「それで、ミリシャさん。可笑しい箇所ってどういう事ですか?」
俺達全員がミリシャさんに注目する。
ミリシャさんの考慮深さを知っているからこそ、俺達の表情は真剣なモノに変わった。
「王国には少なくとも『インペリアルナイト』が三人いるわ。なのに、相手がただの将軍っていうのが変なの」
「ですが、ハレイン様の部屋から見つけた密書によれば、そう仕向けると……」
「ええ。その線も考えたのだけれど、少なくともゼラリオン王国を攻めるにしては、無策過ぎるのよ。帝国もそれほど馬鹿ではないわ。少なくとも負けるにしてもそれを見届ける部隊がいるはずなのに、それがいない。私はそれに違和感を感じるわ」
ミリシャさんに言われて、その違和感を感じる。
仮に負ける戦争だと知っていても、その確認を取る後方部隊がいてもおかしくないはずだ。
いくら将軍家とはいえ、その補給なんてものも必要なはずなのに、まるで最初から必要ないような作戦だ。
「補給部隊や後方部隊がないのには、何らかの理由があるはずなの。可能性としては二つ。一つ目はそもそも将軍家を潰す為に投げつけた可能性、そして二つ目は――――」
将軍家を一つ潰す為に五千の兵は、あまりにも高く付く気がするのだけれど……。
「こちらが本命で最悪なパターンね。あれがそもそもの陽動だった場合ね」
「「「陽動!?」」」
意外な答えに、俺達は声をあげた。
そもそも普通に考えれば、五千の兵を陽動に使うか? という疑問すら抱かないはずだ。
「時に常識は思考を鈍らせる。私達の中にある当たり前な考え方として、五千の兵を陽動に使うはずはないと思うかも知れないけれど、帝国の兵の数なら可能かも知れない。寧ろ――――そっちが本命だと思う」
「だからルリくんにはその確認を?」
「ええ。ただ、もしもそれが本当ならとても大変な事になるかも知れないわ」
ミリシャさんは、テーブルの上にある地図を見つめる。
俺達もミリシャさんが示してくれる通り、地図を眺める。
「戦場はここから遥か南。そして、そこから更に南に帝国領があるわ。そして、私がもしこの作戦を考える身なら、攻めるなら――――――ここね」
ミリシャさんが指差す場所。
それはとても見覚えのある町だった。
「エホイ町……」
「ええ。最も近くて守備が薄いとなれば、この町でしょうね」
「でも、そもそもここまでには広い森を抜けなければならなくて、兵が通るとなると困難だからこそ今の場所がいつも戦場になるんですよね?」
「ええ。その通りだわ。ただし、それが軍隊の大勢ならね。少数ならそうでもないわ」
少数……。
確かに少数精鋭だったカシアさん達はその森を越えて、エホイ町に辿り着いたはずだ。
つまり、帝国軍の本命がそこを狙ったとしたら……?
「ミリ姉。確かにそこを狙うのが一番効率はいいと思う。でも、それはあくまで効率が良いだけで、何の得もないはずだよ?」
フィリアの言う通り、エホイ町が帝国領に最も近い町でありながら、今まで一度も戦場にならなかった理由。
単純に言えば、その地に価値は何一つないのだ。
近くに良い狩場がある訳でもない、帝国領からの道がある訳でもないので、仮にその土地を手にしても帝国領として管理は難しい。
そんな町を占領して何になるという…………
「まさか……帝国の狙いって…………」
俺の予想、外れて欲しいと願う。
しかし、ミリシャさんの口からは俺の予想と全く同じ予想が飛び出した。
「恐らく『銀朱の蒼穹』。いや、『転職士』であるソラくんに接触する事にあると思うわ」
「くっ! ソラは絶対に渡さない!」
フィリアが声を荒げる。
帝国がレボルシオン領を目指すとしたら、その最も大きい理由は俺に会う事。
それは会って話をする――――なんて生易しい事ではないかも知れない。
「でも、『転職士』の内情は、決してレボルシオン領から外には出てないはずですけど、どうしてなんでしょう?」
「そうね。少なくとも何等かの方法で『転職士』の良さを見出したのではないかなと思う。『銀朱の蒼穹』の活動からそれを汲み取るのは難しい。だってクランも未だBランク付けだからね。ここからは私の予想になるのだけれど、恐らく帝国でも『転職士』を育ててみたのではないかなと思うの」
「『転職士』を育ててみた?」
「ええ。そして、それが遂に実を結び、丁度都合よくゼラリオン王国と戦争が起きた。帝国としては北部の土地を捨ててでも『転職士』を味方に付けた方が良いとの研究結果でも出たのではないかなと予想するわ」
帝国で『転職士』を育てた結果として、新人クランの『銀朱の蒼穹』のクランマスターである俺を味方にしたい……。
「ソラくん。もしかしたら、帝国からここに向かってくる少数精鋭は『転職士』なのかも知れないわ」
ミリシャさんの言葉に、今まで予想もしてなかった事が起きようとしている事に、俺はとてつもない不安を感じる。
「だから、もし向こうに本命がいた場合、ソラくんには三つの選択肢があるわ」
ミリシャさんは俺を真っすぐ見つめ、口を開いた。
「一つ目、何もかも諦めて帝国に捕まる」
それを聞いたフィリアが何かを言い出そうとするが、カールがフィリアを制止する。
「二つ目、ソラくんはこのまま王都に向かい、ビズリオ様に現状を報告して――――守って貰う」
それはつまり…………これから王国で俺が飼いならされる事を示す。
「そして、三つ目。『銀朱の蒼穹』の力を信じて――――
戦おう」
ミリシャさんの言葉が終わり、他のメンバー全員が俺に注目する。
皆は何一つ言わないが、心を一つにして俺を見つめ訴えていた。
「…………分かりました。これから『銀朱の蒼穹』は、帝国軍を迎え撃ちます」
俺達全員がミリシャさんに注目する。
ミリシャさんの考慮深さを知っているからこそ、俺達の表情は真剣なモノに変わった。
「王国には少なくとも『インペリアルナイト』が三人いるわ。なのに、相手がただの将軍っていうのが変なの」
「ですが、ハレイン様の部屋から見つけた密書によれば、そう仕向けると……」
「ええ。その線も考えたのだけれど、少なくともゼラリオン王国を攻めるにしては、無策過ぎるのよ。帝国もそれほど馬鹿ではないわ。少なくとも負けるにしてもそれを見届ける部隊がいるはずなのに、それがいない。私はそれに違和感を感じるわ」
ミリシャさんに言われて、その違和感を感じる。
仮に負ける戦争だと知っていても、その確認を取る後方部隊がいてもおかしくないはずだ。
いくら将軍家とはいえ、その補給なんてものも必要なはずなのに、まるで最初から必要ないような作戦だ。
「補給部隊や後方部隊がないのには、何らかの理由があるはずなの。可能性としては二つ。一つ目はそもそも将軍家を潰す為に投げつけた可能性、そして二つ目は――――」
将軍家を一つ潰す為に五千の兵は、あまりにも高く付く気がするのだけれど……。
「こちらが本命で最悪なパターンね。あれがそもそもの陽動だった場合ね」
「「「陽動!?」」」
意外な答えに、俺達は声をあげた。
そもそも普通に考えれば、五千の兵を陽動に使うか? という疑問すら抱かないはずだ。
「時に常識は思考を鈍らせる。私達の中にある当たり前な考え方として、五千の兵を陽動に使うはずはないと思うかも知れないけれど、帝国の兵の数なら可能かも知れない。寧ろ――――そっちが本命だと思う」
「だからルリくんにはその確認を?」
「ええ。ただ、もしもそれが本当ならとても大変な事になるかも知れないわ」
ミリシャさんは、テーブルの上にある地図を見つめる。
俺達もミリシャさんが示してくれる通り、地図を眺める。
「戦場はここから遥か南。そして、そこから更に南に帝国領があるわ。そして、私がもしこの作戦を考える身なら、攻めるなら――――――ここね」
ミリシャさんが指差す場所。
それはとても見覚えのある町だった。
「エホイ町……」
「ええ。最も近くて守備が薄いとなれば、この町でしょうね」
「でも、そもそもここまでには広い森を抜けなければならなくて、兵が通るとなると困難だからこそ今の場所がいつも戦場になるんですよね?」
「ええ。その通りだわ。ただし、それが軍隊の大勢ならね。少数ならそうでもないわ」
少数……。
確かに少数精鋭だったカシアさん達はその森を越えて、エホイ町に辿り着いたはずだ。
つまり、帝国軍の本命がそこを狙ったとしたら……?
「ミリ姉。確かにそこを狙うのが一番効率はいいと思う。でも、それはあくまで効率が良いだけで、何の得もないはずだよ?」
フィリアの言う通り、エホイ町が帝国領に最も近い町でありながら、今まで一度も戦場にならなかった理由。
単純に言えば、その地に価値は何一つないのだ。
近くに良い狩場がある訳でもない、帝国領からの道がある訳でもないので、仮にその土地を手にしても帝国領として管理は難しい。
そんな町を占領して何になるという…………
「まさか……帝国の狙いって…………」
俺の予想、外れて欲しいと願う。
しかし、ミリシャさんの口からは俺の予想と全く同じ予想が飛び出した。
「恐らく『銀朱の蒼穹』。いや、『転職士』であるソラくんに接触する事にあると思うわ」
「くっ! ソラは絶対に渡さない!」
フィリアが声を荒げる。
帝国がレボルシオン領を目指すとしたら、その最も大きい理由は俺に会う事。
それは会って話をする――――なんて生易しい事ではないかも知れない。
「でも、『転職士』の内情は、決してレボルシオン領から外には出てないはずですけど、どうしてなんでしょう?」
「そうね。少なくとも何等かの方法で『転職士』の良さを見出したのではないかなと思う。『銀朱の蒼穹』の活動からそれを汲み取るのは難しい。だってクランも未だBランク付けだからね。ここからは私の予想になるのだけれど、恐らく帝国でも『転職士』を育ててみたのではないかなと思うの」
「『転職士』を育ててみた?」
「ええ。そして、それが遂に実を結び、丁度都合よくゼラリオン王国と戦争が起きた。帝国としては北部の土地を捨ててでも『転職士』を味方に付けた方が良いとの研究結果でも出たのではないかなと予想するわ」
帝国で『転職士』を育てた結果として、新人クランの『銀朱の蒼穹』のクランマスターである俺を味方にしたい……。
「ソラくん。もしかしたら、帝国からここに向かってくる少数精鋭は『転職士』なのかも知れないわ」
ミリシャさんの言葉に、今まで予想もしてなかった事が起きようとしている事に、俺はとてつもない不安を感じる。
「だから、もし向こうに本命がいた場合、ソラくんには三つの選択肢があるわ」
ミリシャさんは俺を真っすぐ見つめ、口を開いた。
「一つ目、何もかも諦めて帝国に捕まる」
それを聞いたフィリアが何かを言い出そうとするが、カールがフィリアを制止する。
「二つ目、ソラくんはこのまま王都に向かい、ビズリオ様に現状を報告して――――守って貰う」
それはつまり…………これから王国で俺が飼いならされる事を示す。
「そして、三つ目。『銀朱の蒼穹』の力を信じて――――
戦おう」
ミリシャさんの言葉が終わり、他のメンバー全員が俺に注目する。
皆は何一つ言わないが、心を一つにして俺を見つめ訴えていた。
「…………分かりました。これから『銀朱の蒼穹』は、帝国軍を迎え撃ちます」