未だ天地が開かず混沌が漂う無明の海に、突如として四極の柱が立ち上がり、世界は天と地に別たれた。

 天の父神は混沌をおさめて世界に光を満たし、自分を補佐する神々をつくりだして天上界を整えた。
 地の母神は天と地の間にあらゆる生き物を生み出し、地上を命で満たした。

 最後に父神は、神々の姿を模した人間たちを地上に使わした。そして、地上の無数の命と対応する数多の星々を天空にちりばめ、生と死を司る神々を新たにつくった。
 この世界に生きる人間たちの宿命は南斗星君によって定められ、人々はそのさだめに従って生きるのだ。

 さだめですって。笑ってしまうわ。「シナリオ」「テンプレ」、いくらでも言い様はあるでしょうに「さだめ」ですって。運命って書いて「さだめ」と読む? ふふふ、やっぱり笑ってしまうわ。
 何が運命よ。わたしはそんなものに騙されない。わたしにあるのは〈悪役令嬢〉という「役割」だけ。それはむしろ「使命」よね。でもそんな言い方もされたくない。わたしは〈悪役令嬢〉としてこの物語の世界でやりたいようにやるだけなのだから!

 だからこそ、わたしはいつも派遣先の物語の情報をいっさい貰わずに旅立つ。先に起こる出来事を知っていてはつまらないっていうのはもちろん、シナリオに振り回されるのなんてまっぴらごめんだもの。
 わたしが悪役令嬢(わたし)らしくありのままに振舞えばストーリーは後からついてくる。それがわたしのやり方よ。

 そうは言っても〈悪役令嬢〉が必要とされる物語なんてしょせんはテンプレ。ならばせめて、平穏よりも、命のやりとりをするようなスリルな世界の方がやりがいがある。
 と、物語管理委員会悪役部門チーフのルカに、ダメもとでリクエストしてみると、意外にあっさり希望を聞いてもらえた。これは嬉しい。

 いつものごとく休暇抜きで次の派遣先に乗り込み(転生し)、七歳の誕生日に〈ライザ〉の記憶を目覚めさせたところ。

「嬌児のやつ、わたしより目立つ衣装で子豫(しよ)の誕生日会にやって来るなんてどういうつもりよ! たかがイナカの小役人の娘の分際で」
「芝嫣(しえん)、口が悪いわ、汚い言葉を使うのはおやめなさい。でもそうね。確かに、高級な生地だし刺繍も豪華で、身の丈に合っていなかったわ」
「そーよそーよ。ねえ、姉上。おかしくない? あの子の父親は横領でもして私腹を肥やしてるんじゃないかしら?」
「可能性はあるわね。父上の統治に泥を塗るような真似はわたくしが許さない。あの一家の暮らしぶりを調べさせてみましょう」
「ああ、良かった。あの程度の器量で派手な衣装で大きな顔して。二度とうちには招待したくないわ」

 今生の悪役令嬢(わたし)である子豫には、私以上に悪役令嬢らしい姉がいたのである。ふたりも。