無能扱いで実家から追放された俺、実は最強竜王の後継者だった。竜の王子として、あらゆる敵に無双し、便利な竜魔法で辺境の村を快適な楽園に作り変えて楽しいスローライフを送る。


「けど、具体的にどうやって守ればいいんだろう……?」

 俺は帰り道、村を守る方法を必死で考えていた。

 モンスター対策のように、ただ城壁を強化すればいいというわけじゃない。

 そんなことをしても、帝国は攻城兵器なり大規模破壊魔法なりで城壁を突破してくるだろう。

 俺の作った城壁は単純な『物理的攻撃』には強い。

 けれど、魔法を併用して弱点を攻められたり、専用の攻城兵器を使われると、さすがにいつまでも持ちこたえることはできないと思う。

 相手が並の国家ならともかく、世界最強国の一角であるバーンレイド帝国だからな……。

 だから、もっと根本的に――帝国軍を跳ね返すだけの力が必要だった。

「となると、軍隊だよなぁ……」

 自警団では、とても立ち向かえない。

 相手が軍なら、こっちも軍――。

 ……なんて辺境の村が簡単に軍隊なんて持てるわけがない。

 領主に兵を派遣してもらう、というのも難しいだろう。

 あの領主はピエルン村のことなんて眼中にない。
 あっさり見棄てるだろうからな……。

「やっぱり……自力で守るしかない、か」

 世界最強の帝国軍を相手に。

 ああ、どうしろっていうんだーっ!

 ぷしゅう……。

 悩みすぎて頭から湯気が出るような錯覚があった。

「あ、そうだ。竜魔法にそういうのはないのかな?」

 いちおう探してみよう。

 リストを呼び出し、竜魔法の一覧を眺めていく。
 と、

「竜牙兵……?」

 リストを調べていると、【竜牙兵創成】という術式があることを知った。

「なんか、見覚えがあるな、これ……」

 あ、そうだ。
 俺が竜魔法に目覚めたばかりのころに、この術名を見た覚えがあるぞ。

「どれどれ……」

 俺はリストの該当呪文が描かれた部分に触れて、より詳しい説明を表示させた。

 竜牙兵はその名の通り、竜の牙から生み出された兵士である。

 こいつは俺の言うとおりに動く……というか、俺の言うことしか聞かない。

 あまり複雑な命令は受け付けないらしく、自警団のメンバーに入れるようなことはできない。

 けれど、竜牙兵をたくさん作って、村の防衛部隊として配置したら役に立つかもしれない、と思ったのだ。

「特にバーンレイドが攻めてくるかもしれない、このご時世だと……な」

 よし、ちょっと試してみるか。

 俺はさっそく【竜牙兵創成】にチャレンジすることにした。



 俺は村の外れにある小高い丘の上にいた。

「【竜牙兵創成】!」

 練り上げた魔力を前方に向かって放出する。

 竜魔法が使えるとはいえ、俺の体はあくまでも人間のもの。

 当然、『竜の牙』なんて生えていない。
 本来の【竜牙兵創成】は本物の竜の牙を使って作り出すみたいだけど、俺にはそれができない。

 ただし、魔力を固めたものを牙の代替品にすることもできるらしい。

 俺は体内の魔力をコントロールし、竜の牙の代替品を生み出し、そこからさらに『竜牙兵』を作り出した。

 ぼわんっ。

 白煙が上がって、前方に数体の竜牙兵が出現する。

「おお~!」

 俺は思わず歓声を上げた。

 全身に白い鎧をまとった騎士。
 顔には仮面をつけている。

 竜牙兵にはいくつかのバリエーションがあり、髑髏とかゾンビなんかもいるらしく、どのタイプになるかは術者によって違うらしい。

 俺の場合は、この『騎士タイプ』だったということだろう。

「うん、なかなかいいな。髑髏やゾンビより見栄えがいいぞ」

 俺は満足した。

 といっても、外見が格好いいからといって、戦闘能力が低ければ使い物にならない。

 あくまでも目的は村の防衛である。

 こいつらには、その貴重な戦力になってもらわなければならない。

「俺はお前たちを作った者だ。魔竜王の力を受け継いだゼル・スタークという。どうか話を聞いてほしい」

 竜牙兵たちに向かって、俺はなるべく威厳が出るように言った。

 しーん……。

 竜牙兵たちの反応はない。

 あ、あれ……?

「威厳が足りなかったかな……」

 といっても、どうやったら出るんだろう、威厳……。

 もしかして、作ることには成功したけど、竜牙兵たちは俺を主として認めてくれてないとか?

 やっぱり威厳か?
 ううん、俺はカリスマがあるタイプじゃないからなぁ。

 しーん……。

 相変わらず竜牙兵たちは無言だ。
 もともと『話す』機能がついていないだけなのか。
 それとも俺を主として認めていないという無言の意思表示だろうか。

 しーん……。

「ま、待って!? やめて!? ずっと無言だとプレッシャーかかるから!?」

 俺は思わず竜牙兵たちに懇願した。

 彼らからのリアクションは、なし。

 よし、とりあえず俺がこいつらを作り出した理由を説明しよう。
 威厳はなくても、対話はできる。

 そうやって竜牙兵たちとコミュニケーションを取り、主従関係を結んでみせる……!

「お前たちにはこの村の防衛部隊として戦ってもらいたい。いいか?」

 ヴンッ。

 彼らがつけている仮面の瞳部分が、一斉に赤く輝いた。
 今のが返事……ってことでいいんだろうか?

「了承した、って意味でいいのか? そうなら、右手を上げてくれ。違うなら左手を」

 ささっ。

 俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、全員が右手を上げた。

「おお、ちゃんと意思疎通ができそうだ」

 俺は嬉しくなった。

「じゃあ、お前たちの目が赤く光ったら『了承』って意味でとらえるぞ。違った場合は何か意思表示してくれ」

 ヴンッ。

 彼らの目が赤く光る。

 お、言葉でのやりとりはできないみたいだけど、これでも結構コミュニケーションが取れるな。

「そういえば、『了承しない』場合はどんな意思表示になるんだ?」

 ヴンッ、ヴンッ。

 彼らの目が二回光った。

「なるほど」

 分かりやすい。

「よし、じゃあ、さっそくだけどお前たちの基本的な能力を見たい。個々の戦闘能力と連携能力辺りを――」

 さあ、訓練開始だ。
 一通りの訓練を終え――、

「コンビネーションすごいな、お前たち」

 俺は感心していた。
 まさに一糸乱れぬ動きってやつだ。

 ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。

 彼らの目が三回光った。

「ん、三回の場合はなんだ?」

 首をかしげる俺。

 竜牙兵たちは何やら手足をわちゃわちゃ動かしている。

「うーん……イマイチ分からないな。もうちょっとヒントをくれ」

 竜牙兵たちはいっせいに顎に手を当て、考えるようなポーズ。

 迷っている、というジェスチャーだろうか。

 しばらくして一部の竜牙兵が、

 ぴょーん、ぴょーん。

 飛び跳ね始めた。

「ん、なんだ?」

 ぴょーん、ぴょーん。

 軽やかに跳んでいる。

「なんだろう……?」

 ぴょーん、ぴょーん。

 なんだか楽しそうに見えてきた。

「楽しそう……いや、そうか。楽しいってことか!」

 ヴンッ。

 彼らの目が一度光った。

 今のは『イエス』という意味なんだろう。

「ありがとう、けっこう意思疎通できるな」

 なんだか嬉しくなってきた。

 ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ。

 竜牙兵たちの目がいっせいに三回光る。

 そっか、彼らも嬉しいんだ。



 そうやってしばらく訓練していると――、

「あら、こんなところにいらしたんですね」

 やって来たのはプリムだった。

「これは――『竜牙兵』ですか? 文献で見たことがあります」
「ああ、竜魔法の中にこいつを作る術式を見つけたんだ」

 と、説明する俺。

「これって『竜の牙』を用いて兵士を生み出す呪法でしょう? ゼルさん、竜の牙なんて生えてるんですか?」
「いや、生えてないよ……って顔近っ!?」
「つい興味が」

 プリムは俺の間近にまで顔を接近させていた。
 じーっと俺の口の辺りを見つめている。

「ほ、ほら、ないだろ」

 口を開けて歯を見せてみた。

「……ないです」

 プリムは納得した様子だ。

「すみません、口の中を見たりして」
「いいけど、意外と好奇心旺盛なタイプなのか、プリムって」
「です」

 プリムが微笑んだ。

 それから、ふいに彼女が顔を赤らめた。

「あ……顔近かったですね、す、すみません……っ」

 言われてみれば、彼女が俺の顔を覗きこむ格好のため、かなりの至近距離だ。

 言われたことで、俺もつい意識してしまう。

 あらためて見るまでもなく、プリムって超絶美少女だよな……。

「く、唇を奪われてしまいそうなほど近いです」

 いや、奪わないから……。

「どきどきしました」
「えっ」
「い、いえ、なんでも……っ」

 プリムは慌てたように両手を振る。

 その顔はさっきにも増して赤くなっていた。



 竜牙兵の訓練を終え、俺は自宅に戻った。

 ちなみに竜牙兵は待機状態で近くの洞窟に入れてある。

 竜牙兵の機能の一つに『オン・オフ』というものがあり、マスターである俺が『オフ』状態に設定すると、人間でいう睡眠状態みたいになって動かなくなるのだ。

 その間、少しずつ彼らの動力である魔力が自然回復していくので、エネルギーチャージという面でも『オフ』状態にするのは大事である。

 ま、人間の睡眠と一緒だな。

 で、自宅到着。

「おつかれさま、ゼル」
「おー、今まで訓練してたのか」

 家の前にはソフィアと傭兵のエレーンさんがいた。

「どうも」
「村のために色々ありがと」

 ソフィアが俺に駆け寄ってきて、タオルを渡した。

「少し汗かいてるんじゃない? あ、今から飲み物用意するからね」
「ありがとう」
「ははは、かいがいしいねぇ」

 エレーンさんが俺たちを見て笑った。

「恋する乙女ってのは初々しくていいよ。うん」
「えっ、恋する乙女?」
「ち、ちょちょちょちょちょちょちょっと、エレーンさんっっっ!」

 ソフィアが顔を真っ赤にして叫んだ。

「それは内緒ですから!」
「ん、なんだ? バレバレだろう」
「少なくともゼルにはバレてないはずです」
「んー……まあ、鈍感そうだしなぁ」
「???」

 ジト目でこっちを見る二人に、俺はハテナ顔だった。

「そうだ、あたしからも差し入れ」

 エレーンさんが飲み物の入ったコップを差し出した。
 村の名産であるニンジンをジュースにしたものだ。

「ほら、どうぞ」
「ありがとう、エレーンさん」

 受け取って、一口。

 うん、美味い。

 素材の味がよく出ていて、全身に染みわたるような美味しさだった。

「さっきまで井戸で冷やしておいたんだよ。あたしにできるのは、これくらいだからね」
「そんなことないですよ。自警団の仕事以外にも役場の仕事とか、色々手伝ってくれてるんでしょう?」

 俺は彼女に微笑んだ。

「みんな、それぞれできることをやってる。それでいいと思いますよ」
「だな。あたしも自分にやれることをやるさ」

 と、エレーンさん。

 そう、みんな自分のできることを精一杯やっている。

 だから、この村は発展し続けているんだ――。



 俺が村に来た頃は、特になんていうこともない平凡で平穏な村だった。

 同時に、村の周辺に出るモンスターや、時折現れる魔族などに苦しめられていた。

 また貧困にも苦しんでいた。

 けれど、俺の竜魔法によって魔族やモンスターの襲来は事前に防げるようになったし、仮に侵入されても俺を中心に迎撃する体制が整った。

 村の貧困問題もチート農作物を開発したり、それに付随する経済効果で一気に改善した。

 そんなことが続くうちに、村の人たちも、自分たちの環境をよりよくしたいという意識が強くなっていったんだと思う。

 実際、村のインフラもだいぶ充実してきた。

 川から引っ張ってきた水をもとにした上下水道。

 主要な通り道は石畳で舗装し、定期的に馬車を運航して交通網を整備。

 さらに村の各所には他の都市との手紙や魔導通信などの連絡手段を構築してある。

 その根幹になるのが、俺の竜魔法である。

 今日はその竜魔法によるインフラ整備が正常に稼働しているかを、チェックして回っていた。

 特に上下水道を入念にチェックしている。
 と、

「毎日忙しいですね、ゼルさんは」

 プリムがやって来た。

「まあ、竜魔法関係は俺しか扱えないからな……タスクが多くなるのは、ある程度しょうがないさ」

 苦笑する俺。

「そういえばプリムは『聖女機関』に戻らなくてもいいのか?」

 ふと思って、たずねてみた。

「この村に来てから、けっこう長いだろ」

 もともと彼女は、『魔竜王の力を継ぐ者』がこの村に現れたと感じて、やって来たのだ。

 俺のことを世界の敵だと認定するか否か――もし彼女がそう認定していたら、今ごろ俺はどうなっていただろうか。

 ……『聖女機関』の攻撃を受けていたかもしれない。

 そう考えるとゾッとするな。

「私はあなたの監視役ですので。今後も引き続き」

 プリムが微笑む。

「村に滞在して任務をこなします……といっても、実質的には村で楽しく過ごしているだけなんですけどね」

 と、その笑みが悪戯っぽいものに変わる。

「あなたが世界の敵になるとは思えませんもの」
「じゃあ、今後ともよろしく」

 俺はにっこり笑った。

「ゼルさんは、私のことをどう思ってらっしゃるのですか?」

 プリムが真剣な表情でたずねた。

「どう思って、って……」

 まるで恋の告白みたいな台詞だ。
 もちろん、そんな意味じゃないことは分かってるけど。

「えっ、あ、や、やだ、えっと、そ、そういう意味じゃ……ないです……」

 急にプリムが顔を赤らめた。

「恋の告白みたいな台詞でしたね、あはは……」

 照れているらしい。

「……というか、ゼルさんは私のことを嫌ってますよね?」
「えっ」

 俺は驚いた。

 プリムを嫌う理由なんてない。

 村で何か月も一緒に過ごしてきた仲間だし、レオニーアさんの一件では詐欺契約に引っかかりそうになるところを助けてもらった。

 他にも普段からの作業を手伝ってもらうことも多い。

「だって私はあなたを『世界の敵』として認識していたんですよ。今は……違うと思っていますが、初めて会ったときは警戒していました」
「まあ……ピリピリしてたもんな」

 言って俺は苦笑する。

「でも嫌う理由なんてないよ。今までさんざん世話になったし、楽しく過ごしたこともいっぱいあった。俺たち、友だちだろ?」
「えっ……とも……だち……?」

 俺の言葉に、プリムは目を丸くしていた。

「あ、あれ? 友だちだと思ってたのは、俺だけ……」

 ちょっと落ち込んでしまう。

「ち、違います! いえ、そのっ、私のことをそんな風に見てくれているとは思いもよらず――」
「いやぁ、付き合いも長くなってきたしさ。一緒にいろんなイベントもこなしたし、友だちってことでいいかな、って」

 相手との関係が『友だちなのかどうか』をわざわざ説明するのって、妙に照れるな……。

 しかも、相手はちゃんと俺のことを友だち認定してくれてるんだろうか?

 何せ、出会った当初は明確に俺のことを敵認定してたからな……。

「友だち――」

 プリムがふふっと微笑んだ。

「や、やっぱり……友だち認定はナシ……?」
「いえ、嬉しいです」

 言いながら、彼女は目元をぬぐった。

 もしかして、泣いてる……?

「すみません。なんだか嬉しくて、つい」

 プリムは照れつつ泣き笑いをするという、なかなか複雑な表情を浮かべていた。

    ※

「よかった、プリムさんとは友だち止まりなんだ……」

 ソフィアは二人の様子をそっと覗いていた。

 ゼルが『今日は村のインフラを点検する』と言っていたので、作業場所を予想して先回りしてきたのだが――。

 そうして偶然を装って彼に会おうと思ったら、すでに先客がいた。

 プリムは、偶然ゼルと出会ったのだろうか?

 それとも、まさか――。

(あたしと同じこと考えて、先回りしていた……?)

 だとすれば、恋のライバルだ。

「プリムさんのことは好きだけど、ゼルに関しては譲れないのよね――」
「ふふん、気になるのかい」
「ひあああああっ!?」

 いきなり声をかけられ、ソフィアは思わず飛び上がってしまった。

「あ、びっくりさせた? ごめんね~」

 明るい声とともに現れたのは、傭兵のエレーンだ。

「コソコソして何してるのかな、と思ったら……片想い相手を見てたわけだ」
「か、かかかかか片想いとか別にそういうわけじゃあのその」
「もうバレバレだし認めたら? 別に言いふらしたりしないさ」
「……うう、そうです」

 エレーンの追及に、ソフィアはあっさり白状した。

「うーん、今のところ彼が誰かを好きな様子はないんだよね」

 と、エレーン。

 傭兵だから武骨でそういった恋とか人情の機微には疎いのだと勝手に思っていた。

 意外なほどコイバナも『いける口』らしい。

「ソフィアはゼルの一番身近にいる女の一人なんだし、とにかく距離を詰め続けて、あとは勢いで落とせばいいさ」
「距離を……詰める……」

 まあ、それが難しいのだが。

「あたしもなんかサポートするよ。気が向いたらね」
「ありがとうございます」

 ソフィアはペコリと頭を下げた。

「で、どこがいいわけ?」
「……彼に恋しちゃいけませんか」

 ソフィアはムッとしてエレーンを見据えた。

 彼を馬鹿にされたのかと思ったのだ。

「いつも村の人たちのために一生懸命働いて、時には村の危機に立ち向かって、時にはあたしと一緒に他愛のないことで笑ったり、遊んだり……そんな彼に、気が付いたら……惹かれていて」

 言いながら、だんだん恥ずかしさが増していく。

 しゅううう……と頭から湯気が出そうだ。

「はは、他意はないよ。ごめんごめん」

 苦笑交じりに謝るエレーン。

「どこを好きになったのかな、って思っただけ」
「あ……すみません、あたしこそ」

 ソフィアは頭を下げ、

「どうやったら距離を縮められるでしょうか……?」
「うーん……あたしも剣で斬ったはったの世界で生きてきたからねぇ。恋愛マスターってわけじゃないし」
「でも、エレーンさん美人だし、明るいし、かっこいいし、きっと言い寄られることもあったんじゃないですか? 恋愛経験けっこうあるんじゃないですか、ねえねえ?」
「ふふ、女に過去を聞くのは野暮じゃない?」
「恋愛初心者のあたしにご指導ください、上級者様」

 ソフィアはすがるようにエレーンに請うた。

「あははは、上級者かどうかは分からないけど、まあソフィアよりは経験あるかもね」

 エレーンが苦笑する。

「あたしでよければ知恵貸そうか?」
「やったー!」

 ソフィアは両手を上げてバンザイした。

「で、では、さっそく……ゼルと距離を縮める方法を伝授してください! こう必勝法とか攻略法みたいなものを……」

 帝国の動向を探るため、俺は竜魔法で各種【探知】を駆使していた。

 竜牙兵に一定の魔法効果を付与し、城壁の近くに複数配備、村に帝国軍が進軍する気配があれば、すぐ俺に連絡させるようにした。

 他にも竜牙兵はたくさんいるし、なんなら新たに生み出せる。

【探知】以外にも【斥候】や村人たちが襲われたときの【護衛】など、さまざまな竜魔法の効果を付与した竜牙兵を数十単位で作り、村の周辺に放ってある。

「来るなら来い――」

 俺はすっかり臨戦態勢だった。

 けれど、予想に反して帝国軍にそれ以上の動きはなかった。

 単に何か理由があって村を監視していただけなのか?

 そもそも、ピエルン村を狙っているわけじゃなく、近隣の都市や村などに監視虫を片っ端から放っているだけなのか?

 ともあれ、村は平和だった。

「俺もとりあえずは平和を謳歌するか……」

 帝国軍が攻めてきたら、すぐ頭を戦闘モードに切り替えるとして……それまではスローライフモードだ。



「レジャー施設を充実させる?」
「そ。観光地としてより強化するわけよ」

 俺はソフィアはそんなことを話し合っていた。

 村を発展するために何をすればいいのか、俺に何ができるのか――その考えをまとめたいとき、俺はだいたいソフィアに相談している。

 で、話しているうちに出てきたのが、冒頭のアイデアというわけだった。

「まずは定番の海水浴場だな。村の西に海岸があったろ」

 俺はソフィアに言った。

「確かに海があるといえばあるけど……」

 と、ソフィア。

「岸壁がむき出しだし、たまに海のモンスターが人を襲うって話だし……海水浴場にするのは難しいんじゃないかな?」
「岸壁に関しては砂浜に改造してみるよ」
「改造? そんなことできるの?」
「たぶん」
「なんでもできるんだね、ゼルの魔法って……」

 ソフィアは半ば感心、半ば呆れたような表情だ。

「なんでも、ってわけじゃないよ。けど、確か地形変化の竜魔法があったはず……あとで確認しておくよ」

 俺は言った。

「で、もう一つの問題はモンスターの出没か」
「そ。海水浴客が襲われたら大変よ。ここも観光客が増えてきてるけど、もしそういう事故が起きたら、一気に評判が悪くなっちゃうから」
「ああ、安全には配慮するよ」

 ソフィアに答える俺。

「とりあえずモンスター対策から始めるか。海岸にはどんなモンスターが出るんだ?」
「どうだろ? あたしもよく分からない……」
「あ、そうだ。村役場に記録があるかもしれないな」



 俺とソフィアはさっそく村役場に行ってきた。

 で、確認したところ、以下のモンスターが海岸やその付近に棲息しているようだ。

「中型モンスターの『キラーシャーク』と『ブレードシャーク』、小型モンスターの『ファングフィッシュ』と『ブルーロープ』、それからたまに大型モンスターの『デッドリィシャーク』が出る……か」

 俺はメモを見直し、つぶやく。

「サメ系のモンスターが多いな」
「近くに最上級モンスターの『インペリアルシャーク』っていうのがいるんだって。そいつが眷属であるシャーク系のモンスターを次々に生み出してるとか……」

 と、ソフィア。

「なるほど、どんどん生まれて、一部がこっちの海まで来るわけか」

 じゃあ、その『インペリアルシャーク』を倒せば、元を絶てるんじゃないか?

「うーん……簡単にはいかないかも。インペリアルシャークは海のかなり深い場所に潜んでいるみたいで、見つけることさえ難しいの」
「なら、竜魔法で深海まで潜って探してみるか……」

 思案する俺。

「ただ、海の底は彼らのホームグラウンドだよ。どこに潜んでいるか、正確な場所も分からないし、敵地に跳びこむことになるからリスクは高いかも」
「それはそうだよな」

 そもそも『深海に潜る』っていっても、竜魔法で簡単にできることなのかどうか。

 実行するためには、呼吸の確保が必須だし、水圧に耐える手段も必要だ。

 ソフィアの言う通り、簡単にはいかないかもしれないな。

「……よし、インペリアルシャークを倒す手段はおいおい考えるとして、それとは別にもう一つの手を打とう」
「もう一つの手?」
「結界を作る」

 俺はソフィアに言った。

「『インペリアルシャーク』がどれだけモンスターを生み出しても、遊泳領域まで入ってこられないようにすれば問題ないだろ?」
「それはそうだけど……遊泳場所を全域カバーできるような結界を作れるの?」
「やってみる」

 ソフィアの問いに俺は答えた。



 で、今度は海岸にやって来た。

 情報通り、岸壁が高い。

 ここは後で竜魔法を使って地形改造しよう。

 その前に、まずはモンスター対策だ。

「【竜魔法】起動――」

 俺は魔力を集中する。

「【結界生成】」

 ぼんっ!

 前方に縦横10メートルくらいの透明の壁が出現した。

「これをたくさん作って、つなげて結界にするよ」

 俺はソフィアに説明した。

「さらに【結界生成】。そんでもって、さらに【結界生成】。さらにさらに――」

 と、いくつも『透明の壁』を作り、適当な場所に移動させていく。

 最後に、

「よし、【結界連結】!」

 並べた『透明の壁』をひとつなぎにした。

 結界は遊泳場所の海の底まで全部カバーするように設置したから、これでモンスターは入ってこられないはずだ。

「まあ、結界を壊せるほど強い奴なら入ってくるかもしれないけど――」

 竜魔法の説明を読んだところ、こいつはドラゴンブレスでもビクともしないくらい頑丈ということだ。

 生半可なモンスターじゃ傷一つつけられないはず。

「すごーい!」

 ソフィアが歓声を上げた。

「ゼル、本当にすごいね! やった、後は地形を浜辺に変えることができれば、海水浴を安全に楽しめるじゃない!」
「まあ、これからもモンスターが襲ってこないとは限らない。海からじゃなく陸地から何かが現れるかもしれないし」

 と、俺。

「だから海の脅威は取り除いたけど、全部の脅威が去ったわけじゃない。これからも警戒は必要だよ」
「……だね」
 そして一週間後。

 地道な作業で地形改造やらモンスター対策やらを進め、ようやく一段落した。

 というわけで、身近な人間を誘って、今日は海水浴である。

 もちろん、単なるレジャーじゃなくて、実際に海水浴をすることで新たな問題点を探る意味もある。

 で、そのメンバーというと、プリムにソフィア、エレーンさんといったいつもの面子だ。

 また、他にも近所の人とか、ソフィアの友だちとか、エレーンさんの傭兵仲間なんかもいて、総勢で30人ほど。

 なかなかにぎやかな一向になった。
 で、

「よーし、さっそく……」

 俺はソフィアやプリムたちを振り返った。

「遊ぶぞ~!」
「やったー!」
「はーい」
「ふふ、海水浴なんて何年振りかねぇ」

 水着姿のソフィア、プリム、エレーンさんが嬉しそうに笑う。

「お、みなさん、おそろいで」

 派手なビキニ姿の美女が歩いて来た。

 ん、誰だ――って、

「レオニーアさん!?」

 以前、村の作物の独占契約を持ち掛け、俺たちを詐欺同然の契約で騙そうとした悪徳商人だ。

「いややなぁ、警戒せんといてや」

 レオニーアさんが苦笑する。

「この前のことは堪忍してな。ウチもちょっとそっちに不利な契約にしすぎたなぁ思って反省してるんや」
「してなさそうですけど」
「そんなことないって! ウチの目ぇ、見てな」
「欲望が渦巻いてるように見える」
「うぐっ……そ、そんなことないで」

 俺がストレートに言ったら、レオニーアさんはたじろいでしまった。

 きっと今回やって来たのも、何か金が絡んだことだろう。

 絶対そうに決まってる――。

「いややなぁ、ウチはゼルさんたちと親睦を深めたかったんや」
「親睦……」
「で、うちの商会に任せてもらえれば、この海水浴場を有料化して村の資金に――」
「いや、ここは無料だから」

 っていうか、親睦を深めるって言った舌の根が乾かないうちに新しい契約――きっとまた詐欺同然のあくどいやつだろう――を持ちかけてるじゃないか。

「怪しいなぁ……」

 俺はレオニーアさんをジト目で見た。

「あらぁ? そんなじっくり見られたら照れるなぁ。ウチの水着姿、気になるんか?」

 言いながら、レオニーアが体をくねらせ、しなを作った。

 露出度の高いビキニ水着で、しかもやたらとナイスバディなので色っぽい。

「うう……」

 ドキッとはするものの、俺としてはやっぱりレオニーアへの警戒心が強かった。

「ふふふ、ほれほれ」

 すり寄ってくるレオニーアさん。

「ねえ、契約書……かわしてくれまへん?」
「って、色仕掛けか!」
「むむ、色仕掛け!?」

 ソフィアがすごい形相で振り返った。

 さっきまではプリムと波打ち際で遊んでいたようだ。

「ゼルにちょっかい出すのは禁止!」
「んん~? 別にあんたがゼルさんの彼女ってわけやないやろ? ウチが彼とイチャイチャするのは自由やん」
「イチャイチャはしてないぞ」
「イチャイチャするのは、もっとだめ~!」

 俺のツッコミをはるかに上回る声量でソフィアが叫んだ。

「な、なんか、すごい勢いだな……」
「とにかくっ! ゼルに近づいちゃダメっ! ゼルにアプローチするのはもっとダメっ! だってゼルは、あたしの……あたしの……」
「んん? やっぱり、あんたはゼルさんのことを――」
「っ……! そこはツッコんじゃダメっ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶソフィア。
 さっきから叫びっぱなしである。

「ソフィアちゃんはウチにダメダメばっかり言うなぁ」

 レオニーアさんが肩をすくめた。



 なおもワイワイ言い合っている二人から、俺はそっと離れた。
 と、

「平和ですね」

 プリムがにっこりと微笑みながら近づいてくる。

 明るいひまわり色のビキニとパレオの組み合わせだ。

 ……意外と胸があるんだな、プリムって。

 普段は体のラインが出にくい僧衣を着ているから分からなかったけど、こうしてみると彼女の胸元はむっちりと肉が盛り上がっていて、魅惑的な膨らみを作り出していた。

 清楚な雰囲気とのギャップで、よけいにエロく見える。

「……どうかしました?」
「えっ」
「何か微妙に視線が怪しいような……?」

 言いながら、プリムは若干ジト目になっていた。

 ぎくりっ。

 俺がプリムの胸を見てたことを気づかれたか……!?

 い、いや、落ち着け、ゼル。
 まだ俺がプリムをエロい目でみてしまったことに気づかれたとはかぎらない。

 単に俺が挙動不審に見えたのかもしれない。

 とにかく、ごまかさねば――。

「み、みんなで海に入ろう!」

 俺は急いで話題を変えた。

「ふふ、その前に準備運動ですね。いちにー、さんしー」

 プリムは微笑みながら準部運動を始めた。
 俺たちも同じく準備運動をする。

「にーにー、さんしー」
「さんにー、さんしー」

 一通り準備運動をして、プリムやソフィア、エレーンさんと一緒に海に入った。
 しばらく浜辺沿いで泳いでいると波が大きくなってきた。

「ゼル、あの波に乗らない?」
「お、いいな」

 ソフィアに誘われ、俺たちは二人で波に向かって及ぶ。

 ざっぱーん。

 波にさらわれ、流されていく俺たち。

 水しぶきが舞い上がる中、俺たちは笑顔だった。
 楽しい――。

「ウチも混ぜてーな」

 レオニーアさんがにっこり笑って泳いできた。

 豊かな胸がぷるんぷるん揺れている。

 さっきプリムに指摘されたみたいに、レオニーアさんにも『どこ見てるん? ウチの胸? あははは』とか言われそうだから、慌てて視線を逸らす。

「どこ見てるん? ウチの胸? あははは」

 本当に言われた!

「み、見てませんよ……」
「むむむ……ゼルを誘惑してる……」

 ソフィアが顔をしかめた。

 やっぱりレオニーアさんには含むところがあるんだろう。

 とはいえ、せっかくの海水浴だ。

 ここはいったん過去のわだかまりを捨てて、一緒に楽しんでもいいか。



 ソフィアやレオニーアさんと一通り泳いだ後、俺はいったん浜辺に上がった。
 ソフィアとレオニーアさんは引き続き波とたわむれている。

「わーい、また波が来た~!」
「だんだん波が大きくなるな~。ウチの故郷には海がなかったから、こういうのは楽しいわ」
「へえ、レオニーアさんって内陸部の出身?」
「ああ、生まれも育ちもゼラニス王国や」

 意外と仲良く話してるな。

 と、前方ではプリムが貝殻を拾っていた。

「あ、ゼルさん。見てください、綺麗な貝殻がたくさん――」

 うっとりした顔だ。

「こういうの、好きなんだな」
「ええ、可愛いし、綺麗だし……集めて、後でアクセサリーに加工しようかな、って」
「えっ、そういうこともできるんだ」
「意外と器用なんですよ、私」

 にっこり笑うプリム。

「あ、ゼルさんも一緒に探してくれませんか。こっちの方にもたくさん貝殻があって……」
「ああ、二人で探すか」

 今度はプリムと一緒に貝殻探しを楽しむ俺。



 ――そうやって俺たちは日暮れ前まで海水浴を楽しんだ。

 うん、これは思った以上に楽しいぞ。

 周辺を整備して、観光客が遊べるように色々整えたいな。

 モンスター封じの結界を万全にするのは当然だけど、食堂関係とか土産物屋とか……まだまだやらなきゃいけないことがいっぱいだ。

    ※

 一方、そのころ。

「見えて来たよ、グラント」
「ピエルン村……以前より城壁が強化されているな」

 フィオは魔法による遠隔視で、グラントは双眼鏡でそれぞれ遠方からピエルン村を観察していた。

 二人の背後には数千の兵士。
 これから村に攻め入るための手勢だ。

「各員、装備の最終点検。それから小隊ごとに作戦行動の最終確認だ。決行は明日の早朝。それまで準備を怠るなよ」

 グラントが命令を下す。

 村には一人、強大な魔術師がいるという情報が入っている。

 また、未確認だがあの『雷鳴の聖女』が潜伏しているという噂もある。

「一筋縄ではいかないだろうな……だが、我ら帝国軍は不敗、無敵。必ずや皇帝陛下のご期待に応え、勝利を手にしてみせる……!」

 開戦は、いよいよ明日――。

 その日の昼下がり、村は大騒ぎになっていた。

「大変だ! 帝国が攻めてきた!」

 村人たちが騒いでいる。

 バーンレイド帝国――。

 この間の監視虫は、やっぱりピエルン村を攻めるための偵察だったわけだ。

「俺が出ます。みんなは安全な場所に避難して!」

 言って、俺は村外れに向かう。

 どくん、どくん……。

 心臓の鼓動が痛いくらいに高まっていた。

 正直、不安はある。

 怖い。
 恐ろしい。

 帝国がこの村を侵略しようとしているなら――それはつまり戦争だ。

 魔族相手に戦ったときとは、違う緊張感。

 そう、今回の相手は人間なんだから――。

「ゼル……!」
「ゼルさん……!」
「こんなことになるとはねぇ」

 ソフィア、プリム、エレーンさんがやって来た。

「俺が行ってくるよ。みんなは避難していて」
「……私も行きます」

 と、プリム。

「これでも七聖女の一人ですからね。帝国軍くらいに負けはしません」
「聖女は中立の存在なんだろ? ましてプリムはトップクラスの聖女じゃないか。ここで戦争に介入するのは、あまりよくないと思う」
「そ、それは……」

 俺の言葉にプリムが口ごもった。

 本当は分かっているのだろう、そんなことは。

 それでも加勢したいと思った。

 思ってくれた。

 この村のために――。

「気持ちだけもらっておくよ。戦いは俺に任せてくれ」
「おっと、あたしもいるからね」
「いや、エレーンさんは村の中にいてほしい」

 元気に告げるエレーンさんに、俺は言った。

「別動隊が村に入ってきたり、あるいは非道や略奪が起きた場合は、これを守ってほしいんだ」
「……なるほど」

 うなずくエレーンさん。

 でも、本当のことを言うと、彼女が心配だったのだ。

 もちろんエレーンさんは歴戦の猛者だし、相手が帝国軍でもそうそう遅れを取ることはないだろう。

 けれど、これは戦争だ。
 絶対安全というわけじゃない。

 だから、ここは俺一人でやりたかった。

 神々をも凌駕するほどの『魔竜王の力』を受け継ぐ俺なら――。

 相手が帝国軍だろうと圧倒できる。

 いや、圧倒しなきゃいけない。
 村を守るために。

 犠牲を一人も出さないために。



 そして、俺は一人で現場にたどり着いた。



「本当に来たんだ――」

 俺はごくりと喉を鳴らした。

 前方にはずらりと並んだ黒い甲冑姿の騎士団。

 その後方には弓兵部隊や魔法師団が控えているはずだ。
 さすがに大陸有数の強国だけあって、その威圧感はすさまじい。

「いや、大丈夫。こっちにだって強力な防衛部隊があるんだ――」

 俺は右手をさっと掲げた。

「竜牙兵団!」

 ヴンッ。
 ヴンッ。
 ヴンッ。

 俺の背後で光る無数の赤い目。
 この村を守る頼もしい戦士たち――竜牙兵団だ。

「楔の陣形を取れ!」

 俺は彼らに命令する。

 遠距離攻撃をかいくぐり、突撃して奴らの陣形を崩す。

 こちらの作戦はシンプルだ。

 逆に奴らとすれば、そうなる前に遠距離攻撃でこちらを殲滅する――という心づもりだろう。

 ごうっ!
 ばりばりばりっ!

 次の瞬間、帝国軍からいっせいに火球や雷撃などが飛んできた。
 魔法師団による遠距離攻撃!

「【滅亡の竜炎】!」

 俺はすかさず竜魔法による火炎で迎撃する。

 おそらく数百人単位の魔術師が放ったであろう魔法攻撃の一群を、

 じゅおおおっ……!

 俺の放った火炎があっさりと吹き散らした。

「な、なんだと……!?」
「馬鹿な、あれだけの数の攻撃魔法を消し飛ばした……!?」

 向こうからどよめきが聞こえる。

 俺は、あらかじめ竜魔法で視力や聴力などを強化してあるので、そういった声も鮮明に聞こえるのだった。

 強化した視力で見ると、兵士たちはいちように驚いている。

 中には明らかに恐怖しているものもいる。

 よし、威嚇の一発を撃っておくか。
 相手の士気をくじくためにも、こっちの『力』を見せつけることは重要だ。

「【滅亡の竜雷】!」

 俺は竜魔法による雷撃を放った。

 着弾点は、俺と帝国軍との中間点。



 ばりばりばりっ……。
 ずごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!



 大音響と大爆発。
 前方に巨大なクレーターが形成された。

「……………………」

 帝国軍は全員、口をあんぐりと開け、目を点にしている。

「まだまだ――」

 俺はさらに同じ魔法を立て続けに三発放った。

 大音響と大爆発×3。

 クレーターは全部で四つになった。

「な、ななななななななな、なんだこいつ――」
「ば、バケモンだ! 殺される――」

 たちまちパニックになる帝国軍たち。

「次は――お前たちに当てようか?」

 俺はニヤリと笑って言い放った。

 聞こえやすいように、風を操る竜魔法で声を大きくして響き渡らせる。

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ……!」

 帝国軍はたちまち崩れ出した。

「……っと、【スロウ】」

 俺は急いで竜魔法を唱える。

 こいつは対象の動きを遅くする竜魔法だ。

 我先にと逃げ出すと怪我したり、最悪の場合、踏みつぶされて死亡する兵士が出てくるかもしれない。

 それを防ぐために、彼らの動きをゆっくりにしたのだ。

「逃げる奴は慌てず落ち着いて逃げろよ。追撃しないからな」

 と警告する。

「――ふん、随分とお優しいことで」

 逃げる兵士たちの向こうから、二つのシルエットが現れた。

 悠然と歩いてくる。

 どうやら、他の兵士たちと違ってパニックになったり、俺の竜魔法を恐れたりはしていないようだ。

 兵たちとは圧倒的に『格』が違う――。
 そんな雰囲気をまとっていた。

「ん……?」

 そこで俺は一つの違和感を覚えた。

 彼らの動きはまったくよどみがない。
 兵士たちは【スロウ】の影響でゆっくり逃げているのに。

 あいつら――。

 俺の【スロウ】にかかっていないぞ。

 竜魔法に抵抗(レジスト)しているのか――!

 ハッと気づく。

 魔法には『抵抗』という対抗手段があるそうだ。
 己の魔力を高めたり、あるいは専用の術式を使い、自分にかけられた魔法効果を打ち消す術。

 あの二人は『抵抗』を行うことで【スロウ】を無効化しているようだった。

 並の魔法ならともかく、竜魔法に『抵抗』するなんて――。

 さすがに帝国軍の魔術師はレベルが違う、ということか、

 と、その二人は俺の数メートル前方までやって来て、そこで足を止めた。

「俺はグラント。帝国の騎士団長を務めている」
「あたしはフィオ。魔法師団長さ」

 黒ずくめの騎士と魔術師が名乗った。
 こいつらが――おそらくはこの部隊の要だろう。

「つまり、お前たちを退ければ……他のザコどもは総崩れになる」

 ……といいなぁ。

 ま、希望的観測が多分に入っているけれど。
 まずはこいつらを撃退しよう。

「俺たちを退ける、か。はは、威勢がいいね」

 黒騎士グラントが笑った。

「身の程知らず、とでも言いたいのか?」
「いや、威勢のいい奴は嫌いじゃない、ってだけさ」

 グラントが剣を抜く。

「最近は帝国の黒騎士グラントの名を聞くだけで、誰も一騎打ちに応じてくれなくてね。武人として少々退屈していたんだ。君も俺の名前を聞いても恐れていない。いいぞ」
「……いや、そもそもよく知らないので」
「!? 知らない!? 帝国の黒騎士グラントを!? いや、戦場では有名だろ!超有名人だ!」
「自分で超有名人とか言われても……」

 なんか急に小物に見えてきたな、こいつ。

「いやいやいや、俺を知らないなんて、さてはモグリだな君」

 グラントの頬がぴくぴくと痙攣している。

 自分の名前を知られていなかったことが、かなりショックだったらしい。

「ま、名前は知らないけど、いかにも武人って感じだなーとは思ったよ。戦うのが大好きそうだ」

 俺はグラントを見据える。

「この村を侵略することも――楽しんでいるのか?」
「侵略自体は楽しくなんてない。命令だからやるだけさ」

 グラントが言った。

「ただ、君のような強者と戦うのは楽しいぜぇ。こうやって斬ったはったしているときだけは、『生きてる』って実感できる性質でねぇ」

 グラントが笑いながら大剣を構えた。
 言葉通り、本当に嬉しそうだ。

「彼、バトルマニアだから」

 魔術師のフィオが言った。

 ジト目だ。

 なんというか……若干の呆れが混じっている感じ。

「さあ、いざ尋常に勝負といこう」
「分かったよ」

 俺は魔力を高める。

「そんなに戦いが望みなら相手をする。もし負けたら、退いてくれないか?」
「命令だと言ったろ。勝とうが負けようが退けんよ」
「じゃあ、とりあえず勝たせてもらう――行け、竜牙兵」

 俺は背後に控えていた竜牙兵たちを向かわせた。

「お、おい、一対一じゃないのかよ!?」
「戦争だろ? 俺は確実に勝つ方を選ぶよ」

 慌てるグラントに、俺は平然と言った。

 奴に対しては竜牙兵をぶつけ、俺は魔術師らしきフィオの行動に備える。
 もしフィオがなんらかの魔法を使ってきたら、俺が竜魔法で対抗する。

 それがとっさに考えた戦術だった。

 ヴンッ、ヴンッ、ヴンッ!

 竜牙兵たちがそれぞれ目を光らせながら、ワラワラと向かっていく。
 なんだか戦場にそぐわない可愛らしさだ。

 ……これでグラントにあっさり破壊されると、ちょっと悲しいなぁ。
 俺はそんなことを考えてしまった。
 と、


「魔法で生み出した疑似生命体か? その程度の軍勢で――無駄だ!」

 グラントが剣を一振り。

 ごうっ!

 すさまじい猛風が発生し、竜牙兵が数十体まとめてバラバラになった。

「あーっ! せっかく作ったのに!」

 思わず叫ぶ俺。

 ちなみに竜牙兵はバラバラになっても再生可能だ。

 ただし、数日は復活できず、ふたたびよみがえらせるにも、それなりに面倒な工程を踏まなきゃいけない。

 竜牙兵は、『作る』のは簡単だけど、『修復する』のは段違いに難しいのだ。

 とはいえ、これは戦争である。
 壊されたからと言って文句を言うわけにもいかない。

「へえ、これって……竜牙兵だ」

 フィオが驚いたような顔をして、竜牙兵の残骸を見つめた。

「ってことは、竜魔法使い?」
「まあ、いちおう――」
「すごーい! めちゃくちゃレアじゃない!」

 フィオが目をキラキラさせた。

「ねえねえ、よかったら帝国に来ない? きっと最高待遇で迎えてくれるよ?」

 いきなりスカウトされた。

「いや、俺はこの村が気にいってるから」
「ふーん、残念」
「ええい、今は俺と彼との勝負だ。水を差すな、フィオ」

 と、グラントが横から言った。

「――いや、どうせなら二人まとめてかかってくればいい」

 俺は彼らに言った。

 竜牙兵は全部壊されちゃったし、見れば、他の兵士たちは軒並み敗走している。

 今この場にいるのは、俺と彼らのみ。
 なら――竜魔法の威力を多少上げても被害は最小限で済む。

「遠慮せずに、大きいのを一発行っておくか」
「えっ、あの……」
「ち、ちょっと、何この魔力……桁が――」
「寝覚めが悪いから死ぬなよ。ちょっとだけ痛い思いをしてから逃げ帰ってくれ。で、上の人間に進言しておいてくれ」

 ボウッ……!

 俺の背後に竜の形をしたオーラが立ち上がる。

「ピエルン村には手を出さず、撤退するべき――ってな! 竜魔法発動!」

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ。

 竜のオーラがまるで本物の竜のように雄たけびを上げた。
 その口から、紅蓮の炎が吐き出された。

【滅亡の竜炎】。

 大規模広範囲破壊用の竜魔法だ。

 初めて使った時は、クレーターができて地形が変わっちゃったけど――。

 あれから俺なりに研究して、今では多少はアレンジできるようになっている。

 範囲をある程度限定的に絞った、【滅亡の竜炎・改】――!



 グラントもフィオも衝撃波で吹っ飛ばされ、地面に横たわっていた。

「ば、馬鹿な……俺たちが、ここまで簡単に……」

 グラントは愕然とした顔でその場に崩れ落ちた。

「あーあ、これまでか」

 フィオもその場に座り込む。

「ま、あんたと一緒に死ねるなら悪くないよ、グラント」
「馬鹿を言うな。まだあきらめてたまるか」

 グラントが剣を手に立ち上がる。

「せめて君だけでも守ってみせる――」
「えっ、グラント?」
「俺の命に代えても……」
「い、いやだよ! そんなの! 死ぬときは二人一緒! 生きるときも二人一緒だよ!」
「君は――」
「私の気持ち、全然気づいてくれないんだから! そのせいで、こんな土壇場のギリギリの死ぬかもしれないところで告白なんて……ああ、もう最低っ」
「す、すまん……朴念仁だとよく言われる……」
「もう」
「あ、あの……」

 うわ、めちゃくちゃ入りづらい空気だ。

 けど、いつまでも二人だけの世界にしておくわけにもいかない。

 いちおう戦争中だし。

「っ! き、聞かれていた――」
「いや、ここ戦場のど真ん中だから」

 っていうか、完全にイチャイチャカップルだよな、この二人……。

 うーん、ちょっと意外な展開。

「な、なあ、もしも……侵略に納得がいかないなら、いっそこっちで暮らさないか?」

 俺はそう切り出してみた。

『侵略に納得がいかない』というのは、一種のカマかけだ。

 でも、二人とも悪人には見えない。

 それに、グラントは『侵略は命令に従ってのこと』って言ってたけど、裏を返せば『皇帝からの命令でもない限り、侵略をよしとはしない』って意思を言外ににじませていたんじゃないかな?

「えっ……?」

 グラントとフィオが目を丸くして俺を見つめる。

 よし、少なくとも『侵略に納得がいかない』という俺の言葉を、否定はしないみたいだ。

 それなら……説得できる可能性はある。

「あんたたちは悪人には見えない。もちろん、監視や多少の行動制限はつけさせてもらうけど……どうかな?」

 俺は二人に呼びかける。

「村としても強い人たちが護衛に回ってくれるのは、すごく助かるんだ」
「……正気か。さっきまで戦っていた敵を相手に」
「投降してくれれば味方だ」

 俺はニヤリと笑う。

「俺が言うのもなんだが、帝国軍を信用すると?」
「いや」

 俺は首を振り、

「帝国じゃない。あんたたちを信用する。したい」
 帝国はさまざまな国に兵を出している。

 とりあえず征服できそうなところを片っ端から分捕り、領土を広げていく――そういう戦略だそうだ。

 逆に手ごわい相手なら、戦線を最低限維持する程度にとどめるか、あるいはスパッと撤退するか。

 ピエルン村としては最後の『スパッと撤退』という戦略を帝国に取らせたい。

「援軍を要請してくれないか、グラント、フィオ」

 俺は二人に言った。

「援軍か」
「そいつを俺が圧倒的な力で追っ払う。そうすれば、帝国も村を攻めてこなくなるかもしれない。こんな小さな村を大軍で攻める余裕はないだろう? 向こうの兵力だって無限じゃないんだし」
「まあ……そうだな。ここ最近だと他に最優先で攻め落としたい国が三つほど。回せる兵力はそちらに回すだろうから、ピエルン村に執着する理由も、増援する理由もない」

 と、グラント。

「だから援軍が来るとしても、最低限の数しか来ないだろう」
「うん、それでいい。俺が大規模破壊魔法をぶっ放して、そのことを上に報告する役目を担ってもらう」

 俺はニヤリと笑う。

「要は――帝国をビビらせれば、俺たちピエルン村の勝ちだ」
「私たちは、ちょっとした偽装工作をして、戦死を装おうかな。それで帝国から自由になろう、グラント」
「戦死を偽装、か」
「帝国から自由になれば、私たち……やっと一緒に」
「そうだな」
「し、幸せな家庭を築きましょう」
「当然だ。子どもは何人ほしい?」
「うふふ、私……三人くらいかなぁ」
「いいな。楽しみだ」
「こほん」

 放っておくと無限にイチャイチャトークしそうな二人を、俺は軽くたしなめておく。

 いや、二人っきりなら、いくらでもイチャイチャしてもらって構わないんだけど、今はいちおう作戦会議中だからな。

 それも村の命運を左右するレベルの。



 そして――。

「これ以上、村に手を出すな」

 帝国軍からやって来た増援――グラントたちの予想通り最低限の人数だ――に対して、俺は毅然と言い放った。

「退かないなら――」

【滅亡の竜炎】を放つ。

 ぐごおおおおおおんっ。

 大爆発。

 当然のように地形が変わり、クレーターができる。

「ひ、ひいいいいいい……」
「ほ、報告よりもとんでもない威力じゃねぇか……」
「じ、地面がこんなにえぐれて……」

 兵士たちは恐怖の声を上げて逃げ出した。

 よし、ビビらせ成功。

 あとは帝国が俺たちの村に手を出しても、兵の損耗が激しすぎてデメリットしかない、と判断してくれるのを待つのみ。

 まあ、大丈夫だろう。

 もともとピエルン村は他の国の侵略に向かうついで程度で攻めたみたいだし。

 ……まあ、『ついで』で攻められるこっちは、たまったものじゃないけどな。



 ともあれ、帝国軍はピエルン村を攻撃対象から外したようだ。

 グラントたちが帝国軍の同僚や部下たちに連絡し、調べてくれた。

「とりあえずの平穏、ってことか」

 俺は村はずれで一人たたずんでいた。

「これからもずっと平穏が続けばいいのに……」

 もともと、ここに長くいるつもりじゃなかった。

 実家から追放され、遠縁の貴族の元へと旅立つ途中で立ち寄った村――。

 だけど、竜魔法で魔族と戦ったり、聖女として派遣されたプリムとの出会いがあったり……そんな中で、俺はしばらく村に滞在することに決めた。

 そして、どうせなら……と村をよくするためにひと肌脱ぎ、一つ、また一つと村のインフラを整備していき――。

 気が付けば、もう完全に村の住民になっていた。

 旅立つつもりになれば、たぶんいつでも出て行くことができただろう。

 けれど、俺はそうしなかった。

 そうしたくなかった。

 それは――この村が本当に居心地がいいからだ。

「あー、こんなところにいた! ゼル、みんなでランチに行く予定なんだけど、ゼルも一緒にどう?」

 と、ソフィアが駆け寄ってきた。

「西通り沿いに新しいお店ができたそうですよ」

 と、プリム。

「最近、西通りは激戦区だからね。村の外からもどんどん人が来て、新しい店が次々に建ってる」

 と、エレーンさん。

「あたしたちも食べ歩き甲斐があるってものよ」
「ふふ、どんどん村が栄えていきますね」
「治安が悪くならないよう、あたしもがんばるよ」

 三人が口々に言いながら笑っている。

 みんな、嬉しそうだ。

 俺も、嬉しい。

 こうやってみんなで過ごせることが。

 村がどんどん発展していき、より楽しい毎日を過ごせるようになる期待感が。

 だから、これからも――。

 俺はみんなと一緒に、この村で生きていく。


「魔竜王の力を感じる――」

 空の果てに声が響く。

 ここは神と天使たちが住まう世界――『天界』。

「かつて我らが封じた最悪の竜……その力を継ぐ者が地上に現れた」
「ならば、天界の総力を挙げて討つべき」
「異論なし」
「異論なし」
「異論なし」

 神々は異口同音にそう言った。

 天界の総意は『魔竜王討伐』ということで満場一致――。
 ……と思われた、そのとき、



「ちょっと待ってください」



 ひょこっと手を上げたのは、小柄な少女だった。

 赤い髪を長く伸ばし、ニコニコと明るい笑顔。
 威厳も何もない、ふわっとした雰囲気の美少女だが、これでも女神である。

 名は――正義の女神アストライア。

「魔竜王の力を継ぐ者が邪悪とは限らないのでは?」
「異なことを」
「邪悪に決まっておろう」
「悠長なことをしていては、奴はさらに力をつける」
「神々すべてを敵に回し、互角以上に渡り合ったあの魔竜王と同等の力を発揮するかもしれんのだぞ」
「そいつが善か悪かなどと、論じている暇はないのだ」
「もし悪なら――世界そのものが終わる危険性すらある」
「善であろうと悪であろうと、まだ完全ではないうちに潰すべき」
「そうだ、討つべきだ」
「そうだ、殺すべきだ」

 神々がいっせいに叫ぶ。

 だが、彼女は譲らなかった。

「では、このあたし――女神アストライアが彼を判定してきましょう。それでいいですか?」
「――いいだろう」

 主神はうなずいた。

「では、さっそく……ふふ、下界を観光できるなんて何千年ぶりかしら」
「……観光ではないぞ。偵察だ。そして場合によっては、かの者を抹殺せよ」
「はーい。あ、お土産は何がいいですか?」
「だから観光じゃないっちゅーに」



 こうして、アストライアは下界に赴く。

 その先に待っているのは、魔竜王の力を継ぐ者――ゼル・スタークとの邂逅。

 そして、物語は続く――。

                      【とりあえず一区切り・完】



(グラスト大賞応募用・注釈)
続きがある場合は、アストライアをはじめとした神々とゼル、魔竜王との因縁、プリムの『聖女機関』絡みや、ゼルと実家のその後のかかわり、バーンレイド帝国の逆襲……みたいなエピソードが色々出てくる感じです。

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