§主要登場人物のキャラクター紹介
《主人公》
【食への飽くなき好奇心が旺盛な食いしん坊エルフ:ダージュ】
1.名前
ダージュ(イタリア語で葬送曲)
別名:白い妖精、白い死神
2.年齢
20歳(人間の精神年齢で換算=約15歳)
3.性別
男
4.身長と体重
身長:185cm
体重:65kg
5.人種
エルフ
6.家族構成
祖父(エルフの里の族長)
父は20年前に死亡
母はダージュを産んだあと、夫を亡くしたことの心労や病気で死亡。
7.出身地(国と地名)
エルフの里、ヴェントの森
(ヴェント=イタリア語で「風」)
8.職業
魔法職。精霊魔法に長けている。
精霊と直接話せる特性を持っているため、ハイエルフと同等以上に魔法が使える。
9.宗教
里の族長のしきたりに従っている。
食べ物は世界樹の果実か水しか飲まない。
10.外見
碧眼、白髪、白肌
シルクモスの生成する特殊な絹を使った服を愛用。花や葉を模した装飾がある。
11.口癖と方言
「うめぇ!!」
「なぁ、これって食えるのか?」
「――俺は爺さんが死ぬ前に、"本当に美味いメシ"を食ってもらいたいんだ」
「生き物を殺して食べるのは、そんなに悪いことなのか?」
12.長所と短所
好奇心旺盛
物怖じしない
無礼と思われがち
13.睡眠時間と時間帯
マイペースすぎて時間にルーズ
必ず1日に9時間は寝る。寝ることは長生きのコツだと思っている。
14.好きな食べ物
世界樹の果実”以外”
15.好きな音楽
森のさざめき、鳥のさえずり、自然環境音。
人混みは苦手で煩いのは嫌いだが、弦楽器は好き。
16.尊敬する人物
族長である祖父
17.人格形成に影響を与えた過去の出来事
父の遺品にあった一冊の本に、世界を冒険した人物の旅行誌があった。
その影響で、いつか自分の足で世界を回ってみたいと夢見ていた。
18.心に抱えている欠落
親が不在だったため、家族愛についてあまり分からない。
狭いコミュニティで育ったため、一般常識がなく、価値観がズレている。
19.何に劣等感を覚えるか
自分自身の力や努力を発揮できないとき。
誰かの考えや決まり事を変えられないほど無力で、あまりにも世界のことを知らなさ過ぎて無知を感じた瞬間
20.何に怖がるか
空腹
孤独
自分が何者にもなれないこと。
21.他人に言えないような秘密
本当は祖父を尊敬しており、寿命がもう少ないということを感じている。
世界樹の精霊と会話することができる。
22.過去の挫折体験
自分では料理をすることができない。
高いところから落ちて大怪我をしたので、足のつかない高所が怖い
23.人生を懸けてでも叶えたい望み
祖父の寿命を延ばし、里のみんなの食事環境を改善したい。
自分の眼で世界を見てみたい。
24.意外な特徴(『少女なのに盆栽好き』など)
可愛いものや花が好き。エルフの特徴を無意識のうちに持っている。
45.激しい怒りを覚えた時の態度
逆に無言になり、魔法を使わずに自らの拳で殴る。
精霊が冷静にさせようとダージュを抑えにかかる。
本物の悪党を倒すことに対しては精霊に頼りたくない。
《ヒロイン》
【血塗れの剣は置いた。今は人々を笑顔にする料理人を目指す、心優しき元剣聖:セリナ】
1.名前
セリナ(旧姓:山形 聖里南)
2.年齢
18歳
3.性別
女
4.身長と体重
140cm
60kg
5.人種
ドワーフ族
転生者
6.家族構成
家族無し
転生前は両親と弟がいた
7.出身地(国と地名)
ロードガード帝国の首都にあるスラム街、孤児院
前世は日本の群馬県前橋市
8.職業
元剣聖、剣士
冒険者ランク1級(のちに神級)
ヴェントの森専任の調理師(予定)
9.宗教
聖魔教
前世では仏教
10.眼の虹彩・髪の毛・肌の色
黒目・黒髪・黄色人種の肌色
八重歯。
美形が多い中、可愛い系の顔立ちをしている。
11.普段の服装
同じドワーフ族に作ってもらった、龍の装飾がされたゴツいガントレット。
そして日本では着れなかったオレンジ色の着物ドレスを身に着けている。
動きやすさ重視でミニスカートにしているが、足袋、下駄は外せないお洒落ポイント。
頭にルビーのカンザシをしている。
12.常備している物(胃薬、折り畳みナイフ、懐中電灯など)
調理用の自作三徳包丁を持っている。
不格好ながらも使い勝手がよく、彼女が持てばドラゴンの鱗や骨も断つ。
13.口癖と喋り方
「たとえどれだけ私が傷付こうとも、剣は使わないって決めたの。その代わり、誰かを守る盾になる」
「私より腕の立つ剣士は、この世にいないわ。子供のお遊びレベルの太刀筋なんて、目を瞑ってでも避けられるんだから」
達観しており、敵対した者には鋭い毒舌を吐く。
常に冷静沈着で、合理的な考えを好む。
ノリ突っ込み体質。
14.長所と短所
他人に対しては基本的に寛容で優しいが、自身のこととなると頑固で厳しい。
種族のせいで見た目は実年齢よりも若く見られがちだが、前世を合わせると人間族の四十代になるので、ダージュに対してお姉さんぶることが多い。
ドワーフ族なのに酒に弱い。
15.睡眠時間と時間帯
社畜時代の癖で超絶ショートスリーパー。
一日のうち、昼寝の1時間しか寝ない。
その代わりに一週間に一日はまるっと寝溜めしないとポンコツになる。
16.習慣として実践する運動と頻度
深夜にひたすら鍛錬をして体を動かしている。
単純に人の寝ている間も鍛えれば二倍強くなれると思っているから。
夜も戦う可能性もあるので、慣れておく必要があるという理由もある。
17.好きな食べ物
好き嫌いは無いが、肉が好き。
虫系はちょっと苦手だけど、好奇心の方が勝る。
18.好きな音楽
ピアノが好きだが、この世界には無いので寂しいと思っている。
管楽器も好き。
19.趣味
効率的な筋トレ方法
包丁を研ぐ
自分の料理本の執筆
自作小説の執筆
20.休日の過ごし方
寝だめする
21.お金があったら買いたい物
調理器具や、自分の飲食店を出したい。
憧れは現世で通っていた定食屋さん。
22.愛情を寄せている対象
愛刀……包丁。
旅の途中で仲間になった聖獣のアル=ミラージュ(もふもふ要員)。
前世ではペット不可だったため、常に愛でている。
23.理想の異性像
自分をリードしてくれる人。
縛り付けてこない人、縛られていない人。
自分をしっかり持っている人。
実際は弟のような可愛い人に弱い。
24.人格形成に影響を与えた過去の出来事
上司の言いなりになって仕事を重ねていたせいで、自分の意見を主張しないことは駄目だと思っている。今世では自分のしたいことをして、夢を叶えるための努力をすると決めていた。
25.心に抱えている欠落
人を頼るという部分があまりない。他人を心から信じることができず、戦いのさなかでも完全に背中を預けるということはない。
26.何に優越感を憶えるか
自分より弱い者を力でねじ伏せること。
27.何に劣等感を覚えるか
上か下か、優劣や善悪でしか物事を判断できないこと。
自分の本当にしたいことや感情に自信が持てない。
28.何に怖がるか
自分の気持ちが分からなくなること。
知らない内に自分が自分に嘘をついていること
29.過去の挫折体験
最強の剣士である剣聖になっても、心は強くならなかった。
30.胸に秘めている信念
今世こそは絶対に自分の好きなように生きてやると決意している。
31.人生を懸けてでも叶えたい望み
剣聖前:他人に左右されない力が欲しい
剣聖後:他人を笑顔にできる力が欲しい
32.意外な特徴(『少女なのに盆栽好き』など)
いい加減そうな性格なのに読書が好き。
元々は文学少女だった。
33.激しい怒りを覚えた時の態度
笑う。優しさは消え、隠していた残虐性が表に出る。人の命を奪うことに躊躇しない。
34.強いストレスを受けた時の反応(声が震える、冷や汗をかくなど)
眠くなる。
《その他キャラクター》
【世界に魔法をもたらした謎多きハイエルフ:リセルカ】
世界で唯一のハイエルフで、年齢不詳。
ダージュの祖父
古代機械文明が発展していたロストギア国が崩壊した理由を知る、数少ない人物。
【世界に拒絶された悲しき魔王:リーパルス】
サブヒロイン
魔族の王、魔王
<虚>という属性の精霊が肉体を得て実体化した存在。
精霊に好かれる体質であるダージュにゾッコン。
<虚>という性質から、すべての対象に嫌悪感や殺意を持たれている。
「私が貴方たちを傷つけようとしたんじゃない。世界が私を拒んだだけ」
世界の魔法系統をブチ壊すほどの消滅(バニッシュ)という強大な力を持っているが、自分の意思での発動はしたことがない。
単純に料理をご馳走してくれたダージュたち2人を兄姉のように慕うようになる。
【「力を持つものには責任が伴う」と信じる、典型的な狂信者:ヴィオレンス】
人族の青年。22歳。
勇者として育てられた純粋な魔法使い系の勇者。
力は神に選ばれし者の証であり、その力を平和のために使うべきだと考えている。
帝国や聖魔教の思想に染まりきっており、教義には疑問を持たずに生きてきた。
己の正義が絶対と信じて、他者に対し容赦なく剣を振りかざす。
ルールに反抗したダージュや、正義を疑って力を振るうことを止めたヒロインと対照的なポジション。
憧れの剣聖だったセリナを個人的な理由で連れまわすダージュに敵意識を持っている。
ストーカーのように彼らを追いかけ回し、魔王討伐に誘う。
【純粋な悪である「戦争商人」:シードマン】
人間族の商人。髭もじゃの顔で樽のような巨体。
過去に帝国の騎士だった両親を目の前で盗賊に殺され、その際に人の死に魅せられてしまった。
人が迎える最期の瞬間に最も価値があると思っているため、“死は多ければ多いほど良い”と信じている。
「貴方のいう変化が、争いを起こす火種になるということを自覚していないのですか?」
「ダージュさんは無意識に人を傷付ける。ましてや貴方のように強い光は、必ず深い闇を生み出すものです」
様々な国や指導者、宗教関係者に争いの種を蒔き続ける。
最期は自身の死を見て満足するか、命乞いするかは物語の展開次第。
結局、最後までダージュとは互いに分かり合えない相手だったが、ダージュにとって人間の業や恐ろしさを与えてくれた重要な人物となる。
【海賊国家の若き首領:サブライム】
ストレイシーキャッツ(彷徨うウミネコたち)という名の海賊国家を率いている。
完全な善人ではないものの、己で決めたルールは死んでも守る芯のある女性。
自由を愛し、縛られることを嫌う。
過酷な運命という荒波にも笑顔で挑む姿に、ダージュは心励まされる。
実は古代人の末裔で、祖先が住んでいた孤島を探している。
だが彼女の命を狙うライバル海賊たちに襲われ、ダージュを庇って瀕死の状態になる。
息をひきとる前に偶然にも孤島にたどり着き、機械人によって内臓を半機械化することで生きながらえることになった。
【ヴェンディ】
機械人
ロストギアに残っていた自走する自販機
【劉偉(リュウ ウェイ)】
仙人で不死。見た目は老人。
セリナと同じく、異世界の出身。
ハイエルフであるリセルカの友人。
古代機械文明ロストギアの滅亡にも関与している。
第1話
――知っているか?
俺たちエルフは肉を食べない。
ある日の午後。
世界樹の麓にある家をこっそりと抜け出した主人公のダージュ。
その目的は里の掟で禁じられている、肉を食べるためだった。
「へへへ、ついに長年の夢が叶うぜ……!」
森で集めた枯れ木に精霊魔法で火を点け、串に刺した生肉を炙り始める。
香ばしい匂いが立ち上り、焚き火の前でだらしのない表情を浮かべるダージュ。
しかし、いざ食べようとしたところで邪魔が入ってしまう。
「よし、それじゃさっそく。いただきま――グヘェッ!?」
いざ串焼きを口へと運ぼうとしたその瞬間。
突如飛来してきた巨大なウォーターボールによって、ダージュは持っていた肉ごと森の奥へと吹き飛ばされた。あまりにも突然の出来事に受け身もとれず、彼は地面の上を勢いよくゴロゴロと転がっていく。
「ダージュ、貴様ぁああ! よりにもよって儂の里で、肉を焼いて食おうとしたなぁああ!?」
「あああぁぁあ! 俺の串焼きがぁあ!」
森の中を木霊する二つの咆哮。
犯人はダージュの祖父であり、族長のリセルカだった。
「知るか! 儂は肉や炎が嫌いなんじゃ。生き物を殺し、大切な枝や葉を燃やすなど、精霊の友であるエルフの風上にも置けぬ! 我々エルフの民は世界樹の果実のみを食べて、静かに過ごせばいいのじゃ!」
烈火のようなその怒りに近くに居る風精霊が影響されたのか、リセルカの周りをゴウッと落ち葉が舞い上がる。
しかし我慢の限界だったダージュは立ち上がり反抗する。
掟は菜食だけではなかった。
里を出てはいけない。争いごとはするな、反論をするな。言われたことだけを続けろ。
他にもたくさんあるが、どれも疑問を口にすることすら禁じられている。
毎日毎日ひたすら同じ食事をして、与えられた仕事を繰り返してハイ終わり。
何か違うことをしようと願うことすら許されない。
「夢を持つことより、掟の方がそんなに大事なのか? ジジイは俺たちに死ぬまでこんな生活を続けさせる気なのかよ!?」
エルフの寿命は長い。普通のエルフですら三百年は生きる。
ダージュは今年で二十歳になったばかりだが、残りの人生は約十万日。
十万回も同じ日を繰り返すなんて、とてもじゃないが耐えられなかった。
「なにを馬鹿な……この平和な日々がどれだけ貴重なのか、貴様にそれが分からんのか!」
「まるで時が止まったかのような不変が、ジジイの言う平和なのか? 自分の意志を持たず言いなりになるのが、本当に正しいことのかよ!?」
「……お前は若さゆえに、人が抱く欲望の恐ろしさを理解できていないのだ。現実が見えておらぬ未熟者が、勝手なことを言うでない!」
ピシャリと叱られるが、ダージュは納得できない。
彼は亡き父から譲ってもらった本を取り出して、祖父の前に突き出した。
「そ、その本は……」
「尊敬する冒険家の本だ。俺も自分の眼で世界を見てみたいんだ」
世間知らずなのは、彼も自覚していた。
だからこそ自分の足で歩いて、実際に見てから何が正しいのかを判断したかった。
自分の価値観を他人の意見で決められたくない、とダージュは祖父に訴える。
「第一、現実から目を逸らしているのは、ジジイの方なんじゃないのか?」
「なっ!?」
「ジジイは自分の信じているものが揺らぐのが怖いんだ。周囲が変わって自分が取り残されてしまうのが怖い、ただの臆病者だよ」
里のエルフたちを長いあいだ導いてきたことは彼も認めている。
一方でその間に何か一つでも変化はあったのか。成長や発展はあったのかという疑問があった。
「他人をコントロールしようというのは、あまりにも傲慢な考えだよ。ジジイは神にでもなったつもりなのか?」
「ダージュ、貴様はそんなふうに儂のことを……わ、儂はみなのためを思って……」
「果たしてそれは本当にみんなが望んだことなのか? 俺の眼には、誰にも縛られていない精霊の方が、よっぽど自由で楽しそうに見えるぜ!」
そう言ってダージュは森の中を楽しそうに踊りまわる精霊を見つめる。
「はぁ……儂の教育が間違っておったようじゃな。精霊と接触させるべきではなかったのだ……」
「この期に及んで、俺から大事な友人まで奪う気かよ!」
肉を焼いたぐらいで、ここまで言われる筋合いは無いとダージュは憤りを隠せない。
「おい、どこへ行くつもりだ。まだ話は終わっておらん!」
「そこまで言うのなら分かったよ。こんなクソみたいな里、自分から出て行ってやる!」
「――本気なのか、ダージュよ。一度吐いたその言葉は撤回できんぞ」
「嘘じゃねぇよ。世界を回って、そのうちジジイが泣いて認めるほどの美食を持って帰ってくるからな」
そう啖呵を切るダージュ。こうして彼は家出も同然にエルフの里を飛び出した。
ここで踏み出さなければ、一生この窮屈な場所で飼い殺しにされると思ったから。
――だが、現実はそう甘くなかった。
「ううっ……腹へった……」
里があるヴェントの森は無事に越えたものの。人間族の住む下界へと繋がる風穴に迷い込み、彷徨うこと五日。
ダージュは空腹が限界に達し、無様にも行き倒れていた。
第2話
薄暗い洞窟の中。
ダージュはヒンヤリとした土の床に横たわり、その場から動けなくなっていた。
「腹減った……死ぬ……」
彼の居る妖精の風穴(フェアリーフォール)の中は緑豊かな森と違い、食料と言えるものが皆無だった。
幸いにも水精霊から水は分けてもらえるものの、空腹は満たされない。
「こんなことになるなら、世界樹の果実を持ってくりゃ良かったぜ」
後悔先に立たず。
こうなった元凶である祖父を恨めしく思うも、すでに里を出てしまった身だ。今さら戻ることもできない。どうにか打開策を講じる……が、何も浮かんではこない。
このまま俺は死ぬのか……と思った次の瞬間。彼は突如として眩しい光に襲われる。
「あら、起きたのね。こんなところに転がっているから、死体かと思っちゃったわ」
彼の前に現れたのは、長い黒髪をした背の小さな少女だった。
ダージュは差し出された彼女の手を掴むと、一気に引っ張り上げられた。小柄でも信じられないほど力が強い。
「私はセリナ。見ての通りドワーフ族よ」
「ドワーフ族?」
「あら、初めて見るのかしら? ……そういえば貴方、珍しい耳をしているわね。獣人族とも違うみたいだけど」
「俺はダージュ。ヴェントの里から来たエルフだ」
互いに自己紹介を済ませると、セリナはダージュの姿を見て笑う。
「ふふ、お腹が減っているみたいだし、食料を分けてあげる。ちょうど良いものがあるのよ」
セリナは葉っぱに包まれた何かを取り出すと、ダージュに手渡した。
さっそく包みを開いて、中に入っていた純白の塊を口の中に放り込む。ゆっくりと咀しゃくして、ゴクリと飲み込んだ。
「……美味しい」
その言葉と同時に、彼の両目からポロポロと透明な液体が溢れ出していた。
涙を拭いながら、ダージュは貰った白い塊を口いっぱいに詰めていく。それは世界樹の果実よりも遥かに甘く、今までに感じたことのない優しさに満ちていた。
そんな光景をセリナは静かに見守っていた。
「ご馳走様でした。こんなに旨い飯を食ったのは、生まれて初めての経験だ。ところで――」
世界には美味しいものが溢れていることに感動したダージュは、セリナにとある提案をすることにした。
「セリナはプロの料理人なんだろ? もし良かったら、専属の料理人になってくれないか!?」
第3話
「私が貴方の専属料理人に……?」
ダージュはセリナにこれまでの経緯をざっくりと説明した。
エルフの里を出たものの、風穴の中で腹が減りすぎて死にそうだったこと。
セリナの腕があれば、ジジイを説得できるかもしれないということ。
すると彼女は驚いたような顔をしたあと、少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「随分と期待されているみたいだけど、私はただの旅人よ? 偏食なハイエルフの舌を満足させるなんて、私にはできないわ」
一見すると謙遜のようにも見えたが、どうやら彼女にも事情がある様子。
「料理人じゃないのは本当。私が生まれ育ったロードガード帝国では、女が料理人になることは認められなかったの」
あまりの理不尽さに、まるでエルフの里みたいだと憤るダージュ。
「なら尚更、俺のためにその料理の腕を振るってくれないか?」
駄目押しとばかりに、もう一度頼み込む。彼女はしばらく悩んだ後、小さく溜め息を吐いた。
「これでも私、帝国では剣聖と呼ばれるほどの腕利き冒険者なの。もし専属で雇うとしたら、依頼料は高いわよ?」
当然ながら彼は金なんて一銭も持っていない。
代わりに払える報酬は何だと頭をフル回転させて考えた結果、ある結論に達した。
「だったら、エルフの里で店を開けばいい! セリナには是非、そこの料理人として働いてほしい」
そう提案すると、彼女は大きな黒い瞳をパチクリとさせた。
懇願するダージュに根負けしたセリナは、彼の提案に乗ることにした。
こうしてダージュは、エルフの里へ新しい風を吹き込むための一歩を踏み出したのであった。
「それで、これからどうするの? さっそく里に戻る?」
セリナの問い掛けに、ダージュは首を横に振る。
早く祖父を説得したいのは山々だが、彼の本当の目的を遂げるためには、当初の予定通り世界を旅する必要があったのだ。
「いや、まだ帰れない。この大陸のどこかにある、『グルメの種』を探し出さなきゃいけないんだ」
「グルメの種……? 初めて聞く名前だけど、どうして今それが必要なの?」
実はダージュには、祖父にすら打ち明けていない秘密があった。
それを打ち明ける覚悟を決めると、懐から一冊の本を取り出した。
「それがないとこのままじゃ、エルフの里が滅びるかもしれないんだ」
作品のメインテーマ:
どの登場人物も過去や現在の立場に囚われている。
食事とは毎日必要な行為にもかかわらず、多くの人にとって平凡な日常の一コマにしかすぎない。
そこにダージュ&セリナの斬新な料理によって変化をもたらすことで、他キャラたちが普段気付かなかった視点を得ることができる。
新しい変化をもたらす風となるのが主人公の役目。
同時に主人公自身の成長も描く。
物語の冒頭では『変化は悪いことじゃない』と信じていた。
旅先で人々の生き様や葛藤を自身の目で見届けたことで、『変化は良いことだけではない』と身をもって知ることになる。
そこで初めて、祖父の優しさや苦悩を理解することとなる。
最期には祖父と和解し、次代のハイエルフとなった主人公は新たなエルフの里を作って民を導いていく。
四話以降のプロット:
ダージュは祖父リセルカや世界樹に死期に近付いていることをセリナに打ち明ける。
命を繋ぐためにも、世界のどこかにある万能薬が必要だった。
彼が持つ本によると、その万能薬こそがグルメの種なのだという。
了解したセリナと共にさっそく出発したところで、洞窟の中に封印されていた精霊獣を発見する。
モフモフ兎のヴォーパルバニーを仲間にした二人は、グルメの種を求めて様々な国を巡ることになる。
資金稼ぎのために街で屋台を出したり、エルフを神と崇める宗教国家の女教皇にダージュが拉致されたりと波乱に満ちた冒険を続けていく二人。
女教皇からグルメの種に関する情報を得たダージュたち一行は、魔族が支配する大陸南部の地下世界へと向かう。
そこでは魔王は滅ぼすべきと妄信する勇者や、孤独に悩む心優しき魔王などと出逢うことになる。
食事を通して交流を深め、それぞれの心のわだかまりを解消していく。
旅は順調に進むかと思われたが、戦争商人であるシードマンの登場。
ダージュは帝国と獣王国の戦争に関与することになる。
シードマンの陰謀を止めることに成功したが、結果的にダージュは初めて人を死に追いやることになる。
「自分が里を出なければ、多くの人は死ななかったんじゃないか?」
ここにきて、自分のしてきたことの正当性に疑問を持ち始める。
落ち込んでいてもお腹は空く。
ヒロインに食事を作ってもらい、これまで出逢った人たちのことを思い出し、立ち直る。
グルメの種のヒントがある孤島、ロストギアに向けて海賊の船で出港する。
仲間となった海賊の船長が途中で重傷を負ったりするも、どうにかロストギアへ辿り着く。
ロストギアのワープ装置を使い、仙人のいる空中底辺へと飛ぶ。
そこで世界の真実を知り、旅の答えを仙人に尋ねられる。
ダージュとセリナは意見をぶつけ合い、喧嘩となる。
最終的に互いに一つの答えを導き出したダージュはとうとうグルメの種を生み出した。
あらためて祖父と向き合うことを決意したダージュは、エルフの里へと帰還するのであった。