幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。

 クラン『銀朱の蒼穹』の遠距離会議が始まった。

【ソラくん。こちらのグレイストール領はやはり黒で間違いないよ。まず王都方面からの物資が、こちらには全く流れていない。隣国のエリア共和国とミルダン王国の物資ばかり流れて来ているから、ゼラリオン王国と戦いになっても、物資が途切れる事がないようにしているね】

【なるほど……レボルシオン領からも食材を購入する動きはないみたいですからね】

【ええ。隣国のエリア共和国から仕入れる食材が大半だったね】

【でも、今のままでハレイン様がゼラリオン王国に勝てる見込みはあるんですかね?】

【今のところはないわね。ただ、一つだけ方法ならあるわ】

【一つだけ?】

 ソラとシヤの言葉を聞いていたクランメンバー全員が息を呑む。

【ええ、単純だけど、隣国のミルダン王国と手を組んで王国を攻める事。それにエリア共和国からも援助を貰う事だね】

【!? 戦争でゼラリオン王国に勝った場合、ミルダン王国近くの領地を渡す……という事ですね?】

【ええ。ゼラリオン王国とミルダン王国が面している地域――――ゼラリオン王国の西領地にはインペリアルナイトの一人であるジェローム様の領地で、その中の領都周辺からは、上質な『肉』が取れるわ。きっとその土地が目的でしょうね】

 ジェロームが治めている領都周囲からは、ボア肉ではなく、ルクという鳥型魔物から鳥肉が取れる。これを通称ルク肉と言う。

 ルク肉の名産地として有名な領地であり、そこから更に北に進んだ山からは、厄介な魔物が多いがその中のフロアボスであるグリフォンは、最上級の鳥肉である。

【ゼラリオン王国の東のボア肉の名産地、西のルク肉の名産地が目当て……なのは間違いなさそうですね。このままゼラリオン王国と戦争になり、仮にハレイン様が勝利した際に、レボルシオン領から先は敵対しない(・・・)という考えなのでしょうね】

【ええ。ハレイン様に会った事はないけれど、王都から東側の土地を『銀朱の蒼穹』に渡したのは、ハレイン様の作戦だと思う。全ては、この戦争を見越しての事なのだろうね】

【分かりました。現状、ハレイン様に味方するか、ゼラリオン王国に味方するかは決めていませんが、受けた仕事はこなしたいと思います。シヤさん達は予定通り、そのまま実証を手に入れてください】

【了解】

 会議を終えたシヤ達は、予定通りに動く為、ルリとルナが闇に紛れる為、宿屋から姿を消した。



 ◇



 宿屋を出たルリとルナが真っ先に向かったのは、領都の城近くだ。

 二人の能力は既にインペリアルナイトと同等になっている。

 正面から戦う事は無理だが、インペリアルナイトの外から気配を感じるには十分に強くなっているのだ。

 二人は街にいる強者を探し周り始める。

 最上級職能である『アサシンロード』と転職士のスキル『ユニオン』によるスキル効果上昇も相まって、二人は既に『アサシンロード』のレベルが最大の力をも越えている。

 余程近づかなければ、ビズリオにわざと(・・・)見つかる事などないのだ。

 さらに二人には隠密行動でも、ずば抜けて強いスキルがあった。

 スキル『ユニオン』による――――念話である。

【ルナ、街の西側は一通り見回ったけど、強者はいなかった】

【うん! 東側にもいなかったね。後はお城かな】

【遠くても強い気配が感じられる……恐らくインペリアルナイトだろうね】

【そうね。私は城の東側を探ってみるね】

【わかった。俺はそのまま西側を探るよ】

 二人は決して誰にも見つけられない闇に紛れ、ハレインが治めているお城に潜入した。



 ルリが最初に向かった西側は、兵隊施設が並んでいて、そこから地下に続く地下牢などがある。

 兵士の中でも強い者が複数人見られたが、ルリを見つけられる者は存在していない。

 ルリはそのまま地下牢を見回るが、まだグレイストール領が発足して間もないので、それ程多くの人が捕まっている訳ではなかった。

(…………ん? 珍しい気配だな?)

 ルリは地下牢の奥で、珍しい気配を感じる。

 廊下に並んだ松明(たいまつ)でさえ、ルリを照らす事は出来ず、音もなく奥に向かった。

(なるほど。噂に聞いていたゼラリオン王国の監視員だな?)

 ゼラリオン王国からグレイストール領の監視を命じられたはずの騎士が一人、瞑想しながら牢の中に鎮座している。

 彼はゆっくり目を開ける。

「…………誰かいるのか?」

 決して地下牢に響かせない小さな声で、疑問を口にする騎士。

 その時。

「はい。私はとある方の命で、現状を確認に来ました」

「そうか。ここまで忍び来れたという事は、相当の腕があるのだろう。俺は王国の騎士の一人イグニ・セイオロンという。ハレインが反旗を翻そうとしている事を王国に伝えようとしたのだが、こうして捕まってしまってね」

「そうでしたか、かしこまりました。その件は私が伝えましょう」

「それは助かる。出来るだけ早く伝えて欲しい。このままではハレインがどんどん力を付けてしまう」

「はい。しかし、このままハレインがゼラリオン王国に勝てる見込みはあるのですか?」

「ああ。街を牛耳っている商会を調べてみるといい。全部隣国と繋がっている商会ばかりだ。ゼラリオン王国との接点は全くないはずだ」

「分かりました。このまま街も調べてから王国に戻る事にします」

「頼む」

 地下牢に再び静寂が包まれる。

「…………頼むぞ。どうかハレインを止めてくれ」

 男の小さな声が誰も聞こえない地下牢に空しく響いた。
 ルリが地下牢に向かっていた頃、ルナは――――。

 ガチャッ

 部屋の大きな窓の鍵が開く音が聞こえる。

 小さく開かれた窓の中に一つの影が入り込む。

 直後に部屋の中からは凄まじい殺気が溢れた。

「初めまして、グレイストール様でございますね?」

 影から現れた小柄の者を睨む男は、その手に愛剣を握っている。

「貴様は誰だ?」

「はっ、私は諜報を得意とする集団『シュルト』の一員、『シュベスタ』と申します」

「『シュベスタ』…………それで? その『シュルト』とやらはどうして俺に?」

「我が主は、此度の戦争(・・)を見ておりました。この先どちらに付くべきか悩んだ結果でございます」

「ほぉ……貴様ほどの者が仕えている者とは」

「はっ。『シュルト』の首領は『ヒンメル』と申します」

「……聞いた事はないが、貴様の能力は確かなモノだな」

 現に、窓に近づくまで気付けなかったハレインは、小さく冷や汗をかいていた。

 まさか――――インペリアルナイトである自分がここまで近づくまで気付かない相手がいる事に、少し安心(・・)してしまう。

「私はこの街の地下(・・)におりますので、いつでもこの『シュベスタ』に声を掛けてくださいませ」

「……分かった」

「これから良い関係を築きたいとの首領からの言葉です」

 そう言い残した小柄の影は、その部屋から消え去った。

 ほんの少し開いた窓は、元々開いてなどいないと言わんばかりに元通りになっている。

「…………『シュルト』に『シュベスタ』か、あんな化け物が王国で仕えているとは聞いた事はないな……つまり、俺にも運気が回ったという事か…………」

 その時、部屋の扉からノックの音が聞こえた。

「入れ」

 扉が開き、執事が一人足早に入って来ては、ハレインの耳元に呟いた。

「…………ほぉ、王国もバカではなかったか。そう言えば、丁度良いタイミングだな。地下(・・)に『シュベスタ』という小柄なモノに彼奴の始末を依頼しろ」

「はっ」

 執事はまた足早にハレインの部屋を後にする。

「さて、『シュルト』とやらの力を見せて貰おうか」



 ◇



 宿屋で待っていたシヤの下に、ルリとルナが帰って来た。

「おかえり」

「「ただいま」」

「どうだった?」

「俺の方は、騎士イグニに接触出来て、確証を得られたよ」

「私の方は、無事ハレイン様に接触出来たよ」

「順調だね。では、直ぐに動くはずだから、明日が楽しみだね」

「うん!」

「短いけど、休もうか。休まないとソラくんに怒られてしまうからね」

 ルリとルナが苦笑いを浮かべる。

 二人はずっと働けると言っても、マスターであるソラは決して聞いてはくれない。

 しかも、意外とそういう所だけは妙に勘が鋭いソラなので、休まず働くと何故かすぐバレるのだ。

 三人はそのまま眠る事にした。



「…………えっと、俺はソファでいいと思うんだけど?」

「「駄目!」」

 宿屋で最も大きいベッドの部屋のため、三人がベッドに横たわっても余裕があるベッド。

 真ん中にルリを置いて、左右にシヤとルナが横たわる。

 ルリが逃げられないように、二人が腕に絡んで離してくれず、ルリは苦笑いを浮かべ、眠りに付いた。



 ◇



 次の日。

 グレイストール領都シサリの地下にある闇の者達が巣くう地下街。

 その一角に、彼らをまとめているボス部屋。

「しゅ、シュベスタ様! こ、こちらに手紙が届いております……」

 大きな身体のボスは、一枚の手紙をテーブルに差し出して、ソファに優雅に座っている小柄の女性に震え上がっている。

「ご苦労様。こちらは報酬です。これからも頼みましたよ?」

「は、はい! あ、ありがたき幸せ!」

 金貨が入った袋を持ったボスは安堵の息を吐き、部屋から逃げるように外に出た。

 ルナは手にした手紙を読み始める。

 そして、小さく笑みを浮かべた。



 ◇



 ルナが手紙を受け取ってから、半日後。

 ガチャッ

 ハレインが睨んでいる部屋に、『シュベスタ』が現れる。

「お待たせしました、ハレイン様」

「ふむ。それが例の男の正体か?」

「はっ。胴体は既に燃やしておりますので」

 そう話す『シュベスタ』は、持っていた布袋をゆっくりハレインに手渡す。

 この時間もハレインが油断する事はないが、『シュベスタ』は一瞬で首が飛ぶ距離でも、決して敵意は見せず、そっと渡し離れて窓際に移動する。

 ハレインは『シュベスタ』が一瞬で詰められない距離に行って、初めて布袋の中身を確認する。

「こいつは…………王都め、いよいよこういう手まで使ったか」

「失礼だとは思いますが、その男の正体をご存知で?」

「ああ、こいつはゼラリオン王国の王都の盗賊ギルドを仕切っていた男だ。強くはないが、こういう隠れる事は得意だったが…………時期的に考えればジェロームではなく、ビズリオの奴か」

「…………」

「シュベスタ、よくやった。報酬は何が欲しい」

「はっ、素材でお願い致します」

「ふむ。現金はいらないのだな――――――あれをくれてやろう。これからもこのハレインの為に働くがよい」

 そう話すハレインは、本棚の奥から金庫のようなモノを取り出し、中を開ける。

 ルナは内心、このハレインはこのタイプの隠し庫が好きなんだなと思うが、決して表情には出さない。

 ハレインは中から一つの宝石を取り出し、『シュベスタ』に向かって緩く投げる。

 『シュベスタ』の手に届いた宝石は、美しく光り輝く真っ白な宝石だった。

「これ程のモノを?」

「ああ、先行投資だ」

「かしこまりました。我が主もきっとお喜びになります。私は日に一度地下に参りますので、今回同様いつでも呼んでくださいませ」

「ああ」

 そして、また闇に紛れた『シュベスタ』が、部屋から消え去った。


「くっくっくっくっ、くはーはははは! 王め、これで諜報員はもういない、となるとこのまま我々が力を付けば、あとすぐだ! 待っていろ…………その首、この手で切り落としてやろう」

 ハレインの声が部屋中に響き渡っていた。

 まさか――――シュベスタがまだ聞いていたとも思わずに。
 ゼラリオン王国の王都宿屋。

 ルリくん達から、現状の報告連絡が来た。

 ミリシャさんの予想通りになって、ルナちゃんとシヤさんはそのままグレイストール領都に、ルリくんは急いでこちらに向かって来ているとの事だ。

 ルナちゃんから報酬で、白い宝石を貰ったそうで、ミリシャさんが怪しい笑みを浮かべていた。

 報告を受けて、特に変わる事はなく、このまま俺達のコボルトの森に引き込む事は変わらない。

 ただ、一つ変わった事と言えば――――

「ソラ様!」

 コボルトの森に入ると、俺達を待っていてくれたのは、六十人の子供達だ。

「カーターくん。今日もありがとう」

「い、いいえ! とても光栄です!」

 カーターくんは彼らを代表して答える。みんなも笑顔で応えてくれる。

 彼らは、王都の盗賊ギルドを掌握してから、仲間になって貰った孤児達の狩りメンバーである。

 実は、盗賊ギルドに関わっている孤児達は全員で五百人を超える。

 その中でも、十歳を越えていて、尚且つ戦闘に興味がある子達でパーティーを組ませて、冒険者として活動して貰う事にしたのだ。

 ただ、冒険者と言っても、ずっと僕に経験値を送っているので、サブ職能だけレベルが上がり、メイン職能はほぼ常に1に近い。

 なので周りの目を気にせず、六人ずつパーティーを組み、同じフロアで狩りを行ってくれている。

 彼らもここ数日で随分と慣れたようで、コボルトの森で戦えるくらい強くなっていた。

 ここ最近、毎日俺達と一緒にコボルトの森に籠って、俺のレベル上げを加速させてくれているのだ。

 その中のカーターくんは、レボルシオン領で頑張っている弐式のリーダーであるメイリちゃんと同等の指揮力があり、王都孤児達を纏めた『銀朱の蒼穹・()式』のリーダーになってくれている。

「では、みんな、本日も油断せずに、何かあったらすぐにフォローし合うように!」

「「「「はい!」」」」

「よろしく!」

「「「「はい!」」」」

 肆式がすぐにコボルトの森に広がる。

 中々壮観な景色だ。

 俺達もいつものペアに分かれて、レベル上げを勤しんだ。



 ◇



 次の日。

 ガチャッ

 部屋に響く窓が開く音が響き、部屋の主は自らの愛剣に手をかざす。

「初めまして、ビズリオ様。わたくしは『シュルト』の一員、『ブルーダー』と申します」

 ビズリオの前に影から現れた人物は、今まで何度か出会った『シュベスタ』にどこか似た雰囲気をかもしだしていた。

 この時のビズリオは、心底驚いていた。

 そもそも『シュベスタ』は、希代の暗殺者であると、初めて見た時からずっと思っていた。

 なのに。

 いま目の前にいる男と思われる者もまた希代の暗殺者に見える。

 そんな事があり得るのだろうかと、彼に答える事も忘れず、心を落ち着かせようとする。

「『ブルーダー』か。『シュベスタ』の仲間だな?」

「はっ、先日の依頼の件で、わたくしが代理に」

「そうか。進展があったからという事か」

「はっ、物証は持って来られませんでしたが、一つは街の商会が全て隣国からの輸入をしている商会ばかりでした。さらにわたくしが領都の城を探っていた時、一人の騎士を見つけました」

「一人の騎士?」

「はっ、彼は自分を、イグニ・セイオロンと名乗り出ていました」

「やはりイグニ殿は捕まっていたのか……」

「特に外傷はありませんでした。ただ捕まっているという雰囲気でした」

「そうか。それだけで十分な物証だ。感謝する」

「はっ、盗賊ギルドでお待ちしておりますので、必要あらば、いつでも声を掛けてくださいませ」

「ああ」

 『ブルーダー』は『シュベスタ』同様、部屋から消え去る。





「…………希代の暗殺者が二人だと!?」

 ビズリオは目の前の机を激しく叩いた。

 その衝撃に、机は半分に割れてしまう。

「ありえるのか!? あんな暗殺者を二人も抱えて…………二人いるという事は…………三人目がいても不思議ではない。『シュルト』め…………これ程の戦力だったとは…………」

 一人なら、ビズリオ一人で何とか対応出来るだろう。

 だが、あれが同じ強さを持ったもう一人がいるとなると、自分ですら暗殺(・・)されかねない。

 それは考え方によっては、最強の味方ではなく、最悪の敵になりえる。

 本来なら相手より高い力量で話し合うからまともな商談になるのだが、これではそれが難しくなってしまう。

 ビズリオは現状の事を王に報告する事を決めた。



 ◇



「ルリくん、おかえり。そして、お疲れ様」

「ソラ兄さん、みんな、ただいま」

「「「おかえり~!」」」

 宿屋の食堂に集まった俺達の所に帰って来たルリくん。

 今朝帰って来て、そのままビズリオ様の下に行って来たルリくんは、来る間十分休んだと、そのままコボルトの森に付いて来たいという。

 出来れば休んで欲しいんだけどな…………みんなも頑張っているから、俺も頑張りたいとルリくんは言うけど、十分頑張ってくれている。

 ただ、一人で宿屋で休んでいても寂しいかも知れないからね。

 俺達は食事を終え、コボルトの森に到着した。

 ルリくんと会ったカーターくんは目を輝かせて喜んだ。

 肆式はみんなルリくんが大好きだからね。

 いつもよりやる気に満ちた肆式が、とても頼もしかった。

 俺達も狩りを始め、ルリくんの相棒をどうしようかなと思ったら、一人の方が動きやすいとの事で、仕方なく了承すると、ルリくんが闇に消え去った。

 慣れたようで、あんなに綺麗に消えるんだなと感心する。

 インペリアルナイトに会いに行けるくらいの実力があるのは、やっぱり凄い事なのかも知れないね。

 そして、何故かルリくんが帰って来ただけで、コボルトの森から得られる経験値が倍増したのは、とても不思議に思えた。
 両街にて『シュルト』の活動の日から数日。

 グレイストール領の件も調べが終わり、ハレイン様の信用も取れたので、ルナちゃんとシヤさんも王都に帰って来て貰った。

 シヤさんの活躍でハレイン様がゼラリオン王国と戦争を仕掛けるのが、半年後という事まで調べが付いた。

 既にビズリオ様にもその事は伝えており、ゼラリオン王国はグレイストール領を主軸にした連合軍との戦争が刻々と間近と迫っている。

 俺達は期限まで出来る限りレベルを上げたいので、惜しみなく休みもコボルトの森で俺のレベルを上げる為に日々勤しんだ。

 弐式や参式も、出来る限りボア肉の狩りが終わったら、レベルを上げる事に勤しんでくれている。

 『銀朱の蒼穹』が今まで以上に力を上げて、俺の為に頑張ってくれている。

 それも…………いずれ来るであろう、戦いの日の為に。



 数日後。

 今日も連日訪れているコボルトの森にやって来た。

 朝入り口でみんなで集まって、朝礼のような何かを行って、みんな散って狩りをするのが毎日の日課になっている。

 しかし、今日は散る前にいつも上空で見守ってくれているルーが俺の前まで降りて来た。

 ミャァァァ

 少し元気のない鳴き声で、何かを訴えて来た。

 ラビが直ぐにルーに近づき、よしよしをしてあげたので、俺も一緒に頭を撫でてあげる。

 気持ちよさそうな声を出してくれるけど、どこか寂しそう?

「ソラ、どうしたの?」

「ん~、ルーから少し寂しそうな感情が伝わって来てさ」

「ルーちゃんから? どうしたんだろう?」

 フィリアも心配そうに見つめ、散る前という事もあり、みんな心配そうにルーを見つめる。

 その時、ラビが空中で何かを訴えて来た。

「えっと? 両手で……それはパンチかい?」

「ぷぅ!」

 ラビは左右に移動しながら、パンチを繰り出している。

 一体何が言いたいのか、さっぱり分からない。

 ただ、召喚獣の感情が伝わってくるので、今のラビの感情は、戦いに奮え立つ感情が伝わって来る。

「何かと戦いたい?」

「ぷうぷう!」

 顔を横に振ったラビは、今度はパンチを繰り出したら、両手を合わせて「ぷうぷう」と声を出して、「ぷぅー!」と万歳をする。

 うん。

 全然伝わってこない。

 可愛いけど、さっぱり分からないや……。

「えっと、ラビ? ごめんね、全然分からないや……」

 すると今度は、ラビがルーの所に行き、両手をぐるぐる回して、そのまま俺に飛んできてぶつかる。
 
 ぶつかったラビは今度は万歳をする。

「ん? ルーが何かしてくれるの?」

「ぷう! ぷう!」

 それだよそれ! と言わんばかりに、必死に首を上下に動かすラビ。

 ルーもどこか嬉しそうな声をあげる。

「ソラくん」

「ミリシャさん? どうしました?」


「ルーちゃんはもしかしたら、みんなに魔法を掛けてあげたいんじゃないかな?」


 すると、ラビが全力で頭を上下にして、嬉しそうにぷうぷうと声をあげる。

「魔法を掛けてくれる? 気付かなくてごめんな、ルー。えっと、もし俺達に何かしてくれるなら、俺としてはとても嬉しいかな? 俺達の為になるなら、ルーが好きなようにしてくれていいよ?」

 ミャアアアアア!

 大きく声を上げるルー。

 とても嬉しい感情が伝わって来る。

 そして、ルーから眩い光が灯る。

 光は俺達だけでなく、肆式のみんなにも行き渡った。

「ん!? 身体が凄く軽い?」

「もしかして、能力上昇魔法かも知れないわ」

「能力上昇魔法!?」

「ええ。ソラくんも知っているように付与術師が味方に能力上昇魔法が使えるのは知っているわね?」

「はい。ですけど、俺が知っている能力上昇魔法が微々たるもので、こんなに身が軽くなったり、強くなった感覚さえ乏しかったんですけど……」

 実は召喚士のレベルを上げる前に、真っ先にレベルを上げたのが、付与術師だった。

 付与魔法が便利だと思っていたけど、いざレベル5くらいまで上げても大した能力上昇魔法は覚えられなかった。

 レベル7になると、武器に属性を載せられる魔法を覚え始めるらしいけど、それまでに長かったので、先に召喚士を上げていたら、思いのほかラビが強くて、そのままレベル10まで上げてみようとの話になったのだ。

「ルーちゃんは魔法使いの中でも上位クラスの魔法を操るわ。もしかしたらこの能力上昇魔法もそうかも。それに、ソラくんの力が相まって、ものすごい効果を出しているのかも知れないわ」

 ミャアアアアア~

 ルーと嬉しそうに応えてくれる。

「ルー! ありがとうな! 少し大変かも知れないけど、これからもこの能力上昇魔法をみんなに掛けてあげて!」

 ミャアアア!

 嬉しそうなルーの隣に、ラビも飛んで行き、二人で大喜びだった。


「それにしても、どうしてわざわざ俺に聞いたんでしょう?」

「ソラくん…………召喚獣って、基本的には召喚士の命令しか聞かないわ。寧ろラビちゃんがあんなに知能を持っている事が不思議なくらいよ。ルーちゃんもラビちゃん以上に知能を持っているはずなの。だからずっともどかしく思っていたと思うよ」

「そっか…………ラビ! ルー! これから俺達のためになると判断したら、迷わずやってくれていいからね! それが俺達の力になるんだから!」

 こうして、思わぬ収穫があり、この日からルーの能力上昇魔法で全体強化が出来た。

 ものすごい効果があって、筋力や速度はもちろん、スキルを使用した時の精神力も全然減る気配がなかった。

 名前は良く分からないので、取り敢えず『万能能力上昇魔法』と名付けた。




 その日から、三か月。

 遂にその日がやって来た。

 - 職能『転職士』のレベルが8に上がりました。-

 - 新たにスキル――――――――
 - 職能『転職士』のレベルが8に上がりました。-

 - 新たにスキル『セカンドキャリア』を獲得しました。-

 - 新たにスキル『エボリューション』を獲得しました。-


 『セカンドキャリア』

 スキル『キャリア』が『上級キャリア』にランクアップする。

 能力進化①。

 設定したサブ職能はメイン職能の獲得経験値と等倍の獲得率で獲得出来る。(メイン経験値10を獲得した場合、サブ経験値は10となる、デメリットはない)。転職士自身にも適応する。

 能力進化②。

 設定したサブ職能の本来のステータスが、現在のメイン職能のステータスより高い場合、ステータスが高い方に入れ替わる。

 各ステータスの詳細は体力、精神力、力、素早さ、魔力、耐性の計六つ。


 『エボリューション』

 スキル『中級職能転職』が『上級職能転職』にランクアップする。

 スキル『上級キャリア』にも適応する。



「れ、レベルが上がった!!」

 俺が声を上げると、その場にいたフィリアはもちろん、念話が通じた全ての『銀朱の蒼穹』のメンバーが歓声を上げた。

 弐式、参式、肆式にはまた追って詳細を伝えると言い、本日と明日は全員休日にした。



 ◇



「さて…………ソラくんの『転職士』も遂にレベル8だね」

 ミリシャさんの言葉に、メンバー全員が頷く。

「ソラくん、どんなとんでもないスキルを獲得したのか、教えて貰えるかな?」

「ええ、まだ俺も詳細を掴めている訳ではありませんが、前回と同等――――いや、それ以上かも知れません。うん。それ以上ですね、きっと」

 俺の言葉に、全員が息を呑んで、期待の眼差しで俺を見つめる。

「今回は二つ獲得して、一つ目が、スキル『キャリア』が進化しました。名前は『上級キャリア』で、今までサブ職能が得ていた経験値が倍になり、メイン職能と等倍になります」

 ルナちゃんは、それが凄いの? みたいな表情をしていて可愛い。

 確かにこれだけ見れば、ただ経験値獲得率が上がっただけに見える。

「『上級キャリア』の真価はここからです。今まで設定していたサブ職能は、あくまでスキルのみ使用可能でした…………が、今度からは、メイン職能とサブ職能で各ステータスで高い方がステータスに反映されるそうです」

「「「「ええええええ!?」」」」

 全員が驚いた。

「つまり、メイン職能を回復士にして、サブ職能を武闘家にしていると、体力と力、素早さは武闘家のモノに、精神力と魔力は回復士のモノになるという事ね!?」

「はい。ただ、スキルの詳細を汲み取りますと、高い()に入れ替わるとされていますので…………」

「レベル1になっても…………」

「はい。恐らくですが、メイン職能がレベル1になった場合、高レベルのサブ職能を付けておくと、そのステータスが使えるはずです」

 みんなもそうだけど、それ以上にミリシャさんは顔を白くして驚いてしまう。

 実は、今ですらサブ職能を武闘家レベル9にしていると、レベル1になっても筋力増強スキルですぐに戦えるほどだ。

 それが無くても今まで蓄積された経験もあり、肆式はレベル1になってもコボルトの群れと戦えている。

 なのに、これから全員が高レベルのサブ職能のステータスのまま、狩りが出来てしまうのは、とんでもなくアドバンテージになるはずだ。

 それに…………ここで『上級キャリア』に進化したのには理由がある。

「みんな、驚くのはまだ早いよ」

 俺の言葉に、またもやみんなが息を呑む。

「どうして、このタイミングで『上級キャリア』なのか…………それは二つ目のスキル『エボリューション』にあるんだ」

「名前の響き的には、前回のユニオンみたいな特殊スキルっぽいけど~」

「フィリア、残念ながら、これも進化(・・)スキルなんだ」

「へえー! 何が進化したの?」

「それは――――――――今まで転職は中級職能までしか出来なかったよね?」

「えっ? う、うん」

 フィリアが答える横で、ミリシャさんは顔が真っ青になって、耳を塞いだ。

「なんと、これから――――上級職能に転職出来るようになりました!」

 宿屋に集まった俺達だけでなく、弐式、参式、肆式のみんなも大盛り上がりを見せた。



 その傍ら、ミリシャさんだけは「とんでもない事に……どうしたらいいの……」と気を失った。





 ①聖職者

 上級職能の中でも、最も貴重な職能。

 中級職能『回復士』の上位職。

 特殊職能『神官』よりも、回復と光攻撃魔法に特化した職能。

 範囲回復魔法まで使える為、多くの負傷者が出た場合、重宝される職能である。


 ②魔導士

 中級職能『魔法使い』の上位職。

 広範囲攻撃魔法が使えるようになり、スキル『詠唱破棄』が非常に優秀な職能。

 殲滅力は基本職能の中で最強。


 ③上級騎士

 中級職能『騎士』の上位職。

 全ての武器を使えるマルチ職能であり、全体的に高ステータスである。


 ④上級弓士

 中級職能『弓士』の上位職。

 スキル『無限矢』が使えるようになる職、矢の強度は木の矢ほどしかないが、精神力を一切使わずに使える特殊な魔法の矢である。

 撃てる距離が『弓士』より二倍と長くなっている。


 ⑤アサシン

 中級職能『ローグ』の上位職。

 『ローグ』よりも、さらに戦闘能力が特化し、暗殺向きのスキルを獲得出来る。


 ⑥剣闘士

 中級職能『闘士』の上位職。

 『闘士』の完全上位互換。体力と力のステータスは上位職の中でも最強。


 ⑦拳法家

 中級職能『武道家』の上位職。

 スキル『連撃』が使えるようになり、連続攻撃に対する効果が上昇する。

 特殊ステータス『反応素早さ』を獲得でき、戦闘中のあらゆる場面の反応力が上がる。


 ⑧精霊騎士

 中級職能『付与術師』の上位職。

 『付与術』から『精霊付与術』に進化する。

 精霊を呼び出し、あらゆる効果をもたらす事が出来る。

 精霊は一体に付き、一人にしか付けられない。





――――後書き――――

 日頃『幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。』を愛読して頂き、心から感謝申し上げます!

 本日、無事100話目を迎える事が出来ました!

 いや~! 長かったようで、短かったような日々でした!

 御峰の足りない表現力と構想力で、もっと面白く出来たはずなのにと思う部分も多々ありました。
 そればかりは、反省しつつ、これからの作品にいかせたらなと思います。


 さて、元々はゆるゆると進める予定だったこの作品も、戦争モノになりつつ、主人公の活躍があまりないままここまで来てしまいましたね…………全ては100話からの為です!(ほ、本当です!)

 この世界では上級職能だけでも、国がひっくり返るくらい凄いんです(帝国で上級騎士5人失ってしますが、とんでもない損害だったりしますが、帝国が圧倒的に強いのでそうでもなかったり……)
 ですので! ソラくん達がこれから無双する為の日々が始まりそうな予感がして来ましたね!

 ここからソラくん達の最強に至る様をぜひ楽しみにしてください!
 上級職能に転職出来るようになった日。

 俺の言葉にミリシャさんはつい気を失う事となり、ミリシャさんとカール以外はものすごく盛り上がり、宴会となった。

 出来れば、レボルシオン領に集まって、みんなで祝いたいけど、往復出来る距離じゃないからね。

 みんなで宴会をしながら、俺は自分のサブ職能をどうしたらいいか、悩んでいた。

 『召喚士』を出来ればレベル最大まで上げたいんだけど、出来れば上級職能もレベルを上げたい。

 既に実証したのは、ラビとルーを召喚したまま、サブ職能を転職させても、召喚しているラビとルーはそのまま残せる事までは確認出来た。

 また召喚で呼ぶには、一度『召喚士』に戻さないといけないけど、大した手間ではない。

 それはともかく、俺達は宴会を楽しんだ。



 次の日。

 げっそりしたミリシャさんが、まだ顔が真っ青なまま部屋に入って来た。

「ミリシャ姉……大丈夫?」

「う、うぅ…………だ、だいじょ…………」

 全然大丈夫じゃなさそう。

「ミリシャ姉、上級職能に転職出来るってそんなに凄いの?」

「…………弐式から肆式まで……千人を超えているわ…………『魔導士』千人……と言えば分かるかしら」

「あ~、それは凄そうだね~」

「す、凄いってもんじゃないわ…………王国が……世界が滅ぶわよ」

 いやいや、滅びるまではしないと思うけど……。

「ミリシャさん。ではその力を正しい(・・・)方向に導いてください。ミリシャさんは『銀朱の蒼穹』の『指揮官』ですから!」

「え、ええ……そうね……私がしっかりすれば……大丈夫よね……」

 ちょっとだけ元気が出たみたいだけど、何となくミリシャさんの負担が凄まじそうだ。

「では、さっそく弐式と参式と肆式の転職を済ませるね!」

「ソラ、頑張って!」

「俺は暫くここで転職の作業に入るから、みんなは自由にしてきて~多分夕方くらいには終わると思うから」

 メンバー全員が頷いて、それぞれ休みの日を過ごしに出掛けた。

 ミリシャさんとカールだけは、一緒に部屋の中で過ごすけどね。

 転職はスキル『ユニオン』でどこからでも出来るので、まず全員をそのまま上位職能に引き上げて、サブ職能は一旦そのままにする。

 予定としては、全員レベルを8にして、サブ職能を変えてサブ職能を9まで上げる予定だ。

 それが予定より早く終わった場合は、『Aランクダンジョン』でレベルを9にするかも知れない。

 それは残った時間次第だが、出来れば多くのメンバーを9にしてあげたいよね。

 ミリシャさんが言ったように、上級職能持ちが千人並ぶとどうなるんだろうか…………いつか『魔導士』にして、『Aランクダンジョン』でレベルをあげる日も来たりして…………まあ、そこは『指揮官』のミリシャさんに任せるとして、俺はみんなの職能を上位職に繰り上げる作業に勤しんだ。



 夕方。

「やっと終わった~」

「お疲れ様、ソラ。はい」

 フィリアが持って来てくれた甘い果実水を飲み込む。

「ふぅ……仕事した後の飲み物は美味しいね~」

 ミリシャさんが覚悟を決めたかのように、俺の前にやってきた。

「ソラくん。こうなったら、寧ろ割り切って『銀朱の蒼穹』を全力で動かしましょう?」

「ミリシャさん? 全力で動かすってどういう事ですか?」

「今は戦争が起きる事が確定しているから、一旦全員レベルを上げられるだけ上げて、戦いに備えましょう。弐式、参式、肆式、みんなもきっと()と戦えるはずだから」

「…………戦争に加担するという事ですか?」

「加担はしないけど、傭兵にはなるわ」

「傭兵?」

「ええ。戦争が起こると、各国というか、各陣営が傭兵を雇う場合があるの。その時に『シュルト』として、みんなの顔を隠して参戦すれば、『銀朱の蒼穹』としては参戦していないからバレないと思うの」

「なる……ほど?」

「既に両方のトップに『シュルト』の力は納得して貰ってるから、傭兵として雇って貰うのも簡単なはずよ。『シュルト』として参戦するメンバー全員をアサシンと魔導士にすれば、意外にもバレないかも知れないわ」

 ミリシャさんの構想が何となく理解できた気がする。

 元々暗殺集団として向こうには認識されているはずの『シュルト』。

 そんな集団だからこそ、同じ職能で揃えた人材を揃えていると思わせる。

 アサシンを増やして、暗殺をさせつつ、魔導士で殲滅をさせる。

 それだけで、『シュルト』としての強みを売り込めると思う。

「ミリシャさん。その案で通しましょう! 出来れば、『シュルト』にも所属するメンバーを募集しなくちゃ」

「それは私がやるわ。この場合、あまり多くても困るもの……それに、実は既に宛はあるの」

「え? もう!?」

「ええ。肆式のみんなよ。彼らはルリくんと仲良いし、ルリくんに続きたいとずっと言っていたからね」

「えっ!? 全然知りませんでした……」

「ふふっ、彼らにとって、ソラくんは神にも等しいからね」

「神!?」

「シヤちゃんや彼らを救ったのは他ならぬソラくんだよ? だからソラくんの為なら何でもしてくれると思う。それは弐式も参式も一緒ね。せっかくだから弐式からも数人誘ってみるかな~」

 俺が知らないうちに、『銀朱の蒼穹』がそんな事になっているみたい。

 フィリアは既に知っていたみたいで、隣でニヤニヤしている。



 次の日からまたコボルトの森でレベルを上げる日々が始まった。

 それから一か月狩りを続け、全員がメイン職能レベル8、サブ職能レベルも8まで上がって行った。

 俺はというと、みんなから経験値を貰っていないので、メイン職能はそのまま8で、サブ職能は精霊騎士をレベル8まで上げた。
「ソラくん。諜報隊からの連絡だけど、グレイストール領が本格的に動いたそうね」

「意外と早かったですね」

「ええ。あと一か月って所みたい」

「分かりました。では、俺達もこれから『Aランクダンジョン』に潜りましょう」

「ええ。肆式のみんなは、例の作戦で行きましょう」

 本日から『Aランクダンジョン』に潜る事になった。


 一度、孤児達が過ごしている一帯の近くに来ると、影に同化している肆式のみんなが、俺達の影に入って来た。

 既にレベル8ともなれば、綺麗に隠れられるね。

 これなら余程の強者じゃないと、まず気付かなさそうだね。

 そして、俺達は『Aランクダンジョン』の入口に向かった。



 …………どうしてだろう。

 待ってましたと言わんばかりに、『亡者の墓』でも会ったパーティーと鉢合わせになった。

「ほぉ…………」

 そのリーダーさんが唸り声をあげる。

「あ、あはは……こ、こんにちは」

「今日からここに移すのだな?」

「え、ええ。頑張ってレベル9を目指します」

「9か…………うむ。精進するといい。それと一つ言っておくと、現在ここで狩りを行っているパーティーはいない。自由にするといいだろう」

「えっ? は、はい。ありがとうございます」

 これは…………絶対バレているよね…………。

 強者にはさすがに隠し通せないし、寧ろますます怪しいよね。

 でも見つかってしまったからには、仕方ないから、広めないでくれる事を祈りながら、俺達は『Aランクダンジョン』に入って行った。





「ふふふっ、例の転職士は特別だったという事だな」

「ん? リーダー、どうしたの?」

「いや、何でもない。みんなも彼らをよく覚えておくことだ」

「確かに数か月でここまで来れたのは凄いけど…………強そうには見えないけど?」

「まだ修行が足りんな、あれは――――――化け物だぞ」

「え? リーダーが化け物って言うなんて…………」

「取り敢えず、良い土産話が出来た、急いで()へ帰るぞ」

「え! やっと帰れる! やった!」

 そのパーティーは急ぎ足で、『Aランクダンジョン』を後にした。



 ◇



「みんな、ダンジョンに誰もいないそうだから、出ておいで」

 影の中から六十人の肆式メンバーが現れる。

「ダンジョン内で狩りを行っているパーティーはいないらしいから、みんなで狩りに行こうか」

「「「「はーい!」」」」

 ピクニックにでも行くかのように、みんな手を上げて、歩き出した。

 六十人のうち、四十人がメイン職能アサシンで、サブ職能闘士だ。

 アサシンの足りない力と体力を闘士でカバーしている。

 残り二十人は、メイン職能魔導士で、サブ職能ローグにしている。

 これは動きが弱い魔導士にロークを付ける事で、戦場でも速やかに動けるようになるのだ。

 進む前にルーから『万能能力上昇魔法』を受けて、道を進むと、すぐに巨大サソリと出くわす。

 一体の巨大サソリに、肆式のアサシン部隊四十人が飛びかかり、後方から魔導士部隊二十人が詠唱を唱える。

 一回尻尾で攻撃したサソリだが、直後飛んできた二十の魔法を全部払い切れず、そのまま魔法を受け燃え尽きた。

「早いな…………」

「魔導士が二十人いるんだもの……こんなもんよ……」

 ミリシャさんが大きく溜息を吐いて、肆式にこのやり方で戦うように伝えると六十人が美しく揃って移動し始める。

 みんな普段から一緒に過ごしているし、元々孤児の頃から用途は違えど、連携の訓練を受けていたから、とても様になっている。

 彼らこそ『シュルト』と呼んでも差し支えないかも知れない。

 最近一緒になって訓練をしているルリくんとルナちゃんも、どこか嬉しそうだ。

「さーて、俺達も負けてられないね。頑張りますか!」

「「「「おー!」」」」

 俺達も急ぎ足で、先を進める。

 数体の巨大サソリを、あっという間に倒した俺達は、『Aランクダンジョン』の二体目の魔物を見つけた。

「炎氷フェニックスだね」

 身体の半分が炎と氷で出来ている大鳥形魔物だ。

 巨大サソリより数段強いとの話――――だったんだけど……。

 魔導師となったカールとミリシャさんの阿吽の呼吸で、それぞれ半身に弱点属性魔法を叩きこむ。

 地面に落ちた炎氷フェニックスを、みんなで袋叩きにして一瞬で倒した。

 炎氷フェニックスは両半身に一定値の弱点属性――――炎には水か氷、氷には火の魔法を当て続けると、全身が硬直したうえに炎と氷が消えて、ただの大鳥になって地面に落ちてバタバタするだけになる。

 実はこの炎氷フェニックスは、属性を纏ったまま倒したら消えて何も残らないけど、両半身の魔法を消して倒すと全身が残る魔物で、この肉は非常に美味しくて、高額で有名である。

 職能『交渉者』を持つシヤさんは、スキル『アイテムボックス』というモノを持っており、そこに素材を入れられるので、大鳥肉を収納して貰った。

 経験値を沢山得られるのもあるんだけど、大鳥肉も高額で売れるし、味も美味しいのでとても良い魔物だ。

 ただ、両半身の弱点属性で硬直させるには、最上級職能『賢者』が二人いると言われている。

 うちは、スキル『ユニオン』により、カールがスキルだけで賢者級の魔法を、ミリシャさんがスキルのおかげで二つの魔法を同時展開して当てられるので、弱点属性をすぐに当てる事が出来た。

 さらにラビのおかげで、相手の攻撃は全て跳ね返されるのだ。

 数分後、大量の大鳥肉を持って来た肆式がとても逞しかった。
 俺達が『Aランクダンジョン』を縦横無尽に狩り尽くして数日。

 俺以外のみんなのレベルが簡単に9に上がった。

 肆式のメンバーも全員上がったので、俺達はダークドラゴンが一体だけ佇んでいる広場にやってきた。

 ダークドラゴンは倒してから次に出現するまでに一か月かかると言われている。

 基本的にダークドラゴンに挑戦するパーティーも、年に一度くらいしかいないので、いつ来てもここに佇んでいる。

「さて、みんな。せっかくだからという単純な理由で挑戦するけど、少しでも危なくなったら引く事。今回は倒す事が目的じゃないからね?」

「「「「はいっ!」」」」

 肆式のみんなが元気に答える。

「では作戦通り行こう!」

「「「「おー!」」」」

 最初に仕掛けるのは、遠距離の魔導士達の一斉魔法。

 最上級魔法は詠唱破棄出来ないため、魔導士達が詠唱に入ると、それを察知したダークドラゴンがこちらを睨む。

 すぐに大きな口を開いて、赤黒いブレス攻撃を放った。

「ラビ!」

「ぷう!」

 ラビの全力風魔法でブレスの軌道をずらして、空の彼方に消え去った。

 直後、詠唱を終えた魔導士達二十二人による最上級魔法が放たれる。

 それぞれ違う属性の魔法が飛び交い、ダークドラゴンに直撃すると、凄まじい音を立てて、ダークドラゴンがその場に落ちた。

「接近攻撃開始!」

 俺の号令に合わせて、フィリア達全員がダークドラゴンに向かう。

 反撃するダークドラゴンをどうしようかなと思ったけど、意外にも反撃は返ってこない。

「あれ? もうちょっと激しい反撃があると聞いていたんだけど……」

 『Aランクダンジョン』に入るパーティーに教える情報に、ダークドラゴンの情報も入っている。

 防御力よりも、その破壊力が有名だと聞いているのに……全く攻撃が飛んでこない。

 全員奥義を繰り出し、数十にも及ぶ数の奥義攻撃がダークドラゴンをきざんだ。

「最後の攻撃が……来………………ないな」

 俺だけ真剣に身構えているけど、肆式もうちのメンバーもみんなまるでピクニックに来たかのような雰囲気だ。

「ソラくん」

「ミリシャさん…………」

「もう終わったのよ…………」

「………………うちのクラン、もしかしてとんでもない方向に進んでますか?」

「だから言ったでしょう…………」

 ミリシャさんが気を失うくらいには、やっぱりとんでもない事が起こっている事だけは確かだ。

「あ! ソラ! レベル10に上がったよ!」

 フィリアが嬉しそうに走って来た。



 ◇



 その頃、グレイストール領では。

 ハレインの下に一通の手紙が届いた。

「ふん」

 その手紙を見て鼻で笑うハレイン。

 手紙には、王家の紋章が描かれている。

 刻印を外し、内容を見たハレインは、小さく笑みを浮かべ、火が灯っている蝋燭(ろうそく)に当てて燃やし始める。

「いよいよ王国も痺れを切らしたか…………だがもう遅い。こちらはあと一か月もあれば準備が整う。帝国との話し合いも終わっている…………くっくっくっ、この一か月でどう変わるのか楽しみだな!」

 ハレインの自信に溢れた笑い声が響き渡った。



 ◇



 数日後のゼラリオン王国の王城。

「陛下。ハレインが反旗を翻しました」

「ふん、どうせ自分が勝ったとでも思っているのだろう」

「そう思います。まさか――――自分が握らされている王国の情報が偽物だとは思わなかったのでしょう」

「ふむ。それで、『シュルト』が求めている報酬はどうなった?」

「はっ、既に話し合いは進めております。出来る限り、彼らの要求を呑みます。もし向こうに付かれても叶いませんから」

「…………分かった。しかし、まさかあやつらから土地(・・)を要求されるとはな」

「ええ。どうも住処――――ではないようです。一体に何に使おうとするのか、見当もつきません」

 ゼラリオン王はビズリオを通して要求された内容を思い出していた。

 希代の暗殺者を二人とも抱える『シュルト』から、ハレインの方にも力を貸している事を言われた時には、どこか納得する部分もあった。

 そんな彼らは、今回の戦争に傭兵として参戦を要求、その見返りとして土地(・・)を欲した。

 その土地というのは、他でもなく、現在のグレイストール領である。

 さらに、今回の戦いで参戦するであろう『ミルダン王国』に関しても、別契約でいいなら受けると言い放ったのだ。

「一つだけ、気になる事がございます」

「気になること?」

「はい。『シュルト』が潜んでいる盗賊ギルドですが、盗賊ギルドで最も商売に精通した『鴉』という者がございます。わたくしも直接何度か取引を行いました…………が、最近めっきり姿を見せません」

「盗賊ギルドを制圧した時にも殺されたか?」

「それも考えましたが…………もしかして、『シュルト』の一員になったのではないかと予想します。さらに盗賊ギルドが抱えていた多くの孤児達が姿を消しました。もしかして……『シュルト』は、自分達の手駒を増やそうと思っているのではないかと予想します」

「うむ。あれほどの力を持った者だ。未来を見通す力もあるなら、古い人間ばかりではいずれ腐っていく事くらい見通しているのだろう。しかし、どうしてこのタイミングで現れたのか、今でも謎だ。今のレボルシオン領にならもっと早くから付け入る隙はあったはずだが……」

「東の例の帝国から逃げて来た者かも知れません。今は魔女王のせいで簡単には通れませんから、少数で逃げて来たのでしょう……そうでもなければ、あのような暗殺者が二人もいる訳ないと思います」

「東方の神術とやらか…………ふん。魔女王が生きている限り、こちらには入ってこれまい。とにかく、今は『シュルト』とやらの力を楽しみにするとしよう。戦いの準備も進めるがいい」

「はっ」

 ゼラリオン王もビズリオも油断しているであろうハレインの負けた姿を思い描いて満面の笑みを浮かべた。

 ――――――『シュルト』の本当の力を知るその日まで。
 ダークドラゴンを初めて倒した日。

 宴会をする予定だが、まずその前に現状の確認を優先させる。

 戦争が目の前まで迫っていて、喜ぶのはあとでも出来るからだ。

 それと、俺のサブ職能もレベル10を迎えた。

 俺以外のメンバーのサブ職能はレベル9以上は上がらない。

 しかし、俺はサブ職能がメインとなる為なのか、不思議とレベル10まで上げられた。

 レベル10に到達すると、まずステータスが底上げされるのは言うまでもない。

 レベル9に比べて数段強くなり、不思議な強者のオーラを感じられるようになる。

 そして、最も目玉である最終スキルが獲得出来る。

 レベル10で覚えるスキルは、人それぞれが違うスキルを獲得出来ると言われていて、スキル『○○』みたいな感じではなく、スキル『軍神の頭脳を待つ者』とか、スキル『叡智を手に入れし者』とかのように、抽象的な言葉で表記されたスキルが獲得出来る。

 その文言で能力を読み取る事が出来るが、上記の『軍神の頭脳を持つ者』の場合、思考能力が二倍上昇し、思考速度が二倍上昇する。――――である。

 因みに、このスキルはミリシャさんのスキルだ。

 ミリシャさんにぴったりなスキルなのもあって、恐らくレベル10で手に入るスキルはその人を表すかのようなスキルだと予想される。

 こういったスキルを、通称『極スキル』と呼んでいる。


 俺のスキルはと言うと――――何も貰えなかった。

 そもそもサブ職能なのもあるし、スキルは獲得出来なかったけど、ステータスの底上げが出来たので、良しとするしかない。

 多分、転職士をレベル10にしないと、俺のスキルは手に入らないのだろう。

 話を戻して、俺以外のメンバー全員が極スキルを獲得できた。

 メンバー全員から、自分の極スキルの説明を聞いた。


 フィリア『剣神と謳われし伝説』。剣に関する全てのスキルの数倍上昇。剣に関する職能のステータスの数倍上昇。(数倍は剣を極めた分だけ上昇する、最大十倍)

 カール『氷冷を灯し者』。氷属性魔法や氷属性スキルの威力を二倍にし、詠唱や消費を半減する。

 アムダ『強靭を持つ者』。力のステータスが二倍上昇する。

 イロラ『幻影を持つ者』。盗賊系攻撃スキルを使用時、幻影の分が継続して攻撃を与える。効果は実体と同等。幻影は最大三体。

 ミリシャ『軍神の頭脳を持つ者』。思考能力と思考速度が二倍上昇する。

 カシア『獣神の心を灯し伝説』。獣王の本来の力を取り戻す。(獣王の全てが三倍上昇する)

 ルリ『神速の暗殺を極めし者』。暗殺攻撃スキルの効果が全て三倍上昇する。

 ルナ『暗黒に隠れし者』。隠密スキルの効果が全て三倍上昇し、『影同化』が『影融合』に進化する。

 シヤ『絆の箱を繋ぐ者』。スキル『アイテムボックス』が『異空間アイテムボックス』に進化し、絆のスキルを繋いだ相手と共有出来るようになる。


 以上が、みんなが覚えた極スキルだ。

 他にも肆式のメンバー全員がそれぞれ極スキルを手に入れた。

 こう見ると本当に()を感じる。

 例えば、この中で単純に最も強い極スキルを選ぶというなら、間違いなくフィリアとカシアさんのスキルだ。

 もはやフィリアを越えられる極スキルって想像もつかない。


 メンバーの極スキルを聞いた後は、肆式全員の極スキルをミリシャさんが一人で聞いて記憶するみたい。

 思考能力が上昇し過ぎて、簡単だそう。

 みんなの報告も念話で複数人が話しても全部理解出来たらしくて、すぐに宴会を始めて、ここにはいないメンバーも宴会を開いて、本日のダークドラゴンを倒した祝いを行った。

 祝い中に、ダークドラゴンの残骸(素材)を急いでレボル街に送ってくれと鍛冶屋のガイアさんから急かされたから、早速シヤさんの力で『アイテムボックス』を利用し、送ってあげた。


 こうして、『銀朱の蒼穹』の準備も終わりを迎え、二週間でダークドラゴンを素材を使い、肆式用の武器を作ってくれたガイアさんのおかげで、肆式のみんなも更なる強さを手に入れた。

 実はとある理由もあって、ハレイン様ではなく、王国の味方をする事にした。

 ダークドラゴンの装備が完成する間、俺達は両陣営を調査を行ったり、王国との話し合いも進めて、ハレイン様との戦いの報酬は、グレイストール領を貰う事となった。

 帝国と面しているのもあって、意外と簡単に承諾してくれた。

 王国としても今は報酬よりも、ミルダン王国も攻めてくる事を加味すればこその判断だと思われる。

 ハレイン様からは『シュベスタ』を通じて、応援を頼まれたので、ここも利用する事にして、良い返事を返しておいた。

 ――――まさかこっちが裏切り者だとは思わないだろう。

 しかし、()に裏切ったのは、ハレイン様だからね。

 この戦いの後、レボルシオン領と『銀朱の蒼穹』を『シュルト』に売るとは思わなかったからだ。


 そして、数日が経過し、遂にハレイン様とミルダン王国は、ゼラリオン王国に宣戦布告を行い、即日侵攻が始まった。