思えばこの少年はいつもむっつりとした顔をしています。笑った顔など初めて見ます。
女神さまもそう思ったのでしょう。目をぱちくりさせて、だけど黙ったままで麦のお粥と生のリンゴの夕食を終えられました。
その夜、皆が寝静まった後、女神さまはそうっと部屋を抜けだして中庭に出られました。星空を見上げ、かがんだ膝に頬杖をついて、考えこまれるようすなのが気になります。
「大丈夫ですか? 昨晩から口数が少なくていらっしゃいます」
「うむ……」
可愛らしいお顔を考え深げに傾けて、女神さまは小さな声でおっしゃいました。
「なにもかもが初めてのことじゃからなあ」
「それはそうでございましょうとも」
「わらわは知らなかった」
女神さまはそっと眉をひそめて部屋の方に視線を流します。
「こんな暮らしがあることを」
眠るエレナや子どもたちを気遣っているのがわかります。
「改革のおかげで、市民が借金のために奴隷に身を落とすことはなくなったとはいえ、労働しなくては食べれぬ者たちもいるのですね」
「うむ」
「女子どもが働かねばならぬとは痛ましゅうございます」
「そうは思うが、何をするでもない。わらわは『見守る者』であるからな」
「はい……」
天上の神々はそれぞれ守護する街を持ってはいますが、決して人を助けるわけではないのです。それが神さまという方々なのです。
「じゃが、父さまが慈悲を持てとおっしゃった意味はわかる気がする」
しんみりと囁かれるお姿が一回りも二回りもご立派になられた気がして、わたしは嬉しくなります。ところが。
「それはそれとして。わらわを好いた男を探さねばのう。早く天上に戻りたいからのう」
まあ、そうですよね。女神さまが学ぶべきことは、まだまだ多いようにございます。
二日経ち、三日が経って女神さまは気づかれました。その日の朝の食事は干リンゴだけでした。夕食もまた干リンゴだけです。
今宵はテオはまだ帰ってきていません。えばりんぼがいないことで気がゆるんだのか、女神さまは子どもたちに尋ねてしまいました。
「おまえたち。たまにはパンを食べたくないのか?」
「パンなら、まかないでもらってるよ」
「もっとたくさん食べたくはないのか?」
子どもたちはぱちぱちと瞬きを繰り返し、エレナも困ったように微笑んでいます。
女神さまもそう思ったのでしょう。目をぱちくりさせて、だけど黙ったままで麦のお粥と生のリンゴの夕食を終えられました。
その夜、皆が寝静まった後、女神さまはそうっと部屋を抜けだして中庭に出られました。星空を見上げ、かがんだ膝に頬杖をついて、考えこまれるようすなのが気になります。
「大丈夫ですか? 昨晩から口数が少なくていらっしゃいます」
「うむ……」
可愛らしいお顔を考え深げに傾けて、女神さまは小さな声でおっしゃいました。
「なにもかもが初めてのことじゃからなあ」
「それはそうでございましょうとも」
「わらわは知らなかった」
女神さまはそっと眉をひそめて部屋の方に視線を流します。
「こんな暮らしがあることを」
眠るエレナや子どもたちを気遣っているのがわかります。
「改革のおかげで、市民が借金のために奴隷に身を落とすことはなくなったとはいえ、労働しなくては食べれぬ者たちもいるのですね」
「うむ」
「女子どもが働かねばならぬとは痛ましゅうございます」
「そうは思うが、何をするでもない。わらわは『見守る者』であるからな」
「はい……」
天上の神々はそれぞれ守護する街を持ってはいますが、決して人を助けるわけではないのです。それが神さまという方々なのです。
「じゃが、父さまが慈悲を持てとおっしゃった意味はわかる気がする」
しんみりと囁かれるお姿が一回りも二回りもご立派になられた気がして、わたしは嬉しくなります。ところが。
「それはそれとして。わらわを好いた男を探さねばのう。早く天上に戻りたいからのう」
まあ、そうですよね。女神さまが学ぶべきことは、まだまだ多いようにございます。
二日経ち、三日が経って女神さまは気づかれました。その日の朝の食事は干リンゴだけでした。夕食もまた干リンゴだけです。
今宵はテオはまだ帰ってきていません。えばりんぼがいないことで気がゆるんだのか、女神さまは子どもたちに尋ねてしまいました。
「おまえたち。たまにはパンを食べたくないのか?」
「パンなら、まかないでもらってるよ」
「もっとたくさん食べたくはないのか?」
子どもたちはぱちぱちと瞬きを繰り返し、エレナも困ったように微笑んでいます。