他にも明らかに変わっていることがありました。以前は浅瀬の岩礁になっていた荷揚げ倉庫の横手にも、大きな屋根の建物ができていました。あれも倉庫なのでしょうか。

 道はそのまま港町の大通りにつながっていて、荷馬車は荷揚げ倉庫の脇まで進んで止まりました。蝋板を手にした検査係らしい者が近づいてきます。
 テオがその者とやりとりを始めたのを尻目に、女神さまは荷台から飛び降りて波止場へと向かわれます。

 目の前のクレーンはそれは大きなものでした。まるで木材でできた大きな馬が首を長く伸ばしているかのようです。歯車や滑車が付いた胴体部分から、長い長い長い木材が、倉庫の天井の高さよりも長く伸びています。
 その首の部分に通された綱が先端から垂れ下がり、波止場に横付けされた貨物船の積み荷に括り付けらます。やがて滑車が回って綱が引っ張られ、甲板の上から穀物袋が持ち上げられていきます。

「なんとまあ……」
 あんぐりと口を開けてそれを眺めていた女神さまの瞳がおもしろそうに輝きました。四つ並んだクレーンの首は次々とそれぞれの船の甲板から荷を持ち上げ、波止場へと下ろしていきます。
 しばらくその動きを見ていた女神さまは、向こう岸の新しい建物の方へと視線を滑らせました。

 それは荷揚げ倉庫よりも横に長い大きな建物でした。前方は壁がなく、眼前の水面に向かって丸太で傾斜がつけられています。その上部に横たわる物を見て、また女神さまが声をあげられました。
「なんじゃ、あれは!?」
「軍船だ」
 女神さまの後ろについてきていたミマスが低く答えます。

「船じゃと?」
「ああ。なんでも櫂(かい)を三段に配置して百人以上の漕ぎ手を乗せるのだそうだ」
「百人? あの中に?」
 またまたあんぐりと口を開けた女神さまを、からかうようにミマスは笑います。
「あんなものを神の御業とやらではなく、人の力で動かそうっていうんだ。もっと頭数は必要だとオレは思うぜ?」

「その通りだ」
 追いついてきたテオが冷淡な目で作りかけの巨大な船へと視線を投げました。
「最初は百人とか言ってたが、新しい計算では二百人に嵩増ししたらしい」
「だろうなあ」
「あなたは随分、詳しいじゃないか」
「あ? ああ。ちょうど昨日、城壁の前で行商人たちが話してたからな。まさに御神託に従ってってヤツなんだろう?」
 どこか馬鹿にしたようすのミマスでしたが、テオは怒りませんでした。