「は、腹へったぁ。何か食べるものはない?」
『主が目覚めるまで、この島を探索して来ましたが、それなりにあります。まず目の前の池に泳ぐ魚ですかね』
「この池の魚か……今更ながら思うけどさ、この池の色ヤバくない?」
『見た目が瑠璃色ですからねぇ』
紫がつよい青い水をたたえ、静かに池の水はそよ風を水面にうける。
よく見れば泳ぐ魚も特徴的で、淡水魚なのに赤や青。そして黄色までならまだしも、薄く緑色に発光しているのまでいる。
「食用に向いてなさそうなのもいるぞ? 住んでるやつらもヤバイよな」
『とはいえ、ちゃんと食用として食べれますよ? まして今はこちらの世界に体が適応していますので、どれを食べてもいけるはずです』
そう思っていると水面が勢いよく弾け、中から青白い何かが飛び出してきた。
「そうだワン! どれを食べても美味しいんだワンよ~」
飛び出してきた何か。それはあの子狐みたいだが、話す変な生き物であり、そいつが発光する魚をくわえて足元へとやって来た。
「お、おまえはあの時の変な子狐!? なのか? いや、犬?」
「む? ワレは、えら~いキツネの王様なんだワン! 失礼な人間だワンねぇ~」
『また来たのですか駄犬。シッシ、あっちへおいきなさい』
「んぁ~失礼な棒っ切れだワンねぇ」
なぜかじゃれている二人? だったが、思い出せばどうにも不思議なことがあった。
それはあの蒼白銀の魚の重さだ。いくら引きがいいとはいえ、アレは異常だったのだから。
「なぁワンコくん。さっきお前さ、蒼白銀の魚を蘇生魚って言って、そいつを釣っていたって言っていたよな?」
「ワンコじゃないんだワン。わん太郎って言うんだワンよ!」
「やっぱり犬じゃねぇか」
「ち、違うんだワン! あれは恐ろしい傾国の女狐に名付けられて、仕方なくこんな名前に……」
そういうと、わん太郎と名乗る変な青白いモフモフな子狐? はホロリと涙を流す。
よく見ると見た目は結構カワイイ。胴体だけなら三十センチほどで、もふっとした尻尾までふくめると四十センチほどか。
体毛は俺の髪と似た色合いだけど、こいつの方が若干うすい蒼とプラチナ色だ。
「女狐? まぁいいや。それで蘇生魚ってなんだよ?」
そう聞いてみると、わん太郎は得意げに二本立ちになって、小さな胸を〝ぽむり〟と叩きむせる。
「けほっ。ふふん、蘇生魚を知らないのかワン? あれは毒魚だワンよ。食べたら最後、死ぬかずっと生きているんだワン」
『私は色々な魚を知っていますが、そんな魚は聞いたことがないですね』
釣り竿のくせに知らないとは職務怠慢すぎる。フィッシュ君さんなら即答ものだろう。
とはいえ、そう棒っ切れがいうので、同じく頷きながらそれを聞く。
「まぁ死んだし、それは分かるけどさ。お前は何ともないじゃんよ」
「これだから無知な人間には困ったワンね。ワレの毛並みを見てみるがいいワン」
「うん、たしかにあの魚と同じ色だ」
「そうだワン! 蘇生魚を食べると、ワレの力が上がるんだワン。だからワレは異怪骨董屋さんの店内から、ここの魚を釣っていたんだワンよ~」
釣っていた? まて、ちょっと待て。じゃあなにか、あの強烈な引き
はこの駄犬のせいだったのか!?
「って事は、お前は後ろから蘇生魚を釣ってたのかよ!?」
「そうだワン。異次元池に釣り糸をたらしていたの。そしたら凄い勢いでひっぱられちゃってね、おかげで知らない場所へ転移しちゃったワンよ~」
「わん太郎のせいで釣るのに苦労したのか……つか、異怪骨董やさん? どっかの釣り堀か?」
「ん~? まぁ~? そんな感じなんだワン? それよりワレはお腹がへったからして、この魚を食べるんだワン。大和も一緒にたべ――」
「――ゴチになります!!」
「そ、即答だワンねぇ」
だってお腹がすいているんですもの。腹減りの民ですもの。
そんな事を思っていると、木の棒が『主……ケモノに食事をたかるなどと』と声が聞こえた気がするが、木の棒が話すワケがないし、きっと怪奇現象にちがいない。ウン。
「じゃぁ見ていて~。ほれぇ凍り付けぇ~」
わん太郎は、かわいらしい前足で〝ぽむり〟と魚を触ると同時に、またしても三枚におろしてしまう。
さらに徐々に凍りついていき、半分凍った感じになってしまった。