《それでは、椅子が3脚以下となりましたので、セントラルゾーンでの決戦となります。このターン『る』の椅子と『を』の椅子に座ったプレイヤーはその椅子をもってセントラルゾーンへとお集まりください。集まり次第、最終ターンを始めさせていただきます》
 朝海は色々考えながらセントラルゾーンへと歩いた。狭いエリアで樹々が茂ったセントラルゾーンの中へ入ると、すでに湖口がいた。
 2人は対峙した。
《それではこれより、最終ターンを始めたいと思います》
 オクラホマミキサーが鳴り、ついに最終ターンが始まった。
「朝海、ほら」そう言って湖口は朝海に『る』の椅子を渡してきた。「お前はこの椅子にしか座れないだろ」
「……」朝海はうつむいたまま黙っていた。
 そして、湖口は『を』の椅子を渡せと言わんばかりに手を差し出してきた。
「座れない椅子にいつまでも手をかけてるなよ。禁止行為だぞ!」そう言って湖口は朝海から半ば強引に『を』の椅子を奪った。
「ハハハ。もう勝負は見えたな」そう言って湖口は歩いて向こうのほうに行った。エリアが限定されてるので近くにいるのは間違いないが、意外にも樹々が邪魔で湖口の姿は見えなくなった。
 朝海は用を足すわけでもなくトイレに行き、また『る』の椅子の元へと戻ってきた。そして、音楽が鳴り止むのをひたすら待った。音楽が鳴り止むと朝海は、この椅子にしか座れないので座った。
《最終ターン終了です》
 ついに全てが終わった。
《それでは最終ターンに消える椅子を発表したいと思います》
 朝海は湖口にSNSで通話をかけた。
「今更なんだ?この敗者が!」湖口がこたえた。
「フフフ。ハハハ。湖口、勝ったつもりか」
「どう考えても俺の勝ちだろ!負け惜しみか?」
「そう思うなら、このまま一緒に結果を聞こうじゃないか」朝海は強気に言った。
「ああ。お前の吠え面が見れないのが残念だ」
《消える椅子は……『を』です》
「ほら見ろ!俺の勝ちだー!!……えっ、『を』!?」湖口は動揺しているようだ。
「湖口、お前の負けだ!お前は死んだんだ!」
「何をした、朝海!……あっ、わかったぞ!お前、『る』の椅子を壊したな!共倒れを狙っただろ!」
「そんなことはしてない」
「嘘つけ!それ以外、考えられないだろ!」
「結果が全てを物語っている。結果を聞けばわかることだ」
「……」
 2人は黙って結果を聞くことにした。
《『を』の椅子に座っていた湖口さんは失格となります。よって、椅子取りゲーム、勝者は朝海大晴さんです》
「なぜだー!!共倒れを狙う以外に俺の勝利を阻止する方法なんてないだろ!」
「それがあるんだよ、湖口」
「どんな方法があるっていうんだよ!」
「まず、このゲームのルール説明を受けたときに『文字が雨で落ちる恐れがある』って言ってたのは覚えているか?」
「ああ、確か言ってたな。一時中断されるって」
「ということはだ。椅子の背中に書かれている文字って水性ペンで書かれてると思わないか?」
「そうかもしれないけど、雨でも降らないかぎり、そんなこと関係ないだろ!」
「いや、雨が降らなくても水があれば、この文字は消せるってことだ。だから、俺はトイレに行って水をペットボトルに汲んできたんだ。ペットボトルはそこら辺に落ちていたからな」
「それでお前は『る』の文字を消したっていうのか!『る』の椅子がなくなって『を』の椅子が消されることになったと……」
「ただ、消しただけじゃない。このゲームのルールはいろは唄の順で椅子が消されていくってことだろ。『いろはにほへとちりぬるを』の順番に12脚が消されていくってな」
「そうだ。だから、最後に『を』の椅子に座ってた俺が勝つはずだったんだ!」
「園内に入るときにペンをもらって名前を書かされただろ」
「ああ」
「そのペンを使って消した『る』の上に『わ』って書いたんだよ」
「どういう意味だ?」
「いろは唄は『を』で終わりではないだろ。あくまで今回のゲームが12脚だったから『を』まで振り分けられてただけだ。いろは唄には続きがあって『わかよたれそ……』と続きがあり47文字あるのはわかるよな」
「ああ……」
 湖口も理解してきたようだ。なぜ自分が負けたのかを……。
「『る』を消して『わ』に書き換えた。『を』と『わ』の椅子があれば『を』の椅子が消される。よって『わ』の椅子に座った俺の勝ちだ!」
「ウワァァァー!!クソー!!」ケータイ越しではなく湖口が叫んでいる声が響いてきた。
《それでは、勝利を収めました朝海大晴さんに賞金1億円を進呈いたします》
 そうだ。1億円だ。しかも、鵜飼陽菜に賞金を分ける必要もない。あいつはスパイだったんだ。裏切ってたんだ。ということは取り分は5千万になる。これで借金が完済できる!これで、自殺を考える日々ともおさらばだ!
 朝海は貰った1億円を猪俣史郎と半分ずつにして、会場をあとにした。そして、そのお金で借金を返し、これからは真面目に生きていくことを決意した。