「なんでだろうなあ。あのようなか弱き者がわらわの心を動かすとは」
え、どういうことですか? 女神さまはエレナを好きになっちゃったってことなのでしょうか? わたしの胸もどきどきしてしまいます。
すると、女神さまが急に立ち止まりました。とある店先に老いた人たちや頭から布を被った女性たちが列を作っています。たしかここは薬屋です。薬と一緒に売られている近頃流行りの水晶の護符を買うために並ん
でいるようでした。
「みんな気持ちは同じなのだな」
この人たちは出征する息子や夫の無事を願って、護符を手に入れようとしているのでしょう。
再び歩き始めた女神さまは、路地を曲がって広場への道へと出られました。冬支度を着々と終えた人々は、今は家内で機織りや内職に励んでいます。夏よりは少し閑散となった広場には、戦の前の緊張感と高揚感とで、いろいろな表情の人たちがいました。
そこに、叫びがこだましました。
「開戦だ! 出征の日取りが決まったぞ! 掲示板を見ろ!」
「兵士の名簿が張り出されたぞ!」
プラタナスの木の下や、議事堂の回廊で立ち話をしていた男性たちが色めき立って動き出します。
「開戦だ! 壁から盾をおろせ!」
「開戦だ!」
広場から四方に走る道々に、叫びながら駆けて行きます。反対に広場に向かって大勢の人たちがやってきます。
「開戦だ!」
「待ってたぞ!」
「おれの名前はどこだ!?」
「俺は?」
さざ波のように広場中に興奮が広がる中、女神さまは背中を返してテオの家へと走って戻られました。たどり着いてみると庭先に、佇むテオの背中がありました。その手前にはポロがいます。
テオの肩越し、彼と向かい合って、エレナが毅然とした表情で兜を抱えて立っていました。
「わたし、わかってるよ。テオ」
エレナは涼やかに言いました。
「みんなが覚悟を決めて戦場へ向かうのを、あなたは見送ったりできない。たとえ自分は出征に反対だとしても。だからね、テオ。いってらっしゃい」
エレナはにこりと微笑んでみせます。
「あんなこと言ってごめんね。でも大丈夫。この家と、この子たちはわたしが守るから。だからテオ、いってらっしゃい」
そうっと空中を移動して表情を窺うと、テオは少なからず衝撃を受けたような顔つきでした。ですがすぐに腹を決めたのか、力強くあごを引いて笑いました。
「ああ。ありがとう、エレナ」
「おいらが付いてく!」
エレナの後ろから盾を抱えたハリが進み出ます。
「装備を持って歩く従者がいないと、いざ戦闘のときに疲れちまうんだろ。テオの装備はおいらに任せろ」
え、どういうことですか? 女神さまはエレナを好きになっちゃったってことなのでしょうか? わたしの胸もどきどきしてしまいます。
すると、女神さまが急に立ち止まりました。とある店先に老いた人たちや頭から布を被った女性たちが列を作っています。たしかここは薬屋です。薬と一緒に売られている近頃流行りの水晶の護符を買うために並ん
でいるようでした。
「みんな気持ちは同じなのだな」
この人たちは出征する息子や夫の無事を願って、護符を手に入れようとしているのでしょう。
再び歩き始めた女神さまは、路地を曲がって広場への道へと出られました。冬支度を着々と終えた人々は、今は家内で機織りや内職に励んでいます。夏よりは少し閑散となった広場には、戦の前の緊張感と高揚感とで、いろいろな表情の人たちがいました。
そこに、叫びがこだましました。
「開戦だ! 出征の日取りが決まったぞ! 掲示板を見ろ!」
「兵士の名簿が張り出されたぞ!」
プラタナスの木の下や、議事堂の回廊で立ち話をしていた男性たちが色めき立って動き出します。
「開戦だ! 壁から盾をおろせ!」
「開戦だ!」
広場から四方に走る道々に、叫びながら駆けて行きます。反対に広場に向かって大勢の人たちがやってきます。
「開戦だ!」
「待ってたぞ!」
「おれの名前はどこだ!?」
「俺は?」
さざ波のように広場中に興奮が広がる中、女神さまは背中を返してテオの家へと走って戻られました。たどり着いてみると庭先に、佇むテオの背中がありました。その手前にはポロがいます。
テオの肩越し、彼と向かい合って、エレナが毅然とした表情で兜を抱えて立っていました。
「わたし、わかってるよ。テオ」
エレナは涼やかに言いました。
「みんなが覚悟を決めて戦場へ向かうのを、あなたは見送ったりできない。たとえ自分は出征に反対だとしても。だからね、テオ。いってらっしゃい」
エレナはにこりと微笑んでみせます。
「あんなこと言ってごめんね。でも大丈夫。この家と、この子たちはわたしが守るから。だからテオ、いってらっしゃい」
そうっと空中を移動して表情を窺うと、テオは少なからず衝撃を受けたような顔つきでした。ですがすぐに腹を決めたのか、力強くあごを引いて笑いました。
「ああ。ありがとう、エレナ」
「おいらが付いてく!」
エレナの後ろから盾を抱えたハリが進み出ます。
「装備を持って歩く従者がいないと、いざ戦闘のときに疲れちまうんだろ。テオの装備はおいらに任せろ」