今、隣にいる優衣花。
 彼女は俺の幼なじみだった。

 保育園からずっと一緒。
 彼女は保育園でひとことも話さなかった。笑顔も少なめな女の子で。

 俺は不思議な子だなぁと思っていた。

 ある日、母さんと公園に行くと、優衣花が彼女のお母さんといた。

 めちゃくちゃ笑って、めちゃくちゃ喋っていた。保育園にいる時と雰囲気が違った。

「こんにちは」

 親同士で挨拶を交わしている。
 俺も、優衣花に「優衣花ちゃんだ」って話しかけてみたんだ。
 そしたら彼女は無言になって、こっちをただじっと見ているだけだった。

 俺と母さんは滑り台付近にいた彼女たちから離れて砂場のところへ行った。

「あの女の子、保育園でひとことも話さないんだよ。変だよね?」

 俺は優衣花を指さしながらそう言った。
 母さんはじっと、優衣花を見る。

「きっと保育園ではお話するのが苦手なのかな? 桃李にも得意なことと苦手なことがあるでしょ? 別に変じゃないとお母さんは思うな。もしもあの子が困ってたりしたら桃李、助けてあげればいんじゃない?」

 言葉が心の中に、すとんと入ってきた。

 母さんのその言葉をずっと覚えていて、高校生になった今ではその言葉の意味がよく分かる。

 ちなみに俺の得意なことは、細かい作業を黙々とやるのが好き。
 苦手なことは……何でも出来ると思うから、特に思いつかないかも。