――そうだよなあ。で、おまえは何がそんなに悲しくてそんな顔をしているのだ?
 ――わかりません。
 ――おい。
 ――ただ、女神さまが楽しそうにしているとわたしも楽しいのに、ときどき胸がちくっとするんです。
 ――ほう?
 ――女神さまはおもしろいことに夢中になると、すぐにわたしのことを忘れてしまわれるのです。
 ――うむ。
 ――おそばにいてもわたしは置いてけぼりです。
 ――ふむふむ。なるほど。
 ――別にいいのですけど、ときどき胸がちくっともやっとなるんです。
 ――しかたないのう。
 ――しかたないです。わたしが我慢すればいい話です。
 ――今はな。じゃがのう……。わが娘はほれ、あの容姿だけで誰からも愛されてしまうじゃろう。
 ――なんですか、いきなり親バカぶっこまれて。
 ――まあ、聞け。愛さなくても愛されてしまうから、おまえの言うちくっともやっとがわからないのだ。あれは自分で感じてみなければわからんことだからな。
 ――はい……。
 ――その高慢さがかわいいといえばかわいいが。のう、ティア。人間はな、ちくっともやっとがいきすぎて死んでしまったりするのだぞ。
 ――ええ、そうなんですか!?
 ――それがわからないから弄んでしまい、後悔したことが何度あるか。
 ――一度の後悔では反省なさらなかったわけですね。
 ――うるさい。とにかくじゃ。神々と人がたわむれに交わる時代はすぎた。我らは見守ることに徹しなければならない。
 ――はい。
 ――ならば見守る者どものことを理解していなければならない。
 ――女神さまは人間のことにお詳しいですよ。
 ――そんなのは上辺だけの知識じゃ。なにせあの娘は、ちくっともやっとも知らないのだから。そこでじゃ、ティア……。

 ――おおー。真っ逆さまじゃな。ほんじゃ頼んだぞ、ティア。……ティア? なんだ、浮かない顔して。
 ――大神さまはひどいです!
 ――なにおう?
 ――わたしがちくっともやっとで死んでしまったらどうするんですか!?
 ――ははは。そんなことにはなるまいて。
 ――どうしてそんなことが言えるんですか?
 ――あの娘は筋金入りじゃ。そうそう男を好きになると思うか? 姿とてあれでは、言い寄られることもあるまい。
 ――で、でも。それなら女神さまはどうしたら戻れるのですか?
 ――ちくっともやっとがわかったら、かの。そう言ってもあの娘にはぴんとこないだろうから、地上の男に好かれたら、とでも言っておけ。