明るいミルクティーのようなボブの髪、少し猫みたいなつり目、整った顔立ちなのか、メイクの技術なのか、彼女はとても綺麗だった。

「……あの、ミトセさんですよね?」
「あ、はい」

「ご指名ありがとうございます、リンです」

 あまりにもプロな彼女の笑みに僕は苦笑いで返す。彼女は綺麗だが、僕のタイプではないようだ。女性との付き合いなんてそんなにない僕がそんなことを思うのはとても失礼だと思ったけれど、少しでもこのレンタルの時間を楽しもうとするのならば人選ミスだった。

 今日は初回のメニューだからそんなにお金はかからない。先にお金を渡してからちょっとしたデートをして、彼女が行きたいと言ったカフェに入る。いつもの穏やかなカフェとは違い、少し混んでいた。

「……もしかして、あんまり楽しくないです?」
「いや、そうじゃないんですけど」
「ミトセさん、なんだか気まずそうですよ」

 頼んだパンケーキが来て彼女は写真を撮りながら僕にそう言った。もう自分を指名しないと思っているからか最初よりか彼女は自然体だった。

「……実は君に聞きたいことがあって」
「あ、元彼の人数くらいならいいですよ?」
「そんなの聞かないです」

 彼女は違うのか、なんて笑う。写真を撮り終わったからか食べ始めていて、僕は目の前に置かれたアイスコーヒーを飲み始めた。

「じゃあなんです?」
「……未城、由那さんの事です」

 美味しそうに食べる彼女の表情は僕を見て固まっていた。でも数秒後、また彼女はパンケーキを食べ進めた。

「私のせいじゃない」
「……え?」
「由那が死んだのは、私のせいじゃないから」

 少し怒ったような声色で彼女は言う。その言葉の意味が僕にはわからなかった。

「由那さんと何かあったんですか?」
「……ミトセさん、貴方由那とどういう関係ですか」

 僕の問いかけには答えずそんなふうに聞かれ、僕は口を閉ざす。僕らの関係は、僕が聞きたいくらいだから。

「……知り合いです」
「友人でも、元恋人でもなく?」
「僕はそのどちらにも当てはまらないです」

 パンケーキをひと口食べたあと、彼女はフォークを置いて机に頬杖を着いて僕を見つめた。

「どちらにも当てはまらないのなら、私が貴方に話すことは無いです。面白半分であの子のことを調べないで」

 吐き捨てたように言われ、それに驚いていたら注文の紙を持って彼女はレジの方に行ってしまった。

 僕は女性と接すること自体、由那さんと花那さん以外滅多になかった為、怒らせてしまったあとどう声をかければいいのか分からなかった。そして、追いかけ方も、知らない。

 女性に奢らせ、さらに振られたように一人で店を出る。なんとも言えない気持ちになった。やはりあのカフェは落ち着かなかったからか、僕はその後いつものカフェに向かった。

「あ、水戸瀬さん。今日は随分早い時間に来ましたね?」
「……今日は仕事休みだったので由那さんのことを調べていたのですが……」

 そう言って僕は先程あったことを花那さんに話した。花那さんはそれを聞きながらいつものようにラテアートをつくり、僕の席に出す。そうして向かいの席に座った。

「あははっ、レンタル彼女やったんです?」
「僕の話聞いてましたか? 由那さんのことを調べるために仕方なく……」
「はいはい、あんまり楽しくなかったってことはわかりましたよ」

 ふふ、と彼女は笑って僕を見ていた。まるでからかうように。僕はため息をついてラテアートを崩そうとスプーンをカップに入れようとして、ふと疑問が浮かんだ。

「花那さんは、果凛さんと友達ではないんですか?」

 双子、なら同じ学校だったかもしれない、そう思って問いかける。入れようとしたスプーンはまた置いて、彼女の方を見つめた。

「……違いますね。そもそも名前を見なければ私と由那が双子だったことも気付かなかったでしょうし」

 それはおかしい。だって彼女は、まるで由那さんが大人になって綺麗にメイクをしたような顔をしているのだ。僕はあの頃の由那さんばかりを思い出すから、彼女に言われるまで気付かなかったけれど。
 いや、でもそっくりだと思うのに僕はどうして気付かなかったのだろう。考え事をしているせいか口は閉じ、言葉は出ず、綺麗なハートのラテアートを僕はぐるぐるに混ぜていた。

「そんなに難しい話じゃないですよ」

 考えている僕を見て、彼女はそう言って僕の手を止めるように手を重ねていた。ハッとして、向かいに座る彼女の顔を見る。

「私と由那は二卵生双生児。似てない双子です」

「いや、でも……僕には似ているように見えるんですが……」

 僕がそう言うと今度はなんだか悲しそうな、諦めたような笑みを浮かべた。出来れば言いたくなかったけれど、と小さく呟いたのは、向かいに座る僕にしか聞こえなかっただろう。

「……整形したんです、由那に似るように」