【ソラ兄さん。残念な事にミリシャ姉さんの予想が当たってしまったよ】

 ルリくんから念話が届いた。

 そうか……やはり、あの戦争そのものが陽動だったんだ。

【分かった。では相手にも強い職能持ちがいるかも知れないので、ルリくんはここからもっと慎重にその跡を追ってくれ】

【はい!】

 ルリくんにはそのまま追って貰う事にして、俺達はラビの力を借りて、一足先にエホイ町に向かって飛ぶ事にした。



 ◇



「まさか荷台に乗って空を飛べるなんて……」

 ラビの空に飛ばす魔法で吹き飛ばされてエホイ町に先回りした俺達。

 ミリシャさんは空を飛んでいる間、ずっとカールに抱き付いて叫んでいた。

 中々経験出来る事じゃないしな。

 それにしてもうちのフィリアは楽しそうにしていて、到着したら少し残念がる表情がまた可愛い。


「それはそうと、まだ向こうはここに着いてはいないみたいね」

「ええ。もしも、相手側が先に付いていたら大変でした」

 周りを見ても空から現れた俺達に驚く町民達だけだ。

 町民達に挨拶をして、急いで町から離れる事を勧める。

 彼らもこれから戦いになるかも知れないと言われると、素直に聞いてくれた。

 ラビには大変かも知れないけど、幾度か荷台に町民達を乗せて離れの町に送って貰った。

 本当にうちのラビの頑張りのおかげで、大きな犠牲も起きず済んで良かった。

 戦いが終わったら、ラビにはまた大きなご褒美をあげなくては。

 ラビの隣で細かいサポートをしてくれてるもう一体の召喚獣ルーにも何かご褒美をあげないとね。



 ラビが町民達を運び終えた所で、丁度向こうからルリくんが姿を現した。

「ソラ兄さん!」

「ルリくん! お疲れ様! 早かったね」

「うん! 向こうに足手まといがいたおかげで遅れているみたい」

「足手まとい?」

「うん。恐らく彼が『転職士』だろうと思われるよ。周りに騎士達が十人いて、全員上級職能クラスだと思う」

「十人の上級職能!? もしかして、向こうの『転職士』は既に上級職能を転職させられるのか!?」

 俺の驚いている声にミリシャさんも同調する。

「帝国で大規模に転職士を育てたのなら、今のソラくんよりレベルが高くても不思議ではないわ。その結果、上級職能に転職させられるようになっているかも……それなら帝国がソラくんを狙うのも納得出来るわね」

 しかし、ルリくんは不思議そうな表情をする。

「でも、ソラ兄さんは強いのに、あっちの転職士はものすごく()かったよ?」

「え? 弱かった?」

「うん。森の中の魔物にすら怯えているし、とてもじゃないけど、職能持ちのような強さも感じなかった。今のソラ兄さんはフィリア姉さんのような強さを感じられるんだけどね」

「う~ん、もしかして自分の職能のレベルは上がったけど、サブ職能をまんべんなく上げてしまったのかな?」

 サブ職能をまんべんなく上げた場合、メイン職能のレベルより上がってない可能性がある。

 それならば、まだ本領発揮はしていないかも知れないね。

「それはともかく、急いで戦いの準備をするわよ!」

「そうですね! みんな、急ごう!」

「「「「おー!」」」」

 俺達はミリシャさんに言われた通り、迎え撃つ準備を進めた。



 ◇



「……アース様」

「ちっ! なんだ!」

 森の中で中々進軍が進まない事に苛立ちを見せるアース。

 その全てが自分のせいでもあるのだが……。

「まもなく、王国の町に着くはずです。そうすれば少しは休めるでしょう」

「……この忌々しい森を早く抜けたい! 急げ!」

「……はっ」

 そう答える騎士も疲れた表情を見せる。

 寧ろ、何故この男がここにいるのかが今でも理解出来ない騎士だった。

 『転職士』。

 最上級職能の中で唯一のハズレ職能。

 あまりのハズレっぶりに呪いとすら言われるその職能だが、多くの騎士達が涙を飲んで、彼に経験値を捧げた。

 騎士達十人もその恩恵(・・)を受けている。

 最初はその恩恵を受け入れる事が出来なかったが、三年も立つと、その恩恵は素晴らしいモノにも感じられるようにはなった。

 ただ、そこまでして得たいと思えるほどの恩恵ではなかった。

 だから、騎士はこの『転職士』を育てる原因となった『銀朱の蒼穹』というクランマスターを一目見たかった。

 一体、どんな脅迫を続けて人々を支配すれば、あの若さでクランマスターにもなれたのか。

 噂によれば、幼馴染の剣聖の弱みを握り、剣聖は抗う事も出来ずずっと使われていると聞く。

 ――――まさに自分達と同じではないか。


 しかし、これも全て()の命令だ。

 従わざるを得ない。

 さらに今回の戦争を囮にしてまで、王国の『転職士』を攫う事。

 その犠牲を負ってでも我が上層部は、そこまで『転職士』を欲するのかと悔しさすら感じたのだ。


 そんな事を思い詰めながら騎士達は『転職士』を護衛して道を進んだ。

 そして、その先に漸く町の明かりを見つける。


 ――――その町で何が待っているかなど、知る由もない彼らは、安堵の息を吐いた。