女神さまが振り返って尋ねると、話を聞いていないようでいて聞いていたらしいエレナは、鍋を抱きしめて首を横にぶんぶん振っていました。顔が真っ赤で、おさげにした黒髪がものすごい勢いでなびいています。
そんなことにはかまわずに、女神さまは唖然としているアルテミシアに言い放ちました。
「というわけで、わらわが正妻。そなたは妾一号でエレナが二号じゃ」
「えーと。何を言っているのかしら? このおちびさんは」
眉間を押さえながらも、そこはさすが〈聖衣の乙女〉の威厳は崩さずにアルテミシアは冷静に対処しようと努力しているようでした。
「あなたとテオが約束を交わしているとでも?」
「その通りじゃ」
ぺったんこのお胸を反らせて女神さまは堂々とおっしゃいます。
「わらわとテオは熱い抱擁を交わした仲であるからに」
「はあああ!?」
「ええええ!」
エレナまで頓狂な声をあげて驚いています。そうですよね。そりゃまあ、そうです。
折よく、城門まで出迎えに行っていたデニスと一緒にテオが帰ってきてしまいました。
「アルテミシア? ほんとにいるのか?」
「テオフィリス! あなた、このちんちくりんに手を出したんですの!?」
「なんの話だ!」
青筋を立ててテオは怒鳴ります。
「そんなことより早く帰れ。一人でこんなところまで来るなんて何を考えてる」
「あら、今夜は帰らなくても大丈夫ですわ。わたくしは神殿に泊まり込んでいることになってるのですもの」
「ほほう。神への奉仕を口実に抜け出して男の家に来るなど、やるなあ、そなた」
「ファニは黙ってろ!」
聴衆の存在に我慢できなくなったらしいテオは、アルテミシアの手首をつかんで身をひるがえしました。路地へ出ていくふたりの後に女神さまがついていこうとなさいます。その腕を、ミハイルが無言で引き留めました。
「……」
じっとミハイルに見つめられ、女神さまは肩をすくめられるとわたしに目配せを寄越されました。はいはい。わかっておりますとも。
わたしははねを動かして飛び上がり、テオの後を追いました。
「テオ。テオフィリス! 待ってよ、話くらいさせてよ」
引っ張られてほとんど小走りになりながらアルテミシアは必死に叫んでいます。
「テオフィリス! 話を聞いてよ!」
悲痛な叫びにほだされたのか、テオは歩く速度をゆるめ、居住区の共用の水汲み場である泉のかたわらへとアルテミシアを促しました。
そんなことにはかまわずに、女神さまは唖然としているアルテミシアに言い放ちました。
「というわけで、わらわが正妻。そなたは妾一号でエレナが二号じゃ」
「えーと。何を言っているのかしら? このおちびさんは」
眉間を押さえながらも、そこはさすが〈聖衣の乙女〉の威厳は崩さずにアルテミシアは冷静に対処しようと努力しているようでした。
「あなたとテオが約束を交わしているとでも?」
「その通りじゃ」
ぺったんこのお胸を反らせて女神さまは堂々とおっしゃいます。
「わらわとテオは熱い抱擁を交わした仲であるからに」
「はあああ!?」
「ええええ!」
エレナまで頓狂な声をあげて驚いています。そうですよね。そりゃまあ、そうです。
折よく、城門まで出迎えに行っていたデニスと一緒にテオが帰ってきてしまいました。
「アルテミシア? ほんとにいるのか?」
「テオフィリス! あなた、このちんちくりんに手を出したんですの!?」
「なんの話だ!」
青筋を立ててテオは怒鳴ります。
「そんなことより早く帰れ。一人でこんなところまで来るなんて何を考えてる」
「あら、今夜は帰らなくても大丈夫ですわ。わたくしは神殿に泊まり込んでいることになってるのですもの」
「ほほう。神への奉仕を口実に抜け出して男の家に来るなど、やるなあ、そなた」
「ファニは黙ってろ!」
聴衆の存在に我慢できなくなったらしいテオは、アルテミシアの手首をつかんで身をひるがえしました。路地へ出ていくふたりの後に女神さまがついていこうとなさいます。その腕を、ミハイルが無言で引き留めました。
「……」
じっとミハイルに見つめられ、女神さまは肩をすくめられるとわたしに目配せを寄越されました。はいはい。わかっておりますとも。
わたしははねを動かして飛び上がり、テオの後を追いました。
「テオ。テオフィリス! 待ってよ、話くらいさせてよ」
引っ張られてほとんど小走りになりながらアルテミシアは必死に叫んでいます。
「テオフィリス! 話を聞いてよ!」
悲痛な叫びにほだされたのか、テオは歩く速度をゆるめ、居住区の共用の水汲み場である泉のかたわらへとアルテミシアを促しました。