「整形……?どうして」
彼女は気まずそうに目を逸らし、あまり話したくなさそうに口を閉じていた。でもここまで聞いてそれ以上踏み込まないというのは僕には出来ない。
「……」
「未城さん、どうして由那さんの顔にしたんですか」
もう一度、僕は彼女に問いかける。すると彼女は小さくため息をついて、わかりました、と言ってから自分の分のカフェオレを持ってきて話しを始めた。
「由那が死んでから、全部が変わりました。両親は由那が死んだことをお互いのせいにして喧嘩をし始めて、母は私を見るたび由那を思い出して泣きました。似てないとはいえ、双子として生まれたから、由那と私はセットとして考えられていたみたいです」
カフェオレを飲まずカップを指で撫で彼女は話しを進めた。僕もカップには口を付けず、彼女の話しを聞いていた。静かなカフェは、元々あまりお客さんも入っていなかったのだが、気付けば僕らだけだった。
「でも未城さんは由那さんじゃない」
僕がそう言うとこく、と彼女は頷いてやっと目を合わせてくれた。なんだか少し悲しげに見えるのは、由那さんの話をしているからだろうか。カチ、カチ、と秒針の音がやたら響く。店内の音楽が次の音楽に切り替わるまでのほんの数秒。その一瞬が、沈黙が、重く感じる。
「……はい、私は由那にはなれません。それは顔を変える前からわかっていましたし、顔を変えてからもっとよくわかりました」
「ならどうして」
僕は、彼女が由那さんになりたいのだと、勝手にそう思っていた。だって、男の僕の偏見で申し訳ないけれど、整形はなりたい自分に近づくための手段だと思ったから。彼女のなりたい自分は、姉の由奈さんだったのではないだろうか。
「由那が死んでしまってから、私はその環境の変化について行くのが辛くなってしましました。それである日……」
彼女が一度口を閉ざし、小さく息を吐いてから、少し目を伏せた。僕はその言葉の続きを待った。
「事故に遭いました」
トラックの、と苦笑して言葉を続ける。何が何だかわからないまま、赤信号の横断歩道にフラフラと歩いて行ってしまった。そうしてトラックと衝突して、顔に傷ができてしまった、彼女はその話を僕と目を合わせないまま話し続ける。
それから大人になって、顔に傷があるのは、と両親の出してくれたお金と自分の貯めていたお金で整形をすることにしたそうだ。似てないとはいえ遺伝子は同じ両親のものだから、パーツを少し弄るだけで由奈さんっぽくなったらしい。
「由那がいれば、家族みんながまた幸せになると、思っていたんですが……」
「そうはいかなかった、ってことですか?」
「はい。まぁそうですよね。だって本物じゃないし」
彼女は冷めてしまったカフェオレを一口飲んだ。そしてカップを置いてから、やっとまた僕の方を見てくれた。
「トラックの事故があった時、私は死ぬのが怖かった。だから、どうして由那がそれを選んだのか、知りたいんです。そして、水戸瀬さんにも知って欲しい」
知りたい、の言葉の重みが僕の中ではっきりと変わった瞬間だった。それに、僕ももっと知りたいと思った。深く関わろうとしなかった未城由那という過去の少女のこと、そして今目の前にいる未城花那さんのことを。
由那さんが死を選んだ理由だけじゃなくて、由那さんを知りたいと思ったのだ。今更すぎて、遠くで笑われているかもしれないけれど。
「水戸瀬さんは、ずっと由那を忘れないでいてくれた。ここで働く前から、私、水戸瀬さんがこの席にいたのを知ってたんですよ」
「え、そうだったんですか」
「由那が言っていた男の子が水戸瀬さんだったことは、ラテアートを混ぜているのでわかりましたから」
由那さんの癖は、由那さんがいなくなってから僕のものになっていた。もったいない、とは、未だに思うけれど。
「由那と過ごした時間はきっと誰よりも短いのに、由那を忘れないでいてくれる、そう思ったから私、水戸瀬さんにお願いをしたんですよ」
「買い被りすぎですよ。僕はここが好きで、このカフェには由那さんとのことがあるから、忘れられないだけです」
僕は冷め切ったカフェラテを飲んで、小さく息を吐いた。冷めてしまってはなんとなく味が苦い気がした。
「僕は由那さんのことを調べるには限界があります。果凛さんにあった時も、とても警戒をされました」
「まぁ、同級生でもないですしね……」
うーん、と腕を組んで彼女は考える。僕は彼女の方を見て、手を差し出した。
「協力していただけますか」
彼女は気まずそうに目を逸らし、あまり話したくなさそうに口を閉じていた。でもここまで聞いてそれ以上踏み込まないというのは僕には出来ない。
「……」
「未城さん、どうして由那さんの顔にしたんですか」
もう一度、僕は彼女に問いかける。すると彼女は小さくため息をついて、わかりました、と言ってから自分の分のカフェオレを持ってきて話しを始めた。
「由那が死んでから、全部が変わりました。両親は由那が死んだことをお互いのせいにして喧嘩をし始めて、母は私を見るたび由那を思い出して泣きました。似てないとはいえ、双子として生まれたから、由那と私はセットとして考えられていたみたいです」
カフェオレを飲まずカップを指で撫で彼女は話しを進めた。僕もカップには口を付けず、彼女の話しを聞いていた。静かなカフェは、元々あまりお客さんも入っていなかったのだが、気付けば僕らだけだった。
「でも未城さんは由那さんじゃない」
僕がそう言うとこく、と彼女は頷いてやっと目を合わせてくれた。なんだか少し悲しげに見えるのは、由那さんの話をしているからだろうか。カチ、カチ、と秒針の音がやたら響く。店内の音楽が次の音楽に切り替わるまでのほんの数秒。その一瞬が、沈黙が、重く感じる。
「……はい、私は由那にはなれません。それは顔を変える前からわかっていましたし、顔を変えてからもっとよくわかりました」
「ならどうして」
僕は、彼女が由那さんになりたいのだと、勝手にそう思っていた。だって、男の僕の偏見で申し訳ないけれど、整形はなりたい自分に近づくための手段だと思ったから。彼女のなりたい自分は、姉の由奈さんだったのではないだろうか。
「由那が死んでしまってから、私はその環境の変化について行くのが辛くなってしましました。それである日……」
彼女が一度口を閉ざし、小さく息を吐いてから、少し目を伏せた。僕はその言葉の続きを待った。
「事故に遭いました」
トラックの、と苦笑して言葉を続ける。何が何だかわからないまま、赤信号の横断歩道にフラフラと歩いて行ってしまった。そうしてトラックと衝突して、顔に傷ができてしまった、彼女はその話を僕と目を合わせないまま話し続ける。
それから大人になって、顔に傷があるのは、と両親の出してくれたお金と自分の貯めていたお金で整形をすることにしたそうだ。似てないとはいえ遺伝子は同じ両親のものだから、パーツを少し弄るだけで由奈さんっぽくなったらしい。
「由那がいれば、家族みんながまた幸せになると、思っていたんですが……」
「そうはいかなかった、ってことですか?」
「はい。まぁそうですよね。だって本物じゃないし」
彼女は冷めてしまったカフェオレを一口飲んだ。そしてカップを置いてから、やっとまた僕の方を見てくれた。
「トラックの事故があった時、私は死ぬのが怖かった。だから、どうして由那がそれを選んだのか、知りたいんです。そして、水戸瀬さんにも知って欲しい」
知りたい、の言葉の重みが僕の中ではっきりと変わった瞬間だった。それに、僕ももっと知りたいと思った。深く関わろうとしなかった未城由那という過去の少女のこと、そして今目の前にいる未城花那さんのことを。
由那さんが死を選んだ理由だけじゃなくて、由那さんを知りたいと思ったのだ。今更すぎて、遠くで笑われているかもしれないけれど。
「水戸瀬さんは、ずっと由那を忘れないでいてくれた。ここで働く前から、私、水戸瀬さんがこの席にいたのを知ってたんですよ」
「え、そうだったんですか」
「由那が言っていた男の子が水戸瀬さんだったことは、ラテアートを混ぜているのでわかりましたから」
由那さんの癖は、由那さんがいなくなってから僕のものになっていた。もったいない、とは、未だに思うけれど。
「由那と過ごした時間はきっと誰よりも短いのに、由那を忘れないでいてくれる、そう思ったから私、水戸瀬さんにお願いをしたんですよ」
「買い被りすぎですよ。僕はここが好きで、このカフェには由那さんとのことがあるから、忘れられないだけです」
僕は冷め切ったカフェラテを飲んで、小さく息を吐いた。冷めてしまってはなんとなく味が苦い気がした。
「僕は由那さんのことを調べるには限界があります。果凛さんにあった時も、とても警戒をされました」
「まぁ、同級生でもないですしね……」
うーん、と腕を組んで彼女は考える。僕は彼女の方を見て、手を差し出した。
「協力していただけますか」