そこは純白に彩られた壮麗な神殿だった。
中央に巨大な祭壇を備えた広間に、十数人の女が集まっている。
いずれも僧衣の彼女たちは『聖女』と呼ばれていた。
「禍々しい力を感知しました」
聖女の一人が言った。
この中でもっとも位の高い『大聖女』である。
「この力は――魔族とも違いますね。一体何者なのか……」
つぶやきながら、眉間を寄せる。
「まさか、伝説の魔竜王……神々や魔王をも超える力を持つという、あの――いえ、まさか」
「邪悪な存在、ということでしょうか、大聖女よ」
聖女の一人がたずねる。
「世界の敵になるということは考えられますか?」
「では殲滅指令を?」
他の聖女たちも口々にたずねた。
「今のところは何も」
大聖女が首を左右に振る。
「あくまでも禍々しい力を感じた、というだけのこと。その正体も、目的も、何も分かりません」
「ならば、大聖女。私を派遣してください」
一人の聖女が進み出た。
黒いベールに僧衣という修道女のような格好をした美しい少女である。
長い紫色の髪と同じく紫色をした澄んだ瞳。
名はプリム。
この中では最年少であり、もっとも強い力を秘めていると言われる有望な聖女だった。
「私が行って調べてきます」
「『七聖女』のあなたが自ら赴くというのですか?」
「私でなければ……並の聖女では手に負えないでしょう。そんな予感がします」
プリムが言った。
「では『雷鳴の聖女』プリム……あなたに任せましょう」
「もし邪悪なる者であれば、そのときは――」
プリムが力を込めて言った。
「私自らの手で粛清します」
「『聖女機関』最強と謳われるあなたなら、どんな邪悪が相手でも大丈夫です。頼みますよ」
大聖女が微笑む。
「必ずや」
プリムは凛とした顔で告げ、神殿を後にした。
※
その日の夜、村では宴が行われていた。
魔族を撃退した祝勝会のようなものだ。
また、被害を受けた建物が多数あり、その修繕や建て替えなどで、明日からは大忙しになる。
その英気を養うため、という意味合いもあるようだ。
「ゼルって、すごいスキルを持ってるんだね。驚いたわ」
ソフィアが俺の隣で微笑んだ。
「いや、まあ……」
「本当は貴族の出なんじゃない?」
くすり、と悪戯っぽく微笑むソフィア。
「ぎくう」
あ、しまった、バレバレのリアクションをしてしまった。
「えっ、本当に貴族の子息なの?」
「その、まあ、スタークっていう家の……」
「スタークって、スターク公爵!? 大臣とかだよね!?」
「父は軍部のお偉いさんだな」
「すごーい」
「俺は追放されたから、家督は弟が継ぐと思う。俺は……遠縁の貴族のところに厄介になる予定で――」
俺は苦笑交じりに説明する。
「追放……?」
キョトンとするソフィア。
「……ああ、無能スキル持ちってことで、この間追放された」
「全然無能じゃないよ!」
さらに苦笑する俺に、ソフィアは力強く首を振った。
「っていうか、超有能じゃない。あんなこと、誰にもできないよ!」
力説してくれる。
「ゼルはすごいよ」
「そ、そうか」
「あたしたち、みんな感謝してるよ! 立派だよ!」
ソフィアは力を込めて言った。
ふと見ると、他の村人たちもみんな笑顔で俺を見ている。
感謝……か。
「そうだぞ!」
「ありがとう、ゼルさん!」
「あんたが村を救ったんだ!」
「ありがとう!」
「ありがとう!」
次々に投げかけられる感謝の言葉に、なんだかジンとしてしまった。
今までの人生で正面から褒められることなんて、あんまりなかったからな。
けなされたり、失望されたりすることはあっても、褒められることはない。
特に父は俺にそう接してきた。
父からすれば、俺は役立たずの出来損ないだったんだろう。
そんな父の評価を覆したくて……『優秀な息子だ』って褒められたくて、ずっとがんばってきたけれど。
結局、最後まで俺は無能扱いされたままだった。
父の期待に応えられないままだった。
追放された今も、そのことがずっと俺の中にシコリとして残っている。
だから、こうしてソフィアに褒められると、そのシコリが少し小さくなっていく気がしたのだ。
「追放された後に、自分のスキルの使い方を知ったからな。ちょうどいいタイミングだったよ」
俺はソフィアに言った。
「ううん、スキルの強さとか、そんなことじゃない。あなたはあたしたちの村を救ってくれた。立派よ」
ソフィアがにっこりと笑った。
「本当に――ありがとう」
ぎゅっと俺の両手を握るソフィア。
柔らかくて、温かい手だった。
「いや、はは……」
俺は思いっきり照れてしまった。