ギミックハウス~第495代目当主~


 魔王カミドネの発言に違和感がある。

「ルブラン」

 セバスに確認をさせる。
 俺が”今”確認するのは、カミドネに情報を与えることになる可能性もある。別に隠しておいてメリットがある情報ではないので、構わないのだが、セバスに確認をさせた方がよさそうだと考えた。

「はっ。確認しましたが、ヒールのスクロールは、1万です。それから」

「なんだ?」

「治癒のスクロールが出現していますが、そちらは100万です」

 ”ヒール”と”治療”何が違う?

「ん?ヒールと治癒で違うのか?」

 100万なんてスクロールは、かなり高位なスキルなのか?

「おそらく、カミドネが使えていた物が、我らにも使えるようになったと思われます」

 ルブランが、説明を読みながら推測しているが、確かにカミドネのダンジョンを支配したのだから、カミドネが交換できた物が表示されるのは当然だ。スクロールが魔王で違うとは少しだけ意外なことだ。どうやって覚えさせるのか気になるが・・・。これから検証すればいいだろう。

「それにしても・・・」

 ルブランが、スクロールの説明をしてくれた。
 ヒールは、俺が作り出した物で、ゲームなどでよくある物だ。治癒は、どうやら神聖国が作り出した物らしく、神聖国以外では100万も必要になる。それで使える権能は、ヒールは、怪我や病気を治すのに対して、治癒は失った生命力を復活させるという意味がよくわからない物だ。

「魔王カミドネ。治癒のスクロールの権能は知っているか?」

 跪いていた魔王カミドネを立たせて、話がしやすい状態にする。
 従属したからと言って、跪かれるのは好きじゃない。セバスなどは、跪かせたいのだろうけど、跪いたからと言って、気持ちがなければ意味がない。

「あぁ神聖国の奴らが使っているのを観察した。我のダンジョンでも使えるようにしたかったが、コストが悪すぎて諦めた」

 100万のコストに見合う物ではないのか・・・。
 たしかに餌として考えれば、1万の物を100個用意して、宝箱に入れた方がコストパフォーマンスとしてはいいだろう。それに、”治癒”のスクロールがあると宣伝しても、実際に取得した者が現れなければ宣伝()にならない。魔王ルブランのように、姿を見せて宣伝すれば話は違うかもしれないが、奥に籠っている魔王がいくら言っても無駄だ。餌として機能させるには、一つでは意味がない。100万を回収するために、別に数百万が必要になってしまう。

「それで?権能は?」

「ん?今、ルブラン殿が言った通り。失った生命力を取り戻すのが、治癒だ」

 その失った”生命力”というのがよくわからないから聞いたのだけど、何を偉そうに言っているのだろう。
 生命力と聞いて、思いつくのは”ゲームでよくある、ヒットポイント”だけど、そんな都合がいい値が存在しているとは思えない。俺が知らないだけで、詳細なステータスがあるのか?

 聞き方を変えるか?

「魔王カミドネ。怪我は、治癒で治せるのか?その時に、傷跡はどうなる?」

「ふむぅ・・・。何か、勘違いされているようだ」

「勘違い?」

「あぁ。治癒は、ダンジョンで負った怪我(ダメージ)にしか作用しない」

「はぁ?」

「スクロールで得た”治癒”は、ダンジョンだけで使えるのが普通だろう?」

「魔王カミドネ。”治療”以外のスクロールには、そんな制限はないぞ?」

「あるぞ?スクロールを使って得たスキルは、ダンジョンの中でしか発動しないスキルの方が多いのではないのか?」

 カミドネが言っていることが解らない。
 スクロールから得たスキルと、最初から取得しているスキルに違いがあるのか?

 そもそも、スキルは同じだろう?
 訓練で得たスキルと、スクロールで得たスキルに違いがあるとは思えない。あるとしたら、元々のスクロールに付与された権能だ。

 俺が、眷属や子供たちに渡したスクロールでは、ダンジョンの中だけで使える権能は付与されていない。はずだ。

「ルブラン?」

 セバスを見るけど、首を横に振る。”ヒール”はそんな制限はない。
 俺の認識が正しい。どういうことだ?

 そうだよな。
 ミアやヒアを治した。その時には、ダンジョン以外で負った怪我も在ったはずだ。それが綺麗に治っている。

 俺が間違っているのか?
 実際に、行われた結果からは、カミドネが言っていることが間違っている。俺の常識と、彼の常識が違っている可能性が高い。

「魔王カミドネ。スクロールで”ヒール”を習得させた者は、ダンジョン以外で負った怪我を治した。病気もある程度は治せた。力を込めれば、身体の欠損も治せた」

「・・・。それは・・・」

 魔王カミドネが驚愕の表情を浮かべる。そこまで、不思議な事なのか?
 スクロールで得た力だろうと、スキルになってしまうのだから、外で使えないほうが驚きだが・・・。

「どうした?」

「そのスクロールは?」

「ん?ギミックハウスでドロップしているぞ?」

 スクロールをドロップさせれば、それが餌となる。いい餌が有れば、いい魚が釣れる。実際、ギミックハウスの収支は完全に黒字だ。

「なっ・・・。それで・・・。我のダンジョンでも・・・」

「貴様のダンジョンで配置ができるのなら、使っていいぞ。統合されているようだから、出ているのなら、使っていい」

「わかった」

 カミドネが、虚空を触っている様子だ。そうか、俺と違うのだな。手の形や指の動きから、本を捲っているような感じだ。スマホの画面では無いのだな。
 面白いな。多分、モノリスが解りやすい形状になっているのだろう。

「スクロールだけでなく、罠や書物や魔物まで増えている?え?それに・・・」

「あぁ生活を豊かにするためだ。魔王カミドネは、電気は解るか?」

「あぁ・・・。物では、解らない物も多いが・・・」

 電気が解るのなら、ある程度の話ができるのだろう。科学や物理は、時代で違う可能性はあるが、基礎は大丈夫だろう。
 今後のことを考えると、セバスあたりのブレーンには丁度いいかもしれないな。ミアとかヒアの教師役には丁度いいだろう。

「渡したポイントは好きに使っていい。ダンジョンの中で人を殺す必要はない。最終階層前には守護者を大量に配置している。安心してくれ」

「わかった」

「地上に、新生ギルドの出張所を作る。人を集める」

「わかった。人を集めてどうする?」

「ん?集まれば、それだけで微量だが、ポイントになるぞ?」

「え?」「は?」

 また、認識の違いなのか?

 魔王カミドネに、説明するが、魔王カミドネが知っている内容と違っていた。魔王カミドネのダンジョンは、地上部分は最低限の領域しか展開していなかったのか?

 どうやら、話を聞いていて解ったのは、連合国に居る魔王に騙されていた。
 直接のやり取りではなく、ギルドを通しての間接的なやり取りなのだが、連合国の魔王から情報を貰っていたようだ。

 おそらく、騙されていたのだろう。人が居るだけで、ポイントが得られるのは、カプレカ島だけではなく、この魔王城でも事実として認識している。それに、人数が増えるだけではなく、生活の質を上げれば、それだけ多くのポイントが得られている可能性がある。
 メアやヒアたちを眷属にした時に、本来なら取得できるポイントが減るはずなのに、増えた実績がある。健康状態が関係しているのか、幸福感が影響しているのか解らない。

「魔王カミドネ。貴様のダンジョンの改修を行う」

「わかった」

「攻略は、不可能だと考えてくれていい」

「え?」

「この世界に、90階層のダンジョンを攻略して、さらに最終段階でボスラッシュを潜り抜けられるような者が居るのか?」

「はぁ?」

「だから、100階層は、貴様の居住区にしてある」

「わかった。解らないが、わかった。ダンジョンに戻ってから、確認する」

「そうしてくれ」

 手を上げると、セバスがカミドネの所に移動した。

 そのまま、セバスとカミドネが俺に深々と頭を下げてから、玉座から出ていく。

 残された俺は、自分の部屋に転移して、モノリスを確認することにした。

 我は・・・。面倒だ。私は、魔王カミドネ。名前は、別にあるのだが、魔王ルブランの配下にダンジョン・コアの部屋まで攻略されてしまった。コアを破壊されれば、私は死んでしまう。
 魔王ルブランの配下は、ダンジョン・コアの前で戸惑っていた。そこで、命乞いをしてみた。

 あの時の、私の判断を、私は褒めたい。
 命乞いをした結果、魔王ルブランが治める地域に転送された。ステータスボードから状況が判明した。

 魔王ルブランに会って驚いた。魔王ルブランは、魔王ではない。正確には、ダンジョンの主ではない。私には、解る。ダンジョンの主は別に居る。その者が、ルブランを自分の変わりに全面に立たせている。

 子供?間違いない。彼が”魔王”だ。私では、彼を見られない。間違いない。彼を甘く見ないほうがいい。

 それからは、驚きの連続だ。

 私には、魔王の名前は解らない。解らないが、”モノリス”が彼の器だろう。魔王モノリスと呼ぶのが正しいのか解らないが、ルブランや他の眷属たちは、ただ”魔王”と呼んでいる。私も、それに倣うことにする。波風を立てる必要はない。

 私の器である。ステータスボードにいくつかの項目が追加された。
 魔王様へのダンジョンへの移動許可。私のダンジョンが『カミドネ』と名がついた。これから、私は『魔王カミドネ』を名乗ることになった。同時に、魔王様との繋がりを感じる。

 私は、第435代目当主だったが、私が魔王様に臣従したことで、私以降は、この場所では魔王は誕生しなくなる。私は、魔王様の眷属と同じ扱いになる。簡単に言えば、”魔王様が殺される”と、私も死んでしまう。私は、死にたくない。眷属となって解ったことだが、眷属は主の命に関わる行動ができない。制限されているのではない。単純に”できない”のだ。不思議な感覚だが、彼に仕えるのなら問題ではない。

 この世界に来てから、数百年(数えるのも面倒になった)の時間が過ぎた。生活水準をあげようと頑張って来たが、前世に追いついていない。それが、魔王様の眷属になり、私の部屋が快適な空間に変わった。上下水道。ガス。電気。全てではないが、罠で構築されている。他にも、ソファーも素晴らしい。シャワーや風呂と言われる物まで設置ができた。寝具は離れたくないほどに素晴らしい。
 空間だけではない。食生活は記憶している前世よりも素晴らしい物に変わった。どうやら、魔王様は私よりも後の時代の人の様だ。国も違うのだろう。言葉が解らなかった。

 言葉が解らないと伝えると、スキルを渡された。スキルを覚える事で解決した。

 一番の驚きは、私が騙されていた事だ。
 他の魔王から得た情報が間違っていた。間違っていたのか、私を騙そうと虚偽の情報を流したのかは不明だ。

 私の数少ない家族・・・。眷属にも恩恵が有った。私が膨大なポイントを得たことで、皆を進化させることができた。そういえば、魔王様の眷属は、人型が多かった。私の眷属は、皆が獣型だ。魔物の種類も違っていた。

 魔王様から分け与えられたポイントは、私が5年で稼いだポイントよりも多かった。
 そして、魔王様は勝手に私の領域を広げた事を、悪いと思っていたようだが、私としてはご褒美でしかない。それだけではなく、安全の為だと言って、ダンジョンを深くしてくれた。結局、階層は増えて、100階層になった。地上部にも20階層の建物が出来ている。攻略のための道順を考えると、150階層にもなる。地上部の最上階に上がってから、降りてこなければならない仕組みだ。最初は、地下5階まで降りてから、地上部の攻略を行う。5階層を降りてから、5階層を上がって、地上に出て来る、そのあとで、最上階の20階層まで上がってから、また20階層を降りる。その後に、また地下部分の攻略を行わなければならない。鬼畜以上のダンジョンだ。

 攻略はほぼ不可能な状態だ。
 最初の5階層は、草原フィールドで前半戦は弱い魔物がポップする。地上部の前半部分(最上階まで)は、宝箱が配置される迷宮になっている。魔王様から勝手に作ったから、気に入らなければ改修してもよいと言われたが、これ以上のダンジョンを作るのは無理だ。
 地上部分の後半部分(最上階から)は、貴重はスクロールや武具が入った宝箱が罠と一緒に配置されている。致死性の高い罠ではない。階段付近には必ずセーフエリアが設置されていて、そこから入口に転移できるようになっている。地下5階部分は、全部が安全地帯になっている。ギルドが支店を出してくるだろうと言われた。地上部の最上階も同じで、階の全部がセーフエリアになっている。

 地上部の後半戦が終わってから、ダンジョンが本格的になる。
 10階層ごとに、ボスモンスターが配置されている。90階層からは、1階層ごとにボスが配置されている。最後の5体はドラゴンが配置されている。致死性の高い罠も配置されている。甘えが一切ないダンジョンになっている。宝箱もないために、魔物を倒して得られる物だけが、ハンターたちへの報酬になる。はっきり言えば、”おいしくない”。

 魔王様に屈服してから、5ヶ月が経過した。
 ポイントがおかしなことになっている。3年かけて稼いだポイントを稼ぎ出してしまった。半分を、宝箱や魔物の補充に使ったが、かなりのポイントが残っている。運営で困った状況ではないが、魔王ルブラン殿に助言を求めた。

 魔王ルブランは、カプレカ島に居ると言われたので、転移で移動する。指定された場所は、カプレカ島にあるギルドの一室だ。ダンジョンの中に転移してから、地上に出る。魔王である自分が、地上を気楽に歩ける日が来るとは思っていなかった。魔王様には感謝だな。
 魔王様のすごい所は、カプレカ島には、眷属が死なないような罠が設置されていることだ。

「それで?」

「すまん。ポイントが膨大にあって、何に使っていいのか・・・」

「そうか、魔王様から、餌は盛大に出せと言われているのだが?」

「それは、出しているが・・・」

「どうした?」

「魔王様から頂いたスキルや武器や防具では、バランスが難しい」

「ん?どういうことだ?」

 魔王ルブランに、私が知っている情報を伝える。
 簡単に言えば、カミドネの近くにも、他のダンジョンが存在している。それらのダンジョンと足並みを合わせておかないと、討伐体が組織されてしまう。私の話を黙って聞いていた魔王ルブランは、話を聞き終わった後に大声で笑い出した。

「魔王カミドネ。何か、勘違いをしていないか?」

「勘違い?」

「そうだ。貴殿のダンジョン。カミドネを攻略できる者がいると思うか?もちろん、魔王様の眷属以外という意味だ」

 あっ・・・。討伐隊が組織されても、まず城壁を突破できるか怪しい。
 それだけではなく、ダンジョンに入られてしまっても、新生カミドネは攻略が不可能だ。軍隊を投入しても、どこかで戦闘ができない状況に陥るだろう。少数精鋭で挑んでも、どこかで物資がなくなってしまう。現地調達ができない階層が多いのも攻略を難しくしている。

 それに、私を殺そうとしても、最下層まで来たとしても、私は魔王様のダンジョンに逃げることができる。もちろん、眷属と一緒に・・・。

 確かに、魔王ルブランが笑った理由が解った。

「たしかに・・・。ありがとうございます。まだ、どこか魔王様の言葉が理解出来ていなかったようだ」

「かまわない。そうだ、貴殿も我らのやっている会合に参加するか?」

「会合?」

「我らは、ギミックハウスの罠や宝箱の研究を行っている。魔王様から与えられた書物を読んで、知識を高めている。貴殿も、魔王様の眷属になったのだから、参加の権利はある。ギミックハウスと、提供するスキルが被らないようにすれば、特徴も出しやすいだろう」

 それは楽しそうだ。
 魔王様の書物にも興味がある。魔王様の知識に触れられるのなら・・・。私のダンジョンはもっと安全になる。そして、眷属たちを強化できる。かも、しれない。

 今日は、魔王ルブランから”会合”があると通知が届いたので、カプレカ島に来ている。
 場所は、カプレカ島にある魔王ルブランたちが常用する家だと言われた。転移で、カプレカ島に移動した。本当に便利だ。

 魔王様の配下になってから、何度か訪ねているのだが、不思議な場所だ。
 多種族が問題なく生活をしている。それだけではなく、子供から老人まで皆が意思を持った表情をしている。こんな世界が前世にあったら・・・。

 そういえば、魔王ルブランから回してもらった魔王様の情報(書籍)。魔王様は東の果てにある島国の出身だと思える。しかし、魔王ルブランから渡される資料や情報を読み込んでいけば、不思議に思う事がある。あの島国が、ここまで洗練された国になっているとは思えない。遠洋にも出られなかった国だったはずだ。
 私は、これでも他国の情報に触れられる階級に居た。あの島国は、金や銀や鉄の資源が豊富にありながら、価値が解らない様で、型遅れになっている物品と交換している。それだけではなく、小さな小さな島国の中で、100近い国が争っていた。やっと統一されたらしいが、内戦は続いている。そんな状況から、たった300年くらいで、こんなに洗練されるのか?

 もしかしたら、私の祖国はもっと・・・。
 機会があるとは思えないが、魔王様に聞いてみたい。

 カプレカ島を歩いていると、顔見知りになったハンターから声をかけられる。

「お!カミドネ殿。今日は、こっちで仕事ですか?」

「こっちで、ルブラン殿たちが開催する会合に参加するために、来た」

「へぇ。そうなのですね。あっまた、近々、カミドネのダンジョンに挑戦するからよろしく!」

「挑戦を待っているよ。我は、魔王カミドネ。挑戦を待つ者」

「ハハハ。よろしく。っと、呼ばれているので、失礼。今度、飲みましょう」

「わかった。わかった。死ななければ、いつでも待っている」

「俺たちは、無謀な挑戦はしないよ!」

 ハンターは、手を振って、駆け出す。
 不思議な光景だ。私が望んだ光景でもある。

 魔王様に改修されて、私と魔王ルブランらの手が入った、カミドネのダンジョンは、挑戦者が増えた。魔王ルブランから、挑戦者や死亡者の統計を取るように言われた。魔王様から与えられた権能で確認ができるので、数字をしっかりとメモしている。
 死者数は、以前から大きくは変わっていない。改修前の数字は持っていないので、感覚になるが、同じくらいに感じている。しかし、内容は変わっている。ダンジョンで死んでいるのは、国に所属する者たちだ。ギルド・・・。新生ギルドに属している者は、殆ど死亡していない。連合国のギルドに属している者や、神聖国や王国に属している者は、ダンジョンの警告を無視して、深い所まで潜って、死んでいる。

 改修されたダンジョンの名前と、私が魔王であると宣言した。
 先達である魔王ルブランと一緒に、ダンジョンが新しくなったと宣言するためだ。階層の説明もされた。

 本気か?と思ったが、商人たちが安全な階層に店を出したいと言ってきた。
 もちろん、魔王ルブランに相談したら、笑いながら、私のダンジョンなのだから、好きにしたらいいと言われて、試しにギルドと繋がりがある商人に出店を許可した。そのあとで、宿屋や、鍛冶屋が、出店を希望してきた。あと、私が表に居ない時でも連絡ができるように、”フォリ”という執事を地上に常駐させることになった。余り始めるポイントで、強化した人型の魔物だ。
 魔王様から、戦闘力はスキルやスクロールで強化すればいいと言われて、設定した。性別を設定しないで、夜伽をありにしたら、女性が生成された。どうやら、魔王様の言っていたことがよくわかった。本当に、罠としか思えないが、幸いに、私は女性の方が好きな女だ。問題はない。私の好みに設定した。魔王様にも魔王ルブランにも伝えていないが、そういうことだ。察して欲しい。フォリは、私の眷属にした。寿命はギリギリまで長くした。もう一人は嫌だ。魔王様や魔王ルブランはいるが、上司や同僚という感じで、家族ではない。他の眷属たちにもまだ寿命がある。
 ダンジョンの罠が発生しない階層で、戦闘訓練を繰り返していたら、フォリも前からの眷属も寿命を超越したようだ。そして、強い結びつきを感じるようになった。

「魔王カミドネ」

「魔王ルブラン。呼び出しにより、参上した」

 吃驚した。
 フォリや眷属たちのことを考えていたら、魔王ルブランから声をかけられた。私が言う事ではないが、魔王ルブランも気楽に歩いているな。命を狙われていると言っていたが、気にならないのか?

「魔王カミドネ。少しだけ、不用心ではないか?」

「それは、貴殿も同じでは?」

「ハハハ。我には、影の中に、シャドー系の魔物が居て、常に警護している」

「え?」

「なんだ、護衛の話は、誰からも聞いていないのか?」

「あぁ」

「そうか、歩きながら話をしよう。もうすぐ、会合が始まる」

「わかった」

「まぁ外にでる事が無いのなら、護衛は必要ないだろう」

「外?」

「そうか、我には制限がないから、城塞村や帝国にも行くことがある。だから、護衛となる者を連れている」

 確かに、私はカミドネの自室に居ることが多い。外に出るのも、カミドネの街か、カプレカ島だけだ。安全に配慮されている場所だけだ。
 でも、確かに、私もだけど、眷属たちにも護衛を付けるのは、必要だ。フォリや眷属を失いたくない。

「魔王ルブラン。会合の後で、護衛に適した者を教えて欲しい」

「ハハハ。わかった」

 一つの建物に案内された。
 場所は知っていたのだが、魔王ルブランと一緒に歩いていたら、すんなりと通された。

 メンバーを見ると、魔王様に謁見ができる権利を有している者ばかりだ。

 魔王ルブランが、上座に置いてある椅子に座る。上座には、3つの椅子が置かれていて、右側に座る。どこに座っていいのか迷っていると、魔王ルブランが手招きして、上座の左側に座るように言われた。中央の椅子は、誰も座らない。多分、魔王様の席なのだろう。

 そして、魔王ルブランが悪い笑顔を浮かべて、ゲストを紹介した。
 開いた扉から、フォリが出てきて、机の左側の私に近い場所に座る。

『フォリ!』

『申し訳ありません。ジュレ様』

『なぜ?』

『魔王ルブラン様から、お誘いを受けて、断ったのですが・・・。ジュレ様が一人では、寂しいだろうと・・・』

『ふぅ・・・。でも、ありがとう。一人で、心細かった』

 いろいろ言いたいが、黙っていたのではなくて、念話が通じる場所では無かったのだろう。
 でも、一人で心細かったのは本当だ。

 魔王ルブランに向かって、軽く会釈する。手を上げて、答えてくれた。解っていたのだろう。

 モミジ殿。ナツメ殿。カエデ殿。ミア。ヒア。と、続けて、魔王ルブラン側。

 始まった会合は、恐ろしいほどに有用なことだらけだ。
 罠の設置は、通常は単独で強い罠を配置するのが良いと言われていたのだが、魔王ルブランたちが配置している罠は、違った。

 簡単な例と言っているが、水を飛ばす時に、弱めの麻痺毒を含ませて、浴びせかけたる。ただ、水を飛ばすだけだと避けられるから、矢を飛ばす罠と一緒に配置する。矢を避けることに集中して居れば、水ならダメージがないと考えて、避けない場合が多い。そうなると、気が付かないくらいの弱い麻痺毒を喰らう。徐々に動きが鈍くなり、矢のダメージが通る。この時に、致命傷になるような場所を狙うよりも、手足を狙ったほうが、侵入者たちは撤退を考える。
 本当に、よく考えられている。

 会合は、3時間程度で終了した。

「魔王カミドネ。騙し打ちのようなことをしてしまって申し訳ない」

「魔王ルブラン。気にしないでください。私も、フォリが側に居てくれて、助かりました」

「そう言ってもらえると、助かる。魔王カミドネ。貴殿にも余裕ができたのなら、ギミックハウスの設定に協力していただきたい。それと、人型の眷属を増やして欲しい。これは、魔王様からのご要望だ」

「わかった。眷属は、検討しよう。ギミックハウスは、フォリに協力させる」

「助かる。貴殿はどうする?」

「魔王様からのご許可が必要になると思うが、カミドネの街にも、ギミックハウスを設置しようと思う」

「それはいい!我からも、魔王様に進言をしてみる」

 俺は、神聖国の国境近くの村に住んでいた。俺たちは、獣人と呼ばれている。いくつかの種族が集まった集落だ。最初は、俺たちの種族の熊人族だけだったが、周りの集落が獣人狩りに襲われて、生き残りが集落に集まってきた。
 鼠人や兎人や羊人などの戦闘に向かない種族だ。しかし、熊人族は、そんな者たちを受け入れた。もともと、一つの種族だけでまとまるメリットはない。複数の種族の力があれば、人族にも抵抗ができる。

 族長も住民が増えれば問題も出てくると解っていた。しかし、獣人が増えれば、それだけ狙われるリスクは増大する。族長は、それでも受け入れた。

 大陸中央に、獣人族を受け入れている魔王が顕現したという噂話もあるが、大人たちは信じていない。俺も、魔王は怖いと教え込まれている。俺たちの集落の近くにも魔王が治めるダンジョンがある。100年以上も攻略されていない。
 大人たちも、何人もダンジョンに挑戦して死んでいる。
 俺の父さんもダンジョンの資源を採取に行って死んでいる。でも、ダンジョンの魔物に殺されたわけではない。ダンジョンに居た、人族に魔物の大群を押し付けられた上に、背後から刺されて、動けなくされた。人族は、父さんを囮にした。確かに、父さんはダンジョンで死んだ。でも、殺したのは人族だ。
 それから、俺は母さんを支えて生活をしていた。その母さんも・・・。俺と妹と弟を逃がす為に人族に向かって行って殺された。

 だから、人族の集団が村を襲ってきた時に、俺は武器を持った。
 人族は、なんで子供を攫う?子供を攫う為に、大人を殺す。大人の抵抗を無くす為に、子供を殺す。

 人族は人族を奴隷として戦わせる。
 意味が解らない。

 俺たちは、俺たちが安心できる場所の為に戦う。
 人族を殺したいなんて思わない。神聖国と連合国という場所から奴隷商人に雇われた者たちが襲ってくる。

 何人も殺されて、何人も捕まっている。
 隣に住んでいたおっちゃんも殺された。

 そして、3か月前に村の放棄が決まった。
 俺たちの部族だけでも残って戦うという選択肢もあったのだが、皆で生き残る方法を考えて、村の放棄に繋がった。次に、人族が攻めてきたときに、村まで誘導して、火を放つ。人族が混乱している間に、村に残っている者たちも逃げる。

 俺は、最後まで村に残る選択をした。

 それから、人族の国に入らないように、森を抜けるように歩いた。
 目指すは、大陸の中央にできた、魔王領だ。帝国に入れば、神聖国や連合国の奴隷商人は入ってこられない。

 逃避行は大変だった。
 それでも、全部の人族を恨まなくて済むことを知った。帝国にある、魔王領。魔王ルブランが治める場所の近くに作られた城塞街から来たというギルド員とは友好的な交渉ができた。
 貴重な食料だけではなく、武器や薬草までも分けてもらえた。対価として要求されたのは、情報だ。俺たちの窮状を教えて、俺たちの村が在った周辺の情報を対価に要求された。放棄した村の情報をなぜ欲しがるのかと、ギルドに属しているハンターに聞いた。

 魔王ルブランの指示だと言っていた。魔王ルブランは、獣人だけではなく、魔王ルブランを頼ってきた全ての人を受け入れて、仕事を与えて、不自由のない生活がおくれる場所を作ろうとしている。その為に、手始めに村単位で生活をしていて、国に属していない者たちを誘っているのだと教えられた。
 ハンターたちも、探索を行う時の目安が欲しいらしい。村が在った場所や状況が解れば、次に向かう場所を考えられるとの事だ。
 族長たちも知っている情報を、ハンターたちに教えた。

 人族のハンターだったが、獣人の奥さんが居ると照れていた。
 人族と獣族が協力すれば、いろいろな事ができるのだと教えてくれた。

 そして、魔王ルブランの所には、獣族の子供が居て、幹部となっていると教えてもらった。
 その中に、熊人や鼠人や兎人も居るらしい。

 人族のハンターたちは、俺たちの護衛として城塞街まで一緒に行ってくれることに決まった。

 それから6回ほど野営を行った。
 帝国領内に入ったと教えられた。ハンターの緊張も和らいだ感じがした。帝国領内は、街に入って休むことに決まった。数を減らしていると言っても、100名を越えている。大丈夫なのかと心配していたら、帝国の新しい仕組みで、魔王ルブラン領に向かう者に宿や食事を提供した場合には、後日魔王ルブランから褒賞が届けられる。悪用した者は、反対に魔王ルブランから刺客が送られて、悪くすれば殺される。宿や食事処で、渡された札を魔王ルブランが治める。カプレカ島にあるギルドに提出すれば、持って行った者にも褒賞が渡されるそうだ。誰でも使えるわけではなく、ギルドが認めた場合だけらしいのだが、俺たちは十分に資格を持っているようだ。
 どの街でも歓迎ではないが、街で過ごす許可が出たのには大人たちが吃驚していた。

 そして、さらに驚いたのは、魔王ルブランの配下になった者たちには”名”が与えられる。
 俺たち獣人は、個別の名を持たない。必要ではなかったからだ。でも、魔王ルブランのカプレカ島では、”名”が必要だ。そのために、カプレカ島に住むことを希望して、魔王ルブランに忠誠を誓える者は、魔王ルブランから”名”が与えられる。

 さらに、5回ほど寝たら、城塞街に到着した。
 びっくりの連続だ。人族と獣人族が一緒に生活している?それでもすごいのに、協力している?俺がショックを受けていると、案内してくれた人族がカプレカ島に連れて行ってくれると言っている、
 族長たちは、やはり魔王が恐ろしいと心に刻まれているようで、慣れるまで城塞街で過ごすことにした。

 俺たち子供だけで、カプレカ島に行っても良かったのだが、数日は城塞街で過ごすことになった。

 街は頑丈な壁で覆われている。
 大人たちも、先に住民になっていた獣人族に挨拶をして、仕事を紹介してもらっている。

 城塞街は、本当に素晴らしい。
 そして、人族の中にも信頼ができる人が居るとわかった。城塞街は、帝国に属しているが、微妙な立場だと大人たちが話していた。帝国の中にも、魔王ルブランを恐れて討伐すべきだという声を上げる偉い族長が居るらしい。その族長たちが、城塞街を潰すために、雇った盗賊を差し向けることがある。しかし、人族と獣人族が協力して、城塞街を守る。堅牢な防御を突破できない。防御陣の前で盗賊たちは倒されていく、生き残った者たちは、ギルドが連れていく、情報を抜き出してから、カプレカ島に送るのだと教えられた。魔王ルブランとの契約なのだと教えられた。一部の盗賊は、カプレカ島で見かけることがあるそうだ。ギルドの職員がいうには、カプレカ島だけではなく、魔王ルブランが治めるダンジョンは広大で、人手が足りないらしい。そこで、盗賊たちを奴隷にして、使っているそうだ。
 魔王ルブランは誰からの挑戦も受けると告知している。
 実際に、カプレカ島には帝国や王国や皇国からも挑戦者が訪れている。最下層にある魔王ルブランの居城を攻略すれば、魔王ルブランに使える四天王が相手をする。それに打ち勝てば、魔王ルブランが直接相手をするらしい。実際には、最下層まで辿り着いた者は存在しない。

 大人たちも落ち着いたので、カプレカ島に向かうことになる。

「え?」

 熊人の・・・。俺を逃がす為に、獣人狩りに捕まった・・・。兄ちゃん?うそ?なんで?
 間違いない。俺が兄ちゃんを間違えるはずが・・・。兄ちゃん。兄ちゃん。

 飛び出してしまった。
 兄ちゃんは、女鼠人と男兎人と笑いながら歩いている。

「兄ちゃん!」

 間違いない。兄ちゃんだ。

「お!」

「兄ちゃん!」

 死んだと思っていた。奴隷にされて、売られて・・・。獣人は死ぬまで酷使される。戦争に駆り出されて肉壁にされる。ダンジョンで、魔物の餌にされる。悪い噂しか流れてこない。
 俺は、兄ちゃんの変わりに、弟や妹を守らなければ・・・。

 だから・・・。

「ん?妹か?」

「うん。うん。兄ちゃん。兄ちゃん。俺・・・。わたし、頑張ったよ。妹も弟も皆・・・。今、城塞街に、隣のおばちゃんと・・・。一緒。でも、おっちゃんは、死んじゃった。頑張ったよ。兄ちゃん。母ちゃんも・・・。でも、わたし・・・。兄ちゃん」

 わたしは、兄ちゃんに抱きつきながら泣いてしまった。
 もう、涙なんて出ないと思っていた。わたしが、妹と弟を、とうちゃんの変わりに、兄ちゃんならできた事を、母さんなら・・・。頑張ったよ。兄ちゃん。

 神聖国と王国の間にあった、中規模のダンジョンが魔王ルブランに攻略された。
 魔王たちは、インフォメーションでその事実を知った。

 攻略されたあとも、神聖国と王国の間にあった、中規模ダンジョンは消滅しなかった。
 魔王ルブランが、攻略して殺さなかった。

 しかし、その後が異常な状況だ。
 魔王ルブランに攻略されて、ポイントを奪われたはずの魔王が、魔王カミドネを名乗りだして、元々洞窟型のダンジョンが、大きく変貌した。まるべ、魔王ルブランのダンジョンの様になってしまった。

 支配領域を一気に増やした。
 これには、神聖国と王国が慌てだした。特に、王国は神聖国を通じて、連合国と帝国から物資を輸入していた。元々は、中央ダンジョン。現在の魔王ルブランの領域を通って物資を得ていた。しかし、魔王ルブランが台頭して、その方法が使えなくなってしまった。魔王ルブランに話を持ち掛ければ、通過位なら可能なのだが、獣人の多くを奴隷として使っている王国は、魔王ルブランの領域を通過するのを忌避した。その結果、他国との交易を、神聖国側に頼ることになってしまった。

 そして、その神聖国との間にできたダンジョン街。通称として、カミドネ街は、領域を広げた。
 交易のために使っていた行路の多くを、カミドネ街の支配下においてしまった。

 それだけでも頭が痛い問題だったが、カミドネ街は、魔王ルブランが治めるカプレカ島と同じ政策を取り扱うと宣言した。簡単に言えば、獣人の取り扱いに関する宣言だ。奴隷制度を廃止する。宣言の中には、犯罪奴隷でも調べて、理由が不明確な場合には、犯罪奴隷を所持していた者を罰する規定すらある。

 カミドネ街は、獣人の街として、認知されてしまった。

 魔王ルブランが、連合国側に作ったギミックハウスと同じ物が、王国側と神聖国側に設置された。
 これによって、魔王カミドネは魔王ルブランと同盟を結んだか、傘下に入ったのではないかと言われた。実際には、傘下に入ったのだが、情報を知らない者には、どちらでも似たような事象だ。

 カミドネ街のギミックハウスは、全部で6つ。
 王国側に2つ。神聖国側に4つだ。神聖国側は、カミドネの意向もあり、殺意が高めに設定されている。ドロップする物も、低級な物に限られている。王国側も、神聖国側よりは”まし”だけど、等級が高いドロップがあるわけではないが、ドロップの率は高い。そのために、王国の辺境に位置する村では、カミドネ街のギミックハウスに挑戦する者が増えている。

 カミドネ街の中にもダンジョンがある。
 正確には、ダンジョンの周りに街が出来ている。城壁に覆われた街だ。街は、どこの国にも属していない。ダンジョンにアタックする為に作られた街だ。

 しかし・・・。

「魔王カミドネ。後で、アタックするから、覚悟しておけよ!」

「そういうのは、酔いを醒ましてから言え。お前・・・。お前たち程度では、我の眷属も突破できない」

「ハハハ。きついな。でも、後で行くから、ドロップ品をよろしく!」

「それこそ、我では制御できない。貴様たちの運が頼りだ」

「そりゃぁそうだ!魔王カミドネ」

 魔王カミドネは、魔王ルブランの主である。魔王に屈服してから、晴れやかな気持ちになっている。
 カミドネ街を歩いている。以前では、考えられなかった事だが、魔王から教えられた知識に、”非殺傷エリア”罠という、罠があり、必要なポイントは膨大だが、フロア全体を”非殺傷”エリアに設定ができる。この時のオプションで、ダンジョンに属するという項目があり、関係者は殺傷が不可能な状況にできる。本来は、小さな部屋に設定をする罠なのだが、魔王はエリア範囲ができるように修正を行った。ダンジョンに属する者も攻撃ができないという条件を付与することで、ポイントを抑えることに成功した罠だ。

『魔王様。楽しそうですね』

「キャロか?」

『はい。魔王様。お側に』

 魔王カミドネが、足下を見ると、角兎が影から顔を出していた。

「キャロ。私の事は、カミドネと呼べと伝えたはずだ」

『はい。魔王・・・。カミドネ様』

「それで、キャロ。どうした?」

『はい。カミドネ様が、以前と違って楽しそうなので、私を含めた、眷属たちも楽しいというご報告です』

「そうだな。前は、こんな感じに、外を歩けるとは思わなかった。それに、我を越そうとしていた者たちと会話をして、軽口を叩きあって、笑いあう。魔王様には感謝だな」

『・・・。カミドネ様』

 角兎のキャロは、複雑な気持ちで自分の主人であるカミドネの話を聞いていた。
 自分たちが、魔王ルブランの眷属を抑えられれば、攻略されなかった。攻略されなければ、魔王カミドネは、日の当たる場所を歩けなかった。殺されなかったのは、魔王ルブランが魔王カミドネを傘下に加えたからだ。
 それで、眷属たちも大きく変わった。
 眷属たちが進化をした。角兎であり、最弱に分類されていたキャロでも、人族の騎士程度なら簡単に屠れる力を得た。種族も進化しているが、キャロはカミドネが設定した。角兎の姿で過ごしている。他の眷属たちも同じだ。皆が、カミドネが設定した姿のまま進化をした。眷属たちが、喜んだのが、魔王カミドネと会話ができるようになったことだ。こればかりは、魔王ルブランに感謝した。

 そんなキャロが、少しだけ警戒した声を発した。

「どうした?」

『はい。イドラから緊急連絡です』

「イドラ?森で何か発生したのか?」

『はい。イドラが戻ってきて、ご報告をすると言っています』

「わかった。場所は?」

『西門です』

「わかった」

 イドラは、フォレストウルフだ。進化して、種族は変わっているだが、姿はフォレストウルフのままだ。

 魔王カミドネは、西門に急いだ。
 西門は、普段は締め切っている。森に異変があった時や、カミドネ街が攻められた時に対応する為の場所だ。森に面しているが、城壁には堀が彫られている。森までの距離も開けられている。戦闘行為が可能だが、見られずに攻撃をするのは不可能な距離だ。

 魔王カミドネが、西門に到着した時には、結界を突破したイドラが待っていた。

「イドラ!」

『魔王カミドネ様』

「緊急事態か?」

『緊急事態には、相違ありませんが、慌てる必要はないかと思います』

「ん?」

『今、フォリ殿が向かっています』

「フォリが?」

『はい。到着してから、ご説明します』

「わかった」

 フォリが到着して、イドラが説明を始める。

「イドラ。確定か?」

『はい。聖騎士。100名。神官と思われる者が200名。奴隷(獣人)兵が1,000。森林内に陣を構築していました。軽く攻撃して、眷属を忍ばせて確認しました』

「イドラの眷属が確認したのなら確実だな」

『はい。カミドネ様。俺たちだけで対処が可能です』

「ダメだ!」

 フォリに遅れたが、他の眷属たちも集まってきた。
 魔王カミドネの強い言葉に吃驚してしまった。以前から、強い言葉で命令を発することがなかった主人が、否定したのだ。

『魔王様』

「イドラ。君が言っているのなら、この戦力で対処が可能だろう。実際に、今までも対処してきた」

 眷属たちが頷いている。
 実際に、今までも神聖国から同規模の戦力で攻められた事がある。その全てを撃退している。眷属たちも進化している。以前よりも容易に撃退ができるだろう。フォリを除く、眷属は同じ意見だ。

「皆。俺は・・・。私は、お前たちを失うのが怖くなってしまった」

 魔王ルブランにダンジョンを攻略されて、消滅の一歩手前になって、初めて、自分が消滅する恐怖を味わった。
 自分が消えるのは、負けたのだからしょうがないと思っていた。しかし、自分が消えるのは、眷属たちも道連れにすることだと思い至った。そして、眷属の誰かを失いたくないと、心から思った。

「魔王ルブランを頼ろう。フォリ。カプレカ島に行ってくれ」

「はい」

「イドラは、引き続き、神聖国の状況を監視、特に、食料が運び込まれそうなら、キャロたちと協力して阻止」

 魔王カミドネは、魔王ルブランの配下になってから、初めての大規模な防衛線を経験することになる。

 今日も、部屋でまったりと過ごしていた。
 俺がやらなければならないことは少ない。

 今日も、RPGでレベルアップを行っている。パッチが入らないし、アップグレードも行われない。オンラインゲームはできない。そのうち、ミアやヒアにゲームを教えて対戦をしても楽しいかもしれない。
 髭面の大工で、配管工の仕事をしたことがある奴が主人公のカートレースゲームをしてもいいだろう。

『魔王様』

 セバスか?
 何か、重要な案件が発生したのか?

 最近では、どこかの国が攻めてきても、事後報告で受ける事が多くなっている。

「どうした?」

『出来ましたら、玉座で』

「ん?わかった。何が発生したのかだけ教えてくれ」

『はっ。神聖国が、カミドネ村の近辺に兵を配置しております。魔王カミドネの報告では、攻め込む準備だと思われます』

 神聖国か・・・。
 カミドネの話を聞かなければ解らない。現状で、撃退できるのなら、カミドネに任せればいい。増援が必要なら、セバスとモミジに案を出させればいい。俺は、ポイントだけを考えれば・・・。問題は、ないよな?

 いきなり攻め込んできたのか?
 カミドネ村は”国”には所属していないから、ダンジョンの付属品だとでも思っているのか?

 急報ではあるが、攻め込まれる前に解ったのなら、問題はない。奇襲されるのが怖いのであって、しっかりと諜報や索敵が出来ているのなら、対処を考える時間が持てる。

「カミドネが来ているのか?」

『はい』

 カミドネが報告に来る位なら、まだ大きな問題にはなっていない。
 急報ではあるが・・・。

 俺に話を通したということは、セバスとして、今までにない戦略を試したいのだろうか?
 俺に許可を求める必要があると考えているのなら、今までと違う種族を使いたいのか?俺が呼び出していない種族を使う許可が欲しいのかもしれない。

「わかった。先に行って、モミジを呼んで控えさせてくれ、モミジには増援に行く場合に、可能な人材をリストアップしておくように指示を出しておいてくれ、時間がかかるようなら遅れてきても良いと伝えてくれ。その場合には、ミアとヒアを控室に来るように伝えてくれ」

『かしこまりました。ナツメとカエデをサポートして、呼び出します』

 カミドネから、大筋の情報を得ているのだろう。
 セバスとモミジが主軸となって、ナツメとカエデがサポートを行えば、リストアップは十分だろう。セバスの雰囲気から、派遣部隊を編成するように思える。もし、部隊を編成するのなら、カミドネに部隊を編成させた方がいいだろう。カプレカ島から部隊が出ると、目立ってしまう。それに、カプレカ島には他国を”攻める武力はない”というのが、建前として使われている。

「わかった。5分後に、控室に移動する」

『はっ』

 神聖国か、厄介だな。
 アイツらの話は、ティモンやボイドからの報告で読んでいる。帝国は、それでも妥協ができるレベルで理知的な判断をしてくれる。お互いに譲れない所が有っても、妥協点を見つける交渉をしてくれている。実際に、城塞村などはいい例だ。貴族が管理をしていない飛び地として管理されている。そのうえ、ギルドや俺たちとの取引には、”税”が掛けられていない。俺たちカプレカ島との緩衝地帯になっている。

 神聖国は、ダンジョンは、”人類の害悪で滅ぼすのが妥当”と宣言している。
 そのうえで、自分を”神”だと言っている。らしい。痛い。法王は、入れ替わっているらしいが、帝国の情報局やギルドの資料では、”法王”は建国当時から変わっていない。魔王なのだろう。
 攻めるにしても、神聖国と戦争を行った上で、ダンジョンを攻略しなければならない。もしかしたら、俺と同じように神聖国をダンジョンの領域にしている可能性すらある。

 まぁ考えてもしょうがない。
 カミドネが攻められる理由が解らないが、攻められたのなら撃退しなければならない。こちらから、神聖国に攻め込む必要はない。

 控室に移動したら、ミアとヒアが揃って待っていた。

「魔王様」

 必ず、ミアが俺に声をかける。ヒアは、ミアの後ろに控える事が多い。

「ミア。ヒアと一緒に、先に行って、皆を揃えておいてくれ、ルブランとモミジが遅れるようなら、ミアとヒアが玉座の横に並ぶように」

「「はっ」」

 二人は、緊張した表情をしながらも、どこか嬉しそうにして、控室から出て行った。

 ミアの声が響いている。セバスとモミジはまだ来ていないようだ。

 俺を呼び込む声が聞こえる。
 広間に出ると、ミアが控室側に居て、ヒアが反対側に居る。玉座までは、ミアが誘導するようだ。

 玉座に座ると、ミアが皆に頭を上げるようにいう。決まり事なのだろうけど、面倒だと感じてしまっている。

「魔王様。お時間」「カミドネ。そういう話は、いい。それで、神聖国が攻めてきたらしいが、規模は?」

 既に、情報はセバスに渡っているのだが、俺に報告する義務がある。と、セバスたちは考えている。

「はっはい。私の眷属であるフォリから説明させます」

「わかった。許可する」

 カミドネの隣に居た人物が立ち上がって、説明を始める。
 思っていた以上にしっかりと情報の収集を行っている。

 規模は、5千。3千は奴隷兵だということだ。

 帝国や連合国の戦闘を聞いていないのか?
 カミドネなら倒せると考えたのか?

 状況から、単純にカミドネ村が邪魔になったのだろうか?

「フォリ。状況はわかった。カミドネ」

「はっ」

「カミドネ村には、獣人も多く来ているのだな?」

「はい」

「そうか・・・」

「魔王様?」

「ヒア。カミドネに説明してやれ」

「はい」

 ヒアが一歩前に出て、ミアを見てから説明を始める。

 神聖国の狙いは、カミドネ村で間違いはないだろう。
 潰せればいい。潰せなくても、戦闘に出てきた獣人を捕えられれば、奴隷にして戦力増強に繋がる。神聖国としては、大きな損失がない戦闘になるはずだ。

「魔王様」

「カミドネ。お前たちの戦力で、撃退が可能か?フォリの説明では、攻め込まれる想定ルートは、カミドネ村の領域外だろう?」

「はい」

「魔王様。遅れまして、もうしわけございません」

 セバスが、モミジと入ってきた。
 情報がまとまったのだろう。

「丁度よかった。増援は可能か?」

「はい。神聖国の期待を裏切るような戦力を用意します」

 カミドネの表情が変わる。
 セバスが言っている意味が解らないのだろう。

 セバスとモミジが用意した戦力は、アンデッドを主軸とした編成だ。リッチをリーダにしたグループで編成している。面白い編成だ。神聖国を相手にするのなら、最悪な組み合わせだ。奴らは、アンデッド系の魔物に強いスキルや武器を持っている。

「ルブラン殿。神聖国は、アンデッドに強いのだが?」

「貴殿たちからの情報から、最適を導き出した」

「我らの?」

「そうだ。神聖国の編成を聞いて、編成した」

「え?」

「魔王カミドネ。フォリ殿は、気が付いたようだぞ?」

「フォリ!」

「は。カミドネ様。神聖国の編成は、獣人を軸に物理攻撃が主体です。神官も低位の者で、スキルを持っていないと推測されます」

「あぁ・・・。それで、アンデッド系の魔物での編成なのだな」

 セバスが、俺に向き直って、頭を深々と下げる。

「魔王様。アンデッドで部隊を編成する許可を頂きたい」

「わかった。ポイントは、カミドネに付与して、カミドネとルブランで編成しろ。運用は、カミドネに一任。残ったアンデッドは、そのまま森で運営するように」

「「はっ」」

 俺の役目は、これで終わり。
 後は、セバスを中心にモミジやカミドネたちが考える。

 アンデッドを使って、神聖国からの遠征軍を迎え撃つ。
 相性が悪いと思われる魔物での対処だ。神聖国からの攻略部隊を慌てるだろう。特に、送り出した者たちは、絶望すればいい。

 奴隷兵たちは、無傷で捕えられる。奴隷を解除してカミドネ村に吸収すればいい。

 神聖国の奴らが何を考えているのか解らないが、奴らが獣人を使って、獣人の奴隷を増やそうとするのなら、それを捕えれば、カミドネ村の人口が増える。魔王カミドネの名前も売れるだろう。次いでに、魔王ルブランの配下として、獣人を守っていると思われたら、カミドネ村の意味も出て来る。

 さて、部屋に戻るか・・・。

「ルブラン。後は、任せていいか?」

「はい。ご報告に伺います」

「わかった」

 謁見が終了して、カミドネに戻ってきた。
 ルブラン殿とモミジ殿とは、後からカミドネのギルドの近くで落ち合う事になった。

 まずは・・・。

「フォリ」

「御前に」

 フォリが、私の足下まで来て跪く。立ってもらって、抱きしめる。
 安心できる。フォリの暖かさが・・・。怖かった。魔王様やルブラン殿やモミジ殿が、私たちを生かしておくメリットが少ないことを認識させられた。私を殺しても、支配領域にはできないから生かしておく程度なのだろう。

「カミドネ様」

 フォリの心配した声で、私がしっかりしなければダメだと思い出される。もう大丈夫。
 フォリの体温を感じて、少しだけ気分が戻ってきた。

「ありがとう。もう大丈夫」

 本当の事を言えば、フォリの身体を堪能したいけど、魔王様から与えられる能力を確認して、神聖国からのお客様をもてなした方がゆっくりできる。それに、ルブラン殿とモミジ殿を待たせるのも・・・。

「フォリ。アンデッドの采配は、任せていい?」

「お任せください。カミドネ様の代わりをしっかりと務めます」

「撃退は必要だけど、フォリ。絶対に戻ってくるように、約束ですよ。イドラもキャロも絶対に無理はしないでください。私を一人にしないでください」

 皆が私に寄り添ってくれる。
 すごく嬉しい。傅かれる魔王様もうらやましいと思うけど、私は・・・。フォリでよかった。イドラやキャロたちが居てくれて嬉しい。対等ではないが、近い関係が心地よい。進化した事で、意思が前よりも感じられる。次の進化が行われれば、会話も可能かもしれない。
 イドラもキャロも、他の眷属もそれが解っているから、今回の戦闘に参加すると言っている。

「よし!獣人たちの捕縛を優先的に考えよう」

「カミドネ様。神聖国の正面は、イドラ殿たちに任せて、私はアンデッドを指揮して、後方から神聖国の神官たちを狙います」

 フォリの提案を受けて、カタログに乗っているアンデッドを調べる。
 兵としては、スケルトンやゾンビなど、数で押し込む者でもいいが、神官が相手だと、リビングアーマー系でもいいかもしれない。

 ん?

「フォリ!」

「どうしました?」

 カタログの中にあるアンデッドに目が止まる。

「カミドネ様。ポイントは大丈夫ですか?」

「カスタマイズ次第だけど、魔王様から頂いたポイントだけでまかなえる。部隊として編成するアンデッドや、イドラたちに渡す魔物は、元のポイントを使えばいい」

 アンデッドを呼び出す為に、魔王様から頂いたポイントが驚くほど多かった。
 それで、新しく眷属に加える3体を呼び出す。そのうえで、神聖国との間にある森にポッドを配置する。森の半分をアンデッドの森に変える。残りの半分を元々の眷属たちの狩場にも使える獣系のポッドを配置する。

 今まで、ダンジョンの中にだけ配置してきたが、ダンジョンの支配領域なら配置ができると教えられた。もともと、ダンジョン以外に支配領域を広げられると教えられたのも、魔王様からだ。

「フォリ。アンデッド・バンパイアを召喚する。複数体で、能力を発揮すると書かれている」

「カミドネ様。バンパイアだと、日光が弱点だと思うのですが?」

「大丈夫。弱点克服は可能だ。聖属性にも耐性を持たせられる。そうなると、ツインではなく、トリプルになる」

「3姉妹ですか?」

「そう。肉体を強化して、アンデッドの弱点を消す。そして、知恵を最大にして・・・」

 夜伽もありに変更する。性別を男性にすると、夜伽が選択できない。本当に、このカスタマイズは意地が悪い。
 フォリだけで十分だけど・・・。

 あと、武器の条件を付ければ、ポイントが減らせる。長女/次女/三女。有名な、真名はジュレを与えて、ミンタカ/アルニタク/アルニラムにした。ミンタカ=ジュレ。アルニタク=ジュレ。アルニラム=ジュレ。だ。

「よし、設定はできた。ポイントも範囲内だ」

 3体が召喚された。
 防具も服も与えていないから全裸だ。皆、好みの体型をしている。乳房を小さく、いい形をしている。私と同じ位にしている。顔も、フォリと私を足した感じにできた。カタログで、私とフォリから姿を作ることが出来たのでやってみた。すごくいい。
 白い肌。明るい髪色。青い目。髪の毛の色は、深い青色。次女は、赤色の髪色だ。三女は、二人を合わせたように、半分が明るい赤で半分が明るい青だ。

「魔王様。我ら、3姉妹。魔王様に忠誠を誓い。深い敬愛を捧げます。いかなる時も、髪の毛一本までも魔王様に捧げます」

 3人が全裸のままで跪いた。その状態で、揃って祝詞を私に捧げた。

「ありがとう」

 真名は、隠した方がいいだろう。

「バンパイア3姉妹の長女」

「はっ」

 私の意図が解るのだろう。中央に居た長女が頭を上げる。

「長女は、マリアと名乗れ」

「かしこまりました。私は、マリア。魔王様」

 次女には、マルタ。三女には、マルゴット。

 それぞれ、名付けを行った。

「私は、カミドネ。詳しい、話は、フォリから聞くように、早速だけど、3姉妹・・・。そうだな。トレスマリアスと呼称するように・・・」

「「「私たちは、トレスマリアス。カミドネ様に使える。バンパイア」」」

 三人が、名前を受け入れて進化を始めた。

「フォリ。3人を頼む。イドラとキャロも、戦闘の準備を!私は、ポッドの配置を行う。数回は、ポイントを使ってポップさせる」

「はっ」

 フォリが、私の前から3人を連れて行く、イドラとキャロも他の眷属と相談を始めた。

 ひとまず、ポッドの配置を考えよう。
 私が配置しても、問題が解らないからな。

「フォリ!イドラ!私は、先にギルドに移動する。準備が出来たら、来てくれ」

 了承の返事を聞いてから・・・。
 そうだ。トレスマリアスにもポイントを付与しておこう。配布は、フォリの半分にしよう。3人でフォリを上回るくらいで丁度いいだろう。

「フォリ。トレスマリアスにもポイントが使えるようにした。説明を頼む。武器と防具とスキルに使うように!」

 フォリから了承の言葉が返ってきた。トレスマリアスからは、感謝の言葉が返ってきた。服は、カミドネの町ではまだ少ないけど、カプレカ島に連れて行けば、いろいろ気に入る物があるだろう。可愛い下着とか、似合う物を探すのも楽しそうだ。

 ギルドに移動すると、まだセバス殿とモミジ殿は来ていなかった。
 5分くらい周りを歩いていると、姿が見えた。

「魔王カミドネ」

「魔王ルブラン」

 モミジ殿は、ルブラン殿の従者のフリをしている。
 本当に、ルブラン殿が魔王だと言われても信じてしまいそうだ。

「それで、魔王カミドネ。迎撃部隊の編成は?」

 3姉妹のバンパイアを召喚して、眷属に加えた事も説明する。他にも、これから行おうとしている作戦も説明をした。

「それは、丁度良かった」

「丁度よい?」

「ギミックハウスに攻め込んできた神聖国の者たちを、アンデッドにして連れてきた。奴らを、その三姉妹の配下に加えて欲しい」

「え?アンデッド?」

「そうだ。それも、生前の姿のままだ」

「・・・。姿だけ?」

「ふふふ。そうだな。意識は、残っている。しかし、行動は制限されている。行動は、基本のアンデッドだ」

「それは、支配しているというのか?」

「そうだ。神聖国の神官や聖騎士だという意識を残したままアンデッドになって、行動を縛られている。話はできる上に、声も生前に近いはずだ」

 まさに、魔王だな。
 神聖国の神官や聖騎士を使って、神聖国を攻める。攻められた者たちも、自分が同じ目に会うと思えば・・・。攻撃が緩めば、トレスマリアスなら容赦なく攻撃を加えるだろう。
 敵には容赦しない性格になるように調整している。ルブラン殿が言っているように、神聖国の者たちを従えるのなら、トレスマリアスがちょうどいいだろう。

 ルブラン殿とモミジ殿からの提案を受けて、アンデッドを受け取って、フォリ経由で、トレスマリアスに分配した。一人に、300体。残りの50をイドラたちの前衛に配置した。
 ポッドの配置は急務では無くなったが、ルブラン殿とモミジ殿のアドバイスで、ポッドの設置を行う事になった。
 最初だけポイントでポップさせるだけにした。戦力は十分だ。

 ルブラン殿の話では、ポップした魔物でも意識を持つ場合があり、その場合には名を与えて眷属にすればいいと教えられた。そうしたら、ネームドになり、獣系ならイドラやキャロたちの配下に加えられる。アンデッドなら、そのまま、トレスマリアスの配下にすればいい。

 ポッドを配置して、最初の魔物がポップした事で、森の中の様子が手に取るように解る。
 神聖国の準備が整いつつある。

 ルブラン殿と相談して、今夜・・・。
 神聖国の拠点を攻める事に決まった。

 戦闘開始のトリガーは、私が持つことに決まった。

 ルブラン殿から、戦況を見るために、モニタールームを作ることを提案された。
 魔王様から作成に必要なポイントを貰ってきてくれているようだ。

 魔王様に感謝しながら、モニタールームを作成した。

「カミドネ様。これなら・・・」

 モニタールームの見学に来たフォリは、これなら私が前線に立たなくて済むと安心してくれた。
 それは嬉しいのだが・・・。

「魔王カミドネ。貴殿の眷属である。フォリ殿に、”念話”スキルを与えて、各眷属との連絡要員にしたいが、大丈夫か?」

「え?連絡要員?」

「そうだ。魔王様から、スキルスクロールも預かってきている。貴殿の眷属に与えれば、ダンジョンの敷地内なら会話が可能だ。ただ、会話ができない眷属に与えた場合に、どうなるのか実験の意味があるのは許して欲しい」

 実験?
 そうか、魔王様の眷属には獣タイプが居ない。皆が、言葉が話せる者ばかりだ。
 私の場合には、キャロやイドラが居る。他にも、数体の眷属が獣タイプだ。

 渡されたスキルを、眷属たちに適用する。

「カミドネ様!」

「どうした?」

「キャロ殿とイドラ殿から・・・」

「会話ができたのか?」

 会話ができるのなら、私も”念話”を取得しよう。

「いえ、意思が伝えられたというのが正しいと思います。会話ではありません」

「それは、どういう事だ?」

 フォリが具体例をあげて説明をしてくれた。
 会話はできないが、意思は伝わってくるのだと言っている。

 感情のような物が伝わるのと、肯定なのか、否定なのか、感情と合わせれば、状況の判断ができる。
 フォリの説明を聞いて、ルブラン殿は納得していた。そのうえで、眷属たちが進化をしたら、会話ができる可能性に言及した。

「これで、フォリ殿は、魔王カミドネの副官として、モニタールームに残ってもらうことに決まった」

 ルブラン殿が、配置を少しだけ変えた。
 確かに、私では連絡ができない。フォリが、モニタールームで私と一緒に居て、状況を皆に伝えれば、作戦がより安全に行える。

「魔王カミドネ。我らは、準備に入る。神聖国の監視をお願いする」

「わかった。動きがあれば、トレスマリアス経由で連絡をする」

「わかった」

 ルブラン殿が差し出した手を握る。
 ダンジョン外での戦闘は、初めてだ。それも、これだけの人数を巻き込んでの戦闘は、聞いたことがない。ダンジョンの戦闘ではなく、普通に”戦争”だ。規模が小さい戦争だと考えれば、情報を多く入手した方が有利に進められる。
 モニタールームがあるだけで、我らが有利な状況になっている。

 もしかして、魔王様が常勝無敗なのは、モニタールームをうまく使っているからなのか?

「カミドネ様」

 映し出されている情報を見ると、既にルブラン殿やアンデッドたちの配置が終わっている。

「神聖国の奴ら、獣人族を前に出してきたな」

「はい。しかし、まだ後方にも・・・」

 そうだ。野営地の後方にまだ獣人族の集団が居る。荷物を持たされているのだろう?
 あの集団が合流して、前線に送られてきたら、戦闘を開始してもよさそうだ。

「カミドネ様」

「なに?」

「神聖国が陣を作成した場所では、西日が眩しいのではないでしょうか?」

「西日?」

「はい」

 フォリがモニターに写っている物を変更する。神聖国の奴らが居る場所を映し出している。
 確かに、西日で、アンデッドたちが居る森がよく見えない。

「わかった。フォリ。魔王ルブランと情報共有してくれ、現場での感じ方が違うかもしれない」

「わかりました」

 フォリが少しだけ離れた位置で、耳に手を当てながら、スキルを発動している。
 耳に手をやるのは、余計な音をシャットアウトするためだと説明された。

「カミドネ様。ルブラン殿から、夕方から夜になるタイミングがいいだろうと言われました」

「わかった。あと、1時間くらいだな。丁度、後ろの部隊が合流して前線に出されるタイミングだな」

「はい。トレスマリアスやキャロ殿。イドラ殿からも了承が伝えられました」

 考えてみると、私の初陣だな。
 緊張はしていないと思っていたけど、喉が渇く。ミニタールームで遠隔地の様子を見ているだけなのに、すぐ側で見て感じているような気がしてしまう。

 フォリが近くに居てくれるだけで、安心は出来ている。
 もしかして、ルブラン殿は私の為に、フォリを残してくれたのか?

「カミドネ様!」

 モニターの一つに動きがあった。
 前に出ていた獣人族が、森に近づいている。

「マリアが担当している場所です」

「フォリ。マリアに伝達。それから、魔王ルブランに連絡して!右翼に攻撃が始まるのに合わせて、本体にマルタとマルゴット隊を突っ込ませる」

「はい」

 突発的に始まった戦闘は、最初は相手の有利に進んだが、10分もしたら、形勢は逆転した。

 アンデッドの一団が、本体に突入する。
 狙うのは、獣人族を奴隷にしている者たち・・・。判別が難しいが、ルブラン殿の指示で、腕輪をしている者から中心的に狙う。効果が現れ始めてからは早かった。
 戦線を支えていたマリアたちの圧力が弱まった。獣人族が、操り糸が切れたかのように座り込んでしまったからだ。
 全員ではないが、指示が届かなくなったのか、右往左往する者も多く見られた。

 それから、アンデッドの集団が、本体を取り囲む。
 神聖国から来ている神官たちが、”ターンアンデッド”を発動するが、皆が連れているアンデッドは、”聖”に対する耐性が強いので、”ターンアンデット”では倒せない。どちらかというと、”闇”系のスキルに弱い。本当に、魔王様は何を考えているのだろう。こんな、極悪なアンデッドを大量に使役して何をしたいのだろう。戦闘が終わった後のことは・・・。今は、目の前の戦闘に集中しよう。

 既に、戦闘という程の状況ではない。
 時間は、1時間程度は過ぎていた。

 フォリが現場からの情報を伝えてくれる。

「獣人族の確保が終了。ダンジョン内に移送中。30分で終了」

 目的の半分が終了した。
 奴隷の解除は、まだ出来ていないが、移動は可能だ。
 ダンジョンに攻め込むつもりで来ているので、”奴隷への命令”とは矛盾していない。これも、ルブラン殿からの指示だ。奴隷は、最後にされた命令に反する行動を取ると痛みが加えられて、暴れだすことがある。だから、命令に反しないような行動をさせる。

「カミドネ様」

 モニターには、神聖国の神官たちが討たれたり、捕えられたり、逃げ惑う姿がうつされている。
 殺されたはずの神官が、アンデッドになって、生き残っている神官を襲うのは悪夢だろう。

「終わったな」

 既に、本体は”集団”の役割を持っていない。
 散り散りになって逃げるのがやっとだ。

 しかし、その逃げた先で、イドラに率いられた”森狼”の一団が襲い掛かる。普段なら、余裕で戦える神官や騎士たちが、森狼に翻弄されている。
 ルブラン殿から”一人も逃がすな”と指示が出ている。逃がせば、こちらの戦力が分析されてしまう。偵察されて、戦力の一端が相手に知られるのとは意味合いが違うのだという。

「はい」

 実際に、一人も逃がしていない。
 見ている範囲でだが、現場からも逃がしたという報告は入っていない。後方の補給を行うために待機していた部隊も急襲している。こちらは、キャロに率いられた混成部隊だ。小動物が多いのだが、暗くなった状況では混乱するには十分な状況だ。
 姿を見せない状況で、補給部隊の半数を撤退に追い込んで、残り半数は捕縛か自軍の攻撃で死んでいる。

「思っていたよりも、あっけなかったな」

 私の言葉に、フォリも頷く。
 大兵力。これは、ダンジョンの攻略を目的とした攻撃ではない。村を含めた者たちへの攻撃で、計画されて、準備が行われた。戦争だ。

「そうですね。でも・・・」

 それが、正味2時間くらいで終了した。

「解っている。私も、より一掃・・・。考えなくては・・・」

 フォリの懸念は、解っている。
 魔王様は、理知的で私たちにも寛大な態度をしてくれている。それが、永劫続くのか解らない。解らないからこそ、私たちは今日の戦争を忘れてはダメだ。自分たちが強者ではないと認識して、魔王様に逆らおうなどを考えないようにする。
 どんなに、魔王様に隙があろうとも・・・。

 私たちは忘れてはならない。神聖国が、どのような道を辿るのか・・・。しっかりと見極めて、しっかりと考えて、しっかりと伝えなければ・・・。他の魔王が、どう考えて対応するのか・・・。私には判断はできない。
 でも・・・。

 ふぅ
 神聖国と魔王カミドネの戦闘は、勝てそうだな。
 初手が決まったのが大きかった。そこからは、消化試合のような感じだ。

 セバスが、助力に向かっている。
 一人で観戦している。寂しくはないが・・・。何か、物足りない。

 アンデッドで、神官を倒すのは、いい試みだ。
 今度、アンデッドだけのフロアを作って見るか?

 でも、俺たちの居城まで攻め込んでくる連中が居ないから、仲間内で試すことになりそうだ。

 それでは面白くない。
 魔王カミドネの所は、今後、彼女に任せるとして、神聖国に接している場所に、アンデッドだけのギミックハウスを作ろうかな?それとも、地形を利用した罠満載でアンデッドだけの防衛線を構築した方が、神聖国にダメージを与えられるか?

 神聖国の法王?皇王?は、ダンジョンマスターだろう。
 神官が使っている服装が、歴史書で見た宗教騎士たちが着ているような意匠が見える。

 魔王だと仮定すると、いろいろ見えて来る。
 神聖国の中央にある城がダンジョンになっているのだろう。獣人たちが書いた、城のデザインが、スペインにある地球で有名な建物に似ている。

 ダンジョンマスターなら、王を倒せば神聖国は終わる。
 前の帝国のような戦い方をする神聖国は気分が悪い。

 暗殺を仕掛けてみるか?
 ダンジョンなら、防御は万全だろう。情報を収集して、狙えそうなら狙ってみるか?

 魔王カミドネたちの戦闘は、もう終わりそうだ。

『魔王様。掃討作戦に入ります』

 セバスからの連絡が来た。
 見ているのは知っているのに、律儀な奴だ。

『わかった。一人も逃がすな。捕えた者は、魔王カミドネのダンジョンに沈めろ』

『はっ物資は、どういたしましょうか?』

『食料や消耗品は、解放した獣人たちに渡してしまえ、武器やアイテムは、カプレカ島で解析を頼む』

『かしこまりました』

『詳しい事は、戻ってから聞く』

『はっ!』

 セバスなら全力で戻ってくるだろう。

 まずは、魔王カミドネから事情を聞いて、神聖国を挑発するために抗議文でも出そうか?
 攻め込まれても、あの程度の戦力なら怖くない。

 ギルドからの情報で、怖いのは、王国と皇国か?
 神聖国は、ダンジョンマスターが主だろう。魔物の召喚は行っていないようだが、近侍なんかはダンジョンで召喚したのかもしれない。連合国は、ギルドからの報告から、放置でもよさそうだ。
 内部分裂が始まっている。崩壊までのカウントダウンが始まっていると思っていいだろう。
 残るのは、エルプレ国だろうけど、単独国家で考えれば、神聖国よりも余裕で対応ができる。エルプレは、後ろにダンジョンマスターが居るのは確実だ。エルプレにだけスキルのスクロールが流れている(らしい)。国王は、代替わりしているらしいので、ダンジョンマスターが国を取っているのでは無いだろう。協力関係にあると考えるのが妥当だ。

 俺たちのダンジョンも国の様にした方がいいか、セバスたちに聞いたことがある。
 俺の好きにして良いと言われた。ミアやヒアたちも同じ意見の様だ。

 だからというわけではないが、このダンジョンでは、俺が全面に出ての、統治は考えない事にした。

 村を作るけど、責任者を設置するだけに留めて、後は好きにさせている。
 俺には寿命がないようだし、セバスたちにも寿命はない。

 魔王ルブランとして、セバスが統治に近い事をしている。

 アラームが鳴った。
 モニターを切り替えると、セバスが戻ってきたようだ。カプレカ島に到着した。

 ギルドに戦利品の一部を渡して、解析を行う為に、モミジとナツメとカエデにアイテムを渡す。

 そのあとで、この部屋まで来るのだろうから、1ー2時間くらいはかかりそうだな。

 シャワーでも浴びておこう。
 今日は、セバスだけだから、この部屋に通せばいいか?人数が多いと立って報告しようとするから、見ているこっちが疲れてしまう。

 シャワーで汗を流して、涼んでいたら、セバスが訪ねてきた。

「魔王様」

「セバスだけか?」

「いえ、ミアが一緒です」

 ミア?
 今回の作戦には絡んでいなかったよな?

 まぁいいか・・・。

「入ってきてくれ」

 二人から嬉しそうな返事が聞こえる。

「座ってくれ、ルブラン。報告を」

 セバスが俺の前に座った。
 ミアは、簡易キッチンで飲み物の準備を始める。セバスは、飲み物の準備をさせるために、ミアを連れてきたのか?

「はい。まずは・・・」

 魔王カミドネとの話から、説明を始める。
 状況は、何か発生する度に聞いていて把握しているが、時系列で発生した事をまとめられると、状況がより鮮明に解る。

「そうか、獣人側にも被害者が出たのか?」

「はい。もうしわけありません」

「聞いた限りでは、最善の手法だ、それでも助けられなかったのは、ルブランや魔王カミドネが悪いわけじゃない。神聖国の奴らが卑劣なだけだ」

「はい。ありがとうございます」

 神聖国の神官たちが、アンデッドを倒せなくて、逃げ出すときに、獣人族を盾にするくらいは考えていたが、殺してから逃げるとは思わなかった。可能性の一つとして考えていたのだが、相手がアンデッドだ。獣人族を殺せば、アンデッドになって自分たちを襲ってくると考えて、躊躇するかと思った。神聖国の神官どもは逃げる時に、手元に置いた獣人たちを、手足を切り落として、首を刎ねてから、スキルを当てて逃げた。アンデッドにならないようにしたのだ。

「他には?」

「確保した獣人たちは、一部はカプレカ島に移動しました。残りは魔王カミドネに預けました」

「一部?」

「はい。それは、ミアから報告があります」

 ミアが飲み物を作って持ってきた。
 俺が普段用意している珈琲や紅茶ではない。

「これは?」

「はい。魔王様。ベアたちの村で作られていた蜂蜜酒です」

「ほぉ」

 ミードとか言われているよな?
 それを、冷やした物か?

 これを持ってきたのは、俺に飲ませるのが目的ではなく、ベアたちに関わる事だな。

「これを作った者たちが、神聖国で奴隷になっていたのか?」

「はい。他にも、ロアが元居た集落の者も奴隷に落されていました」

 ミアの説明は簡潔で解りやすい。

「カプレカ島までなら許可しよう。そのあとは、モミジと四天王とミアたちに任せる」

 カプレカ島の役割としては、獣人の保護が上げられる。
 ダンジョンの領域だし、何かおかしな動きをされても問題はない。スパイが潜り込む可能性は低いが、いきなり内側に入れるつもりはない。既に、内側では、独自のコミュニケーションが構築されてしまっている。寿命が伸びた者や、寿命が無くなった者でないと、内側では生活が難しい。

 ミアたちは、セバスの見立てでは、寿命は無くなっているが、活動の最適化が行えるようになるまで成長するのではないかと思われている。

「ありがとうございます」

「この蜂蜜酒は、カプレカ島でも作るのか?」

「ご許可が頂ければ・・・」

「蜂が必要だろう?」

「はい」

「それなら、魔王カミドネに伝えて、近くの森を使え」

「よろしいのですか?」

「あぁ集落を作るのなら、ルブラン。サポートしてやれ」

「かしこまりました」

「森に住んだ方が楽な種族の為の集落を作ってもいいな。森の魔物をアンデッドだけにしておけば、襲われないようにはできるだろう?」

 セバスもミアも、了承してくれた。
 あとは、場所の選定だが、これは魔王カミドネと3人と獣人族のトップを交えて行ってもらう。

 魔王カミドネの領域も広げた。今回の戦闘で、神聖国が保持していた場所まで確保できるようになった。相手に知らせる行為だが、こちらは”魔王”を名乗っている。大きな問題はない。敵認定が終わっている。自然な防壁の先に、本当の防壁を作ろう。魔王カミドネに任せるよりも、俺が作ったほうが早そうだ。
 魔王カミドネの領域が広くなった関係で、連合国を牽制するために作成したギミックハウスまで城壁をほぼ直線で繋げる事ができる。崩されても問題にはならないが、城壁と合わせて、塔も立てておこう。