指の傷です』
「確かにそんな事を言っていた気がする……それでそいつが俺がこんなチンチクリンになった原因だってのか?」
『ええ。この神釣り島にある、特殊な病原菌に感染したらしく、一気に体が崩壊したようですね。ただ根本的な原因は、〝理〟が主の体をこの世界に馴染ませようと、何かをしていたんでしょう』
確かに今思えば恐ろしいほどに、体が内部から崩れていく感覚と痛み。そして強烈な飢えに似た乾きが俺を襲った。
棒っきれの話は続き、どうやらあのルアーを手に入れた事でこの島の所有者になったとの事。
勝手にきめるなと当然抗議するが、当の〝理〟がすでにいない。
「つまり俺の体が崩壊した原因ってのが、ココの所有者になるために、〝理〟の力で体に何か細工された。それが原因であんな事になった結果が今の体ってワケか?」
『そうです。主をこの世界に対応した体に作り変えていたはずですが、そこに風土病が悪さをした結果、異常な速さで死に至ったのでしょう。それがここまでの話ですね』
棒っ切れがいうように、本当に〝理〟という存在はろくでもないらしい。
そう思いながら、これまでの事に納得しつつ別の疑問が生まれた。
「そんな事があるのか……なぁ、うすうす感じていたが、ここは日本じゃないんだろう?」
『日本どころか天の川銀河内にある地球が、その中心から2万8000光年。3.26×106光年×(362㎞/秒÷67.8㎞/秒)=1.74×107光年の位置という意味でしたら違うといえますね』
「な、何を言っているのか分からねぇんですが?」
『ふぅ。仕方のない主ですね。まぁ有り体に言えば、ここは銀河系ですらない場所――異世界というやつですよ。文明レベルは地球より下ですが、機械文明ではなく魔法文明で成り立っています』
聞き捨てならないワードが聞こえた気がする。
魔法? あのズベズバーって指から出るアレか? だから静かに聞いてみる。
「……あの、さ。魔法ってあの魔法?」
『どの魔法かは存じませんが、多分その魔法です。見た目は石や木材で作られた建築が主ですが、魔法文明により、ある部分では地球より実に便利になっています。例えば――』
どうやらこの世界の住人は魔法という力により、繁栄しているという。
その中でも生活におけるものは便利であり、火や水はそれで賄えるらしい。マジカヨ。
『と、まぁ他にも色々ありますが、総合的にみて地球よりエネルギーという意味合いでは進んでいますかね。その中でも特に注目スべきは攻撃魔法と神聖魔法ですか』
さらに続く。魔法という存在は生活魔法にかぎらず狩りになどにも使われ、さらに魔物の討伐や戦争にも使われるのだと言う。
さらに癒やしという、俺が知っている言葉の意味を超えた、真の癒やしとして傷まで治るのだというから驚きだ。
「信じられない……いや、俺がこの体になっているんだ。魔法があっても不思議じゃないのか? いや、でも……」
『主の体はスペシャルです。この世界の魔法でも通常はそうはなりませんが、〝理〟による特殊改変の結果といえましょう』
なるほど理解した。あれだ……俺が小中学生みたいな見た目だから、コイツは俺が喜びそうな事を言っているに違いない。
だから言ってやった。右手を差し出し「ふざけるな!」と。
「いいか、俺は魔法なんかじゃ喜ばないぞ! 例えファイヤボールと唱えて、火が出ても嬉しくなんか無い! いいか俺は大人だ、それもプロの大人だ!!」
『なんですかプロの大人って。それが何かは知りませんが、とりあえず右手を出してこう唱えてください。ス釣タスと』
「ちょっと待てぃ。なんだよ〝ス釣タス〟って!? ステータスですらねぇのかよ!!」
『何がご不満なのです? これは主が泣いて喜ぶものですが』
絶対馬鹿にしているなコイツ。いいオッサンの俺が、そんな恥ずかしい事で喜ぶわけがねぇ。
ふん、いいだろう。俺が大人の余裕ってやつを、この駄棒に見せてやる。
「ハハハ、いいだろう。どこに目がある分からないが、よっくと目を開けて見とけよ? ス釣タス!! どうだこれ……で納得し……た……うおおおおおスッゲエエエエ!! マジかよ最高か!?」
すみませんでした。私が悪うございました。だってコレ凄すぎなんですもの。
一度俺が死ぬ前に味わった、最後に釣った蒼白銀の魚とのファイトが映像として記録されていた。
そう、釣りチューバーがアクションカメラで、手元を撮影しているアングルと、それを離れた場所から撮影している感じ。
さらに驚いたのが、水中でのバトルの様子まで完璧に映してあり、脱帽すぎて草も生えん。
「うわ~!? カッコイイ~俺すっげぇ!! ここなんかマジで惚れる! すごくない? ねぇ、すごくない??」
『お、落ち着いてください主。映像は逃げたりしませんから!』
落ち着け? 馬鹿をいえ! これが落ち着いていられるかよ。
見てみろ、俺のこの勇姿を! 特に「フィィィィッシュ!」と、魚を針にかけた瞬間は最高にクールすぎる。激アツだッ!!
「DVDに保存したいからデッキをくれ」
『せめてブルーレイにしたほうがよいかと。そもそもそんな事する必要ありませんよ。ハァ~なんて主に仕えることなったのか……』
「確かにいつでも見れるからいっか。今更だけど、俺は地球へ帰れるのか?」
『本当に今更ですね。この神釣り島の封印を解いた以上、もう帰れませんし、帰っても今の主を見て、誰が元の釣り馬鹿の変態中年と思いますか?』
何か失礼な事を言われた気がするが、もう一度再生をしている最中だったから、気分がいいので許すことにした。
『それに主は向こうの世界で思い残した事はないのでは? ここに連れて来られたという事は、そういうしがらみよりも、釣りという生き方を選んだという事でしょう?』
確かに言われてみればそうだ。向こうで友人知人はいたが、家で待ってる家族は誰もいない。
だったらこの島で釣り生活も悪くない。そんな気分にさせられる。
唯一の心残りは、山爺の手紙を活かしきれなかった事を、彼に謝れなかったことくらいか……。
だから「そう、だなぁ」と言いながら瑠璃色の池を見つめた。
その時だ。若い体がアレを欲する事で、ついに自覚してしまう。
「は、腹へったぁ。何か食べるものはない?」
『主が目覚めるまで、この島を探索して来ましたが、それなりにあります。まず目の前の池に泳ぐ魚ですかね』
「この池の魚か……今更ながら思うけどさ、この池の色ヤバくない?」
『見た目が瑠璃色ですからねぇ』
紫がつよい青い水をたたえ、静かに池の水はそよ風を水面にうける。
よく見れば泳ぐ魚も特徴的で、淡水魚なのに赤や青。そして黄色までならまだしも、薄く緑色に発光しているのまでいる。
「食用に向いてなさそうなのもいるぞ? 住んでるやつらもヤバイよな」
『とはいえ、ちゃんと食用として食べれますよ? まして今はこちらの世界に体が適応していますので、どれを食べてもいけるはずです』
そう思っていると水面が勢いよく弾け、中から青白い何かが飛び出してきた。
「そうだワン! どれを食べても美味しいんだワンよ~」
飛び出してきた何か。それはあの子狐みたいだが、話す変な生き物であり、そいつが発光する魚をくわえて足元へとやって来た。
「お、おまえはあの時の変な子狐!? なのか? いや、犬?」
「む? ワレは、えら~いキツネの王様なんだワン! 失礼な人間だワンねぇ~」
『また来たのですか駄犬。シッシ、あっちへおいきなさい』
「んぁ~失礼な棒っ切れだワンねぇ」
なぜかじゃれている二人? だったが、思い出せばどうにも不思議なことがあった。
それはあの蒼白銀の魚の重さだ。いくら引きがいいとはいえ、アレは異常だったのだから。
「なぁワンコくん。さっきお前さ、蒼白銀の魚を蘇生魚って言って、そいつを釣っていたって言っていたよな?」
「ワンコじゃないんだワン。わん太郎って言うんだワンよ!」
「やっぱり犬じゃねぇか」
「ち、違うんだワン! あれは恐ろしい傾国の女狐に名付けられて、仕方なくこんな名前に……」
そういうと、わん太郎と名乗る変な青白いモフモフな子狐? はホロリと涙を流す。
よく見ると見た目は結構カワイイ。胴体だけなら三十センチほどで、もふっとした尻尾までふくめると四十センチほどか。
体毛は俺の髪と似た色合いだけど、こいつの方が若干うすい蒼とプラチナ色だ。
「女狐? まぁいいや。それで蘇生魚ってなんだよ?」
そう聞いてみると、わん太郎は得意げに二本立ちになって、小さな胸を〝ぽむり〟と叩きむせる。
「けほっ。ふふん、蘇生魚を知らないのかワン? あれは毒魚だワンよ。食べたら最後、死ぬかずっと生きているんだワン」
『私は色々な魚を知っていますが、そんな魚は聞いたことがないですね』
釣り竿のくせに知らないとは職務怠慢すぎる。フィッシュ君さんなら即答ものだろう。
とはいえ、そう棒っ切れがいうので、同じく頷きながらそれを聞く。
「まぁ死んだし、それは分かるけどさ。お前は何ともないじゃんよ」
「これだから無知な人間には困ったワンね。ワレの毛並みを見てみるがいいワン」
「うん、たしかにあの魚と同じ色だ」
「そうだワン! 蘇生魚を食べると、ワレの力が上がるんだワン。だからワレは異怪骨董屋さんの店内から、ここの魚を釣っていたんだワンよ~」
釣っていた? まて、ちょっと待て。じゃあなにか、あの強烈な引き
はこの駄犬のせいだったのか!?
「って事は、お前は後ろから蘇生魚を釣ってたのかよ!?」
「そうだワン。異次元池に釣り糸をたらしていたの。そしたら凄い勢いでひっぱられちゃってね、おかげで知らない場所へ転移しちゃったワンよ~」
「わん太郎のせいで釣るのに苦労したのか……つか、異怪骨董やさん? どっかの釣り堀か?」
「ん~? まぁ~? そんな感じなんだワン? それよりワレはお腹がへったからして、この魚を食べるんだワン。大和も一緒にたべ――」
「――ゴチになります!!」
「そ、即答だワンねぇ」
だってお腹がすいているんですもの。腹減りの民ですもの。
そんな事を思っていると、木の棒が『主……ケモノに食事をたかるなどと』と声が聞こえた気がするが、木の棒が話すワケがないし、きっと怪奇現象にちがいない。ウン。
「じゃぁ見ていて~。ほれぇ凍り付けぇ~」
わん太郎は、かわいらしい前足で〝ぽむり〟と魚を触ると同時に、またしても三枚におろしてしまう。
さらに徐々に凍りついていき、半分凍った感じになってしまった。
「はっくしょいッ!! うぉ、なんだか寒いぞ」
ブルっと寒さを感じてクシャミをして震える。その理由が目の前があった。
子狐のわん太郎が氷の塊みたくなっており、そこから冷気がこちらへと流れてくる。
まるで一月十三日の北緯四五度三一分二二秒、宗谷岬の突端に立った時に感じた寒さと同じ……いや、それ以上に極寒を感じて体が本能的に震えてしまう。
「な、なんで凍っているんだよ! それにその力は何だ!?」
「んあ? あぁワレは氷の力が得意だからして、ちょっとだけ周りが寒くなるんだワン」
ちょっとだけ? そのわりには、すっごく寒い。と言うか、話せるし変な力あるし不思議な子狐だよな。
「異世界ってスゲェ……」
「このくらいは普通だワンよ。でもねぇ~大和の格好をみると、それは寒いと思うんだワンよ」
「寒い? なんでだよ。ここは南国の島だぜ?」
そう疑問の思っていると、棒っ切れが何やら言い出す。
『主よ、原因はその格好にあるのでは?』
その格好? あぁ、それはそうだろう。
俺はハイブランドの品に身を包み、どちらかと言えば機能性より見た目を優先する。
つまり薄手のシルクのシャツを着ているのだから。が、でもやっぱり寒い。
そんな俺の足元をくるりと一周した、わん太郎が不思議そうに話す。
「んぁ~、ねぇ大和。ここは南国の島だワン」
「ん、まぁそうね?」
「でもねぇ、いくら子供の体とはいえ、ふるてぃんはヤバイと思うんだワンよ」
何のことかわからない。そう、俺は大人のナイス☆ガイのはず。
そんなファッションリーダーの俺だ。釣り場で山爺に「磯場はファッションショーじゃねぇ」と言われ続けた俺が、だ。
だから言ってやる。ポケットに小粋に右手を突っ込んで、誰がふるてぃんだと厳しく言って――。
「――むにっと握っただとおおおお!?」
『エア衣服の練習ですか? 新しい性癖の獲得おめでとうございます』
「そんな性癖いらんわ!! って……そうだった。さっき池をのぞいた時に裸だったのを思い出した……」
驚愕にうち震え、そっと前をかくしてみる。
右手でなんとかなる事実に、しっとりと涙をながしつつ「俺のハイブランドの服はどこー!?」と叫んでみた、が。
「んぁ? あれはもぅ溶けちゃったんだワンよ。大和が子供になった時に、〝理〟がとかしちゃったんだワン」
「なにしてくれてんのよ、あの変質者どもは!?」
信じられん。シン・ヤマトに改造され、イケオジボディを失ったばかりか、オキニの服まで消え去るとは。
「〝理〟め許せんッ!」
『「すっごくわかる」』
〝理〟の理不尽さに怒りがこみ上げるが、棒っ切れとわん太郎が激しく同意する。
どうやら二人(?)にとって、〝理〟とは共通の認識があるらしい。
「ところでお前ら、〝理〟の事を知ってるようだけど知り合いか?」
『知り合い? 冗談じゃありませんよ。あの悪辣非道で意味の分からない存在には、ほとほと困っています』
「そうなんだワン。〝理〟はワレや棒っ切れみたいに、力がある存在からすれば目の上のたんこぶだワン」
「でもその存在は謎なんだろう?」
『ええ。神すらも奴らの理という名のルールを超えると、とてつもないペナルティが発生しますからね』
「神すらもあがなえないのか!? つか、いるのか神様?!」
『それは居ますよ。主が持つ天空の破片は、元々神の持ち物ですからね』
まじかよ……確かに妙なことが連続で忘れていたが、確かに棒っ切れに凄い力を感じてはいた。
『まぁ今はあの正体不明のド腐れ現象より、主の蛮族BANZAIな格好を何とかしないといけませんな』
「俺を変質者みたく言うのはやめていただけますぅ? 棒っ切れのくせに生意気な」
『今更ですが、棒っ切れではありません! 私は天釣の執事。ワーレン・シャール・ロッドマンと申します。今回は忌々しい理により、〝天空の破片〟と呼ばれるゴッド・ロッドのコアとなり、主たる島野大和様へとお仕いしている次第です』
「長い名前だなぁ……じゃあ相棒って事で」
『それだと私がメインな気もしますが?』
「知的な俺が棒に負ける!?」
解せん。どうして俺が棒っ切れに負けるのだ。
とはいえ腹が減ったし、このままなら本当に飢えそうだな……。
とりあえず相棒のやつがいうとおり、このショタボディ全開をなんとかしないとまずいか。
『まぁ別にいいじゃないですか。もともと変態釣り師ですし、今更もう一つ露出狂の称号が加わっても』
「よくないし、はずかしいですし、そんな称号いらねぇし。まずは服屋を探そうぜ?」
『そんなモノはありませんよ。仕方がない、私を持ってそうですね……あぁ、あの木の幹なんかが良いでしょうか』
相棒の先端が指す場所。そこあったのはバナナの木に似たものだが、実が無いものであり、青々と水分を豊富に含む植物だった。
「まさかあの葉っぱで、シークレットな秘密を隠せとか言うんじゃねぇだろうな? なめるなよ駄棒。そこまで落ちぶれるくらいなら、南国少年らしくマッパで生きていく!」
『ハァ~。落ちぶれる前に、あの柔らかそうな部分へ向けて私を振り抜いてください』
なにを言っているのかが理解ができない。まぁどうせあの面積が大きめな葉っぱをルアーで引っ掛けるつもりだろうが。
とはいえ俺もプロの大人だ。だからこそ「はいはい」と余裕をみせつつ、適当に黄金の小魚の形をしたルアーを投げてみる。
「これでいいのか? って、マテ。何か変だぞ!?」
バナナの木に似たみずみずしい茎の部分へルアーを放り投げた。
瞬間、相棒のスキル〝人釣一体〟が発動し、木の中から何かを釣り出す感覚を感じる。
それはまさに〝魚をHITした時と同じ感覚〟であり、釣り師の性なのか「フィィィィッシュ!!」と無意識に叫ぶ。
さらに状況は続き、驚いた事に何やら見たこともないモノを釣り上げた。
しかもそれは細長い糸みたいなものであり、そいつが相棒を思い切り引くと同時に足元へと大量に重なりあう。
「な、なんだよこれ。糸……なのか?」
『お~、まさかここまで採れるとは。流石は釣りバカたる主。普通はここまで釣り上げれませんよ』
「ほめてんのか、けなしてんのか、ハッキリしてほしいのですがね。で、これはなんだよ」
『それはあの木の茎ですよ。まぁ正確に言えば繊維といったほうが良いでしょうか』
そっと足元の、うす黄色い糸を手に持つ。繊維と言うと硬いイメージだったが、驚いたことに絹の糸みたいな肌触りと、何とも言えない爽やかな香りがした。
「マジかよ……俺はこんな糸まで釣り上げる事ができるようになったのか」
『そうです。私の所有者になった事で、色々と釣れるようになりました。今はまだ主の力が幼いので、釣れるものは限られていますが、今後は色々と釣れるでしょう。まずは〝ス釣タス〟を開いてください』
色々と未知のナニカが釣れる。
それだけで期待が高まり、いいようのない興奮を押さえ、ゴクリと生唾を飲み込みつつ「ス釣タス!」と叫ぶ。
目の前に浮かぶ不思議な枠……というより、デカイ本。
さっきはいきなり俺の釣り姿が映像化されていて、興奮していたから目に入らなかった。
しかしよく見れば、かなり古くさいが作りがしっかりしているモノだ。
今回はその本自体が閉じていて、表紙をはじめグルリと全てが見え、その質感にも感動をした。
なんの皮か分からないが、しっとりとした赤い動物の皮に、角が黄金色で豪華な金具がついているのが凄い。
『そんな馬鹿な……』
「ん? どうした」
『いえ、それよりまずは釣果レベルという所を見てください。そう念じれば、そのページへと飛びます』
とりあえず「わかった」と頷き、それを左手に持ち釣果レベルを教えてくれと念じると、該当ページまでかってに開く。
するとそこにあったのは見慣れない言葉が書いてあった。
「んんん? 釣果レベルが60になってるぞ。その他にも色々書いてあるけど、スゲェ腹が立つ!」
よく最初から見れば、なにやらムカっとくる感じにこう書いてある。
一番最初に〝おい! 釣り○○!! テメェの現在はコレダッ!!〟から始まり、○で隠れている分余計に気になってしまう。
きっとロクな事ではないのだろうと思いながら、そこに書いてあるものを最初から見た。