ギミックハウス~第495代目当主~


 俺は助かったのか?

 着替えをしてくるように言われて、コア・ルームから追い出された。
 部屋に辿り着いて、ベッドに倒れ込む。

「コア」

 コアが俺に付き添ってくれている。
 他の眷属は、玉座とコア・ルームに別れて待機をしている。

「はい」

 コアが安心した表情をしている。
 心配させてしまったか?

「助かったのか?」

「そのようです。しかし、魔王様。よく・・・」

「あぁ・・。そうか・・・。ハハハ。はぁ・・・」

「??」

「コア。魔王ルブランの主殿と謁見してから、俺の長い話を聞いてくれるか?」

「もちろんです」

 魔王ルブランの主がどんな人物なのか解らないが、”この場所”に戻って来られたら、コアに日本での事を話そう。
 俺が、愚かな人間だったのか・・・。そして、どんなに卑怯で卑屈で・・・。全部・・・。話そう。

”ハウス2379から通達”

 転生してきた時に聞いた声だ。
 ん?

 コアが動いていない。
 世界が止まっている?

”ハウス2379は、ハウス6174の支配を受け入れました”

 ハウス6174が、魔王ルブランの主が治めている”ハウス”なのか?
 どうせ、聞いても、答えがないのは解っている。

”ハウス2379の権能をハウス8174に譲渡します”

 譲渡?
 ポイントを貰ったのは俺たちだぞ?

 何を渡すのだ?

”ハウス8174から権能が返還されました”

 え?
 返還?

”ハウス2379からハウス8174にリンクを申請”

 リンク?
 何が行われている?

 コアは?眷属は?俺は?

”リンクが成立”

 今度は、成立?
 リンク?

 うぅぅぅぅぅぅぅあああああ!!!!!

”ハウス2379からハウス8174に共有を申請”

 はぁはぁはぁはぁ
 一気に知識が流れ込んできた。

 そうか、リンクは・・・。

 俺が、ハウス8174の眷属になるのだな。

 俺は、ハウス8174の主が討伐されない限り、死なない。

”一部の共有が成立”

 え?

”ハウス2379は、ハウス8174の支配を受け入れます”

 支配?
 何か、大きく変わるわけではないようだ。

 よくわからない。
 ハウス8174の魔王なら知っているのか?

「魔王様?」

 コアが動き出した。
 やはり、時間が止まっていたのか?

 よくわからないけど、良かった。

「なんでもない。着替えて・・・。俺が持っている服で大丈夫か?」

「湯あみをされますか?お手伝いを致します」

「待たせるのも悪いから、軽く汗だけ拭いてくれ、洗ったばかりの服があるよね?」

「はい。ございます」

「持ってきてくれ」

「かしこまりました」

 服を脱いで待っていると、コアがお湯と新しい服と下着を持ってきてくれた。
 身体を拭いてから、コアに服を着させてもらう。

「魔王様。武装は?」

「必要ない」

「コアも、武装は解除して、恥ずかしくない格好に着替えてくれ」

「かしこまりました」

 コアが目の前で着替える。
 俺の部屋にコアの着替えや装飾品が置いてあるのでしょうがない。本当に、しょうがない。抱きしめたい。

「魔王様?」

「急ごう」

「はい」

 コア・ルームに戻ると、先ほどのミアと名乗った少女とヒアと呼ばれた少年が居ない。

「準備は出来ましたか?」

 よく見ると、モミジと呼ばれる女性だけが残って、俺たちを待っていた。

「カンウ殿とミア殿とヒア殿は?」

「気にしなくても良いと言いたい所ですが、貴殿の眷属を率いて、上のゴミを片づけに出ています。すぐに終わるでしょう」

「え?俺の眷属?」

 そんなに、王国の兵は弱くない。
 確かに、カンウ(って、関羽雲長だよな?三国志の?)殿なら勝てるだろう。俺の眷属を率いる意味は?

「疑問はもっともです。貴殿の眷属からの申し出です。私たちが簡単にここまで来てしまって、貴殿を危険に晒したことを憂いていました。私たちに強くなる方法を聞いてきました。二度と、貴殿を危険に晒さないために・・・」

「そうでしたか・・・」

「いい眷属ですね」

「はい。自慢の奴らです」

 モミジ殿の視線が優しい。
 そうか、眷属を大事にしていたことや、日本語が読めたこと・・・。いろいろ含めて、俺は助かったのだな。

「そうですか。準備は大丈夫ですか?一緒に行くのは、貴女だけですか?」

「はい。コアと言います。魔王様の(しもべ)です」

「わかりました。ここからは、無理ですので、玉座に戻ります」

「はい?」

 玉座?
 そこに何があるのか?

 モミジ殿と一緒に玉座に戻ると戦闘に適さない者が誰かと話をしている。

「あら、ラアが来たのですか?」

「モミジ様。斥候に適したマアが連合国側に呼ばれてしまったので、次点で私が来ました」

「そう?それで?」

「凄いですよ。私たちの所でも考えた方がいいかもしれないです」

「それほどですか?」

「えぇ。専門のスキルを持つマアには及びませんが、偵察や斥候には十分です。他にも、種族的な繋がりを利用した連絡網は侮れません」

「そうですか・・・。解りました。マアは、引き続き、この者たちを訓練してください。ミアと協力して報告書を作成して、魔王様に伝えましょう」

「わかりました!」

 ラアと呼ばれた男子が、眷属たちと何かを話している。
 褒められていると思っていいのだろうか?

「魔王。行きますよ?」

「え?はい?」

 魔法陣が玉座の前に出現する。
 モミジ殿が、魔法陣の中央に立って、俺とコアを呼んでいる。

 魔法陣に、俺とコアが入ると光りだした。
 何からトリガーになっているのか?

「魔王様。これは、転移の罠です」

「え?あっ」

 転移の罠?
 そんな物が・・・。思っていたら、別の場所に来ていた。

 俺が作った玉座の間を数倍広くして、数十倍は豪華にした場所だ。

 前方には、豪華な椅子に座る。日本人には見えない少年が座っている。
 横には、一人の絶世の美女が立っている。

 モミジ殿が目で合図をして、ゆっくりと歩き始める。
 玉座に続く階段の手前3-4メートルの所で止まって横にずれる。

 コアは解っているのか、その場で跪いた。
 俺も、コアに倣おうかと思った瞬間に・・・。

「いいよ。君は、魔王だよね?」

「え?あっ。そうです」

 跪かなくていいの?
 本当に?

 モミジ殿を見ても、大丈夫そうだ。絶世の美女を見ると、微笑んでいるから大丈夫なのかな?

「あれが読めたの?どの辺りまで、話を知っている?」

 主語が入っていなくても解る。

 俺が知っているのは・・・。
 会長が死んで、選挙が開始された。
 そのあとで、”十二支ん”が揉めて・・・。よく覚えている物だ。
 キルアがゴンのために独自に動き始めたのもなんとなく覚えている。

 アント編は泣いた。
 コムギと蟻の王との最後は・・・。あれはダメだ。ズルい。

 少しだけ考えてから顔を上げて質問に答える。

「俺、あっ私が居た時には、会長選挙の途中で・・・」

「へぇ。レオリオが、ジンをぶっ飛ばす辺り?」

「え?そんなことが?ゴンが、アント編で、ゴンさんになって寝込んでいるのに?」

 なんでそんなことに?
 それよりも、周りの視線が痛い。優しい視線に混じって嫉妬の視線が・・・。怖い。

「そうそう。ゴンは復帰するよ?ネタバレで良ければ・・・。あぁ本を渡せばいいかぁ。君なら読めるよね?」

「え!読めます!是非!」

「他に気になる物は?」

「沢山・・・。有りすぎて・・・」

「ははは。君は、コミック派?単行本派?」

「あっ単行本を待っていました」

「そうか、両さんも終わったよ」

「え?本当ですか?」

「本当。本当。俺がこっちに来る頃には、キン肉マンがまた始まったよ」

「えぇぇぇ」

「この辺りの話は、今後として、君は、ダンジョンをモミジたちに攻略された。そこで、俺に下った。そうだな?」

「はい。俺は・・・。俺の眷属だけは・・・」

 情けないが、貫禄が違う。
 心が負けを認めてしまっている。

「あぁ大丈夫。君たちを、殺しても俺にメリットはない。君に、頼みがある」

「頼みですか?」

 魔王様の隣の美女が、魔王様に何かを渡している。メモ用紙のような感じだ。何が書かれているのだろう?

 玉座に座る魔王は、”本当に同格だったのか?”という疑問さえも愚かに思えてしまう。
 俺が勝てるはずもない。挑もうと考える必要もない。

 心が敗北を受け入れている。
 隣に居るコアも魔王の力が解るのだろう。自然と跪いている。

 魔王は、俺に頼みがあると言った。

「ルブラン。同じ物を魔王に渡して・・・。名前が無いと不便だな。君。ゲームとかでよく使っていた名前とかある?」

「ゲームですか?ギルバートを使っていました」

「ギルバート?赤毛のアン?」

「いえ、初めてやったゲームで、主人公の名前が変えられなくて、なんとなく・・・。その後のゲームでも使っていました」

「へぇ。これから、”魔王ギルバート”だ」

 え?
 また力が流れ込む。

 横を見ると、コアが嬉しそうにしている。

 自分の名前が決まった。
 魔王ギルバート。不思議としっくりくる。

「ありがとうございます。私は、魔王ギルバート。魔王様の僕です」

「うん。そういうのは、別に求めていない、君たちに求めているのは、王国にあるダンジョンの支配だ」

 支配?
 俺たちが?

「魔王様。魔王ギルバートに書類をお見せになったほうがよいと思います」

「そうだな。ルブラン。頼む」

 魔王が書類を美女に返す。
 ”ルブラン”と呼ばれていたから、魔王ルブランなのだろう。

 魔王ルブランが、書類を持って玉座から降りて来る。
 美人だ。しかし、コアとは方向性が違う美人だ。俺は、コアの方が好みだ。魔王と好みが似なくて良かったと考えた方がいいのか?

「魔王ギルバート。私の事は、”ルブラン”と呼んで欲しい」

「わかった。魔王ルブラン」

「違う。”魔王”も必要ない。私は、魔王ギルバートの横にいる。コアと同じだ」

「え?」

「私は、コアと同じで、魔王様によって召喚された」

「・・・・。え?え?え?えぇぇぇ・・・・・。失礼。魔王様」

「本当だ。ルブランには、魔王の役割を演じてもらっている」

「・・・。ルブラン殿」

「”殿”も必要ないのですが・・・。まぁいいでしょう。これが、王国にあるダンジョンの状況です。魔王ギルバートが知っている情報と齟齬がないか確認して欲しい」

 ルブラン殿から渡された書類には、地図と思われる物に、いくつかの印がつけられている。

 この印がダンジョンなのか?
 王国を半包囲するようにダンジョンがある。

 おかしい。
 王国内にはないのか?

「魔王様。王国を囲むようにダンジョンがあるのですが、王国の中にはないのでしょうか?」

「調べたが、”ない”という結論になっている」

「なぜですか?」

「帝国と新生ギルドから情報を提供してもらった。王国も神聖国も連合国も、ダンジョンの討伐を行っていた。特に、王国は王国内にあったダンジョンを攻略して討伐してしまった」

「え?」

「ギルバートは、何代目だ?」

「私は、えぇーと」

 コアを見る。この手の情報は、コアの方が詳しい。

「大魔王様。発言をお許しください」

「許可しよう。今後、許可を求める必要はない」

「ありがとうございます。ギルバート様は、ハウス2379の473代目です」

「そうか、ダンジョンは、495代で終わるようだ」

「え?」

「終わる?」

「そうだ。それは、置いておくとして、王国は、ダンジョンを攻略した時の報酬に目が眩んで、攻略を繰り返した」

「それは・・・」

 書類は、コアに渡して良いと言われて、コアにも読んでもらっている。
 俺が読むよりも、何か発見する可能性が高い。

「ギルバート様。大魔王様が、おっしゃった”報酬”は、魔王様たちが持っている道具や素材だと思われます」

「素材?」

「そうか、ギルバートは、外の世界との接触は無いのだったな?」

「はい」

「この世界は、チグハグな状況なのは知っているか?」

 チグハグ?
 王国が求める物を提供して、自分たちの安全を確保してきた。

 チグハグな印象は受けていない。

 ルブラン殿が簡単に説明をしてくれる。
 俺も、”なろう的”な中世ヨーロッパだとは思っていたがもっと歪な状況だ。

 政治体制というよりも、統治手法がめちゃくちゃだ。

 石油がないのに、石油由来の製品を求められることがあった理由も解った。
 他のダンジョンで得られた物を求めていたのだろう。

 ルブラン殿の話を聞いて、納得が出来た。
 確かに歪だ。ダンジョンに依存している為に、ダンジョンとの共存が出来ている国が強くなるか、ダンジョンを完全に攻略対象として見ている国が強くなっている。

 そうか、それで・・・。
 王国は、最初はダンジョンを攻略して素材を得ていた。しかし、495代目が倒されてしまうと、ダンジョンが無くなってしまう。
 何度か、ダンジョンが消滅した。それから、ダンジョンの攻略から懐柔に走ったのだな。

「王国兵の装備品は、ダンジョンから提供されている物だ」

「!!」

 そうだ。
 求められて、武器や防具を提供した。数が多くて面倒だったこともある。

「そうだ。大事なことを聞くのを忘れていた。ギルバート。獣人は好物か?」

「好物です。耳と尻尾は正義です。至宝です」

「よし。猫と犬では?」

 魔王の・・・。大魔王の問いかけに即答してしまったが、コアもルブランも他の面子も何を言っているのかわからないようだ。

「猫です。羊は耳ではなく、角が希望です」

「そうか、角は盲点だった」

「魔王様。魔王ギルバートも、いい加減にして下さい。話が進みません」

 ルブランが俺と大魔王の話に割って入ってきた。
 確かに、話が進まない。

 奥から出てきた者が、ルブランに何かを伝えている。

「魔王様。魔王ギルバート。3つのダンジョンが参加に加わると言ってきたようです」

 それから、続々と攻略の連絡が入ってくる。

 王国の周りにあったダンジョンは、全部で67施設だ。これらが、王国の兵の駐屯所に偽装されている。
 それらのダンジョンを、大魔王配下の者たちが攻略している。

「やはり、最大のダンジョンは、ギルバートの所だな」

「はい。予想通りです」

「神聖国と連合国にも動きがあるみたいだから、こっちは、ルブランに任せて大丈夫か?」

「お任せください」

「ギルバート。王国に関しては、貴殿に任せることになると思う」

「え?」

「詳細は、ルブランと決めてくれ。それから外部には、魔王ルブランが最上位の魔王となっているから、よろしく」

 大魔王は、片手を振って奥の扉から玉座を出て行った。

 よくわからないけど、俺たちは生かされているようだ。

「魔王ギルバート。王国領内にあるダンジョンを全て、攻略している。明日には終わるだろう。その後の話として、魔王様は表に出ない」

「??」

「私が、貴殿たちの主だと振舞う」

「あっ。わかりました」

「言葉遣いは、同格として接して欲しい。どこかで、問題が出ると困る。これから、傘下に加わる者たちも基本は、言葉遣いには言及しないことにしている。王国と魔王領との間に、魔王カミドネが居るが、彼は獣人族の保護を主に行う魔王だ」

「・・・」

「そして、貴殿には王国領にある67のダンジョンをまとめて欲しい」

「俺が?」

「そうだ」

「まとめる?何をすればいい?」

「基本は、不干渉でいい。王国兵を殺して、武器や防具の提供を行わなければいい。貴殿のダンジョンに、配下に加わる者たち(ダンジョン)の情報が流れるようにする。コアなら、処理ができるだろう?怪しい動きをする(魔王)が出た時に、報告してくれればいい。対処はこちらで行う」

「俺たちが、不正を行うとは思わないのか?」

「ははは。魔王様を裏切る?意味がないな。貴殿は、大事な者を天秤に乗せるような愚か者か?」

 コアが俺を見ている。
 コアが、望んでも俺は拒否するだろう。コアを、天秤に乗せるようなことは・・・。俺には出来ない。大魔王の下に居れば・・・。俺はダンジョンに縛られる存在ではなくなる。

 俺にはメリットしかない。
 ポイントも、今までとは段違いに入ってきている。
 今も、継続して入ってきているのが解る。

「それから・・・」

「まだ?」

「詳細は、コアと話をしてもいいか?」

「もちろん」

 コアも頷いてくれている。俺が介在するよりも、コアとルブランで話した方が・・・。俺が戦力外だと思われているのがよくわかる。正しい評価だ。

「魔王ギルバート。貴殿には、入ってきているポイントで領域の確保を行って欲しい。今は、他のダンジョンにはポイントが流れていない。広げられるだけ広げてくれ、出来れば、王国を飲み込むくらいまで広げて欲しい」

「わかった。出来る限り広げる。ポイントが枯渇しても大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。貴殿のダンジョンの入口には、我らが拠点を作る。建前上は、王国の喉元に剣を突き付けるための砦だ」

 いろいろ、面倒ごとを押し付けられた感じだけど、命と生活が保証されていると思って考えれば・・・。
 コアも他の皆も生き残るから・・・。いいよな。

 俺の判断は間違っていない。最後の最後で間違わなかった。

 カンウとヒアが王国のダンジョンの攻略を始めている頃・・・。

 神聖国では、カミドネ・ダンジョンから選出された者たちが、神聖国の軍と戦端を開いていた。
 当初は、有利に進めていたが、神聖国の中央部隊が瓦解してから、陣形がカミドネ・ダンジョン側に不利な状況になってしまって、膠着状態になっている。

 カミドネ・ダンジョン神聖国遠征部隊。
 トレスマリアスたちが、各部隊から上がってきた情報を精査していた。膠着状態になってしまったので、距離を開けて、相手を牽制している。既に、3日が過ぎて、新しい動きを考え始めていた。

「魔王様への報告は?」

「必要ありません。カミドネ様にご連絡を・・・。フォリ様が、”魔王様に報告をあげる”とおっしゃっていました」

 最前線では、カミドネの眷属たちが召喚した魔物と一緒に先頭に参加している。

「アンデッドは?」

「まだ大丈夫ですわ。左翼から崩します」

「左翼は、獣人たちですよ?」

「獣人たちが、”自分たちにも”とおっしゃっていまして」

「アンデッドだけでは、怖いですわ。イドラ殿に助勢をお願いしましょう」

「イドラ殿は、右翼の牽制をしています」

「右翼を自由にさせるのは、全体を危険に晒します。中央が再編を完了する前に、攻勢に出たいですね」

 戦線は、トレスマリアスの3姉妹が構築して維持している。

 長女のマリアが全体を把握して、魔王カミドネに逐次報告を上げている。
 戦力の投入を仕切るのも、マリアの役割だ。

 マルタは、戦線の状態を監視するのは同じだけど、相手側の陣地を見て突撃などのタイミングを見計らっている。

 マルゴットは、忙しく陣地を往来している。
 戦力の状態を確認しているのだ。

 戦線は、小競り合いは頻繁に発生しているが、攻勢に移るタイミングが掴めない。

 神聖国側は、アンデッドだけだと思って甘く見ていた。奴隷にした獣人を肉壁にしながらスキルで攻撃をすればアンデッドだけの軍なら瓦解すると考えていた。獣人たちが無力化され、スキル攻撃が思っていた以上に効果が発揮されなく、攻勢に出るタイミングを逸してしまった。
 右翼は、少しだけ高い場所に陣地を形成した。遠距離からスキルや弓で攻撃を行っている。左翼は、神官が少ないのか、動きが鈍くなっている。奴隷兵が多かった中央は、既に瓦解して、後方に下がっている。

 マルタは、中央が下がるのに合わせて、戦闘をしつつ中央を攻撃し続けようと考えたが、中央の瓦解と同じくらいにほぼ無傷だった右翼が後方に下がらずに、そのまま左側に展開を開始して、丘になっている部分に陣地の構築を成功させていた。

 神聖国の右翼は、アンデッドで攻めるには、スキルが厄介だ。
 獣人では、近づくのも難しい。

 今は、イドラが牽制の役割を担って、丘の上から降りられないようにしている。

 ここで、神聖国の左翼が瓦解すれば、一気に情勢が変わるのだが、神聖国も解っているのだろう。陣地に籠って出てこない。
 陣地に押し込めて、通過する案もあったのだが、アンデッドだけでは難しく、獣人族では被害が出てしまう。

 獣人は、被害は想定していると言っているが、魔王カミドネからの命令は、”召喚する魔物以外の被害は出すな”という無茶な物だ。
 眷属は、魔王カミドネの命令は厳守しなければならない。その為に、考えられる全ての事柄を実行しなければならない。

 中途半端は許されない。徹底的に、神聖国を叩くのが、魔王カミドネと魔王からの命令だ。

「マリア!マリア!」

 後方で、伝令役をお願いしていたキャロが本陣に駆け込んできた。

「キャロ殿?何か、問題でも?」

「違う。増援が来た」

「増援?カミドネ様が?」

「違う。魔王様。カンウ殿とヒア殿が率いていた者たちが、こちらに加勢する。と、言っている」

「え?すぐに、会いましょう」

 人族の青年というには若い者が、マリアの前で頭を下げた。

「ヒカと言います。マリア殿。カンウ。ヒア。および、モミジ。ミア。ルブランからの許可を得て加勢に来た。俺たち、カプレカ島の混成部隊、総勢2,500。マリア殿の指揮下に入ります」

 驚いたのは、マリアたちだ。
 本家奔流のカプレカ島の部隊だ。主筋である魔王の配下だ。
 身分的には、ヒカのほうが上だ。

「指揮下?私たちの?」

「はい。この場所はマリア殿たちの戦場です」

 マリアは、納得した。
 カミドネ・ダンジョンに任された戦場だ。加勢が来ても、主で戦うのは”カミドネ・ダンジョン”でなければならない。

「わかりました。ヒカ殿たちは、右翼・・・。丘の上に展開している部隊の牽制をお願いします。右翼が抑えられている間に、左翼に圧力をかけます」

「わかりました。相手次第ですが、牽制だけで良いのですか?恥ずかしい話、私たちは、王国で戦うことを考えていたのですが、王国兵は戦う前に逃げてしまって、ダンジョンが主戦場になってしまって、活躍の場が無くなってしまいました。野戦用の部隊なので・・・。後ろから来る部隊が、ダンジョン攻略部隊です」

「そうなのですか・・・」

「それでは、右翼部隊を殲滅・・・。いや、牽制します。ご武運を!」

「ご武運を」

 マリアは、ヒカを見送ったが、武運を祈る必要があるとは思えなかった。

 丘の上に展開している部隊は、神官が中心になっている10,000名程だ。陣の造営が行われていると言っても簡易な物だ。そして、神聖国の右翼は、カミドネ・ダンジョンの部隊と対峙していると考えている。
 神聖国の聖王ルドルフから、陣営の死守を厳命されている。ルドルフの命令に従う義理はないと思っている者も多い。推されているが、対峙しているのがアンデッドなので、神聖国の武器やスキルが有効なのが解っている。有効な攻撃があるために、神聖国の右翼は楽観的に考えていた。

 ”自分たちは、無事にやり過ごす事ができると・・・”

 ヒカは、まずは牽制していたイドラと合流して、神聖国の右翼に関しての大まかな情報を収集した。

 情報は、分析するまでもなく、”守”に徹して、外に出てこない。
 安全な位置から、アンデッドに有効なスキルを使うか、弓で近づかせないようにしている。

 ヒカの作戦は単純だ。
 神聖国の戦力とこれまでの戦い方を聞いて、作戦を皆に伝える。

 中央を一点突破して、後方に抜ける。後方を遮断して森に逃げられないようにしてから、半包囲を行う。連合国を相手に、採用した作戦だ。ヒカは、神聖国の意思に統一性がないことを見抜いていた。まとまっているのは、戦いを有利に進める為ではなく、自分が死なないための方法だと考えた。
 ヒカたちの戦力は、2,500。それに、カミドネ・ダンジョンから借りた召喚されたアンデッドだ。アンデッドは、数だけは多い。ほぼ無限に使える戦力だ。包囲戦には向いている。
 一点突破が失敗した場合でも、左右に陣地を半包囲することで、中央や左翼への救援に行かないようにできる。

 ヒカは、右翼に王国軍との戦いで活躍ができなかった者たちに戦闘の機会を与えようと思っている。

 そして、すさまじい速度で右翼に肉薄して、中央を食い破ったヒカに率いられた混成部隊は、楽々後方に抜けて、展開する。半包囲を完成させてしまった。一人の犠牲も出さずに、神聖国の右翼を無力化してしまった。

「ヒカ!」

「ベクか?どうした?」

「このまま包囲するだけでいいのか?もし・・・」

「わかっている。次に敵陣に突撃する時には、熊人の分隊に任せる」

「助かる」

 中央突破作戦は、機動力を重視して戦力が中心になっていた。熊人は、機動力はそれほど高くない。
 そのために、半包囲作成では活躍の場が限られてしまっている。

 ヒカは、最後の一撃を熊人族に頼むことでバランスを取った。

 実際に、対峙した神聖国の右翼は、どの分隊が突撃しても、一息に飲み超える程度の練度だ。

 ヒカが右翼を担当した事で、自由になったイドラが左翼を牽制することが可能になった。
 膠着していた戦線に変化が訪れた。

 イドラに率いられた魔物たちは、左翼の陣地を急襲した。
 浮足立った左翼に、アンデッドの集団が連続で襲い掛かる。

 堅牢な左翼だったが、一つが崩れれば早かった。2度の攻勢で、アンデッドの圧力を逸らすことに失敗した左翼は、一部の将校が逃走した。敗走になるまで、もう一度の攻勢しか必要がなかった。

 こうして、神聖国の遠征軍5万で戦力の形で残っているのは中央の2万弱だけになった。

 カンウとヒアが王国のダンジョンの攻略を始めている頃・・・。

「ロア!」

 バチョウは副官に指名したロアを呼びつけている。
 状況の説明を聞く為でもあるが、もっと重要な確認を行うためでもある。

 呼ばれたロアは、伝えるべきことが解っている。
 バチョウに、軽く頭を下げてから報告を始める。

「バチョウ様。カエデ様とシアから、連合国軍の後方に抜けたと連絡がありました」

 把握できている状況を伝える。
 実際には、バチョウも状況の確認が出来るのだが、今回の討伐作戦に関しては、副官を育てる意味があり、作戦立案を含めて、ロアたちに任せることにしている。バチョウたちは、責任と作戦が失敗した時の保険である。

「ナツメとキアは?」

 バチョウとロアと同じく連合国軍の相手をしている、ナツメとキアは、側面攻撃を行うことになっている。
 配置には既についていると連絡が来てから、次の連絡がない。

「まだ連絡がありません」

 バチョウとロアは、カプレカ島に攻め込もうとしている連合国の前面に、獣人族を中心にした軍を展開している。
 前面には、魔王が召喚した”ゴーレム”が陣取っている。

 魔王が召喚したゴーレムは、それぞれに獣人のサポートがついている。命令を伝達するためだ。

 作戦は凄く簡単だ。
 バチョウが率いる軍が連合国の遠征軍の正面に陣取る。
 連合国は内部がまとまっていないのは、周知の事実だ。そのために、補給を行う部隊や部隊間の連携に問題がある。

 バチョウとロアが前面を支えている間に、ナツメとキアが側面から連合国の連絡網に圧力をかける。
 中央突破が出来れば最良だが、中央の突破ができなくても、連絡網に圧力をかければ、それだけ連合国の連携は悪くなる。連携が崩れたところで、バチョウが全兵力で正面からぶつかる。

「バチョウ様!」

 ロアが慌てて、バチョウに報告を上げる。

「どうした?」

 バチョウは既に、報告を受ける状態ではなく、戦闘に入る寸前になっている。

「キアから連絡がありました。”5分後に突入”と、いうことです。ロイはじめ前線には伝えました」

 この報告は、当然の様にナツメからバチョウに伝わっている。
 しかし、軍の規律として、ロアからの報告をバチョウは待っていた。

 情報の伝達の速度と正確さで、軍の強さが変ってくる。
 正しい情報を、素早く末端まで伝達ができる事が重要だ。

「わかった。作戦では、側面からの攻撃が行われてから10分後に突入だったな」

 作戦は事前に、ロアとキアとシアで決めている。
 それを、ナツメとカエデとバチョウが承認する形になっている。

 バチョウは確認のために、ロアに質問を行う。

「はい。時間は目安です。バチョウ様の判断に任せます。私は、後方に下がります」

 もちろん、バチョウも作戦の内容はしっかりと覚えている。

「そうだったな」

「そうだ。バチョウ様に、お願いが・・・」

 ロアは、連合国の前線に居る者たち斥候から聞いて知っている。

「解っている。獣人族は、安全にとは約束は出来ないが、確保する」

 連合国は、この連合に参加する条件として、神聖国が保持している獣人族の一部を譲り受けている。

「はい。魔王様から、腕や足程度なら回復させるというお言葉を貰っています」

「わかった。安心しろ」

「はい!」

 ロアが頭を下げて、前線から後方に下がる。
 本当は、狼人族の族長をやっているロアも前線で戦いたい。カプレカ島を守る戦いに参加して、敵を屠りたい。
 しかし、魔王からロアたち族長クラスの者たちは、大規模戦闘で前線に出るのを禁じられている。後方で、全体を俯瞰して作戦の遂行を指揮するように言われている。ヒアとミアが、ダンジョンに潜って、戦っているのは、ダンジョンという特殊な状況下でのみ許される事情だ。

 魔王からの指示で、ダンジョンを攻略する時には、物量作戦を禁じられている。
 ダンジョンは、物量で押しつぶすのは”愚の骨頂”だと言って、最大戦力のパーティー単位での攻略を進めるように命令が出ている。

 ロアとキアとシアが考えた作戦は単純だ。

 戦闘力に秀でたバチョウが率いる部隊が連合国の前面に布陣する。
 側面攻撃が開始されるまで、バチョウは殻に籠ったように陣を動かさない。

 次に戦闘力が高いカエデとシアが連合国の後方を遮断する動きを取る。しかし、実際には後方に逃げてきた者たちは、ある程度の数は逃がすことになっている。
 そのために、後方に配置している者たちは、近隣の掃除(盗賊や野盗狩り)を行っている。逃げてきた連合国を無事に逃がす為だ。

 ナツメとキアの機動力に優れた者たちで構成された部隊は、連合国軍の中央に攻め込む。
 ナツメとキアの部隊が攻撃を開始してから、連合国の動きを確認してバチョウが部隊を率いて、連合国の軍に突撃を開始する。

 作戦の前半部分は、なんの心配もしていない。
 問題になるとしたら、後半部分だが、ロアもキアもシアも心配はしていない。
 慢心ではなく、魔王から過保護と言われるくらいの武器や防具を渡されている。そして、新しいスキルも渡された。

 後半の戦いに備えて、ロアとキアとシアが、前半の戦いが始まったと同時に、動き出す。

「ロイ。指揮は任せる。バチョウ様が戦っているのだから、負け戦にはならないだろう。だが、状況が不利だと思ったら、戦線を縮小して後方に下がるように指示を出せ」

「わかりました。族長」

 ロイの目の前には、魔王に最初に救われたファーストの狼人族が揃っている。
 皆が、魔王の為なら命を賭すことに疑問を感じていない。魔王が気まぐれでも助けなければ、自分たちは死んでいたと考えている。事実としては、正しいだろう。しかし、魔王はロイだけでなく、一人の死者も出すなと厳命している。
 そして、魔王は今回の連合軍の戦いもダンジョンに引き込んで戦うことを最初に提案している。
 配下の者たちに大反対されて、出撃の許可を出した。
 その時の条件が、一人の死者も出すな。怪我はしょうがないが、全員が生きて帰って来られる作戦でなければ許可しないと言い切った。そのためには、ダンジョンの力をフルに使うことに、許可を出している。しかし、配下からはダンジョンの力は、最小限に抑えた作戦案が提出された。魔王は、セバスに助言を求めて、説明を聞いたうえで、苦笑をしながら作戦を承認した。

---

『バチョウ。そっちの様子は?』

『楽勝だな。慢心するつもりはないが、俺だけでも、軍の殲滅が可能だ』

『そうか・・・。だが認められない』

『わかっている。それにしても、ロアたちの作戦が見事に嵌ったな』

『そうだな』

『それで?カエデ。4人は?』

『うまく潜り込んだ』

『それは重畳』

 バチョウは、ナツメと通話をしながら、逃げようとする連合国の後背を攻めている。

『ナツメ。もう十分な数が逃げているよな?』

『大丈夫だ・・・。と、思う。カエデからも、前半の成功が告げられました』

『それなら、戦場に残っている者は、切り捨てていいよな?』

『ほどほどにして下さい。あっ、できるようなら、殺さないでください。魔王様の供物にします』

『解っている。ロアとキアとシアに与えた武器や防具やスキルの補填が必要なのだろう?』

『そうです。もう十分な強さを持っていて、連合国くらいなら・・・』

『魔王様にもお考えがあるのだろう』

『そうですね。バチョウ。お願いします。私たちは下がります』

『どのくらいだ?』

『5分ほど頂けますか?』

『わかった。10分後に、俺が単騎で連合国に突っ込んでスキルを全開で使う』

『わかりました。そちらの皆さんも私たちが回収して、カプレカ島に引き揚げます。いいですよね?』

『頼む。あっロイとキイだけ残してくれ、後始末を頼みたい』

『はい。はい。二人には私から伝えておきます。後始末なら、他にも何人か残しておきます』

『頼む』

 15分後
 バチョウは、戦場で・・・。一人、戦場になっていた場所に立っていた。

 周りには、連合国からやってきた者たちが、苦しんでいる。片腕がない者。両足が切断された者。これから、死んだ方がましだと思えるような状況になると解っていたら、ここで死ねた方がよかったと考える者たちだ。

 バチョウからの連絡を受けて、ひきつった表情で狼人と猫人の獣人が近づいてきた。

 戦場になった場所には、うめき声を上げる連合国の兵士たちが居る。
 五体満足で立っているのは、バチョウだけだ。

 そのバチョウも、着ている防具は、兵士たちの返り血で赤黒くなっている。
 しかし、防具に武器やスキルでつけられた傷は存在しない。

「バチョウ様!」

 先頭でバチョウに近づいてきた、狼人族の青年が代表してバチョウの前で頭を下げる。他の者も、一緒に頭を下げるが2歩ほど後ろに下がっている。

「丁度よかった」

 バチョウは、狼人と猫人に、笑いかける。
 返り血で汚れていなければ、美丈夫な佇まいなのだが、返り血が赤黒くなり、恐ろしさを醸し出している。その状態で、笑っているので、獰猛な”何か”が目の前で自分を狙っているのではないかと錯覚してしまう。獣人族は、力の上下にははっきりと序列をつけている。バチョウが恐ろしくも、頼もしい存在であると認識を強めた。

「はい。戦場の後始末に来ました。後から、200名ほどが駆けつけます」

「そうか。後詰ではないのだな?」

「はい。後詰は必要ないとカエデ様から連絡が入りました」

「そうか?向こうはうまく行っているのだな?」

「はい。ご報告を致しましょうか?」

「いや。必要ない。俺は・・・。いや、俺たちは、俺たちの役割を全うしよう」

「はい!」

 バチョウの指示で、狼人と猫人が戦場で倒れている連合国の兵士たちを仕分けしていく、魔王から選別用のスキルがついた道具を与えられた者たちだ。元奴隷で、第二陣に当たる者たちだ。”看破”が付与されたアイテムで、兵士たちを選別していく、魔王が作ったアイテムで、量産がおこなわれている。捕虜を尋問する時に利用する。獣人族でも、無条件では受け入れていない。選別で最低限の事柄のチェックがおこなわれる。そのあと、城塞村に移送されてから、カプレカ島で入島チェックがおこなわれて、入島が叶えば治療がおこなわれる。
 魔王カミドネが管理している場所にある獣人族の集落から引き取り手が現れれば、その時点で引き渡しがおこなわれている。

 今回も、獣人族が1,000名単位で従軍していた。
 奴隷紋が判明した者は、バチョウも気絶させるだけに留めているが、戦闘中なので、手加減が難しい場合もあり、かなりの者が身体の欠損状態になっている。魔王からは、獣人族を助けるために、バチョウや仲間が傷つくのは容認できないと宣言が出ている。バチョウも、殺さなければなんとかなると解っているために、戦闘力を奪う方に注力していた。

 戦場の後始末を、後方に来ていた者たちに任せたバチョウは、返り血を流し終わって着替えをした状態で、連合国の方をにらみつけている。

「バチョウ様。捕虜の移送が終了しました」

「そうか」

「どうされましたか?」

「ん?ロキとキサか?他の者は?」

「皆、揃っています」

 そこには、狼人族と猫人族の6名が跪いている。皆が元奴隷の青年だ。
 この6名は、バチョウが鍛えている者で、今回もバチョウが苦戦するようなことが有れば、助力のために控えていた。バチョウの戦闘力は認識していて万が一は無いと解っている。しかし、数で押された場合に、包囲されて同時に攻撃をされた場合に、倒されるようなことはなくても、怪我をしてしまうことが考えられた。包囲された場合に、バチョウの周りで支援ができるように訓練された者たちだ。

「魔王様からの指示は?」

 バチョウは、まっすぐに連合国が逃げた方角を見ながら問いかけた。

「ルブラン様からは、連合軍の撃退が終了したら、”自由に動け”と指示を受けております」

 ニヤリと笑うバチョウ。
 ロキとキサは、ルブランにしか謁見が出来ない。魔王への謁見は許可されていない。

「ロキ。キサ。貴様たちへの指示は?」

 代表してロキがバチョウの質問に答える。

「”バチョウ様に従え”との事です」

 バチョウは、ルブランから話を聞いていて、了承していたのだが、魔王ルブランとして、魔王からの指示をバチョウに許可を出した。

「よし!魔王討伐と行くか!連合国のトップであるエルプレの魔王は、カエデたちに任せるとして、俺たちは他の国が囲っている軟弱な魔王を討伐するぞ」

「え?」

「なんだ?嫌なのか?」

「いえ、作戦を聞いていなくて・・・」

「大丈夫だ。魔王様の許可は取っている。従属を申し出てきた魔王以外は討伐してしまえと言われている」

「「「「「「はっ」」」」」」

 もともと、狼人も猫人も好戦的な面を持ち合わせている。
 バチョウの訓練を受けていることから、攻撃に特化している面もあり、攻略に参加するのは、望むところだ。

 そして、皆の想いは一つだ。

【魔王は魔王様、お一人だけだ】

 一人の魔王による支配が、元奴隷だった者たちの考えであり信念になっている。魔王様による統一が、魔王城に居住できる者たちの共通の目的になっている。当の魔王は、統一なんて考えていない。できるとも思っていない。

---

 ナツメとキア
 カエデとロアとシア

 別々に行動を行っている。
 逃げる連合国に混じって、連合国内に潜入を成功させている。

 バチョウが暴れる事が解っていたので、連合軍が恐慌状態になることは既定路線だった。5名は、早めの撤退に紛れ込んでいた。

「キア。バチョウの様子は?」

「すごく楽しそうだと・・・」

「ははは。そうだろうな」

 ナツメとキアは雑談をしているが、敗軍と一緒に敗走している最中だ。最低限の声量で会話をしている。周りから奇異に思われないように、適度に防具を汚している。キアが抵抗したが、ナツメが上位者として指示を出した。
 実際には、魔王から下賜された武器や防具ではなく、連合国軍から奪った武器と防具を身に着けている。

「カエデは?」

「別で行動をしています。エルプレで合流予定です」

「わかった。暫くは、このままだな」

「・・・。はい」

 キアも連合軍の環境が劣悪だと考えてる。実際には、敗軍と考えれば、環境は悪くないのだが、カプレカ島と比較してしまっている。

---

「ロア。シア。状況は?」

「オールグリーン」「問題なし」

 カエデと一緒に行動しているのは、ロアとシアだ。
 3人は、敗軍と一緒に行動しているナツメとキアと違って、商人を装って連合国に入ることにしている。

 商人の装いも、王国との取引をしていた行商人から買い付けている。
 連合国の軍に突撃をして、蹴散らした。
 3人は、バチョウが暴れ始めたタイミングで戦場を離脱して、商人に偽装した者たちと合流した。

 商人部隊は、エルプレ国にあるダンジョンにアタックするために、カエデとナツメとロアとキアとシアの装備と補給物資を持ってきている。

 3人と商人に扮した者たちは、エルプレに向けて移動を開始した。

 3人にナツメとキアを加えた5人がダンジョンの攻略を行う。
 その間に、商人に扮している者たちが、エルプレで破壊工作を行うことになっている。

 破壊工作を行うのは、ダンジョンの支配領域になっているのが、どの辺りなのか把握する為だ。
 魔王の推測では、エルプレの支配領域は広くないと予測していた。新生ギルドが把握していない可能性もあるのだが、ボイドから流れてきた情報を分析した結果。エルプレは、ダンジョンマスターを拘束しているように感じている。その為に、ダンジョンマスターである魔王は、支配領域を広げるのではなく、スキルスクロールなどをエルプレに提供して延命を計っている可能性が高い。

 連合国の他の国でも、同じようにダンジョンを支配している国があるという分析結果が出ている。そちらは、後日に回すことになっているのだが、実際には自分の役割が終わったバチョウが配下の者を引き連れて、ダンジョン討伐に乗り出してしまっている。

 魔王からは、ダンジョンの支配は考えなくてよいと言われている。
 人間と共存するにしても、いいように使われているような連中なら、自分よりも強大な敵が出てきたときに寝返る可能性があると考えている。

 誰か一人くらいは、自分から従属を申し出る者が居る可能性を考えている。最初の一人を直接従属にして、その者に連合国内の魔王たちを統率させようと考えている。
 魔王ルブランをトップに置いた魔王のピラミッド構造の構築を考えている。

 ロアを連れてバチョウは、ダンジョンを攻略した。
 出来たばかりではないが、成長が止まっているダンジョンだ。20階層と浅く、防御も薄い。

 ロアとバチョウの二人だけで攻略が完了してしまった。連れてきた者たちは、ダンジョンの外で待機している間に攻略が終わってしまった。

 バチョウはロアにボスとの戦闘を任せた。
 ボスは、流石に強かったが、ロアが余裕を持って倒せた。カプレカ島にあるダンジョンでいうと10階層のフロアボス程度だ。ロア一人でも過剰戦力だったのかもしれない。

 ロアは、ボスを討伐後に魔王の居る部屋に突入した。

 部屋に入ってから3分後にロアが出てきた。

「ロア。どうだ?」

 バチョウは、部屋から出てきたロアに駆け寄って結果を聞いた。
 それによって、ダンジョンからの脱出を考えなければならないからだ。

「ダメです」

 ロアは首を横に振りながらバチョウに答えた。

 ロアとバチョウは、魔王カミドネや魔王ギルバードの様な魔王を求めていた。

「どっちだ?」

 バチョウは、既に脱出の準備を始めている。
 二人で潜っているので、時間も必要ない。

「プライドだけが高い愚か者でした」

 ロアの辛辣なセリフを聞いて、バチョウが肩をすくめる。
 予想していたことだが、使える人材が欲しいタイミングでハズレを引いてしまった。

「討伐したのか?」

「はい。ドロップは、カプレカ島に送ります」

 ダンジョンの外で待機している者たちが居る。
 その者たちに移送をお願いする手はずになっている。

「ハズレだったな。次に行くか?」

 バチョウは、渡された地図を見て、次のターゲットを探し始めている。

「バチョウ様。待ってください」

 バチョウの動きをロアが止めた。

「どうした?」

「次の魔王が産まれる可能性がありますので、近くに部隊を配置したいのですが、ご許可を頂けますか?」

「そうだな。魔王カミドネに連絡をして、アンデッド部隊を派遣してもらえ、監視だけが目的か?」

「主な目的は監視です。次の魔王を奪われる可能性を減らしたいと考えています」

「そうなると、アンデッドだけでは難しいか?」

「はい」

「魔王様に具申する」

「え?」

「カエデとナツメも同じ問題が発生するだろう。魔王様に共同で具申してみる」

「わかりました」

 バチョウは、ロアから離れて、魔王の側に居るはずの人物に連絡を入れる。
 既に、同じ内容の具申が、ルブランの所に届けられていた。

 バチョウたちが把握できている。連合国にあるダンジョンは、73箇所。
 国が囲っている所も多いが、殆どのダンジョンは所属がはっきりとしない場所にある。そのために、施設もギルドの出張所があるだけの場所が多い。近くに、補給が可能な村や町があればいい方だ。

 城塞村にあるギルドにも依頼を出して、ダンジョン攻略後の運搬を行っている。
 ダンジョンの攻略は、魔王ルブランが行っていると大々的に宣伝する。

 ダンジョンの奥底で震えている魔王たちにも聞こえるように・・・。

---

 エルプレに入った4人は、約束をしていた場所で合流していた。

 カエデは、先にエルプレに入って情報収集をしていたナツメに状況の説明を求めた。

「ナツメ。首尾は?」

 魔王がダンジョンの奥底に居るのは確定している。魔王は、戦闘力も防御力も皆無だとされている。その為に、自ら外に出る事は殆どない。

「芳しくない。入口の確認が出来ない。王宮にあるとは思うのだが、王宮の中は厳重だ」

「厄介だな」

 ナツメの説明を聞いて、カエデは面倒そうな表情を浮かべる。
 連合国のエルプレを更地にするのは簡単だと考えているのだが、魔王からの許可が降りるとは思えなかった。許されているのは、攻め込んできた者や魔王は殺してもかまわないが、民間人は殺すなと厳命されている。
 攻め込んできた者も、職業軍人以外はできるだけ殺すなとも言われている。
 その魔王が、無差別な殺戮を許すわけがない。

「そこで、バチョウに倣おうかと思うのだが?」

「え?」

 ナツメの思いもよらない発言に、3人はお互いの顔を見て固まった。ナツメから、”バチョウを倣う?”聞き間違いかと思ってしまった。

「バチョウの報告では、王国のダンジョンは弱いそうだ」

 バチョウは、既に13の魔王を討伐している。
 ルブラン経由で、カエデとナツメも報告を受けている。

 カエデとナツメとバチョウの連名で魔王に具申した事が影響している。
 自分たちと同じ者たちを作り出して、連合国のダンジョンがあった場所に村を築かせる事だ。小さな村だが、どこの国にも属さない村を構築させて、ダンジョンを独占する。
 連合国が攻め込んできたら、近くの村に逃げて、協力して奪い返す。
 連合国から見たら、ゲリラが自分たちの領地に村を作った形になる。そして、ゲリラたちは戦闘能力で言えば、一騎当千の強者だ。それぞれ村に30名配置されている。

「そうだな」

 バチョウの動きは把握している。
 ダンジョンが何か囲われていたら、屋敷を強襲して、暴れている間に、ダンジョンの入口を見つけて、ダンジョンに攻め込む。

 バチョウの報告から、誰かに囲われて安全を確保している魔王は研鑽を積んでいないのか、ダンジョンも単純で罠も少なく魔物も弱いと報告が上がってきている。

「カエデとキアとシアが核になって数名を連れて行けば攻略は可能だろう」

「ん?」

「ルブランの予想では、連合国のエルプレを支えている魔王は、エルプレに望まれるままに、武具やスクロールを渡している可能性がある」

 バチョウの報告を、ルブランが補足して情報として皆に渡している。
 武具やスクロールを渡して、魔王の安全を確約させている状態になっていると予測された。

「・・・」

「ポイントはある程度は溜まっている可能性もあるが、魔物の配置や罠は少ないだろうと予測される」

「え?」

「王宮の中に入口があるダンジョンで、魔物や罠を大量に配置させると思うか?」

「あっ」

「そうだ。だから、私とキオやキカたちで、王宮に攻め込む」

「そうか、ナツメが暴れている間に、私たちが魔王を討伐すればいいのだな」

「討伐まで行かなくても、ダンジョンの入口を発見してくれるだけで十分だ。あとは、王宮に居る連中を始末したら、私たちもダンジョンに潜ればいい」

「それなら、皆で王宮を攻めて、それから魔王の討伐を行ったほうがいいのでは?」

「そうすると、魔王が攻略を行っている者たちに集中する可能性が高い。王宮を攻められていたら、エルプレの王から魔王に救援が出るだろう?」

「魔王がエルプレの王族を見捨てたら、エルプレが生き残ったら討伐される可能性がある。と、いうことか?」

「そう、考えてくれたら、魔王はエルプレの要請に従うだろう?同時に攻めた方が、メリットがあると考えた」

 大枠の作戦が決定した。
 人員が不足していたので、バチョウに連絡をして、ゲリラ部隊としてカプレカ島から送り込まれた者たちを回してもらう事に決まった。

 人員の到着まで、4人はエルプレで情報収集を行うことになった。
 主に、王族の評判だ。

 魔王からは、打倒してしまっても良いと言われている。
 評判が悪ければ、魔王ルブランが打倒したと宣伝してもよいと考えているのだが、評判がいい王族なら、内政に反対する反乱分子がクーデターを起こしたと、見せかけるつもりでいた。
 都合がいいことに、バチョウたちがダンジョンを攻略しながら、連合国に参加していたエルプレの兵士たちが身に着けていた武具を持っていた。

---

「カエデ様。ナツメ様」

 キアが、王族の評判を報告していた。
 上はクズの集まりのようだ。

「そう?第三王子は人望があるのね?」

「はい。連合国という枠組みも、第三王子は嫌っていて、脱退を叫んでいます。もちろん、他の王族や貴族からは異端者のように扱われています」

「魔王様に・・・。魔王ルブランに、謁見するくらいまでは大丈夫そうね」

「はい」

 方針が固まった。
 明日の夜明けの時間に、王宮に3方向から攻め込むことになる。

 皆が、カプレカ島のシンボルを身に着けて、配置についている。

 合図は、王宮に向けてカエデがスキルを放つことに決まった。
 混乱している所で、王宮に攻め込むのだ。

 神聖国は、既に魔王ルブランから要請を受けた帝国兵と、魔王カミドネの配下に包囲されている。正確には、魔王カミドネの配下が神聖国の首都を半包囲して、距離をあけて、帝国兵が包囲を行っている。

 魔王カミドネの包囲網は、緩くは見える。

「なぜだ!なぜ、突破が出来ない!部隊長は何をしている!我らは、神の使徒だぞ!魔王が用意したアンデッドが多くても・・・」

 肩で息をしながら、ルドルフは叫んでも何も変らない。

「なぜだ。なぜだ。なぜだ。なぜ!こんな事になっている!!」

 聖王ルドルフが、怒鳴り散らしているが、聖王ルドルフの疑問に答える者は居なくなっている。

 聖王ルドルフは、勝利を確信していた。
 魔王といっても、新参の魔王に自分が負けるとは考えていなかった。兵の数も、数倍は抱えていた。

 そして、自分がスキルを与えた司教クラスが出陣していた。
 アンデッドが多い魔王カミドネの軍に負けるはずがなかった。帝国軍は、魔王カミドネの軍を蹴散らせば、靡いてくると考えていた。

 しかし、魔王カミドネを駆逐しようとした包囲網は破られて、神聖国の兵士たちは各個撃破され聖都に逃げ帰ってくるのがやっとの状況だった。司祭たちは、情報を持ち帰る為に後退したと言っているが、負けて、軍が瓦解して逃げ帰ってきたのは、誰が見ても解ってしまう。それこそ、子供が見ても”逃げてきた”のがわかる。

 神聖国は、追い詰められていた。
 今まで、大量の奴隷を使い他国を脅して、スキルを部下に与えて、繁栄を極めていたが、風前の灯火になってしまっている。

 神聖国のトップである聖王ルドルフは、聖都から逃げ出すことが出来ない。
 その為に、聖都の防御は堅牢にしていた。堅牢な防御がゆえに陥落はさけられているが、風前の灯なのは誰の目にも明らかだ。

 神聖国の街や村は、次々に陥落している。
 聖王ルドルフは、聖都を守るために、街道などの整備にも気を使っていた。

 街道は、歩くには十分な広さを持っているが、軍が侵攻するのには適さない。整備されていない為に、補給を行う部隊の進行が難しい状況にしてある。それだけではなく、街と街の間隔を離して、一日で到達できる距離には作らせない。略奪が可能な村も許さなかった。

 それらの施策をもってしても、魔王カミドネのアンデッド軍団を止めることは出来ない。
 アンデッドなので、補給の必要がない。アンデッドの弱点は、ある程度は解決しているために、街や村を蹂躙するのも容易い。

 魔王ルブランと帝国の取り決めで、ダンジョンがある街や村は、魔王ルブランが貰い受ける事になっている。魔王ルブランは、街や村の統治はしない。統治は帝国に任せてしまう。統治権は魔王ルブランが持つが、領としては帝国領となる。取り決めとして、ダンジョンがある村や街は、魔王ルブラン支配の村や街として帝国の中にある治外法権の街や村となる予定だ。

「ダンジョンがない?」

 包囲している陣の後方に、帝国の指揮本部が設営されている。帝国軍は、魔王ルブランからの要請通りに、逃げてきた民間人を保護して、身元を調査することを第一としている。逃げてきた神聖国の関係者を捕縛する。魔王カミドネからの要請で、軍を前進させる。

 その帝国軍の本部に、情報が舞い込んできた。

「はい。捕えた、司祭から聞いた話で、裏も取りました」

「そうか・・・」

 帝国軍の指揮官は、旧第7番隊の隊長だったティモンが行っている。
 魔王ルブラン関連だということで領地から呼び戻されて任命された。

「はい。聖王の指示で、見つけたダンジョンは即座に攻略を行って、討伐していたようです」

「わかった。貴殿は、そのまま城塞街に向ってくれ」

「はっ」

「城塞街のギルドにいるメルヒオール殿に状況を伝えてくれ」

「はっ」

 ティモンは、伝令兵が部下と一緒に天幕を出ていくのを見送った。
 魔王ルブランの予測では、神聖国の聖都は大きなダンジョンだと説明された。

「こうなると、魔王ルブランが言っていた、聖王が魔王というのは、あながち間違いではない可能性が出てきた」

 ティモンの独り言は、帝国の天幕に吸い込まれていった。

---

「フォリ!」

 魔王カミドネは、副官であり、右腕であり、夜伽の相手である。フォリの名前を呼んだ。

「はい」

 魔王カミドネは間違えられることが多いが、生物的な性は女性である。女性が好きな女性である。

 魔王カミドネは、フォリを横に座らせて、抱き着きながら話を聞いている。

「神聖国は、どう?」

 フォリは、出陣はしていない。
 魔王カミドネを守る最後の砦と言えば聞こえはいいが、魔王カミドネが一緒にいるように指示を出している状況だ。

 フォリは、トレスマリアスの3人から状況を聞き出して、まとめた。まとめられた情報を、魔王カミドネに報告をしている。

 魔王カミドネのダンジョンも遠征が行えるほどの人員は揃っていない。魔王からは、人員は好きに増やせと言われて、その分のポイントも貰っている。しかし、魔王カミドネは、サポートができる者を増やしていない。
 初期メンバーである、キャロとイドラ。二体の護衛フォリとトレスマリアスのマリア、マルタ、マルゴットを追加してから、補充をしていない。

「現在は、トレスマリアスが聖都を半包囲している状況です」

 魔王カミドネではなく、フォリと魔王ルブランが決めた作戦だ。
 完全に包囲してしまうと、ダンジョンのポイントの糧となる”人”が奪えない。

 魔王からの指示もあり、聖都は干上がらせることが決定している。

 聖王が持つポイントの総量はわからないが、人が居なくなればポイントの補充ができなくなる。
 帝国が周辺の街や村を制圧しているのも、ポイントの補充ができない様にする為だ。

 半包囲作戦で、逃げ出す者たちには攻撃を咥えないと宣言している。
 この状況で、聖都から聖王が逃げ出さないことから、魔王の推測が当たったと思われている。聖王=魔王。そして、ダンジョンの領域は広く設定されていない。大きくても聖都の範囲内だと考えられている。

 魔王カミドネは、魔王からポイントを受け取って、聖都近くまで、ダンジョンの領域にしている。かなりのポイントを消費したのだが、魔王は気にしないで、できる範囲を広げてしまえと指示を出している。

「問題は?」

 魔王カミドネは、反抗部隊の責任者ではない。
 しかし、部隊をまとめる者として状況の把握をしておきたいと考えている。魔王も、部隊の責任者はフォリだと尻ながらも、魔王カミドネが報告を上げるように伝えている。

「思っていたよりも、聖都から抜け出す者が少ない状況です」

 聖都には、民間人も住んでいた。民間人は既に逃げ出してしまっていると考えられている。
 司祭たちが負けて逃げ帰ってきてから、暫くの間は聖都から逃げ出す者たちが多かった。

 半包囲が完成してからも数日は、聖都から逃げ出す者が増えていた。

「時間がかかりそう?」

 攻め込んでしまえば、落とすのは難しくはないが、犠牲が出てしまう可能性がある。
 魔王も、魔王カミドネも、仲間からの犠牲を嫌う傾向がある。そのために、突撃の指示は出ていない。

 部下たちは、”突撃”の許可が欲しいとは思っていても、主たちの気持ちも十分に解っている。

「はい。キャロやイドラを」「ダメ!」

 フォリは、キャロとイドラからの進言を受けて、突撃しようとしていたのだが、魔王カミドネはフォリが言い切る前に拒否を示した。魔王カミドネは、神聖国への逆侵攻が失敗しても構わない。それよりもキャロやイドラの方が大事なのだ。神聖国を痛めつけるという当初の目的は果たしている。街や村の占拠も終わっている。神聖国が同じだけの影響力を持つのは不可能に思える状況だ。ここで無理する必要はない。聖都を孤立させるだけでも十分な状況だ。

 嬉しそうにするフォリとは対照的に、魔王カミドネは憮然とした表情をしてフォリに体重を委ねる。甘えるしぐさをした。

 フォリも解っているので、魔王カミドネを抱きしめる。

「はい。わかっています。マルゴットからの提案ですが・・・」

 そして、落としどころとなる作戦を提案する。この作戦が実行された時に、聖都はどうなってしまうのか?
 魔王カミドネには判断が出来ない。しかし、最良の作戦であるのは解ってしまった。

 味方が傷つかずに相手に最大のダメージを与える。
 そして、聖都にあるダンジョンの攻略を開始できる作戦でもある。

 魔王カミドネは、自分の権限の範疇だと判断して、マルゴットから提案された作戦に、少しだけ修正を加えた作戦にGOを出す。

 魔王カミドネが作戦を承認した。その瞬間から、眷属たちが動き出す。

 最初に動いたのは、キャロとイドラのコンビだ。魔王カミドネに頼んで、眷属を増やした。自らの眷属になる同族だ。眷属は30体だ。同時に、ポップする同族を3000体を配下に加えた。
 キャロとイドラは、半包囲している聖都の固く閉ざされている門の前に陣取って、イドラたちが遠吠えを行い。キャロたちが遠隔からスキルでの攻撃を行っている。三交代で、昼夜の違いなく攻撃を行っている。

 第一段階は、聖都に残っている連中に疲労と恐怖を与える作戦だ。
 聖都が半包囲されている状況で、包囲網がない部分以外の門を襲われれば、罠だと解っていても、包囲されていない門に人が殺到する。

 殺到するが、門は固く閉ざされている。
 当然だ。包囲はされていないが、聖都の周りは敵ばかりだ。聖都に残っている者で、商人や職人は夜中にこっそりと抜け出して、帝国に保護を求めている。身元がはっきりとしている者は、帝国本土に送られる。帝国本土でさらなる調査が行われる。身元がはっきりしない者は、王国のダンジョンの一つである魔王ギルバートに送られる。

 魔王ギルバートは、猜疑心が強かったために、人の嘘を見破ったり、過去を調べたり、調査系のスキルを多く所持している。
 移送は、魔王カミドネの支配領域に住んでいる獣人族が担当する。

 王国の魔王ギルバートのダンジョンに到着するまでに、獣人族に暴言を吐いた者は、素性がどうであろうと、奴隷落ちと決まった。
 これは、魔王の意向ではない。魔王カミドネと魔王ギルバートで決めたことだ。

 半数が、獣人族を見た時に暴言を吐いた。
 移送中に残りの半分が逃げ出そうとして、獣人族に捕まり奴隷に落ちた。
 魔王ギルバートのダンジョンに辿り着いた者たちの半数は、魔王ギルバートの眷属の調査で”黒”と出た。

 身元がはっきりしなかった者で、自由を手に入れたのは、全体の2割に満たない。
 その自由を得た者も、働こうとしない為に、魔王ギルバートは支援の打ち切りを決めた。辿り着いた時に、家と2ヶ月程度の食料の提供を行うだけに決めた。これで、魔王カミドネの所に辿り着いた獣人族よりも、厚い支援が受けられている。

 聖都の攻略は第一段階から、第二段階に移ろうとしていた。

「マリア。マルタ。マルゴット。準備は大丈夫か?」

 フォリが、トレスマリアスに進捗の確認を行う。
 作戦開始のトリガーは、フォリが持っているためだ。

「はい。帝国の士官にも手伝ってもらって準備は終わっています」

 代表して、作戦案を上申したマルゴットが答える。

「明後日から作戦を開始してください。イドラは居ますか?」

 第二段階が開始された。

 キャロは、第三段階の為に、イドラを呼びつける。

「イドラは、どうしますか?私は、カミドネ様からご許可を頂けなかったので、ここで待機です。イドラとキャロは、安全マージンを取るのなら、参加してよいと言われました。キャロは、周辺を警戒するために、作戦には参加しないことになりました」

 フォリの問いかけに、イドラは少しだけ考えて、キャロと一緒に周辺の警戒と探索を行うと言ってくれた。

 フォリは、少しだけ安心した。
 魔王カミドネからは、出来れば第三段階の参加は見送って欲しいと言われていた。

 第二段階までは、魔王カミドネの眷属たちが協力して行うとしても、第三段階は、魔王ルブランに任せてしまおうと考えていたのだ。
 魔王ルブランも、大筋で合意は貰っている。それで、眷属の中には最終段階で魔王ルブランを頼るのは、違うと思っているかもしれないと考えて、最終判断は個々の眷属の意見を尊重すると言っていた。

「わかりました。周辺の警戒をお願いします」

 イドラが天幕から出て行った。
 キャロは、魔王カミドネに連絡を入れて、魔王ルブランへの助力をお願いする。誰が来るのか解らないが、自分たちが行うよりも、第三段階は魔王ルブラン配下の方が、確実に遂行できるだろう。

 魔王ルブランからは、派遣部隊の編成に1日必要だと言われた。
 それでも1日でダンジョン攻略の部隊編成が終了すると言っているのだ。それも、数百年に渡って、神聖国の聖都にあったダンジョンの攻略部隊だ。深度も難易度も高いことが考えられている。

『フォリ。ルブラン殿からは、ルブラン殿が部隊長を務めて、少数精鋭で攻略を行うと言われた』

「え?ルブラン様が来られるのですか?」

『そうだ』

「魔王様は、反対をされなかったのですか?」

『戦力を考えれば、ルブラン殿が適任だと言っていた』

「・・・」

『怖く、凄い魔王だ。勝てるわけがない』

「はい」

 キャロは、魔王ルブランの声を聞いて安心感を得られる。
 そして、魔王ルブランの為に命を捨てるくらいなら簡単にできると思っている。

 部隊編成を1日で終わらせて、その後に移動するとして、3日後には到着する。

 それまでに、第二段階が成果を出せれば良いとは思っている。
 もし、間に合わなければ、魔王ルブランと話をして、第三段階に移行するのを遅らせるか、2.5段階というべき補助作成を実行するか決めればよいと思っている。

「キャロ様」

 魔王ルブランとの会話を終わらせたキャロの下に、マリアが戻ってきた。

「何か、問題が発生しましたか?」

「問題と言えば、問題なのですが・・・」

「どうしました?問題が出たのなら、対処を考えなければ!」

「あっ。問題ではないです。ただ、第二段階が、終わりそうです」

「え?」

「門が、内側から開けられてしまいます」

「は?まだ、始めたばかりですよね?」

「はい。第二段階の初手を行った所、聖都はパニック状態に陥ってしまって、現状は初手で作戦を止めています」

 第二段階は、聖都の中にトレスマリアスが侵入して、商店や軍の施設に放火する。
 放火後に、鎮火まで行い。鎮火時に、皆で作った”チラシ”をばらまく予定になっていた。

 内容は、聖王がダンジョンの魔王であることや、人を生贄にして自らの寿命の延長を計っていたこと。帝国や王国を魔王ルブランや魔王カミドネにけしかけていたのは、自らの顕示欲の為だということが書かれていた。
 周知の事実だが、はっきりと明言されていなかった。特に、聖王がダンジョンの魔王であり、聖都が魔王に支配されている場所である。そのために、逃げ出した人間が帰って来ないのは、秘密裡に魔王が始末して、自分の”贄”にしているからだと結ばれている。
 酷いマッチポンプだとは思うが、放火は”聖王”の見せしめで、その”火”と消火したのは魔王カミドネの配下だと宣伝する予定だったのだ。

 予定が狂ったのは、マリアとマルタとマルゴットが、自らの眷属を使って、聖都の中にある15箇所に一斉に放火を行ったからだ。
 自らが姿を見られるのを嫌って、太陽が沈んだ時間帯を選んだのも、おおきな間違いだった。

 聖都を炎が照らす。
 ”浄化の炎”のように、聖都を焼き尽くしてしまうのではないかと、聖都に残っている者たちが考えてもしょうがない状況だ。

 第二段階では、門を内側から開けさせて、混乱を作り出して、第三段階に移行する予定になっていた。

 しかし、第三段階で突入予定になっている魔王ルブランをリーダーにした攻略部隊は、4日後に到着予定だ。
 フォリの見立てでは、4-5日でパニックになり、6日目に聖都にある教会施設に放火することで、パニックになると考えられていた。

 それが、最初の軍の施設と無人になった商店への放火だけでパニックになってしまった。

 トレスマリアスの報告では、少なくても300名以上の死者が出ている。
 死者が増えれば、トレスマリアスの眷属が増えることを意味している。

 散発的な放火に留めて、魔王ルブランたちが到着してから、第三段階に移行するための作戦を実行することに決まった。

 魔王カミドネは日々広がっていく領土を見ながら、聖都に嫌がらせの指示を出している。
 時間稼ぎをしているのは、攻略部隊の到着を待っているからだ。
 予定は、本日だが時間までは指定されていない。

「カミドネ様」

 魔王カミドネの部屋にフォリが報告に訪れた。

「フォリ?」

「はい。報告が来ました」

 報告書は、現地からは口頭で報告された情報を、フォリたちがまとめた物だ。
 眷属以外にも、獣人族の中から読み書きができる者や、勉強に意欲を見せた者を文官として雇い入れている。流石に、魔王の側仕えには採用はしていないが、地上部分での雑務を行う者たちを徐々に増やしている。

「わかった。魔王様への報告は?」

 魔王カミドネは、この戦争は自分たちが引き金になっていると考えている。

「送りました」

 魔王への報告を行い。
 戦争の状況を伝えることで、他の戦場の足枷にならないように考えていた。

「ありがとう」

 会話が切れるタイミングで、フォリが跪いた。

「カミドネ様」「ダメ」

 魔王カミドネは、フォリが跪いた理由が解っている。

「え?」

「聖都のダンジョンに向いたいのでしょ?」

「・・・。はい。ご許可を頂きたい」

「ダメ」

 魔王カミドネは、フォリがダンジョンに向かいたい理由も解っている。
 解っているが許可は出せない。

「カミドネ様」

 今回は、珍しくフォリが魔王カミドネの言葉を受けても引き下がらない。
 強い目線に気が付いて、魔王カミドネは頭をゆっくりと振ってから、フォリに事情を説明する。

「フォリの実力を疑っているわけではない。フォリを失う可能性があるのが怖いのは認めるけど、それ以上に、魔王様から、今回は自分たちに譲って欲しいと言われている。わかるよね?」

「・・・。はい」

 フォリは、魔王カミドネの気持ちが伝わる言葉を受けて、魔王カミドネの命令に従うことを決めた。

 魔王カミドネは、フォリが諦めていない事を付き合いから感じ取っている。
 その為に、魔王から渡された情報を自分で読み解いて考えたことを、フォリに告げる。

「あの魔王は、やりすぎた」

 既に魔王カミドネは、聖王を”魔王”と呼び始めた。

「え?やりすぎ?」

「そ。まだ、魔王様も、確定している情報ではないので、ルブラン殿にだけ情報が伝えられているらしいけど・・・」

 魔王カミドネは、魔王から提供されているモニターに一つの地図を表示する。

「これは?」

「この大陸。他の大陸は、”ない”と言っていた」

 大陸の話は別にするとしても、自分たちのダンジョンが存在している大陸だけが現存している大陸だと理解していた。ダンジョンは滅んではいないが、海中に沈んだ。
 大陸が沈んだために、入口が水没してしまったためだ。内部空間が、入口に依存した作りになっていなかったダンジョンだけが残った。攻められることは無くなったが、成長も見込めない”死んでいない”ダンジョンが残った。

「え?」

「まぁ今は、他の大陸の話は関係がないから、地図を見て、不思議な事に気が付かない?」

 大陸の話は、魔王から聞いているが、フォリに説明するのは今でなくてもいいと考えている。
 そもそも、説明の必要もない可能性が高い。”死んでいない”ダンジョンで自分たちに関わることはほぼありえない。

「・・・。あっ」

 フォリは地図に点在するダンジョンの位置を見ていた。そこに、魔王カミドネが、縦横の線が入ったレイヤーを被せた。

 ダンジョンは適当な場所に存在していたのではい。
 等間隔に、ダンジョンが存在していた。

 そして、ダンジョンが淘汰されていくなかで、現状のような配置になった。
 残っていたダンジョンの位置を見れば、淘汰がどのように進んだのかも解る。

「そうだ。神聖国に現存しているダンジョンがない」

 正確には、魔王の周りにもダンジョンは存在していない。
 しかし、それは魔王が滅ぼしたのではない。

「はい」

「ルブラン殿から聞いた話だが・・・。魔王様が激怒されて、ルブラン殿に、神聖国の消滅を指示された。らしい」

「消滅ですか?」

「魔王様のお考えでは、神聖国の周りにあったダンジョンは、聖王が消滅させた可能性が高い」

「何故ですか?」

「想像も入りますが、いいですか?」

「はい。お願いします」

 魔王カミドネは、断片的に聞いた話を繋げ合わせて説明を始めた。

 フォリは、ダンジョンの消滅方法を初めて聞いた。その方法がどんなに酷い事なのか理解が出来た。
 そして、いくつもの可能性を神聖国の魔王が潰してきたことに憤りを感じた。

 魔王が激怒したのも、”技術”を進歩させるためにダンジョンがあるという存在意義を無視した潰し方が気に入らなかったからだ。それも、人対魔王なら技術が育たない状況で討伐されてしまうのも”弱いのだからしょうがない”と割り切れるが、魔王対魔王になった時には事情が違う。
 技術が進んでいるのなら、配下に加えるなり、技術を吸収すればいい。
 神聖国は、技術を吸収した形跡がない。
 魔王が討伐されると、次の魔王は進んだ時代から召喚されるのは解っている。
 古い時代の神聖国の魔王が、新しい時代の魔王を殺し続けた。

 これが、神聖国に魔王が少ない理由だ。

「そうですか・・・。技術の譲渡がない」

「そうです。魔王様が言うには、数にして40を越える魔王を討伐しているのだから、それだけの”技術があるはず”というのが、魔王様の推測です」

「それで、魔王様が激怒している理由は?」

 フォリが、この質問をしてくることは想像が出来ていた。
 そして、魔王カミドネとしては、聞かれたくなかった質問の一つだ。

「フォリ。例えばですよ。私が討伐されて、フォリが生き残った」

「カミドネ様!」

「例えです。怒らないでください」

 魔王カミドネが哀しそうな表情をする。
 フォリも、魔王カミドネの表情から本意ではないと悟った。

「すみません」

 素直に謝罪の言葉を口にして、魔王カミドネからの言葉をまった。

「フォリが残って、私を討伐した魔王が、私に関する技術を一つも残さなかったらどうしますか?」

「・・・。その魔王を滅ぼします。無理でも、滅ぼします」

「ありがとう。でも、私が考えた物や、私が出した物が残されて、継承されているのなら?」

「え・・・。あっ・・・。カミドネ様の痕跡を残すために・・・」

「神聖国の周りには、そういった痕跡がない。技術の独り占めは、まぁ討伐したのなら当然の権利だよね。しかし、全ての魔王に関することを、何も残さなかったのは、許せない。魔王様のお言葉だ。ルブラン殿は、魔王様の言葉を実行するために、攻略を行う」

「魔王様の指示なのですね」

「そうだ。そのうえで、消滅の方法を指示されてきた」

「え?」

「聖王に関することを全て消滅させろとのご命令で、そのうえで聖王は死なないように生かし続けろと命令だ」

 ダンジョンのコアは潰さない。機能は停止させる。破壊しなければ可能なのは、実験で解っている。
 領地を最小に絞る方法は解っている。戦争で勝ち続ければいいだけだ。ダンジョンの中には戻らせない。地上部で、粗末な家を与える。周りを魔王カミドネが領地として、神聖国の魔王は、領地からの収入がない状態にする。
 食べなくても死なない。娯楽もなにもない状況で生き続ける状況に追い込む。
 家は、所有ポイントを使って自動的に復旧するようにしておけば、ポイントが増えたら家を破壊すればいい。

「それは・・・。それなら!」

「ダメ」

「カミドネ様?」

「フォリも行きたいのでしょ?」

「はい」

「だから、”ダメ”。これは、覆らない。フォリには、別の役割をお願いする」

「え?」

「獣人族を組織して、神聖国に乗り込んで」

「え?」

「今まで、獣人族にしてきたことを、神聖国に残っている連中に教えてあげて」

「いいのですか?」

「問題は・・・。ないかな?魔王様には許可を貰っている。もちろん、罪がない人も居るでしょう。その為の、道具もお借りしてきている」

「ありがとうございます」

 二人の話が途切れた瞬間。
 ドアをノックする音が室内に響いた。

 ルブランが率いる討伐部隊が到着した知らせが入った。

「フォリ。後をお願いします」

「わかりました。カミドネ様」

 フォリが、伝令に来た者と一緒に部屋から出た。
 閉まる扉を、魔王カミドネは見送った。魔王から、魔王カミドネが現場に出る事を禁止されているためだ。

 ルブランが、魔王カミドネに面会を求めてきた。
 最終確認のためだ。

 ルブランは、魔王カミドネの玉座で話をしたいと言ってきたが、魔王カミドネは私室にルブランを招き入れて話をすることにした。