「肉、肉、うるさい。そんなに肉が食いたいなら山ウズラでも獲りにいけばいいだろう」
 いまだに豚肉を食べられなかったことをくどくどつぶやく女神さまのうっとうしさに業を煮やしたのか、テオが叫びました。
「山ウズラか」
 ぱっと女神さまが目を輝かせます。

「岩場まで行かなきゃならないよ」
 エレナが心配そうに眉をひそめます。
「大丈夫じゃ。では農園の仕事が終わったら行くとするか」
 おでかけ気分なのか女神さまは狩りに行く気まんまんです。
「大丈夫かよ」
 自分が言い出したくせにテオも不安げです。
「面倒を増やすなよ」
 言い置いて家を出ようとしたところ、
「どうした? いきなり……」
 テオが路地に出る手前で叫んでいます。

「よお」
 そんなテオの肩にがっしり腕をまわして顔を出したのは、リュキーノスです。
「急に思い立って来た。土産もあるぞ」
 彼が手にぶら下げていたのは大きな山ウズラです。わっと三人の子どもたちが声をあげます。
「すごい! おじさん」
「おにいさんだ」
「今日ファニが獲りに行くって話してたところなんだぜ」
「そうかそうか。ならちょうど良かった」
「ありがとうございます」
 エレナの手に山ウズラを渡してリュキーノスはにやりと笑います。

「テオよ。今から仕事だろ。ついていっていいよな」
 腕を肩にまわしたまま、さらに顔を寄せてくるリュキーノスにテオは少し戸惑ったように頷きます。
「あんたならかまわないだろうが。……暇なのか?」
「まあな。じゃあ行こうぜ」
 体を密着させてテオを引っ張っていくリュキーノスを、女神さまは大きな瞳でじいっと見据えておられました。




 昼下がり、農場の仕事の後にエレナはさっそく山ウズラの料理にとりかかりました。摘んできた野草と一緒に肉を丸ごと穴あき釜で焼きます。いつもは昼寝をする子どもたちが火の番をかってでました。
「うまそおおおお」
 いちばん元気の良いハリがこらえきれないように地面を蹴ります。
「まだまだだよ。おいしいお料理が食べたいなら我慢して」
「はあい」

 賑やかに協力しあっているところへ、またまたリュキーノスがひょっこり顔を出しました。
「あれ? テオのお仕事は終わったんですか?」
 目を丸くしてエレナが尋ねます。
「いや、まだやってるよ。飽きたから先に戻ってきた」
 びっくりしたようにエレナはリュキーノスを見つめます。朝方テオが戸惑っていたのと同じです。言動がいつもの彼らしくないのでしょう。