僕は理解出来なかった。
急いで杖を使い、いつも通っていた道を通りギルドに行った。
「すみません!ちょっといいですか!?」
「あ、月宮さん……」
「嘘ですよね…?あんなの…音声のバクかな、アハハ…」
一瞬の間があったが
「いいえ、事実です。」
そう返された。僕は腰から崩れ落ちて、地面に座り込んでいた。
「どうして…アイツらが死ぬなんて…」
「1つ言わなければなりません。あの方たちが最後に行ったダンジョン…それは幻想級ダンジョンです。」
仲間の死んだ相手によく淡々と事実を話せるなと思っていたが、ある単語によって現実に戻される
「は!?あの世界に1つしかないと言われるあのダンジョンですか!?」
「はい」
僕はなんでそんなところに行った、そう怒りたかったがそれを言葉にする前にギルドの女性はこんなことを言った
「幻想級ダンジョン…とは世界で1つの難関ダンジョンですが…アルティメットスキルの習得方法がそこにあると言われていたのです。」
なんで…ただの可能性で僕のために…
死ぬなんて分かっていたはずなのに…!
「話は聞いています。あなたが目が見えなくなったこと、そしてそれを理由に〈空間把握〉という能力を手に入れようとしている事を」
「…っ、なんでその時僕を呼ばなかったんですか!幻想級ダンジョンなんで馬鹿げてる。アイツらが死ぬなんてアンタにも分かってたはずだ!」
「分かっています。しかしあの2人には止められるような覚悟とは思えなかったというのも事実です。」
「…ッ」
僕はすぐにギルドから出た。
あの人の言葉をそれ以上聞きたくなかったのか、はたまた現実から目を背けたかったからなのか。それは分からない、しかしあそこに居ることは僕には耐えられなかった。
そして、家に戻ったものの僕は3日間何も食べる気が起きなかった。
しかし、人間であるため腹は空く。最近何も買っていないことに気が付き、今日は外で食べることにした。そして家に帰るとポストに何か入る音がした。
「なんだ?」
そう思いながらポスターを開くと大きくて封筒のような形のものが入っていた


「久しぶりね、月宮」
ポストに手紙を入れた本人だろうか、いきなり声を掛けられたため、驚いたが、俺はその人物の声を知っていた。
…しかし、その声の主はここには居ないはずの人物だった
「マナ……?」
「よく分かったわね、というか丁度いいタイミングだったわね。」
「…は?いやいや、なんかの冗談だろ?」
「なんでよ」
「え…?だって手紙には2人は死んだって…」
俺は記憶を漁ったが手紙にもギルドでも2人はもういないと、聞いたことに間違いはなかった。
その報告が間違われていなければ。
「……?まぁ、その様子だと幻想級ダンジョンに入ったことは知っているようね。」
「…っ、なんで…勝手に入った。俺にぐらい言ってくれよ…」
「だって、あなたに話したら止めるじゃない」
それはそうだ、あのダンジョンはクリア報告されているのは、指で数えられる程度。そんなダンジョンに、ましてや2人だけで行くなんて馬鹿げてる。
「当たり前だろ…2人には死んで欲しくないよ…」
「あなたは、もう冒険したくないの?」
「そりゃ、出来ることならしたいよ…3人で一緒にいたかった。でも、無理なのはお前もよく分かってるだろ…」
「出来るわよ」
その言葉に理解するのは時間がかかっていた。
「は…?でも俺は目が…」
「その封筒なんだと思ってるのよ」
「…何が入ってるんだ?」
中に入ってるものを出すと、触って見た感じ一通の手紙のようなものと、スイッチの様な丸いものが入っていた。
「私たちは、ダンジョンで敵の間をすり抜け命からがら宝箱がある所に辿り着いたのよ。」
「…すご」
「…でも、その帰りにユウトは私を逃がして、これを月宮に渡してと…ユウトは恐らくもう…」
僕は泣きたかった、話の内容からして僕に命と引き換えに渡そうとしていたものは何か想像がついたからだ。
「…?でもなんでそれが空間把握の物だと分かったんだ」
「なんか、宝箱の中に説明があったわ」
「なんでや」
「だって紙があってそこに書いてあったもん」
アルティメットスキルなのに、そんな適当でいいのか?と思ってしまったがとりあえず置いておこう
「手紙は、後で呼んでいいか?というよりアイツはいつこんな手紙を書いたんだ」
「それは知らないわよ、まぁ好きにしなさい、それはあなたのものだから」
……本当に女?カッコよすぎじゃない?
そう思ってしまったが密かに胸に閉まっておこう、バレたらマナに散々いじられそうだ。
「ありがとう、そしてこのスイッチみたいなのは?」
まさか、スイッチを押すだけで能力が手に入るわけないだろう苦笑した。…ないよね?
「それが、私も分からないのよね、それで手に入るのか」
あの説明が嘘かもしれないのよね、とマナは言った。誰かがイタズラで入れたのなら相当タチの悪い事だ
「それで、ここまで持ってくるとかいよいよ頭おかしいだろ」
「仕方ないでしょアルティメットスキルなんて、初めて見るんだもの」
「そういう意味ではないが、まぁそれはそう」
とりあえずそのスイッチを押してみた。
「……」
何も起きない
「…スゥ、悪いことは言わない、見なかったことにしてやるからギルドに渡そう。」
「アンタは見えてないでしょ」
「うるさいなぁ」
マナに冷静なツッコミを入れられると、なにかに気づいたような声を上げた
「ん?月宮、それちょっと見せて?」
僕はスイッチらしきものを渡し、少しするとマナは言葉を発した。
「…何か、取り付ける見たいなところがあるんだけど、これもしかして能力じゃなくて魔道具だったりしない…?」
「空間把握が?」
確かにそれはある。アルティメットスキルの詳細はほとんど明かされてなく、まだ未獲得のスキルもいくつかあるという。ちなみに空間把握もそれの1つだ
「仮にそうだとして、何に取り付けるんだ?」
「うーん、弓に1回つけちゃけば?」
「適当すぎだろ」
俺は弓使いだからってそれ専用の魔道具とは限らない、が
「でも、試してみる価値はあると思うけど?」
「まぁ、そうだな。」
そう言いながら、扉を開け1ヶ月以上触れていない弓を取り出した。
「あなた…よく見ないで物がどこにあるか分かるわね。」
「何年ここに住んでると思ってるんだ、それはそうと、どうやって付けるんだ?」
「…のり?」
「んなわけないだろ」
「だってわかんないじゃない!」
逆ギレするなよ、そう言いたかったがこれ以上争っていても意味が無いのでやめておく。
とりあえず、自分の弓にスイッチのものを近づけたが特に反応はなし
「……」
「マナ…悪いことは言わない、見なかったことにしてやるからギルドに渡そう。」
「何回そのくだりするのよ」
もう飽きたわ、と言われ少ししょんぼりしてしまったが僕が家を出てからだいぶ時間が進んでいる事に気づいた
「そういえば今何時だ?」
「そうね、今はもう8時を過ぎてるわ」
意外と時間が結構経ってしまったが、流石にこれ以上遅くなると女の子は危ないのでは?と思い始めた
「うーん、とりあえず今日は解散する?」
「そうね…また明日来るわ」
「うん、また明日」
そう言ってマナが帰りかけた瞬間あるものにつまずいた。
「痛っ!」
「大丈夫っマナ…ふふっ」
「笑ったわね、月宮!」
物につまずいて、地面に手が着くような音がしたので、そこまで派手に転んだのかと思ったが…下に手をやると、思い出のある物だと分かった
「まぁ、怪我がなくて安心したよ…これにつまずいたのか」
「ん?なにこれ」
「あー、これは確か2年前に亡くなったじいさんの弓だな、形見の様に思ってる。」
僕に弓の技術を教えてくれたのもじいさんのおかげだ。
「なんで見てないで物を当てられるのよ。」
「何年この家にいると思ってるんだ。それに、触ってるのならある程度は分かるよ」
「さすがね」
「このやり取りさっきもやった気がするんだが?」
「あんたが言わないでよ」
談笑をしながら懐かしく僕は干渉に浸っていた。そしてじいさんの弓を片付けようとしたら、その弓に窪みのような感触があった。
「これってなに、元から?それともマナが壊した?」
「そうだったらごめんだけど、さすがにもっと音が出るでしょ……これもしかして?」
いきなり、耳鳴りのようなすごい音が鳴った。
「おい、マナ!?何をしたんだ!」
「さ…さっきのスイッチを!そこにはめたの!」
あれから30秒は経った時、音は止んだ。
………近所迷惑を考えてほしい
「月宮…これ!」
カタッと音がなり僕の方に弓を差し出したのだろうか?
僕は手を前にやり、何かが僕の手に触れる。その瞬間
「!?」
「ど、どう!?」
僕は信じられなかった、今マナがどこにいるのかを感じ取ることが出来たのだから
「見える…とはいかなくてもマナがどこにいるのか分かる!」
「ホント!?」
「あぁ、本当に!」
感覚的で表しずらいが、体の輪郭に沿って何か光のようなものが動いている。僕は嬉しかった、これさえあればまた戦える、そう思ったのだから。
しかし、何故この能力を持った魔道具がじいさんの弓にだけ当てはまったのかが疑問に残っていた。
「…今あなたが言いたいことは分かるけど、それはおいおい解決していきましょ。」
そんなに表情に出てきたかと思ったが「そうだな」と返した。
「本当に…ありがとう、マナ!」
「お礼はユウトにもね?」
「ははっ、そうだね」
その後、僕達は家に帰り明日を迎える。