帝国の動向を探るため、俺は竜魔法で各種【探知】を駆使していた。

 竜牙兵に一定の魔法効果を付与し、城壁の近くに複数配備、村に帝国軍が進軍する気配があれば、すぐ俺に連絡させるようにした。

 他にも竜牙兵はたくさんいるし、なんなら新たに生み出せる。

【探知】以外にも【斥候】や村人たちが襲われたときの【護衛】など、さまざまな竜魔法の効果を付与した竜牙兵を数十単位で作り、村の周辺に放ってある。

「来るなら来い――」

 俺はすっかり臨戦態勢だった。

 けれど、予想に反して帝国軍にそれ以上の動きはなかった。

 単に何か理由があって村を監視していただけなのか?

 そもそも、ピエルン村を狙っているわけじゃなく、近隣の都市や村などに監視虫を片っ端から放っているだけなのか?

 ともあれ、村は平和だった。

「俺もとりあえずは平和を謳歌するか……」

 帝国軍が攻めてきたら、すぐ頭を戦闘モードに切り替えるとして……それまではスローライフモードだ。



「レジャー施設を充実させる?」
「そ。観光地としてより強化するわけよ」

 俺はソフィアはそんなことを話し合っていた。

 村を発展するために何をすればいいのか、俺に何ができるのか――その考えをまとめたいとき、俺はだいたいソフィアに相談している。

 で、話しているうちに出てきたのが、冒頭のアイデアというわけだった。

「まずは定番の海水浴場だな。村の西に海岸があったろ」

 俺はソフィアに言った。

「確かに海があるといえばあるけど……」

 と、ソフィア。

「岸壁がむき出しだし、たまに海のモンスターが人を襲うって話だし……海水浴場にするのは難しいんじゃないかな?」
「岸壁に関しては砂浜に改造してみるよ」
「改造? そんなことできるの?」
「たぶん」
「なんでもできるんだね、ゼルの魔法って……」

 ソフィアは半ば感心、半ば呆れたような表情だ。

「なんでも、ってわけじゃないよ。けど、確か地形変化の竜魔法があったはず……あとで確認しておくよ」

 俺は言った。

「で、もう一つの問題はモンスターの出没か」
「そ。海水浴客が襲われたら大変よ。ここも観光客が増えてきてるけど、もしそういう事故が起きたら、一気に評判が悪くなっちゃうから」
「ああ、安全には配慮するよ」

 ソフィアに答える俺。

「とりあえずモンスター対策から始めるか。海岸にはどんなモンスターが出るんだ?」
「どうだろ? あたしもよく分からない……」
「あ、そうだ。村役場に記録があるかもしれないな」



 俺とソフィアはさっそく村役場に行ってきた。

 で、確認したところ、以下のモンスターが海岸やその付近に棲息しているようだ。

「中型モンスターの『キラーシャーク』と『ブレードシャーク』、小型モンスターの『ファングフィッシュ』と『ブルーロープ』、それからたまに大型モンスターの『デッドリィシャーク』が出る……か」

 俺はメモを見直し、つぶやく。

「サメ系のモンスターが多いな」
「近くに最上級モンスターの『インペリアルシャーク』っていうのがいるんだって。そいつが眷属であるシャーク系のモンスターを次々に生み出してるとか……」

 と、ソフィア。

「なるほど、どんどん生まれて、一部がこっちの海まで来るわけか」

 じゃあ、その『インペリアルシャーク』を倒せば、元を絶てるんじゃないか?

「うーん……簡単にはいかないかも。インペリアルシャークは海のかなり深い場所に潜んでいるみたいで、見つけることさえ難しいの」
「なら、竜魔法で深海まで潜って探してみるか……」

 思案する俺。

「ただ、海の底は彼らのホームグラウンドだよ。どこに潜んでいるか、正確な場所も分からないし、敵地に跳びこむことになるからリスクは高いかも」
「それはそうだよな」

 そもそも『深海に潜る』っていっても、竜魔法で簡単にできることなのかどうか。

 実行するためには、呼吸の確保が必須だし、水圧に耐える手段も必要だ。

 ソフィアの言う通り、簡単にはいかないかもしれないな。

「……よし、インペリアルシャークを倒す手段はおいおい考えるとして、それとは別にもう一つの手を打とう」
「もう一つの手?」
「結界を作る」

 俺はソフィアに言った。

「『インペリアルシャーク』がどれだけモンスターを生み出しても、遊泳領域まで入ってこられないようにすれば問題ないだろ?」
「それはそうだけど……遊泳場所を全域カバーできるような結界を作れるの?」
「やってみる」

 ソフィアの問いに俺は答えた。



 で、今度は海岸にやって来た。

 情報通り、岸壁が高い。

 ここは後で竜魔法を使って地形改造しよう。

 その前に、まずはモンスター対策だ。

「【竜魔法】起動――」

 俺は魔力を集中する。

「【結界生成】」

 ぼんっ!

 前方に縦横10メートルくらいの透明の壁が出現した。

「これをたくさん作って、つなげて結界にするよ」

 俺はソフィアに説明した。

「さらに【結界生成】。そんでもって、さらに【結界生成】。さらにさらに――」

 と、いくつも『透明の壁』を作り、適当な場所に移動させていく。

 最後に、

「よし、【結界連結】!」

 並べた『透明の壁』をひとつなぎにした。

 結界は遊泳場所の海の底まで全部カバーするように設置したから、これでモンスターは入ってこられないはずだ。

「まあ、結界を壊せるほど強い奴なら入ってくるかもしれないけど――」

 竜魔法の説明を読んだところ、こいつはドラゴンブレスでもビクともしないくらい頑丈ということだ。

 生半可なモンスターじゃ傷一つつけられないはず。

「すごーい!」

 ソフィアが歓声を上げた。

「ゼル、本当にすごいね! やった、後は地形を浜辺に変えることができれば、海水浴を安全に楽しめるじゃない!」
「まあ、これからもモンスターが襲ってこないとは限らない。海からじゃなく陸地から何かが現れるかもしれないし」

 と、俺。

「だから海の脅威は取り除いたけど、全部の脅威が去ったわけじゃない。これからも警戒は必要だよ」
「……だね」