「どうじゃ、ティア。追いかけてくる奴はおらぬか?」
「ええ、まあ。ですが見つかるのは時間の問題ですよ」
「良いのじゃ良いのじゃ。今頃テオの奴はわらわに出し抜かれて悔しがっておるだろうに」
女神さまはからから笑っておられますが、わたしにはとてもそうは思えません。
そのとき、女神さまの手を振り払って少年がひと際大きな声で騒ぎ始めました。
「これ、騒ぐな。大声を出せばそれだけ早く見つかるのだぞ」
女神さまは顔をしかめて言われましたが、おそらく少年には言葉がわからないのでしょう。わたしたちにも少年がなにを喚いているのかわかりませんでしたから。
浅黒い肌に黒い巻き毛の、びっくりするほど目鼻立ちの濃い容貌でした。アーモンド形の瞳がとても印象的です。
「南方から連れてこられたのでしょうか」
「異国の神を信ずる者のことなどわらわの知ったことではないのだがのう」
ぼりぼりと頭をかいて、女神さまは両手でぱふっと少年の口をふさぎます。
「ええい。黙れ、黙らぬか」
もがもがっと少年は涙目になっています。じたばたと女神さまと少年がもみ合っている間に、男たちが追いついてきてしまいました。
「あそこにいるぞ!」
「一緒にいるちんちくりんは、どこの奴隷だ?」
「誰がちんちくりんじゃあああ!」
もはや女神さまは「ちんちくりん」の呪縛から逃れられぬようにございます。
「もう逃げられないぞ。来い!」
黒い瞳の少年共々、女神さままで腕を引っ張られてしまいます。
「待ってくれ」
少年の腕をつかんだ男性の肩に手を置いて止めた者がおりました。テオです。走りに走ってきたのか、荒い息をつきながら言葉を押し出します。
「そいつは銀山に連れていくのじゃないのか?」
「そうだ」
「おれは銀山のテオフィルスだ。そいつをおれの下に付けてくれるよう伝えてほしい。それから」
懐から袋を取り出しテオは男性にお金を握らせました。
「逃げた罰を与えないでやってほしい」
男性は難しい顔でテオを見てから、視線を奴隷の少年に下ろしました。何を言われているのかわからないであろう少年は、怯えたふうでも、悲しむふうでもなく奴隷運搬人の男性を黒い瞳で見つめ返しています。
「……いいだろう」
男性の返事にお礼を言い、テオは自分の肩からピンをひとつはずして、それを目印のように少年の腰布に付けました。
「おまえ、名前は?」
言葉がわからない少年は無言のままです。
「ええ、まあ。ですが見つかるのは時間の問題ですよ」
「良いのじゃ良いのじゃ。今頃テオの奴はわらわに出し抜かれて悔しがっておるだろうに」
女神さまはからから笑っておられますが、わたしにはとてもそうは思えません。
そのとき、女神さまの手を振り払って少年がひと際大きな声で騒ぎ始めました。
「これ、騒ぐな。大声を出せばそれだけ早く見つかるのだぞ」
女神さまは顔をしかめて言われましたが、おそらく少年には言葉がわからないのでしょう。わたしたちにも少年がなにを喚いているのかわかりませんでしたから。
浅黒い肌に黒い巻き毛の、びっくりするほど目鼻立ちの濃い容貌でした。アーモンド形の瞳がとても印象的です。
「南方から連れてこられたのでしょうか」
「異国の神を信ずる者のことなどわらわの知ったことではないのだがのう」
ぼりぼりと頭をかいて、女神さまは両手でぱふっと少年の口をふさぎます。
「ええい。黙れ、黙らぬか」
もがもがっと少年は涙目になっています。じたばたと女神さまと少年がもみ合っている間に、男たちが追いついてきてしまいました。
「あそこにいるぞ!」
「一緒にいるちんちくりんは、どこの奴隷だ?」
「誰がちんちくりんじゃあああ!」
もはや女神さまは「ちんちくりん」の呪縛から逃れられぬようにございます。
「もう逃げられないぞ。来い!」
黒い瞳の少年共々、女神さままで腕を引っ張られてしまいます。
「待ってくれ」
少年の腕をつかんだ男性の肩に手を置いて止めた者がおりました。テオです。走りに走ってきたのか、荒い息をつきながら言葉を押し出します。
「そいつは銀山に連れていくのじゃないのか?」
「そうだ」
「おれは銀山のテオフィルスだ。そいつをおれの下に付けてくれるよう伝えてほしい。それから」
懐から袋を取り出しテオは男性にお金を握らせました。
「逃げた罰を与えないでやってほしい」
男性は難しい顔でテオを見てから、視線を奴隷の少年に下ろしました。何を言われているのかわからないであろう少年は、怯えたふうでも、悲しむふうでもなく奴隷運搬人の男性を黒い瞳で見つめ返しています。
「……いいだろう」
男性の返事にお礼を言い、テオは自分の肩からピンをひとつはずして、それを目印のように少年の腰布に付けました。
「おまえ、名前は?」
言葉がわからない少年は無言のままです。