「弓使い、失明に至る」〜もう一度仲間と共に〜

「弓使い、失明に至る」
~もう一度仲間と共に~
もし、自分が今大切にしていることが2度と出来ないとなったら人はどうするのだろうか。

僕は今パーティーメンバーと、ダンジョンに来ていた。
「さすがに、初心者パーティー用だと強くなってる自覚が持てないな。」
この人はパーティーリーダーで、古き親友でもあった。
「そうね、あと簡単に攻略出来ちゃうし、モンスターも弱い。」
「…で、でも…もう少し慣れるまで待ってくれないかな?」
「あ?」
僕の言った言葉がリーダーである、ユウトの反感を買ったのだろう。
「ご、ごめん、でもまだ数回しかダンジョンに来てないから…」
「…はぁ…月宮…お前はなんのために特訓を今までしてきたんだ?」
…確かに弓の練習を僕はたくさんしてきた
「うっ…でも…」
「いいか?」
僕の言葉を遮るようにユウトは言った。
「お前は、3年間努力を惜しまず特訓に励んできたはずだ。お前が止めなかったのも、その弓への愛だろ?」
「うん…」
そうだ、僕は遠くから敵を射抜ける。あの格好いいアシストを目指しパーティーに貢献できるよう努力したじゃないか!
「ありがとう…リーダー。」
「よせよ、あと俺もそこまで厳しく言うつもりは無い。お前のペースでいいんだ、頑張れ。」
なんていいリーダーなのだろう。と、俺は改めて周りから恵まれてることを実感した
「ありがとう…!」
「なーに見せられてんだか。」
「空気読めよ、マナ」
「だって、男同士の青春っぽい雰囲気なんて誰が興味あんのよー」
こいつは、マナ。名前から察するように魔法使いだ。ちなみにリーダーは一応剣士
僕とリーダーがパーティーを組んだ時から声を掛けられていたが、リーダーと話し合った結果入れることにした。
「それはそうと、月宮はどうしたい。」
正直、あれだけ特訓したとはいえダンジョンは慣れていないため怖いものは怖い。だが
「うーん…今までならまだこのダンジョンで慣れたいけど…いいよ、上級者パーティー用のダンジョンへ行こう!」
「よーし、その意気だ。いざとなったら守ってやるから安心しろ?」
「うん、ありがとう!」

こうして僕達は上級ダンジョンへとやってきた。だが、上級者ダンジョンは、今まで僕達が入ってきたダンジョンとは比べ物にならないほどにヤバいオーラがあり、僕とリーダーは気圧されていた。
「すごい圧があるな。」
「は、初めて来た…」
僕とリーダーは、ずっと一緒に居たため初級ダンジョンにしか入っていなかった。そのせいか少し怖気付いてしまった。
「…これはヤバいな」
「ここを僕達…今から入るの…?」
周りにはモンスターか人かも分からない血があったり、ダンジョンの入口は厳重にされているため、明らかに初心者ダンジョンとは違った。
「さ、早く入るわよ。」
「いや、なんでお前は落ち着いてんだよ。」
「え、だってこのダンジョンに来るの2回目なんだもん。」
と、マナはいきなりとんでもない事を言い出した。
しかし、ここに来たことがあると言うのなら初心者ダンジョンの攻略はつまらなかったかなと罪悪感が出てきてしまう。
「来たことあるなら言えや!」
「だって聞かれてないし…」
リーダーがツッコむと同時に僕は笑ってしまった。
「…まぁ1回行った経験があるんなら頼りにしてるぜ」
「リーダーがパーティーメンバーに頼ってしまう時が遂に来たか。」
「…なんか言ったか?」
「いえ、なんでも?」
2人の会話が漫才に聞こえ、僕はツボに入ってしまった。
あれほど緊迫していた空気はもう僕らにはなかった。

「さぁ、入ろうか」
リーダーの声に了承し、僕達は慎重にダンジョン内へ入っていった。中に入ると、より圧がかかったような気がした。
「ほんとに…僕は活躍できるのかな…」
「大丈夫だ、お前はいつも通りやればいい。何かあったとしても、俺がお前を守るよ」
リーダーは、本当にすごい。
ここに来たこともないはずなのに…怖くないはずなのに、僕を守ると言ってくれたり。
「でも、手震えてるわよ?」
「…これは武者震いに決まってんだろ?」
「ふふっ、冗談よ。」
「何がだよ…」
マナがリーダーをからかっているといきなり後ろから気配がした。
「どうした?月宮」
「後ろに何か気配、感じた…敵かも…」
「そうか、2人とも戦闘準備を始めよう。」
「言われなくても分かってるわよ。」
どんなモンスターが出てくるかと思ったその時、人影が見えた。
「……人だったな。」
「なーんだ、緊張して損した。」
「でも、そういう心構えは大切だぞ?」
こんな、ダンジョンの入口付近で戦うなんてあったらこの先…一体いくつもの戦闘を繰り返さねばいけないのやら、そう思っていた矢先
「はいはい、ってあの人達何か変じゃない?」
さっき見えていた人影が体全体を映し、段々とこちらへ向かっていたのだが、あの人と言えるのかは分からないが…目が2人とも光っていた。
「まぁ、ダンジョンは暗いしそう見えるんじゃないか?あっちは入口だし。」
「そういうもんなのかなぁ」
しかし、そういうのは人間ではなく猫などにしか起こらないのだと思っていたのだが…
「あ、そうだ。一緒にダンジョン攻略できるか聞いてみない?」
「あぁ、そうだな。人数が多いに越したことはない」
僕は2人に近づき声を掛けようと思ったその時、2人が同時に僕へ剣を抜いてそれを振りかざしてきた。
「月宮!!」
避けることも出来ず剣で僕の目が斬られ、今まで感じたことの無いような痛みに襲われた
「ぐぁあああ!」
そして、ユウトは剣を取り出しその人型モンスターに向かって飛び出した。
「<身体強化>フィジカルアップ」
マナが詠唱し、ユウトはその勢いで1匹に傷を負わせることが出来た。
「………」
マナもいる中2対1だと勝てないと判断したのか即座に逃げていった。
「月宮!大丈夫か!?」
「…あぁ、回復ポーションもあるし、切り傷もそこまで…」
僕はそこで異変を感じた。
「…? どうした」
「…見えない…」
「見えないって…まさか失明!?」
リーダーは僕が聞いた事が無いほど、声を荒らげて言った。
「分からない、でも…見えないんだ……」
「さっき斬られたところよく見せてみろ…」
リーダーは長い沈黙だったため、事態がかなり深刻だと言うことを思い知らされた。
「ダメだ…目の奥の方まで斬られてる…」
「そんな…」
「今日は急いで帰ろう。ギルドにも行って、失明を治せるか聞いてみよう。」
そうだ、まだ治る可能性があるかもしれない、そう期待を抱いていた時「待って」と
マナが声を掛けた
「どうした、マナ?」
「失明はもう治らないと思う」
「…なんでそんなこと言い切れるんだ?」
「今見たけど目の傷、神経の所までいってると思うの。」
僕はそれを聞いて絶望した。回復ポーションがあったため痛みはなかったが、そこまで重症だとは思いもよらなかった。
「いや…でも分からないだろ!?」
「神経まで治せるほどの医者がこの世にいる?」
「……っ」
ここまで言われるとリーダーは黙ってしまった。確かに、神経までを治してしまうほどの医者など聞いた事もなかった。しかし、弓使いにとって目が見えないのは致命傷だった。
「ウソ…だろ、僕もう弓使えないの…?」
「えぇ…残念だけど。」
僕が絶望していると、リーダーが声を震わせながら話し始めた。
…泣いているのだろうか
「…もう…月宮とはダンジョンに行けないのか…?」
「…そうね、目が見えないとなるとそうなるわね」
そうマナが言うとリーダーは泣いていた…ようだ普段は滅多に泣かないあのユウトが。
「ただ空間把握能力を手に入れれば話は別かもしれないけど」
僕はこの世界で数十年は生きてきたが空間把握能力なんて聞いたこともなかった。
「なんだ、それは…」
リーダーも聞いたことが無いと知り一安心していると、マナが話を続ける。
「アルティメット(幻想級)スキル、の1つに入れられる能力よ」
アルティメットスキルとは、この世に5つしか存在していない、究極の能力のことだ。
これを所持している人物は世界でも10人はいないと言う。
「それは、どうやって手に入れられるんだ…?」
「それは分からないわ」
そりゃそうだ、知っていたら所持している人数がこれ程少ないなんておかしいに決まってる。
……空間把握能力はどんな能力なのだろう。
「…とりあえず、今日の所は宝箱とって帰りましょ。」
「あぁ、そうだな。しかし……月宮はこれからどうするんだ?」
「それを決めるのはアンタの仕事でしょ」
「俺は月宮に聞いたつもりだったんだがな」
……僕は弓が好きだ。だから、こうしてダンジョンにいる。しかし、目が見えなくなってしまい、マナが言っていた空間把握とやらを手に入れられる可能性が低いとは分かっていた。だからこそ……もう決心はついていた。
「いいよ…僕はもうダンジョンは諦める。」
「諦めていいのか…?」
いいはずない、これからこうしてダンジョンを攻略したりしながら生きていくと思っていた。…ただ
「正直言うとめっちゃ悲しいんだよ? まだ弓も射ちたいし…2人と冒険したい。けどここまでになると、もう…ね?」
「悪ぃ、俺が守るって言っておきながら…」
「いや、あれは僕が悪いよ。自分勝手に行動したから自業自得、もう割り切っていこ」
僕は今平然と話すことが出来ているか分からないが、とりあえず立ち上がりリーダーの肩を借りつつも宝箱を開けて家に帰った。中身は全部受け取るのは申し訳なかったが、脱退料と、今までの感謝分として押し切られてしまった。
「今までありがとう、2人とも」
「…っ、元気でな」
「さようなら、月宮。」
「これからも頑張って」

あれから1ヶ月、何も無く過ごしていたはずだったが、ベットの上に一通の手紙が置かれたことに気づいた。
「なんだこれ、メールバードか?」
手紙の機能で文章を読ませると
「月宮様、通達です。あなたの元パーティーメンバーだったユウト様とマナ様は、お亡くなりになられました。」と言われた。
「は!?」
僕は理解出来なかった。
急いで杖を使い、いつも通っていた道を通りギルドに行った。
「すみません!ちょっといいですか!?」
「あ、月宮さん……」
「嘘ですよね…?あんなの…音声のバクかな、アハハ…」
一瞬の間があったが
「いいえ、事実です。」
そう返された。僕は腰から崩れ落ちて、地面に座り込んでいた。
「どうして…アイツらが死ぬなんて…」
「1つ言わなければなりません。あの方たちが最後に行ったダンジョン…それは幻想級ダンジョンです。」
仲間の死んだ相手によく淡々と事実を話せるなと思っていたが、ある単語によって現実に戻される
「は!?あの世界に1つしかないと言われるあのダンジョンですか!?」
「はい」
僕はなんでそんなところに行った、そう怒りたかったがそれを言葉にする前にギルドの女性はこんなことを言った
「幻想級ダンジョン…とは世界で1つの難関ダンジョンですが…アルティメットスキルの習得方法がそこにあると言われていたのです。」
なんで…ただの可能性で僕のために…
死ぬなんて分かっていたはずなのに…!
「話は聞いています。あなたが目が見えなくなったこと、そしてそれを理由に〈空間把握〉という能力を手に入れようとしている事を」
「…っ、なんでその時僕を呼ばなかったんですか!幻想級ダンジョンなんで馬鹿げてる。アイツらが死ぬなんてアンタにも分かってたはずだ!」
「分かっています。しかしあの2人には止められるような覚悟とは思えなかったというのも事実です。」
「…ッ」
僕はすぐにギルドから出た。
あの人の言葉をそれ以上聞きたくなかったのか、はたまた現実から目を背けたかったからなのか。それは分からない、しかしあそこに居ることは僕には耐えられなかった。
そして、家に戻ったものの僕は3日間何も食べる気が起きなかった。
しかし、人間であるため腹は空く。最近何も買っていないことに気が付き、今日は外で食べることにした。そして家に帰るとポストに何か入る音がした。
「なんだ?」
そう思いながらポスターを開くと大きくて封筒のような形のものが入っていた


「久しぶりね、月宮」
ポストに手紙を入れた本人だろうか、いきなり声を掛けられたため、驚いたが、俺はその人物の声を知っていた。
…しかし、その声の主はここには居ないはずの人物だった
「マナ……?」
「よく分かったわね、というか丁度いいタイミングだったわね。」
「…は?いやいや、なんかの冗談だろ?」
「なんでよ」
「え…?だって手紙には2人は死んだって…」
俺は記憶を漁ったが手紙にもギルドでも2人はもういないと、聞いたことに間違いはなかった。
その報告が間違われていなければ。
「……?まぁ、その様子だと幻想級ダンジョンに入ったことは知っているようね。」
「…っ、なんで…勝手に入った。俺にぐらい言ってくれよ…」
「だって、あなたに話したら止めるじゃない」
それはそうだ、あのダンジョンはクリア報告されているのは、指で数えられる程度。そんなダンジョンに、ましてや2人だけで行くなんて馬鹿げてる。
「当たり前だろ…2人には死んで欲しくないよ…」
「あなたは、もう冒険したくないの?」
「そりゃ、出来ることならしたいよ…3人で一緒にいたかった。でも、無理なのはお前もよく分かってるだろ…」
「出来るわよ」
その言葉に理解するのは時間がかかっていた。
「は…?でも俺は目が…」
「その封筒なんだと思ってるのよ」
「…何が入ってるんだ?」
中に入ってるものを出すと、触って見た感じ一通の手紙のようなものと、スイッチの様な丸いものが入っていた。
「私たちは、ダンジョンで敵の間をすり抜け命からがら宝箱がある所に辿り着いたのよ。」
「…すご」
「…でも、その帰りにユウトは私を逃がして、これを月宮に渡してと…ユウトは恐らくもう…」
僕は泣きたかった、話の内容からして僕に命と引き換えに渡そうとしていたものは何か想像がついたからだ。
「…?でもなんでそれが空間把握の物だと分かったんだ」
「なんか、宝箱の中に説明があったわ」
「なんでや」
「だって紙があってそこに書いてあったもん」
アルティメットスキルなのに、そんな適当でいいのか?と思ってしまったがとりあえず置いておこう
「手紙は、後で呼んでいいか?というよりアイツはいつこんな手紙を書いたんだ」
「それは知らないわよ、まぁ好きにしなさい、それはあなたのものだから」
……本当に女?カッコよすぎじゃない?
そう思ってしまったが密かに胸に閉まっておこう、バレたらマナに散々いじられそうだ。
「ありがとう、そしてこのスイッチみたいなのは?」
まさか、スイッチを押すだけで能力が手に入るわけないだろう苦笑した。…ないよね?
「それが、私も分からないのよね、それで手に入るのか」
あの説明が嘘かもしれないのよね、とマナは言った。誰かがイタズラで入れたのなら相当タチの悪い事だ
「それで、ここまで持ってくるとかいよいよ頭おかしいだろ」
「仕方ないでしょアルティメットスキルなんて、初めて見るんだもの」
「そういう意味ではないが、まぁそれはそう」
とりあえずそのスイッチを押してみた。
「……」
何も起きない
「…スゥ、悪いことは言わない、見なかったことにしてやるからギルドに渡そう。」
「アンタは見えてないでしょ」
「うるさいなぁ」
マナに冷静なツッコミを入れられると、なにかに気づいたような声を上げた
「ん?月宮、それちょっと見せて?」
僕はスイッチらしきものを渡し、少しするとマナは言葉を発した。
「…何か、取り付ける見たいなところがあるんだけど、これもしかして能力じゃなくて魔道具だったりしない…?」
「空間把握が?」
確かにそれはある。アルティメットスキルの詳細はほとんど明かされてなく、まだ未獲得のスキルもいくつかあるという。ちなみに空間把握もそれの1つだ
「仮にそうだとして、何に取り付けるんだ?」
「うーん、弓に1回つけちゃけば?」
「適当すぎだろ」
俺は弓使いだからってそれ専用の魔道具とは限らない、が
「でも、試してみる価値はあると思うけど?」
「まぁ、そうだな。」
そう言いながら、扉を開け1ヶ月以上触れていない弓を取り出した。
「あなた…よく見ないで物がどこにあるか分かるわね。」
「何年ここに住んでると思ってるんだ、それはそうと、どうやって付けるんだ?」
「…のり?」
「んなわけないだろ」
「だってわかんないじゃない!」
逆ギレするなよ、そう言いたかったがこれ以上争っていても意味が無いのでやめておく。
とりあえず、自分の弓にスイッチのものを近づけたが特に反応はなし
「……」
「マナ…悪いことは言わない、見なかったことにしてやるからギルドに渡そう。」
「何回そのくだりするのよ」
もう飽きたわ、と言われ少ししょんぼりしてしまったが僕が家を出てからだいぶ時間が進んでいる事に気づいた
「そういえば今何時だ?」
「そうね、今はもう8時を過ぎてるわ」
意外と時間が結構経ってしまったが、流石にこれ以上遅くなると女の子は危ないのでは?と思い始めた
「うーん、とりあえず今日は解散する?」
「そうね…また明日来るわ」
「うん、また明日」
そう言ってマナが帰りかけた瞬間あるものにつまずいた。
「痛っ!」
「大丈夫っマナ…ふふっ」
「笑ったわね、月宮!」
物につまずいて、地面に手が着くような音がしたので、そこまで派手に転んだのかと思ったが…下に手をやると、思い出のある物だと分かった
「まぁ、怪我がなくて安心したよ…これにつまずいたのか」
「ん?なにこれ」
「あー、これは確か2年前に亡くなったじいさんの弓だな、形見の様に思ってる。」
僕に弓の技術を教えてくれたのもじいさんのおかげだ。
「なんで見てないで物を当てられるのよ。」
「何年この家にいると思ってるんだ。それに、触ってるのならある程度は分かるよ」
「さすがね」
「このやり取りさっきもやった気がするんだが?」
「あんたが言わないでよ」
談笑をしながら懐かしく僕は干渉に浸っていた。そしてじいさんの弓を片付けようとしたら、その弓に窪みのような感触があった。
「これってなに、元から?それともマナが壊した?」
「そうだったらごめんだけど、さすがにもっと音が出るでしょ……これもしかして?」
いきなり、耳鳴りのようなすごい音が鳴った。
「おい、マナ!?何をしたんだ!」
「さ…さっきのスイッチを!そこにはめたの!」
あれから30秒は経った時、音は止んだ。
………近所迷惑を考えてほしい
「月宮…これ!」
カタッと音がなり僕の方に弓を差し出したのだろうか?
僕は手を前にやり、何かが僕の手に触れる。その瞬間
「!?」
「ど、どう!?」
僕は信じられなかった、今マナがどこにいるのかを感じ取ることが出来たのだから
「見える…とはいかなくてもマナがどこにいるのか分かる!」
「ホント!?」
「あぁ、本当に!」
感覚的で表しずらいが、体の輪郭に沿って何か光のようなものが動いている。僕は嬉しかった、これさえあればまた戦える、そう思ったのだから。
しかし、何故この能力を持った魔道具がじいさんの弓にだけ当てはまったのかが疑問に残っていた。
「…今あなたが言いたいことは分かるけど、それはおいおい解決していきましょ。」
そんなに表情に出てきたかと思ったが「そうだな」と返した。
「本当に…ありがとう、マナ!」
「お礼はユウトにもね?」
「ははっ、そうだね」
その後、僕達は家に帰り明日を迎える。
翌日の事、マナがやってきた。それだけならよかったのだが、マナの声はありえない場所から聞こえたので僕はかなりガチめに驚いてしまった。
「おはよう、月宮。」
「…マナ、君は不法侵入という言葉を知っているか?」
「だって、鍵が外に置いてあったから」
「なんで、マナが鍵の場所なんて知ってるんだよ、隠してあっただろ?」
「勘」
「勘か〜じゃあしょうがないな…とはならんからな?」
そう言った後、本当に小さな舌打ちのようなものが聞こえたが…気のせいだよな?
「それはそうと、月宮は手紙は読んだの?」
「…はっ」
「読んでないんかい、親友という肩書き消えるぞー?」
「うっ、うるさいなぁ昨日の出来事がインパクトがありすぎたんだよ!マナがどこにいるかとか分かるようになったんだぞ?まぁ声でも分かるが」
「それならあれ意味なくない…?」
「いや、あの後少し確認してみたんだけど、どうやら範囲が結構広いらしい」
そう、耳で聞こえる範囲だけでは弓は射つことが出来なかった
「良かった…ちなみにどれくらい?」
「うーん、分からないけど僕が射てる範囲の限界近くまで?だからおよそ、150メートル近く」
「広すぎじゃない、というかそれほど遠くまで狙えるのね」
……打てる範囲がそれほどということで、確実に狙えるというほどではないのだが、一度行ってしまったが故に取り消せなかった
「まぁ、流石はアルティメットスキル…いや魔道具か」
「これってギルドに報告した方がいいのかしらね」
マナが言いたい事はよく分かる。
アルティメットスキル…もとい魔道具は、世界にも10人程しか会得していない。その為ギルドに報告する方がいいとは思われるが、そう考えていると
「そういえば話が逸れたけど手紙はどうするのよ」
「同時に2つの事を考えさせようとするなよ…まぁギルド報告はまた今度にするという事で今は手紙を読もうか」
「分かったわ」
「それはそうと、マナはこの手紙を読んだ?」
「いえ、読んでいないわね」
…それなのに、前はあなたの好きにしろなんて言ったのか…?いいのか、こんな目の見えない男が惚れるぞ?
「…じゃあ一緒に読もうか」
気持ちを落ち着かせ、そう言った後、僕は手紙についているボタンを押した。
…本当に便利な機能だ
「この手紙を読んでいるという事は、もうこの世に俺はいないだろう……フッ俺もこんな事を言えるように成長したか。」
僕はこの瞬間吹き出してしまった。
「おっ…お前、こんな手紙に余韻残すなよっ」
「私たちのリーダーってこんなくさいセリフを言う人だったかしら」
「うんうん、月宮は笑ってくれてありがとう。マナは辛辣だな…あ、いつもか」
「ぶっ飛ばすわよ」
僕はこの時思ったことを正直に言うと…恐怖だった!なんでそんなリアルタイムで話してるみたいに予測出来るんだ…
「フッ悪いな月宮、こんな所で俺の才能を開花させて。」
……もう何も言うまい
「ごめんってー、まぁ冗談は置いといてここからは真面目な話だ。ひとまず、無断であのダンジョンに入ったことは悪いと思っている。しかし、そんな事を言うためにこんな手紙を書いた訳では無い。」
…おい、それが重要だろ。ともあれ、こんな謝罪よりも大事なこととは一体…
マナも同じく困惑した表情をしていただろう、しかしそれなら他に何が…
「月宮のところには…」
僕が考えを出す前に話始めてしまったが、とりあえず聞く体勢に入った
「俺とマナは死んだという報告が言ってるんじゃないか?」
「……!確かにそうだ、あの時はマナに謝られてそこまで気にしてなかったが………どういうことだ?」
「お前が脱退した直後、俺の所にメンバー加入希望の用紙があったんだ。まぁ、お前がいなくなった事もあってとりあえずダンジョンに行くことにはなってたんだ。けどギルドには報告してなかった…というか忘れてたんだけど。」
「おい、重要なこと忘れんな。というかマナから一言もそんな事聞いていないんだが?」
「……そんな人いたかしら」
「えっ?」
「この手紙が送られているのなら、多分マナはその人物の記憶がないのはずだ。これを書いたのは幻想級ダンジョンに入る前の事なので確かな事は分からないが、その加入してきた人物の気配はモンスター…そのものだった、多分そこに行ったら俺とマナは襲われるだろう」
モンスターとは、ダンジョンの中でしか凶暴化することが出来ない、その為ユウトは安心していたがダンジョンに入るということで警戒をしたのだろう、しかし
「は!?というか分かっていたならどうして!」
「事実を提示すると、あの人、いやモンスターのステータスが俺より下だったんだ。だから俺は負けないと思って、まぁ万が一モンスターじゃなければ良かったで終わるんだけどな。まぁこの手紙がマナからお前に送られているなら俺は負けたんだな…」
「……っ」
「1つ忠告しておく、万が一俺があいつに負けたとしても、外でアレと戦おうとはするな。」
僕は言われている意味がわからなかった。
「あのモンスター…ダンジョンの中ではモンスターとして見なされるが、外だとどうしても人間となってしまう。まぁ、だから加入してきたときに倒せなかった、そして、ダンジョン内で倒そうとした。」
「最強のモンスターじゃない」
しかし、たとえ人間になるとしてもモンスターには変わりがなかった
「月宮は今何故モンスターなのに…と思っているとは思うが、人間には変わりがない…だから法律的に人間を殺める、つまり殺人罪になってしまう。」
「なんだと…?」
「話は変わるが、月宮がパーティーを抜けたあと…そのモンスターについて調べたんだ。すると、月宮の目に傷をつけたあのモンスターと特徴が似ている事に気がついた。そして、あいつの能力…それは〈記憶操作〉(フラッシュメモリー)。記憶を上書き、または消す事が出来る。」
まさか、マナはもう記憶が!?
と思ったが、昨日は普通に話していた…待てよ、僕が2人が死んだ事を話した時、マナは不思議がってた…。
「もしかして、マナはその人物…いや、モンスターとの対面していた時の記憶だけ消されていた…?」
「で、でもなんの意味があるのよ!」
「まぁ、俺はこれ以上の未来を読むことは出来ない。運良く空間把握を手に入れたいな、なんてそんな上手くいかないか…まぁ手に入ってるかどうかなんて今のお前たちがよく分かってるか。それじゃあ、楽しかったぜ」
手紙はここで終わった。
マナが裏に何が書いていないかと確認すると一言だけ残されていたという。
最後はマナが読んでくれた
「表に書ききれなかったことここに書くけど、って言っても大したことでは無いが……」
なんだろうと思ったその時
「……月宮、後は任せた」
「…」
いいの?泣くよ?
「泣いていいわよ」
「マナまで僕の心を読むのやめてくれないっ…か」
僕は泣いてしまった、マナの前で
今まで僕は泣いたことがなかった
「僕はこんな簡単に泣いてしまうやつだっけ」
「親友が死んで悲しまない人がこの世にいないとでも?」
「……そうだね」
「とりあえず…今ある疑問点、そして謎について整理しましょう。」
「うん」
余韻に浸っていたかったが、今僕達の前にある課題は多かった。
「まず1つ目に、マナの記憶について、何故あのモンスターは、マナの全ての記憶を消さなかったのか。」
「そうよね、全て消されていたなら、もしかしたらここに私はいなかったもの」
「あぁ、そして2つ目がギルド、もとい僕のポストに入っていた2人の偽情報。誰が何のためにしたのか」
「でも、これはあのモンスターが月宮を狙っておびき寄せるためって言う説もあるわよね?」
「それはあるけど、なぜ僕を狙うのかが分からない。」
「それを含めて謎ね」
「そして、最後に僕のじいさん、いや月宮カナトが、所持していた弓になぜ空間把握の魔道具を取り付けられたのか」
「それは、あなたのおじさんが空間把握を使っていたからじゃない?」
「だとしても、弓にその道具がついていないのは不自然だと思う…」
「…もしかして、あなたのポスターに手紙を入れたあのモンスターが関係していないかしら」
「…一理ある」
「でも、なんで僕がその弓を持っていることを知っているんだ?そんなに有名なら、空間把握の保持者が1人もいないという記録はおかしいと思うんだけど…」
「その弓にやられた、もしくは戦っている所を見てその能力を手に入れたかったんじゃない」
「…なるほど」
確かにモンスターの中には強力な武器を使ったり、知力の高い能力を持つのがいたりする。
ましてや、そいつが幻想級ダンジョンにいた事から知力が高いのは間違いないだろう。
「とりあえずこの3つを解決していきましょうか!」
「え、マナも一緒に来てくれるのか?」
「なんで、来ない前提なのよ、それとも私はパーティーメンバーではなくて?」
「いやいや!マナがいてくれたら嬉しいんだけど…」
「じゃあいいじゃない」
「……ありがとう」
「はいはい…というわけでダンジョンに行きましょうか」
僕は耳を疑った
「なんでやねん、僕、目重症よ?」
「そしたら、どうやってあのモンスターを倒すのよ。」
「確かに…でも外にモンスターいるんだろ?」
「さっきの話聞いてた?あのモンスター外で倒しちゃダメなんでしょ。というか、どうやって生活していくの?その為にも予行練習として行きましょう」
言われてみればそうだ。僕は昔の貯金があったから1ヶ月も住ごす事が出来たがそろそろ心元なくなっていた。
「…あぁそうだな、でもいきなりだと僕すぐに死にそうなんですけど?」
「その為に私がいるんじゃない」
「…分かった、行こう!」
とは言ったものの……
「マナ…やっぱりやめにしないか?」
「なんでよ」
何故って…モンスターが怖いからという理由もあるにはあるが
「だって…見えなんだよ!?マナ1回目を瞑って歩いてみてよ、想像以上に怖いよ!?」
「どうやって今まで生活してきたのよ…」
「…家は無害じゃん」
そう、家は何も攻撃され、危険になることはないのだ。でも、ダンジョンだと1つの行動だけで命を落とすことがある。
……つまり、目が見えない僕は…うん終了だ。
「はぁ、だから私が守ってあげるから安心しなさいよ」
「…分かってるけど…仕方がない、ずっとじいさんの弓を持ちながら行くか」
「どうやって行くつもりだったのよ」
マナは長いため息をした後、僕に弓を渡してくれた。
「ありがとう、じゃあ行こっか」
「えぇ、そうね」
マナが先に歩き出し、僕は彼女の後ろに続く形で歩いた。入るのは中級ダンジョン、僕たちの足音が響く中、慎重にダンジョン内へ入っていった。

「いやー、心配して損したな、まだ1回も敵にあっていないぞ」
そろそろ、ダンジョン後半部分に入りかける所なのだが、僕達はまだ1度も戦闘が起こっていない。
「フラグみたいなこと言わないでよ、まぁでも出てこないと特訓にならないからね?」
「分かっている…よ」
「なに、その間は」
…気のせいか?いやでも今確実に動いた様な
「百メートルぐらい先にある曲がり角?みたいな所に何かいる気がする」
「さすが、その魔道具は頼りになるわね。じゃあサクッと仕留めてしまいましょ」
「…マナ、提案なんだけど、ここから僕が狙ってみていい?」
遠くから敵を倒し、味方の援護をする。それが弓使いだ、だからこれ程遠い状態で当てれなければ強くはなれない、そう思ったのだ。
「いいけど…遠くないかしら?」
「特訓するためにはこれくらいが丁度いいと思う」
僕の真剣さが伝わったのか、マナは「分かったわよ」と、了承してくれた。
「ありがとう」
僕はじいさんの弓に矢をつがえ、弓を引こうとした。だが思ってもよらないことが起きた
「…!?お、重っ!」
とてもじゃないが僕の腕力では引ききれなかった。僕が普段使っている弓の重さは20キロほどだが…これは2倍ほどあるように感じた。
「いやいやいや、無理だって。これは流石に引けないって、重すぎるよ!」
「…数秒前のあなたに聞かせてあげたいわね、はぁ仕方ない…」
そう言うと、マナは何かの詠唱を唱えた後僕に向かって魔法を使った
「〈腕力増加〉(インビジブル)!」
「…!フィジカルアップか、ありがとう」
「魔法使いとしてこれくらいはね」
今思ったが、魔法使いと弓使いなんてパーティー構成アンバランス過ぎないか?
ともあれこれなら引けそうだ、僕は一点に狙いをつけゆっくりと深呼吸していく
「でも、大丈夫なの?曲がり角があるから当てられないと…」
マナが最後まで言いきる前に僕は弓を離してしまった。
「えっ!? あ、そうだった!」
僕は、生命体らしき方向にそのまま射ってしまったのでやらかしてしまった、そう思っていたのだが…その瞬間奥にいるモンスターの生体反応が消えたのだ
「…え? 倒した?」
「ど…どういうこと…」
一体何があったのか、マナに聞くと
「あなたの打った矢が壁をすり抜けたのよ…」
「へぇ………ん!?」
そんな…まさかね?チート能力みたいなのがある訳ないじゃん、タダでさえ見えるだけでもチートなのに…
「と…とりあえず敵の所まで行って…見ようか?」
「……そうね」
歩いて1分は経っただろうか、僕たちの前には先程までは生きていただろうモンスターが倒れていた。
「これ…本当に僕が…?」
今だに倒したなんて実感が持てなかったし、矢が壁をすり抜けるを信じるなんてもってのほかだ、もしかしたら僕が思っている以上にアルティメットスキルは最強なのかもしれない。
「なんか…とんでもない魔道具を持っている気がする」
「それは私のセリフよ、私がいるから安心しなさいって言ったの恥ずかしくなってきたじゃない」
……それ僕のせいじゃなくない?
「というか、1つ確認なんだけどモンスターが僕たちに気づく範囲ってどれくらいなの?」
「…確か、モンスターが人の視線を感じた時じゃなかったかしら」
…ちょっと待てよ? 目が見えない僕にとって視線は無い、という事は気づかれないで倒す事ができる…?
「……うん、このアルティメットスキル…いや、この魔道具はヤバいな」
僕は今更になってこんな結論に至った。

僕達がダンジョンから出て家に帰っている途中、マナが少し上の空になっている事に気づいた。
「えぇと、マナ? どうしたの?」
「……っ、なんでダンジョンのモンスターをあなたが片付けちゃうのよ!」
いきなり声を荒らげたと思ったら、いきなり意味のわからないことを言い出した。実際、僕が強くなるためにダンジョンに行った訳で…もしかしてマナは僕にいい所を見せようとしたのだろうか?
「…それはごめんだけど、マナのフィジカルアップは助かってるよ? あれがなければ弓が引けないわけだし」
「でも…時間が経てばあなたはあの弓を引けるようになる、そうなったら私はいる意味がないじゃない…」
「そんなことない」
僕は言葉を考える前に自然と口に出していた
「マナは…いや、マナとリーダーは僕のためにこうして生きられるきっかけを作ってくれて、そして助けてもくれた。」
「でも、それは今だけじゃない!私がいなくてもあなたは…」
僕はマナが最後の言葉を言い切る前に途中で遮った。
「僕は、マナと一緒にいると安心するんだ。それに今までずっと俺たちパーティー組んでただろ? しかも、僕が初心者ダンジョンで蹲ってた時、マナは僕を捨てようと思っていなかったはずだ。今の僕は昔のマナと同じ事をしているんだ、それを否定するのか!?」
僕はずっと初心者ダンジョンで留まっていた。今では少し懐かしくなっていたが、昔の僕は少し違うが今のマナと同じだった。言い方を悪くすると役立たずだった。だからこそ、昔の恩返しで一緒に行こうと言っている…まぁそれが本音という訳ではないが
………本当の理由は今は言えない
「……っ、でもそんなの分から…」
「それに、今はそんな事関係ない。僕はマナと一緒に…いやマナとだからこそ一緒にダンジョン攻略をしたいと思っている」
僕はいつも以上に真面目な声で真剣に今思っている事を伝えた
その思いが伝わったのか、マナは小さく頷いてくれた。
「じゃあ、また明日…?」
「うん、また明日」

翌日の朝、マナは家に来なかった
「遅いな、いつもだったらもう来てもいい時間帯のはずだけど…」
まさか、昨日の言ったことを気にして1人でダンジョンに行ったりしていないだろうか
いや、あれほど約束したのだ。それはないと…信じたい。だが何か理由があって行かなければいけない状態だったら? そうじゃなくても僕に連絡の出来ない用事や事件に巻き込まれていたら!?
一度リーダーを亡くしてからの影響か最悪の事態が頭をよぎる。
「…一度マナの家に行くか」
こうして、念のためじいさんの弓を持ってマナの家に来たのだ
一度、ドアに付いてあるブザーを押したが返事はない
鍵は掛かっているだろうと思ったのだが…
ドアノブに力を入れた瞬間、「ガチャッ」という音が響いた。
「あいつ、家にいるとしてもダンジョンに行くとしても戸締りぐらいはちゃんとしろよ…

僕は呆れながらもマナの家に入ったのだった

生活音はなく、どこかに行くことを記載された手紙も見当たらなかった。
「ちょっといや、かなり…まずい状況じゃかいか…?」
急いで僕はギルドに報告しようとし、マナの家を出かけた瞬間
「誰かいるの?」
この声は、ここの家主である…マナだった
「マナ!お前どうしたんだよ…心配したんだぞ!?」
「つつ、月宮!? ちょっと待って!」
「なんでだ! 僕に声も掛けずいなくなったりして!」
今思えば、少し遅れた可能性も十分にあった。マナを心配しすぎたのかもしれない
「そ、それについては謝るわ…でも今は本当に待って!」
マナは早口になりながら焦っていた
「どうした…何かあったなら言ってくれよ!」
「いや…その」
マナの挙動や言動でより僕は安心できなくなった……この後に言われた言葉を聞かされなければ
「…お、遅れたの…は、その…お風呂に入ってた…からであって」
「なんだ、心配して損した…」
「…その、今…服着てないの…」
「いやー、良かった良かっ…!?」
僕は声帯を引っこ抜かれたように言葉が止まってしまった。
「え!? 今裸なの!?」
「は、恥ずかしいこと言わないでちょうだい!」
「なら、もっと早く言ってよ!?」
「…だって! 月宮があんなにも慌ただしく言ってきたのよ…言えるタイミングなんてなかったわ…!」
「それは…ごめん、と、とりあえず服を着てきて!」
目が見えていなくても…声で、そこに居るのが分かってしまう。だから、少し想像してしまうのだ……見たことないにも関わらず
………好きな人の家に上がっているため緊張しているというのに、これ以上事件が起きたら本当に…まずい
「とりあえず…無事なのは良かった…」
心は全然大丈夫ではないが一安心する事はできた。マナは大きな足音を立て、その場を離れた。着替えるため別の部屋に行ったのだろう
とりあえず僕はマナが来るまで待っていた
「それにしても、たかが時間に少し遅れただけでこんなに心配するなんて…まるでマナの行動を制限して…いやそれは無い…はず。」 
マナにこの声は聞かれてないと分かっていても声がどんどんと小さくなっていく
「しかし、僕マナのこと好…」
僕が最後まで言いかけた瞬間、ドアが開く音がした。慌てて口を塞ぎ何もなかったように装った
「ただいま、何か言った?」
「…っ、いや?」
「そう? ならいいのだけど、じゃあいきましょうか」
「う、うん!」
僕の背中は滝のように汗が流れていた。途中汗臭いと言われて心にダメージを負ったが、家で言った言葉を聞かれるよりよっぽどマシだ
ダンジョンに着いたと言われて弓を持ち始めたが、僕はある違和感に気づいた
「…ちょっと、マナさん?」
「なによ」
「ここ…中級ダンジョンじゃ、ないですよね?」
そう、僕たちが入ってきたダンジョンには無いこの威圧感…そしてほのかに鼻を刺す血の臭い、ここは
「そうよ、上級者ダンジョンよ?」
「いや、レベル飛ばし過ぎじゃ無いですか?」
まだ中級ダンジョン一回しか行ったことがない。だからこそ僕の力が通用するとは思えないのだ
「そんなことないわよ、だって今じゃもう私より月宮の方がよっぽど強いわ」
「だとしても、この威圧感だとさすがに畏怖されそうなのですが?」
まだ高ランクダンジョンには指で数えられるほどしか行っていないし、何しろここは僕のトラウマでもある場所なのだ。僕は上級者ダンジョンで目が失明をした…怖くないはずがないのだ
「しょうがないわね」
そう口にしながらマナはどんどんと僕に近づいてくる
「な…なに?」
「こ、これなら怖くないでしょ」
マナは、僕の手にそっと手をおいた
「っ!?」
「な、何よそんなに私と手を繋ぐのは…いや?」
「そ…そんなことはないけど、さ…この状態だと流石に…周りに勘違い、されるよ…?」
見えてはいないが周りには人がいないわけではない。しかも、異性と手を繋いでいる…目立たないはずがない、そう思っていたのだが
「別に…あなたとなら勘違いされても…」
小さい声でマナはそんな事を言い出した。
声が出そうになるのを全力で堪えたが…まさかマナは僕のこと…
「はーい、そこで立ち止まらないでください」
僕がそんな事を考えていると、ダンジョンの入り口に立っていた係員に呼び止められてしまった。
……恥ずかしすぎる
「と、とりあえず行こう…か」
「そ、そうね…」
僕たちは互いに変な空気になりながらも、ダンジョンに入って行った。
この心情の変化に2人は気づき始めていた
僕たちは自分達のした行動を少し後悔しながらも警戒を解かずにダンジョンを進んで言った
「しかし、なんで倒しているはずなのにモンスターは無限に出てくるんだろうね」
「モンスターはほとんど魔力で体が作られてるからそれを崩した時に倒したって言うけど、またそれが練り上げられて生成されているのよ」
「へぇ、マナって物知りだったんだな」
「知らないけど」
ん? つまり、どう言う事だ…?
僕が不可思議な顔をしていると
「私の想像って言ってるの」
「どんな思考をしているんだよ、と言うことはモンスターが魔力ってのも想像か…?」
「そこは流石に知識よ」
びっくりした、マナが僕の想像より頭が良かったなんて…でもよく考えれば魔法使いの役職って結構高い頭脳がないとなれない気が…
ほんと、なんで僕たちのパーティーに入ったのやら
「まぁ、疑問が解けて良かっ…」
僕が最後の言葉を言いかけた瞬間、二つほど角を曲がった先に生体反応があった。
「どうしたの?」
「この先に何かいるけど…でも形が人間ってっぽいんだよね」
「確かに、正確に見分けるのって難しいわね。間違って人を殺しちゃったら罪に問われるし」
いい案はないかと考えていた時、僕の頭にある言葉が浮かんできた。聞いたことのない物だったがとりあえず言葉にしてみた
「フリオ…クラック」
「え、今なにか言ったかしら?」
「!?」
「ど、どうしたの?」
「ど、どうして僕…見えるんだ?」
どう言うことだ…? 僕はこの魔道具を使っても正確に周りを見渡すことはできない…はずなのだが、あの言葉を言った瞬間周りが鮮明に見えていた…マナの方を見ると顔さえしっかり見えていた
「マナ…見えるよ!」
「え、前から見えるようになったじゃない」
「違うんだ、鮮明に…まるで視界が戻ったようになったんだ!」
「と、と言うことは? 今まで壁越しに見えていた敵も鮮明に…?」
「うん、見える!あれは人だったね」
しかし、目が見えるようになって本当に良かった…マナの顔も見れたし、敵も判別出来るようになったし!
そう浮かれていた瞬間、目の前が今まで通り暗闇になってしまった
「あれ、見えなくなった…しかも結構魔力消費するな…と言うか本当にあの言葉でまた見れるのかな…?」
「多分見れるはずよ、本で読んだだけだけど月宮はさっき何か言葉を言ったでしょ? それは自分が出来ること、願う事をアルティメットスキルが示してくれるのよ」
「僕が使ったのは…えぇと【視野全開】(フリオクラック)か、でもこれ今やってみたけど大分魔力消費するね?」
自分の魔力量を考えると連続して使える回数が、もって2回が限度。だが効果はまだ続いていてかなり長い
……まぁこれだけ凄いことが起きているから何も文句は言えないが
「でも、もう敵なしぐらいの強さになったわね」
「そうかな、僕は普通に弓の一撃だけで倒せない敵は現れると思うんだけどなぁ…」
「それもそうね、というかこのダンジョンに入ってから一回もモンスター倒してないのだけれど?」
「仕方ないだろ、遭遇さえしてないんだから」
僕たちはかれこれ40分ほどダンジョン内を捜索しているが、まだ一度もモンスターを見ていなかった
「まぁ、モンスターが多すぎるよりはマシだけど…」
「そういえば、月宮の【視野全開】って効果時間はどれくらいなのかしら、まだ続いてる?」
「うん、マナのこともしっかり見えてるよ」
しかし、久しぶりに見たマナの顔…とても可愛いし綺麗だった。
「…釣り合わないなぁ」
「ん? 何か言ったかしら」
まずい、声に出てた
「…っ、いや? 何にも」
「そう?」
危なかった…この想いを伝えたら、こんな風にもうそばにもいられなくなるかもしれない