「協力? 私も果凛さんとは面識がありません」

 少し困った表情をして彼女は僕を見る。僕の差し出した手を取るのも躊躇っているようだ。

「こういう言い方は失礼かもしれませんが、未城さんにはその顔がありますから」

 僕の言葉に驚いた顔をして、それからクスリと彼女は笑った。そして、僕の手を取る。

「さっきの話を聞いてそんなことを言うなんてデリカシーがないのですね? まぁいいですよ、水戸瀬さんは常連さんですからね」

 手を離して、僕らは顔を見合って笑った。僕らはしばらく話をして、お互いのカップが空になって、解散をした。家に帰り、シャワーを浴びてリビングでテレビを見ていると、スマホの通知音がなる。連絡は、未城さんからだった。

 今度の週末、お休みが取れました。

 その連絡を見て、僕はまたあのレンタル彼女のサイトを見て、果凛さんを指名した。

 週末、僕と未城さんは駅前で待ち合わせをした。カフェじゃない場所で会うのは初めてだったから、その私服に見惚れてしまったのは、きっと彼女にもバレてしまっているだろう。

「あんまり見ないでください……普段と服装が違うので恥ずかしいです」
「そう、ですよね」
「あ、えっと……由那が好きそうな服を選んだんです。だから着なれなくて」

 由那さんが好きそう、と言われまたその服装を見つめていると流石に、見ないでください、と言われてしまった。由那さんは意外と清楚な服装が好きだったらしい。元気なイメージの彼女は、もっとストリートなファッションを好むかと思っていた。いや、今思った。

「水戸瀬さん?」
「……あ、いやなんか、今更由那さんのことをたくさん考えるようになったな、と思いまして」

 そう苦笑すると、彼女は微笑んで、いいと思います、と僕に告げた。そうして僕らが話していると、ハイヒールの音が僕らに近づいてきた。

「レンタルしておいて彼女を連れてくるってどうなの、ミトセさん?」

 不機嫌そうな顔で僕を見つめ、腕を組んでいるのは果凛さん。未城さんとは違い清楚な感じではない服装を見ると、やっぱり僕の好みではない、なんて心の中で質礼なことを考えてしまった。まぁ、とても綺麗で、おしゃれだとは思うのだが。

「なんで真顔なの! なんか答えたらどうなの?」
「あ、今日はきてくれてありがとう。これ、今日の分のお金」

 封筒に入れた今日のレンタル料金を果凛さんは確認して、僕を睨むように見た。この前のことがあるからだろう。

「由那の話ならしないけど。それに、なんで彼女連れてきてんの。それって常識的におかしいと思うんだけど」

 確かに、未城さんが僕の彼女であればレンタル彼女とのデートに連れてくるのは常識的におかしい。だが、彼女でもないし、果凛さんの話を聞くには未城さんが必要なのだ。

「彼女じゃない。君と話すには、この子を連れてくるしかないと思ったんだ」

 未城さんは緊張した表情で僕の前に出た。でも彼女は笑う。由那さんに似た顔で。

「初めまして、未城花那です。由那の、妹です」

 果凛さんは驚き、固まった。由那さんに双子の妹がいるのは知っていたのだろう。

 未城さんと果凛さんと話すためにもう一度会うと決めた時、果凛さんとどうして接点がないのか聞いた。高校は由那さんと違うところに進学したらしい。そして、お葬式にも果凛さんは来なかったらしく、一度も会ったことがなかった、とのことだった。


「果凛さん、貴女は由那の親友でしたよね?」
「……えぇ、少なくとも私はそう思ってた」

 未城さんが果凛さんに一歩また近づいてしっかりとその目を見つめた。そして小さく息を吸った後、また口を開く。


「ならどうして、由那が死んだ後、一度も会いにきてくれないんですか」