ここは……どこだ…………?

 暖かい水の中に浮いている感覚。

 まるで温泉プールにでも入っているかのように暖かい。ただ、全身が水の中に入っている感覚なのに一切辛さを感じない。

 それよりも暖かくて安心感すら覚える。


 ――【個体名、佐藤(さとう)悠真(ゆうま)。異世界へ転生を行っております。】


 えっ!? 転生!? 一体…………えっと、たしか僕は前世では三十歳で童…………ごほん。そうじゃなくて、ちゃんと日本人である事も理解しているし、転生という言葉も理解している。

 初めて入った企業は遣り甲斐を盾に長時間の仕事を強要していたっけ……最後の記憶は会社のデスクだから、もしかして過労死してしまったのかもな…………。

 あぁ……優しかった後輩達を置いていくのは忍びないな…………。


 ――【転生のギフトが与えられます。】


 そっか……よく転生するとめちゃくちゃ強くなる作品とか流行っていたっけ。

 もしかして僕もその類の力を得られるなら嬉しい。


 ――【個体名、佐藤悠真に転生ギフト『絆を紡ぐ者』が贈られます。さらに鑑定に非表示となりますのでご注意ください。】


 なるほど……鑑定という言葉とかギフトという言葉からして異世界ではゲームとかによくあるステータスが存在しているのかもな。

 それならRPGのようにワクワクするかな!

 最初は弱い村に生まれて貧乏な家に生まれて日々農業を営みながら少しずつ強くなったりしてね。


 ――【転生ギフトの授与が完了しました。異世界での生活を楽しんでください。】


 どこのだれかは知りませんが天の声さんと呼ばせて頂きます。

 天の声さん、色々ありがとうございます! 異世界ライフを楽しみますね!


 ――【……………………】


 それから天の声さんの声は聞こえてこなかった。

 そして――――――



 ◆



 まさか転生って生まれてから始めるのかよ!

 目は全く見えないが、お母さんと思われる人から生まれた(・・・・)のが分かる。

 一気に全身を覆う寒さに思わず大声をあげてしまった。

 こう我慢できないというか、自分の体が小さくなったのが分かるし、まだ手と足の感覚がイマイチ感じられない。

 ただただ全力を込めて泣く事だけはできるので、気づけばガンガン泣き叫んでいた。

 すぐに全身が暖かくなって、優しい匂いがしてくる。

 それに安心してゆっくりと意識が遠のいた。



 ◆



 生まれてから二か月が経過した。

 不思議な声が聞こえてくるのが分かるし、何だか()っぽいのが出せるようになっている。

「&$%#’”&$#&%#」

 不思議な羅列の言葉が聞こえてくるが、何を言っているのか全く分からない。

 異世界なのだから外国語と同じく知らない言語だと思ってたら、やっぱりその通りみたい。

 外国に行った事がないので、外国語を覚える要領とか分からないから少し心配だ。

「$#%$’”%$#」

 それと最近手の感触が分かるようになって、僕の手のひらに触れてくる感触がある。

 恐らくお母さんとお父さんが触れてきたりするのだろう。

 その時の事だった。


 ――【個体名、ユウマ・ウォーカーとセリア・ウォーカーの絆が最大値に到達しました。それによりセリア・ウォーカーが持つ全てのスキルがユウマ・ウォーカーに複写されます。尚、複写されたスキルは本人にのみ表示されます。】


 おお!? 天の声さんが言っていた転生ギフトが発動したのか?

 確か僕が持っているはずの転生ギフトは『絆を紡ぐ者』のはずだ。効果は全く知らなかったけど、今の天の声さんの言葉から推測するに、仲良くなって絆を深めた人のスキルを全て複写するようになるのか?

 それと僕にしか表記されないという文言も少し気になる。

「ほら~お母さんでちゅよ~ユウマ~」

 お!? お母さんが話している言葉が理解できた!? もしかしてこれも絆が深くなった事で? となるとお母さん以外の人の言葉が聞き取れるかどうかだな。

「セリア。俺にも抱かせてくれ!」

「貴方が抱くとすぐに泣くからダメです!」

「そ、そんあぁ…………」

 若い男性の声も聞こえてくるから絆が深くなった人だけ聞こえる訳ではないみたいだ。

 それにしてもいつも硬い(・・)腕はお父さんで間違いなかったんだな。

 最初は我慢してあげようかなと思ったけど、僕を抱きしめる腕が硬くて少し痛くてすぐに泣いてしまうのだ。

 その時、僕の中に不思議な力が込みあがってくる。

 まだ視界がぼやけているのにも関わらず、部屋や両親の格好、顔も全部見える。

 というか、見えるというより感じ取っている(・・・・・・・)

 とても不思議な感覚で自分が人ではない何かになった気分だ。

 もしかしてお母さんが持つスキルのおかげなのか?

「あ~う~う~」

 思わず声に出してしまった。

「ほ、ほら! きっと俺にも抱かれたいと思ってるんだよ!」

「ふふっ。貴方ったらいつまでも諦めないのですね。じゃあ、泣くまでですからね?」

「わ、分かった!」

 暖かくて優しい甘い香りから、どこか涼しく爽やかな香りに変わる。

 僕の全身を抱き込むのは、お母さんの柔らかい腕からお父さんの硬い腕に変わった。

 そこで不思議なことがおきて、いつもなら硬い腕が痛いと思っていたのに、まるで痛くない。寧ろ、お母さんとは違う良さも感じる程だ。

「ほ、ほら! ユウマが遂に泣かなくなったぞ!」

「あら? 本当ですね。きっと貴方が抱っこの練習を頑張ったおかげなのかも知れませんね」

 お父さん……僕を抱くためにそんな努力までしたのか……。

 こりゃ――――間違いなく親バカだな。

 お父さんの腕は凄い安心感を覚えて、僕の意識がまた遠のいた。